持ち前のガンプラを操り、いざガンプラバトルのフィールドに降り立った。
しかし、その場所とは……!?
「が、ガンプラ……バトルを……?」
「そっ、やらないか?」
アベさんからの突然の提案。全くの予想外だったその提案に思わず戸惑ってしまったが、もちろん断る理由などありはしない。
「や、やるやる! もちろんやります!」
「ぼ、僕もやりたいでござる!」
「面白そうだし、私もやりたーい!」
「俺のゴッドガンダムも……!」
当然俺以外のみんなも、この申し出を断る理由もなく、全員が全員参加を希望した。だが、トモヒロの後、アベさんは少し渋い顔をする。
「あー、ゴッドガンダムかぁ……。ごめんな、ウチじゃまだモビルファイター用のGポッドを導入してないんだ」
「え……じゃあ俺のゴッドガンダムは……?」
「またの機会にってことで……ごめんな。しばらくしたら、MF用のも導入される予定だからさ」
自分の機体が使えないことにトモヒロは少し落ち込み、その横でオトメが「まぁまぁ」と肩を叩いて励ます。まぁ仕方ないよな。トモヒロには悪いが、ここは俺達で楽しませてもらうとしよう。
「ってことは、参加者はソウシ君、タクオ君、オトメちゃんの3人だな」
「いやー、それにしてもアベさんのとこでガンプラバトルできる最初の客が俺らなんて…光栄ですよ!」
「あー……すまん、実は君らが最初ではないんだ」
「え?」
その時だった。奥のGポッドから『出撃中』のランプが消え、ハッチが開いた。その中から、ガンプラバトル用のパイロットスーツとヘルメットを着けた人物が降りてきた。顔はヘルメットのせいで見えない……誰だろう?
「……ふぅ」
「キサラギ!?」
ヘルメットを脱ぎ、俺達の前に顔を見せたその人物は、あのキサラギ・レイナだった。
「どこで知った情報なんだか、どうやら今日この店にGポッドが設置されることを前もって知ってたみたいでな、俺が君達に連絡するよりも早くにレイナちゃんは店に来たんだよ」
だから学校出るとき、キサラギはすでにいなかったんだな。だがさすがはキサラギ……俺達ですら知らなかったことを事前に知っていたとは恐れ入る。
「……公式ホームページで……ガンプラバトル導入店を調べたら……この店の名前があったから来てみただけ」
「で、どうだったんだ、キサラギ?」
この際最初に乗れなかったとか、そんな小さいことはどうでもいい。ガンプラバトルを実際にやってみての率直な感想が聞きたい。それをキサラギに聞いてみた。
「……最高」
その顔はいつも通り無表情だ。しかし、キサラギは今まで俺が見たこともないようなキサキラした瞳でそう答えた。それだけで、このバトルシステムがどれほどのクオリティなのかが見てとれた。
「彼女には機体のモーションチェックを頼んでいたんだ。本格的なガンプラバトルをする前に、機体の動きにバグがあったりしないかってことをな」
「ってことはキサラギもまだ本格的なガンプラバトルはしてないってことか。俺らと一緒にやらないか?」
「……いい、私は今十分に堪能した……連続でGポッドを占領するのは……ちょっとズルい」
「そっか、それもそうだな。じゃあアベさん! 早速バトルやらせてくれ!」
「まぁまぁそう焦るな。まずはガンプラバトル用のパイロットスーツに着替えてくるんだ。奥のロッカー室に貸し出しのスーツがあるから、好きなのを着るといい」
「ありがとうございます!」
―――――第12話:「オーバーワールド」―――――
「へ~、いろいろあるんだなぁ」
ロッカールームに行くと、客のサイズに合わせてか様々な大きさ、そして様々なデザインのパイロットスーツがあった。これだけ種類があれば、細身の俺だけでなく、太身のタクオであっても着れるサイズがあるだろう。
「なんか緊張してきたでござるなぁ……」
「そうか? むしろ俺は楽しみで仕方がないけどな」
パイロットスーツに着替え終えると、互いに向き合って格好を見る。
「似合ってるでござるぞ、ソウシ殿」
「お前もな」
俺は紺色のラインが入ったパイロットスーツに、トモヒロは紫色のスーツを着て外に出る。
「お! 二人とも雰囲気でてるね~♪」
ロッカールームを出ると、ピンクのパイロットスーツを着たオトメが立っていた。
「三人とも着替えたか? なら早速やるとしよう」
「あれ? アベさん、その格好は……?」
三人と共に先ほどの場所に戻ると、アベさんが待っていた。が、何故かいつもの格好ではなく、俺達と同じくパイロットスーツを着ていた。
「決まっているだろう、俺が君達の相手をするんだ」
「えー!?」
突然のことに俺達三人は声を揃えて驚いてしまう。
「俺と、それから店のバイト二人と合わせてチームを組み、君達3人は同じチームを組んで俺達のチームと戦うんだ」
「不安っスよ……アベさんに勝てるかどうか……」
「店長さんなんだから、私達みたいにガンプラバトルは初めてってわけじゃないんでしょ……?」
「大丈夫だって、安心しろよ。確かに俺もガンプラバトルは初めてじゃないが、それなりに手は抜いてやるつもりだからさ」
そう言ってアベさんと、アルバイトの大学生二人は俺たちとの向かい側にある列のGポッド三つに入っていった。
「……あなた達も準備をして」
「お、おう……でも俺達、まだ操縦の仕方とかわからないんだけど……」
「……なら、私が教えてあげる……まずはGポッドに入って」
キサラギに言われるがままに、俺達3人はそれぞれGポッドの中に入り、シートに座る。すると、俺のGポッドにキサラギが入り込み、俺に指示をくれる。
「……まずはお金を入れて、IDカードをカードスロットに入れる。……次にポッド内に通信用のイヤホンジャックがあるから、それをヘルメットに繋いで……」
「ああ」
言われるままにポッドの後ろのアンプから伸びているコードをヘルメットの横に挿す。
「二人とも、聞こえるか?」
『聞こえるでござるぞ~』
『私の方もオッケーだよ』
ヘルメットの中に二人の声が聞こえる。通信状態は良好のようだ。
「……通信を通じて二人にもガンプラバトルの始め方を教える……まずは目の前の“Gスキャナー”にガンプラを入れて……」
「Gスキャナー?」
「……そこに設置してあるハロのこと」
確かにシートの目の前にはハロの形をした球状の機械が置いてある。それを開き、内部にファントムを入れる。すると、ハロの目が光り、ガンプラのスキャンが始まる。
「頼むぞ、ファントム」
『はい。共に戦いましょう、マスター』
ファントムの声も通信を通じて俺のヘルメット内部に声が聞こえる。どうやらガンプラバトルの際には、人化ガンプラ達の声は通信機器を通じて聞こえるらしい。なんとも便利なことだ。
「……ガンプラをスキャンしている間に、操作方法について教える……まずは足元のペダルで前進、手元のレバーで方向転換と攻撃……」
「おう。っ……!?」
俺に操作について教えるキサラギだが、身を乗り出して目の前のコンソールやレバーを指していろいろ教えてくれるため、パイロットスーツによってピッチリとした体形が俺の目の前に迫る。
キサラギのやつ……背が低いから幼児っぽい体格なのかと思ってたけど、こうして見ると結構スタイルいいな……って! お、俺は何を考えてるんだ!?
