機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 熾烈を極めるソウシ&レイナ組とレイナの双子の妹、アリサとのガンプラバトル。
 ステルスフィールドを張り、優位に立っていたアリサの戦略はソウシの機転により崩される。
 そして……いよいよ本気になったアリサによる反撃が始まる。


第14話:「激戦の果て」 ※オリジナル機体紹介あり

「靄が晴れてく……」

 

 ステルスフィールドの限界時間だろうか。時間が経つと効果は薄れ、俺達のセンサー類が息を吹き返す。晴れた視界から前方の様子が露わになる。そこには、分割したギラーガスピアを構えたギラーガと、胸部に裂傷を負ったスタークドライの姿があった。

 

「キサラギ、一撃与えたのか!? すごいじゃないか!」

「……」

「……どうした?」

 

 またもキサラギは何も答えない。いつものことと言えばそれだけだが……この無言には別の意味が含まれていると感じた。

 

「うふっ……うふふっ……」

「……?」

「あはっ……あはははは……ひひっ……くひひっ……」

 

 突然通信越しに不気味な笑い声が聞こえてきた。声の主はもちろん……あのキサラギ妹からだ。

 

「きひ……きひひ……きひひひひひひひひひひひッ!!」

「なっ……!」

 

 その笑い声は突如として声高らかな奇笑となり、コクピット内にも反響する。そのあまりにも異質な光景に、俺は思わず面喰ってしまう。

 

「いっけなぁい、わたくしったら大事なことを忘れていたわぁ……」

「……なんのこと?」

 

 キサラギ妹の豹変ぶりにキサラギも違和感を覚えたようで、その真意を問う。

 

「このバトル……参加しているのはわたくしと姉さんだけじゃなかった……ってことよぉ!!」

 

 次の瞬間、スタークドライの鋭い眼光が俺のザクファントムを捉えた。その眼力に、俺は思わず一瞬怯んでしまった。キサラギ妹はその隙を見逃さなかった。右手で左肩にマウントされているGNバスターソードを握ると、加速をつけて俺の方に向かってくる!

 

 

 

 

―――――第14話:「激戦の果て」―――――

 

 

 

 

 

「うわっ……!」

 

 思わず声が出た。そして無意識のうちに俺はトリガーを引き、向かってくるスタークドライに向けて背中のハイドラガトリングと両手のギガランチャーのビームを浴びせる。が、スタークドライはバスターソードの刀身をスライドさせ、そこからGN粒子を放出し簡易的なGNフィールドを作り出す。それを陰にして自身を隠し、俺の攻撃をバスターソードで受け流す。確かGNバスターソードは、ああやってGN粒子を発生させることによりシールドの役割も持っている。こちらの攻撃がことごとく弾かれてしまう!

 

「くっ……なら!」

 

 両手のギガランチャーを捨て、右手で左腰の斬機刀を抜く。そしてこちらも加速をつけ、両手で斬機刀を構えてスタークドライに向かっていく。

 瞬間、ぶつかり合う刀とバスターソード。火花を散らし合い、鍔迫り合いになる。だが、やはり剣の大きさが違いすぎる……! こちらは両手で相手の攻撃を押しとどめるのが精いっぱいなのに、スタークドライは右手一本でこちらの攻撃に拮抗している。

 

「きひひ……♪ 簡単にやられないでよ? いたぶる楽しみがなくなるじゃなぁい!」

「お前は……! そんなことを楽しみにしてガンプラバトルをしているのか!」

「あぁったり前じゃなぁい! わたくしはねぇ、弱い者いじめとガンプラをぶっ壊すが……だァァァァァい好きなんですのぉ!!」

 

 その言葉で俺はついに……キレた。

 

「お前……! ふっざけるなぁ!!」

 

 堪らず背部のハイドラガトリングを至近距離で構える。だが、相手は俺の攻撃を予測していたとでもいうのだろうか、向こうもフリーになっていた左手で肩のビームサーベルを握るとそれで俺のハイドラガトリングの銃身に突き刺した。瞬間、爆発するスラッシュウィザード。爆発により機体が揺らぎ、それと同時にスタークドライも一瞬だけ力が緩んだ。

 

「くっ……!」

 

 その隙を見て、俺はスタークドライから一旦距離をおき、離れようとする。が、キサラギ妹はそれを許さず、すぐに俺との距離を詰める。

 

「ホラホラぁ! どうしたの? もっと抵抗してみなさいよぉ! わたくしが蹂躙してあげるからぁ!!」

 

 そのまま突きだされる左手のビームサーベル。それはザクファントムの腰部付近に突き刺される。アラートが鳴り響き、機体に火花が走って動きが鈍る。しかし今の攻撃なら、確実にコクピットを十分狙えたはずだ。やっぱりこいつは……俺をいたぶることを楽しんでいる!

 

「くそっ……接近戦は危険だ! ファントム、離れるぞ!」

『はい、マスター!』

 

 脚部のブースターでこの場を逃れて体勢を立て直すことにした。腰部に突き刺さったビームサーベルはそのままだ。俺はそれを掴むと放り捨てた。

 

「逃がすもんですかぁ!」

「……貴女の相手は……私!」

 

 スタークドライの背後からギラーガが掌のビームバルカンを撃ちながら迫る。

 

「ごめんねぇ、姉さん。わたくし、先にあいつをブッ壊さなきゃいけないからぁ……姉さんはこの子たちと遊んでてね♪」

 

 スタークドライの両腰のスカートアーマーから何かが放たれた。四つの矢じりのようなものはギラーガに向かって飛んでいき、短いウイングを開くと紅いビームを放ちながら接近してくる。

 

「あれは……ファングだ!」

 

 GNファングは、ガンダムOOの世界におけるファンネルのような兵器で、ビームを発射するだけでなく、ビーム刃を形成してその名の通り牙のように対象物に突き刺すこともできる。この武器が内蔵されているガンダムスローネツヴァイだが、キットではここまで稼働するようには作られてはいない。おそらく、キサラギ妹が自分で改造して一つ一つ稼働できるようにしたのだろう。

 

「ファングちゃんたち、適当に相手してあげててね♪」

「ま……待て……!」

 

 キサラギが呼び止めるも、ファングに行き先を邪魔され後を追うことができない。一方の俺は、その隙に全速力であいつから逃げていた。だが、背後からあいつが追いかけてくる。スローネドライ特有の背部の大型バインダーは加速するのにも有効なようで、徐々にその差は縮まっていく。

 

「きひひっ♪ つーかまえたっ! オラァ!!」

 

 その時、ザクファントムの脚部に何かが絡みついた。モニターで確認してみると、それはスタークドライの左手から伸びているワイヤーだった。まさか……! と気が付いた時にはもう遅かった。

 

「良い声で啼きなさいね……アッハハ!」

 

 次の瞬間、機体の身動きが取れないほどに強烈な電流が放たれた。

 しまった……! あのエグナーウィップは両手に装備されていたのか……! ゲームにおける仮想体験とはいえ、コクピットの中にまで強い振動と電撃音が響き渡り、モニターがチカチカと点滅する。それと共に、機体のエネルギーがどんどん外に放出されていく。

 

「ぐあああああっ……! ふ、ファントム……!」

『機体性能が70パーセントダウン……マスター! このままでは……!』

 

 このままでは機体が動かなくなってしまう……そうなれば、あとは確実にキサラギ妹の手によって葬られてしまうだろう。

 

「アッハハハハハハ!! たぁまんなぁいわねぇ! ガンプラをぶっ壊すのは! それも大事大事に作ったガンプラなら尚更……たまらなくってたまらなくって……あぁ……♪ 脳味噌溶けちゃいそう♪」

 

 と、接触回線でモニター越しにキサラギ妹の表情が映しだされる。

 ヘルメットを脱ぎ捨て、息を荒げ、潤んだ目はトロンとして焦点が定まっておらず、両手で紅潮した頬を撫でるように這わせ、陶酔に至った恍惚な表情をしている。なのにその瞳の奥にはドス黒い殺意のような意思が見える……。

 こいつはヤバい! この攻撃もそうだが、こいつ自身も……! このままこいつと戦っていたら俺のガンプラも、俺のメンタルも、全てがこいつにズタズタにされてしまいそうだ!

 だが……情けないが俺一人じゃこの状況をどうすることもできない……!

