機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 タクオのザクⅠとの戦いから数日、ファントムとソウシは新たに手にした力、『スクランダーウィザード』を使いこなせるように練習していた。
 買い物に出たソウシはある一人の不思議な少女を目にする。
 それが新たな戦いの引き金となることも知らずに……。

※今回は少し残酷な描写があります。


第10話:「偽りの平和」 ※オリジナル機体紹介あり

 闇夜に眠る街……。

その街に6つの影がビルの合間を飛び交っている。

やがてそれらの影は一つのビルの上に降り立ち、集合する。

 

「……目標はこの街に逃げ込みました。街の人間に接触する前に我々の手で確保します」

 

 6つの影の、リーダー格のその人物は闇夜と同化している己の体色で、他の5人に指示を与える。

 

「でも、この街……なんだか僕らと似たような感覚を多数感じます」

「数は5……いや、6といったところだね。ちょうど僕らと同じ数じゃないか♪」

「ふっ……一度手合わせ願いたいところだな」

「きゃははは♪ あたしも遊んでみたーい♪」

 

 誠実そうな声と中性的な声の人物、そして荒々しい口調と無邪気な子供のような口調の人物は、この街に自分達と同じ存在がいくつか存在していることを感じ取っているらしい。

 

「しかし今はマスターから与えられた任務が最優先です。事は穏便に、かつ迅速に済ませなければなりません」

 

 またもリーダー格の黒い影が4人に言い放つ。彼女らにとってマスターから与えられた命令はよほどのことなのだろうか、少し焦りが声色に出ている。

 

「んァ……質問があるうだけどよォ」

 

 と、フェンスの柵に背中を預け、腕を組んでその声を聞いていた一人が、手を挙げてリーダー格に質問をする。

 

「……なんですか?」

 

 リーダー格の人物は、若干苛々とした感じでこの質問を聞く。

 

「もしよォ……もしなんだが、保護対象がこの街の俺らと同族達と接触した場合は……どうするんだ?」

 

 その質問に他の4人が思わず固唾を飲んでしまう。少なからずその疑問は他4人も抱いていたからだ。

 

「……その場合は不本意ながら状況を見て各々の判断に任せるとしか言えません。穏便に済ませられるのであればそのように。そうでない場合には……武力的排除もあり得ます」

「よしよし、そうこなくっちゃなァ。喜べよ将軍、追手合わせ願えるかもしれねェぜ?」

 

 将軍と呼ばれた、先ほどの荒々しい口調の人物は短く「フッ……」と口元を歪ませて嗤う。

 

「では各自散開して散策。発見次第確保せよ」

 

 リーダー格の言葉を聞き、6人はまた散らばって闇夜に姿を消していく。

 

「さァて……お楽しみといこうじゃァねェか。簡単に返すんじゃねェぞ……せいぜい抵抗して、足掻いて、俺様を戦わせざるを得ない状況を作ってくれよォ……あげゃげゃげゃげゃ!」

 

 気味の悪い笑い声をビルの谷間に反響させながら、彼女もまた宙を舞い、闇夜に溶けていった……。

 

 

 

 

 

―――――第10話:「偽りの平和」―――――

 

 

 

 

 

 

「よーし、こんなもんだな。ファントム、飛んでみろ」

「はい、マスター」

 

 休日の午後、俺とファントムの二人は家の庭でファントムの飛行練習をしていた。飛ぶ力を得たといっても、今まで自分の身にはなかったものが新たに備わったんだ。それなりに練習をする必要がある。翼を広げ、スラスターノズルから起動音が上がり、背中と足裏の噴射口から煙が上がる。そして、バーニアから炎を一気に噴き出し、ファントムは真上に飛び上がった。

 

「わわわっ……!?」

 

 しかし、勢い余ってしまったため、スピードを落とすためにバーニアの噴射を停止する。すると、そうなると当然引力によって地上に戻されるわけでファントムの体が落下し始めた。

 

「ファントム! 背中のバーニアを噴射して姿勢を保つんだ! 少しずつな!」

「は、はい!」

 

 もちろん俺は本当のモビルスーツの飛行原理を知っているわけじゃない。アニメでの実際のモビルスーツの飛び方なんかを見て、指示を出しているに過ぎない。それでも少しでもファントムの力になれればと、地上から見てファントムがバランスがとれているか確認をする。ファントムは言われた通り背中からバーニアをふかし、落下速度を緩める。続いて脹脛のバーニア、ウィング部のスラスターを地面に向けて噴射しながら、徐々に空中で同じ姿勢を保つ。

 

「よし、そのまま今度は真横に水平移動してみよう」

「わかりました」

 

 バーニアの向きを少し変え、翼の角度を変える。すると、ファントムの体はスーっと真横に水平移動する。

 

「よしよし、なかなかいい調子じゃないか。これならすぐにスクランダーウィザードを使いこなせるように……」

「わっ……! わわわっ!?」

 

 しかし、突然の突風の煽られてしまい、ファントムの体は大きく揺れる。そのせいでバランスを崩し、真っ逆さまに地面に落ちる。

 

「や、ヤバッ……!」

 

 ズシン、と鈍い音を立てて、ファントムは尻もちをついて落下してしまった……が。

 

「あいてて……ま、マスター!? 何を!?」

「っつ~……ファントム、大丈夫か?」

 

 地面に落ちる寸前のところで俺が地面の下に滑り込み、身を呈してファントムのクッションとなった。本当はかっこよくお姫様だっこで決めたかったんだが、現実はそう上手くはいかない。ファントムは俺の腹あたりに落下したわけだが、全体重+スクランダーウィザードの重さ+落下速度の衝撃はダイレクトに俺の腹を抉り、しばらく蹲って呼吸ができなかった。

 

「も、申し訳ありませんマスター! 不甲斐ない私のために……!」

 

 ファントムはお尻を摩りながら慌てて立ち上がると俺にペコペコ頭を下げて謝罪する。こんな時でもファントムは自分のことよりも俺のことを第一に考えているみたいだ。

 

「いたた……いや、いいよいいよ、これぐらい。それに、最初からできる奴なんて誰もいないんだから、ゆっくり練習してこうな」

「はい……」

 

 落下による衝撃と軽い呼吸困難で、おそらく今俺の顔色は結構青ざめていることだろう。それを見てかファントムは尚も申し訳なさそうな顔をする。よし、ここは俺のジョークで気持ちを和らげてあげよう。

 

「にしてもファントムの尻って結構柔らかいのな」

「はい……ってなっ! 何を言ってるんですか! もう……人が心配しているのに!」

 

 と、俺のジョーク(尻が柔らかかったのは本当だけど)を本気で受け止め、今度は顔を赤らめて怒りだした。

 

「はははっ、悪い悪い。しかし、なんであの時はあんなふうに飛びまわれたんだろうな?」

 

 ふとファントムが初めて空を飛んだ日のこと……ザクⅠとの戦いのときのことを思い出した。あれもつい最近のできごとだし、あの時のファントムの飛行芸は見事と言わざるを得ないほどだった。なのに何故、今ファントムは練習を必要とするほどに飛行技能を練習しているのか……。

 

「なんと言いますでしょうか……あの時は無我夢中だったものですから」

「ふーん、火事場のなんたらってやつか」

 

 だとするなら、はやり練習は必要なようだ。いつでも火事場の馬鹿力で切り抜けられるような状況になるわけじゃないし。

 

「しかし、重りになりそうな物をこれだけ外しても空中でバランスを保つのは難しいか……まだまだ先は長そうだな、こりゃ」

 