「……このトリガーで攻撃……聞いてる?」
「あっ……!? あ、あぁ! 聞いてる聞いてる!」
ほんとは半分以上頭の中に入ってなかったけど……まぁやってるうちにわかるだろ。
「……じゃ、私は外のモニターで戦闘状況を見ている……戦果を期待してる」
「おう、サンキューな」
キサラギなりの励ましの言葉なのだろうか。キサラギはGポッドから出ると、ハッチが閉まる。いよいよガンプラバトル開始だ。
「戦闘エリアは……へぇ~、サイド7にオデッサ、ヤキン・ドゥーエ宙域やメメントモリなんてのもあるのか。おぉ!? 静岡市内や東京都内もフィールドに選択できるのか!」
コンソールを操作しながら、目の前の球状のスクリーンには、歴代ガンダム作品に登場した様々な戦場が映し出される。バトルの舞台となるステージは選択式で、ガンダムの世界で登場した数多の戦場から現実の世界での主要都市など、バトルのステージは様々だった。
『ソウシ君、聞こえるかい?』
「あっ、はい! 聞こえます」
ヘルメット内にアベさんからの通信が入る。
『いろいろ戦ってみたいステージはあるだろうが、今回は俺に選択させてくれないか? イチオシのステージがあるんだ』
「アベさんの……? それはまぁ構いませんけど。いいよな、みんな?」
『モチロンでござる!』
『私もいいよ~』
『よーし、それじゃ戦闘エリアを選択して……っと。さぁ、バトル開始だ!』
アベさんからの通信が切れると、Gポッドのモニターに映像が映し出される。これは……戦艦のモビルスーツデッキの中か? 出口と思われるハッチが徐々に開いていく。
「出撃シーンの再現か。よーし……ザクファントムカスタム、キモト・ソウシ、行きまーす!!」
アニメのパイロットよろしくお決まりのセリフをポッド内で叫ぶと、手元のレバーを手前に引く。すると、カタパルトに乗せられた俺の機体は急加速し、ハッチの外へと飛び立つ。
………………
…………
……
「よぉ、何見てんだ?」
一人でモニターをじっと見つめるキサラギを、トモヒロが後ろから声をかけた。
「……ガンプラ一つ一つの評価を確認しているところ……」
「評価?」
トモヒロもモニターを見ると、そこにはソウシ達の乗るガンプラの完成度がグラフ化されて画面上に映し出されている。
「なるほど、ガンプラとしての完成度が高けりゃそれほど強いってことか。で、ソウシ達はどうなんだ?」
「……あのザクファントムは所々改造されてはいるが、特別な塗装や加工等が施されているわけではない……サバーニャはライフルビット10門全て可動式になっているが、本体はほぼ素組み……その2機は良くも悪くも普通……この中で一番評価が高いのはザクⅠ……ウェザリングが施され、ガンプラとしての完成度は一番高い……でもザクⅠという機体自体が特別強力なわけではないから……やっぱり普通……」
「普通ねぇ……でも結局は、操縦する奴の腕次第だろ?」
「……そう……一番の問題はアベ店長のチーム……手を抜くと言っていたが……このステージは……」
………………
…………
……
「す……すげぇ……! あの急加速……まるで本物みたいじゃないか……!」
発進時に身に受けるGに思わず感心しながら、改めてモニター内を見回す。アベさんが選んだぐらいだから、どれだけ特別なステージかと思っていたが……。
「えっ……? こ、これって……!」
「お~い、ソウシく~ん」
「ソウシ殿~!」
スクランダーウィザードで空中を飛行していると、背後からガンダムサバーニャとド・ダイに乗ったザクⅠが合流した。
「二人とも来たか」
「すっごいねこのゲーム! ほんとに空飛んでるみたい!」
「僕なんて発進の時に意識失いかけたでござる!」
「堪能してるようで結構。でも……このステージ見てみろよ」
サバーニャ、ザクⅠと共に編隊を組みながらステージ内を飛び回る。今俺達がいるステージは、漆黒の宇宙でも、円筒状のコロニー内でも、ビルが並ぶ市街地でも、まっさらな砂漠でもない。
「これって……もしかして」
「店の中……でござるか?」
「あぁ……しかもこの棚の配置、アベさんの店の中だ……!」
そう、これはまさしく、俺達がいつも通ってる、そして今まさに俺達がいるアベさんの模型店の中だった! その商品が並ぶ陳列棚を、俺達は実際のガンプラとほぼ同じ大きさとして飛び回っている。見る物全てが巨大に見えて、なんだか違和感がする。
「私たち自身がガンプラになってるってことなんだねぇ」
「あぁ。……ん? 何か来るぞ!」
と、その時だった。突如警報音が鳴り、光が俺達に向かって伸びてくる。
「危ないっ!」
とっさにその光をかわす。光の正体は一発の砲弾だった。砲弾は俺達の機体を掠めると、背後のMG展示用のケースに命中した。
「どうだい、驚いただろ」
砲弾が撃たれた方を確認すると、そこはいつもアベさんがいるレジのあるカウンターの方だった。そのカウンターの上に、3機のモビルスーツが立っている。
一機は黒光りする機体色に、細身の四肢……『機動戦士ガンダムOO』に登場するユニオン軍のモビルスーツ、“オーバーフラッグ”だ。もう一機は少し大型で、緑の機体色にモノアイの光る機体……『機動戦士ガンダムUC』に登場するネオ・ジオンの袖付き仕様のモビルスーツ、“ギラ・ズール”だ。
そしてその中央に立つのが、煙のあがるジャイアントバズを構えた群青色のガンプラ……『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場するジオンのエースパイロット用のモビルスーツ、“グフカスタム”だ。ただし、普通のグフカスタムとは違い、ガトリングシールドは外され、両腰にヒートサーベルを2本差している。さらに色も水色ではなく、元のグフと同じく濃い群青色になっている。
「アベさん……? そのグフはアベさんの機体ですか?」
「おうよ、我が愛機、名付けて『グフ・ツインブレイカー』だ!」
と、アベさんのグフはバズーカを下ろすと堂々たるその姿を俺たちの元に晒す。随所にオリジナルの改造が施され、まさにアベさん専用機といった印象だ。
「このステージはな、ガンプラバトルシステムの開発会社からぜひ一般店舗や家屋の内部を再現したステージを作りたいと以来されて、そのモニターとして俺の店が選ばれたってわけさ」
「つまり……俺達はこのステージだと実際のガンプラのサイズで戦うってことですか!?」
「まぁそういうことだな。ちなみに、俺の店の他にもデパートの食品売り場、学校の教室、ゲームセンター、一般家庭の子供部屋なんかのステージも現在開発中らしいぞ」
と、アベさん……もといアベさんのグフが動きを合わせて教えてくれた。全く、ここまでするとは……ガンプラバトルってのはもうなんでもありだな。
「さぁて、お喋りはこれくらいにしよう。さっきのはほんの挨拶だ、次は当てるから覚悟しろよ!」
あらためてアベさんのグフがバズーカの照準をこちらに合わせ、発砲する。俺達はすぐさま散開し、左右に分かれたオトメのサバーニャとタクオのザクⅠをフラッグとギラ・ズールが追う。
「俺の相手はアベさんってわけか……なら!」
アベさんの機体がグフカスタムの改造機ということは、飛行能力は持っていない筈だ。自立飛行ができる俺には圧倒的なアドバンテージがある。カウンターテーブル周辺を旋回しながら、俺はヴフに向けてビームライフルを撃つ。
アベさんのグフは俺のビームを走りながら避け、レジの陰に隠れる。そこからバズーカを露出させ、俺を狙う。
「くっ、あんなところに隠れられちゃ当てられない!」
『マスター、ここは相手の弱点を狙いましょう』
「弱点?」
『バズーカというのは、威力は大きいですが、撃つためには反動を逃がすために姿勢を静止させる必要があります。つまり……』
「……なるほど、今アベさんはあそこから逃げられない! なら!」
そこに目を付けた俺は、アベさんからのバズーカの攻撃を避けるとスクランダーウィザードのファイアビーミサイルのハッチを開く。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
ミサイルの照準をレジに合わせ、トリガーを引く。28発のファイアビーミサイルは尾を引きながらアベさんのグフが隠れるレジに全て着弾し、カウンターごとその場所を吹き飛ばす。
「やったか!?」
濛々と煙があがる中、グフの姿を確認する。アベさん相手に手加減はいらないと思い、全てのミサイルを使ってしまった。あれだけのミサイルをマトモに受ければ、おそらく無事では済まない筈だが……。
「……なにっ!?」
だが、ミサイルの着弾地点には黒く焦げ、残骸と化したレジがあるだけでグフの残骸はどこにもなかった。逃げられたか……と、カウンターの裏側に回り込む。
『マスター!』
「っ……!?」
その時だった、突然コクピット内に警告音と、それと同時にファントムの声もヘルメットの中で反響する。次の瞬間、大きな爆発音と共に機体が大きく揺れ、高度がどんどん下がっていく。どうやらバズーカからの砲撃を喰らってしまったらしい。主翼を撃ち抜かれ、俺は地面に落ちる。落ちる最中、バズーカが発射された地点をモニターで確認すると、そこにはアベさんのグフがカウンター台にヒートワイヤーをひっかけ、宙吊り状態のままで左手でバズーカを構えているのが確認できた。
なるほど……俺がミサイルを撃つということを読んでカウンターの上から飛び降りてミサイルのシャワーを避けたってわけか……。しかも宙吊りの状態で利き手じゃない左手でバズーカを撃つなんて……さっき「手加減する」なんて言っていたけど……この分じゃ手加減なんてしてないんじゃないか……?
