果たして呂布の目的とは……?
「あーあ、あたしたちいつまでここで待機してなきゃいけないんだろーねー?」
とある広間の一室で、キュベレイMK-2が駄々っ子のようにうんざりとした口調でそう言った。
「確かにねぇ、あれからもうかれこれ2週間くらい経とうとしているからね」
「アストレアさんとかイラついててここのところ近寄れませんよ……」
同じく、リボーンズとステイメンもその場にはいた。
「そういやアストレアちゃんとアマツちゃんは?」
「マスターからの任務で今は任務中です。これで少しでも日頃の鬱憤が晴らされれば良いのですが……」
かけた眼鏡をキラりと光らせながら、ステイメンはリボーンズに言った。
「あたし達にも任務くれないかな~」
「……」
その時、その場にいたもう一人、呂布トールギスがスッと立ち上がって扉の方に歩み寄る。
「ちょっとちょっと将軍、どこ行くのさ?」
「……疼くのだ」
「は?」
話しかけたリボーンズの方を見ようともせず、ただひたすら一点のみを見つめている呂布は、小さく呟く。
「我が魂を揺さぶる者があの場には居た……それを確かめに、俺は行かねばならぬ」
「勝手な行動は慎んで下さい! マスター殿からの命令が無いと。……っ」
それだけ言うとステイメンは黙ってしまった。目の前に立つ呂布が、仮面の奥から威圧的な眼光でこちらを睨んだからだ。その目を見るとステイメンは竦んでしまい、何も言えなくなってしまった。
そして呂布はドアを開け、外へと歩みだす。後に残されたステイメン、リボーンズ、キュベレイMK-2はただ見送ることしかできなかった。
「なーんかおっかないねぇ、呂布っち」
「勝手に行かせちゃったけど……いいのかなぁ?」
「はぁ~あ……後でマスター殿になんと言われるか……」
―――――第15話:「強き者と弱き者」―――――
「あ~ぁ……暇だぜぇ~……ったくよぉ~」
サラ家の長男、トモヒロの部屋にてゴッドガンダムは大きな欠伸をし、腕枕を組んで床に寝転がっていた。
ここ数日、彼女はいつもこんな調子だった。その主な理由として、彼女自身が戦う相手がいないということである。同盟を組んでいるファントム達とは戦うことはできないし、以前襲撃してきたアストレア一行はまるっきり姿を見せる気配がない。なので、すっかりやる気を失くしてしまい、ぐうたらと毎日を過ごしているのであった。
「おい、暇なら少しトレーニングでもしたらどうなんだ?」
中間試験が近くあるため、(珍しく)机に向かって勉強をしているトモヒロが、寝転がってポテチを食べながら漫画を読むゴッドに言った。
「ん~? 今日の分の特訓はもうとっくにやっちまったよ。腕立て伏せ1000回に腹筋1000回、素振りに正拳突きその他諸々……ここんとこそればっかだぜ?」
「あっ……そう」
意外と多くの運動量をこなしていたことを知り、トモヒロは何も言えなくなってしまった。
「それに、俺ってば実戦の中で強くなるタイプなんだよ。まぁこの前みたいに敵でも来てくれれば少しは暇つぶしになるんだけどな~」
確かに、以前オトメのサバーニャと戦った時の気迫は凄かった。ゴッドガンダムの内なる力、ハイパーモードはもちろんのこと、必殺技の石破天驚拳まで完璧に繰り出し、サバーニャを圧倒していた。
……が、トモヒロには今の腑抜けたゴッドからはあのときの気迫の一欠片も感じられなかった。トモヒロはその時、自分が命を賭けてゴッドを救いだしたのだが……その時のことを思うとなおさらいたたまれない気分になった。
「だーっ! いいから河原にでも走りに行ってこい! そこでゴロゴロされると勉強に集中できねぇんだよ!」
「え~、だってもう夕方だし……このままの恰好じゃ……」
今のゴッドは一部の鎧を脱ぎ捨て、下地の白いバイソスーツのみの恰好となっていた。
「姉貴の服貸してやるから、とにかく行ってこい!」
「え~……」
ゴッドは心底嫌そうな顔をするが、トモヒロは構わずゴッドを部屋の外に締め出す。追い出されたゴッドは渋々トモヒロの姉の部屋に行き、そこで適当な服を見つくろい着替えると、重い足取りで外に出て行った。
………………
…………
……
「ったく、なんだってんだよご主人のヤロー……俺がいると邪魔だってのかよ」
白いバイオスーツから着替え、ジーンズにタンクトップというラフな格好で外に出たゴッドは駆け足でトモヒロに言われた通り河原の方に走っていた。この2週間、ゴッドはあの時のアストレア達の襲撃に備えてそこそこハードな特訓をサラ家で積み重ねていた。だが、いつまで経ってもあの時のような襲撃は来ない。そうなると自然と気持にも緩みが生まれてしまうわけで、それは仕方ないといえば仕方ないことなのかもしれない。
だが、それでも毎日特訓は欠かさず行ってきた。自分で言うのは何だが、今の自分でならあの時戦ったサバーニャ相手ならば十分勝つことができる。そう自分の中で自負していた。だが、それを証明する術は……今は無い。
「……強くなったのかな、俺」
河原に着くと、立ち止まって夕陽を見ながら一人そんなことを呟いた。
「ならば、俺が見定めてやろう!」
背後から何者の声が聞こえた。次の瞬間、背後にただならぬ殺気を感じたゴッドは横に飛び退く。草原を転がると、先ほどまで自分がいた場所に巨大な竜巻が巻き起こり、その場を大きく抉る。そして竜巻の威力が収まっていくと、その中心部より何者かが歩み寄り、姿を現す。
「お前は……?」
その人物は金と黒の鎧を纏っていた。手には巨大な戟(中国の矛のような武器)を持ち、顔は兜と一体化したクリアグリーンのマスクで覆っていた。そして兜から伸びる長く淡い紫色の長い髪の毛が印象的だった。
「我こそは戦慄の暴将、呂布! 我が魂の疼きを鎮める為に……ゴッドガンダム! 貴様をに戦いを申し込む!」
そう言うと呂布トールギスは手に持つ巨大な戟、“破塵戟”の先をゴッドに向ける。
「へっ、誰かと思えば……この前の連中の中に居た奴か。何で俺の名を知っている?」
「貴様については、我が主君を通じていろいろと調べさせてもらった。ゴッドガンダムよ、貴様と俺とでは、共に魂の鼓動に通ずるものがある!」
「なにわけのわかんねぇこと言ってやがる!」
「問答無用! この勝負、受けてもらうぞ!」
呂布は上に飛ぶと、そのまま落下を利用してゴッドを突き刺そうと破塵戟を構える。
「チッ……あの女の子を取り戻しに来たってのか……!」
対するゴッドは横に飛び退き攻撃をかわす。
