個性はニャル様です! 作:空色
「やっぱり、最後のやばかったかな」
『不定の狂気に陥った人間はいなかったから大丈夫だよ』
1D8程度のSAN値減少だったからとつまらなそうにいうニャルは俺の横でずっと格闘ゲームをしている。昨日始めたばかりなはずなのにもうノーダメージで敵を蹂躙している。コントローラーの方が壊れそうだ。
レスキューポイントの存在は予期していた。だから、あの場で点数にならないロボを封殺した。
その甲斐もあって合格していたわけだが、かなり抑えたとはいえあれはまずかった。闇に吠えるものを使わなくてよかった。下手すればあの場の全員が発狂していたところだ。
「相手に気を使って戦うのはむずいな。いつもの触手以外、基本的にニャルの力って他人を発狂させかねないものだし。魔術をもう少し使える方がいいな」
でもなぁ、ナコトの写本なくしちゃったんだよな。ほとんど読んどいたとはいえ惜しいものをなくしたなぁ。まあ、どうせ誰にも読めないってニャルが言ってたから探すの諦めたけど。ルルイエは頭おかしくなりかけたから読んでない。ネクロノミコンはニャルが嫌がらせのごとく読み聞かせてきた。後読んでないのってなんだろ?
「ああ、ニャル。セラエノ断章は?」
『君が読む必要性はないね』
何故かニャルはセラエノだけは読ませてくれなかった。もしかしたら持っていないだけかもしれないけど。
『それに君はルルイエの異本を呼んで痛い目を見ただろう。あんなつまらない壊れ方をされるのは退屈だ。君の結末はもっと混沌としているべきだからね』
邪神らしい。笑顔だけを見るのであれば何よりも美しい傾国の魔性がそこにはある。しかし、その笑みの意味を知る身としてはあまりにも悍ましく、魅力的な冷笑に見えた。
「………しばらくはいいか。下手に魔術使うと個性を偽造してるのばれそうだし」
『私としても君は絶好の観測場所になりつつあるからね。つまらない死に方をされては困ってしまうんだ』
ニャルは一応俺に協力してくれているが明確なラインがある。あくまで補助しかしてくれない。触手といくつかの魔術は自由に使わせてくれるが、俺以外は基本的に自己責任での行使が前提となる。ニャルが助けてくれるのは邪神様が気まぐれを起こしたときだけだ。
「目立つ必要性はないしな。ひっそりと行くか」
そうは問屋が卸さなかったようだ。俺は8時を回った時計を見て俺を悟った。今から支度をして、家を出たとしても遅刻だろう。これはやばい。
「ニャル、今日に限って何で俺を起こさなかったんだ?」
『そっちの方が面白うそうだからに決まってるじゃないか』
「ああ、そうだよな。お前はそういうやつだったわ」
心底愉快そうに顔を歪めている邪神を無視して全速力で雄英を目指して走る。こういう時、増強系の個性はうらやましい。
チャイムが鳴る寸前に教室に転がり込む。その様子を邪神は爆笑してみている。教室が静まり返る。教卓には寝袋を着たボサボサ頭が居座っている。どういう状況なのだろう。まあ、とりあえず
「ギリギリセーフですよね?」
「アウトだ」
「遅刻したバカもいるが気を取り直して。俺がこれから担任を勤める事になる、相澤消太だ。早速で悪いが、お前達にはこの服に着替えてグラウンドまで来てもらう」
有無を言わせぬ言い方、寝袋の中からごそごそ取り出した荷物を見せる。青が基調の……ジャージか?