「スクランダーウィザードの左翼に被弾か……ミサイルも撃ち尽くしちまったし、このウィザードはもう使えないな」
地面に降り立ち、機体を持ち上げウィザードの状態を確認すると、俺は背中のスクランダーウィザードをパージし、周囲を見回す。普段俺達が通っているアベさんの店……その店にまるで迷い込んだネズミのような視点となり、商品の陳列棚を見上げながらアベさんからの襲撃を警戒しながら一歩ずつ前進する。
「これで戦う条件は互いに同じ……いや、この店のことを誰よりも知ってるのはアベさんだから、アベさんチームが圧倒的に有利か」
陳列棚を背に、通路の前方を確認しながらアベさんのグフを探して進んでいく。どこから攻撃されてもおかしくないこの緊迫した状況……本物の戦場さながらだ。
俺がこんな調子なのに、果たしてあの二人はちゃんと戦えているのだろうか……?
………………
…………
……
「くっ……このっ!」
飛行形態で高速で移動する黒いフラッグ。それに対し、オトメのサバーニャが両手に構えたGNライフルビットで追撃する。が、目標の移動速度が速すぎるのか、一発たりとも当たることがない。
「んも~! なんで当たらないの!? このっこのっ!」
『お嬢様、落ち着いて! 闇雲に撃っても当たりませんから、よーく狙って攻撃を……―!』
「え~い、もうめんどくさいやっ!」
サバーニャからの助言も耳に入らないまま、オトメは両脇のホルスタービットからライフルビットをすべて放出する。それらを前方に全て展開し、照準を前方指定で撃ちまくりながらフラッグを追う。が、やはりフラッグには掠りもしない。
「こんだけ撃ってるんだから、一発くらい当たってよ~!」
と、今度は胸部と脚部のミサイルハッチも展開し、GNミサイルも撃ちまくる。追われているフラッグは、オトメよりかはガンプラバトルの心得がある者が操縦しているといっても、このあまりにも無茶苦茶な照準で、しかも濃すぎる弾幕の中を避けながら飛行するのも至難の業であり、徐々に回避運動が遅くなっていく。
その時だった。下手な鉄砲数撃ちゃなんとやらで、オーバーフラッグの主翼先端部にビームが擦れる。僅かにバランスを崩したフラッグは、速度が落ちる。
「あ、やった! 当たったよサバにゃ~ん♪」
『お、おめでとうございますお嬢様!』
なんだかんだ言いつつもオトメが初めて当てた攻撃にサバーニャも素直に喜ぶ。しかしそれもつかの間、フラッグの方も今の攻撃で本気になったらしく、機首を上げ、そのまま上空で大きな円を描くように飛ぶ。その円の頂点付近で急に失速したかと思うと、変形しながらあっという間にサバーニャの背後に付き、専用リニアライフルを構える。
「えっ! ま、まだこんなに動けるの!?」
『お嬢様、シールドビットを!』
「ど、どれどれ!?」
慌ててコンソールを操作しシールドビットを展開しようとするが、まだ操作に慣れないオトメはビットのアイコンを見つけ出すことができない。そうこうしているうちに、フラッグのライフルから放たれた弾は見事にサバーニャの背部ジェネレーターを直撃し、そのまま両脚部から放たれた二発のミサイルにより、ガンダムサバーニャは爆炎に包まれる。
「きゃあああああっ!!」
………………
…………
……
―オーバーフラッグに撃墜されました―
「あ~あ……やられちゃったぁ……」
モニターにリザルト画面が表示され、オトメは大きなため息をつく。そのままGポッドから出ると、モニターを見ているレイナとトモヒロの元に歩み寄る。
「よっ、派手にやられたな」
「うぅ~……で、でも一発当てたもん!」
「……筋は悪くなかった……一見無駄に見えるばら撒く攻撃……あれで敵の逃げ場を無くし、動きを止めることができていた……」
と、レイナはオトメの戦法を冷静に分析した。
「ほんと? ほらほら! やっぱり無駄じゃなかったんだよ♪」
「……でも照準をもっと絞っていれば、正確な射撃も出来た」
「うぐっ……」
「はははっ、言われちまったなぁ、オトメ」
「ふ、ふん! いいもん! 私の仇はきっとソウシ君とタクオ君がとってくれるもん!」
ふくれっ面になりながら、オトメもまたモニターに目を向けた。
………………
…………
……
「えぇっ!? オトメ殿、もう撃墜されたのでござるか!? まだ始まって5分と経ってないでござるぞ……」
チームメンバーの撃墜情報は、当然他のメンバーにも知れ渡る。タクオはザクのモニターに表示されたテロップを読みながら、思わず渋い顔をする。
『そろそろこちらにも敵の攻撃が来る頃じゃな』
「そうでござるな。さて、僕の敵はどこでござるか?」
ド・ダイの上に乗ったザクⅠが辺りを見回す。どこかに自分の相手であるギラ・ズールが隠れている筈なのだが、未だその姿を見せていない。
『ぬし様よ、あまり高度を飛ぶと的になってしまう可能性があるぞ』
「でも敵がどこにいるかわからない以上、こうやって高い位置から探すしか……―」
その時だった、突然警告音が響き渡り、どこからかビームが放たれ、ド・ダイを攻撃する。
「のわ……っと!? 現れたでござるな!」
タクオはその攻撃を機体を左に倒すことで避けきる。姿勢を元に戻すと、攻撃が放たれた場所をモニターでズームし、敵の姿を探る。
『ぬし様、あそこじゃ!』
「わかったでござる!」
そこはいくつものガンプラの箱が積まれている陳列棚だった。その箱の陰に、確かにギラ・ズールがビームマシンガンを構えているのが見えた。すぐさまザクマシンガンでその地点に攻撃する。が、ギラ・ズールはガンプラの箱を盾にして攻撃を凌ぎ、そのまま棚の下に降りて床を走る。
「逃がさないでござるよ!」
逃げるギラ・ズールに対してド・ダイの8連装ミサイルを発射するが、ギラ・ズールは突如バックパックのバーニアを起動させ、素早いマニューバでミサイルをかわす。よく見ると、そのギラ・ズールはバックパックがギラ・ドーガのものだった。ギラ・ズールとギラ・ドーガのパーツには互いに互換性があり、ギラ・ドーガのバックパックの方がバーニアノズルが四方にある分素早い動きが可能だ。
ギラ・ズールはそのまま助走をつけるように走ると、突然飛び上がりその手にビームアックスを握る。そしてバーニアを噴かし、タクオのザクⅠが乗るド・ダイと同じ高さまで上昇してきた。
「なっ……!」
驚くタクオをよそに、ビームの刃を展開し大きく振りかぶって斬りつける。タクオは左手に持っているスパイクシールドで身を守り、なんとか致命傷を避ける。が、所持していたスパイクシールドはビームによって溶断されてしまい、使い物にならなくなってしまった。ギラ・ズールのビルダーはヒットアンドアウェイの戦法を得意としているらしく、ダメージが与えられないということを確認するとすぐさま方向転換し、また物陰に身を隠す。
「くそっ、見失ったでござる」
………………
…………
……
「……オトメの奴、墜とされたのか」
先ほどモニターに表示された友軍機の撃墜報告。開始早々でやられるとは、相手がよほどの手練れだったのか、それとも単にオトメの実力不足か、はたまたその両方か……。いずれにしてもこれで現状は3対2、早速こちらが不利だ。
「ソウシ殿!」
通信が入り、タクオの声が聞こえた。見ると、左前方からザクⅠの乗ったド・ダイがこちらに飛んでくる。
「タクオか、お前の方はどうだ?」
「敵が姿をくらましてしまいなかなか補足できないでござる……」
「わかった、ならここは協力して二人で一機を倒すことに努めよう」
「了解でござる」
俺達はまずはモニター上に表示されているレーダー表記を確認してみる。青い丸印が俺達で、赤い丸印が敵機表示だ。俺達2機に対し、3機の敵機はそれぞれバラけた位置に存在している。オーバーフラッグは店内を大きく旋回し、ギラ・ズールは展示用ショーケース付近に、そしてアベさんのグフは用具売り場の棚の陰に隠れている。3機とも仕掛けてこないところを見ると、こちらの出方を伺っていると見える。
「よし、まずは制空権を取るぞ。オーバーフラッグに攻撃を集中しよう」
「わかったでござる。で、作戦は?」
「まぁ待て、俺にいい考えがある」
………………
…………
……
「ほう、あいつら何か始めるみたいだな」
道具棚の陰からソウシとタクオの様子を、アベの駆る青いグフが覗いていた。
「どうやってあの高速機を攻略するのか、お手並み拝見と行くか」
………………
…………
……
オーバーフラッグのビルダーはやきもきしていた。先ほどサバーニャを墜としたとはいえ、さっきから同じ場所をぐるぐると回っていたからだ。アベ店長からは「初心者なんだから、お手柔らかにな」と言われてはいるが、それが「手を抜け」という意味合いで言ったのではないということぐらいはわかっている。あくまで面と向かった時には全力でいけ、というメッセージだと捉えていた。
だからこちらからはあえて出ていかないつもりだったのだが、相手は一向にこちらに仕掛けてこようとはしない。そろそろことらから出向いてやろうか……と思ったその時だった。
「……!?」
目の前にド・ダイに乗ったザクⅠが現れた。ようやく仕掛ける気になったか……! と、フラッグのパイロットは待ちくたびれたという様子でグリップを固く握りなおす。目の前のザクはこちらの方を向き、後ろ向きの状態でド・ダイに乗っている。そしてザクマシンガンを構え、こちらに撃ってきた。
そんな鈍くさい攻撃がこのオーバーフラッグに当たるものか! と、グリップを傾け、持ち前の機動性で急速に上昇し、攻撃を避ける。しかし、ここは高さに制限の無い屋外のステージと違って店内を模したステージ。すぐに目の前に天井が迫ってしまい、これ以上は上昇できない。やむを得ず変形し、天井付近でホバリングしながら下の様子を伺う。見ると、ザクはド・ダイの速度をあげ自分から逃れようとしていた。
そちらから仕掛けてきたくせに、逃がすものか! と、またフラッグを変形させ、ド・ダイの後を追う。速さでこのオーバーフラッグに敵う機体はそうそういない。距離はあっという間に縮まったが、相手は店内の障害物を巧みに利用してこちらの攻撃を避ける。積まれている商品のプラモの箱の間を縫うように飛んだり、プラモデル制作用のレンタルスペースの机の下にもぐったりと、一向に照準が合わず、ロックオンできない。
そうした追いかけっこを続けているうちに、急にド・ダイのスピードが落ち、動きも鈍くなった。ようやく諦めたか。と、フラッグのビルダーは照準を合わせ、ロックオンしようとする。
……が、ここで彼はあることを思い出した。確かもう一機、飛べるザクファントムがいたはずだ。確かアベさんのグフに攻撃されて、地上でしか動けなくなったが……奴はどこに……?