 庭先の縁側から、庭の見える1階の和室にかけて、ファントムに装備されているビームライフル、ビームガトリング、斬機刀、レーザー重斬刀、そして肩の2枚のシールドは取り外され、そこに並べて置いてある。飛行訓練の重りにならぬよう、そこに置いてあるのだが……実戦ではこれを全て装備して飛ばなきゃいけない。軍隊の訓練以上に大変なことだ。まぁ実戦なんて無いのが一番なんだが、俺達の場合そういうわけにもいかない場合の方が多い。

 

「よし、じゃあちょっと休憩するか」

「私としても一刻も早く、この装備を使いこなせるようになりたいのですが……」

「あんまり切り詰めてやるのもよくないぞ、気長にやろうぜ」

「……そうですね」

 

 ファントムはスクランダーウィザードを背中から外し、庭に置くと縁側に座る。俺は台所から羊羹とお茶を持ってきて、その隣に座った。

 

「美味しいですね、この羊羹」

「あぁ。自慢じゃないが、俺が今まで選んだ食べ物で外れだったことはないぜ」

「ふふっ、オトメではありませんが、マスターなら本当に良いお嫁さんになれますね」

「か、からかうなよ……ん?」

 

 縁側でファントムとそんな陽気な会話を交わしている最中、俺はあることに気がついた。

 

「ファントム、その腕……」

「え? あぁ……塗装が少し剥げてきてしまっていますね」

 

 ファントムの左腕の肘関節部分のダークグレーの塗装が少し剥げ、左腕に使ったHGシグーのねずみ色の腕色が露わになっていた。

 

「ザクとの戦闘で結構動きましたからね、擦れて落ちてしまったのでしょう」

「ちょっと待ってろ、塗りなおしてやる」

「え? いえ、そんなマスターのお手を煩わせることを……! ほんの少しですし!」

「気にするなよ、少し塗れば済むだけの話じゃないか。待ってろよ」

 

 俺は縁側から立ち、自分の部屋に向かいダークグレーの塗料を取りに行った。……が。

 

「……しまった、この前スクランダーウィザードの塗装に全部使っちまったんだった」

 

 そう、ダークグレーの塗料が入っていた小瓶は既に空になっており、とてもではないが塗れるだけの量は残ってはいなかった。俺は塗料の小瓶を不燃物ゴミの袋に入れ、またファントムのところに戻る。

 

「すまないファントム、塗料が切れてた。これからアベさんのところに行ってちょっと買ってくるよ」

「マスター、私は本当にこの程度大丈夫ですから……」

「いいっていいって、どうせこれからも使う物だし、ひとっ走り行って買ってくるよ」

 

 と、俺は財布を片手に玄関を出て、縁側のファントムに手を振ってアベさんの店に走っていった。さすがにちょっとおせっかいだったかなとも思ったが、走る寸前に見たファントムの笑顔を見て安心した。あの顔はおそらく、「私のマスターは優しいな」という心境の顔だったと思う。それを知ったら俺もなんだか嬉しくなり、自然と笑顔がこぼれた。

 

………………

…………

……

 

「いけね、遅くなっちまったなぁ……」

 

 塗料を一つ買うだけのつもりだったのだが、店に入るとついつい新発売のガンプラやちょっとレアなキットに目を奪われ、時間が経つのを忘れてしまう。気が付いたら30分も経ってしまっていた。ダークグレー塗料の小瓶の入ったビニール袋をぶら下げながら、俺は小走りで家路についていた。

 しかし、運悪く空が曇りはじめ、雷の音が鳴り響く。

 

「げっ、マジかよ……今日降るなんて聞いてないぞ」

 

 雨が降り始める前に急いで帰ろうと走り出すが、ちょうどそこで雨が降り始める。雨は段々と激しくなり、やがて本格的な土砂降りとなる。

 

「うぇ……こりゃいけねぇな……どこかで雨宿りしないと」

 

 見ると、屋根の付いたバスの停留所があった。助かった、ベンチもあるし、雨が止むまでここで雨宿りすることにしよう。

 

「ふぅ……ファントムに遅くなるって連絡しておくか。……あ」

 

 しかし、そこで俺は思いだした。連絡しようにも、俺は携帯を家に置いてきたままだった。すぐ帰るつもりだったし、まさかこんなところで雨が降るとは思わなかったし……仕方ないと言えば仕方なかった。

 

「心配かけちゃうかな……」

 

 俺はため息をつきながらベンチに腰を下ろした。休日の午後だが、この辺はやけに人通りが少なかった。雨が降っているせいかもしれないが、なんにしても一人でこんなところにいるのは暇だ。携帯でもあれば、暇をつぶすこともできるのだが、今はそれも無い。俺は雨が止むまでただボーっと目の前の雨が降る景色を眺めていた。

 

 

 

 ……はぁ……はぁ………

 

 

 

「……ん?」

 

 雨音が一層と激しくなる中、俺はどこからか人の息使いのようなものが聞こえた気がした。別段気になることでもなかったのでそのまま無視していたが、その息使いは段々と、ゆっくりとこちらに近づいているようだった。

 大方、雨に濡れぬように急いでいるのだと思ったが、それにしては接近してくる速さがゆっくりすぎるような気がした。こんな雨の中を好き好んでゆっくり歩く奴なんているとは思えない。気になった俺は、ベンチから立ちあがり、停留所の屋根の下から首を出し、周囲を見回す。

 そして……俺はその息使いの主を見つけた。青いワンピースに、透き通るような白い肌と白い髪の、歳はおそらく12~13歳といった、どこか幼さが残る少女だった。その少女がこの土砂降りの雨の中を息も絶え絶えに、一歩、また一歩と足を引きずるようにゆっくりと歩いていた。しかも靴も履かずに裸足でだ。

 その様子から見て今まで散々歩きまわったのだろう。白い肌や青いワンピースは泥で汚れて、裸足の足からは血が滲んでいるようにも見えた。そこまでして尚も歩き続ける少女は、何かに怯えて逃げているようにも見える。

 これは明らかに普通ではない。どうしよう……助けてあげるべきなのか……?

 

「……っ……!」

 

 その時、少女が短い声をあげると、足を躓かせ転んでしまった。

 

「お、おい!」

 

 もう様子がどうのこうのと言ってる場合じゃない。俺は塗料の入った袋をベンチの上に置くと、彼女の元に駆け寄った。転んで道路の真ん中に突っ伏す彼女を抱きかかえ、その腕に抱く。

 

「大丈夫か!?」

 

 抱きかかえてみると、彼女の体は驚くほどに軽く、そして冷たかった。少女は肩で息をしながら体を震わせながら、必死に何かを俺に伝えたそうだった。

 

「……た……け………」

「え……? なんだって!?」

 

 その蚊の鳴くほどに小さい声は雨の降る音でほとんどかき消されてよく聞き取れない。俺は彼女の口元に耳を近づけ、必死に彼女の訴えを聞こうとする。

 

「た……すけ……て……」

 

 

 

「ここにいやがったかァ」

 

 

 

 彼女の訴えをようやく耳にしたその時、突如俺の頭上から何者かの声が聞こえた。おそるおそる顔をあげ、声のした方を見上げると、そこには電柱の上に立つ一つの人影があった。

 

「ったく、使えねェ嬢ちゃんだぜ。てめェを餌に同族をおびき出すつもりだったのに……それよりも先に俺様に見つかっちまうなんてよォ」

 

 雨が上がり、曇った空が晴れる。それと同時に、その人物の姿が俺の露わになる。全身を覆う、まるで血のように真っ赤な深紅の装甲……それと同色の短い髪の毛……装甲の下は褐色色の肌……そして、つり上がった目に口元から覗かせる八重歯。粗暴そうな口調だが、どうやら女性のようだった。見覚えのあるこの姿……色が違うようだが……こいつは……!

