個性はニャル様です! 作:空色
雄英高校の誇る施設の中の一つに、全校生徒の八割を収容できる大食堂がある。プロヒーローである『クックヒーロー』ランチラッシュが、名店に劣らぬ食事を格安で提供してくれるとだけあって、平日昼時の混雑は凄まじいものがあった。
「雄英にはなれたかな?」
「そうですね。多少は」
食堂で食事をとっているのは、器とミリオと天喰だ。ねじれがいると器は脱兎のごとく逃げるため、都合がいい時にミリオが器を呼び出したのだった。
「かなり実践的なんですね、戦闘訓練とか」
器は数日前のことを思い出す。
「私が────! ドアから静かに来た!」
そして、大袈裟な動作のくせにやたらと静かにやって来たのは、平和の象徴。No1ヒーロー、オールマイトだ。
「うぉおすげぇ! マジでオールマイト来たぁ!!」
「しかもあれ、シルバーエイジのヒーローコス!? やべ、俺生で初めて見た! しゃ、写メ撮っても良いかな……!?」
「画風が違う……!」
「HAHAHA! 興奮するのはわかるけど、少年少女たちよ! 今は授業中! 他のクラスに迷惑だから静かにしようね!」
「コホン──さあ! ヒーロー科一年、記念すべき最初の実技のお時間だ! 気になるその内容は、これ!」
黒板に書かれるその文字はBATTLE。
「そう、戦闘訓練! そして今回の授業にはぁ──!」
オールマイトは手元の、リモコンか何かを教室の窓側の壁に向けて操作する。僅かな機械音の後、そこから一から二十一のナンバリングされたケースが迫り出してきた 。
「君達が入学前に申請した『ヒーローコスチューム』! これを着て行ってもらう!」
注意された手前、叫び出すことはしない。だが、その溢れんばかりの熱量をオールマイトはしっかりと感じ、笑顔を深める。
「君達はまだヒーローじゃあない! ヒーローになるための第一歩を踏み出したに過ぎない!だけど、憧れてしょうがないよな!? いてもたってもいられないよな!? だったらまずは形から! 夢に描いた姿になって、より一層実感しようぜ!」
『自分は今、夢に向かって突き進んでいるんだ』と!
「各自、コスチュームに着替えてグラウンドβに集合!さあ、気合い入れろよ有精卵供!」
「へぇ~、今年はオールマイトが担当してるのか!いいじゃないか!サーが喜びそうだ」
「トップヒーローが見ている前で実技をやるなんて考えただけで帰りたくなってくる」
ミリオと天喰の反応は想像通りだったもので、器は少し笑ってしまった。両者ともにすごく分かりやすい性格をしている。そう器は思った。
ミリオの底抜けの明るさはどんな時でも変わることがない。天喰のバカみたいな暗さも変わることがない。
ミリオは今でこそビックThreeなどと呼ばれているが、実は入学当初は自分の個性を十分に使いこなせておらず、雄英体育祭でも結果を残せない劣等生であった。地道な訓練によって磨き上げた個性、そしてサー・ナイトアイの元で養った実戦経験によって、彼は名実ともに雄英トップのヒーロー候補生にまで上り詰めた。
器はミリオのことは好ましく思っていた。彼の本質と行動は賞賛すべきものだ。それと同時に器にとっては忌むべきものでもあった。
「それで、結果はどうだったんだい?」
「何というか、何にもすることがなかったですね。相方が異常に優秀だったので」
「ああ、例のエンデヴァーの四男か。確か、器とは同じ中学だたような」
思い出したようにつぶやく天喰に器は補足説明を返した。
「そうです、轟君っていうんですけどなかなか癖が強くて………」
轟がビルを丸ごと凍結させた時点で器のやることはなくなっていた。相変わらず闇が深いなと思う。
「でもよかったよ!器はすごい奴だけど、学校になじめるかどうかは不安だったんだ」
「信用ないんですね」
「いやほら!器の個性って
慌てて訂正するミリオに器は笑みを浮かべる。それはどこか自嘲気味な笑みだった。それに天喰は気が付いていたが、あえて触れはしなかった。
「まあ、そうだと良いんですけどね」