慌てて周囲を見回し、モニターに表示されてるマップの敵機表記も確認する。赤い丸表記は自分の目の前に……これはザクⅠだ。もう一つは……自分の真下!?
「……っ!?」
ビルダーは慌てて速度を落とすと変形してモビルスーツ形態になり、眼下を見据える。だが下にあるのは展示用ケース。その中には完成品のガンプラが所狭しと飾られている。居場所はわかっても、どれが敵機か判断がつかない。
「もらった!!」
突如ヘルメット内に響く声……。味方ではない、敵のものだ。これは、そう……あのザクファントムの少年の……!
「くらええええええっ!!」
展示用ケースの中に飾られているガンプラの1機が飛び出し、腰に携える刀を構え、ケージを破ると、そのまま真下から突っ込んでくる!
そうはさせるか! 完全に俺の不意打ちを狙ったつもりだろうが、寸前で気が付いて残念だったな! フラッグの手にソニックブレイドを握らせ、プラズマの刃を展開する。それを刀を構えて突っ込んでくるザクファントムの前で大きく振りかぶり、鍔迫りの状態に持ち込む。
フラッグで格闘戦は少々無理があるが、俺がピンチになれば仲間が助けに……!
「今だ、タクオ!!」
……えっ?
視線を背後に向けてみる。
そこには旧型のザクバズーカを肩のバズーカラックに乗せて構えたザクⅠが、その砲身をピッタリとこのオーバーフラッグに向けているのが見えた。
「本命はこっちでござるよ!」
その言葉と同時に火を噴くザクバズーカ、そして巻き込まれぬよう退避するザクファントム。
そうか、しまった……! 仲間に助けられると思っていたのは……俺だけでは……!
―ザクⅠに撃墜されました―
………………
…………
……
「うまくいったでござるな!」
「あぁ、あの時の戦いが活かされたな」
オーバーフラッグの撃墜を確認すると、俺達は一旦地上に降りる。この戦法、実は以前にファントムとザクⅠが戦ったときに、ファントムがスクランダーウィザードを囮にしてザクⅠを仕留めたときの戦法のオマージュだ。ただ、今回は寸前で敵が気付いてしまったため、本来囮役だったタクオが仕留める形となったが。
『わしらの戦いがぬし様らの戦術のヒントになるとは、嬉しいものじゃな』
『そうですね、私達の苦労が報われた気分です』
自分達の戦い方が反映されて、ファントム達も喜んでるみたいだ。
「なんにしても、これで1機倒して残りは2機、こちらと同じだ。この調子で次も片付けるぞ」
「噂をすれば……でござるぞ」
カメラを目の前で炎上するオーバーフラッグの残骸から、通路奥の角に向ける。見ると、ギラ・ズールがこちらの様子を伺い、次の瞬間ビームマシンガンを乱射しながらこちらに接近してくる。そういえばさっき、ギラ・ズールの居場所はこの場所の近くだった。仲間の危機を察して来たのだろうが時すでに遅し、自分が代わりに仇を取ろうと、そんなところだろう。
「向こうから出て来てくれるとは好都合だ。タクオ、お前はド・ダイに乗って空から援護してくれ。俺はここで相手をする!」
「了解!」
短く返事をし、タクオのザクⅠはド・ダイに乗って上昇する。俺はと言うと、距離をとりながら左手のビームガトリングで応戦する。空中からもタクオがザクマシンガンを撃つ。何故ビームライフルでなくビームガトリングなのかというと、相手が動きが速い機体なのであれば、速射性のあるガトリングの方が有利だと踏んだためだ。思った通り、ギラ・ドーガのバックパックのおかげか、素早い動きで俺の攻撃をかわし、棚の陰に隠れた。ならば……!
「タクオ、奴を棚の陰から誘い出す。左斜め後方地点に奴を誘導してくれ」
「やってみるでござる」
今度は右手のビームライフルも構えて、改めてタクオのザクと共に攻撃を開始する。思った通り相手はまた避ける。だが、今度はあらかじめ相手の回避地点にビームを撃っておき、相手が回避したと同時にビームに命中するように仕向ける。すると、狙い通り敵は予想回避地点に避け、ビームの直撃を胸部に受け、膝を折る。
「悪いな、さっきので回避パターンは予測済みなんだよ」
『テストの時もこれくらいヤマの予想ができれば良いのですが』
「お、おいおいファントム! 今テストは関係ないだろ!」
ファントムに突っ込みを入れる余裕まである。……が、流石に相手はそう簡単に参ってはくれないようだ。ビームの直撃を受けた筈だが、どうやら大型のギラ・ズールを一撃でダウンさせるにはこのビームライフルでは少々出力不足だったらしい。黒く焦げた胸部をものともせずギラ・ズールは立ち上がり、またビームマシンガンをこちらに構える。
「くっ……奴を倒すには、やはり近接戦闘でデカい一撃をお見舞いするしかないか!」
生憎今の俺の持ってる火器でビームライフル以上の出力のある武器はない。となると……縦に並べたジン3機を一刀両断できるという切れ味を持つこの斬機刀で奴を仕留めるしかない!
