そんなとき、ソウシの元にアベからメールが届いた。
雨は今だにに降り続けている。
俺達はひとまず、気絶した少女と負傷したファントムを連れ、俺の家に集合することになった。あれから少女はずっと気絶したままで、とりあえず和室に布団を敷いてそこに寝かせることにした。
当の俺はというと、あの少女が治してくれた腕を何度も動かしたり触ったりしていた。本当に不思議だ、あんなに酷い怪我だったのに今はもう傷跡一つ見る影も無い。
だが、流れ出てしまった血液までは復元できないようなので、現在の俺は猛烈で貧血気味だった。
でもそんなことはどうでもいい。俺なんかよりも、心身共にもっと深い傷を負った者がいるのだから……。
―――――第11話:「NEXT STAGE」―――――
「ファントム……大丈夫か?」
「はい、痛みもだいぶ引いてきましたし」
人化ガンプラの身体能力は時たま目を見張るものがある。それは、今回のようにかなり大きな負傷をした場合だ。小さな傷ならすぐに、大きな傷でも人間よりもはるかに早く治癒が始まり、やがて完了する。そして今、ファントムはアストレアによって傷つけられた左目に包帯を巻いている。しかし、血はもう流れていないし、痛みも引いていると本人は言っている。しかし……。
「ファントム…もう一度左目を見せてくれないか?」
「……わかりました」
頭に巻いた包帯を解いていき、そこで露わになるファントムの閉じた左目……。俺達は思わず固唾を飲んでしまう。
「……見えないんだな」
「……はい」
ファントムの左目には、瞼の上から下にかけて、大きな傷跡が残っていた。その傷は眼球にまで届いているらしく、ファントムの左目は……もう見えなくなっていた。
俺のために戦い、顔にこんなに大きな傷を付けられ、片目も失ってしまった……とてもいたたまれない、嫌な気持ちでいっぱいだった。
「マスター、私から一つお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「この傷を……残してほしいのです」
「えっ……?」
人化ガンプラは人の姿からまたガンプラの状態に戻ることができる。いくら人よりも傷の治りが早いといっても、今回のように大きな傷は残ってしまうこともある。その時に傷をパテで埋めるなりパーツごと交換するなどすれば、人の姿になっても傷は痕にはならず、完全に消すことができる。それなのに……。
「これは私がマスターをお守りできなかったことへの自分への咎……ですから、その無念さを忘れないためにも、残させていただきたいのです」
「……わかった、お前がそうしたいならそうしよう」
「我儘を感謝します、マスター」
そう言ってファントムは黒い眼帯を左目に嵌める。オトメのコスプレ道具の一つではあるが、目の傷を隠すにはうってつけのアイテムだ。
黒い眼帯を嵌めたファントムは、以前よりも威圧感に満ちている。今回のことでファントム自身、より大きな覚悟と決意を持ったことだろう。その様子が今のファントムからひしひしと伝わってくる。俺にはそう感じた。
「……おいソウシ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇか?」
「なにがだ、トモヒロ?」
「とぼけんな! あの女の子はなんなんだ!? そしてあの子を追ってたあの連中も! それでどうしてお前やファントムちゃんがあんな大きな怪我をしなくちゃならねぇんだ!」
先ほどまで皆と同じく大人しくソファーに座っていたトモヒロが、静かな態度から一転して荒々しい口調と共に、我慢ならないといった感じで俺の胸倉を掴み上げて問い詰めてくる。
「待ってくれトモヒロ……! さっきあの天ミナが言ってただろ、俺は本当に無関係なんだ。あの子が逃げてきた場所に偶然俺がいたから、こういうことに巻き込まれちまっただけなんだよ」
「偶然って……じゃあそもそもあの子は何者なんだよ!?」
「そんなの俺が聞きてぇよ……うっ、頭が」
「わ、悪ぃ……」
貧血で立ちくらみしそうになった俺を、トモヒロは手を離してソファーに座らせる。
