機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 アストレアらの襲撃からしばらく経ち、ソウシ達は平和に過ごしていた。
 そんなとき、突然謎の人物とガンプラに襲われる。そいつの目的は……なんとキサラギ・レイナだった。


第13話:「悪意の矛先」 ※オリジナル機体紹介あり

「うふふっ……そう、ここね……この街にいるのね」

 

 薄暗いホテルの一室、その窓際に佇む少女は、窓の外に広がる街の夜景を眺めながら不敵に微笑む。

 

「あぁ……今から会いに行くのが待ち遠しいわぁ……必ずこの街で見つけ出してあげるから……待っててね」

 

 そうして彼女は部屋の中に視線を戻す。戻した先にいたのは、もう一人の少女……。しかし、その少女はどこか普通の少女ではない。全身に赤い装甲を纏い、彼女とは対照的にどこか不安げな表情をしていた。

 彼女はそんな少女を見ると、また視線を窓の方に戻し、呟いた。

 

「姉さん……」

 

 

 

 

 

―――――第13話:「悪意の矛先」―――――

 

 

 

 

 

「ただいま~。はぁー、すっかり遅くなっちまったな」

 

 結局あの後も何度かガンプラバトルをして、閉店時間ギリギリまで店に居てしまった。流石にちょっとアベさんに迷惑をかけてしまったかなと思いつつ、俺たちは帰路についたわけだが、これから俺とファントムの分の夕飯を作ると思うと少し気が重い……。

 

「冷蔵庫の中、何があったかなぁ……」

 

 夕飯の献立を考えながら靴を脱ぎ、玄関に上がる。

 

「おかえり。ずいぶんと遅かったね」

「あ……サザビーさん」

 

 俺を出迎えてくれたのはサザビーさんだった。そうだった、そういえば家を出る前にサザビーさんにあの子の世話と留守番を頼んでいたんだった。……ってことは。

 

「あの子は!?」

「そう慌てるな。ほら、帰ってきたぞ」

 

 そう言ってサザビーさんは後ろを振り向いて手招きをする。見ると、あの白髪青ワンピースの子が警戒しがちに奥の和室の影からこちらの様子をじっと窺っていた。

 

「目が覚めたのか!?」

 

 それを見た俺は思わず声をあげてしまった。なにせずっと眠ったままだったから、もしかしたらこのままずっと目が覚めないのかとさえ思ってしまったほどだ。それで思わず嬉しくなって声をあげてしまったのだが、彼女はそんな俺の声に驚いてしまったのか、ビクッと体を震わせて部屋の奥に引っ込んでしまった。

 

「あっ……」

「目が覚めたといっても、まだかなり不安が残っているようだ。あまり刺激しないで接してはくれないか?」

「ああ……わかった」

 

 ファントムを鞄の中から出し、人の中に戻す。俺はあの子をなるべく刺激しないように和室にそっと入る。あの子を寝かせていた布団はまだそこに敷いてあり、あの子はというと頭から毛布を被って布団の中で丸まっていた。俺は腰を低くし、彼女のそばまで寄る。

 

「……えーっと」

 

 こんなときはどう声をかければいいんだろうか……。名前を呼ぼうにも、まだ名前も聞いてなかったことを思い出した。布団の隙間から中を覗くと、彼女と目が合った。彼女は膝を抱えながら布団の裾を掴み、俺の方を不安げな目つきで見つめていた。

 

「その……君、名前は?」

 

 俺が口を開くと、彼女はまた怯えた顔をして顔を逸らしてしまった。参ったな……せっかく目が覚めてもこれじゃ話を聞くことができない。

 

「マスター、ここは私が」

 

 と、ファントムが俺の横に並んで布団の中で蹲る彼女に目線を合わせる。そして笑顔を見せながら話を始める。

 

「恐がらなくてもいいですよ。ここには貴女を傷つける人は誰もいません。皆良い人です」

 

 そう言って静かに布団の中に手を伸ばす。布団の中の彼女は少し戸惑う表情を見せたが、差し伸べたファントムの手をその小さな手で握り、不安げな表情を徐々に解いていく。それを見たファントムは笑顔のまま彼女の覆いかぶさっている布団をどかし、直接彼女の顔を見る。改めて少女の顔を見たが、やはりとても幼く見える。年齢でいうなればおそらく10歳程度といったところだろう。青い薄手のワンピース、垂れた獣の耳のような白く短い髪、そして黄色い瞳が印象的だ。外見的には人間には違いないが、やはりどこか人間離れした雰囲気がある……やはり彼女も人化したガンプラなのだろうか……?

 

「よければ少し、お話しませんか?」

 

 その優しげな言葉と笑顔に安心したのか、少女はファントムに抱き付いた。ぎゅっと握った手から察するに、やはり相当に不安がっていたようだ。

 

「よしよし……」

 

 やはり男と違って女性の方が母性的なもので安心しやすいのかもしれない。しかし……こんな時になんだが、ファントムの溢れる母性……もとい、胸にしっかりと顔を埋めているのを見て、俺も少し羨ましいと思ってしまった。

 

「さ、お話できますか?」

「……うん」

 

 ファントムが彼女の肩を抱くと、蚊が鳴くような小さな声だが、確かに彼女は頷き、返事をした。

 

「貴女のお名前は?」

「……わからない」

「わからない? では、貴女はなぜ追われていたのですか?」

「……わからない」

「貴女を追っていた連中は何者ですか?」

「……わからない……全部わからないんです……ごめんなさい……」

 

 と、彼女は俯いてしまった。ファントムは「困った……」という表情を俺の方に向ける。もしかして……記憶喪失? あれほどのショックを受けたのだから、考えられない話ではない。あるいは、故意に記憶を消されたとか?

 追われていたってことはどこかから逃げてきたはずだ。主にガンダム作品にありがちな話だが、そこがもしかしたら何かの研究施設だったのかもしれない。だとすれば、何かの目的のためにこの子の記憶を消したということも考えられる。

 しかし、今はどうして記憶が無いのかということよりも、今後のことを考えることが先決だった。とりあえず名前が無いのは呼び辛いし……。

 

「……ねぇ君、ここにいる間だけでいいから俺に名前をつけさせてくれないか?」

 

 彼女は俺を見上げると、不安げな表情から一転してハッと何かに気がついた表情をする。どうやら俺があの時重傷を負った人物だということを思い出したらしい。ということは、それを自分が治したということまでは覚えているみたいだ。

 そして彼女は小さく頷いた。

 

「そうだなぁ、俺は君に命を救われたから……“カルナ”って名前はどうだ?」

「カルナ……?」

「そう。“慈悲”って意味だ。俺のことを助けてくれた君にはピッタリだと思うけど」

「……」

「……どうした? もしかして……嫌か?」

 

 サンスクリット語からとった名前なんだが、さすがに少し中二臭すぎたか……と、内心不安になりながらもおそるおそる彼女の顔を見る。だが、彼女の表情は俺が思っていた顔とは違っていた。

 

「カルナ……私の……名前……」

「気に入ってくれたか……?」

「……うん、ありがとう! ソウシ」

 

 そう言って彼女……カルナは、初めて俺の名前を呼、俺に笑顔を見せた。

 

「そっか、よかった……って、俺の名前知っているのか?」

「知ってるよ、そっちはファントムで、あっちはサザビー」

 

 と、カルナはまるで人が変わったかのように急に元気になり、ファントムと奥の部屋にいるサザビーを指差した。大方、あの時呼んでいた名前で俺たちの名前も覚えたのだろう。

 

「ふむ、どうやら打ち解けあったようだな」

 

 奥の部屋にいたサザビーさんが顔を見せる。そしてなぜか俺がいつも使っているエプロンを着て、手にはお玉を持っていた。それと同時になにかいい匂いが漂ってきた。

 

「あんた、なにしているんだ?」

「なに、お疲れだと思ってね。私が夕飯を作ってやったのだ」

 