 

「赤い……ガンダムエクシア……?」

 

 細部が異なっているようだが……右腕に装備された巨大なGNソードといい、色こそ違えどこいつはあの“機動戦士ガンダムOO”の1stシーズンに登場する主人公機、“ガンダムエクシア”だとすぐにわかった。

 

「よっと」

 

 そいつは電柱の上から飛び降りて地面に着地すると、すたすたと真っすぐ俺の方に向かってくる。いや、正確には俺の手に抱き抱えられているこの白髪青ワンピースの少女にだ。少女は怯えた表情でその小さな手で、俺の服の袖を必死で掴んでいる。

 

「ま、見つけちまったモンは仕方ねェよなァ、オラ来いよ」

「やっ……!」

 

 赤いエクシアは少女の手を乱暴に掴むと、そのまま俺の方から引きはがし、自分の方に連れて行こうとする。だが少女は抵抗し、連れて行かれまいと尚も俺にしがみつく。

 

「手間かけさすんじゃねェ、オラ!」

「や……やだっ……! た……助けて……!」

 

 さっきよりもさらに力強くエクシアは少女の腕を引っ張る。乱暴に痛々しく引っ張られる少女の姿と、少女の必死の訴えで、俺はもう我慢できなくなった。

 

「おい!」

「……あ?」

 

 俺が声を張り上げると、赤いエクシアはまるで今初めて俺の存在に気がついたかのような反応で俺を睨みつける。……尋常じゃない威圧感だ。こいつら人化ガンプラは、元になったモビルスーツが人間大にスケールダウンしたほどの戦闘力を持っている。スケールダウンといっても、それ一つで軍隊を相手にできるほどの戦闘能力を持ち合わせているわけだが……そんなのと俺は今、たった一人、武器も無い丸腰の状態で対峙している。となれば、なるべく事は穏便に済ませたい。

 

「……彼女、嫌がっているじゃないか。お前が何者かは知らないが、俺としてもこの状況を見過ごすわけにはいかない」

「引っ込んでろ、これはウチの問題だ」

 

 俺の話を無視し、また少女の腕に込める力が強くなる。そのたびに少女の体が小刻みに震え、ぎゅっと瞑った目から今にも涙が溢れそうだった。

 

「や、やめろって!」

 

 思わず俺は少女の手から引きはがそうと、赤いエクシアの腕を掴んでしまった。すると、エクシアは以外にもあっさりと少女から手を離した。

 

「……何の真似だ?」

 

 まるで氷のように冷徹な視線を俺へと向けるエクシア。その視線を受けた俺は思わず竦みあがるが、それでも怯まず言葉を続ける。

 

「見ればわかるだろ。その子が嫌がっているから手を離せと言ったんだ」

「……おい人間、今すぐ手を離しな。じゃねェとてめェ……ただじゃ済まねェぞ」

「お前がその子に付きまとわないと言うなら……―」

 

 

 

 ズパッ

 

 

 

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 俺が言葉を紡いでいる最中、エクシアが大きく左腕を振るったかと思うと、それとほぼ同時に白髪青ワンピの少女が俺を地面に押し倒した。そして……鈍い音が響いた。

 それが最初、何の音かはわからなかった。瞬間、飛び散る赤い液体。

 エクシアの腕を掴んでいた俺の右腕から、まるで噴水のように真っ赤な血が溢れ出る。

 血は雨上がりのアスファルトや塀を赤く染め、むせかえるような鉄の匂いが辺りに立ちこめる。

 そして怒涛の如く襲ってくる、凄まじい激痛……。

 

「あがっ……あああっ………! あああああああああああああああ”あ”あ” あ”あ”あ” あ”あ”あ” あ”あ”あ”っ!!!!!!!」

 

 声にならない悲鳴をあげて、俺は地面を転げ回る。俺の右腕が……右腕の手首から上腕にかけて、ほぼ中央を……鋭い刃物でまるでなぞったかのように綺麗に縦一閃に切り裂かれ、血が噴き出しているのだということがわかった。

 アスファルトの上でのたうち回りながら、激痛を堪えて溢れ出る血を必死で左手で抑えていると、あの赤いエクシアが視界に入ってきた。

 

「あァ、話しを遮っちまって悪ィなァ。だがこちとらちんたらちんたらとテメェのお話に付き合ってられるほど暇じゃねェんでなァ。チッ……そいつが邪魔しなけりゃ綺麗に縦真っ二つにして切り落とせたのによォ」

 

 よく見ると、こいつの左手にももう一本、小振りのGNソードが付いていることがわかった。あれは確か……プロトGNソードとかいう武装だったか。

 血が滴るプロトGNソードを横に振るい、俺の返り血を弾き飛ばす。そしてエクシアは、地面で蹲る俺に向かって冷たい視線を向ける。

 

「だが、その腕はもう二度と使い物にはならねェ。人間風情が気安く俺様に触れたのが運の尽きだったなァ……あげゃげゃげゃ!」

 

 激痛で朦朧とする意識のなか、そいつのそんな言葉と気味の悪い笑い声が俺の脳裏にいつまでも響いていた。

 

「ぐっ……ぐぅっ……!」

 

 痛みを堪えるので必死で、俺はもう喋ることすらままならない。そうこうしているうちに、エクシアは少女に手を伸ばし、また連れ去ろうとしている。

 俺のこの姿を見て、すっかり脅えきってしまった少女に、もはや抵抗する余地などはなかった。

 

「逃……げろ……逃げろ……!」

 

 必死で少女に訴えかけると、少女はハッとした表情で、先ほどまでへとへとだったのも忘れて慌てて走り出す。

 

「ケッ、逃がすかよォ!」

 

 エクシアが腰に手をかけると、短身のGNショートブレイドを手に取る。それを少女に投げつけると、ショートブレイドは少女のワンピースに刺さり、そのまま地面に深くめり込んだ。少女は必死でショートブレイドを引き抜こうとするが、力が足らず抜けそうにはない。

 

「そこで大人しくしてろよォ。さァて……残しとくと後が面倒だからなァ、片付けやすいように徹底的にバラバラにしてやるぜェ……あげゃげゃげゃ!」

 

 と、エクシアは右手のGNソードと左手のプロトGNソードの両方を展開し、一歩一歩俺に歩み寄る。

 逃げなきゃ……! このままじゃ俺はあの両手のソードで文字通りバラバラにされてしまう……! 腕を斬られただけでこんなに痛いのに……その惨状は想像だにできなかった。

 逃げようと地面を這うように動くが、痛みと失血のせいで思うように動けない。それどころか、目が霞んで意識まで消えかかってきた。このままじゃ本当に……!

 クソッ……! なんでこんなことになっちまったんだ……! つい1時間くらい前までファントムと二人で楽しく休日を謳歌していたのに……!

 

「……い……嫌……だ……!」

 

 脳裏に浮かんだ言葉がそのまま俺の口から出た。

 嫌だ……死にたくない! こんなところで誰にも知られることもなく……たった一人で逝くなんて……!