「否、俺が求めるのは俺を熱くさせる戦いのみ! それ以外には毛頭興味は無いわぁ!」
落下に対して受け身をとった呂布は、破塵戟をゴッドに対して突きだす。ゴッドもその攻撃を後ろに飛び退きながらかわすが、いつものようにアーマーを着こんでいるわけではないので衝撃の余波を受けてしまい、身体がよろめく。
「くそっ! 鎧が無ぇとこんなもんなのかよ……!」
もどかしそうにゴッドが呟くと、対峙する呂布の動きが止まった。
「どうした、なんで攻撃してこない!?」
「その状態での貴様と戦っても我が魂は滾らん。1分やる、その間に準備を整えるがいい」
「へっ、余裕かましたこと言ってくれるじゃねぇか! ならお言葉に甘えさせてもらうぜ!」
右腕を目の前に振り、そしてゴッドは叫んだ。
「蒸着!!」
そのまま上半身を大きく振り、目の前で両手を差し出すように組み、そして右手を上に突き出し、正面を向いて両手を構えると、白い膜のようなものが全身を包み込む。そして一瞬のうちに、ゴッドはあの白い鎧を纏ったゴッドガンダム本来の姿へと変身を遂げた。それは、僅か0.05秒の出来事だった。
「うおおおおおっ!! 気合魂入! 機動武闘士、ゴォォォッドガンダァァァァァムッ!!」
変身を遂げたゴッドは、かねてから考えていた変身口上と決めポーズも披露した。
「へへっ、暇だったからレンタルした昔の特撮を真似てやってみたが、できるもんだな」
「ほう、軽装モードから戦闘モードへの
「軽装モード……? モビルアーマード……?」
初めて聞く単語にゴッドは思わず聞き返した。
「なんだ貴様、そんなことも知らずに装着したのか。貴様が、そして俺達が纏うこの鎧が“
いつもは何気なく装備し、そして戦ってきたこの機動戦士ガンダムシリーズに登場するモビルスーツをモチーフにした鎧……それがそのような名称だったことをゴッドは初めて知った。
「へぇ、一体誰がそんな名称付けたのかねぇ」
「命名したのは我が主君だ。主君は我々のような存在についていろいろと研究をしているようでな、貴様らの主人よりも我々のことについてよく知っている」
「はっ、だからなんだってんだ。俺が戦うのにそんなまどろっこしい話は必要無ぇ!」
ゴッドにとっては呂布の主人がどのような人物なのかなどはどうでもいい。ただ戦いたい……目の前にいるこの自分の同類と、またサバーニャの時のように己の死力を尽くした熱い戦いがしたい。それだけが望みだった。
「ふふっ、これは釈迦に説法……いや、馬の耳に念仏だったようだな。……1分経った、貴様の武闘に対する魂を、この俺に見せてみろ!」
「いいだろう。本来ならガンダム以外の奴は相手にしない主義だが、俺は受けた挑戦はどんな奴だろうと受ける主義だ」
「ふん、俺の力はガンダムをも凌駕するぞ」
「ほぉ、そいつは楽しみだ」
互いに不敵な笑みを浮かべながら、呂布は破塵戟を構え、ゴッドもまた己の拳を握って身構える。互いに構えが整ったところで、先に動き出したのはゴッドだった。
「ガンダムファイト! レディィィィィ、ゴォォォォォ!! “ゴッドフィールドダァァァッシュ”!!」
開幕早々、背中のウイングを開き、脚部と背中のバーニアを全開にして呂布へと突っ込むゴッド。そして自分の拳が届く間合いに入ると、呂布が槍を構える隙を与えずに拳とキックによる連続攻撃を浴びせる。
「たぁったたたたたたたたたぁ!!」
目にも止まらぬ怒涛の攻撃の連続に、呂布はただ為す術なくその身に攻撃を受け続けている。少なくともゴッドにはそう思えた。
「とあぁっ!!」
最後の締めにと強烈な右回し蹴りを呂布に叩きこむ。
「どうだっ!」
完全に決まったと、ゴッドは確信した。……が、自分の繰り出した蹴りの先を見てみる。そこには……破塵戟の柄で自分の蹴りを受け止める呂布の姿があった。おまけにその身には自分の放った攻撃が一発も効いていない様子で、呂布は睨みをきかせた視線をこちらに向けて呟いた。
「ぬるいな」
そして大きく振るわれる破塵戟。それだけで旋風が巻き起こり、ゴッドの身体が宙に浮き、後方に弾き飛ばされる。だがなんとか受け身をとり、右足と右手をついて芝生の上に降りる。
「チッ、マジかよ……俺の放った攻撃全部あの槍で受けきったってのか」
「どうした、その程度か? ならば受けてみよ! 我が一撃を!」
呂布が破塵戟を構え、地面を力強く踏み締める。それだけで地面は抉れ、土肌が露わになる。構えた破塵戟を片手でまわし、稲光が迸る。そして巻き起こる暴風は衝撃波となり、それを地面に叩きつける。
「“旋 風 爆 裂 衝” !!」
地面を隆起していくほどの衝撃波が、ゴッドに迫る。
「くっ……分身殺法! ゴッドシャドー!!」
攻撃が当たる寸前、ゴッドは分身を作りだしそれを囮にする。呂布の攻撃はその分身に当たり、そのままゴッドの分身を後方の河川へと押し出す。その瞬間大きな水しぶきがあがり、分身の1体が消滅した。
「ふん……分け身か、小賢しい真似を!」
気配を察し、呂布が上を見上げると、そこにはゴッドの分身体達が円状に取り囲みながら一斉に飛びかかる。
「これだけの攻撃! かわせるものならかわしてみやがれ!!」
分身体達がそれぞれ叫びながら右手のゴッドフィンガーを翳す。分身体に攻撃力は無いが、攪乱させるには十分だ。分身のいずれかに紛れている本物のゴッドガンダムが、分身たちが作った隙をついてゴッドフィンガーを喰らわす。そういう算段だ。
「なめるなぁ! “旋 風 大 烈 斬” !!」
だが呂布は破塵戟を自分の上で高速回転させると、そこから竜巻が生じ分身体達を蹴散らす。竜巻に巻き込まれた分身体は次々と消滅していく。
「ハハハハハッ!! 魂無き分け身どもなどに討ち獲られる俺ではないわぁ!」
「なら、本物の魂の攻撃を食らいやがれ!!」
その時、蹴散らされた分身とは別に、本物のゴッドが竜巻の中心部よりゴッドフィンガーを構えて迫る。
「思った通りだ、竜巻の中心部には風が無い! 台風の目と同じわけだ! ここで目であるお前を潰す!!」
「ぬぅっ……!」
旋風大烈斬の構えを解き、破塵戟を直上に構える呂布。その方向にはゴッドフィンガーを構えたゴッドが。互いの攻撃が交錯するなか、破塵戟の一撃をゴッドは頬に掠め、その個所から血が滲む。だが、それだけでゴッドの猛進は止まらない。
「ばぁぁぁく熱!! ゴォォォッド!! フィンガァァァァァァ!!」
後ろに引きこんだゴッドフィンガーを目の前に突きだし、呂布の頭部をその手で掴んだ!