 サザビーさんはドヤ顔をしながらそう言った。

 

「マジか!? そりゃありがたい! っていうかあんた、料理とか作れたのか?」

「自分で言うのもなんだが、私の主人は少しだらしのない性格の人なのでな。あの人の代わりに私がよく家事をしている。食材は勝手に使わせてもらったが大丈夫だったかな?」

「いい! いい! そんなの全然いいって!」

 

 サザビーさんの言うとおり、今日の俺は長時間のガンプラバトルでお疲れの状態だった。その状態で夕飯を4人分も作るのかと思っていたが、代わりに作ってくれたとはありがたい。たまには人の作ってくれた料理にありつくのも悪くないものだ。

 

「……って、なにこれ?」

 

 食卓につくと、テーブルの上にはサザビーさんが作ったと思わしき料理が並べられていた。問題なのはその色だった。赤いなんてもんじゃない……もっと暗い血の色だ。色だけならまだしも、おまけに溶岩みたくゴポゴポいってるし、匂いもなんか……辛そうとかそういうのを通り越して、湯気に顔を近づけるだけで目がしみて喉が痛くなるほどだった。

 

「見ての通りチキンカレーだ。なかなかこの色が出なくてね、台所のほとんどの香辛料を使ってしまったよ」

「……あ、あんたいつもこんなのを主人に作ってやっているのか……?」

「ああ。毎回美味しい美味しいと言って食べてくれるぞ」

 

 絶対その人一回医者に診てもらったほうがいいぞ。と、心の中で思いはしたが、作ってもらった手前、口には出せなかった。

 

「今回はいつもの味は出せなかったが、それでも満足な出来だと思っている。ささ、遠慮せずに食べてくれ」

 

 ちらりとファントムの方を見るとやはりこちらも固まっていた。心なしか眼帯をしていない右側の目が泳いでいるし、口元もへの字になっているし、手に持つスプーンも震えていた。俺の視線に気付いたらしく、互いに「どうしよう……」といった視線を送る。

 

 「うんっ! おいしい!」

 

 その声の主はカルナだった。満面の笑みのカルナの手元には、カレーを掬ったスプーンを持っていた。

 

「ほう、君は話がわかるな」

「うん! 私、こんなに美味しいもの初めて食べました!」

 

 そう言ってカルナは激辛……否、劇物カレーを次々とスプーンで掬っては実に美味しそうにどんどん食べていく。にわかには信じ難い光景だ……あり得ないと言っても過言ではない。

 

「ははっ、お代わりもあるからどんどん食べたまえ。さ、君たちも」

 

 と、今度は俺たちの方に振ってきた。いや、待てよ……? もしかしたらこれ、見かけの割にあまり辛くないんじゃないか? もしくは、辛さを忘れるほど美味いとか……?

 ファントムもその考えに至ったようで、目線を俺の方に送ると意を決して互いに頷き合い、ファントムと共にスプーンでカレーを掬う。そして、目配せしながら震える手で同時にカレーを食べた。

 

 カレーが口へと運ばれる過程で俺は祈った! 神に!

 

 どうかこのカレーが、俺たちが思っているように見かけほどひどくありませんようにと!

 

 ……その答えはすぐに来た。

 

「jsdpkcんヶrkvf@~~~!!!?」

 

 俺とファントムは声にならない声を出しながらのたうち回り、そして思った。

 

 この世界に神はいない……。

 

………………

…………

……

 

 あれから一週間と少しほど経った。あの時食べた劇物カレーのヒリヒリ感を未だに口内に感じつつ、俺はいつものようにオトメと共に学校に登校していた。

 あれっきりあいつらは……天ミナ率いる人化ガンプラの軍団は何の音沙汰もない。てっきり隙を見てカルナを奪いに来るとか思っていたが、そんな様子もないようだ。昼間、俺が学校に行く間はファントムやサザビーさん、それに他の人化ガンプラもカルナの護衛……という名の遊び相手として俺の家に入り浸っている。(ギラーガだけは例外だが)

 俺もそれにすっかり安心しきって、毎日仲間たちと共に平和な学生生活を送っている。もしかしたらこのままずっと平和に過ごしていけるのではないだろうか……と、ちょうどそう思い始めた頃だった。

 事件は、突然起きた。それは俺たちが一日の授業を終え、下校している最中のことだった。

 

「今日もアベさんとこ寄ってこうぜ?」

 

 下校途中、トモヒロが俺たちにそんな提案をしてきた。

 

「またガンプラバトルか? 行ってもお前は多分また見学するだけだぞ」

「わからねぇだろ! もしかしたらモビルファイター用の新しい筺体が導入されているかもしれないし!」

 

 アベさんのところでガンプラバトルが本格的に稼働開始されてからというもの、俺たちは自分のガンプラを持ってほぼ毎日入り浸りっぱなしだ。

 ガンプラバトルを行う筺体、Gポッドには通常のコクピットタイプのものとモビルファイター専用のモビルトレースシステム搭載のタイプの2種類が存在する。しかし“起機動武闘伝Gガンダム”系のガンプラは通常のガンプラに比べて種類も需要も少ない。したがって、モビルファイター用のGポッドは主に都会の大型模型店やゲームセンター等でないと扱ってない場合が多い。アベさんのように個人経営の小さな模型店じゃ……正直言って置いてくれるかどうかは微妙なところだった。

 

「いいから行こうぜ! もしかしたらあるかもしれねぇし!」

「はいはい……」

「今日こそは僕が勝つでござるよ!」

「あ、待ってよみんな~」

「……」

 

 俺たちがアベさんの店に向かって駆け出すが、キサラギは何故か違う方向に視線を向けその場でじっと立ち止まってしまった。

 

「どうしたんだ? キサラギ」

 

 何か様子がおかしい……そう思い、キサラギが見ている方向を俺も見る。俺たちが今立っているのはT字路の分岐地点、そこから右手の角を見てみると……なんだこりゃ? なんだかよくわからにが、赤い靄がかかっている。

 

「どうしたの? ……うわっ、なにこの霧? 真っ赤!」

「珍しいから写真に撮ってTwitterにうpしようでござる。……あれ?」

「どうしたタクオ?」

 

 携帯を取り出したタクオにトモヒロが話しかける。

 

「おかしいでござる……携帯が動かないでござるぞ」

 

 タクオは携帯のボタンをポチポチ押したり、画面を閉じたり開いたりするが、確かに反応がない。液晶画面はノイズがかかっているかのようにあやふやに画面が映されている。

 

「あ、あれ? 私のも……」

 

 オトメの携帯はスマホだが、画面をタッチしてもやはり反応がない。俺も腕にはめてる電子腕時計を見てみると……時間がめちゃくちゃになっている。

 

「どういうことだ……? 電子機器が……もしかしてこれって」

 

 一つ、心あたりがある。ガンダムの世界において、散布すると電子機器を狂わせる能力を持つ粒子がある……。

 

「もしかしてこれ……GN粒子!?」

 

 オトメの言うGN粒子……それは“機動戦士ガンダムOO”シリーズに登場する、主にガンダムタイプモビルスーツの動力源、GNドライヴから放出される光の粒子のころだ。通常、GN粒子は鮮やかに輝く緑色の筈なのだが、目の前に広がるこの靄は真っ赤だ。ということは、もしかすると……。

 

「危ない!」

 

 不意にトモヒロが叫んだ。赤い靄の彼方から赤い光が一直線にこちらに向かってきた。一直線にというのは、つまりは……俺を狙って!?