 

「くっそぉ……! 負けられない……こんな奴に!」

 

 動かない……それでも、俺はスロットルレバーを固く握りしめ、なんとか動かそうと力を込める。

 

「動いてくれえええええ!!」

 

 次の瞬間、暗闇の宇宙に突然光の雨のように降り注ぐ。それはすぐにビームによる攻撃だとわかったが、その攻撃は俺ではなく、スタークドライに向く。それにより断ち切られるエグナーウィップ。

 

「チッ……! いいところなのに……!」

 

 接触している部位が無くなったため、回線が切られキサラギ妹の映像が途切れる。スタークドライは一旦俺から距離をとって離れる。そして自由の身となったザクファントムの目の前に降り立つ真紅の影……。それは紛れもない、キサラギの駆るギラーガの姿だった。

 

「済まない……ファングを振り払うのに時間がかかった」

『ふっ、これで一つ貸しだな小僧』

「た、助かった……ありがとう、キサラギ」

 

 素直にお礼を述べたつもりだったが、キサラギはまたいつものように無言のまま何も答えない。だが今はそんなことに気を取られている時じゃない、戦う時だ。

 

「姉さんから離れなさいよぉ!」

 

 凄まじく殺気に満ちた声と共に、大出力のビーム攻撃が放たれ俺とギラーガとを分断する。モニターを正面に向けてみる。そこには、射出したファングをコンテナ内に戻し、赤いカメラアイをギラリと光らせ、鋭い眼光でこちらを睨むスタークドライの姿があった。まるで搭乗者であるキサラギ妹本人の執念が乗り移ったかのようだ。

 

「私にだって……私にだって姉さんは……一度だってそんなことをしてくれなかったのに……なんで……なんでお前だけが……お前だけがぁ!!」

 

 瞬間、スタークドライのスカートアーマーから再びファングが放たれる。そのファングが向かう先は、今度は俺だった。迫るファングから逃れるためにバーニア全開で逃げ回る。が、どうあってもファングは距離を詰め、こちらに迫ってくる。その最中、改めて間近でファングを見た。あの小さなパーツ一つ一つがきちんと可動し、且つ脱着も可能という本物さながらの出来栄え……見事としか言いようがなかった。

 

「ここまでできる改造技術を持っていながら……なんで!」

 

 左手のビームガトリングを連射しながらファングを迎撃する。が、不規則な軌道を描いて攻撃してくるファングをどうしても捉えることができない。

 

「でも、だとしても!」

 

 ビーム刃を展開して一つのファングが弾幕をすり抜けて迫る。俺は右肩のシールドを前面にまわし、ファングの攻撃から身を隠す。

 

「やりようは……ある!」

 

 一つのファングがビーム刃を展開しシールドの表面に突き刺さった。その瞬間にシールドの裏からビームトマホークを抜き、それを手に持つと思いっきり振りかぶる。そうしてシールドに突き刺さったファングの一つを破壊した。

 

「よし、あと三つ! 来い!」

 

 左手にも二本目のビームトマホークを構え、俺の周囲をぐるぐると回って包囲するファングに向かって身構えた。

 

………………

…………

……

 

「うふふっ……やっと二人きりになれたわね……姉さん♪」

「……」

 

 ソウシがファングの相手をしている頃、そこから少し離れた宙域ではレイナのギラーガとアリサのガンダムスローネ・スタークドライが対峙しあっていた。

 

「ねぇ、姉さん。覚えてる? ほら、私たちが小さい頃、お父様とお母様がお仕事で帰るのが遅くなった時に、よく二人で一緒に夜空を見上げていたわよね」

 

 なんと、戦闘の最中だというのに唐突にアリサはレイナとの過去の思い出話をし始める。その様子をレイナもギラーガも静かに聞き入る。

 

「あの時の夜空は本当に綺麗だったなぁ、ちょうどこの宇宙のように、星が瞬いてて……」

 

 アリサの駆るスタークドライが、まるで本当に星空を見上げるかのように頭部の視線が上に向く。確かに戦闘宙域とはいえ、二人を取り巻く宇宙に煌く星々は、あの日姉妹二人で見上げた星空と酷似している。

 しかし……それは所詮ガンプラバトルのシステムによって作り出された幻……偽りの宇宙(そら)だ。

 

「姉さん、一緒に帰りましょう? またあの頃みたいに、姉妹二人で仲良く暮らしましょうよ。姉さんが家出したことは、もうお父様もお母様も怒ってないから」

「……私はもうあそこに帰りたくない」

 

 長い沈黙を経て、レイナは口を開いた。

 

「……アリサ、私は今の環境を離れるつもりはない……でも、実の姉妹である貴女とも、こんな無意味な戦いをしたくはない……どうかここは手を引いてほしい」

 

 それはレイナなりに、双子の妹であるアリサに対し、精一杯の正直な気持ちを伝えたつもりだった。

 

「……どうして……どうしてそんなこと言うの……?」

 

 レイナの言葉を聞き、Gポッドの中で顔を俯かせ、ふるふると震えるアリサ。奥歯を食いしめ、その手で握るコントロールグリップにも自然と力がこもる。

 

「やっぱりあいつが……あの男がいるから……? 姉さんは私よりも、あんな弱くて無様な男のことを気にかけるの!?」

 

 横目でアリサは離れてファングと格闘するソウシのザクファントムを見た。

 

「っ……! ち、違う……! 彼は何も関係ない……! 私はただ……貴女のためを想って……!」

「私のためを想って……? 私のことを本当に想ってくれているなら……なんで私の言うとおりにしてくれないのよぉ!?」

 

 瞬間、バスターソードを構えて斬りかかるスタークドライ。レイナはその攻撃を上昇して避ける。

 

『創造主よ、やはり言葉で何を言っても無駄のようだ』

「……っ、仕方がない」

 

 追撃してくるスタークドライに向けて掌のビームバルカンを撃つ。が、スタークドライはバスターソードを目の前に翳して盾代わりにし、攻撃を凌ぐ。

 ならばと思い、レイナは胸部のビームバスターにエネルギーを溜め、それを放つ。放たれた大出力のビームバスターは流石のバスターソードでも威力を殺しきれないようで、そのまま衝撃でスタークドライを後方に押し出す。

 

「姉さんが私の傍を離れた時に決めたの……姉さんを私から引き離したガンプラを私は絶対に許さないって! だから姉さんを連れ戻すときは……そのガンプラを使って姉さんのガンプラに対する想いをズタズタにしてやるって! そう決めたのよ!!」

 

 後方に吹き飛ばされながらスタークドライが手に取ったのは肩のGNビームサーベル。その刃を短く起動させるとギラーガの方に放る。放たれたビームサーベルはギラーガの胸部に突き刺さる。普段ならそれでゲームオーバーだが、ギラーガを始めとするヴェイガン系モビルスーツのコクピットは頭部にある。刃の短いビームサーベルが胸部に突き刺さっても、致命傷にはらならかった。ただし、胸部のビームバスターは使い物にならなくなってしまった。

 

「……でも……貴女も思ったはず……! そのガンプラをそこまで強く改造できたのは……少なからずガンプラへの想いがあったからこそ……!」

「私の想いは姉さんだけのものよ!!」

 

 スタークドライの両手に装備されているGNビームガンを乱射する。レイナは胸部に刺さったビームサーベルを引きぬいて捨て、ギラーガスピアを回転させてその攻撃を防ごうとする。が、出力の大きいGNランチャーの砲撃により、ギラーガスピアが砕け散る。

 

『創造主!』

「わかってる……!」

 

 ギラーガの声が響き、レイナは改めてXトランスミッターを機動させる。今はGNステルスフィールドが張られていない……これでアリサを仕留められる……!

 

「させるもんですかぁ!!」

 

 レイナが四肢のXトランスミッターを機動させるよりも先に、アリサが残り4つのGNファングを放つ。放たれたファングは一直線にギラーガに迫っていき、Xトランスミッターを機動させるために無防備になっていたギラーガの四肢に突き刺さる。

 

「がっ……!」

 

 そのまま後方に押し出され、ギラーガの身体はソレスタルビーイング号の岩肌に叩きつけられる。さらにファングによって四肢は貫かれ、岩肌に縫いつけられるように磔にされる。

 

「う、動けない……!」

 

 レバーをガチャガチャと動かすが、縫い付けられたギラーガはビクとも動かない。

 

「うふふふ……いい恰好よ、姉さん。大丈夫、何も心配しなくてもいいのよ……私が全て忘れさせてあげるわぁ。もういっそ私の事しか考えられないように……私がいないと生きていけない身体にしてあげるからぁ……♪」

 

 艶めかしい口調とは裏腹に、その声の奥には何か危険な真意があるのだとレイナは悟った。このままでは確実に敗北してしまう……! 脱出しなくてはならない……が、両手足をファングに貫かれ磔にされ、武器も全て封じられた今、ギラーガに打つ手はなかった。

 

「そろそろフィナーレにしてあげるわ……ドライちゃん! GNバスターランチャー、スタンバイ!」

『アクセプト』

 