腰に携えている斬機刀の柄を握ると、タクオに通信をとる。
「タクオ、俺が斬り込むから空中から援護を頼む。さっきみたいに撃ってくれればいい。ただし今度は当てるつもりでな。それで相手の目を引きつけてくれ」
「でも、それじゃソウシ殿に当たってしまうでござるぞ?」
「大丈夫だ。こっちはこっちでなんとかする」
「わかったでござる」
通信を終えると、ド・ダイが攻撃を開始する。当然ギラ・ズールは応戦し、俺はその様子を壁に隠れながらチャンスを伺う。しかしあのギラ・ズール……応戦している最中にもこちらの方にモノアイを向けたりして、なかなか隙がない。もうひと押しなにか欲しいところだ……なにかないかと、俺は周囲を見回す。
「おっ……? これは……使えるのか?」
よしこれだ! 実際の戦場じゃこんな物は転がってないだろうが、それもこのステージならではってところか。
………………
…………
……
「このっ……! ソウシ殿はまだでござるか!?」
ド・ダイの上からザクマシンガンで下にいるギラ・ズールを狙って攻撃する。サポートユニットの無い他の機体と違い、タクオは飛行するド・ダイと攻撃するザクⅠの二つを同時に操縦しているのだ。負担が大きく、集中力が徐々に乱れてくる。
「ええいっ、ままよ!」
ド・ダイの8連装ミサイルで弾幕を張り、着弾を確認すると脇目も振らずザクマシンガンをその地点に撃ちまくる。銃撃を止めると、着弾地点からは濛々と煙が立ち込め、マシンガンの銃身から細い煙が一筋あがる。
『こういう一心不乱に撃ちまくるのって、俗に言うフラグってやつなんじゃろ?』
「あっ! そ、そんなこと言うから!」
煙の中からギラ・ズールがバックステップを踏みながら現れた。流石に無傷というわけではないようだが、それでもまだ動けるようで上空のド・ダイに向けてロケットランチャーを構える。
「のわっ……! ま、まずいでござる! すぐに退避を……!」
ロケットランチャーの引き金が今にも引かれる……と、その時だった。
突然、「ゴロゴロゴロ」という何か重い物が転がるような音が響き渡り、ロケットランチャーの引き金を引こうとしたギラ・ズールは思わず動きを止め、その音がした方向を見る。
なんと、巨大な円筒状のタンクのような物が地面を転がりながら自分の方へと迫ってくるのである。なんだかわからないが、このままではこいつに押しつぶされてしまう! ギラ・スールのパイロットは思わず照準をそのタンクの方へ向け、引き金を引く。放たれたロケットランチャーの弾頭は、一直線にタンクの方に向かい、そして接触すると同時に大爆発を引き起こし、同時に辺り一面が真っ白に染まる。
その爆風があまりにも凄まじいため、ギラ・ズール自身も後方に吹っ飛ばされ、更にその白い液体を全身に浴びてしまう。この爆発は、ロケットランチャーの威力だけではない。あのタンクの中に何か可燃性の物質が含まれていたらしい。その時、タンクの破片の一部が目の前に落ちてきた。破片には白いラベルに「白色カラースプレー 『注:可燃性』」と書かれていた。
「今だ!!」
ギラ・ズールが爆風によって吹き飛ばされた隙をついて、ソウシのザクファントムが爆発したスプレー缶の後ろから斬機刀を構えて飛びだし、刀を上段で構えて振り下ろす。対するギラ・ズールは、スプレー缶の塗料を全身に浴びてしまったせいで思うように動くことができない。
「もらったぁあああああああ!!」
雄叫びをあげながら振り下ろされた刀は、ギラ・ズールの巨体を頭頂部から股の下にかけて真っ二つに切り裂く。そして、ザクファントムが後ろを向き、その刀を静かに鞘に納めると同時に、ギラ・ズールは爆発四散した。
………………
…………
……
「おっ! なかなかやるじゃねぇか! ソウシのやつ!」
モニターでバトルの様子を見ていたトモヒロ達は、ソウシ達の見事な連携と攻撃に歓喜していた。
「……可燃性のスプレー缶を囮と同時に武器としても使う……なるほど、このステージでなければできない発想……」
「ほんと、思いつかなかったよ」
「これで残りはアベ店長だけか。人数差は2対1、ソウシ達に分があるな!」
「……アベ店長をあまり甘く見ない方がいい……」
レイナの一言に、トモヒロ達の表情が強張る。
「そ……そんなに強いの? アベさんて……?」
「……見てればわかる」
………………
…………
……
「よぉし! これで俺とお前とで一機ずつ仕留めたな」
「残るのはアベ店長だけでござるな」
アベ店長のグフは陸戦用の機体だ。俺のザクファントムは専用ウィザードがさっき撃破されてしまったからもう飛ぶことはできない。しかし、こちらにはまだド・ダイがある。ド・ダイからの支援があれば、いかにアベさんといえども十分対抗できる筈だ。
「よし、タクオ。仲間がみんなやられた今、アベさんのグフが動く筈だ。高度を維持して周辺を警戒してくれ」
「了解でござる」
レーダー表記上には、アベさんのグフは先ほどの場所からこちらに接近してくることがわかる。しかしこれといって強力な推進装置があるわけでもないので、そのスピードは遅めだ。おそらく、走ってこちらに向かっているのだろう。これなら大丈夫だ、さっきのギラ・ズールみたいに強力なマニューバもないのならば、今のド・ダイの高度まで届く武器はジャイアントバズだけ。しかもそのジャイアントバズも、さっき結構撃ってたからもう弾の残りも少ない筈だ。このまま俺とタクオで連携すれば……。
「よし……勝てるぞ。タクオ、そこからアベさんの姿は見えるか?」
「う~ん……障害物があってよく見え……うわあああああああああっ―――!!」
その時だった。突如タクオの絶叫と共に通信が途絶えた。
「た、タクオ!? どうしたんだタクオ! 返事をしろ!!」
『マスター、あれを!』
ファントムの声とともに俺はハッと前面のスクリーンを見る。そこには、炎に包まれながら落下していくザクⅠの姿があった。間違いない……タクオはアベさんに撃墜された。でもどこからの攻撃で……?
タクオはあれでも、ギラ・ズールとの戦いの時において高速発射されるビームマシンガンの弾丸を見切れるほどの反射神経はあったはずだ。飛び道具はジャイアントバズしか持っていないアベさんのグフなら、余裕で攻撃をかわせたはずだ。なら、なぜ……?
「不思議に思ってるみたいだな、ソウシ君」
ヘルメット内にアベさんからの通信が入る。カメラを上にあげると、商品棚の一番上に、天井の証明を背中から浴びながら、アベさんの群青のグフが仁王立ちしていた。
しかも、その手には……。
「ジャイアントバズを……持っていない……!?」
「あぁ、仲間が二人もやられちまったからな。バズーカは重荷になるから捨てて来たよ」
ということは……タクオは射撃武器によって墜とされたわけじゃない……? なら、近接武器だけで? どうやって……?
「その答えを今、教えてやるよ!」
そう言うとアベさんのグフは両腰に携えているヒートサーベルを両手に構えると、そのまま両手を前方に突き出す。何をするのか、と考えていると、グフの両手首からワイヤーが発射され、反対側の棚に吸着し、グフ本体を瞬時に引き寄せる。それと同時にバーニアの出力をあげ、グフは宙を舞う。反対側の棚に着くやいなや、またワイヤーを射出して反対側の棚に飛ぶ。そうすることにより、グフは空中で立体的な起動を描き、縦横無尽に空中を舞う。
そういうことか……! あのグフが両腕ともに左右対称なのは、両手に装備されたヒートワイヤーを駆使してこの起動を再現するためだったんだ! この方法ならば離れた場所からも瞬時に目的の場所に到着できるし、空中の敵にも攻撃できる。なによりこのバトルフィールドはアベさんの店内を模したもの……オーナーであるアベさんがこの空間のことを隅から隅まで把握しているからこそ、できる技だ。
「……すごい」
俺は思わずその技に見とれてしまった。なるほど、これで高度を飛行していたタクオのザクが墜とされた理由がわかった。あの起動で背後から急速に接近し、すれ違いざまに切り裂いた……そんなところだろう。
『マスター、関心している場合ではありませんよ! 来ます!』
ファントムの言うとおり、気がつくとアベさんの駆るグフが高々度から剣を構え、こちらに突っ込んでくる。俺は慌ててビームライフルを構えるが、間に合わない。撃つよりも先にグフのヒートサーベルが目の前に迫る。
「うわあああっ……!」
思わず情けない声をあげて後ろにのけぞってしまう。しかし、それが功を奏したのか、アベさんの斬撃は寸前で逸れた。それでもサーベルの切れ味は確かなもので、俺の右腕に構えていたビームライフルの銃身が真っ二つに切り裂かれた。
「くっ……このっ!」
射撃武器を一つ失った俺は、左手に装備されているビームガトリングを構える。小回りのきくこのガトリングの方が、高速で移動する相手には有利なはずだ。銃身が回転し、緑色のビーム弾を高速で撃ちだす。そうして狙いをつけてグフに攻撃するが……。
「当たらない!?」
グフは次々にワイヤーを射出して不規則な動きをして俺を攪乱する。だが、撃ちまくっていればこちらには接近できない。俺はなおもガトリングを撃ちながらグフの後を追って移動する。向こうには飛び道具がないから、絶えず撃ちまくっていればいずれは……!