 

「うわっ……!」

 

 思わず俺は叫び、目の前を腕で覆う。あの赤い光の正体はおそらくビーム! 今からじゃどうやっても避けられない! 約0,5秒の間に脳内においてその結論が出ると、俺はビームに焼かれる痛みを覚悟しながらその時を待つ……。

 

「全く、世話のやける」

 

 ……が、突如目の前に降り立つ赤い影。そいつは手に持つ槍を片手で高速回転させると俺に迫るビームを弾き飛ばした。

 

「ギラー……ガ……?」

 

 間違いなく、それはキサラギの所持する人化ガンプラ、ギラーガだった。どこからともなく現れ、俺の身を守ってくれたのだ。

 

「……来ると思っていた」

 

 キサラギがギラーガに話しかける。

 

「ふん……おい、貴様の下僕に言っておけ。己の主人も守れぬようでは今に己も同じ運命を辿るぞ、と」

 

 下僕、というのはどうやらファントムのことらしい。

 

「ファントムは別に俺の下僕なんかじゃ……!」

「マスター!」

 

 その時、俺の危機を感じてか、スクランダーウィザードを装備したファントムが目の前に降り立った。

 

「ご無事ですか!?」

「あぁ、ギラーガが助けてくれたんだ」

「……お前が?」

 

 ファントムはにわかには信じれらないというような表情でギラーガを見る。

 

「以前私は卑劣な行いをした。それを今この場で清算したまでのことだ、なにか文句があるのか?」

「いや……」

 

 ファントムはそこで黙ってしまった。その表情から察するに、また俺を守るまでに至らなかった自分が嘆かわしいとか……そういうことだと思う。そんなの、俺は気にしないのに……。

 

「それよりも今はこの現状だ。おい、そこにいる貴様! 戦う力を持たぬ者を狙うとはどういう量見だ? 戦士の風上にも置けん奴め! 出てこい!」

 

 と、ギラーガはスピアの切っ先をT字路の先にいるであろう人物に向ける。赤いGN粒子の靄で未だに人がいるのかどうかすら判別がつかないが……。しかし、ギラーガの言葉に一拍置いて、靄の向こうから声が聞こえた。

 

「うふふふふふ……ごめんなさいね、紅い騎士さん。わたくし、その方に寄り添う男がどうしても目障りだったもので……」

 

 その声は少女の声だった。丁寧な口調ながら、どことなく妖艶さがある声色だ。その声が聞こえると、靄の中から何者かがこちらに歩み寄ってくる。固い靴を履いているのだろうか……歩み寄る度に「カツン……カツン……」という足音が木霊する。その足音と共に、その人物の輪郭がぼんやりとだが見えてくる。

 横に大きく広がったスカートに、フリルがいっぱいついた赤い服。所々十字架をあしらった装飾に、花のレースをあしらった赤い日傘を差している。頭にもフリルの付いたカチューシャを被っている。俗に言うゴスロリという衣装だ。確か前にオトメの持っているのを見せてもらったことがある。背丈的は少し低いが、その落ち着き払った印象的に年齢は俺たちとほぼ変わらないようだ。

 その人物が日傘の向きを変えると、顔が見えてきた。その髪型はセミロングの黒髪に、目は少しツリ目…って、こいつは!

 

「き……キサラギ……?」

 

 赤い靄を抜け、俺たちの前にはっきりと姿を現したその人物は、髪の長さや服装こそ違えども、その顔と、そして瞳の色は確かに今俺の隣に立っているキサラギ・レイナと瓜二つだった。

 

「お久しぶりですね、姉さん」

「……アリサ」

 

 目の前の少女に姉と呼ばれたキサラギの表情は険しくなり、その妹の名と思わしき名前を呟いた。

 

「ね、姉さん!?」

 

 その一言に俺は驚愕した。いや、キサラギの家族構成など考えたこともなかったが、まさかここまでそっくりな姉妹がいたなんて……。背丈から考えるに年も同じくらい……ということは察するに。

 

「双子……なのか?」

「……そう、私が姉でアリサは私の妹……」

「うふふ……♪ お初にお目に掛りますね、皆さん♪」

 

 不敵な笑いと共にキサラギの妹、アリサは日傘を畳むと俺たちにスカートの端を軽く持ち上げてかわいらしく挨拶をした。

 

「……アリサ、どうして貴女がここに……」

「どうしてではありませんよ姉さん。突然家を飛び出してしまって……わたくしはとってもと~っても心配したんですよ?」

 

 家を飛び出した……? ということは何だ、キサラギは家出をしているということなのか……?

 

「……」

 

 しかし当のキサラギは視線を下に落とし、そのまま無言になってしまった。この態度を見るだけで、キサラギは何か大きな事情があって家出をしたということは確かだった。

 

「さ、わたくしと一緒にお家に帰りましょう? お父様もお母様も心配していますわよ?」

 

 アリサはキサラギの手を握ると、その手を引いて連れて行こうとする。だが、キサラギは自分の足を地に着けたまま、その場を動こうとする気配がない。

 

「おい、キサラギ……―」

 

 俺が事情を聞こうとキサラギの肩に触れた時だった。突然、俺の手が払いのけられた。払いのけたのはキサラギの妹だ。

 

「気安く姉さんに触れないでいただけますかぁ? この下劣で汚らわしい豚野郎が」

「……えっ?」

 

 見た目よりも結構強い力で払われたため、手を擦っているとキサラギ妹がドスの利いた声色で俺の方を睨んでくる。それを見た皆は突然のキサラギ妹の豹変ぶりに息を呑み、ファントムも思わず剣を抜こうとするが俺が制止させる。

 

「ここ数日姉さんのことを遠目に見守っていたんですけどもぉ……貴方、姉さんのなんなの?」

「な、何って……」

「休み時間になれば姉さんを昼食に誘ったりなんかして……姉さんは一人で静かにいたいっていうのが貴方にはわからないのかしら?」

 

 口元は常に笑みを浮かべているのだが、その口から次々と放たれる暴言と、その視線だけで人が殺せるんじゃないかと思うくらいに向けられる冷たい視線に、俺はもはや恐怖を通り越して命の危機を感じていた。実際、さっき撃たれたのだから俺の命を狙っているのは明らかだった。というか、なんでこいつは学校の昼休みのことを知っているんだ!?

 

「お……俺はただ、キサラギも俺達の仲間だから誘ってやろうと思っただけで……」

 

 恐怖を感じつつも、反論をする俺。その俺の言葉を聞くと、キサラギ妹の笑みが段々大きくなっていき、ついには声をあげて嗤うほどになった。

 

「あはっ……アッハハハ! 姉さんがアンタ達の仲間? 笑わせないでくださる?」

 

 明らかに先ほどまでの誠実そうな雰囲気とは違い、態度を一変させたキサラギ妹はキサラギの肩を抱くとそのまま力を込めて自分の方に引き寄せる。キサラギの口から小さく「あっ……」という声が漏れた。

 

「姉さんは私だけのモノなのよ……ずっと私だけを見ていればいい……だから仲間なんて必要ないのよ」

 

 と、明らかに嫌そうな表情のキサラギの顔を指先で撫でながら実に愛おしそうに頬を染める。その発言と光景を見て俺達は困惑と同時にドン引きしつつ、なんとなく察してしまった……。

 

(なんだこいつ……ヤバい奴!?)