 ドライが機械的に命令に答えると、スタークドライのバックパックの右側が可変し、その空いたスペースにGNランチャーがフレキシブルに稼働しながら右肩の上から右脇の下に銃身を移動させる。その撃鉄と思わしき部分をスタークドライは掴み、右に大きく振るう。すると、その反動で折りたたまれていた銃身が展開される。

 

「それは……!」

「うふふふ……これはね、スローネアインに装備されていたGNハイメガランチャーの改良型よ。スローネドライ単機でも十分な火力を発揮できるようにエネルギー供給ケーブルを直接疑似太陽炉とランチャーの基部に接続……その分命中率が悪くなったり、扱いが難しくなったけど……今の姉さんを葬るにはこれで十分よ!」

 

 銃身が開くと、トリガーを右手で掴み、左手で撃鉄部分を掴み、引き起こす。そしてエネルギーがチャージされる独特の音が響き渡り、銃身にエネルギーが収束していく。

 

【挿絵表示】

 

『状況。エネルギー、チャンバー内で正常に加圧中。ライフリング回転開始』

 

 レイナのGポッドのモニターには十字のスコープが出現し、それを磔にされているギラーガに照準を合わせる。

 

『委任。発射タイミングはアリサ様に一任します』

「当然……♪」

 

 身を乗り出し、舌なめずりしてスコープを細目で覗き込むアリサ。

 

「さぁ……処刑の始まりよ! 我が穿つは必滅の裁き!」

『その焔を用いてはだかる者を撃ち滅ぼし』

「必殺と残酷なる一撃を見舞わせ給え!」

 

 そして、収束したエネルギーがチャンバー内で臨界に達した!

 

「これで終わりよ姉さん。これが私から姉さんに送る祝福の炎……そう! これは意識改革のための処刑! 穿て! ≪火炙(ヒアブ)リノ磔刑(タッケイ)≫!!」

 

 アリサがグリップのトリガーを引く。その瞬間、加圧された大量の紅いGN粒子が砲身から放たれ、超大出力の収束ビーム砲となってギラーガに迫る!

 

「っ……ここまで……」

 

 迫る赤黒い光に思わず目を背け、レイナが全てを諦めた……。

 

 その時だった。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!! “レイナ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その声でレイナはハッと顔を上げた。

 ソウシのザクファントムが高速でレイナのギラーガの前に立ちはだかり、ギラーガに覆いかぶさるように背中に2枚のシールドを展開して、GNバスターランチャーの砲撃から身を呈してギラーガを守ったのだ。

 

「な、なにっ!?」

 

 突然のことに慌てふためくアリサ。

 

「ぐうっ……! 耐えてくれ……耐えてくれよ……ファントム!」

 

 耐ビームコーティングが為されているシールドとはいえ、バスターランチャーからの砲撃を真正面から受け続けるには耐性が足りないらしく、徐々にシールドが溶解し始めた。だが、それでもソウシのザクファントムは退かない。一歩も退かない! むしろさらに大きく両手を広げてビームの攻撃からギラーガを守る。

 

「なによ……なんなのよアンタは!? なんで私の邪魔ばっかりするの!? どうして私に気持ち良く戦わせてくれないの!? 私は姉さんを……姉さんを取り戻したいだけなのにぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 突然のことにアリサは困惑する。このままザクファントムごとギラーガを溶かしつくしてしまおうとスタークドライの全エネルギーをバスターランチャーへと回す。

 

「ぐぅっ……! なんでだと……? こっちのセリフだそれは!!」

「はぁ……!?」

 

 突然激昂した態度を見せたソウシに、レイナも思わずたじろぐ。

 

「お前はレイナの双子の妹なんだろ!? 俺なんかよりも……ずっとずっとレイナのことを昔から知っているお前が……どうして彼女の喜ぶことをしてやろうと思わねぇんだ!! こんなことでレイナを取り戻しても……本当にレイナが喜ぶとでも思っているのか!?」

「っ……!」

 

 その言葉に少しアリサの感情が揺らぐ。だが、彼女ももはや引き返せないところまで来ている。さらに固くグリップを握り、ビームを浴びせ続ける。

 

「う……うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! 不快な奴……嫌な奴……私と姉さんの仲を邪魔する奴……! お前なんか……お前なんか……! 消えて無くなれええええええええええ!!」

 

 バスターランチャーのビームの出力が、尚も増大する。しかし、それに比例してスタークドライのモニター上の稼働可能エネルギー値を示すメーターがぐんぐんと下がっていく。

 

「も、もっと! もっとエネルギーをバスターランチャーにまわして!」

『不能……エネルギーの残量2%にまで低下……エネルギーチャージのためシステムダウンします』

 

 と、ドライの言葉通りバスターランチャーのエネルギーは途絶え、ほとんどのエネルギーを放出し尽してしまったため、スタークドライは一時的に全機能を停止してしまった。

 

「こんな……こんなこと……くっそぉ!!」

 

 堪らず、アリサは両手でコンソールを大きく叩いた。

 

「なんなのよ……アイツ……」

 

………………

…………

……

 

「っ……レイナ、無事か?」

 

 防御したとはいえ、あの大出力で放たれたバスターランチャーの一撃を正面からマトモに受け、ボロボロになってしまったザクファントム。それでも原型を保っているのは奇跡としか言いようがない。すでに両肩のシールドは元の形状がわからないほどに融解してしまい、シールドからはみ出ていた両足と左手もすでに欠損し、それ以外にもすでに先ほどファングによってダメージを受けていた関節部やダクト、あらゆるところから火花が散り、機体を少し動かすたびに至る所が悲鳴をあげていた。

 

「……どうして……?」

「ファングで足止めを食らっていたから来るのが遅くなっちまった……大丈夫、全部破壊したから。待ってろ、今突き刺さってるファングを抜いてやるから」

 

 僅かに残った背部のバーニアを小さく噴かし、姿勢を整えると残った右手でギラーガの両足・両腕に突き刺さっているファングを一つ一つ抜いていく。幸いスタークドライが機能停止状態であるため、ファングのコントロールは行われていない。その間に斬機刀を抜き、ファングを破壊していった。

 

「……どうして……助けたの……?」

 

 レイナが再び「どうして?」という言葉で質問を投げかけたため、先ほどの質問は俺が来たことではなく、自分を助けてくれたことへの疑問だったということがわかった。

 

「前も言っただろ? お前が俺達の仲間だからだ。それだけの理由じゃ不満か?」

 

 ボロボロのマニュピレーターでファングを引き抜きながら俺はそう答えた。あまりのダメージにノイズがかかっているモニターにキサラギ……いや、レイナの顔が映し出される。目は溜まった涙で潤み今にも泣きそうで、それでいて口元は緩んで嬉しそうな……そんな不思議な表情だった。

 

「ソウ……シ……」

「やっと俺のこと名前で呼んでくれたな。……ま、俺もさっき勢いでお前の名前呼んじゃったけどさ」

 

 泣きそうなレイナを少しでも元気づけるために、笑顔を作る。今になって少し照れくさくなってくる。だけど、これでようやく俺とレイナの間で分け隔てているものが無くなった……そんな感じがした。

 

『マスター、あと一つです。ですが……もう機体が限界です』

「……レイナ、ここから先はお前の戦いだ。俺達はここで退場する。だけど、お前は最後まで戦ってくれ。お前が本当に居たいと思っている場所を……お前の力で守るために」

 

 ギラーガの左足に刺さっている最後のファングを引き抜き、破壊すると、今度は自分の斬機刀をギラーガの前に差し出す。

 

「俺も、自分の力をお前に託す。だから勝て! レイナ!」

「ソウシ……!」

「ギラーガ……さっきの借りはこれでチャラだ。だから頼む……! 俺の代わりに、レイナに力を貸してやってくれ!」

『……言われるまでもない。貴様の意思、確かに受け取った』

 

 刀をギラーガに手渡すと、そのまま俺はギラーガの肩をトンっと押し、反動で自分の機体がギラーガから離れていく。

 

「ごめん……最後までお前と一緒に戦いたかったけど……でもこの勝負に勝ったら! またお前は俺達と一緒に戦える! そうだろレイナ!」

「うん……っ!」

 

 ほとんど涙目になってレイナは大きく頷き、離れていく俺を見送った。

 そしてギラーガから十分離れた地点で機体に限界が来て、一瞬の閃光を瞬かせ、俺のザクファントムは爆発した……。

 

………………

…………

……

 

 ―ガンダムスローネ・スタークドライに撃墜されました―

 

「……やられちまったな」

 

 汗で蒸れたヘルメットを脱ぐと、シートにもたれかかって深く息を吸い込み、大きなため息をつく。そしてハロの形をしたガンプラスキャナーの中からザクファントムを取り出す。

 