「……とにかく……今はあの連中に対してわかっている情報をまとめるのが得策……」
「ああそうだ……キサラギの言うとおりだ」
俺の位置から正面のソファーに座っているキサラギが呟いた。得た情報は少ないが、まずはあの連中のことを知るのが先決だ。
「……現時点でわかっているのは……彼女らは6人で行動しているということ。……見たところ、司令塔はガンダムアストレイ天ミナ。その仲間がリボーンズガンダム、キュベレイMK-Ⅱ、ガンダムGP03ステイメン、呂布トールギス、そして……アストレア」
キサラギは先ほどの襲撃者達の姿を思い出しながら、指折りメンバーを数えた。
「6人ってことは……ちょうどこっちと同じ数だね」
「あぁ、そういえばそうだな」
確かにオトメの言うとおり、連中のメンバー数はこちらの人化ガンプラの数と一致している。それが奴らの全てのメンバーなのか、はたまたそれ以上の人員がいるのかは不明だが。
「……二つ目は私達と同じくマスターがいること……」
「そのマスターっていうのは俺達のように1機につき一人いるのか、もしくは6機全員を一人が所有しているのかわからないが……多分俺は後者だと思う」
「何故そう思うのでござる?」
テーブルに出てるお菓子を頬張りながらタクオが聞いてきた。
「あいつらが撤退するとき、天ミナがマスターと思われる人物からの通信を受けて他の連中にその指示を伝えた。ということは、そのマスターがあいつら6人のマスターだと見てまず間違いないだろう」
「一人につき1機……とかじゃなかったんだね、人化ガンプラって」
考えてみれば、俺達はファントム達人化ガンプラのことをあまりにも何も知らなすぎている。ただガンプラを作ったら、いつの間にかそれが人間の姿で動き、話をしている。奇異以外の何物でもなかった。ただわかっているのが、そのどれもが作った者に仕えるという共通点を持っているのみ。それ以外では……ファントムやギラーガが言っていた通り、『戦う』ことだけ……。
「……三つ目はあの子を狙っているということ。そして四つ目は……」
「……私達の人化ガンプラの誰よりも強いということでしょう。少なくともアストレアは……。他の5人も能力的には同等かそれ以上とみて間違いないだろう」
キサラギの後にファントムが話を続ける。ファントムはその四つ目の理由を尚も心底悔しそうに語る。それを聞き、他の人化ガンプラ達も頷く。
「うん……確かに強かったですね、あの赤いの」
「同じガンプラでもここまで差が出てしまうとは……さすがのわしも肝を冷やしたぞ」
「ふん、下らん」
と、壁際で腕を組んで話を聞いていたギラーガが呟く。
「敵が強すぎるからなんだというのだ。我々は戦うために生を受けた。ならば、遅かれ早かれあの連中とはまたぶつかることになる」
「そうだぜ! 向かってくるとわかっているなら立ち向かうしかない! それがいつにしろ、それまでに俺達はもっと強くならなきゃならない!」
戦いに純粋な志を持つ者同士、ゴッドもまた、ギラーガの意見に同意したようだ。
そうだ……俺があの子を匿ってる限り、あいつらはきっとまたあの子を取り返しに襲撃してくるという可能性がある。それなのに俺は……そんな危険があることもよく考えず、お構いなしにあの子を「渡さない」と安易な事を言ってしまった。それに、さっきだって少し間違えていたら危なかった。ファントム達をが更に傷付くだけでなく、街の中で戦争が起こるところだったのだから……。
「みんな……ごめん。俺があの子を渡さないなんて、変に正義感ぶって言っちまったからこんなことに……」
「お気にする必要はありません、マスター。マスターのその優しさは、誰よりも私がよく知っています」
「そうだよ。それに、もしソウシ君が引き渡すって言っても、私達がそうさせなかったと思う」
「……それはここにいる全員が思っていること……貴方は責任を感じる必要はない」
と、ファントム、オトメ、キサラギの三人が俺をフォローしてくれた。トモヒロとタクオも無言で頷いてくれて、俺と同じ考えだったらしい。
「さて……で、これからどうするね」
俺達の話を終始無言聞いていたサザビーがようやく口を開けた。