 

「助けてくれ……ファントム……!」

 

 今にもあの鋭いブレードが降り降ろされるかもしれない。その恐怖に耐えきれず、俺は思わず目を瞑り、掠れるほどのか細い声でファントムの名を呼ぶ……その時だった。

 緑色のビームが空を裂いてどこからか放たれ、エクシアの足元を狙う。エクシアはそれを察知し、後ろに飛び退いてビームを回避する。ビームは地面に命中し、俺の血と雨で濡れたアスファルトに穴を空ける。エクシアは俺から視線を放すと、周囲を見回す。

 

「ようやくお出ましか……あげゃげゃ!」

 

 またもビームが放たれる。先ほどは威嚇だったようだが、今度は直撃コースだ。だが、エクシアは不敵な笑みと共に背部のGNドライブを起動させると、地面を蹴って宙を舞い、ビームから逃れた。

 

「マスター!」

 

 聞き慣れた声が聞こえ、激痛に耐えながら首だけ動かして声のした方を向く。ファントムだ。まるで俺の願いが天に通じたかのように、ファントムはここに来てくれた。

 一方のファントムは俺のこの姿を見ると、尋常ではない程に心配した表情をし、俺の方に全力疾走で駆け寄ってくる。

 

「ファン……トム……か……?」

「マスター……あぁそんな……私がもっと早くに来ていれば……!」

 

 絞り出すように声を出すと、ファントムは跪いて俺の前に目線を合わせる。

 そのファントムの表情は……後悔と哀しみで満ち満ちて、今にも泣いてしまいそうな表情だった。

 

「よくも……よくもマスターを!!」

 

 拳を堅く握り、ファントムは再び立ち上がると、上空から俺達を見下ろすエクシアを睨みつける。その時のファントムの表情は、俺が今まで見たことがないほどに……怒えりを露わにしている表情だった。エクシアはそんなファントムの様子を見てにやりと嗤う。

 

「マスター……もうしばらく辛抱して下さい。すぐに……片付けます!」

 

 そう言うと虚空からスクランダーウィザードを出現させ、自分の背中に装着する。さっきの訓練のように一々と段階を踏まず、そのまま地面を大きく蹴ると同時に全てのスラスターを全開にして、空に昇っていった。

 そしてエクシアと同じ高さまで上昇すると、そこで静止し、エクシアと対峙する。

 

「貴様は……貴様だけは!」

「あげゃげゃ! 愛するご主様を傷つけられて激おこ状態ってかァ? しかも見たらてめェ量産機じゃねェか。がっかりだぜ、ようやく俺ら以外の同族を見つけたと思ったら、量産機とはなァ……とんだ期待外れだな」

「黙……れぇぇぇぇぇ!!」

 

 腰の斬機刀を抜き、それを両手で構えるとブースター全開で加速し、エクシアに迫る。エクシアはそんなファントムの攻撃を右手のGNソードで受け止め、尚もニヤニヤした余裕の表情で嗤う。

 

「いやァ……どうも量産機以前の問題みてェだな」

「くっ……!」

 

 ファントムの渾身の斬撃を片手一本で受け止めるエクシア。その表情からは先程までの笑みは消え、代わりにため息をついて呆れている表情に変わった。

 

「まァ所詮温室育ちの同族の力なんざこの程度か。所詮人間の為なんかに戦うてめェなんかに……俺様が負けるはずなんざねェんだよォ!!」

 

 右手を大きく振るい、ファントムの斬機刀を弾くエクシア。そのまま左手のプロトGNソードも構え、両手の剣でファントムに迫る。

 

「守る者のために戦って何が悪い!!」

 

 ファントムはもう片方の腰に差しているレーザー重斬刀を構え、空中で二人は両手の剣を交えて火花を散らしながら鍔迫り合う。

 

「ムカつくンだよォ! てめェみたいに……人間に飼われて何も知らねェ甘ちゃんはなァ!!」

 

 空中で組み合った二人はそのまま動けない…のかと思いきや、エクシアが今度は頭を大きく振るい、ファントムの顔面目がけて自分の頭をぶつけた! つまりは……頭突きをかました!

 

「がっ!? あっ……!」

 

 頭突きはかなり利いたらしく、ファントムに一瞬の隙ができてしまった。エクシアはその隙を見逃さなかった。右手のGNソードを左手で支えながら真っ正面に構えて、背中のGNドライブの出力も全開にし、そのままファントム目がけて突進する。

 

「アバヨォ!!」

「……っ!? させるかぁ!」

 

 迫るエクシアを前にして、ファントムは咄嗟にレーザー重斬刀を前に突き出す。それで迫るエクシアにカウンター攻撃を与えるつもりだ。

 が、エクシアは尚も余裕な表情を浮かべ、一瞬頭を引っ込めて重斬刀の突きをかわしたかと思うと、両腕を伸ばし、両手のGNソードを一直線にして勢いをつけて回転する。まるでヘリコプターのテールローターのように、縦状の回転斬撃がファントムを襲う。だがファントムは、先ほどの頭突きで目がぼやけてしまい距離感が掴めない。かつ、腕を伸ばした形でいるせいで回避のタイミングが遅れた。だがそれでも、ファントムは殺気を察知し、脚部バーニアを前方に向けると急速に後方へと飛びのけようとする。しかし、アストレアの斬撃は止まらない。

 下から上にかけての両手の斬撃は、左手のGNプロトソードは回避したが、それよりも長い右手のGNソードを回避するまでには至らず、その切っ先でファントムの顔を斬り付ける。

 

「ぐあっ……!?」

 

 左目を斬りつけられ、ファントムは短く悲鳴をあげる。その拍子に両手から斬機刀をレーザー重斬刀がこぼれ落ちる。落ちた二本の刀は地面で蹲る俺の目の前、アスファルトの上に突き刺さった。

 

「今度こそ終わりだァ! 死になァ!!」

 

 エクシアは2回転目の回転斬撃でファントムにトドメを刺すつもりらしい。目をやられ、攻撃を受け止める剣もなくなってしまったファントムはもう打つ手がない。だがエクシアの回転する2本のGNソードはもうファントムの目と鼻の先にまで迫っている。

 このままじゃ俺だけじゃなく……ファントムまで……!

 

 その時だった。

 

 突如、エクシアの進撃を阻むかのように黄色いビームがエクシアのGNソードに命中し、回転の軌道を逸らす。

 

「……っ! ンだァ!?」

 

 構えを解き、空中で急停止すると、ビームの飛んできた方向を見るエクシア。しかし、静止したエクシアを突如四方八方からのビームが襲う。

 俺はビームを発射している物体をよく見てみる。4枚の羽を開いたような、赤い円筒状の物体が浮遊し、それがエクシアに向かってビームを発射し続けている。あれは……ファンネル!?

 

「ハッ新手か! どこだ! 姿見せなァ!」

 

 そのビームを最小限の動きでかわしながら、エクシアはファンネルを操っている何者かに問いかける。

 すると、ビルの屋上から何者かが飛び、背中や足のバーニアを噴射しながらこちらに向かって降りてくる。全身真っ赤な装甲に、サラリとした長い金髪……スラリとした長身の女性だった。

 

「私のことをお呼びかな? 赤い同類君」

 

 その人物は俺の前に降りると、周りを浮遊していはまるで見えない糸で引き寄せられるかのように彼女の元に集まり、6基のファンネルは自動で彼女の背中のコンテナに収納される。

 ファンネルを操り、そして赤いこの姿……大きなシールドにはネオ・ジオンの紋章……間違いない、この人物は紛れもなく、あのモビルスーツ……!