「もっと……強くならなきゃな……」

『マスター……』

「さ、外に出てレイナの応援しようぜ」

 

 思わず本音を漏らし、声色が少し悲しそうなファントムを心配させないように、俺は外に出る。

 

「いや~、やられたやられた。ボロボロにされちまったよ」

 

 へらへらと頭を掻きながらモニターの前に集まっている皆の前に合流する。

 

「……あれ? どうしたみんな?」

 

 モニターの前にいるみんなが何やら顔を赤らめ、気まずそうな雰囲気になっているのが俺は気になった。

 

「ど、どうもこうも……」

「もう……不覚にもさっきのソウシ君に萌えちゃったじゃない……」

「は?」

「そ、ソウシ殿……さ、さっきの君は……その……だ、誰がどう見てもアニメかラノベの主人公そのまんまだったでござるぞ」

 

 いつも以上にどもりながらタクオが言った。

 

「いや~、俺も長いことガンプラバトルやっているけど、いくらその場の雰囲気があるとはいえあそこまでナチュラルに決め台詞言える奴はなかなかいないぜ」

 

 と、アベさんまでもがちょっと気まずそうな表情でそう言った。

 

「えっ……俺そんなにかっこつけたこと言っていたか……?」

「しかも自覚なしかい! 全く……時々お前が羨ましくなるよ」

 

 トモヒロはやれやれと頭を振った。

 

「俺は自分の気持ちを正直に言っただけだぜ?」

「で、でも……あれは見ようによってはその……ねぇ?」

「うむ、完全に……でござるな」

「なんだよ、みんなはっきりしねぇなぁ」

「ま、それがお前のいいところかもな」

 

 そう言ってトモヒロは俺の肩を叩いた。

 

「さーて、キサラギ……じゃなくて、レイナちゃんの応援しないとな」

「うん! 頑張れー! レイナちゃん!」

「負けるなでござる! レイナ殿ー!」

「お前ら……!」

 

 どうやら俺だけじゃなく、みんなの間でもレイナに対する分け隔てが無くなったようだ。頑張れ……レイナ! お前は俺達よりも遥かに強い……そして、お前の後ろには俺達がついている! だから……!

 

「頑張れ! レイナ!」

 

 俺達は必死で応援する。この声援が、俺達の存在が、レイナの力になるのなら、俺達は何も惜しまない! お前がこのバトルに勝つよう、俺達は信じている!

 

「ふふっ……レイナちゃん、君はいい友達を……仲間を持ったなぁ。さてと、俺が見守れるのはここまでか。仕事に戻らないとな」

 

 俺達の後ろでアベさんは微笑ましそうに笑い、そして静かに階段を降りて自分の仕事へと向かっていった。

 

 

 

「なによあの子たち……青春しちゃってさぁ……グスッ」

 

 背後の掃除用ロッカーの中でユリはその光景をずっと見ていた。ロッカーの中にいるため細かい話は聞くことができなかったが、その声援はユリの耳にも届いていた。

 

「でも友達の応援をしてあげるなんて……心やさしい教え子を持って先生嬉しいわ」

 

 ユリは一人静かにその光景を見ながら涙目になっていた。

 

「……ところで、私はいつここから出られるのかしら……?」

 

………………

…………

……

 

 私とアリサはとある名家の家系に生まれた。裕福な家庭だったが、そこは声をあげて笑うことすら許されない、とても厳格な家だった。

 私達の父親は男子が生まれてくることを所望したが、双子はどちらも女子だった。なので、最初に生まれた私を家の後継ぎにするよう、幼少の頃から様々な英才教育を施されてきた。

 

 家にいるときは食事と睡眠以外、その全てが勉強に費やされた。小学校も一流の学校に通わされ、他の小学校の子供たちのように遊びに行かせてもらうことなどはできず、私はいつも窓の外から他校の子供たちが楽しそうに遊ぶ光景を眺めていた。

 そう、私は勉強だけを生きる目的とされてきた。

 しかし不思議と他人が羨ましいと思ったことはない。物心ついたときからそんな生活を強いられていたためか、私にとってはそれが日常であり、両親もそれを望み、そして満足していた。

 

 そんな時だった。両親の留守中、私は何気なくテレビを点けてみた。その時、ちょうど衛星放送か何かで、とあるアニメの特集をやっていた。

 それこそが……『機動戦士ガンダム』。

 ガンダムを見た瞬間、私の中で何かが変わった。

 そこで繰り広げられるキャラクター達の理不尽な戦いにおける葛藤や奮闘、魅力的なモビルスーツの戦闘、そして宇宙と地球という巨大なスケールで繰り広げられる戦争の物語……そのどれもこれもが学ぶことしか知らなかった私にとっては、新鮮すぎるものばかりだった。

 その後も私は両親に隠れてガンダムシリーズのDVDをレンタルし続け、ガンダムの多くを学んだ。だが、次第に知識だけでは物足りず、“実物”を手に入れたいと思い始めていた。

 

 そして私は手に入れた、“ガンプラ”を。最初はその出来栄えに惚れ惚れとした。だが、プラモデルではやはり再現しきれない細かい部分がある。私はその部位に手を加え、より本物に近付けていこうと思い、ディテールアップの道具も揃え始めた。

 そうして増えていくガンプラやガンダムのグッズ……。わかっていた、両親の目を盗んでこんなことをいつまでも続けていくことはできないと。

 それでも……私は止めることはできなかった。

 

 そしてついに、その日が来てしまった。

 

 私がガンプラやガンダムのグッズを集めていることが、両親に知られた。

 

 両親はとても怒った、得に父親が。それはそうだろう。今まで手塩にかけて“教育”してきた娘が……後継ぎが、こともあろうにアニメという世の中で大衆に嫌われる部類の俗世に触れてしまったのだから。

 

 その日、両親に全てを捨てられた。ベッドの下や、クローゼットの奥、天井の裏、パソコンのデータ内に保存してあったガンダムに関連する全てを。一生懸命作った初めてのガンプラも叩き壊され、擦り切れるくらい何度も読み返した書籍も破かれ、繰り返し見たアニメのDVDも叩き割られた。

 私は荒れ狂う父親に止めさせるように寄り縋った。初めて大声で泣き叫びながら。

 

 そんな私に父親は初めて手をあげた。私も、思わず反攻した。

 

 父親も母親も、その場にいたアリサも、そして当の私自身も何が起きたのかわからなかった。今でもよく覚えていない……ただ次の瞬間には、父親に一言「出てけ」と言われたのを覚えている。

 その言葉に従ったわけではないが……私はもうここには居られないと悟った。ここに私の居場所はない……家を飛び出すと脇目も振らず必死に走り、そして気がつくとこの街に辿りついた。

 初めて来た街……どうしていいのかもわからず、路頭に迷っていた……。公園の個室トイレで一夜を明かしたり、手持ちの少ないお金でファミレスでご飯を食べたりした。全てが一人……だが何故か惨めさは感じず、むしろ一人という環境は私にとってとても居心地がよかった。

 

 そんなある日、私の携帯に父親からのメールが届いた。そこには一言、「その街のアパートの一室を借りた」という文面と、そのアパートと思わしき住所が記されていた。

 

 その時、私は理解した。これで事実上、“勘当”されたのだと。

 

 言われるがまま、そのアパートに一人で住むことになった。建物はボロボロで、部屋は狭かったが私に選択肢などはなかった。その翌日、必要事項が記入された入学手続きの書類とキャッシュカードが入った封筒が送られてきた。それ以外は何も入ってなかったが、それはきっと、「その学校に行け。金は払ってやる」という父親からのメッセージだった。

 以来、私は一人になった。だが、得に不自由な思いはしなかった。ここなら自分の好きなことができる……。それに、一人になれば居心地が良い……一人になれば誰も私の邪魔をしない……。一人に……一人になれば……。

 

『貴公が私の創造主か?』

 

 そんなある日だった、ギラーガと出会ったのは。全てが一人だと思っていた私に唐突にできた同居人……最初はどうしていいのかわからず、私はギラーガのやりたいことをやらせていた。それ以上は極力干渉しないように……それを向こうもわかっているらしく、あまり私に関心を持ったりはしなかった。

 

『好きな物は共有し合うと、面白さも倍増するもんだ』

 

 なのに……どうしてだろう。一人が一番良いと思っていたのに……あの日、ザクファントムとザクⅠが戦った後、ソウシの家で見た∀ガンダムのDVD……いつも一人で見る時よりも面白かった……何故……?

 

 何故……?

 

 何故…………?

 

『頑張れー! レイナちゃん!』

『負けるなでござる! レイナ殿ー!』

 

 何故……どうして貴方達は私を迎え入れてくれるの……? 最初は話したこともなかったのに……敵だったのに……!