そのまま一気に背中と脚部のバーニアを全開にすると、呂布を地面の上に突き倒し、ゴッドフィンガーの攻撃を頭部に押し込む。
「ぐぅっ……! むおおおおおおっ!!」
灼熱の掌による攻撃が呂布を苦しめる。地面が抉れ、自分の身体が大地に押し込まれていく感覚をその身に受けながらも、ゴッドの進撃は止まることを知らない。
「ガンダムファイト国際条約第一条! 頭部を破壊された者は失格となる!」
メキメキと音を立てて兜にめり込んでいくゴッドフィンガー。だが、呂布もこのまま黙ってやられるわけにはいかない。
「あまり調子に……乗るなぁぁぁぁぁ!!」
右手に握ったままの破塵戟を地面に突き刺すと、そのまま顔面に受けているゴッドフィンガーを押し返すかのように、呂布は立ち上がろうとする。
「なにぃっ……!?」
その奮戦ぶりに思わず自分が面喰ってしまうゴッド。その一瞬力が緩んでしまったのか、破塵戟を突き刺した地面がメリメリと音を立てながら隆起し、呂布の体が完全に起き上がってしまった。
「はぁっ!!!!」
起き上がった呂布が一声あげると、まるで強力な衝撃波を食らったかのようにゴッドは弾かれ、呂布の眼前からゴッドフィンガーが剥がれた。
「バカな……! 俺の必殺のゴッドフィンガーが……奴には通用しないだと……!?」
片膝立ちになり、息を荒げて呼吸を整えるゴッドをよそに、呂布はゆらりと立ち、その鋭い眼光をゴッドに向ける。その時、ゴッドフィンガーの攻撃で、呂布の仮面の口元と左目元の一部が壊れ、その素顔の一部が露わになる。その眼光はやはり鋭く、ゴッド達よりも少しばかり年上な印象だった。
「ふふっ……ふはははっ……! 見事だ、ゴッドガンダム。流石は俺が見込んだだけのことはある」
声も仮面に隠れていたときはくぐもっていたが、今は明瞭に女性の声だとわかる。そしてキラリと白い歯を見せて笑う呂布。
「なにっ……!?」
「やはり貴様の闘いに対する純粋なる魂こそが、俺の血を熱く滾らせてくれる……気に入った! 決めたぞ! 貴様は俺が貰う!」
「……は?」
呂布の言った言葉の意味が理解できなかったらしく、ゴッドは思わず一瞬放心し、素っ頓狂な声を出してしまう。
「お前は俺が貰うと言ったのだ! 貴様をこの場で屈服させ、必ず俺の物にしてみせる!」
「ちょっ、ちょっと待て!? お前が何を言っているのか全っっっ然わからねぇんだけど!?」
互いに命をかけた真剣勝負の最中での突然の告白。ゴッドでなくとも、うろたえるのは当然といえる。すると、呂布は自分の胸に手を当て、目を閉じ、少し顔を赤らめてこう言った。
「お前を初めて見たときからこの魂の疼きが止んだことがない……そして! 今お前を再び目前にして、そして互いに死力を尽くした戦いを経て尚、俺の魂は大きく震え、血は熱く滾っている!! その正体に今ようやく気がついた!」
「そ、その正体って何……?」
できれば聞きたくは無いが、それでもゴッドは引きながら、冷ややかな視線を向け、おそるおそる呂布に問いかけてみる。呂布はカッと目を見開き、頬を紅潮させ、満面の笑みを仮面の下に浮かべて高らかに宣言した。
「愛だっ!! 間違いない!! この気持ち……まさしく愛だ!! お前を俺の物にしたい! お前の全てを俺の身で感じたい! 今はその一心で俺の魂はいっぱいだぁっ!!」
先ほどまでは想像もできないほどに呂布の顔は女性らしい顔つきになって嬉々として宣言し、一方のゴッドの方は気が滅入ってしまい、大きくため息をつくと頭を抱えてしまった。
「な、なんなんだこいつは……」
「そういうわけだ、ゴッドよ。大人しく俺の元に来い。悪いようにはせん」
「ふざけんなっ!! 誰がてめぇの元になんか行くかよ!」
思いっきり怒声を上げて反論するゴッド。それは当然だ、仮に呂布の方に俗に言う“あっちの気”があろうとも、当人であるゴッドの方にはそんな気は毛頭ないのだ、そんな話に乗るわけがない。
「ふふふ……その強気な姿勢……ますます俺の魂を昂ぶらせてくれる……!」
改めて破塵戟を構える呂布。その気迫は先ほどまでとは比較にならないほど凄まじくなり、対峙するゴッドはダイレクトにそれを感じる。その気を感じ取ったゴッドは途端に黙り込んでしまい、視線を呂布から逸らすことができなくなった。一瞬でも逸らせば確実に仕留められてしまう……直感でそう感じたからだ。
自分の錯覚か、それとも本当にそう見えているのかはわからないが、呂布の身体から紫色の濃い、一種のオーラのようなものが立ち上っているようにゴッドには見えた。それを見た瞬間、ゴッドは自分の周りの空気がビリビリと震えているかのように感じ、冷や汗が吹き出す。どうする……? こちらからから先に動くか……? だがしかし、動けばその途端に奴の攻撃範囲内に入ってしまう……。
「どうすれば……!」
「フッ、俺の気迫に圧されて動けないか? ゴッドよ」
「っ……!」
自分でも気が付かない内に思っていた事が口に出てしまっていたようだ。更に、呂布が口にする何気ない言葉の一つ一つが、ゴッドの感覚を鋭く感じさせる。
「この程度で怖気づくとは甘いな。言っておくが、俺はまだまだ実力の3分の1も出してはいないぞ」
「なっ……!」
それが嘘か本当かはわからない。だが、少なくとも今までのゴッドは呂布の猛攻に全力で立ち向かい、そしてなんとか互角の戦いをしてきたつもりだった。それが呂布にとっては全く本気を出していないと言ってきた。という事は……完全にこちらが遊ばれていると、ゴッドは悟った。
「武闘家たるもの、鍛練は惜しまぬもの。貴様が日々の鍛錬を疎かにしていなかったということは、先ほどの拳を見ればわかる。だがっ!」
呂布が破塵戟を回転させる。しかし、それは先ほどまでとは比較にならないほどに回転速度が上がっていく。それに伴って天は濁り、大気は吹き荒れ、大地が激震する。ゴッドはその一つ一つを全身で感じ取ってはいたが、その場から動くことができないでいた。今の自分ははっきりとわかる……自分はこいつを……呂布を恐れている……!