「十分後にグラウンドに集合だ」
そう言って教室から出て行ったイレイザーヘッド、もとい相澤先生。
「お、すごいなこれ。結構このジャージ伸びる」
この服に使用されている素材は、伸びやすくそれでいて素の形状に戻りやすい特殊な繊維を使用されている。
異形型の個性を持つ人が好んで着やすい服だ。
「ほらほら、男共はさっさと着替えて出てくぞ。女子が着替えれねーだろ」
パッパと制服からジャージへと変身し、一足先に外へ出る。ここまで誰にも話しかけられていない。
「……よし、集まったな。総勢二十名、全員いるようだな」
先生は周囲を見渡し、けだるげに溜息を吐く。
「それじゃあまず、個性把握テストをやってもらう」
そう言い、同級生達の疑問を無視しつつ気性が荒いヴィランみたいなやつにソフトボールの球を渡す。種目は通常の体力テストと変わらず、唯一の変更点は個性の使用を許可している点。
死ねェ!、と言いながらヴィランもどきが放り投げた球は750mまで飛んだ。
すげー、壊すのに特化した個性だ。改めて周りの生徒を見回す。あのボサボサ緑君に、うざい眼鏡、あと轟君がいる。
うっかり面白そうなんて漏らした同級生のお陰で最下位には除籍処分なんて縛りが付いたが、まあ関係ない。邪神の力を使っておいて無様はさらせない。
「よー、轟君。久しぶり」
「ああ」
「卒業式であったのが最後かな」
「そうだな」
轟君は俺に視線を向けることなく、走りに行ってしまった。相変わらず轟君はそっけない。あの様子だと左側の件はまだ乗り越えられていないらしい。
それはある程度時間が経てばわかることだった。彼は氷しか使う気がないようだ。それでもほぼ1位か2位なのだから強個性だなと思う。
自分はどうかって?なんというか、まあそこそこの成績だ。あんまり派手に動く気はないのだ。
すでに目立っちゃってるし。
「なあなあ!お前のその個性!ねばねばの液体とか出せたりすんのか?」
峰田と名乗ったその生徒は俺に詰め寄ってきた。
「出せなくはないと思うけど」
「つまり、合法触手プレイできるじゃねえか!最高かよぉ!」
思春期しているなと思った。確かにそういったことはできなくないが、この触手の源泉を知っている俺としては笑えないししようとは思わない。
ちょっと、触手の話で盛り上がっていると他の生徒が話しかけてきた。
「盛り上がってるじゃん。俺も入れてくれよ」
そう言って話しかけてきたのはちょっとちょっとチャラ目の男子生徒である。上鳴電気と名乗ったその男子生徒は俺に対してすごくフランクに話しかけてきた。
「さっきから見てたけどお前個性の使い方すげーうまいな!」
「ほほう!お目が高いねぇ」
テンションを合わせて話すのはコミュニケーションにおいて有効なスキルだ。ある程度、合わせることで相手はより砕けた態度になる。
「上鳴の個性はどんな個性なんだ?」
「俺の個性は『帯電』って言ってな。体に電気を纏わせ放出する事ができんだ。どうよ!結構すげー個性っしょ!?」
「でもかなり限定的な場面でしか力を発揮できない感じだよな」
「うッ…そ、そういう見方もあるよなぁ。1度に大量の放電をすると、脳がショートし一時的にアホになっちまうし」
「結構なデメリットだなそれ」
「それでもいいじゃねえかよ。オイラの個性なんて地味だぜ、地味。派手な個性の方がもてやすいじゃんかよ」
「そうとも限らないと思うけどな」
そんな会話をしていると近くにいた女子がこぼしたつぶやきが聞こえてくる。
「デクくん、大丈夫かな……?」
話を聞いてみると彼女は友人の心配をしていたようだ。緑谷という少年が個性を使っていないらしく最下位になりかけているようだった。不思議だ。個性を使っていないなんて。競技には役に立たない個性なのだろうか?
「彼の個性ってわかる?」
「入試試験の時に、私のことを助けてくれたんだ。妨害ギミックのロボットを、一撃で………吹き飛ばして」
一撃で、あの巨大なロボットを破壊した。なるほどなるほど。念力のような個性もしくは身体強化のような個性だろう。
「個性を使わない理由がわからないな」
「個性にまだ慣れてないっていうか、凄く反動のある個性みたい」
「反動ね……肉体が耐えきれないってことか」
それはなおさら解せない。個性の反動に耐えられないなんてまるで発言したての少年、少女だ。
思い切り振りかぶり、緑谷はソフトボールを放り投げる。至って普通の記録だ。
「何で使わないの!?」
「あのクソナードに個性なんざある訳ねーだろ節穴共が!」
驚きを露わにする麗日と悪態をつくヴィランもどき。うざい眼鏡君も不思議に思っているようで首をかしげている。
先程は先生が緑谷の個性を消していたと聞こえてきた。
反動が大きいから消した。1回個性を使えば動けなくなるのではデクノ坊と同じだと言っている。しかし、謎だ。何で、彼だけが攻められているのだろう。
「上鳴も一回使ってショートすればデクノ坊だよな」
「お前さっきから言葉の破壊力えぐいぞ!?」
隣で騒ぐ生徒たちを無視して緑谷を見る。
覚悟を決めた様に、緑谷が再度ボールを手に持った。
腕を高く挙げ、その指先から個性を解き放つ。突風を巻き起こして放り投げられたボールは、弾丸なんて目じゃない速度で遠くへと飛んでいく。その光景はとても無個性では作れないモノで、示し出された距離は─827メートル、素晴らしい結果だ。
「まだ、動けます!」
そう言い放った緑谷に先生は期待に満ちた笑みを浮かべ、前言を撤回する。
「で、でた! ヒーローらしい結果!」
「クラスでも上位陣に食い込むぞ! しかし、あの指は……やはり個性を使うととてつもない反動がくるのか」
歓声が上がっている。派手な個性はやはり人気の様だった。
そこからヴィランもどきが暴れたり、先生が説教したり、除籍の話が嘘だと暴露されたり、色々あった。
色々あったが個性把握テストは終了した。
外海器—————7位。