その時、「カラカラ」という不吉な乾いた音が周囲に響き、銃口から弾が出なくなる。
「しまった! 弾切れ!?」
すぐにシールド裏にあるエネルギーパックを取り出してリロードしようとする……が、その隙をアベさんは見逃さなかった。俺が弾切れになるやいなや、また上空からヒートサーベルを構えて一直線に俺の方に降下してくる。
「くうっ……!」
そのあまりの迫力に俺は気圧され、思わずコクピット内で身構えそうになってしまう。だが、そうなれば必然的に手から今固く握っているこのレバーを離してしまう。ここはぐっとこらえ、レバーを瞬時に自分の方に引く。それと同時に後退するザクファントム。上空からのアベさんからの強襲は、なんとかかわした。
「ほう、今のを避けるのか。なら……これはどうだ!?」
右手首を前方に向け、ヒートワイヤーを射出する。俺のザクファントムに吸着させ、感電を狙うつもりか!? と横に飛び退き、回避する。やった、外れた! 外れたワイヤーは、そのまま俺の背後へと伸び、壁に吸着する。
「ふっ……甘いな!!」
左手のヒートサーベルを逆手に構え、アベさんは不敵に笑う。直後、ワイヤーの引き寄せる力とバックパックのバーニア噴射という、二乗の推進力を得てグフは猛スピードで一直線にこちらに迫る!
「回避が間に合わな……がぁっ!?」
凄まじい衝撃が俺を襲った。続いてコクピット内に轟く爆音、そして左舷より散る火花。
「くっ……左腕が……!」
すぐに左側を確認すると、左腕が肩から下が無くなっていた。さらに左肩に装備されていたシールドもろとも、綺麗な切れ口で切り落とされていた。シールドをも切り裂くこの切れ味……これだけでもあのガンプラがどれだけ完成度の高いものなのかを物語っている。同時に、こんな戦法も思いつくアベさんの操縦技術にも……。ガンプラとしての完成度とアベさんの技術……この二つの力が相まった機体、グフ・ツインブレイカー……そんな凄いのと俺は今、たった一人で相手にしている。
「勝てるのか……?」
思わず弱気になってしまう。その俺の思いに同調したかのように、ザクファントムはその場に膝を折ってしまい、同時にモノアイの光が消える。
「どうしたんだ、ファントム!?」
『ダメです、パワーダウンです……』
モニターに「ジェネレーター出力低下/メガコンデンサーへチャージ中」という表示が出現し、画面が暗くなる。どうやら一定以上のダメージが蓄積されると、このように一時的に行動不能になってしまうらしい。
「く、くそっ……! この隙に攻撃を食らっちまったら……!」
………………
…………
……
先ほど撃破されたタクオや店員達も交えて、皆はモニターの前に集まっている。
「動けなくなっちゃったよ! やられちゃったの!?」
「……違う……撃破されたわけじゃない。今はチャージ中……チャージが終われば、また動けるようになる……」
「しかし、これはまずいでござるな……」
パイロットスーツ姿のままのタクオが、顎に手をやりながら苦い表情をする。
「なにがまずいの? タクオ君」
「見てのとおりでござるよ。ソウシ殿のザクファントムは左腕が切り落とされ、射撃武器もない。対するアベさんのグフはダメージひとつ負ってない。誰が見ても、戦況は明らかでござろ?」
「そ、それはそうだけど……」
先ほどまでは自分も戦い、そして速攻で墜とされてしまったことを思い出し、オトメの表情が曇る。
「なに暗くなってんだよ! まだソウシの負けって決まったわけじゃねぇだろうが!」
そんな皆を励ますのは、トモヒロの声だった。
「……どうしてそう思う?」
「わかるんだよ! さっきだってあいつ、初めてのゲームで相手のことをよく分析してタクオと協力して2機も撃墜したじゃんか! きっとアベさんに勝つ方法をまた何か思いつくはずだ!」
確かに、初めてやったにしては、ソウシの活躍は目を見張るものがあった。その場の状況分析、敵機の特性、そして臨機応変な攻撃方法、そのどれもをこの短時間のうちに把握し、実行した。
「……うん、そうだね! 私もソウシ君を応援する!」
「考えてみれば、こういうピンチの場にこそヒーローの底力が発揮されるんものでござるしな!」
「そういうことだ、頑張れ! ソウシー!」
「負けるなでござるー!」
こちら側の声はプレイヤーには届かない。しかし、それでも彼らはソウシを信じて応援した。自分たちの声援が、少しでも彼の力になると信じて……。
(う腐腐腐腐腐……♪ 親友を応援する男友達二人……萌えるわぁ…♪ やっぱソウシ君は総受けね!)
そしてソウシを応援しながら、妄想に拍車をかけるオトメであった。
………………
…………
……
「こちらは動けないのにアベさんはあえて仕掛けてこない……か」
アベさんのことだ、そんな姑息な真似をしてまで勝ちたいとは思ってないはずだ。あくまで俺と正面をきって戦いたい……そういうことだろう。
でも俺は……戦えるのか……? 腕は一本……武器はまだ残っているが、近接用の武器ばかり……つまりアベさんと正面きって戦うには、あのグフの懐に飛び込まなくちゃいけない。しかしこんな状態では、即座に切り捨てられるのがオチだ。
「どうすれば……!」
『マスターは……まだ戦う気でいらっしゃいますか?』
必死に考えを巡らせていると、ファントムがそんなことを聞いてきた。
「……あぁ、さっきはちょっと弱気になっちまったけど、せっかくアベさんが俺たちにこんな素晴らしい場を与えてくれたんだ。それを不意にすることはしたくない。それに……」
『それに……?』
「俺、気付いたんだ。前にファントムは強くなりたいって言ってたよな?」
『はい』
「なら……俺も一緒に強くなる! このガンプラバトルを通して……俺とお前でいろんな戦場を渡り歩こう! それでいろんな戦う技術を身につけて、あいつらに負けないほどに強くなろう!」
『マスター……! はい!』
顔は見えないが、今のファントムはきっと満面の笑みで答えてくれているはずだ。そうだ……俺は一人で戦っているわけじゃない。このガンプラバトルを通して俺とファントムは共に強くなる! 今度こそ……負けないために!
その時だった。モニターが明るくなってき、外の景色が見えるようになってくる。そしてコクピット内に反響する起動音。まるで俺の意識に呼応したかのように、ザクファントムのパワーがその瞬間に戻ったのだ。
「動ける……! よしファントム、反撃開始だ!」
『打開策はあるのですか?』
「まぁ……なるようになれってね!」
スロットルレバーをゆっくりと前方に倒し、ザクファントムを片膝がついた状態から立たせる。そして輝く紅い単眼。完全に立ち上がったザクファントムの姿を確認し、アベさんのグフは商品棚の上からまたこちらを見下ろし、剣を構える。
「まだやる気かい?」
アベさんからの通信が入る。
「当然、せっかくアベさんがこうやって戦う場を用意してくれたんですもの。途中でリタイアなんかしたらもったいないでしょ!」
「フッ……よく言ってくれた!」
またも右手首を前方に向け、そこからヒートワイヤーを射出する。射出されたワイヤーは対面側の棚に吸着すると、グフが飛び、あっという間に対面側の棚に渡る。同じだ、さっきの動きと。となると、次にワイヤーを射出する地点は……!
「そこか!」
右側のシールドの裏からビームトマホークを出し、それを右手で握る。そして大きく振りかぶってビームトマホークを投げた。それと同時に射出されるグフのヒートワイヤー。
「なにっ!?」
アベさんが思わず声を漏らす。俺の投げたビームトマホークは、一直線に射出されたヒートワイヤーに迫る。そう、陸専用のグフが、なぜあそこまで立体的な機動を描くことができるのか。その要因はこの2本のワイヤーにある。つまり、そのワイヤーが吸着する寸前で切断してしまえば……!
瞬間、ワイヤーが吸着する。しかし、投擲したビームトマホークがそれとほぼ同時にワイヤーに届き、ヒートワイヤーを切断することに成功した。
「やった!」
喜ぶのはまだ早いと思っていても、やはり自然と声が出る。これでアベさんの得意戦法を一つ潰すことができたのだ。おそらく、アベさんはこちらにもう飛び道具は無いと思い完全に油断をしていたのだろう。これでさっきのような立体機動はできなくなり、俺と同じ完全な陸戦に持ち込めるはずだ。
「やってくれたな、ソウシ君」
アベさんは残ったもう一方のワイヤーによって機体を棚の上から降ろし、俺と同じ高さに降り立つ。
「近接用の武器にだって、こういう使い方はあるんですよ」
実際、アニメにおいてもザクウォリアーのビームトマホークによる攻撃は、投擲の場合のが多い。OPではいつも投げられていたし。
「ふふっ……どうやら俺もそろそろ本気を出さなきゃいけないみたいだな」
そう言うとアベさんはグフの背中から何かを取り出す。細長い筒状の物体……一瞬、その形状的にハンドグレネードかビームサーベルかとも思ったが、どうやら違うようだ。
「これがなんだかわかるかい? これは……こうして使うのさ!」
それを自分が持っているヒートサーベルの柄部分に接続すると、反対側にももう一本のヒートサーベルを繋げる。そうすることにより、二本のヒートサーベルは両刃タイプのサーベルへと早変わりした。
「なっ……! こんなギミックがあったなんて…!」
驚く俺をよそに、グフは両刃サーベルを両手で駆使して頭上でくるくると回すと、その切っ先を俺の方に向ける。
「まるでソードインパルスじゃないか……!」
「さぁ、このまま決めさせてもらうぞ!」
瞬間、連結したヒートサーベルを掴んだ手首を回転させながら、その斬撃が俺達を襲う。後ろに後退しながら攻撃をかわす俺だが、このままでは反撃できない……! さっきまでは2本の剣を構えていたから、斬撃を繰り出すのにそれなりのモーションがあった。振りかぶり、振り下ろす……そんな感じに。だから振り上げた瞬間がアベさんの隙になるのかと思っていたが、それが今では高速回転する刃だ。無作為に懐に入ろうものなら、その瞬間にバラバラにされてしまう。
「どうすれば……!」
『マスター、来ます!』
気がつくと、目の前にはまた回転する刃が迫っていた。クソッ……! 考える隙も与えさせてくれないのか……!