「とりあえず……あの子の回復を待つ。意識が戻れば、いろいろ聞けると思うし」
「っていうか、あんたは一体何者でござる?」
ここにいる誰もがおそらく長い間疑問に思っていた質問を、タクオがサザビーに投げかけた。
「ん、私か? そうだな……通りすがりのガンプラだ、覚えておけ!」
どっかの世界の破壊者みたいなことを言って話をはぐらかした。
「助けてもらったことには礼をする。だけど、あんただってガンプラなら、あんたを作った主人がいるはずだろ? 誰なんだ」
「サボテンが花をつけている……」
「おい!」
部屋の窓際に飾ってあるサボテン(花は咲かない種類)をボーっと見つめながら、サザビーがクワトロ・バジーナの真似をしながらまた話をはぐらかそうとしたので、少し声を荒げる。
「冗談だ。だがしかし、その質問に答えることはできない」
「何故だ?」
「私のマスターの意向でな、素性を明かしたくないと言われている」
「素性不明の謎のマスターか……」
「なんかシュバルツ・ブルーダーみたいだな」
と、トモヒロが言った。シュバルツ・ブルーダーはGガンダムに登場するネオドイツ代表の謎の覆面ガンダムファイターの事だが、確かにそう言えば聞こえはいいが、結局のところは俺達の情報はサザビーを通じて彼女のマスターに筒抜けなわけなのに、あちらさんの情報はなにもわからないとなると……やはり油断はできない。
(フッ……決してそこまで格好の良いものではないがな)
………………
…………
……
その話はサザビーが人の姿になった時にまで遡る。
「話はわかったわ、貴女が私が作ったガンプラだってのは信じてあげる。でも、なんでったって貴女は私のところで人の姿になったの?」
これまでは物や脱ぎ散らかした服が散乱している居間だったが、サザビーが掃除してくれたおかげで綺麗になっている。その居間において、ユリはビールを片手にテーブルの向かい側に正座するサザビーの話を聞いていた。
「それは私自身わからないが、この街には私と同じ力を持つ者の存在を幾つか確認できる」
「……つまり、貴女みたいな元ガンプラがまだ何人かいるってわけね」
「その通りだ。そして近いうちに、その者達と接触してみようと思う」
「……待って。接触するのは別に構わないんだけど、私から一つお願いがあるの」
「なにかな?」
「そのガンプラの所有者が誰であれ、貴女の主人が私だっていうことは伏せておいてほしいの」
「ほう、過去のトラウマ故かな?」
「……知ってるの?」
「当然、貴女は私のマスターなのだからな」
………………
…………
……
「なんであれ……現時点で私達がやるべきことがはっきりしています。マスター」
と、ファントムは立ちあがると、とても真剣な目をして俺の方に向き直る。ただ事ではないその雰囲気に気圧されてしまい、こちらまで気持ちが硬くなる。
「な……なんだよ?」
「私を……強くして下さい!」
「えっ!?」
ファントムの口から突然出たその言葉に俺は戸惑う。
「私を……改造して下さい! そしてあのアストレアにも負けない力を私に……―!」
「ちょっ、ちょっと待て!」
突然そんなことを言われても困るので、俺はファントムを落ち着かせて話を聞くことにする。
「……なんでそんなことを思ったんだ?」
「マスターが負傷したのも、私がこんな様なのも……全ては私が量産型モデルで力量が彼奴等に劣るが故……ならば、彼奴等にも拮抗できる力を身につけられるよう、マスターによる改造を……!」
「馬鹿な事言うな!! ……っ!?」
「ソウシ君!」
俺が怒鳴ると、瞬時にファントムは黙った。つい熱くなって怒鳴り声が出てしまった俺は、貧血でまた倒れそうになってしまった。それをオトメが支え、俺は気持ちを落ち着かせてまたファントムの前に向き直る。
「ありがとうオトメ……。ファントム、いいか? 俺の話をよく聞いてくれ。俺はお前をなんのために作ったと思ってる? お前をあいつらと戦わせるためか?」
「い、いいえ……」
「お前が俺の事を大切に想ってくれているのは嬉しい。だけど、それと同じくらい自分のことを大事にしろ。量産型モデルが嫌だなんて……そんなのお前がお前自身を否定するようなものじゃないか」