 

「サザ……ビー……?」

 

 俺は“機動戦士ガンダム 逆襲のシャア”に登場するシャア・アズナブルの最後の乗機、ネオ・ジオン総帥専用であるあのモビルスーツの名を呟く。

 

「私のことを知ってくれているのは光栄だが、あまり喋るものではないぞ。傷に響いてしまうからな」

 

 小さく頷いた後、彼女はそう答えた。やはりこの女性はサザビー……。ということは、ファントムやあの赤いエクシアと同じく人化したガンプラなのだとわかった。

 

「ケッ、ちったぁ骨のある奴がお出ましってわけか! 上等ォ!」

「勘違いされては困るが、ここに来たのは私だけではないぞ」

 

 サザビーがそう言うと、上空からエクシア目がけてビームが降り注ぐ。

 

「私とファントムさんは共同戦線を張っているんですもの、先輩にはいいところ見せないと!」

「わしとて狙撃には自信がある!」

 

 見ると、サバーニャが両手にGNライフルビットを構え、ド・ダイに乗ったザクⅠがスナイパータイプのバックパックを背負い、エクシアを狙撃していた。

 

「チッ、狙撃か! めんどくせェなァ……!」

 

 空中でビームをかわしたり、GNビームサーベルで弾いたりするエクシアは、GNソードをライフルモードにしてビームを放つ。短い発射音を響かせて3発の赤いビームを放ち、サバーニャのライフルビットとザクのビームライフルに命中し、その手から弾き落とす。

 

「きゃっ……!」

「のわっ!?」

 

 格闘戦にのみ特化した奴なのかと思いきや、遠距離からの攻撃も得意らしい。それだけでなく、3発目のビームでザクの乗るド・ダイのエンジン基部にも命中させ、ザクを乗せたままのド・ダイは煙をあげてジグザグの軌道を描きながらどんどん高度を落としていく。

 

「のわあああああっ!!」

 

 振り落とされぬよう、ド・ダイの尾翼にしっかりと両手で掴まりながら涙目で叫び声を上げるザク。このままでは地面に激突してしまう……! と、覚悟したその時、サバーニャのホルスタービットとサバーニャ自身が落下するド・ダイの下にもぐりこみ、下から支えて落下速度を緩める。

 

「す、すまぬ……」

「大丈夫よ、後輩を助けるのも先輩の役目ってね」

 

 と、サバーニャはザクⅠにウィンクした。だが防御形態も回避運動もとれないこの状態は傍から見れば完全な無防備でしかない。当然エクシアはそれを見逃すはずが無かった。

 

「ケッ、とんだ茶番だな」

 

 トドメを刺すつもりらしく、サバーニャとザクⅠにGNビームライフルの銃口を向ける。

 

「させるかよぉ!!」

 

 だが伏兵はサバーニャとザクⅠだけではないらしい。今度は家の塀の中からゴッドガンダムが躍り出て、エクシアの頭部目がけて右手のゴッドフィンガーで迫る。

 

「ばぁぁぁくねつ!! ゴッドフィン……!」

「甘ェなァ!」

 

 しかし、ゴッドの手よりも先に、エクシアの足によってゴッドの腹部に蹴りが入れられる。

 

「ぐはっ……!?」

 

 手の長さよりも、足の長さの方が長いのは自明の理。ゴッドの進撃はそこで止まり、思ったよりもダメージが大きいのか、蹴飛ばされた反動で地面に着地すると膝を折って腹部を押さえ、苦しそうな表情を浮かべる。

 

「げゃげゃハハァ!! ようやく面白くなってきやがったぜェ! だがなんだなんだァ? どいつもこいつも手ごたえがねェゴミばっかだなァ」

 

 両手を広げて爆笑するエクシア。完全に自分達を舐めきっているその態度にサバーニャ、ザクⅠ、ゴッドは苦虫を噛み潰したような顔でエクシアを見る。

 

「それはどうかな?」

 

 その時、何者かの言葉と共に何かがサバーニャ、ザク、ゴッドの横を猛スピードで突っ切った。一瞬伸びる赤い影……ギラーガだ。猛スピードでエクシアに迫るギラーガから一瞬緑色の光がちらついた。ギラーガスピアの切っ先が光の反射で輝いたのだ。鋭い切っ先がエクシアへと迫る。

 

「ハッ!」

 

 金属同士がぶつかる鋭い音が響く。と同時に、瞬く火花。見ると、ギラーガスピアの切っ先がエクシアのGNソードの展開基部に挟まれ、スピアの先端はエクシアの顔の数センチ前で静止していた。ギラーガの口元から小さい唸り声が聞こえ、装甲の隙間から見える褐色の肌からは僅かに汗が滲み、焦りの表情がマスクの上からでも窺える。それとは対照的に、エクシアはまたも余裕そうな不気味な笑みを浮かべている。

 まさかこんな止め方をするなんて……! さっきの頭突きといい、ゴッドにかました蹴りといい、なんて目茶苦茶な戦い方をする奴なんだ……!

 

「なんだそりゃァ? もしかして俺様の隙をついた奇襲のつもりかァ? 残念だがなァ、正面きっての突撃なんざ奇襲にもなってねェんだよ!」

 

 腕を振るい、GNソードを捻るように回すと、ギラーガの手からスピアが離れ、GNソードで挟んだスピアを地面に捨てる。捨てられたギラーガスピアは地面に突き刺さる。エクシア改めてGNソードを構え直すとギラーガの方にソードの先端を向ける。

 

「得物を取られちゃ太刀打ちできねェか?」

「ふん、もとより奇襲のつもりなどない。それに……私の武器が槍だけだと思わぬことだ!」

 

 と、ギラーガは両掌からビームサーベルを発生させると、対峙するエクシアに向けて構える。

 

「面白ェ、どうやらテメェはそこいらのゴミと少しは違うみてェだなァ!」

 

 瞬間、ぶつかりあうGNソードとビームサーベル。黄色い火花を散らし合いながら互いに本気で斬りかかっている。

 

「私たちも行くわよ!」

「応!」

「もちろんじゃ!」

 

 後方のサバーニャ、ゴッド、ザクⅠも戦線に加わり、人化ガンプラ達による激しい戦いが始まった……。

 

………………

…………

……

 

「ソウシ!」

「ソウシ君!」

「ソウシ殿!」

 

 空で人化ガンプラ達が激戦を繰り広げている中、俺を呼ぶ声が聞こえた。痛みを堪えながら声のした方を向くと、トモヒロ、オトメ、タクオ、そしてキサラギが走って俺の方に駆け寄ってきた。

 

「みん……な……?」

 

「大丈夫かソウシ!?」

 

 トモヒロは道路に転がる俺を抱き起こすと、俺の傷の具合が皆の前で露わになる。

 

「そ、ソウシ君!? 腕……腕が……!」

「……落ち着いて。手を貸して、止血をする」

 

 慌てるオトメに対して、落ち着かせるようなだめるキサラギ。そのままキサラギは、オトメの手を借りて俺の傷の手当てをしようとする。

 

「みんな……どうして……」

「あの人に呼ばれたの。ソウシ君に危険が迫ってるって……」

「俺んとこも同じだ、ゴッド達もなんか感じたんだろうな……みんないつになく闘争心がむき出しだぜ」

 

 トモヒロが俺の身体を抱きかかえ、オトメが俺の傷口を持ってきたタオルできつく縛りながら、二人は答えた。あの人というのはサザビーのことらしい。彼女は戦いを他のガンプラ達に任せ、傷を負ったファントムに自分の肩を貸していた。

 

「……布が足りない」

 

 皆の持ってきたタオルでは傷口を完全には塞ぎ切れず、大量の出血によってあっという間に真っ赤に染まった。先程まで激痛に悶えていたというのに、もう痛みも感じないほどに麻痺してきた……目の焦点が合わず、失血で意識も段々遠くなってきている……本当にこのまま自分が死んでしまうんじゃないかと思ってしまった……。

 そう思ったら、何故か自分の事よりも先ほどの少女の事の方が気になった。

 

「お……俺よりも……あの娘を……!」

 

 と、俺は力を振り絞って声を出し、地面にGNショートブレイドでワンピースを縫い付けられ、動けない状態のあの少女を左手で指さした。

 

「タクオ!」

「任されたでござる! ふんぬっ!!」

 

 タクオが地面に突き刺さるGNショートブレイドの柄部分を掴み、全体重をかけて後ろにのけ反ると、ショートブレイドは無事少女のワンピースから抜けた。

 

「よくやったぞタクオ!」

「ふぅ……ピザデブもたまには役に立つものでござるなぁ」

 