 

『頑張れ! レイナ!』

 

「ソウシ……!」

 

………………

…………

……

 

「……聞こえる……みんなの声が」

 

 Gポッドの外から聞こえてくる自分に向けての声援を聞き、レイナはハッと沈んだ意識を覚醒させた。

 

「……私一人が戦っているわけじゃない……みんなが、私を励ましてくれている……私に力を与えてくれている……!」

 

 その声を聞きながら、レイナは無意識のうちに離していたコントロールレバーを再び固く握る。

 

「……ギラーガ、まだ動ける……?」

『フン、誰に言っている』

 

 何故か嬉しそうな声で、その問いにギラーガは答えた。何故なら、こうしてレイナが自分のことを気にかけてくれるのは初めてのことだったからだ。

 

 

 

―お前は最後まで戦ってくれ。お前が本当に居たいと思っている場所を……お前の力で守るために―

 

 

 

 レイナは声援を聞きながら、先ほどのソウシの言葉を思い出していた。

 

「……やっとわかった」

『何がだ?』

「今……私達が相手にしているアリサは、とてつもなく強い相手……それに勝つためには……彼が託してくれた仲間の想いを……彼が教えてくれた仲間の絆を……繋がなくてはならない……! それを可能にするのが……この声援! 仲間達からの励み!」

 

 レイナはレバーを固く握り、同時にバトルフィールド内のギラーガがソウシから託された斬機刀を強く握りしめる。

 

「私はここに居たい……仲間達がいるこの場所に……ずっと居たい!」

『フッ……まさか創造主の口から“仲間”などという言葉が飛び出すとは思いもしなかったよ』

 

 初めて自分の想いを口にしたレイナに対し、ギラーガはまたも嬉しそうな声色でそれに応える。

 

「勝つよ……ギラーガ!」

『承知!』

 

 受けたダメージなど忘れて、ギラーガは刀を顔の横に構え、左の指先で刀身を撫でるように前に突き出す。

 

「うふふふ……笑っちゃうわね。何を言い出すのかと思えば……仲間の想い? 絆? そんな曖昧なもので、わたくしのガンプラを倒せると思っているのかしら?」

 

 スタークドライもパワーが戻ったらしく、目に光が灯りこちらを睨みつける。

 

「ドライちゃん、現在の稼働可能なエネルギー値は?」

『現状、40%程度回復』

「十分よ、それだけあれば……今の姉さんを叩き潰すことぐらい簡単よ!」

 

 そう言うとアリサはスタークドライのバスターランチャーをパージし、右手にGNバスターソードを構える。残りエネルギー的にもう一度バスターランチャーを撃つ余裕はない。デッドウェイトにならぬよう、排除したのだろう。ということは……格闘戦で勝負をつけるということだった。

 

「あの男もかっこつけたわりには……なぁに? 託したのがそんななまくら刀一本? そんなもので姉さんが私に勝てると思ってるのかしらねぇ」

 

 両手でバスターソードを構え、その剣先をギラーガに向けるアリサ。

 

「……彼は武器よりももっと大切なものを私達に託してくれた……そして、今でもそれは私達の元に流れ込んでいる!」

「ふん、なら私が断ち斬ってやるわ! そしてそんなありもしない幻想も思想も……なにもかもみぃ~~~んなブッ壊してあげるからぁ!」

 

 刀とバスターソード……傍から見ればこれで斬り合いの勝負をするのは無理な話だった。切れ味は抜群とはいえ、細身な斬機刀とGN粒子を噴き出すことにより重量を増加させることのできるGNバスターソードとでは、相性が悪すぎる。鍔迫り合いになればその重量に耐えきれず、刀は曲がるか折れてしまうだろう。つまり正面からの真っ向勝負は無謀としか言いようがない。

 

「……ならば」

 

 レイナは機体を反転させ、各部のスラスターを全開にしてソレスタルビーイング号の側面を飛ぶ。

 

「あら? 姉さんたらまさか逃げる気? それとも……ふふっ、まぁいいわ。せっかくの姉さんからのお誘いですもの、乗ってあげるわ♪」

 

 アリサもバスターソードを持ったまま、スラスター全開でギラーガの後を追う。レイナなりに何か考えがあってのことだとアリサは察しがついていたが、それでも正面からそれを受ける所存だった。一方のギラーガはソレスタルビーイング号のモビルスーツ搬入口を見つけると、その中へと侵入する。内部には出撃準備中の特攻用モビルスーツ、“ガガ”がハンガーに陳列していた。マトモに戦っても勝ち目はないと踏んだレイナは狭いこの空間内にアリサを誘い込み、そこで不意打ちを狙って勝負を着けようと考えたのだ。

 背後からスタークドライが迫る。レイナはギラーガをモビルスーツハンガーの影に隠した。

 

「あら? あららぁ? 鬼ごっこの次はかくれんぼ? うふふふ……姉さんたら、よっぽど私に遊んでほしいのね」

 

 ゆっくりとデッキ内に入ってくるスタークドライ。足音を立てながらハンガー内を歩き、その周囲を探し始める。ここに存在するガガ部隊は、動きこそしないが一種のオブジェクトとしての役割を果たしており、モニターのレーダー表示にはガガも敵機として表示されている。まさに木の葉を隠すなら森の中、モビルスーツを隠すならモビルスーツの中、といったところだ。

 

「あ~あ、めんどくさい。どこにいるのかわからにからぁ……」

 

 ギラリとバスターソードの刃が光る。

 

「ぜぇ~んぶぶっ壊しちゃう!」

 

 瞬間、振るった腕はその範囲にある全ての物を叩き斬る。待機中のガガも、それを保持しているMSハンガーも、全てがバスターソードによって破壊されていく。

 

「アッハハハハハ!! そらそらぁ!!」

 

 自分の周囲を、その手に届く範囲にある物全てを破壊していくアリサ。破壊された後には爆煙と炎があがり、デッキ内はあっという間に炎に覆われた。

 自分の周囲の物を破壊し尽くしたアリサはぐるりと周囲を見回し、レイナのギラーガを探す。だが、生憎にもギラーガはスタークドライの背後の物陰に潜んでいる。

 そしてその瞬間のみ、隠れるギラーガの前にスタークドライは背後を見せた。

 

『今だ!』

 

 ギラーガの言葉にレイナは無言でスロットルレバーを一気に前に倒し、ソウシから託された刀を構え、燃え盛る炎の中に飛び込む。

 刀の先端でスタークドライを捉えながら、思いっきり腕を引く。元々槍使いのギラーガにとっては、こうした突きの攻撃の方が繰り出しやすいのだ。

 そして、刀とスタークドライが目と鼻の距離まで迫る!

 

『警告、後ろです!』

「っ!? そこぉっ!」

 

 だが、寸前でドライはその殺気を察知し、レイナは後ろを振り向く。と同時に、繰り出されるバスターソードの突きの攻撃。だがレイナはその攻撃を気付きこそしたが、少し機体を動かしただけで避けようとはしなかった。

 瞬間、ギラーガの繰り出した突きは確実にスタークドライを捉えた。

 だがアリサが機体を少し動かしたために、目標としていた地点から少しズレ、刀はスタークドライの左肩に深々と突き刺さっていた。

 

「っ……!」

 

 それを見てレイナは苦々しい顔をする。

 一件、相手に一撃与えてレイナが有利になったようにも見える。だが、この場合は……アリサがわざと攻撃を受けたものだとわかっていた。アリサほどのガンプラビルダーならば、今の攻撃をあの距離で気付いたなら軽々と避けるか、バスターソードで受け止めるか、なんらかの防御手段がとれた筈だ。

 それなのにわざと攻撃を受けた……その真意は。

 

「うふふふふ……やっと捕まえたわよぉ……姉さん♪」

 

 ギシギシと今にも壊れそうなスタークドライの左腕を動かし、自分の左肩に深々と突き刺した刀を握っているギラーガの腕をその手で握る。

 

「さぁ、これで逃げられないわね……結構楽しめたけど、もうお終いにしましょう!」

 

 アリサはバスターソードの先端をほぼゼロ距離の位置にいるレイナのギラーガに向ける。

 

「……知ってた」

「はぁ? 何が?」

「貴女が……今の攻撃を避けなかったことを」

 

 通信越しに聞こえたその言葉に、アリサは思わずたじろぐ。

 

「は、はぁ? 知ってたですって? 何を言い出すのかと思えば……そもそも避けないとわかっていたなら、姉さんだって私が何をしてくるとわかったはずでしょ? それなのに姉さんは構わず攻撃を仕掛けたって? バカバカしい……デタラメ言ってこれ以上私を惑わそうとしないで!」

「……デタラメなんかじゃない……私にはわかる……だって、貴女と私は……」

 