「くっ……! お、俺はまだこの程度で……!」
それでも己を必死に奮い立たせ、腰のビームサーベルを両手に構える。そしてそれを水平状に構えると、ゴッド自身も回転し、竜巻を作りだす。
「この程度で! 終わるつもりはないんだよぉ!!」
「そうだ、そうこなくては面白くない! 俺が求めるのは極限まで俺と渡り合える者をこの手で倒し、征服することのみ! 簡単に落ちてもらっては困る!」
「なにを矛盾したことをおおおおお!! “ゴッドスラッシュタイフーン”!!」
回転により勢いを増したゴッドは、自身を巨大な竜巻とし、ビームの嵐を巻き上げながら呂布へと接近していく。だが、それを見て尚呂布は余裕な笑みを浮かべる。
「その程度のそよ風など、我が暴風で呑み込んでくれる! 滾る……滾るぞ!! 我が魂が!! うおおおおおおおっ!!」
さらに勢いを増す呂布の破塵戟による回転。呂布が立つ上空には暗雲が立ち込め、雷が迸り、踏み締める大地が割れる。
「魂ィィィィィィッ!!」
突きだした左手を握ると、超高速回転の破塵戟を大きく振る。すると、吹き荒れる暴風が3つの巨大な竜巻となってゴッドの周囲を囲む。
「“暴 風 激 烈 斬” !!!!」
三つの竜巻はその中心部で回転するゴッドに迫り、ゴッドスラッシュタイフーンと激突する。まるで鋼同士が激突するかのように、轟音が辺りに響き渡り、接触部からは火花が散る。それほどまでに呂布の攻撃は重く、そして固いものだった。
その攻撃は勢いを増すと、中央にいるゴッドを挟み込むように中心部に向かって押し込む。
「ぐっ……あっ……! がぁっ……!」
三つの竜巻はただ暴風を起こすだけではない。周囲にある大気をも吸い取り、その中心部にいるゴッドには酸素が行き届かなくなり、徐々に酸欠になって苦しくなる。そのせいか、ゴッドスラッシュタイフーンの威力が少し弱まった。ギリギリの威力で呂布の暴風激烈斬に拮抗していたゴッドスラッシュタイフーンはその緩みにより、一気に崩壊した。
次の瞬間、ビームの嵐が暴風に破られ、むき出しのゴッドは直に暴風にその身を晒してしまう。まるで巻き上げられた砂のように、ゴッドは竜巻の中をぐるぐると回る。しかもただ回るだけではない。その暴風の一つ一つが鎌鼬のように鋭い切れ味を持ってゴッドに襲いかかる。為す術なくその攻撃に翻弄されるゴッドは、もはや打つ手も、叫び声も発することもままならずに、徐々に意識が遠のいていくのを感じた……。
………………
…………
……
「……あいつ、どこまで行ってるんだ?」
すっかり陽が落ちた窓辺を見てトモヒロは呟いた。あれからかれこれ2、3時間は経つというのに未だにゴッドが家に帰ってこないことに少し心配になって、勉強も手に付かずにいた。
「もしかして、さっき俺が少しキツい言い方をしたから気にして帰ってこれないのか……? いやいや、あいつはそんな小さなことを気にするようなチャチな奴じゃない。なら……途中で特訓に飽きてどこかでサボってるのか?」
今までのゴッドの様子を見ていると、これが一番可能性が大きそうだった。さしずめソウシの家で夕飯でもたかりに行っているのだろうという考えに至った。
「ったく、俺のガンプラだってのにしょうがねぇ奴だなぁ」
この時トモヒロは「ペットは飼い主に似る」という言葉を思い出したが、あえて口に出すことはなかった。そして携帯を取り出すと、ソウシの電話番号を出し、電話をかける。
「ソウシか? 忙しいところ悪ぃな。あのさぁ、そっちにウチのゴッド来てねーか? ……え? 来てない?」
………………
…………
……
「ぐぅっ……! はぁっ……はぁっ……!」
陽が落ち、三日月が照らす河川敷。
そこにはゴッドが、息も絶え絶えに地面に転がっていた。その身に纏う白い鎧は見る影もなくズタズタに砕かれ、その合間からは切り傷や打撲の跡など、痛々しい傷跡が垣間見える。そんなゴッドの姿を、呂布が遠目で見て呟いた。
「……つまらん、この程度か」
先ほどの高揚感はどこへやら、満身創痍なゴッドの姿を見て呂布は冷めた様子で短くため息をつくと、一歩ずつゴッドの元に近づいていく。
「俺の見込み違いだったか? 貴様の武闘に対する魂の脈動、それは確かに俺の魂を奮わすに値するものだと……そう思っていたのだがな」
転がるゴッドの元まで歩み寄ると、その足でゴッドを踏みつける。ゴッドは短く苦しそうな声をあげるが、もう抵抗する気力も体力も無く、為す術がなかった。
「それがなんだ、この体たらくは。未熟とはいえもう少し楽しめると思っていたが……まぁいい」
怪しい笑みを浮かべると、呂布は足をどかし、今度は破塵戟の刃をゴッドに突き立てる。そして、その刃先でかろうじて纏っているゴッドの胸部の鎧を弾く。残されたのは下地に着込む白く薄いバイオスーツ。それも破塵戟でスッっと切れ込みを入れると綺麗に破れ、露わになるゴッドの柔らかく豊満な胸。
「さぁ、我が魂を受け入れよ」
「やっ……!」
ゴッドにはもう抵抗する力が無い。このまま呂布によって自分の身体を蹂躙されてしまう……そう思い、諦めて固く目を瞑る。瞑った目から悔しさと恐怖からか、一粒の涙が流れ落ちる。そして呂布の手が、ゴッドの露わになった肌に伸びる……。
……その時だった。
「むっ……!」
突然背後に鋭い気配を感じた呂布は、瞬時に破塵戟を手に取ると振り向きざまにそれを横薙ぎに大きく振るう。軽い金属音が響き渡り、破塵戟によって弾かれた何かが地面に突き刺さる。その音に思わずゴッドも目を開け、その物体が刺さった方を見る。
それは、四方に刃の付いた投擲武器……手裏剣だった!