 少し息を荒げながら、タクオはズレた眼鏡を直した。動けるようになった少女はそのまま俺の方に駆け寄る。あいつから逃げなきゃいけないのに、俺の心配をしてくれているのだろうか……申し訳なさそうな表情で俺の顔を覗き込む。

 

「俺の……心配をしてくれているのか……?」

「ごめん……なさい……」

 

 瞼が重い……けれども、ぼやける焦点で必死に少女の方を見つめる。かすれるような声で話しかける。それに対して少女は、一言謝った。

 

「気にするな……俺はいつもあいつに……ファントムに守られていた……たまには誰かを守る立場にいなきゃ……かっこつかねぇよ……」

 

 消えかかる意識を必死で繋ぎ止め、泣きそうな表情の彼女をなだめるように精いっぱいの笑顔を向ける。

 

「貴方はとても強い人……だから死んじゃダメ! 死んだら……悲しむ人達がたくさんいるから……だから!」

 

 そう言うと、少女は俺の切り裂かれた腕に自分の両掌を翳す。何をするつもりなのか……と思っていると、突然少女の掌が輝きだし、不思議な緑色の光が俺の腕全体を包み込む。その様子を周りのみんなは驚きの表情で見つめている。

 その光に当てられると、不思議と痛みが段々と消えていく。温かい……そして何故か、安心を感じる……。

 

「っ……! 傷が……!?」

 

 先程まで消えかかっていた意識が、急にクリアに覚める。体も軽く、自由に動く。右腕を動かしてみると……痛くない。俺の腕の傷はすっかり治っていた。一体どんな力が働いたのかわからないが、この娘が俺を助けてくれたのは確かだ。

 試しに右掌を目の前で握り、開いてみる。それを2、3回繰り返してみる。少し痺れが残るものの、もう痛みは全くなく、動かす分には問題ない。おそらく、この痺れもじきに消えるだろう。

 

「君は一体……?」

 

 俺だけではない、この場に集まった皆がこの現象に驚き、言葉を失っていた。本来ならお礼を言うべきなのだが、あまりにも超常的で非現実的な体験をしてしまったがために、出た言葉はそんな一言だった。

 

「……っ」

「……!? おいっ!」

 

 しかし、少女は突然糸の切れた人形のように、全身の力が抜けたかの様子で気を失い、俺の腕の中に倒れこむ。

 

「ど、どうしちゃったの!?」

「……大丈夫だ、どうやら気を失っただけらしい」

 

 慌てふためくオトメに、俺はそう答えた。呼吸もしてるし、脈もある。きっと疲れたんだろう。

 この少女を抱きかかえてみてわかったが、とても体が軽い……腕も細い。少し力を入れれば折れてしまうのではないかと思うほどにだ。そして美しさを際立たせるが、不自然なまでに白い肌と白い髪。明らかに常人よりも体力が無いのがわかった。しかし彼女は今までずっと雨が降る中も走り続け、加えて俺の怪我を完治させる不思議な力を使った。体力の消耗は著しいものだったのだろう。

 

「こんな子供を追い掛け回すなんて……」

 

 この子を抱く腕に自然と力が入る。少しでもこの子が安心できるよう、その小さな手を握ってあげた。

 

「マスター……お怪我は……?」

 

 サザビーの肩に支えられながら、ファントムが俺の元に戻ってきた。エクシアに負わされた左目の切り傷からはかなり出血をしているようだった。

 

「あぁ……この娘のおかげだ。ていうかお前も……! 目、怪我してるんじゃないのか!?」

「この程度……マスターの受けた痛みに比べれば……っ!」

 

 しかし、やはり傷が痛むのか、ファントムは左目を手で押さえる。かなりの力で押さえているにも関わらず、血が指の間からも溢れてくる。結構大きな傷を負ったようだ。

 

「私は大馬鹿者だ……! マスターが瀕死の重傷を負っていたのに、助けようとはせずあいつを倒すことを優先してしまった……! 結果この様です……私は……マスターのガンプラ失格です……!」

 

 心底悔しそうな顔をするファントム。怒りか、それとも後悔からか、あるいはその両方からか体が震える。だがそれと同時に出血量も増す。

 

「自分を追い込むなよ。俺の方はもう大丈夫だ、気にするな。それに、今はお前の怪我の方が心配だ」

 

 抱いていた少女をトモヒロに預けると、俺は自分のシャツの袖を細く破ってファントムの左目に巻きつける。

 

「これで一応は止血できるな」

「マスター……申し訳……」

「だから謝るなって」

 

 俺がそう言うとファントムはそれっきり口を噤んだ。だが、歯を食いしばり、拳を堅く握って震える姿を見ると、内なる悔しさは相当大きいものだということがわかった。

 

「あァん? そいつ力を使いやがったのか?」

 

 上空から人化ガンプラ達の猛攻を受けながら、エクシアはその光景の一部始終を見て呟いた。戦いながらこちらの様子を伺う余裕があるなんて……やはりこいつはタダものじゃない。

 

「へェ、大した力だがなァ、それをてめェらが手にする必要は無ェ、大人しく返してもらおうか」

「貴様の相手は……」

 

 自分の事を無視されているのに気が立ったのか、ギラーガは全身からクリアグリーンの突起物……“Xトランスミッター”を出現させると、そこから黄色い球体状のビームを発生させ、自身の周囲に集める。

 

「この私だろうがぁぁぁぁぁ!!」

 

 腕を振るい、指示を受けたようにジグザグの軌道を描いてエクシアに迫るギラーガビット。しかし、その時だった。

 

「旋 風 爆 裂 斬 !!」

 

 突如巨大な竜巻がエクシアの前に出現し、迫るギラーガビットを全て呑み込んでしまう。巨大な旋風に煽られ、ビットは全て消滅した。

 

「こ、これは……!」

 

 ギラーガも、周りのガンプラ達も俺達も、自分があの竜巻に巻き込まれぬよう踏ん張りながら、竜巻が現れた方向を見てみる。やがて竜巻は消え、その視線の先に五つの影がこちらに飛んでくるのが見える。

 

「チッ、将軍か……余計なことしやがって」

 

「ふん、そう言うな。貴様ばかりが良い思いできると思うな。俺とて、このように我が同族達と相まみえる時を心待ちにしていたのだ」

 

 と、五つの影のうちの一つ、まるで戦国武将のような金色の派手な甲冑を纏い、巨大な槍を肩に担ぎ、頭部に紫色の派手な装飾を付けた仮面の女性は、同じく戦国武将のような口調でエクシアの隣に降り立った。この容姿……そしてエクシアからの「将軍」という呼び名……まさか!