 レイナは、ギラーガの左腕を動かすと、右手を掴んでいるスタークドライの左腕に重ねる。

 

「貴女と私は……この世でたった二人だけの……姉妹なんだもの……」

「……っ!」

 

 その言葉にスタークドライの動きが止まった。アリサはおそらく考えているのだろう……何故今になってレイナがそんなことを自分に対して言ったのかを。

 

「今さら……今さらそんなこと言ったって!」

 

 だが、再び動き出し、ギラーガの眼前にバスターソードの先端を突き付ける。が、レイナは一歩たりとも動こうとはしない。

 

「そこまで私のことを分かっていたなら……どうしてあの日……私を置いて一人で行ってしまったの!?」

「……!」

 

 モニター越しに映るアリサの顔。その目からは、二すじの涙が滴っていた。

 そしてレイナも、その涙を見て全てを理解した。自分があの家を出て行った後、何故あんなにも早くあの父が自分を見限ったのか……そう、アリサがいたからだ。

 

「姉さんにまた会うために私は耐えた……耐えた……耐えた耐えた! 耐えた! 気が狂いそうなほど頭に詰め込まれた教養も! 痕が残るくらいに痛かったお仕置きも! 全部耐えたのっ!!」

 

 それを聞きレイナの表情が強張る。レイナが家にいた頃には、父親はそこまでのことを強要してこなかったからだ。おそらくレイナが居なくなったことで、父親は妹のアリサを後継者に仕立て上げることに躍起になり、今までレイナが学んだことに加え、それ以上の“教育”を施したのだろう。

 あの父親にとっては、双子のアリサは自分の予備扱いでしかなかったのだと、レイナは理解した。

 

「でもね……どんなに耐えても……お父様が言ったの……私じゃダメだって……おかしいなぁ……双子なのに……どんなに頑張っても……姉さんのできていたことが私、できないよ……」

 

 アリサは今にも泣きだしそうなか細い声でそう言った。いくら双子といえども、姉であるレイナにばかり集中的に教育してきたのだから、学んできた能力の差はどうしてもできてしまう。それを補うためにより厳しくアリサを教育してきたのだろうが、それでも限界がある。

 それを理解できないあの父親は、アリサが家督を継ぐに値しない能力の持ち主だと見切りをつけ、今度はまたレイナを連れてくるようにアリサに命じた……そういうことだろう。

 

「……ごめんなさい、アリサ。本当に……ごめんなさい……」

 

 謝って済むことではないのはわかっている。しかし、レイナはあの時の自分の行動が周りに……アリサにどのような影響を与えるかも考えずに家を出て行ってしまった……その身勝手な行動を心底後悔し、深く謝罪の言葉を口にした。

 

「……あの家では姉さんだけが私の支えだったのに……姉さんと一緒に居られるだけで私はあの家で耐えることができたのに……! 姉さんだけが私を理解してくれた……姉さんだけが!!」

「……アリサ、それは違う」

 

 涙を流しながら叫ぶアリサに対し、レイナは話を続ける。

 

「もう一人、貴女の傍にはいる……貴女を理解し、貴女の拠り所になろうと頑張っている人物が……」

「ど、どこによ! 言っているでしょ! 私には姉さんしか……!」

「居る。貴女は今もその人と一緒に居る……」

 

 その言葉でアリサはハッとし、そしてガンプラスキャナーに視線を向けた。

 

「まさか……ドライ? 私がいつも虐げて蔑んでいる……あのスローネドライ……?」

 

 そんなはずはない! と、アリサは首を横に振る。自分は今までどれだけ彼女を虐げてきたと思っているのか……。姉さんを取り戻そうと躍起になってガンプラを手に取り、その執念のみで創りだしたのが彼女……スローネドライだ。人の姿となり、意思を持ち、会話した時は流石に驚いたが、それも自分が姉を取り戻すために、神から齎された“モノ”だと割り切った。

 

「あ……ありえないわ! いつもいつも、私が家で虐げられては彼女を感情の吐け口にして、弄んできた……。所詮は玩具と、人並みの扱いなどしてこなかった……。そんなドライが、私の居場所になってくれているはずなんてないわ! きっと心の奥底では私のことを憎んで……」

 

 でも……それならば何故…なぜ彼女は私の元にずっと居てくれたのだろう…? と、アリサはその時初めてそのことに対し疑問に思った。酷い仕打ちばかりしてきたのに……自分の傍にいても何の得にもならないのに……と。

 

『ならば彼奴に直接聞いてみるがいい』

 

 通信で聞こえてきた声はレイナではない。ギラーガからだった。

 

『今は黙してやる。その間にその者の言葉に耳を傾けるがいい。我らは人間のように嘘などつかん』

「……ドライ、正直に答えて。貴女は何故私の元にずっと居てくれたの?」

 

 震える声で、今ガンプラバトルシステムの中に意識が一体となっているドライに問う。何故こんなにも声が震えるのかは、アリサ自身でもわからない。だが、彼女は何故か胸の内から込み上がってくるものを感じた。

 そしてその問いに対し、ドライはいつもの機械的な答え方とは若干違った声色で、アリサの問いに答えた。

 

『返答。私も……アリサ様と同じです。アリサ様がレイナ様無しでいられないように、私もアリサ様無しには居られません』

「でも……! 私あんなにいっぱい酷いことしたじゃない! 貴方をそんな姿に改造しちゃったり……なのに……なんで!」

『無論。どれだけ蔑まれようと、どれだけアリサ様がガンプラを憎んでいようと、私を創り、命を与えてくださったのはアリサ様です。私の身体は全てアリサ様の物……ですから、私がアリサ様の元を離れるなど、あり得ないことです』

「ドライ……!」

 

 それを聞いた瞬間、アリサは込み上がってきた感情が抑えきれなくなり、瞳からは涙が溢れ、子供のように泣きじゃくる。アリサもその瞬間にようやく理解できたのだ。今まで姉という存在しか自分が生きている意味がなかったのに……そんな自分でも必要としている人物がこんなにも近くにいた。慕ってくれる者がいた。それなのに、自分は愛憎に囚われすぎていて、そのことしか見えていなかった……。それを後悔し、心の底から謝罪したい気持でいっぱいだった。

 バトル中だということも忘れ、嗚咽に声を漏らし、ヘルメットを脱いでコンソールに突っ伏して泣くアリサ。そんなアリサの肩を、まるで人となったドライが優しく抱いて励ましてくれているような感覚が彼女を包み込む。Gポッド内……つまりはドライのコクピット内だからか、不思議とそんな感覚だった。

 

「アリサ……」

 

 アリサの調子が段々と落ち付いていき、レイナは小さく呟いた。

 

「姉さん……私……間違っていたのかな……?」

「……貴女が私を想う気持ちは、きっと間違ってない……でも、貴女の方法で仮に私を取り戻すことはできても、きっと誰も救われない……。貴女がガンプラに対して憎しみを持ったのと同じで……最後には憎しみしか残らない……」

 

 もしそのような結末になった場合、レイナ自身もアリサのことをきっと恨みながら生きていくことになるだろうし、残されたソウシ達もきっとレイナのことを憎む羽目になっていただろう。

 

「でも私は……! 姉さんと一緒に居たい! ずっと姉さんと一緒に!」

「……なら、貴女もこっちに来ればいい! 彼がかつて敵だった私を迎えてくれたように……きっと皆も貴女を受け入れてくれる!」

 

 いつしかギラーガの重ねていた手が離れ、スタークドライを差し伸べる形になっていた。それを見てアリサは一瞬迷う。

 

「で、でも! 私はあの人たちに酷いことをした……酷いことも言った……! 今さらそんなこと許してくれるわけ……」

 

「許してやるよ!!!!」

 

 突如二人の会話の間に入ってきたソウシの声。どこからの声だろう? と、レイナとアリサの二人はGポッド内をきょろきょろと見回す。

 

「確かにレイナとギラーガは昔俺達に攻撃してきたことはある……けどな! それで俺もファントムも、レイナのことを恨むと思ったら大間違いだ! きっと何か理由があると、その時は許したさ! お前だってそうだ!!」

 

 レイナとアリサはその声がどこから発せられているのかようやく気がついた。自分達が座っているGポッドのすぐ後ろからだ。Gポッドが並ぶ中央の廊下で、ソウシは声を張り上げて中の二人に聞こえるように大声で叫んでいるのだった。

 通常、Gポッド内部はゲーム内の音が反響し、それに加えて通信を聞くヘルメットや密閉されたコクピット空間のため、外部の音はほとんど聞こえてこない。だが、それでも、ソウシは自分の声を一生懸命に張り上げ、中の二人に聞こえるように必死で叫んでいた。

 