「しかし……!」
ファントムは反論したそうだが、俺はあえて言葉を続ける。
「俺のことでお前が躍起になるのはわかるが、そのためにお前はちょっと頑張りすぎなんだよ。俺のことは自分でどうにでもできるし、お前は今のお前の力で頑張れることだけやればいいんだ。わかったな?」
「はい……申し訳ありませんでした」
「わかってくれればいいんだ」
話し終わると俺もファントムも一旦落ち着き、ソファーに座り直した。
「そう落ち込むなって、力が足りないなら体を鍛えればいい!」
「わしなんぞおぬしと同じ量産機でしかも旧型じゃぞ? 要は適材適所、量産型には量産型にしかできないことがある」
「はい……」
ゴッドとザクⅠがフォローするが、ファントムは空返事でそれに答えた。強い口調でああ言ったものの、確かにファントムの言いたいことも少しわかる気がした。
現時点では、新たに空を飛ぶ力を身につけたといっても、それだけであいつらに拮抗できるわけじゃない。カスタム機といっても、所詮は量産型のモデル……やはり元がガンダムタイプやワンオフ機モデルのあいつら相手じゃどうしようにも力量差に限界がある。それに、ギラーガだっていつかはファントムと決着を付けるとかなんとか言ってたし、このままだとファントムは……。
「ふん、小僧。お前は何もわかっていないようだな」
「なっ……!」
俺に突っかかってきたのはギラーガだった。
「前にも言った筈だ、我々は戦うためにこの世に生を受けたと。それは誰にも否定することのできない世の理なのだ。たとえ、我々の創造主であってもな」
「そんなの……お前が勝手にそう思ってるだけで本当は違うかもしれないじゃないか!」
「どうかな? 現に我々はこうして戦うことによって互いに引き寄せられている。お前は不思議の思ったことはないのか? なぜお前の周辺にだけ我々のような、ただのガンプラが生を受ける現象が多発しているのか……」
「なぜ……って」
言われて俺は言葉に詰まった。確かに、俺とファントムの出会いから始まって、ギラーガとの戦い。そしてオトメのサバーニャ、トモヒロのゴッド、タクオのザクⅠ、そして今日の事……。あまりにも不自然すぎる。何故俺達の周りにだけ人化したガンプラが集まってくるんだ……? まるで何かに引き寄せられるかのように……。
「じゃあお前は……何でこの現象が多発しているのか原因を知っているのか?」
「さぁな、だが私の本能が告げている。戦うことが我々に与えられた宿命だと」
ギラーガの話を皆が黙って聞いている。
「その我々の戦いを否定するお前の方こそ、我々の存在を否定しているのではないか?」
「それは……!」
「……そのへんにして」
俺とギラーガの間に割って入ったのは、意外にもキサラギだった。キサラギは今まで俺に見せたことがないような真剣な面持ちで、俺とギラーガの顔を交互に見合わせる。
「……今日は色々なことがあった……彼も今は休息が必要……今は皆でどうこう言っても仕方が無い……」
「そうだな、唯一事情を知ってそうなあの子は寝ちまってるし、今更じたばたしたって始まんねぇや。目が覚めたら知ってることを聞かせてもらおうぜ」
と、キサラギの後に続いてトモヒロもフォローする形で話に加わる。
「そういえばあの子、結局どうするの? まだ目が覚めないけど……ソウシ君のところに置いといていいのかな?」
「あぁ、目が覚めたら俺が事情を聞いておくよ。とにかくみんな、今日はありがとうな。みんなが来てくれなかったら、俺もファントムも……今頃どうなっていたか……」
「なーに水臭いこと言ってんだよ!」
ゴッドが立ちあがり、言った。
「俺達が互いに引き寄せられてるってんなら、当の俺達にもなにかしらの繋がりがある筈だろ? つまり俺達は仲間、仲間は助け合うもんだろが?」
「そうね、私達の内誰かがピンチになったら、別の誰かがそれを助けに行く」
「一人は皆のために、皆は一人のために、じゃな」