 

「呂布……トールギス……?」

 

 間違いない、それはSDガンダム系列の三国伝シリーズに登場する、“呂布トールギス”だった。

 

「あんなものまで……人の姿になるっていうのか……!?」

 

 呂布トールギスの姿に驚いていると、さらに4つの影がエクシアと呂布トールギスの元に集まる。それらは一か所のとあるビルの屋上に集まり、上から俺達を見下ろす。

 

「全く、君達ときたら自重ってものを知らないんだから。せっかく僕らの同類と会えたんだからさ、まずは挨拶といこうじゃないのさ」

 

 と、短い緑色の髪の色をした、赤と白の装甲を纏った中性的な顔立ちの人物はエクシアの隣に降り立った。

 

「うっせェ、これが俺様流の挨拶の仕方だ、文句あっか?」

 

「きゃはははは♪ でもさぁ、二人ばっかずるいよぉ。私も遊びたかっのにな~」

 

 今度は濃い群青色のフリフリのいっぱいついたドレスのようなコスチュームで、茶色の短髪少女が、屋上の縁に足をパタパタさせながら腰かけて、エクシアらを見上げながら不満そうな声を漏らした。外見的には、俺が今まで見てきたどの人化ガンプラよりも一番幼いように見えた。

 

「し、しかし本当に自重すべきです! 仮に僕らのことを他の人に知られたら……」

 

「っせェなァ! そンときゃそンときだろうが! 優等生ちゃんは黙ってな!」

 

 今度は眼鏡をかけた頭の良さそうなトリコロールカラーの、比較的オーソドックスなガンダムタイプの……こちらは他とは違い、少年のようだが、その人化ガンプラがオドオドした様子でエクシアに反論するが、一括されてしまい、意気消沈する。

 

「あれは……リボーンズガンダムにキュベレイMK-Ⅱ……それにガンダムGP-03ステイメン……か?」

 

 俺はそれらの人化ガンプラ達の外見的な特徴を踏まえて、どの機体に相当するのかを呟いた。どれも俺の思った通りの機体とみてまず間違いないだろう。だが、俺は彼女らの中央に降り立つ人化ガンプラに目を奪われた。それは他の5人とはまた違う、優雅な雰囲気と異彩を放ち、それでいて威圧感を与える存在……。つまりは、こいつがこいつらの司令塔か。

 

「アストレア、この状況の説明を求めます」

「説明もなにも、奴らが仕掛けてきたから応戦した。それだけだ」

「本当ですか? 短気な貴女のことです、あの少年が手を出したのをきっかけに危害を加えたのではないのですか?」

 

 司令塔の女は俺に視線を送る。彼女の言うあの少年……というのはもちろん俺のことらしい。

 

「アストレア……だと?」

 

 俺はあの赤いエクシアが“アストレア”という名で呼ばれたことがまず気になった。“ガンダムアストレア”……機動戦士ガンダムOOの外伝作品である、「OOP」や「OOF」に登場する主人公機だ。だが今目の前にいるアストレアは俺が見間違うほどに、アストレアというよりかはエクシアに近い外観をしていた。確かにあいつのように、原作のアストレアも一部エクシアとパーツを共有し、赤い色の機体は存在するが、それはあそこまで忠実にガンダムエクシアの形状を再現しているわけじゃない。

 

「おうよ、せっかくだからゴミ共に自己紹介してやらァ。俺様の名は『ガンダムアストレア Type-E(エクシア)』。要はエクシアの形をしたアストレアだ」

 

 言われてみれば確かにエクシア……いや、アストレアの風貌には、スカートアーマーや胸部ダクト、頭部の形状といった一部分がエクシアとは異なり、アストレアのそれだということに、今初めて気がついた。

 そしてもう一人のリーダー格の人物……。

 全身真っ黒の装甲を纏い、その下のフレーム部分は金色に輝き、背中にはなにか大きな翼のようなものを背負っている。長くさらりとした金髪と、青い瞳。右手にはブリッツガンダムのトリケロスに似た装備……この風貌からしてまず間違いは無い。

 

「ではわたくしも皆さんにご挨拶させていただきます。わたくしの名は『ガンダムアストレイゴールドフレーム(アマツ)ミナ』と申します。長いので“ミナ”でも“(アマツ)ミナ”とでも、お好きにお呼びになって下さい」

 

 と、ゴールドフレーム……いや、天ミナは少しでも俺達の警戒心を解こうとしているのだろうか、優しそうな笑みをこぼしながら行儀の良い会釈をして自己紹介をした。

 

「お前達は一体……?」

 

 よろよろと俺は立ちあがり、天ミナを筆頭とする6人の人化ガンプラ達の前に対峙する。

 

「マスターまだ動かれては……! っ……!」

「俺は大丈夫だ、ファントム。今は自分の心配をしてくれ」

 

 俺は左目を手で押さえたままの状態のファントムを気遣い、彼女達を後方に下がらせた。このままじゃ互いに前面からの衝突になりかねない。ここは話し合いでなんとか決着をつけようと、俺は前に出た。その気配を察したのか、天ミナは上から降りて俺の前に立つ。

 

「アストレアが貴方とそちらの方にも危害を加えてしまったようで……謹んでお詫び申し上げます。お怪我の方は大丈夫ですか?」

 

 以外にも天ミナの口から出た言葉は、アストレアの失態の謝罪と、俺とファントムを心配する言葉だった。それを聞いていたアストレアは、ケッとふてくされた。

 

「俺の事はいい……それよりも、どういうつもりなんだ! こんな大人数であんな小さな子を追いかけ回したりして!」

「何か誤解なさっているようですが、あの娘はわたくし共のマスターの所有物です。ですから、わたくし共はその娘を連れ戻すようマスターから仰せつかってきただけです」

 

 と、天ミナは後ろの方でオトメに抱きかかえられている青い髪の少女を指さした。少女は尚も気絶したままで、意識は戻ってない様子だった。

 

「お前達のマスターっていうのは一体何者なんだ?」

「それはお答えできませんし、答える必要もありません」

「……余計な事は聞かずに、さっさとあの娘を返してほしいって言いたいわけだな?」

「えぇ、呑み込みが早くて助かります。元より貴方達には無関係のことです。この事に深く干渉したくないのであれば、大人しく彼女を引き渡していただきませんか?」

「そうか……」

 

 俺はここで一拍置いた。確かにあの子と俺達とは何の関係も無い。出会ったのだってついさっきだし、名前だって知らない……これはこいつらの問題……部外者が干渉することではないのかもしれない。

 だけど……俺の脳裏にはさっきからあの時の……アストレアに腕を掴まれ、俺に助けを求めるあの子の顔がずっと焼きついたままだ。このまま彼女を引き渡せば、一体何をされてしまうのか……。

 

「どうですか? 引き渡していただけますか?」

 

 しばらく無言で考え込んでいた為、天ミナが返事を催促をする。今更迷うことは何もない。俺は自分の気持ちに素直に言葉にし、その問いに答える。

 

「……断る」

 

「……は?」

 

 おそらくこの答えは天ミナも予想だにしていなかったようだ。先程の大人びた雰囲気はどこえやら、彼女の口から思わず間抜けな声が漏れた。

 

「断ると言ったんだ、お前達にあの子は渡さない」

「ご……ご自分が何を仰ってるのかわかってるのですか? 先ほども申した通り、あの子は貴方がたには何の関係も無い存在です。無暗に首を突っ込むことではないのですよ?」

「そんなことはわかってる。でもな、あの子は死にそうだった俺を助けてくれて、あの子も俺に助けを求めていた。俺はその恩義に報いる義務がある」

 

 俺はそこで後ろを見る。尚もあの子は気絶したままオトメの腕に抱かれている。やはり、あんなか弱そうな女の子を渡すわけにはいかない。オトメもトモヒロもタクオもキサラギも、そして人化ガンプラ達も俺と同じ思いらしく、一人も怪訝な顔をせずしっかりと俺の方を見据えている。俺のことを信頼してくれている証拠だ。

 心強い……ありがとうみんな!