(俗に言うシスコンというやつでござろうか? 極度の……)

(百合姉妹モノ……それも双子で妹攻め……! しかもヤンデレ気質ときたわ! これは私の中でポイント高いわよ! ウェヒヒヒヒ♪)

 

 約一名涎垂らして鼻息を荒くしてニヤついているのはともかく、問題は他にもあった。

 

「御託はいい。それよりも早く我々の前に姿を見せたらどうだ?」

「あら、なんのことかしら?」

 

 ギラーガが突っかかってきた。

 

「先ほど攻撃してきた者のことだ。いるのだろう? この靄の中に」

「あーらあら、そうだったわね。忘れていましたわ」

 

 思い出したかのようにまた先ほどの口調に戻り、キサラギ妹は一旦キサラギを離すと、指を鳴らす。すると、先ほどまで道路を覆っていた赤い靄が消えていき、その中に隠れる何者かが姿を現す。

 それは背中に翼のような大きなバインダーを持ち、まるで十字架に縛られているかのように両手を水平に伸ばし、そのバインダーのスリット部から赤い靄を噴出させていた。全身を赤い装甲で包み、赤く長い髪は、赤い粒子の噴出が止んでいるにも関わらず、まだ噴出しているのかと錯覚するぐらいに長く、鮮やかに揺れ、そして美しい。外見は俺達とさほど変わらない少女……その少女は瞑っていた目を開くと、その黄色い瞳で俺達を見下ろす。

 

「紹介しますわ。わたくしのガンプラ、『ガンダムスローネドライ』です。ドライちゃんって呼んであげて下さいね♪」

 

 ドライはキサラギ妹の隣に静かに降り立つと、無言のまま軽く傅いて挨拶をした。

 

「ガンダムスローネ……ドライ?」

 

 “ガンダムスローネドライ”は機動戦士ガンダムOOに登場するチームトリニティの使用する疑似太陽炉搭載型のモビルスーツだの一体だ。ということは、さっきの赤い靄はドライのGNステルスフィールドの再現ってわけか。道理で電子機器が使用できなくなったわけだ。

 

「主人の命令とはいえ武器を持たぬ人間を攻撃するとは……貴様には戦士としての誇りは無いのか!?」

 

 ギラーガがスピアの切っ先をドライに向けて声を張り上げる。だが、ドライは無言のまま何も言わない。代わりにキサラギ妹が口を開いた。

 

「そんなこと言ったってドライは私が作ったガンプラなんですもの。ガンプラを作った主人の命令には絶対服従なのは当たりまえじゃありませんこと?」

「そんなこと……!」

「わたくしねぇ、実を言うとガンプラって……大大だ~いっ嫌いなんですの」

 

 またもキサラギ妹は、背筋が冷たくなるような視線を俺たちに向ける。

 

「だって、わたくしの大事な姉さんを奪ったんですもの……だ・か・ら、決めたの」

 

 次の瞬間、キサラギ妹が自分の小さな拳を握ったかと思うと、突然それをドライの顔面を殴りつけた。

 

「なっ……!?」

 

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。殴られた衝撃で後ろに倒れこむドライ。殴られた個所は青痣になり、しかも倒れたドライに対しキサラギ妹は尚も足で踏みつける。その光景に、俺は得も知れぬ嫌悪感を抱いた。

 

「こんな風に姉さんの周りにあるガンプラを片っぱしからブッ壊していこうってねぇ! そうすれば姉さんの興味を引くものは何もなくなるし、私だけを見続けてくれる……そうでしょお?」

「なっ、なにを……! お前、自分が何をしたのかわかって……―」

 

 胸の中で渦向いた嫌悪感を言葉にして、キサラギ妹にぶつける。しかし、俺の言葉はそこで止まった。何故なら、キサラギが無言で、そして何故かとても悲しそうな顔をしながら俺の服の裾をぎゅっと掴んで静止させたからだ。

 

「でもただ壊すだけじゃつまらないのぉ……お姉さまの大好きなガンプラで私の大嫌いなガンプラをブッ壊す……それが一番効果的な方法だと思うの。だからぁ!」

 

 次の瞬間、地面に転がっていたドライが瞬時に起き上がり、ビームサーベルを握るとギラーガに斬りかかる。その攻撃をギラーガは無言のまま、スピアで受け止める。

 

「私に壊させてよぉ……姉さん! そうすれば姉さんは私の物になるんだからぁ……! 安心して……そのドライだって、用が済めばバラして捨てて……―」

「……ファントム!」

「はいっ!」

 

 俺の怒声と同時に、ファントムが刀を抜き鍔迫るギラーガとドライの間に割って入り、戦いを止めた。

 

「ソウシ君!?」

 

 俺は……これほどまでに誰かに対して怒りの感情をぶつけたいと思ったことは無い。両拳は爪が掌に痛いくらいに食い込み、口の中では奥歯がギリギリと擦り合う。尋常ではないほどに己の冷静さを欠いている俺の姿を見て、オトメは不安げに俺の名前を呟く。

 だけども、俺には我慢が出来ない……! キサラギの制止を振り払い、俺の方を冷ややかな目で見るキサラギ妹に向かって叫ぶ。

 

「お前……ガンプラを何だと思っているんだ!! ガンプラは……お前の都合でどうにかしていい道具じゃない!!」

「……べっつに、わたくしのガンプラをわたくしがどうしようと勝手じゃありませんの?」

「そうやって自分の都合で意思ある者を弄んで……それは、俺ら人化ガンプラのマスターが一番やっちゃいけないことだろうが! 大体何なんだお前は! キサラギの好きなガンプラでキサラギを傷つけるなんて……双子の姉妹なのにそんなに姉のことが嫌いなのか!」

 

 俺は胸中の怒り全てを言葉にしてぶつける。しかし、キサラギ妹の態度は変わらず冷ややかなものだった。

 

「貴方、先程から何を聞いていらしたの? 勘違いなさっているようですけど、わたくしは姉さんのことがだぁい好きですわ♪ だからわたくしだけを見てほしいの……ガンプラだけじゃない……貴方の言う仲間も姉さんには不要なの」

「そんなわけあるか! 人は一人でいるよりも……誰かと一緒にいた方がいいに決まっている! お前にキサラギのことを勝手に決める資格はない!」

 

 なぜ俺が、家出の理由も知らないキサラギのことに対して、こんなにも感情むき出しで言い合いをしてしまっているのかはわからない……傍から見れば、ただのおせっかいやきか偽善者のようにも見えるだろう……。だけど、こいつにだけはキサラギを渡してはいけない。それだけは確かだった。

 

「ガンプラを壊すためにガンプラを使うだと!? ガンプラはそんなことのために使うものじゃない! ガンプラは……自分の分身だろ! 友だろ! 相棒だろ! 家族だろ!! お前のやり方は……自分勝手すぎる! ガンプラは体のいい奴隷じゃないんだ!!」

「はぁ~、もう……うっざ」

 

 キサラギ妹は指で耳栓をすると、心底鬱陶しそうな顔をして俺の方を一瞥する。

 

「偉そうなことをベラベラ喋っていらっしゃいますけど……貴方は一体姉さんの何なんですの? どういうご関係で?」

「関係って……ただのクラスメイトで……友人だ」

「嘘ですわね」

 

 尚も俺の方を鋭い視線で睨みつけながら、キサラギ妹は俺の発言を否定した。

 

「ただのクラスメイトや友人程度の関係でそこまで赤の他人のことを強く言えません。ということは……いつからですの?」

「な、なにが……?」

「とぼけずに、正直に言いなさい」

「だから何が!?」

 

 キサラギ妹はその睨み顔を訝しげな表情に変え、俺の方を凝視する。どうやら俺とキサラギの関係を疑っているようだが、俺は正直なことしか言っていない。こいつは一体何を聞き出したいっていうんだ……?