「レイナのことが……たった一人しかいない自分の姉が大事だと思ったなら……それでいいじゃないか! ここで自分の過ちに気がついた……それでお前はもう許されたんだよ! だったら! お前ももう俺達の仲間だ!!」

 

 その言葉に、押し殺していた感情がまたこみ上げて来てしまったアリサ。だが、それをぐっと堪えてソウシの言葉に耳を傾けた。

 ソウシは息を荒げるが、また大きく息を吸い込む。

 

「『過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ』って、レイナは昔俺たちに行ってくれたよ! お前も過ちに気がついたなら、そこからやりなおせばいい! 今だったら間に合う! だから……もう自分一人で孤独な戦いなんてしてないで……俺達と一緒に……! 来い!!」

 

 息も絶え絶えにソウシはそれだけ言うと、呼吸を荒げ、顔を真っ赤にして床に倒れこんでしまった。オトメがソウシの肩を揺すり、「大丈夫?」と声をかける。それに対しソウシは何回か頷き、呼吸を落ちつかせる。

 そんなソウシの傍に駆け寄るトモヒロとタクオ。オトメも加えた三人ともがソウシと同じ気持ちらしく、ソウシのこの言葉を聞いて三人とも笑顔だった。

 

「プッ……あははっ。……全く、好き放題言ってくれるわね、あの男」

 

 唐突に笑いがこみあげ、涙をぬぐい目の前を見据えるアリサ。

 

「……ええ、そう……そうだった……。彼は……いや、彼らはそういう人達だった……」

 

 一方のレイナは、ソウシの絶叫を聞いて何か大切なことを思い出したかのように、とても朗らかな気分だった。

 

「そうね、あいつの言うとおり……確かに今だったらまだ引き返せるかもしれないのね……でもねっ!」

 

 降ろしていたGNバスターソードを持ち直し、その先端をギラーガの眼前に向ける。

 

「私にだって意地があるの! 情に流されてこのままバトルを中断するなんて、そんな興が逸れる真似は私のプライドが許さないわ」

「……あくまで決着をつけるつもり? アリサ」

「ええ。でもこれはもう姉さんを取り戻す勝負じゃない。純粋にガンプラビルダー、キサラギ・アリサとして、ガンプラビルダー、キサラギ・レイナに勝負を申し込むわ」

「ふっ……受けて立つ」

 

 レイナは嬉しそうにそう答えた。そしてギラーガもまた、スタークドライの肩に突き刺さっている斬機刀を引き抜き、後ろに数歩下がって距離をとり、その先端をスタークドライの眼前に向ける。互いに対決の仕切り直しといったところだ。

 そして、互いにそれで動かなくなってしまった。

 炎が舞い、睨み合いが続く中で、この状況が永遠に続くのかとさえ錯覚に陥ってしまうほどの長い沈黙がこの場を支配する。

 だが、静寂は突然破られる。先に動いたのは、アリサの方だった。

 

「つぇりゃあああああ!!」

 

 ギラーガの眼前に向けたバスターソードをそのまま押し込むのではなく、一旦引き、そして雄叫びをあげながら突進し、剣を大きく振るった。そうすることでレイナの不意をつくつもりだったのだろう。が、レイナもそれは読んでいたようだ。瞬時に上に飛び退くとスラスターで姿勢を制御し、なんと振るわれたバスターソードの上に立つという芸当を見せた。

 もちろんただの酔狂でこんな真似をしたわけではなく、ちゃんとした意味がある。剣にギラーガの全重量がかかれば当然スタークドライは右手一本で支えることはできなくなる。重さに耐えきれず、腕を離れるバスターソード。その隙にギラーガを構えた刀を突きだし、一撃で仕留めようとする。

 が、そこでスタークドライは左拳を握りしめ、左フックをギラーガにお見舞いしてきた。武器の大半を失い、残るはバスターソードと両手のビームガンのみとなっているスタークドライ……となれば、あとは四肢を使った攻撃を繰り出すしかない。刀の突きにのみ集中していたギラーガは左フックを顔面にマトモに食らう。その衝撃で頭部の装飾部が一部破損し、バイザーにも皹が入る。その影響によりレイナの見るモニター画面にも若干ノイズが入ったものになる。が、それでもレイナは怯まない。だがバランスを崩したことにより、無意識に機体はバランスをとるために片足立ちの不安定な状態になる。その瞬間をアリサは見逃さなかった。今度はギラーガの足にスタークドライの足をかけ、自分の方に引きこみ、体勢を崩した。

 大きく体勢を崩し、地面に倒れこむギラーガ。そこにスタークドライが追い打ちをかける。

 

「お遊びはここまでよ……そろそろ勝負を決めさせてもらうわ!」

 

 落としたバスターソードを足で掬い手元に柄を上げ、それを倒れたギラーガに思いっきり突き立てる。

 

「まだ……終わらせない!」

 

 迫るバスターソードの切っ先。だがレイナはとっさに機体の右片足を上げ、バスターソードの前に突き出す。次の瞬間、大きな衝撃と共に足に突き刺されるバスターソード。だがそれは、とっさに突き出した足で威力を殺し、本体までダメージが及ぶことはなかった。

 

「なにっ……!?」

 

 予想外の防御方法に、一瞬たじろぐアリサ。

 

『敵の動きが止まった! 創造主、今だ!』

 

 その隙にレイナは右手に持つ刀を振るい、バスターソードによりひしゃげた自分の右足を斬り落とした。機体のバランスは悪くなり、二足歩行ができなくなってしまったが、それでも動きを封じられて攻撃できないよりかはマシだ。

 

「自分の足を斬り落とすなんて……!?」

『人間の言葉で……肉を切らせて骨を断つというやつだ!』

「……肉も骨も断っているけど……ね!」

 

 そのまま一気にスラスターを全開にし、宙に浮く。そして両手で斬機刀を構えると、一気にスタークドライ目がけて突進する。もう何も考えない……ただ一心に、純粋に、この一撃で討ち貫くことだけに意識を集中させ、レイナはスロットルレバーを一気に前に倒した。

 

「今だ! レイナ!」

『いけ! 創造主!!』

「っ……!」

 

 ソウシとギラーガの声が互いに交錯する。固く歯を食いしばってレイナは目の前の標的を討ち貫かんと迫る。目標はもう目と鼻の先。だがここで、スタークドライが動いた。

 

「まだよ……姉さん! いくら鋭い切れ味の刀であっても、シールドでその切っ先を僅かにずらせば……!」

 

 右肩に装備されているGNシールドの先端を向け、スタークドライも同じくギラーガに向かって突進する。本来は攻撃用の武器ではないが、それでもアリサも必死だった。この一撃さえ凌げば、まだ自分にも勝機があると、そう信じていた。

 対するレイナにはもう後がない。この一撃で全てを決めるつもりだ。互いに同じ紅い色の機体が二すじの赤い光となって互いにぶつかり合う。モニター越しのソウシ達にはそんなふうに見えた。

 そして響き渡る強烈な金属音と、Gポッド内に大きく響く衝撃。

 突撃の瞬間に思わず目を瞑ってしまったレイナはおそるおそる目をあける。モニターには、自分が操縦するギラーガの手元を映されていた。しかし、そこにある筈の刀が……ソウシから託された斬機刀が……モニターには映っていない。折れていた。刀身の3分の2ほどが折れ、先端が無くなっていた。

 

「そんな……届かなかったの……?」

 

 それを見てレイナは思わず俯く。だが、背後のスタークドライからアリサの声が届く。

 

「いいえ姉さん……届いているよ」

 

 背後を振り向くと、そこに折れた刀の先端が胸部の疑似太陽炉に深々と突き刺さっているスタークドライの姿があった。

 

「やられちゃったね、ドライ……まさかシールドごと貫かれるなんて……思わなかった」

『同意。私も、予想外でした』

 

 視線をスタークドライの足元に向けると、粉々に砕けたGNシールドの破片が散らばっていた。

 

「あぁ……でもなんか……負けたっていう感じがしないな……。姉さん、私久々に姉さんとこうして話せて、嬉しかったよ」

 

 モニター越しに映し出されるアリサの顔は、泣きながら笑っていた。

 

「……私も、アリサと話せて良かった」

 

 レイナは内心涙を堪えていた。だが、目の前に映るたった一人の妹の前では泣くまいと、必死で涙を堪えて笑顔を作っていた。アリサもそれを見て、最後にとても楽しそうな笑顔を見せた。

 次の瞬間、映像は途絶え、スタークドライは大きな爆発を引き起こして消滅した……。

 

 

 

 ―ギラーガに撃墜されました―

 

 

 

………………

…………

……

 

「……終わったな」

 

 アベさんの店から出て、家路につく俺達。そのなかで俺は小さくそう呟いた。

 