 

「だから、渡さない」

 

 最後に、自分の強い意思表示を言葉にして天ミナに言い放つ。

 

「……そう、そうですか。なら……仕方ありませんね」

 

 一変、急に天ミナの俺に対する態度が冷たくなった。後ろに飛びのき、他5人の元に戻るとまたも高いところから俺達を見下ろす。

 

「できるだけ穏便に済ませたかったのですが、あくまで反抗的な姿勢をとるのであれば容赦はしません」

 

 そう言うと天ミナ、アストレア、呂布、リボーンズ、ステイメン、キュベレイはそれぞれ自分達が持つ武器を俺達の方に向ける。

 

「マスター、お下がりください。ここからは私達の役目です」

 

 そう言ってファントムは俺を後ろに下がらせる。そしてファントム、ギラーガ、ゴッド、ザクⅠ、サバーニャ、サザビーが前に出て武器を構えて対峙する。

 敵味方合わせれば総勢12人の人化ガンプラ。それがこの街で一斉に戦争を始めたら……どれほどの被害が出るのかはわからない。

 互いに武器を構えてはいるが、一向にどちらも仕掛けようとはしない。おそらく互いに相手の出方を伺っているんだろう。

 一色即発の緊張状態が続く……。

 だがその時だった、武器を構える天ミナの意識が不意に逸れたかと思うと、耳に手を当てて何か頷くようにして一言二言呟いたかと思うと、手にする武器を下ろした。

 

「……撤退です」

「はァ? なーに言ってやがンだ? これからゴミ共をブッ潰そうって時によォ」

「たった今マスターからの通信が入りました。この場は速やかに撤退せよ、と」

 

 天ミナのその言葉にあちら側の人化ガンプラ達に動揺が広がる。つまりは、こいつらのマスターが退けと指示を出したということなのか……?

 

「でも、あの娘はどうするのですか?」

 

 ステイメンは気絶しているあの白いワンピースの少女を指差す。

 

「現在のところ、放置しても構わないとのマスターからの通達です」

「え~なにそれ~? じゃあ僕達なんのためにここまで来たのさ?」

 

 リボーンズが不満そうな声をあげ、天ミナの方を見る。

 

「マスターにはマスターなりのお考えがあるのです。撤退しましょう」

「オイオイオイ~、ここまで来てそれはねェんじゃねェの? ミナちゃんよォ~?」

 

 尚もアストレアは不満な様子で、天ミナに反論する。

 

「不服ですか?」

「当然。目の前でゴミ共がアホ面下げて突っ立ってンだ。ちょいと掃除してからでも遅くはねェ筈だぜ?」

 

 その言葉を聞いて一気にファントム達の方にも戦闘意識が高まった。

 

「やりたいならやってやる! マスターを傷つけられ、こちらも黙って見逃すわけにはいかない!」

「上等ォ……」

 

 睨みあうファントムとアストレア……しかし、その緊張は天ミナの言葉によって遮られた。

 

「撤退……と私は言っているのですよ? アストレア」

 

 ガチャン……と不気味な駆動音を響かせて、天ミナの背部に装備されている巨大な楔形の翼……“マガノイクタチ”が、ちょうど間にアストレアを挟み込むように大きく前面に展開される。それを見てアストレアは顔を強張らせて、冷や汗をかく。

 

「私はこのまま貴女を骸の状態にしてマスターの元に運んでもいいのですよ?」

 

 天ミナの口調にも変化があった。先ほどまで俺と会話していた時のような清楚な雰囲気から一変し、その冷たい声色には非情さが込められ、禍々しく黒いオーラのようなものが全身から放たれているようにも見える。さらには金色の髪は逆立ち、彼女の青い瞳が赤く染まり、口の中からもちらりと牙のようなものが見えた。

 

「もうだけ一度言います……退きますよ? アストレア」

「……チッ、わーったよ」

 

 アストレアは渋々撤退命令を了承すると、目線をファントムから逸らした。それと同時に天ミナからの禍々しいオーラが止み、マガノイクタチは元のように背中に戻り、目も口も雰囲気も元に戻った。

 

「我が魂を震わせるその時が来るまでは真に力をぶつけ合うのはお預けか……それもよかろう」

「じゃ~ね~お姉ちゃんたち~♪ キャハハ♪」

「では皆さん、ごきげんよう」

 

 呂布トールギスとキュベレイも武器を下げる。天ミナが俺達に向かって一礼すると高く跳びあがり、マガノイクタチを開いてウイングとして活用し、空の彼方へと飛んでいく。他の連中も全員天ミナの後に続いて遥か空の彼方へと飛んでいった。

 

「命拾いしたなてめェら、今日のところは見逃してやらぁ」

 

 だが、他の者たちが飛び去っても尚、アストレアだけは未だ俺達の前に対峙したままだ。

 

「だが覚えておけ、人間なんかの為に戦ってるてめェらゴミ共なんぞに、俺様は絶対に負けねェ。そこの黒いの」

 

 右手のGNソードの切っ先でファントムを指さす。

 

「顔は覚えたからなァ、次に会った時は左目だけじゃ済まさねェぜ。てめェの主人と一緒にバラバラにしてやるぜェ……あげゃげゃげゃ!」

 

 最後にそう言い残し、アストレアは背中のGNドライブを起動させると、GN粒子を撒き散らしながら空の彼方に飛び去っていった。

 

「……」

 

 俺も含めて、何故かその場に居る皆は無言のままだった。しばしの沈黙の後、俺が気にかけるようにファントムの傍に近寄ると……無言だった原因がわかった。

 

 ファントムは、震えていた。

 

 口から漏れる呼吸音は乱れ、唇を噛みしめ、握った拳はわなわなと震えている。

 ファントムだけではない。ゴッドにサバーニャにザクⅠ……そしてあのギラーガまでもが同様の様子だ。皆あのアストレアの力を前にして震えているようだった。

 

「ファントム……」

 

 俺がファントムの肩を抱くと、一気に身体の力が抜けたように、ファントムが地面にへたれこんだ。

 

「何も……できなかった……」

「えっ……?」

「マスターが傷つけらたのに……私は……あいつの力に押し負けて…何もできなかった……」

 

 あの気の強いファントムが、口に出すほど己の無力さを嘆いている……それはきっと他の人化ガンプラ達も同じ気持ちなんだろう。

 あいつに……アストレア一人にこちらは圧倒されっぱなしだった。

 もしアストレアの仲間一人一人の能力がアストレアと同等かそれ以上だったら……あのまま戦っていたらどうなっていたか……。

 

「うっ……ううっ……!」

 

 ファントムの目から涙が零れ落ちた。それは左目の怪我から流れた血と混ざり合い、血の涙となって地面に落ちた。

 曇っていた空からまたぽつりぽつりと雨が降り始め、やがて土砂降りとなって俺達の背中を濡らす。

 ファントムの行き場の無い感情がそこで爆発し、雨が降る空に向かって啼く。

 彼女の叫びは激しい雷雨によってかき消され、俺とファントムの流した血と涙は、雨によって洗い流された……。

 

 

 

 

 

~オリジナル機体紹介~

 

ガンダムアストレアType-E

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【機体説明】

ガンダムアストレアとガンダムエクシアとのパーツの互換性を活かし、エクシアの余剰パーツで製造された第2世代ガンダムと第3世代ガンダムの中間機体。主に近接戦闘に特化した機体であり、右手にはエクシアと同型の巨大なGNソードと、左手にはプロトGNソードを備える。それらを駆使し、敵陣に切り込み一気に殲滅することを目的とされている。しかし、エクシアのようにGNシールドを装備していないため、防御面に関しては少々問題がある。『Type-E』の『E』とはパーツを共有しているエクシアを意味する。

 

【武装】

GNソード兼GNビームライフル

プロトGNソード

GNロングブレイド

GNショートブレイド

GNビームサーベル×2

GNビームダガー×2

GNバルカン×2

 

【ベースキット】

HGOO ガンダムアストレアType-F




というわけで今回で明確な“敵”が登場することとなりました。
アストレアは某あげゃげゃなガンダムマイスターや某レベル5のロリコンとか…まんまその人たちに影響受けて書いてますw
こういうわかりやすい悪人は書いてて楽しいですねw

そういえば挿絵機能が追加されたんですね。
これからは自作のガンプラも挿絵機能でちょくちょく投稿していきたいと思います。

次回は…ようやくこの小説の原作名にもなっている“アレ”をやろうかなーって思ってます。  
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