「何者だ!?」
後ろを振り向いた呂布は背後にある鉄橋の上を見る。その楕円状の鉄骨の上に、何者かが腕を組んで仁王立ちしていた。ただでさえ暗いうえに、夜空は曇っていて月が雲に隠れているせいでその人物の顔をよく見ることができない。
「闇に向かいては闇を斬り、光に向かいてはその光をも討つ!」
呂布の質問に返答するが如く、その人物は声高らかに何か口上のようなことを述べる。
「人も知らず! 世も知らず! 影に隠れて悪を滅す!」
その時、夜空にかかっている雲が晴れていき、その人物の背後に大きな三日月が姿を見せる。淡い月の光に照らされ、その人物の姿が鮮明に目に映る。口元をマフラーで覆い、両腰には小太刀を携え、全身を黒と紫の装甲--おそらく、
「貴様っ! 何者だ!?」
「月よりの使者、シャドームーン見参!!」
呂布の問いかけに対し、その名を高らかに宣言する謎の人化ガンプラ……“シャドームーン”。彼女は月光をその背に浴び、自身の影を呂布達に落とす。だが、シャドームーンなどというガンプラ……もとい、モビルスーツの名前は、呂布はこのかた聞いたことが無かった。おそらくは、この者がそう名乗っているだけで真名は他にある……そう推理した。
「シャドームーンとやら、邪魔立てをするつもりか!?」
呂布は破塵戟の先端をシャドームーンに向けて一声吼える。対するシャドームーンは無言のまま両脇の小太刀に手を伸ばし、それを抜き、両手をクロスさせ逆手に刀を構えると、鉄橋の上を勢いよく蹴りあげる。あまりに蹴る勢いが強すぎたせいか、その衝撃で踏み締めていた鉄骨の部分がヘコむ。
シャドームーンは夜空高く舞いあがり、まるで月を跨ぐかのように上空で3回転しながら呂布の目の前に降り立つ。それが一瞬の合間に起きた出来事だった。あまりの超スピードで自分の前に迫ったシャドームーンに、呂布は面喰ってしまい反応が一瞬遅れた。シャドームーンはその隙を見逃さなかった。両手に逆手に構えた小太刀で呂布に斬りかかる。だが、呂布も寸前のところで破塵戟を目前に構え、その攻撃を受け止める。だが、シャドームーンの攻撃はそれだけでは終わらない。何度も何度も何度も何度も何度も、両手の小太刀で斬りかかる。その素早く繊細な攻撃のためか、シャドームーンの手元が全く見えない。
対する呂布は、その攻撃を破塵戟でギリギリに受け止めるしかなかった。それでも完全には受けきれないようで、柄の隙間から攻撃が入り、自身の金色の鮮やかな仮面や鎧に傷がつく。互いの武器が激突する度に、轟音と共にビリビリとした衝撃波がゴッドの耳に届いた。この二人の迫力に気圧されてか、あるいは美しいとまで感じさせる見事な戦いに感動してか、瞬きも忘れて二人の戦いを凝視していた。
「すごい……あの呂布が圧されている……!?」
先ほどまで自分が為すすべのなかった呂布の圧倒される姿を見て、ゴッドは思わず感嘆の声をあげる。
その時だった、シャドームーンの一撃が呂布を捉え、その身に直に一撃を叩きこむ。脇腹を掠めただけだったが、それだけで呂布はよろけ、地面に片膝をつく。
「バカな! この俺に膝をつかせるとは……!」
シャドームーンは尚も太刀を構え、攻撃の姿勢を取っている。
「おのれぇ……! “旋 風 大 烈 斬” !!」
呂布は素早く起き上がると、大きく破塵戟を振り、その至近距離からシャドームーンに向けて旋風大烈斬を放つ。放たれた竜巻がシャドームーンを呑みこみ、その姿が竜巻の中に消える。
「ハッハッハッ!! 消え去るがいい!! ……むっ!?」
だが竜巻が止むと、そこにシャドームーンの姿が無いことに呂布は驚愕した。どこにいったのかと辺りを見回すと……。
「うおっ!? お前いつの間に……!」
シャドームーンがゴッドの背後に現れ、その身体を抱きかかえると無言で自分の巻いているマフラーを解く。マフラーは意外に面積が広く、それを広げてゴッドに被せ、ゴッドの裸体を隠す。マフラーを外せば素顔が確認できると思っていたが、残念ながらマフラーの下にも金属製の黒いマスクを付けているため、その素顔は確認できなかった。
「お前は一体……?」
ゴッドの問いにもシャドームーンは無言のままだった。だが、その緑色の瞳は何かをゴッドに訴えかけているようにも見えた。
「逃がすかあああああああああ!!」
その姿を確認した呂布が鬼のような形相で破塵戟を構えて突進してくる。シャドームーンは慌てることなく自分の左脹脛に備え付けられえいるハンドグレネードを取り外すと、それを地面に向けて投げつける。眩い閃光が辺りを照らし、呂布の視界を塞ぐ。思わず呂布は目を背け、その隙にシャドームーンはゴッドを抱えたまま夜の街を駆けて行った。
……やがて目の感覚が戻ってきた呂布は破塵戟を地面に突き刺し、無人になった河原で一人咆哮した。
「……ふふっ……ふははっ……」
ひとしきり叫んで気が晴れたのか、再び静寂を取り戻したに河原で呂布は一人笑い出す。
「そうか……これもまた俺に科せられた天命というわけか……ククッ、面白い」
そして、夜空に高く上る三日月を見上げる。
「そこで我々の戦いを見ていた者よ。ゴッドの仲間ならば伝えておけ」
突き刺した破塵戟を引き抜き、鉄橋の橋桁の影に隠れ、こちらの様子を窺っていう人物に向ける。そこに居たのは、ギラーガだった。
ギラーガはゴッドがこの場所に着いたときからここにおり、ずっと呂布との戦いを観戦していたのだった。
「また会おうぞとな! そしてそのときこそお前を俺の物にしてみせる! その時まで……俺にその魂を奪われぬようにせいぜい足掻くのだな!」
ギラーガは無言で、姿も見せなかったがしかとその言葉を受け止めた。呂布はまるでそれを自分自身にも言い聞かせるかのように宣言し、そして背部に備え付けてあるブースターを起動させ、月光が照らす夜空へと溶けて行った。
呂布が完全に姿を消すと、ギラーガが橋桁の影から姿を現した。
「なるほど……あれがあちら側の擬人化ガンプラの実力か」
先ほどまでゴッドと呂布が激戦を繰り広げていた場所まで歩み寄り、周囲を見渡す。あちらこちらにその時の爪痕が刻まれており、そのほとんどが呂布の攻撃によるものであった。それだけであの呂布トールギスがどれほどの実力を持っているかが垣間見えた。
「ゴッドよ、礼を言うぞ。貴様のおかげで彼奴らの実力を見定めることができた」
さらに歩み、今度はゴッドが押し倒された場所を見る。そこには、黒光りする何かが月光を浴びて輝いていた。ギラーガはそれを手に取る。
それは手裏剣だった。あの時呂布に放たれた1枚の手裏剣……。
「しかし気になるのはあの“シャドームーン”なる人物……あやつは一体……?」
………………
…………
……
「ここは……公園?」