「……まだ終わりじゃないよ……これはきっと始まり」

「そうだな、これからお前とアリサとで本当の意味で姉妹として生きてかなきゃな。そういやアリサはどうしたんだ?」

「……ガンプラバトルが終わったら、すぐに姿を消してしまった……」

「そうか……まぁ、またきっとどこかで会えるさ」

「……うん、私もそう思う」

 

 

 

「あの……なんで僕達はあの二人から離れて歩かなくちゃならないのでござるか?」

 

 ソウシ、レイナが二人だけで歩いているその約5メートル後方を、トモヒロ、タクオ、オトメの三人が歩いていた。

 

「バカ! こういうときは二人だけにしてやるのがいいに決まってるだろ!」

「あの二人はそういう関係じゃないと先ほど否定していたではござらんか……?」

「……むー」

「ん? どうしたオトメ?」

「ふーん、なんでもないもーん!」

 

 オトメのいつもらしからぬ素っ気ない態度に、トモヒロとタクオは不思議そうに顔を見合わせた。

 

 

 

「じゃ……私はこっちの道だから」

 

 そう言ってレイナはT字路の前で止まる。その道の先には木造のオンボロアパートが立っている。あそこにレイナは住んでいるのか。

 

「そうか。じゃあ気をつけて帰れよ」

「……うん」

 

 小さく頷き、自分の家に向かうレイナ。何故だろう……今さらながらその小さな背中がとても寂しそうに見えてしまった。それに、今の返事もどこか名残惜し気な感じがした。

 

「レイナ!」

 

 気がつくと俺は、無意識のうちにレイナを呼びとめていた。レイナは立ち止まり、不思議そうな顔をして俺の方を向いた。

 

「その、さ……俺、お前ん家の場所覚えたからさ、たまにここに寄っていいか?」

 

 なんてことはない、ただ普通に、友達として、友達の家に遊びに行くことがあるかもしれない。だから聞いただけなのに、何故か俺の掌はじんわりと汗がにじみ、自然と落ち着きがなくなってしまう。顔もとても熱くなっていき、レイナの顔がマトモに見ることもかなわなくなってきた。

 レイナはそんな俺の言葉を聞いてしばらく黙ってしまった。どうしたんだ……? やっぱりまだ俺達の間に隔てりがあるのか……?

 

「……迎え」

「え……?」

 

 実質的には10秒も経ってなかったはずなのに、それがあたかも1時間くらい沈黙が続いていたかのような感覚だった。口を開いたレイナは、小さな声で目線を逸らしてそう言った。

 

「……朝……来てもいい」

「それって……!」

「……ばいばい」

 

 俺の顔も見ることも無く、レイナは脇目も振らずに走り出し、そのまま行ってしまった。今のは……つまりはその……朝、俺がオトメを迎えに行くついでにレイナの家にも寄って一緒に通学しようってことなのか……?

 

「……なぁ、ファントム」

『はい?』

「今のレイナさ、お前はどう思った?」

 

 俺は自分の鞄を開けて、その中にガンプラ状態でいるファントムに聞いてみた。

 

『もう少し自分に素直になれば良いのに、と思いましたね』

 

 何故か少し微笑ましそうな声色で、ファントムはそう答えた。

 

「それってどういう……」

「もーう! ソウシ君!」

 

 その時、今まで何故か俺達と距離を置いて後ろを着いてきたオトメ達が俺の前に出てきた。

 

「なんだよオトメ! 急に出てきて」

「ふん! どうせ私達はお邪魔ですよーだ!」

 

 オトメの頭の上のアホ毛が激しく揺れ、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 

「な、なんだよ……おい!」

 

 トモヒロとタクオの方にも顔を向けるが、二人とも「やれやれ」といった表情をするだけで俺の目を見ようとはしない。

 

「なんだってんだよ! お前らー!」

 

 

 

(やれやれ……マスターもレイナも、もう少しご自分の気持ちに自由になられたら良いのに……)

 

その光景を鞄の中にいたファントムも、ソウシに聞こえないように己の中で静かに思った。

 

………………

…………

……

 

「……嬉しそうだな、創造主」

「……そう?」

 

 木造のボロアパート……そのレイナが住む部屋に帰るやいなや、人の姿に戻ったギラーガはそう呟いた。レイナはというと、ギラーガの方も冷蔵庫の中からコンビニの弁当を取り出し、電子レンジで温める。それが、ほぼ毎日の彼女らの夕食だった。

 

「ああ、創造主のそんな顔は初めて見た」

「……そう」

 

 身体に纏った装甲や武器(しかし、バイザーは外さない)を外し、リラックスしたギラーガが座るテーブルに、温まった弁当を二つ並べながらレイナは素っ気ない返事をした。

 

「……いただきます」

「……」

 

 手を合わせ、弁当の包装を剥がしていくレイナ。レイナは弁当を食べ始めるが、ギラーガは手を付けようとはしない。それっきり二人の間に流れる沈黙。ただ静かに、レイナが箸を動かす音と僅かな咀嚼音だけが聞こえる。

 

「……わかっていると思うが、私はいずれあのファントムと決着をつけねばならない」

「……」

 

 その言葉にレイナは何も言わず、ただ弁当を食べ続けている。遅れて、ギラーガも弁当に箸をつけ、食べ始めた。そしてそれっきり、互いに何も言葉を発することはなくなってしまった。

 だが、レイナにはわかっていた。ソウシとの間に芽生えたこの気持ちも……ギラーガの言う“決着”の時が来た際には、その勝敗の結果に関わらず、諦めねばならない時が来てしまうのかもしれないということに。それを考えると複雑な気持ちになる……。

 が、今は考えていても仕方がない。今の自分にはどうすることもできないが……未来の自分であればなんとかすることができるかもしれない。そう考えることにし、レイナは黙々と食べ続けた。

 

………………

…………

……

 

「ただいま」

「お帰りなさい、遅いお帰りでしたな」

 

 時を同じくして、ヤマナカ・ユリのマンションの一室。自分の生徒たちが戦っていたガンプラバトルがようやく終わったことにより、あの狭いロッカーからようやく出ることができ、今帰ってきたところだ。

 そんな自分を同居人であるサザビーが、赤いバイオスーツに不釣り合いな白いエプロンを着て出迎えてくれた。

 

「遅くなりそうだったのですでに夕飯は作っておきましたよ。今日はブイヤベーススープで、少々アレンジを……―」

「ねぇ、聞いていい?」

 

 ユリは真剣な視線をサザビーに向ける。サザビーもその視線に気がついたのか、視線をユリに向ける。

 

「あなたが前に言っていた人となったガンプラの所有者……それって、ウチの生徒たちのことなの……?」

 

火にかけていたスープが吹き出すが、サザビーは動かず、やがてコクリと無言で頷いた。

 

「はい」

 

 

 

 

 

~オリジナル機体紹介~

 

紅に染まる麗しの処刑人

「ガンダムスローネ・スタークドライ」

 

 

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【機体説明】

 西暦2312年時代、続々と開発される連邦軍の新型GNドライヴ搭載型MSにより、徐々に旧型化しつつあるガンダムスローネドライを、かつての兄達の機体データを元に、ネーナ・トリニティが発展させた機体である。

 ファングとGNバスターソードによる格闘戦と、GNハイメガランチャーを発展させたGNバスターランチャーによる遠距離射撃と、本来持ち合わせているステルスフィールドとを組み合わせ、三位一体といえる戦術を単機で行うことができる。特徴的な武装であるGNバスターランチャーはマニュピレーターで操作し、疑似太陽炉とランチャー基部とを直接供給ケーブルで繋げることにより、単機でも十分な火力を発揮できるようになった。

 しかし本機はネーナ・トリニティの所有する紫HARO内のデータに存在したものであるが、製造されることはなくペーパープランに終わった。

 

【武装】

・GNビームガン×2

・GNビームサーベル×2

・GNバスターランチャー

・GNバスターソード

・GNファング×10

・エグナーウィップ×2

 

【必殺技】

火炙(ヒアブ)リノ磔刑(タッケイ)

GNファングで四肢を串刺しにして動きを止め、バスターランチャーの砲撃でトドメをさす。

 

【ベースキット&主な使用キット】

HGOO ガンダムスローネドライ

HGOO ガンダムスローネアイン

HGOO ガンダムスローネツヴァイ




前回のバトルの後編となりました。
正直、今回の話は後編の方がバスターランチャーのギミックとかソウシの見せ場とかレイナの過去とか書きたいところがいっぱいな感じで、こちらが本命という感じでしたw
ビルドファイターズの方でもセイ、レイジがフェリーニと熱いバトルを繰り広げたりと、最高に盛り上がってきましたね。
次回は次回でまた別の人物にスポットを当てた回となります。
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