ゴッド、サバーニャ、ザクⅠは順にそんなことを口にした。仲間か……今までの日常の中でそんな言葉を口にしたことなど滅多にない。なんだか気恥ずかしいフレーズではあるが、確かに三人の言う通りだ。もし俺達の周りで何か特別な力が働いたっていうのなら、それはもしかしたら仲間の絆というものなのかもしれない。なら、一人で悩む必要はない。
「わかった。もしもまたあいつらが襲ってくるようなことがあれば、その時は頼らせてもらうよ」
「じゃ、なにかわかったら知らせてくれ」
「雨もあがったみたいでござるし、僕達もそろそろ帰るでござるよ」
「また明日学校でね、ソウシ君」
「……じゃ」
トモヒロ、タクオ、オトメ、キサラギの4人はそれぞれ自分のガンプラ達を連れて帰っていった。
「では私も、そろそろおいとまさせていただくとしよう。私もできうる限り君達の力になろう、なにかあったら私に相談するといい」
「今は信じさせてもらうよ、ありがとう」
味方は一人でも多いにこしたことはない。今はサザビーも信じることにし、俺達はまた戦いになることを予期し、それぞれその心構えをすることとなった。あいつらは強い……それに、あの子の正体も未だわからない……だけど、今の俺達ならなんとかできる。根拠なんかないけど、今はそう思い込む他なかった。
………………
…………
……
時を同じくして、某所ビルの一室。
窓は雨が打ちつけ、暗く広い部屋の一室に天ミナは目の前の主人に対して跪き、深々と頭を垂れる。
「申し訳ありませんでした、マスター。わたくしどもがもう少し早く目標を確保していればこのようなことには……アストレア! 貴女もマスターに対して申し開きがあるでしょうに!」
「チッ、うるせーよ!」
「まぁまぁ、いいさ。彼らの元にいた方が彼女の“目覚め”も早まるだろうし」
彼女らの目の前に、大きな業務用デスクに肘をつき、スーツ姿のその男は独り言のように呟いた。
「それにしてもさぁ、結局なんなのあの子? ご主人様があんな娘を持ってるなんて、私達知らなかったんだけど~?」
キュベレイが来客用のソファーに腰かけ、棒付きキャンディを舐めながら足をぱたぱたとさせながら男に訊いた。
「う~ん、そうだね……それはまだ君達に明かすことはできないけれど……しいて言うなら彼女は“神”にも“悪魔”にもなれる力の持ち主だよ」
「神にも……」
「悪魔にも……ねぇ。面白そうじゃない♪」
来客用テーブルで将棋を指していた呂布とリボーンズが、男の言葉を聞いて呟いた。
「しかし、そこまで強大な力の持ち主なら、やはり僕達が……!」
「いいんだよステイメン、今は彼らに任せてあげようじゃないか。え~っと……なんと言ったっけ?」
「はい?」
「彼女をアストレアの猛攻から阻止して、君達に彼女を渡さないと言った人物は」
「確か……周りの人間が“ソウシ”と呼んでいましたが」
「ソウシ君……か。ふふっ、会うのが楽しみだ……」
彼の視線は、目の前の天ミナから離れ、雨が打ち付けるビルの窓に向いていた。
……
…………
………………
翌日、俺は何事も無かったかのように学校に行った。昨日はあれからあの少女の容体を見ていたが、一日経った朝も全く目を覚ます気配がなかった。目が覚めたらなんとしても事情を聞きだしたいところだが、平日に学校を休むわけにはいかない。少女のことは一旦ファントムに任せて、俺は学校へと行っていた。幸い右腕の調子もすっかり元の調子に戻っており、学校生活に何ら支障は無かった。そして無事に一日の授業も終わり、今日は皆とは一緒には帰らず、自分だけ早くに家に帰って来ていた。もしかしたらあの子が目覚めているかもしれない……そう思うと早く帰らずにはいられなかった。
「ただいま!」
少々息を荒げながら玄関のドアを開けると、ファントムが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ファントム、あの子の様子はどうだ?」
ファントムは表情を曇らせながら、首を横に振った。
「……残念ながらまだ目覚めてはおりません。ただ、時折何かにうなされていいるかのようにうなり声をあげたり、うわごとのようにぶつぶつと呟いているのが気になりますが……」