シャドームーンに抱きかかえられ連れてこられたのは、ファントムとザクⅠが激戦を繰り広げたあの公園だった。あの時はザクⅠの攻撃によって焼け野原同然となっていたが、今では修復が進み、すっかり以前同様の元の公園としての状態を取り戻し、近隣住人達の憩いの場となっている。その噴水前で、シャドームーンはゴッドを降ろし、噴水の縁に腰かけさせた。
「な、なぁ……アンタは一体……?」
シャドームーンは何も言わず、ゴッドに背を向け、少し振り向いて小さく呟いた。
「未熟」
「……は? ちょっ、待っ……!」
ゴッドの制止も聞かず、シャドームーンはまた地面を蹴って高く舞い上がると、夜の闇に紛れてその姿を消した。
「なんだったんだ、アイツは……」
「そこにいるのはゴッド……? ゴッドなのですか!?」
突然自分を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、そこにはファントムの姿があった。ただし、いつものように武器や装甲を纏った姿ではなく、先ほどの自分のように普通の女子らしい恰好をした姿だった。
「よかった、ようやく見つけましたよ……トモヒロからマスターの元に連絡があってゴッドを探してほしいと言われて……って、その格好は……!?」
「あ、あぁ……ファントムか。ちょっとな……」
ファントムはボロボロになっているゴッドの姿と着衣の乱れを見て思わず驚く。が、ここは冷静に考え、事態を公にせぬよう静かにゴッドの手を引く。
「……とにかく、トモヒロの元に行きましょう。皆心配して探していますよ」
「あぁ……わかった」
ファントムの後に続いてゴッドは公園の外に出る。その際に、もう一度あのシャドームーンが消えた夜空を見る。先ほどまで見えていた三日月には雲がかかり、月光もすっかり届かなくなっていた。
………………
…………
……
「ゴッド! お前どこに……その格好はどうした!?」
公園近くにあるソウシの家の前に行くと、家の前にトモヒロ、ソウシ、タクオ、オトメ、レイナのいつもの面々に加えて、ザクⅠ、サバーニャが集まってきた。不思議とレイナのガンプラ、ギラーガの姿はない。トモヒロはゴッドの姿を見るや否や、心配そうな面持ちで彼女の元に駆け寄った。
「あぁ……ちょっとな……前の奴らの一人にやられちまったよ……」
俯きながらゴッドは被せられている布をギュッと握り、小声で呟いた。それは自分の無力さゆえの悔しさなのか、もしくは呂布の圧倒的な力に恐怖してなのか……またはその二つ両方なのかもしれないが、とにかくゴッドは震えていた。
トモヒロはそんなゴッドの姿を見て、何かを言いたげだったがぐっと堪えて拳を固く握っていた。
「トモヒロ、ゴッドもこんな状態だし……」
「あぁわかってる……わかってるよソウシ……!」
トモヒロはゴッドを探している間中ずっとイライラとしていた。自分に心配をかけて、周りの人間にも迷惑をかけたゴッドを、見つけたら一言言ってやろうと思っていたのだ。しかし、こんな恰好で弱気になっているゴッドを見るのは、トモヒロはもちろん、ソウシ達も初めてだった。そんな状態のゴッドを見て、何も言えるわけがなかった。
「と、とにかく! こんなところでいつまでも突っ立っているわけにもいかないでござろ?」
「そうだよ! みんな、家に入ろ? ほらサバにゃん、ゴッドちゃんを連れて来て」
「は、はいお嬢様! さ、ゴッドさん」
「……すまねぇ」
サバーニャがゴッドの背中を押し、ゴッドが小さくそう呟き、皆は一旦ソウシの家の中に入って行った。
………………
…………
……
「お帰り~♪ ソウシ、どこ行ってたの?」
家に戻るや否や、留守番をしていたカルナがとてとてと笑顔で小走りになりながら俺達を出迎えてくれた。そしてギュッと俺の腰辺りにしがみついて顔をすりすりと擦りつけてくる。
「ただいま……って、お、おいカルナ! 今は遊んでいる場合じゃ……!」
その時、何か背後から凄まじい威圧感を感じた。ガンダム的に言うとプレッシャー……ゆっくりと後ろを振り向くと、オトメが頬を膨らませて、レイナはいつも以上に冷ややかな視線を俺の方に向けていた。
「むぅ! ザクちゃん! カルナちゃんと遊んであげて!」
「えっ、ワシがか!? しかしワシも話に参加した……―」
「……早く行って」
「で、でも……」
「ざ、ザクきゅん、申し訳ないでござるが後で僕が話してあげるからここは女子方の言うとおりに……」
と、タクオは不機嫌感丸出しの女子二人に危機感を感じて、ザクのフォローをするために一言そう言った。
「むぅ……しょうがないのう。来るのじゃカルナ。あっちの部屋でワシと遊ぼう」
「わ~い♪ お姉ちゃん、何して遊ぶ?」
「ワシのことはお兄ちゃんと呼ぶのじゃ!」
ザクは渋々ではあるがカルナの手をつないで奥の部屋へと連れて行った。
「もう、あんな小さな子まで手なずけるなんて……やっぱ油断ならないね」
「何のこったよオトメ? レイナも……」
「……ふん」
二人は俺を無視するとずかずかと家の中に上がっていった。あれからカルナも随分俺達に心の内を開くようになってはきたが……それに連なってこうしてオトメとレイナが不機嫌になってくるのが、何とも解せない……。
「マスター、私達は先にゴッドを着替えさせてきます」
「あぁ、わかった」
だが今は、目の前の問題を解決することが先決だ。
………………
…………
……
簡単なTシャツに着替えを終えたゴッドが、俺たちに事の経緯を話した。呂布トールギスの力の強さと、そしてゴッドを助けてくれた謎のガンプラ……“シャドームーン”についてだ。
「なるほど、呂布トールギスか……」
「ソウシ、その呂布ってどんなやつなんだ?」
まだまだガンダム作品にはあまり詳しくないトモヒロのため、俺が呂布トールギスについてのことを詳しく伝える。
「プラモの“BB戦士三国伝”や、そのアニメ版の“SDガンダム三国伝”に登場するキャラさ。原作だと、一騎当千の武勇を誇る根っからの武人で、戦と強き者との戦いを生きがいとしている。その為ならどんな勢力にも属し、三璃紗最強の侠との呼び声も高い」
「そんな強そうな奴を相手に……お前よく無事だったな」
トモヒロはゴッドが俺達の持つガンプラの中でも屈指の戦闘能力を持つということは、百も承知だ。しかし、ゴッドと俺の話を聞いて、呂布の力がそれよりもはるかに上回るということを感じ取ったのだろう。
「……あいつは、完全に俺との戦いを遊んでいた……」
「本気じゃなかったってことか……よほどゴッドに対して思い入れがあるんだろうな」
「そんなんじゃねぇ!!」
俯いたゴッドがシャツの裾を強く握りしめ、叫んだ。
「俺が……俺が弱かったんだ……! 俺は自分に敵うやつはいないと……天狗になっていた……! それが、奴が現れた途端に……この様だ! 俺が弱いから……弱いから……!」
ゴッドの俯いた顔から何かが零れ落ちる。雫……? 涙……?