マスコミ騒動が起こってから数日が経った。器たちは救助訓練を行うため、バスに揺られて訓練場に向かっていた。大型バスが用意されているのを見て純粋に、金がかかっているなぁと器は思った。
「私、思った事は口に出しちゃうの……緑谷ちゃん?」
「えっ!……う、うん。蛙吹さん?」
「梅雨ちゃんと呼んで?」
女子との会話が慣れない感全開の緑谷へ、蛙吹は続ける。
「あなたの個性、オールマイトに似てるわね?」
同時に緑谷の動きに挙動不審が加わった。
「え!? そ、そうかな……どこにでもある様な個性な気も……」
「そうだぜ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我なんかしねぇ。緑谷のとは似て非なるものだぜ?」
挙動不審な緑谷だったが、会話に切島が交ざった事で冷静を取り戻した様に動きが止まる。
「でも増強系の個性ってのは良いな。鍛えれば、やれる事が増えるだろ?――俺の『硬化』なんて対人戦は強いけど“地味”だからな……」
「そ、そうかな? プロにも通用するカッコイイ個性だと思うけど?」
やや自分の個性にネガティブなコメントをする切島へ、今度は緑谷がフォローを入れる。しかし、切島は完全には受け入れなかった。
「けどよ……プロってやっぱ人気商売だろ? そう思うと地味なのは致命傷なのかもな?」
「なら僕のネビルレーザーこそプロ並み」
「お腹壊すのは致命傷だけどね?」
切島の言葉に反応した青山だったが、芦戸の一言に撃沈した。
彼らの話題は個性の派手さと強さの話へと移っていた。
「派手さと強さってなんなら、やっぱ爆豪と轟だよな!」
「けど、爆豪ちゃんはすぐキレるから人気は出なさそう」
「———ハァッ!? 出すわゴラァ!! こんな半分野郎よりもメッチャ出すわぁッ!!」
「ほらキレる」
蛙吹の鋭い指摘に逆ギレし、轟を指さしながら叫ぶ爆豪だったが、蛙吹はどこか納得する様に呟く。左右の緑谷と切島は苦笑する。
「目立つって意味なら、外海もそうだよな」
上鳴が会話に参戦する。巻き込まれる形の器も渋々会話に参加した。
「悪目立ちしそうではあるな」
「そう言えば、結局外海の個性って何なんだ?」
その質問を受けた器に周囲の視線が集まる。それを煩わしいと感じつつも笑みを浮かべて答える。
「俺の個性は『触手』なんだけど、ちょっと特殊で自分の認識的には触手もどきだと思ってるんだ」
「「触手もどき?」」
「そうそう。触手に何かしらの効果が付与されてることが多くてな。俺と同じ会場で受験した奴はわかっていると思うけど、相手をめちゃくちゃ動揺させてしまうやつとか」
思い出したのか常闇と尾白は顔をしかめて目をそらした。二人とも一時的狂気に陥り、気を失っていたのだ。
「でもやっぱ応用の幅が広がってていいじゃねえか。いろんなことができた方が活躍できるだろ?」
その発言に器は困ったような笑みを浮かべた。でもコントロールしにくい個性だと苦労しやすいから」
この発言は予防線だった。誰かを壊してしまったとしても事故で処理しやすくするためのものだ。
そんな会話を聞きながら退屈そうに邪神は欠伸をしていた。
巨大な遊園地の様に広いエリア。各エリアにそれぞれの災害現場が存在するのだが、その光景はまさにUSJに似ていた。
『USJかよ!!』
「色んな災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して、USJ」
『本当にUSJだった!!?』
宇宙服のヒーロースーツを纏う存在――スペースヒーロー『13号』の説明に全員がツッコミを入れる。しかし、それでも各地で己の個性を使って災害現場で活躍する名ヒーローの登場に、緑谷を始めファンである麗日のテンションは上げ上げだ。
「スペースヒーローの13号だ!」
「私、大好き!!」
「分かったから静かにしろ。――それより13号、オールマイトは? ここで落ち合う筈だろ?」
「それなんですが……」
何やらゴニョニョと話し始める先生と13号。その光景に何かあったのかと思いながら器は見ていると、何故か相澤が機嫌悪そうな顔をし始める。
