鬱蒼とした森の中に洋館が建っている。深淵とも違う不気味な気配にベルカは身震いした。
「これホラーのテンプレじゃん。なに?私死ぬの?ちょっと入りたくないんだけど」
ベルカがナヴァーランをつつきながら言う。
「本は
「おや、お客人か。サンプルか」
「ぎゃっ」
後ろから声をかけられベルカが飛び上がる。
「ああ、兄王。外にいたのか。見ろ。身の程知らずの割に良くやったろう?」
両手を広げ、ナヴァーランが自身の成功をアピールする。
「おお。すばらしい。我らの悲願がまたひとつ達成されたか。どれ、屋敷で詳しく話そう」
ベルカをはさみ、ナヴァーランと男が大声で話す。
「ベルカさん、後ろにいるのは俺の上司、兄王です」
「はは、何度も言っている。私は王じゃない。王は一人。だろう?」
男はベルカに顔を近づけて言う。「ナヴァーランの客人か。私はアン・ディール。しがない研究者だよ」
「私はベルカ。罪の女神」
「罪の女神」
はっはっは、とアン・ディールが大声で笑う。「面白い客人だ」
「ベルカさんは混沌の魔術を極めている。使える女だよ」
ナヴァーランが二人の元へやってきて言う。「俺が言うのもなんだが、魔術に関しては兄王よりも詳しいかもな」
「それは祝着」
「手放すのは惜しい。どんな形であれ、留めておくべきだと俺は思うね」
「そうか」
アン・ディールは再びベルカの方を見て言った。「どうだ罪の女神殿。長旅だったろう。我が邸宅で茶でもどうか」
そこかしこで獣の声が響きはじめた。
「ああ。夜が近づいてきた。さ、早く入ろう。それとも呪われた獣に食われるのが本望かね?」
「どっちも嫌です」
「ベルカさん。今晩は屋敷に泊まって、早朝に帰るってのはどうです。屋敷の中はドラングレイグで一番安全ですよ」
「中の人が安全かどうかはわかんないじゃん。ホラーってそういうものでしょ?」
「はっはっは。とんだ怖がりやのお嬢さんだ」
うながされるまま、ベルカはしぶしぶ洋館の中へと入った。
屋敷の中は異品・珍品が並び、白毛の長衣をまとった人々が忙しそうに動き回っている。警戒していたベルカも、屋敷の賑わいに少し安堵した。
「何の研究してるの?」
「はっはっは。むしろ研究していないことを挙げる方が簡単かもしれんね」
檻に入った獣が嗅ぎなれぬベルカの匂いを感じ、吠える。
「わっ」
「はっはっは。大丈夫だ。こちらが檻を壊さないかぎり、出てくることはないよ」
「そうじゃなきゃ困るよ…」
ぼこぼこと試験管の液体が沸騰している。
「これはソウルの性質を調べる実験だ。ここで得た発見としては、死んだ直後はソウルは肉体にとどまっているが、長くはいられないらしい」
「離れたソウルはどうなるの?」
「以前は霧散すると考えていたが、ある程度の指向性があるようだ。詳しくは今後の研究次第だな」
「ふーん…」
定期的に消毒しているのか、シャワーで液体を撒くような音が耳に届く。
興味深そうにベルカがあちこち注意を向けていると、アン・ディールは少し足を速め、ナヴァーランの隣に立って話した。「準備はいつでもできている」「解体の手順は?」「溶かすのはまだ早いだろうな」「手足はなくても良い」「中枢神経系を先に取り出す方法もあるが」「まずは力の源を探る方が大事だろう」
「何の話してるの?」
ぞろぞろと職員達とすれ違い、うまく聞き取れない。
「…壊れると…」「顔…不要…?」「後…生産…」「…4匹…負担…」
「ねえ!」
ベルカが大声で呼びかけ、ようやく二人が立ち止まった。
「なんで客を放ったらかしにしてさ、なん」
気配がおかしい。アン・ディールも、ナヴァーランも、その場にいる職員全員が止まったまま自分を見ているからだ。
ベルカはすべてを察した。
「やっぱそうじゃん。ホラーじゃん!思ったとおりじゃん!何?私死ぬの?」
「死にはしない」アン・ディールが言った。
「死にはしないさ。前に術士を連れてきたときは、大した実験もしていないのにすぐに壊れてしまってね。今度はどんな苦痛を受けてもおかしくならないよう、アタマに処置を施してから試すよ」
「何言ってんのかわかんないしわかりたくないし協力する気もない」
「罪の女神くん。世界を知るためには犠牲が必要なんだ。安心しなさい。壊れないよう、こちらは細心の注意を払って解体するから」
「じゃあ自分の身体を使えよ!」
「ああ、使ったさ。私も、ナヴァーランもね」
フッフッフ、とナヴァーランが手を当てて笑う。「この身体の持ち主は良くやってくれたよ。本当にな」
「ここにいる誰もがすべてを投げ出して研究に協力している。自分を棚上げにして実験サンプルを