このままおめおめとやられるわけにはいかない。俺は右腰のレーザー重斬刀を装備し、それで回転ヒートサーベルを受け止め、グフの斬撃を止めようと試みる。普通に考えれば、実体剣よりもレーザーやビーム刃の方が強力だ。これで少しは連結ヒートサーベルの猛攻を防ぐことができるだろうと、そう思っていた。だが……。
「なにっ…!?」
高速回転する高温のヒートサーベルを前に、重斬刀のレーザー刃はなすすべなく散ってしまう。例えるなら、強力な扇風機にホースで水をやっている状態だ。これじゃいくら猛攻を阻止しようと試みても防ぎきることはできない。
「そらそらどうした! 万策尽きたか!?」
アベさんが声高に叫び、高速回転ヒートサーベルを上段から下段にかけて一閃する。瞬間、まるで雷に打たれたかのように振動するコントロールグリップ。その振動の後、ザクファントムの手からレーザー重斬刀がこぼれた。
「しまっ……!」
一瞬どうすべきか躊躇った。拾うべきか……しかし、すぐ目の前までグフの白熱したヒート剣が迫る! 拾ってる暇は……ない!
「うおおおっ!!」
金属と金属が擦れる音が響き、火花が散る。腰のジョイントから斬機刀の鞘を外し、その鞘でグフの斬撃を止めたのだ。
「なにっ!?」
思わずアベさんの声が漏れた。よし、今だ! アベさんの隙をついた! 残った右手で斬機刀の柄を掴み、ヒートサーベルが突き刺さった鞘から引き抜く。残った武器はこいつのみ……それでどこまでやれるか。
「でやあああっ!!」
大きく振りかぶり、横一閃に斬りかかる。今グフのヒートサーベルには鞘が突き刺さって思うように動きがとれないはずだ。なら、サーベルによる防御は難しいはず……!
……が。またも火花が散り、俺の斬撃は止められた。
「なにっ!?」
「忘れたのかソウシ君、このサーベルは連結することができるが……もちろん分離も可能なんだ!」
見ると、グフの右手には、鞘が突き刺さったままのサーベルが握られていたが、左手には分離したもう一方のヒートサーベルを握り、俺の斬撃を受け止めていた。次の瞬間、防御から一転してアベさんは攻勢に出る。俺と鍔迫り合いになったままであるにも関わらず、大きく力強く振るわれる左手のサーベル。その衝撃に右手一本で刀を支えていたザクファントムの機体は大きく揺らぎ、組み合った剣はあっけなく離れた。
「くそっ……!」
『マスター、このままでは相手の攻撃範囲に飛び込んでしまいます! 一時後退を!』
「わかった!」
脚部のバーニアをふかし、一旦グフの元から離れる。剣もまともに握れないようじゃ、このまま飛び込んだところでヒートサーベルによってバラバラにされるのが目に見えている。
俺が離れると、アベさんは片方のサーベルに突き刺さった鞘を引きはがし、またサーベルを二本繋げてくるくると回し始める。俺も俺で、今度こそ剣先がブレないように、残った片腕でしっかりと握りしめて刀の切っ先をグフにと向ける。
互いに剣を構えて動こうとはしない……アベさんはおそらく、俺の出方を窺っている。俺だって無作為に飛び込んだところで勝ち目がないのはわかってる。
「何か……何か弱点を見つけるんだ……何か……!」
だが、目の前にそそり立つ青い巨人……その圧倒的な迫力に気圧されてしまい、また俺の中で諦めの考えが生まれた。
ダメなのか……やっぱり……。
だがその時、俺はあることに気が付いた。
「……ん?」
今何か……グフの方に違和感があったような……? もう一度目を凝らしてよく見てみる。
「……そうか、そういうことか」
『マスター?』
「ファントム、今俺たちが相手にしているのは何だ?」
『何って……アベさんのグフですが』
「だけど、あれは本物のグフじゃない」
俺の一言に、ファントムは一瞬黙ってしまった。おそらく俺の言った言葉の意味が理解できなかったんだろう。
「この臨場感あふれる戦場と、本物さながらのアクションで忘れていたが、俺たちが今操っているのも、そして目の前に立ちはだかっているのも、ガンプラだ。本物のモビルスーツじゃない」
『はい。ですが……それがなにか?』
「なに、ガンプラ特有の弱点を見つけただけさ」
俺の考えが正しければ…おそらくあの部分を叩けば! よし、いける……いけるはずだ!
「行くぞ、ファントム!!」
『は、はい! マスターにお任せします!』
一声あげて、コントロールグリップを握る力が強くなる。まるで俺だけじゃなく、ファントムも一緒にグリップを握っているような感覚だ。これならいける……勝てる!
「うおおおおおおおおおっ!!」
雄叫びをあげながらグリップを思いっきり前に倒す。それと同時に背中と脚部のブースターにより、ザクファントムは最大戦速でグフに突っ込む。アベさんのことだ、この攻撃を外せば……おそらく俺の考えている弱点にも気付いて次はその部分を徹底的に防御してくるはずだ。つまりは……この一撃にしかチャンスはない!