「そうか……きっとあの時のせいで怖い夢を見ているんだな、かわいそうに……。早く目が覚めればいいんだが……」
「夢を見ている時、人の眠りは浅い状態であるそうです。だとするなら、近いうちに必ず目を覚ます筈です。今はその時まで、静かに待ちましょう」
「そうするしかないか……」
俺は二階の部屋にあがる前に、チラッと彼女が寝ている和室の方を見た。穏やかな表情で寝息をたてて眠っている。今はファントムの言ったようにうなされてはいる様子はないが、またしばらくすれば夢にうなされるかもしれない。その恐怖から救ってあげたいし、且つあいつらの事を知るためにも、なるべく早く目を覚ましてほしいものだが……。
と、その時、俺のポケットに入ってる携帯に着信が入り、バイブ機能で震えだす。
「ん、メールか。誰からだ? ……アベさんから?」
携帯を開き、メールの送信者を見てみる。ホビーショップ“ブルーコスモス”のオーナー、アベさんからだった。
「なになに? 『見せたい物があるからガンプラを持って店に来てくれ』……だって」
「見せたい物? なんでしょう?」
「さぁ……もしかしたら、今度はアベさんのところでガンプラがまた人化したのかも……」
もうここまで来たら、俺の知り合い全員が人化したガンプラを持っていたとしてもおかしくはない。もしそうだとしたら……こっちもただのガンプラを持っていくわけにはいかないだろう。
「ファントム、悪いが一緒に来てくれないか?」
「私は構いませんが、それではあの子が……」
「あ……」
そうだった……今ここでファントムを連れて家を留守にしてしまったら、あの子の様子を見る者がいなくなってしまう。昨日の今日だ、もしかしたら俺達がいない間にまたあいつらが襲ってくるかもしれないし、目が覚めて周りに誰もいなかったらあの子も不安に思うだろう。
「どうしようか……」
「お困りのようだな」
不意に第三者の声が聞こえた。声のした居間の方を見ると、いつの間にやらあのサザビーがソファーに座ってくつろいでいた。
「あ、あんた! どっから……―!」
「窓の鍵が開いていたのでね、お邪魔させてもらっているよ。それよりも、あの子のことなら私が見ておくので、君達は行ってきたらどうだね?」
「あんたが様子を見ておいてくれるっていうのか……?」
「あぁ、これから君達が家にいない間は私があの子を見守ろう」
ときたもんだ。どうする……? この人は俺達に協力してもらっている身だが、まだその素性は知れない。安易に信用するべきじゃないのかもしれないが……。
……いや、この人もあいつらと戦ってファントムを助けてくれたじゃないか。それだけで信用に足る人物だというのは明らかだ。
「……わかった、頼む」
「そうこなくてはな。まぁこちらのことは心配せずに行ってきたまえ」
サザビーは立ちあがり、あの娘が寝ている和室へと入って行った。
「というわけでファントム、よろしく頼む」
「わかりました、少々お待ち下さい」
そう言うと、ファントムの体を光が覆い、激しく輝き出す。一瞬の後、光が止むとファントムの姿は普通の1/144サイズのガンプラへと戻った。
「もしかしたらまたいつものようなことになるかもしれない。店に着いてもしばらくそのままの姿でじっとしていてくれ」
『わかりました』
普通のガンプラとなったファントムを持ち上げると、その手を通じてファントムの声が頭の中に聞こえた。俺はファントムを学校の鞄の中へと入れ、アベさんのショップへと向かった。
………………
…………
……
「オッス、ソウシ」
「ソウシ殿も呼ばれたのでござるか?」
「あれ? お前ら」
アベさんのショップ、“ブルーコスモス”に向かうと、そこにはトモヒロ、タクオ、オトメの三人が集まっていた。
「お前らもアベさんに呼ばれたのか?」
「うん、ガンプラも持ってこいって言われたから、ほら」
そう言って三人はそれぞれの鞄の中からガンダムサバーニャ、ゴッドガンダム、ザクⅠのガンプラを取り出す。
「俺と同じか。しかしなんなんだろうな? 急にガンプラを持ってこいなんて……」
「もしかして……また人化ガンプラが現れたのかな?」
「さぁな。とにかく、店ん中に入って見ればわかるだろ」