聞こえた話の内容から察するにオールマイト関係なのは分かるが、機嫌を見る限り、遅刻が確定したのだろう
「もう良い……始めるぞ」
「分かりました。――では、始める前に御小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
『増えてる!?』
徐々に増えて行く小言の数にクラスの思いは一致する。
「……皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は『ブラックホール』です。全てをチリにする事ができ、災害現場ではそれで瓦礫などをチリにして人命救助を行っております。ですが同時に――簡単に人を殺せる個性です」
演説は続く。
「今の世の中は個性の使用を規制する事で成り立っている様に見えますが、一歩間違えれば安易に命を奪える事を忘れてはいけません」
そうだ。故にこの世界の差別はさらにひどくなる。器は13号の言葉に顔をしかめた。
「そして……この授業では各々の個性をどう人命救助に生かすのかを学んでいきましょう。君達の個性が他者を傷付けるだけのものではない。その事を学んで帰ってください」
「ハイッ!!」
「13号カッコイイ!!」
歓声が響く。そんな中、ちらりと見たニャルラトテップの様子に器は肌が泡立つのを感じた。混沌と狂気に満ちたその笑みを器はよく知っていた。
「ッ!」
反射的に顔をニャルの視線の方向――噴水のある中央広場へと向ける。
意識を向けるのは黒い霧のような物体から現れた集団だ。
「全員! 一塊に動くな!13号!」
「はい!」
気付いたの相澤と13号。しかし、クラスメイトの大半は事態の重大さに気付けていない。
「なんだあれ? もう始まってるパターン?」
「動くな! あれはヴィランだ!」
「――えッ!?」
ゴーグルを装着し、鬼気迫る声を出す相澤の言葉。それを疑う者はおらず、全員は固まりながらヴィランの集団へと視線を向けた。
「なんでヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉぉぉ!!」
「どっちみち馬鹿だろ!? ここはヒーロー学校だぞ!」
峰田と上鳴が叫ぶが、それよりも相澤が思い浮かべるのは先日のマスコミの不法侵入。
「なるほど、今日はやけに機嫌がいいと思ったら…」
呆れながら器はニャルを見ていた。
大量のヴィラン。そんな中の顔面と全身に手を付けた異質な存在、リーダー格のヴィランは何かを探すように周囲を見渡した後、首を傾げた。
「おい……オールマイトがいないぞ。子供を殺せば、来るのか?」
「先生! 侵入者用のセンサーは!?」
「ありますが……反応しない以上、妨害されているのでしょう」
「そう言う個性持ちがいんのか。場所とタイミングが良すぎる」
周囲がざわめきだす。相澤先生はイレイザーヘッドとして動き出す。
「13号! お前は生徒を避難させろ。飯田は学校へ連絡を試みろ!」
戦闘態勢を取る相澤へ13号と上鳴は頷くと、相澤は広場に集まるヴィランへと今にも飛び出そうとし、それに気付いた緑谷が止めようとする。
「待って下さい! イレイザーヘッドの本来の戦い方だと、あの人数は!」
「一芸だけではヒーローは務まらん!!」
緑谷の言葉を遮り、教師としてヒーローとして相澤は飛び出し、ヴィラン達と交戦を開始する。
「皆さん! 早くこちらへ!」
《行かせはしませんよ》
13号を先頭に避難しようと矢先、彼らの前に現れたのは黒い霧のヴィランだった。
《はじめまして………我々は
「「「は?」」」
平和の象徴、つまりはヴィランの抑止力。そのオールマイトを殺害する為に学校内を奇襲。そんな事、実行する奴等がいるなんて誰が想像できただろうか。
《しかし、オールマイトはいらっしゃらない様子。仕方ありません……ならばまずは》
瞬間、何人かの生徒がモヤの様に不可解な身体をしたヴィランへ先手を放った。
しかし彼らは気が付いていなかった。自分達が13号の射線に被り、攻撃を邪魔している事を。
《あぶないあぶない……流石は金の卵たち。だが所詮は、卵だ》
黒い霧が牙をむいた。