「いっっっけえええええええええええええ!!」
すでにグフの姿は目と鼻の先だ。俺は機体の上体を右側に向ける。右肩のシールドに身を隠すようにして、グフへと迫る。そしてグフの高速回転する2本のヒートサーベルも同時に迫る。
「今だ! そこっ……もらった!」
身をかがめて迫る回転刃に向けて機体を一気に引き上げる。そうすることにより、右肩に備えてあるシールドを……更に言えばそのシールドに生えているタックル用のスパイク……を、回転刃に叩き付ける。
強い衝撃がポッド内を揺らし、金属同士がぶつかり合う重い音がコクピット内に響き渡る。スパイクシールドと回転刃がほぼ正面からぶつかり合ったのだ。その強すぎる衝撃に、ザクファントムの肩のジョイントが折れ、シールドが外れる。その隙に俺はグフからまたも距離をとった。
「なんだ? 捨て身のタックルってわけかい? 生憎だが、俺のグフはその程度の攻撃じゃビクともしないぞ!」
一方のアベさんはというと、突然の俺のタックル攻撃に困惑しているようだった。だが、もう一度俺を回転刃で斬りかかろうとした……その時だった。
「なっ……!?」
思わずアベさんの驚愕する声が通信越しに聞こえてきた。驚くのも無理はない……なにせ、いきなり自分の操る機体の手首がとれてしまったのだからな。
落ちた手首は連結したヒートサーベルを握ったままなので、そのまま地面に突き刺さった。
………………
…………
……
「見て! グフの手首が!」
その光景を見てモニター前に集まっていた皆も驚く。
「どういうことだ!? もしかしてソウシのやつ、あの一瞬で手首を斬り落としたりとかしたのか!?」
「……いや、違う」
レイナは冷静にこの現象について分析した。
「……よく見て、手首のボールジョイントはつながったまま……つまりは斬り落としたわけじゃない」
「じ、じゃあなんで? もしや、自然に手首が落ちたとでも言いたいのでござるか!?」
「……自然に落ちた……なるほど、そう考えるのがある意味正解かもしれない……」
「えっ?」
冗談で言ったつもりだったので、そんなはずはないだろうと思っていたタクオのみならず、オトメもトモヒロも思わず間抜けな声を出してしまう。
「……正確には自然に取れるよう彼が誘発した……と言うべきか」
………………
…………
……
「な、何が起こった!? なぜ俺のグフの手首が取れちまったんだ!?」
マニュピレーターの無くなった腕を思わず覗き込むグフ、そして聞こえてくるアベさんの困惑する声。
「簡単なことですよ、アベさん」
俺はグフの前に対峙し、この現象について説明する。
「アベさん、俺は少し勘違いしていましたよ。このゲームのあまりにものリアルさにね」
「……どういう意味だ?」
「このゲームはすごいですよ。自分はまるで本物のパイロット、そして操るのは本物さながらのモビルスーツ……でも、どれだけリアルでもそれは本物じゃない。ガンプラなんだ」
俺はザクファントムが入っているガンプラスキャナーを見ながら話を続ける。
「だから当然、登場する機体は皆このガンプラスキャナーでスキャンされた機体だ、正確にね。そしてそれ故、ガンプラ独自の弱点もちゃんとスキャンされている」
「ガンプラ独自の弱点だと……?」
「アベさんならわかるでしょう。ガンプラの関節に使用しているのはポリエチレン製のキャップ……通称ポリキャップだ。ポリエチレン製ということは、過度な負荷を与え続けると伸びて接続部が緩くなってしまう。当然グフカスタムにもポリキャップは使われている。では、その手首のポリキャップにはまっているパーツを常時動かし続ければどうなるか……」
ガンプラで遊んだことがある者なら一度はあるはずだ。様々なポーズをとらせたり、重い武器を片手で持たせ続けた結果、その部位がどうなるのかを……。
「ポリキャップが……ヘタれる……?」
「そう……そうですよ。アベさん必殺の連結ヒートサーベルによる回転刃は確かに強力です。でも、2本分のヒートサーベルを片手で保持し、加えて常時回転させることで手首のポリキャップに多大な負荷がかかり、結果ヘタってしまい接続部が緩くなる。そこに外部からの強い衝撃を加えれば……」
「……なるほど、まんまとしてやられたってわけか」
アベさんの落胆する声が聞こえてきた。本人もまさかこんな方法で自分の2つ目の必殺技が破られるとは思ってなかっただろう。
『流石です、マスター。先ほど攻撃を受けた際にグフの手首の動きがおかしいことに気付いていたのですね』
「確証はなかったけど、長時間戦っていればそういうことも起こるだろうと思ってな。どうやら正解だったようだよ」
改めて逆手に持った刀を正しく持ちかえ、その切っ先をグフに向ける。
「さぁ、これで終わりだ!」
片手に構えた刀を振りかざしながら俺はグフに迫る。グフに武器はない。このままなら俺の勝ちだ!
「でやああああああっ!!」
刀を横に振るい、グフを一刀両断! ………かと思いきや。
「ふふっ……ソウシ君、君はよくやったと褒めてあげたいところだよ。だが……」
そのアベさんからの不敵な笑いの混じった通信が聞こえてきた瞬間、この人は何かやるつもりだと思った。だが、加速した機体は急には止まることができない。
「甘いっ!!」
瞬間、グフは俺に無事な左手を向けた。そしてそこから、切断した方とは別のヒートワイヤーを射出してきた。
「なっ…!?」
驚く俺をよそに射出されたヒートワイヤーはザクファントムの後方へと延びていき、何かを吸着させると高速で引き戻し、その吸着させた何かを右手で構える。
「ジャイアント……バズ……!?」
それは先ほど、アベさんが重いから置いて来たと言っていたジャイアントバズだった。しまった……! 気が付かない間に捨てたジャイアントバズがあるところまで誘導されていたのか!
「なかなか楽しめたぞ、ソウシ君」
その言葉と同時に放たれるバズーカの弾頭。それはザクファントムの脚部に直撃し、動きを止める。
「ぐうっ……! 」
「初めての勝負でまさかここまでやるとは思わなかったよ。きっと君は腕のいいガンプラビルダーになれるはずだ」
「……その時になったらアベさん、俺はもう一度貴方に挑戦します」
「ふっ、楽しみにしてるよ」
次の瞬間、コントロールグリップを通して全身を貫く衝撃。ジャイアントバズからの最後の一発がザクファントムに命中したのだ。そして画面は暗くなり、目の前には『―グフ・ツインブレイカーに撃墜されました―』という表示が出た。
………………
…………
……
ゲームが終わり、Gポッドを出た俺を迎えてくれたのはオトメ達だった。みんな、俺があそこまで善戦しながら負けてしまったことがよほどショックだったのだろうか、まるで通夜みたいなを顔してる。
「そ、ソウシ殿……」
「ソウシ君……」
中でもタクオとオトメはよりしょんぼりしていた。大方俺の敗因の一部が自分たちにもあると考えているようだ。そんな二人は俯いている俺のことが心配なのか、静かに歩み寄る。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ファッ!?」
「そ、ソウシ君!?」
突如天を仰いで叫んだ俺を見て、二人は驚く。息の続く限り叫んだ俺は、大きく息を吸い込む。
「……はーっ、すっきりした! ずっと狭いコクピットの中でヘルメット被ってたもんだからさ、深呼吸ついでにいろいろぶちまけたかったんだ」
「も、もう! ビックリしたなぁ!」
「でもまぁ、それでこそソウシだぜ」
トモヒロはホッとした表情をし、皆も笑った。心なしかあのキサラギも少し微笑んでいるようにも見えた。
「でもアベさんに負けて落ち込んでるのかと思ったでござるよ」
「そりゃまぁ悔しいけどさ、今日初めてガンプラバトルやった俺がアベさんに勝てるわけないし、でも一矢報いてやっただけでもよくやった方かな」
そうだ……確かに俺は初めてにしては良くやった方だとは思う。それもあのアベさん相手に。でも……。
「『よく戦った』、程度で満足するのか? ソウシ君」
同じくGポッドから出てきたアベさんが俺に問いかける。
「今君が体験したガンプラバトルなんて、まだまだ入り口さ。世界には、まだまだ未知のガンプラバトルがある」
「……俺、もっともっと強くなります。このザクファントムと共に……そしていつか、貴方を超えてみせます!」
「その意気だ。己の力を、己のガンプラを信じて進め。それが君の未来となる。また戦える時を楽しみにしているよ」
俺とアベさんは、その場で固い握手を交わした。きっとアベさんは、できることなら俺に価値を譲りたかったのだと思う。しかしこれから先、俺がどんどん強くなれるという事を見越してアベさんはあえて俺に力の差を見せつけた……そうじゃないかと俺は考えた。
なら、望むところだ。この敗北を俺は潔く受け入れ、次の勝利への糧としてみせるさ!
―私も共に……―
俺の思考を感じ取り、ファントムの声が聞こえる。どうやら彼女も俺と同意見のようだ。そうだ、俺達の戦いはまだまだ始まったばかりだ。これからはいろんなガンプラビルダーと戦うことになるだろう。それで俺はもっと強くなってみせる!
「ところで君たち、バトル中に誰かと話してるような気がしたんだが、一体なんなんだ?」
「き、気のせいですよ気のせい!」
「そうそう!」
「ぼ、僕なんか最近独り言が激しくって……ははっ」
最後に少しギクっとなった俺達であった。
~オリジナル機体紹介~
虚空を翔ける群青の巨人
「グフ・ツインブレイカー」
【機体説明】
グフカスタムのバリエーションタイプ。来るべきジオン公国軍のジャブロー進行において、密林や洞窟内といった障害物が多数存在する場所においての戦闘を考慮して開発された。本機の特徴は左右対称となった両腕に装備されたヒートワイヤーである。これをモビルスーツの全長よりも高い位置に吸着させ、自身を引き寄せることにより立体的な軌道を描きながら航空機を攻撃したり、上空から敵機に対しての奇襲にも用いられる。なお、モビルスーツ本来のスペックではなくパイロットの技能によって発揮される能力であるため、搭乗者の技能によって本機の真価が発揮されるといっても過言ではない。
しかし連邦軍の熾烈な猛攻により、本機はオデッサ防衛戦へと駆り出されることとなった。砂漠地帯のオデッサでは、パイロットの技能に関係なく本機の真価を発揮されることはなかった。
【武装】
ヒートサーベル×2(専用アタッチメントにより連結が可能)
ヒートワイヤー×2
ジャイアントバズ
【ベースキット】
HGUC グフカスタム
だいぶ久々の投稿となってしまいましたw
今回からガンプラバトルもちょくちょく取り入れていこうかと思っています。
オリジナル機体は今回登場したアベさんのグフです。コンセプトは「2刀流のグフ」と「立体機動」です。モビルスーツで立体機動やるならワイヤー使うグフカスタムがぴったりだなーっと思い登場させましたw
ヒートサーベルはシステムウェポンのを用いています。