あの常に強気で前向きなゴッドが、己の無力さを悔いて涙を流す……それほどまでに今回の敗北はゴッドにとって大きなものだったのだろう。
「……てめぇ! 何泣いてんだよ!」
その時だった、突然トモヒロが立ちあがるとゴッドの胸倉を掴み上げる。
「ちょっ、トモヒロ殿!?」
「トモヒロ君! ゴッドちゃんは傷ついているんだよ!? そんな無理矢理……!」
「知ったことか! 俺はな、別にこいつが負けようが何されようが……そんなことは知ったこっちゃねぇんだよ!」
慌てるタクオとオトメに向けられたトモヒロの言葉は、意外なものだった。そう、常日頃自分のガンプラ達に対して絶対の信頼を置いている俺達にとって、その発言は真逆とも取れる発言だった。
「ただなぁ……負けたら負けたでそれが自分だけのせいだと思ってるこいつのその女々しい根性が気にいらねぇんだ!!」
「女々しいって……ゴッドさんは元々女の子ですよ……」
サバーニャが何か言いたげだったが、感情が昂ったトモヒロにはその声は届かなかった。
「お前が負けたのはお前だけのせいじゃない。最近のお前を甘く見過ごしてきた俺のせいでもある……だからゴッド! お前は俺と一緒に強くなれ!」
突然の提案にゴッドが思わず顔をあげる。
「俺とお前、一緒に特訓して強くなろう! そうしてもう一度呂布のヤローに挑もう!」
「だけど……俺は……」
「てめぇ! この期に及んでまだぐじぐじ言いやがるのか! それでも男か! 軟弱者!」
トモヒロの迫力にもはや俺達は突っ込む気さえ起きはしなかった。だが、その一言がゴッドの心に火を付けたようだ。
「……うっ……うっせぇなぁ!! このアホ主人! 言わせておけば好き放題言いやがって! 誰が女々しいって!? 誰が男らしくないだとぉ!? それの何が悪いんだ! 俺は女だよぉ!!」
あ、突っ込まなかっただけで内心ちょっと気にしていたんだな。
激情したゴッドは自分の胸倉を掴むトモヒロの胸倉を逆に掴み返し、反論する。今にも取っ組み合いが始まってしまいそうな雰囲気だが、感情の高ぶったこの二人を俺達が止めることはできそうにない。
「そこまで言うんだったらわかったよ! 上等だよオラァ! 今以上に強くなって、あいつを見返してやる! だがご主人よ、自分の言葉を忘れるなよ! てめぇは言ったんだからな! 俺と一緒に強くなるって!」
「ったりめぇだ! こちとらいつまでもうじうじしてるてめぇを見ていてイライラしていたところだ! ゴッド! 今から俺と一緒に特訓だ!」
「おうよ!」
そう言うと、二人は笑顔で走り出し、家の外に出てどこかへ走り去って行った。
「……なんなんでしょう、彼女らは……?」
ファントムがそんな二人の突発的な行動を見て疑問の表情を浮かべる。
「まぁ、あいつらなりの立直りと仲直りだな」
「うふふっ、ゴッドさんらしいです」
経緯はどうあれ、いつものように元気を取り戻したゴッドにサバーニャは嬉しそうだ。あいつららしいと言えばあいつららしい、もし俺やファントムがボロクソに負けてしまったら、あんな立直り方はきっとできないだろう。だがそれができるのがあいつらの良いところ。先ほどのトモヒロのガンプラに対して信頼していないように捉えられた発言も、今にして思えばそんな必要がないくらいゴッドのことを信じ切っていたからなんだろう。まさしくあいつらは、ビルダーというよりも本物の格闘家としての方が割に合ってる気がしてきた。
それに……自分のガンプラと一緒に強くなりたいというあのトモヒロの姿勢……その気持ちは俺にもわかる。
「それにしても……気になるのはゴッドを助けてくれた忍者みたいな奴のことだ」
「……シャドームーン……影月の意味……」
レイナの言う通り、その名前の意味を直訳するとそうなる。そんな名前のモビルスーツは、俺たちは聞いたことがない。ということは、オリジナルの改造機か……もしくは正体を隠すための偽名なのだろうか。
「サザビーに続いて二人目の謎のガンプラの登場でござるかぁ……」
「そういえば、今日サザビーさんもギラーガちゃんも見ないけど、どうしたの?」
オトメがきょろきょろと見回し、レイナに話を振った。レイナは無言で用意したジュースをストローで飲んでいるだけだった。
ギラーガか……あのキサラギ妹……アリサの一件でてっきりレイナとの絆が深まったりしたのかと思いきや、この様子を見る限り相変わらずらしい。まぁこいつらの場合、すぐに変化を起こせという方が無理な話か。しばらく様子を見ることにしよう。
それよりもサザビーだ……あの人に限ってはここ最近姿を見せていない。そう、ちょうどアリサの一件が解決したあたりからだけど、今はなにをしているのだろうか……?