 

「……姉さんと付き合い始めたのは何時からですの?」

 

「へ……?」

「……え?」

 

  と、ついに痺れを切らしたキサラギ妹が質問の本懐をぶつけてきた。だが、流石のこれには俺だけでなく、当のキサラギ本人も戸惑いの声を上げざるを得なかった。

 

「そ、そうだったのでござるかソウシ殿!?」

「どおりでおかしいと思ってたんだよなぁ、お前がキサラギちゃんにそこまで肩入れするなんて何かあると思ったんだよなぁ」

「ソウシ君! トモヒロ君というものがありながら!」

「マスター、私もマスターとレイナがそのような関係だったとはつゆ知らず……」

 

「ちょっ、ちょっと待てお前ら! そんなわけないだろ! お前も、適当なこと言って惑わそうったってそうはいかないぞ!」

 

 若干顔が赤くなるのを必死でごまかしつつ、キサラギ妹を指さしながらその前に対峙する。チラッと横目でキサラギの方も見ると、やはりこちらも戸惑いで顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向いていた。

 

「その慌てた反応……やはり貴方が諸悪の根源のようです。いいですわ、こうなったらガンプラバトルで勝負しましょう」

「なにっ……ガンプラバトルでだと?」

「えぇ、あなた達が勝ったらわたくしはおとなしく引きさがります。でも、わたくしが勝ったら……姉さんはわたくしが連れて帰ります。もちろん姉さんにはガンプラの……いえ、ガンダムに関する全て捨ててもらい、以降それらの類には一切触れないということを条件に」

 

 突きつけられた条件はあまりにも理不尽で法外なものだった。こちらが勝った時に得られるメリットが小さすぎる。当然、こんな勝負を受けるつもりなどは無い。

 

「そんな条件飲めるわけ……!」

「……わかった」

 

 しかし、俺が反論しようとしたとき、キサラギが前に出てその条件をあっさりと承諾してしまった。

 

「き、キサラギ!? お前どうして……」

「……これは私達姉妹の問題……関係ない貴方を巻き込むわけにはいかない」

「いいえ、そうはいきませんよ姉さん」

 

 またもキサラギ妹が割って入る。

 

「わたくしは言いましたよね? “あなた達”と。わたくしの相手は姉さんとそこの貴方、二人で相手をしてもらいます」

 

 と、キサラギ妹は俺の方を指さしてそう言った。

 

「2対1だと……?」

「多少大きな条件を背負ってもらうのでこちらとしてもそれくらいのハンデは用意させてもらいます。わたくしにとっては仲間などというくだらない物も姉さんには捨ててもらいたいと思っていますので」

 

 俺達が負けたらキサラギは連れて行かれる……そしてガンプラも、俺達も捨てさせられる……。こんな理不尽なバトル、まっとうな勝負で受ける必要など無いのはわかってる。でも……俺には許せない! ガンプラを道具のように使役して、あまつさえガンプラが大好きなキサラギから無理やりガンプラから切り離そうとする、その自分勝手な行動が……!

 

「どうです? 勝負を受けて頂けますかしら?」

「……いいだろう。お前の申し出を受けよう」

 

………………

…………

……

 

「これで終わりだ!」

「きゃあ~~~!!」

 

 ほぼ同時刻、アベの経営する模型店、「ブルーコスモス」ではアベの駆るグフ・ツインブレイカーが対戦相手のシャア専用ザクを一刀両断したところだった。

 

「ううっ……また負けてしまったわ……」

 

 対戦相手はソウシ達のクラスの担任である、独先生ことヤマナカ・ユリだった。

 

「なかなかいい筋だったぜ、お客さん。ちょっと詰めが甘かったけどな」

「やっぱり素組みのガンプラじゃ勝てないのかしら……」

 

 Gポッドから二人が出ると、ユリが手に持ったザクを見ながらそう言った。

 

「まぁ今日は他に客がいないから俺が相手になったけど、ガンプラバトルっていうのは使用する機体・その出来・パイロットの腕、それらがバトルに作用されるからな。素組みのガンプラでもいろいろなビルダーとのバトルを経験すればそれなりに戦えるようにはなると思うぜ」

「そんなもんかしら……」

 

 バトルを終えた二人は一階の店舗へと戻り、アベさんは通常業務に戻る。一方のユリは、落胆した様子で手に持つシャア専用ザクを握りしめながら塗料や道具のコーナーを覗いて回る。

 学校内でも話題になっているこのガンプラバトル……ガンプラを持っている自分も試しにやってみようと、仕事終わりにガンプラ片手に初めてやってみたのだが、今一つ手ごたえを感じ得ずにいた。しかし不思議と、ユリはこのゲームの魅力に気付いてきた。確かにこのゲームはただのゲームとは違う。自分のガンプラを作る腕が左右される。今までガンプラは素組みで満足してきたが、このゲームをやる上ではそういうわけにはいかない。ユリは真剣に塗料・道具を選んでいた。

 やはり自分としては、あの人となったガンプラ、サザビーを使ってみたいという気持ちがあるのだが……肝心のサザビーは現在どこかに行ってしまっている。

 

「全く……大切なご主人様を置いてどこをほっつき歩いているんだか……」

 

 小声で独り言を呟くユリ。その時、店のドアに取り付けてある鈴が鳴り、新たな客が店内へと入ってきた。

 

「いらっしゃい。よう、ソウシ君か」

 

 アベ店長の声でユリはハッとした。

 

(ソウシ……? ソウシってもしかして……!?)

 

 商品棚の陰に隠れ、おそるおそる入口の方を覗いてみる。そこにはやはり、自分の教え子であるキモト・ソウシと彼と親しいクラスの友人らが数人店の中に入ってくるのが見えた。

 

「こんちわ、アベさん。えーっと……Gポッド空いてる?」

「ああ、さっきまでそこにいるお客さんとバトルしていたんだが……あれ?」

 

 アベさんがこちらを指さしてきたので、ユリは慌てて2階へと上る階段の陰に身を隠した。ユリは昔、付き合っていた恋人に熱烈なガンダムファンだということをカミングアウトした際、ドン引きされた上に別れてしまったという経験を持つため、自分の趣味を周囲の人間にバラすのには抵抗がある。

 冷静になればわかることだった……ここは学校の近所において、Gポッドを設置してある数少ない店……となれば必然的に生徒の誰かが利用するだろう。

 

(まずったわね……こんな時間に来るんじゃなかったわ……)

 

 今更後悔しても、生徒たちはもう店内に入ってしまった。こうなったら逃げるのは、彼らが入口から離れるか、もしくはこの店を出るまで待つしかなかった。

 

「どうしたの? アベさん」

「いや……まぁいいか。今日もガンプラバトルか?」

「ああ。俺とキサラギと……それともう一人の三人でやりたいんだ」

 

 アベ店長はソウシ達のグループに紛れている見慣れない少女の存在に気が付くと、何かを察したのかそれ以上は言及しなかった。

 

「三人だな、今ちょうど空いているからすぐバトルできるぞ」

 

 と、アベ店長はソウシ達をGポッドのある二階まで案内しようとする。しかし、階段には物陰に隠れるユリがいる。

 

(げっ! ガンプラバトルするの!? ここにいたらバレちゃうじゃない! ……ええいままよ! こうなったら!)

 

 アベ店長らが来る前にユリは階段をそろりそろりとかけ上り、バトルルームの一番奥まで小走りで向かう。

 

………………

…………

……

 

「……ごめんなさい……貴方をこんな事に巻きこんでしまって……」

 

 Gポッドに乗り込み、出撃のセッティングを行っていると、キサラギからの通信が入る。あのキサラギが珍しく自分の方から話を切り出し、そして謝罪をしてきた。その意外さに、俺は一瞬戸惑ってしまった。

 

「あぁ、いや……俺は全然気にしてないって。それに、今回の場合は俺が無理に割り込んだみたいなもんだし」

 

 あのキサラギ妹……あいつの横暴だけは絶対に許してはいけない。万一それを許したら、キサラギはおそらくもう学校どころか、この街にもいられなくなる。そんなことをする権利は誰にも無いはずだ。

 

「それに……俺は個人的にもあいつは許せない。ガンプラはただの道具なんかじゃない……それをこのバトルを通してあいつに教えてやる」

「……ありがとう」

 

 お礼の言葉を伝え、キサラギからの通信は切れた。小声でだが、キサラギは確かに俺に対して礼を言った。あのキサラギが……と、今日はキサラギが俺に対して意外な反応を見せてばかりだった。それは多分、友達として良い兆候なんだと思うけど、このバトルに勝たなきゃその反応も今後見ることはできない……。

 

「絶対に勝つぞ、ファントム」

『はい、マスター』

 