兎にも角にも、まずは店の中に入ってアベさんの話を聞いてみることにした。
………………
…………
……
「アベさーん、来ましたよー」
「おぉ! 来たか4人とも」
アベさんはいつも通り、店のレジ前に立っていた。俺達が来たことに気が付くと、レジから離れ俺達の方に歩み寄る。
「どうしたんですか? 急に俺達を呼んだりして」
「ふっふっふっ……実はな、ついに我が店にも“アレ”を導入することになったのだ!」
「アレ? 新しいガンプラかなにかですか?」
「いや、違う! もっといいものだ! まぁ見てもらった方が早いな。みんな、二階に行こう」
俺達はアベさんの後に続いて、店内の端にある階段から二階に登った。
………………
…………
……
「このお店、二階なんてあったんだねぇ」
階段を登る途中、オトメが呟いた。かくいう俺も、この店の常連だったのだが、二階の存在など全く意識したことがなかった。薄暗い階段を登って行くと、少し開けた場所に出た。
そこには、大きな球状のポットがいくつも並び、壁際のモニターには、ゲームの戦闘画面だろうか……モビルスーツのコクピットからの視点の映像が映し出されていた。
「これって……まさか!」
「あの……噂の……アレでござるか!?」
それを見た俺とタクオが若干興奮気味になり、アベさんがしたり顔でこう言った。
「そう。聞いて驚け! 脱サラした俺が、子供のころから憧れだった模型店をこの地に設けて苦節15年! もう一つの夢が叶うことになった! そう! ついに我が店にも、この“ガンプラバトルシステム”が設置されることになったのだ!!」
「うおおおー!!」
俺とタクオは喜びのあまり、二人して声をあげてしまう。ついに……ついに俺達の町でもガンプラバトルができる……! それを聞かされれば、興奮するなという方が無理な話だった。
「なぁ二人とも、盛り上がってるところ悪いんだけどよぉ……」
「ガンプラバトルって……なに?」
小躍りして喜ぶ俺とタクオとは対照的に、まだガンプラにあまり詳しくないトモヒロとオトメはガンプラバトルが何なのかわからず、頭の上に「?」が浮かんでる表情だ。
「俺が説明しよう。ガンプラバトルってのはな、自分が作ったガンプラをこのガンプラスキャナーの中に入れ、そのデータをスキャンすることにより、ゲームの中で実際に自分のガンプラに乗り、操縦し、他のガンプラと戦うことができるのだ!」
「えっ……なにそれめっちゃすごくね!?」
「そんな夢みたいなゲームがあったんですか!?」
「すでにいくつかのホビーショップでは絶賛稼働中だ。ウチは少々遅れてしまったが、来週から本格的に一般客にも開放するぞ」
「来週かぁ……待ちきれないなぁ」
壁に設置されているモニターを見上げ、俺は呟いた。モニターには、プロモーション映像だろうか、多種多様なガンプラが様々なステージで戦いを繰り広げていた。このガンプラバトルは、ガンプラを作る者であれば誰だって憧れる、まさに夢のマシンだ。それがこんな近所で、ファントムに乗り、アニメのモビルスーツパイロットさながらに戦場を駆り、他のガンプラと戦う……これほど楽しみなことはなかった。
「さて諸君、今日俺が君達を呼んだのは他でもない」
物思いにふけっていると、またアベさんが話を切り出した。
「呼んだのって……このガンプラバトルを見せたかったからじゃないのでござるか?」
「おいおい、それじゃ俺がただ単に自慢するためだけに呼んだみたいじゃないか、違うよ。実はな、このマシンまだ細かい調整が終わったばかりで一般客に開放する前にテストをしなきゃならないんだ」
「テスト……? それって……!」
俺がまさかという顔をすると、またもアベさんはしたり顔をしてこう呟いた。
「そう、試運転。よかったら君達、テストも兼ねてガンプラバトルやらないか?」
-続く-
今回はバトル無しで敵のことをいろいろと探る回となりました。
こういう味方勢が敵側のことを少ない情報でいろいろと模索する展開って僕好きですw
さて、ようやくこの小説の原作と噛み合う展開になってまいりました!
次回は言わずもがなガンプラバトル回、お楽しみに!