………………
…………
……
「ようやく見つけたぞ」
「……」
「先ほどの戦い、見させてもらった」
夜空の三日月が照らすマンションの屋上、その柵の上にシャドームーンは腕を組んで立っていた。背後から声をかけたのは真紅の影、ギラーガだった。
「だが何故お前はあいつの助太刀をするような真似をした? まるで彼女を昔から知っているように……お前は一体何者だ?」
ギラーガの問いにシャドームーンは答えることはない。ただひたすらに一点を見つめたままだ。ギラーガもそれが気になったのか、シャドームーンの目線に立って見据えているものを見る。そこには、夜の公園で腕立て伏せをするゴッドガンダムとサラ・トモヒロの姿があった。
「なるほど、大方察しがついた。お前は……」
ギラーガがそこまで言いかけ、隣を見るが、すでにそこにシャドームーンの姿はなかった。ギラーガはもう一度公園で特訓を行うトモヒロとゴッドを見据え、呟いた。
「彼奴らに対抗するには、純粋な体力の増強だけでは限界がある……やはり行うべきか、私も……―」
そして各部スラスターを起動させ、宙に浮く。
「自分自身の……能力の改造を」
今度は振り返らずに、ギラーガは夜空に向かって飛び去って行った。
………………
…………
……
「えー!? あの後夜通し特訓していただと!?」
翌日、俺は教室でトモヒロにあの後どうしたのかを聞いたのだが、なんとこいつはあの後ずっと公園でゴッドと共にトレーニングをしていたらしい。
「おう! ついさっきまでやっていたぜ! おかげでいつもは眠い朝の目覚めもバッチリだ!」
「そりゃそうだろ、寝てないんから目覚めもクソもあるか」
どうりで着ている制服がどこかよれよれなわけだ……大方特訓に夢中で学校があること忘れて、慌てて家に帰って制服だけ取ってそのまま来たな。
「ところで大丈夫か? 今日から中間テストだぞ」
「……げげっ!!? わ、忘れてた……いや! でも昨日少し勉強していたから大丈夫なはず……!」
案の定か……まぁ少しでも勉強してきたなら問題ないとは思うが……。
「ま、せいぜいテスト中に眠くならないようにな」
「……ちょっといい?」
そんな俺達の元にレイナが歩み寄ってきた。
「ようレイナ、どうした? もうすぐホームルームが始まるのに俺達の方に来て」
「……今朝、アベさんから電話があった」
「アベさんから? 何て?」
というか二人は電話番号まで交換しているほどの親しい間柄だったのか……俺でもそこまでは仲良くはないというのに。
「……今朝、モビルファイター用のGポッドが入荷したから放課後遊びに来い……と」
それを聞いたトモヒロは一瞬膠着すると、思わず席を立ちあがった。あまりの勢いに引いた椅子が後ろの机に激突し、居眠りしているクラスメイトがビクリと起き上がったほどだ。
「まままままマジかそれ!!?」
「……マジ」
「うおおおおおっ……!! ようやくこの日が来たぜ! よぉしっ! さっそく特訓の成果を見せてやるぜ!!」
「特訓の成果? ならよほどテストで良い点数が出るんでしょうね」
聞き慣れた声が聞こえ、おそるおそる後ろを振り向く。そこには……。
案の定、独先生ことヤマナカ先生が生徒名簿の縁で手をぴしぴしと叩きながらそこに立っていた。
しまった……トモヒロの大声のせいでチャイムが鳴ったのが聞こえなかったらしい。
「あっ、先生……! これはその……!」
「キモト君、あなたもホームルーム始まってなお出歩いているなんていい度胸しているわね?」
思わずレイナの方を見ると、彼女はすでに自分の席について知らん顔をしていた。こんな時に限ってなんて素早い奴なんだ……!
ま、まずい……! このままじゃいつかのタクオの時みたいにあの固そうな名簿の縁で頭をガツンと……!
「……はぁ……早く席に着きなさい」
「は、はい……あれ?」
小さな溜息をつき、それだけ言うと独先生は教卓の方に歩いていった。
いつもならここで一発お見舞いするはずなのに……今日はどういう風の吹きまわしなんだろう? お見合いでも失敗してヘコんでるのか?
まぁいいか、なにはともあれ助かった。大人しく自分の席に戻るとしよう。
………………
…………
……
「呂布、今回の行動についてマスターに申し開きがあるのであれば聞いておきます」
「……」
薄暗い一室で、任務より帰還した天ミナは呂布を呼び出し、彼女らの“マスター”の前で今回の無断出撃の理由を問いただしていた。それに対し呂布は、沈黙を守ったままだった。
「なんとか言ったらどうですか? マスターの前でそのような態度は許しませんよ」
天ミナは腰のサーベルに手を伸ばすが、“マスター”が手を上げてそれを制止させた。天ミナはそれを見て、畏まるように彼の元から一歩下がる。
「で、どうだった奉先。君の魂を満たすほどの相手だったかい?」
奉先……それは呂布の下の名前であった。マスターのその質問に、呂布は破損した仮面の奥でニヤリと嗤う。そして踵を返し、出口の方に歩み寄る。
「まっ、待ちなさい!」
天ミナの呼びかけも聞かず、呂布は振り変えることなくマスターに向かってこう言い放った。
「今はお前を主君とし、仕えてやっている……だが俺は戦慄の暴将、我が魂は常に
威圧的な口調だが、マスターは少し間をおき、対照的に落ちついた口調でこう返した。
「それは怖いねぇ。でも残念ながら僕に君を引きとめる権利はない。君だって無理に僕に仕える権利はない。そんなことは重々承知さ」
「フッ……食えん奴だ」
最後にそれだけ言い残し、呂布はそのまま部屋を出て行った。
~オリジナル機体紹介~
戦慄の暴将
「リアルタイプ呂布トールギス」
【機体説明】
BB戦士三国伝、SDガンダム三国伝に登場する呂布トールギスを1/144トールギスⅢを用い、リアル等身で制作。オリジナルギミックとしてトールギス本来のブースターを残し、さらに鎧の下に仕込んだバーニアにより、空中戦も可能となった。
また鎧を外すことにより、BB戦士特有の「軽装モード」も再現することができる。
本編においては機体のフルネームで呼ばれる事はほとんどなく、専ら「呂布」や「将軍」、そして「奉先」とだけ呼ばれる。
【武装】
破塵戟
【必殺技】
“旋風爆裂衝”
“旋風大烈斬”
“暴風激烈斬”
【ベースキット&主な使用キット】
HG トールギスⅢ
BB戦士 呂布トールギス
今回はゴッドガンダムがメインの話となりました。
GガンダムもBB戦士系列も普通のガンダム作品とはまた違うながらも且つどちらも似たような雰囲気があるため、今回は主に格闘戦が重視の戦闘となりました。
さらに原作における呂布トールギスのあんなことやこんなことを再現するために少々危ない路線に走ってしまいましたねw
そしてまたも登場新キャラ。
こんなにキャラ増やしちゃって大丈夫なのか俺!?
次回はようやくゴッドとトモヒロがガンプラバトルに参戦!