 ゲームをスタートさせると、モニターに浮かび上がる艦内の様子。ザフトの宇宙戦艦、“ミネルバ”のモビルスーツデッキの様子だ。正面のシグナルが発信の合図を出すと、俺はお決まりの文句を言いながらスロットルレバーを前に倒す。

 

「キモト・ソウシ。ザクファントムカスタムBI、出撃()るぞ!!」

 

 直後、出撃の衝撃で身体を締め付けるプレッシャー。その後、俺の駆るザクファントムは虚空の宇宙へと飛び立っていった。

 

「……キサラギ・レイナ。ギラーガ……出撃()る」

 

 俺の後を追うように、キサラギもミネルバ内部からギラーガを発進させ、宇宙へと出た。

 

………………

…………

……

 

「どうだい? 今日のソウシ君の様子は」

「アベさん……まだわからないっス」

 

 モニターの前に集まるトモヒロ達にアベが声をかける。モニターには出撃したソウシ達の機体情報が表示されていた。

 

「ほーう、今日のソウシ君はいやに攻撃的だなぁ。あのオリジナルウィザードではなく、市販のスラッシュウィザードを装備か。しかも両手にはドムトルーパーのギガランチャーか……大方近接戦闘特化のギラーガのサポート役っていったところだな」

 

 と、アベは今日のソウシが駆るザクファントムの機体装備を冷静に分析する。

 

「ソウシ殿……焦りすぎて周りが見えなくならなければいいのでござるが……」

「そういや初めてだっけか、ソウシ君とレイナちゃんでのコンビ出撃は」

 

 これまでにソウシ達は何度か仲間内でガンプラバトルを行っていた。しかし、そのガンプラバトルにおいてレイナは決してソウシ達と共にガンプラバトルをすることはなかったのだ。

 

「キサラギちゃん、なんだか私達と一緒に戦うことを怖がっている気がする……」

「怖がる? 嫌がるじゃなくてか?」

「うーん、うまく言えないんだけど……そんな感じがする」

「……もしかしてあの子が関係しているのか?」

 

 アベは視線を三つ目のGポッド、キサラギ・アリサの乗るポッドに視線を向ける。

 

「いやその……うまく言えないんですけど……」

「……ま、何か訳ありらしいし、それ以上聞いたりはしないけどさ」

 

 と、アベはまた視線をモニターの方に戻した。

 

 

 

(ご、誤算だったわ……! まさかみんながモニター前に集まるなんて……)

 

 その様子をこっそりと覗くのはヤマナカ・ユリだった。彼女は今どこにいるかというと……。

 

(とっさにこのロッカーの中に隠れたはいいけど……まさかモニターの向かいに置かれているなんてぇ!)

 

 元々、この2階は店舗の物置きとして使用していたのをバトルルームへと改装したのだが、改装工事を行ってからまだ日が浅く、急造したガンプラバトルルームにはまだ物置の時に置いてあった物が所々に散乱していた。この使われていないロッカーもその一つである。生徒達に見つからぬよう、その中にとっさに隠れたユリはロッカーの隙間から外の様子を窺いながら脱出する機会を伺っていた。

 

(いつあそこから退くのかしら……って、バトルが終わってからに決まっているわよねぇ……はぁ~あ……早く終わってくれないかしら……)

 

………………

…………

……

 

「そういえば、このステージは……?」

 

 見渡す限り漆黒の空間が広がるこの宇宙空間。出撃前にキサラギとの会話に夢中になってしまってここが何のステージだったのか確認しておくのをすっかり忘れてしまっていた。

 

「……ここはガンダムOOの終盤で舞台になった……」

 

 その時、何か巨大な物体が俺達の視界に出現した。一瞬見えたゴツゴツとした岩場から、それは小惑星のようだとも思えた。が、その周囲を巨大なリングが覆い、随所に巨大なスタビライザーやタワー等、明らかに人工物で造られた個所も存在する。

 

「……コロニー型外宇宙航行母艦、“ソレスタルビーイング号”。……その宙域付近」

 

 そしてモニターいっぱいに映し出されるその全体像……まさしく、今俺達の眼前に露わになったのは、小惑星を改造して建造されたという超大型宇宙戦艦だった。

 

「はっ……ははっ、わかっちゃいるけど、こう巨大だと圧巻されるものがあるな」

 

 ソレスタルビーイング号の全長はゆうに全長15kmもある。そんなものが目の前にあると、自分たちのガンプラがいかに矮小な存在なのかを実感させられる。今回は、ソレスタルビーイング号を含め、その付近宙域全てがバトルフィールドとして設定されている。戦艦の大きさもさることながら、そのフィールドのスケールの大きさにただただ驚かされる。

 

「……驚いてばかりもいられない。こう広範囲だと、敵の索敵も難しい……」

 

 キサラギのギラーガがザクファントムに追いつく。確かに、いつものように複数人対複数人のバトルとは違い、今回は1対2……数ではこちらが優っているとはいえ、この広範囲で逃げられたら、見つけることは難しい。

 

「よし、敵からの不意打ちをくらうかもしれない。ここは編隊を組んで急な襲撃に備えよう」

「……了解」

 

 実に淡々とした態度でキサラギは短く返事をし、ギラーガをザクファントムの隣につかせる。敵は一機、しかもその相手はおそらくあのスローネドライだろう。だが、ガンダムスローネドライは、武装がGNビームガンとGNビームサーベルだけと他のスローネシリーズのガンダムに比べると非常に貧弱なものだ。火力だけなら重武装のザクファントムとギラーガが負けることはまず無いだろう。しかしだからこそ、相手からの不意打ちが予想される。

 

『……フッ、皮肉なものだな』

 

 通信越しに、今度はギラーガの声が聞こえてきた。

 

『ファントムよ、我々はいつしか決着をつけねばならない好敵手同士。それがどうだ? 今の我々はこうして肩を並べ同じ敵を討とうとしている。実に皮肉なものではないか?』

『……私は単に、マスターの思いに私自身も同調したまでのことだ。レイナの妹とはいえ、あの発言と態度……改めさせる必要がある』

『フン、一介の下僕風情が己の心情で戦うというのか。傲慢さも甚だしい』

『なんだと!?』

「おいお前ら、今はそんなこと言い合っている場合じゃないだろ」

 

 仮にも今は戦闘中だ。いつ、どこから敵が襲ってくるのかもわからないこの状況で、無益な言い争いをしている場合ではない。俺の言葉でファントムとギラーガの二人は口を噤み、それっきり話すことはなくなった。

 ……が、俺にはなんとなくファントムの気持ちがわかる。ファントムは……いや、ファントムだけじゃない。オトメのサバーニャにトモヒロのゴッドにタクオのザクⅠ、それにサザビーや天ミナ達だって、マスターの姿こそ明らかにはなっていないが皆自分のマスターを大事に思っている。なのに、どうしてギラーガだけはこんなにも自分の主人であるはずのキサラギに対して無関心なのだろう……?

 

『マスター!』

 

 その時、コクピット内に警報音とファントムの声が響いた。左側のモニターを見ると、大出力のビームが一直線にこちらに迫ってくる。しまった! 考え事をしていて反応が遅れた!

 間一髪でその攻撃を避けると、改めてビームが放たれた方向を拡大し、モニターを直視する。

 そこには……やはりいた。深紅の機体色に紅いGN粒子をまき散らす、あのガンダムスローネドライの姿が。だが……おかしい。ガンダムスローネドライには、あれほどの高出力のビーム砲は搭載されていないはずだ。

 

「うふふふふ……どうだったかしら、わたくしからのプレゼントは?」

 

 通信が入ってきた。相手は……もちろん、ガンダムスローネドライを駆るキサラギ妹からだった。

 

「キサラギ、あのスローネドライは……!」

「……」

 

 キサラギは無言のまま言葉を発しない。だが、その瞬間に僅かに息遣いが荒くなったのが聞こえた。それを聞いて俺は確信した。おそらく、キサラギは俺と同じことを考えているはずだ。

 

「不思議に思っているでしょうねぇ……そうよ、さっきまでのドライちゃんは仮の姿。これがわたくしのスローネドライの真の姿……名付けて!!」

『紹介、ガンダムスローネ・スタークドライ、以後お見知りおきを』

 

 キサラギ妹とは別の者の声が聞こえた。澄んだ女性の声だが、抑揚がなく、まるで初期設定の音声ソフトのような感じだ。それがどうやらスローネドライの声のようだが、ここでようやく口を開いたようだ。

 赤いGN粒子を撒き散らしながらこちらに接近してくるスローネドライ……その全体像がようやく確認できた。ベースは確かにスローネドライだが、腰にはスローネツヴァイのGNファングコンテナを装備し、左肩にも同じくツヴァイのGNバスターソード、そして背部にはスローネアインのGNハイメガランチャーが装備されており、頭部の装飾も一部が変わっている。早い話がスローネシリーズの武装全部載せだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あいつ、さてはGポッドの中でガンプラのパーツを換装したな」

 

 さっきこの店に移動してくるまでの間、キサラギ妹が自分のガンプラに何かをする様子は見受けられなかった。ということは、必然的にガンプラをスキャンする直前に換装パーツでスローネドライを換装強化したと考えるのが妥当だろう。

 一方の俺たちは、キサラギ妹がスローネドライそのままの姿で仕掛けてくると考えていたため、完全に出鼻を挫かれた。

 

「……まるでヤークトアルケー」

 

 キサラギの呟いたMS、それはガンダムOOのMSV(モビルスーツバリエーション)において“ヤークトアルケーガンダム”という、アルケーガンダムをベースに強化兵装が施された機体のことだ。同様にバスターソードやGNハイメガランチャーが装備されている機体だが、このスローネドライはさしずめそれの簡易版といったところだ。

 

「今のはただの挨拶よ。さぁーて……どっちがわたくしの相手をしてくれるのかしらぁ?」

 

 さっきの長距離からの射撃は、おそらく背部に装備したGNランチャーによるものだろう。しかもこの口ぶりからして威力は最低出力で撃ったものだと思われる。スローネドライ……改め、スタークドライは俺達の前に対峙すると、見定めるかのように俺のザクファントムとキサラギのギラーガを交互に見る。

 

「……先行する」

「お、おいキサラギ!?」

 

 キサラギのギラーガがスピアを構え、スタークドライの間合いに入る。

 

「あっはははははっ!! やっぱり来ると思ったわ! 姉さんたら、やっぱりわたくしのことを……♪」

「……こんな無意味な戦いは長引かせるわけにはいかない……アリサ、すぐに終わらせる」

 

 スピアを片手で回転させ、両手で構えて突き攻撃を繰り出す。だが、キサラギ妹の方もガンプラバトルに対しては素人ではないらしい。キサラギの攻撃を軽い身のこなしで避け続ける。

 

「やぁよぅ、せっかく姉さんとバトルができるんですもの。もっともっと楽しまないと!」

 

 スタークドライの右腕肘部分から何かが射出される。あの部位には確か……GNハンドガンがあり、その中にスローネアインと結合することにより大出力のGNハイメガランチャーは発射することのできるケーブルが収納されているはずだ。思った通り、射出されたのはケーブルだ。だが、どうやらただのケーブルではないらしい。

 

「じわりじわりとかわいがってあげるわぁ……蛇の生殺しのようにねぇ!」

 

 スタークドライはそのケーブルをギラーガの攻撃の隙を突いて腕部分に絡めさせる。次の瞬間、ケーブル部分に火花が散ったかと思うとギラーガの全身に電撃が走り、動きが止まる。

 

「あのケーブル……エグナーウィップか!」

 

 エグナーウィップは対象物を捕縛することにより電流を浴びせることができるという、OO版ヒートロッドのような武器だ。どうやらスローネの結合ケーブルを改造し、エグナーウィップとして取りつけているらしい。こんな攻撃を食らったら、機体は痺れて動かすことができない。ここは俺がフォローしないと!

 

「キサラギ! 今助ける!」

 

 両手に装備したギガランチャーをスタークスローネに向ける。

 

「おぉっと」

 

 だが、スタークスローネはエグナーウィップを引き寄せ、自機の前に感電しているギラーガを配置する。

 

「ギラーガを盾にするつもりか!?」

「無闇に攻撃すると、姉さんに当たっちゃうわよぉ?」

『くっ……なんという卑劣な!』

 

 その卑怯な行いに、ファントムも怒りの声を上げる。

 

「アッハハハハハ!! 卑怯上等! 卑劣結構! わたくしはそういう言葉がだぁい好きなんですの! せっかくの姉妹水入らずを……邪魔するんじゃありませんよ!」

 

 スタークドライの左手がこちらに向く。見ると、左手肘下にもGNハンドガンが装備されている。その銃口がこちらを向くと、赤いビームが断続的に発射された。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟にバーニアを噴かし、ビームによる攻撃を避けながら距離をとる。クソッ! キサラギの援護に回るはずだったのに、これじゃ手の出しようがない!

 

「さぁ姉さん。邪魔者は遠くに行ったわ。姉妹同士、楽しみましょ♪」

「……私にそのつもりはない」

 

 ギラーガの動きを封じ完全に油断をしているアリサ。だがスタークドライがファントムの追尾に気を取られている隙を見て、ギラーガの肘と膝、背部コンデンサーから緑色のXトランスミッターが突出する。それが怪しく輝くと、黄色のビットがいくつも放出される。

 

「……一気に片をつけさせてもらう」

 

 ビットを自機の周辺に配置し、そこから発射するビームで自身を捕縛しているエグナーウィップを焼き切る。

 

「あらっ!?」

 

 不意の反撃で思わず間の抜けた声を出すキサラギ妹。自由になり、瞬時に体勢を立て直したギラーガはスピアを構え、スタークドライに向けて突きを繰り出す、と同時にビットによる攻撃によってスタークドライの逃げ場を塞ぐ。

 

「……もらった!」

 

 一点に集中させ、繰り出される突き。逃げられるはずはない。直後、確かな手ごたえと共にスタークドライを葬られる……はずだった。

 

「なぁ~~~んちゃって☆」

 

 突如、スタークスドライの背部に装備された大型GNコンデンサーのスリット部から赤い靄のようなものが放出される。これは先ほど見たのと同じ大量のGN粒子……つまりこいつは今GNステルスフィールドを張ろうとしている! これを展開して俺達のセンサー類を潰そうという魂胆だろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その思惑通り、ステルスフィールドの効力により照準がズレたギラーガの攻撃は、虚しく空を切った。

 

「焦っちゃダメよ姉さん、ゲームはまだまだ始まったばっかりじゃなぁい♪」

 

 赤いGN粒子のカーテンの向こう、そこには両手を大きく広げて背中のGNコンデンサーをフル稼働させてGN粒子を撒き散らすスタークドライの姿があった。

 このステルスフィールド下に入ると、スタークドライ以外の機体は一時的にセンサー類が麻痺し、敵機の補足ができなくなってしまう。つまりは、射撃系武器はほぼ意味を成さなくなってしまう。

 

「くそっ、この装備にしたのは失敗だったか……!?」

 

 今の俺のザクファントムの装備は、背中には2門のガトリングを備えるスラッシュウィザードに、両手にはギガランチャーという、火力重視の装備だ。近接戦闘が得意なギラーガの援護に回る形として今回はこの装備を施したのだが、相手がこの戦法をとるとなると、その装備の意味はほぼなくなってしまう。

 さらにこちらのビット系攻撃も完全に遮断されてしまう……ギラーガの攻撃を封じたも同然だ。そうこうしているうちにスタークドライは真っ赤に染まったGN粒子の向こうに姿を隠してしまった。

 

………………

…………

……

 

「さぁ~て、向こうは動けないし。どうやって攻撃しよっかな~♪」

 

 GN粒子のカーテンの中でアリサはまるでどのお菓子を食べようか迷う子供のような反応をしていた。

 

『提案、ファングによる攻撃を進言します』

 

 ドライがこの状況に有効的な武器の使用を進言した。

 

「おバカさん、ファングなんて使うわけないでしょ」

『疑問、なぜです?』

「いいから黙って、アンタはわたくしの言うとおりにしなさい。料理はゆっくりと……味わうものよ。フフフ……♪」

 

………………

…………

……

 

「どうする? キサラギ……」

「……」

 

 俺が名前を呼んでもキサラギは無言のままだ。さっきからGN粒子のカーテンの中に隠れたスタークドライを見つめている。こちらから仕掛けることができない以上、こうやって相手の出方を待つしかないか……。

 だがその時、敵からの攻撃を告げるアラート音がけたたましく鳴る。

 

「アラート音!? くっ……!」

 

 ステルスフィールドの向こうから赤い粒子ビームが降り注ぐ。おそらくスタークドライの両肘に装備されているGNビームガンによる射撃だ。やはりこちらからは相手を補足することはできないが、向こうからはこちらを補足することができるらしい。

 おまけに、細いビームガンによる攻撃に混じって大出力のGNメガランチャーによる砲撃も時折加わる。まずい……! 低出力のGNビームガンならばシールドで防ぐこともできるが、こんな大出力のビーム砲を食らったらひとたまりもないぞ! しかもどのタイミングで来るのかわからない……咄嗟に来ても避けようがないぞ!

 

「キサラギ! ここは一旦退こう! あのステルスフィールドの効力も無限じゃない。あんなに大量にGN粒子を放出したなら、しばらくステルスフィールドは使えなくなるはずだ!」

 

 降り注ぐビームの雨の中をかいくぐり、俺はキサラギにそんな提案をする。この広いバトルフィールドは、俺たちにとっても有利に働くはずだ。何も今は敵と正面切って戦う必要は無い。そう判断したのだ。

 

「……今ここで……今ここでアリサの元を離れれば……また補足が難しくなる……」

「でも、だからって今こんな状況で……!」

「この場を逃せば……アリサはGN粒子のチャージのため私たちから姿をくらます……!」

「っ……!」

 

 キサラギのいう事も正しかった。この広大なフィールドは、双方にとって有利に働く。しかし、一度のステルスフィールドでここまで苦戦を強いられるスタークドライ相手では、長期戦になるのはこちらが不利といえる。やはり短期戦に持ち込むしかないということか……!

 

「なら一か八か……キサラギ! 俺の後ろに隠れろ! それで次の攻撃が来たらその地点に俺が攻撃を加えるから、お前は俺の攻撃の後にステルスフィールドの中に入って格闘戦を仕掛けろ!」

「……でも……そちらの装備では敵の補足はできない」

「なぁに、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね。弾幕を張って相手を怯ませることぐらいはできるさ! だからその間に!」

「……わかった」

 

 モニター越しにギラーガの姿を見ると、キサラギの返事と共にギラーガが小さく頷くのが見え、俺の背後に回る。今回の俺はあくまでサポート役……足手まといにだけはならないようにしないと。

 

「やるぞファントム!」

『はい!』

 

 ファントムの方も気合十分といった様子だ。それとほぼ同時に再び鳴り響くアラート音、今度は前方2時の方向からだ!

 

「……ビット」

 

 キサラギのその言葉に、ギラーガからビットが放出されると、俺の前に多数のビットが設置される。それらはまるで光の壁のようにいくつも重なり合って防御陣形をとる。

 

「キサラギ……?」

「ギラーガビットは球状のビーム……同じビームならば敵のビームを相殺できるはず……」

「ありがとう、キサラギ!」

 

 ビットの壁とGN粒子のビームがぶつかり合う。ビットの合間を抜けて来たビームは、両肩2枚の対ビームコーティングシールドを駆使し、自機の前にシールドを重ね合わせて防御する。

 

「このビームを全て受けきってからが勝負どころだ……!」

 

 今度はGNハイメガランチャーからの砲撃がきた! だが、キサラギのビットによって、そのビームはビットと共に相殺される。よし、今度はこちらの反撃だ!

 

「攻撃目標、前方2時の方向!」

 

 両手のギガランチャー、背部のハイドラガトリングビーム砲を向け、トリガーを目いっぱいに引く。

 

「ファイア!!」

 

 ギガランチャーのロケット弾、ビームの同時発射と、ビームガトリングガンの高速射撃音がコクピット内に響き渡る。

 それを2時方向から左舷へと攻撃範囲を広げながら撃って撃って撃ちまくる。どこに敵が隠れているのかわからない、だから手当たり次第に撃った。

 補足できなとはいえ、広範囲に渡って撃ちこまれる弾頭。そしてバラ撒かれるビームの雨、さすがのキサラギ妹も、これらを全て回避するのには限度があった。

 その時、ステルスフィールドの向こうでギガランチャーの弾頭が炸裂する。どうやら目標に命中したようだ。続いてその地点にビームによる攻撃を集中する。吹き荒れるビームの嵐により、ステルスフィールドがわずかに揺らぎ、スタークドライのシルエットが映った。

 

「今だキサラギ!」

 

 俺の言葉を皮切りに、ザクファントムの陰からギラーガが飛び出し、スピアを分割しそれを振りかざし、スタークドライに斬りかかる。

 

「……はぁっ!」

「ちぃっ!」

 

 キサラギの掛け声と、キサラギ妹の舌打ちが通信越しに交錯し合う。スタークドライは攻撃を回避しようとするが、回避運動が間に合わずギラーガスピアによる一撃をその身に受けてしまう。ギラーガの斬撃は、スタークドライのボディに斜め一直線に深く刻まれた。

 

………………

…………

……

 

「キサラギちゃん、やったの……!?」

「うおおっ! さすがソウシとキサラギちゃんのコンビだぜ! 先に敵に一撃与えるなんてよ!」

「しかもあの圧倒的に不利な環境下であの一撃……これは早々に勝負あったでござろうな」

「いや、どうかな」

 

 歓喜に沸きあがる一同とは裏腹に、アベさんの表情は厳しいものだった。

 

「あのガンプラ、見たところまだ機体の性能を十二分に発揮してないと見える。勝負はまだまだこれからだ」

 

 確かに、一撃与えただけで勝負が決まってしまうほど安っぽい相手ではないということを、皆は思い出した。

 

「俺には今ので本気にさせちまったと見える……まだまだ勝負はこれからだな」

 

 ―続く―

 

 

 

 

 

~オリジナル機体紹介~

 

発破する黒き衝撃

「ザクファントムカスタム・BI(ブラックインパクト)重装型」

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

【機体紹介】

 速射性のあるスラッシュウィザードと高火力のギガランチャーを2門装備した、ブラックインパクトの火力強化タイプ。その攻撃力は圧倒的であり、専ら後方支援専用の装備といえる。敵機に接近された場合、または弾薬が尽きた場合を考慮し、近接用武器はそのまま装備されている。

 

【武装】

ギガランチャー×2

スラッシュウィザード(ハイドラガトリングビーム砲×2)

斬機刀

レーザー重斬刀

ビームトマホーク×2

 

【使用キット(追加武装のみ)】

HGSEED ドム・トルーパー(ギガランチャーのみ)×2

1/144 スラッシュザクファントム(スラッシュウィザードのみ)




久しぶりの投稿となり、気がつけば年が明けてしまっていましたw
今回よりまた新キャラと新ガンプラが登場します。そして少しストーリーが長くなってしまったので、物語は後編へと続くことになります。
次回は…ついにレイナの過去が明らかに…!?
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