機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 自分の教え子の中に人化ガンプラを所有している生徒がいる……そのことを知ったヤマナカ先生は、生徒たちが危険な目に遭うのではないかと不安になる。そんなヤマナカ先生に対し、サザビーから出た提案とは……?
 一方、試験期間中だというのにガンプラバトルのことで頭がいっぱいなトモヒロ。早く自分もバトルしたいため、ソウシ達をガンプラバトルに誘う。


第16話:「少年達が見た彗星」

 ~二日前……~

 

「あなたが前に言っていた人となったガンプラの所有者……それって、ウチの生徒たちのことなの……?」

 

 火にかけていたスープが吹き出すが、サザビーは動かず、ユリの鋭い視線から目を離さずに、やがてコクリと無言で頷いた。

 

「はい」

 

 頷き、短く返事をした後でサザビーは少し小走りで台所に向かい、噴きこぼれる鍋の火を止めた。

 

「どうして……どうして教えてくれなかったの!?」

 

 声を荒げながらユリはサザビーの元に歩み寄り、その肩を掴むと自分の方に向かせる。

 

「私は貴女から『自分の正体を明かすな』とは言われていた。しかし、彼女らのマスターのことを教えてほしいと言われたことは一度も無い」

 

 感情が昂っているユリとは対照的に、サザビーの口調は実に淡々とし、冷静だった。感じようによっては冷徹とまで思わせるほどかもしれない。

 

「でも……だからって……! 私の生徒達が貴女みたいな大きな力を持った者と接触して、場合によっては危険に巻き込まれている……そういうことでしょ!?」

「おや、ご自分の教え子がご心配ですか? 教育者の鑑ですね」

「あんた……!」

 

 掴む手にも思わず力が入るが、サザビーはお玉を手に取るとその手をポンと叩いた。

 

「では私にどうしろと? 彼らにとってガンプラとは信頼できる友……いや、固い絆で結ばれた相棒と言ってもいい。そんな彼らに“危険だから”という理由だけで人化したガンプラを引き離すと? それはいささか酷な話ではありませんか?」

「で、でも……」

 

 サザビーの言葉に少し冷静さを取り戻し、ユリはサザビーの肩から手を放した。一方のサザビーは手に持ったお玉でスープを掬い、自分の口に運んで味見をする。

 

「……そこまで生徒の事が気になるというのなら、こういうのはどうでしょう?」

「な、何よ?」

「貴女が身を持って、彼らを守るというのは」

 

 

 

 

 

―――――第16話:「少年達が見た彗星」―――――

 

 

 

 

 

「では1限目、数学の試験を始めます。始め」

 

 今日から中間試験初日、初日の一限目は数学だ。この科目は彼女、ヤマナカ・ユリ……生徒からの俗称は“独先生”……の担当する教科ではないが、今日は試験の担当官としてこの場にいる。独先生は自分の担当クラスにて開始時間と同時に号令をかけ、試験を開始する。そして生徒達の席を一つ一つ回り、不正行為をしている生徒がいないかを見回る。さすがにいつもは騒がしいこのクラスも、テストの時にはしんと静まり返り、聞こえるのは生徒達の息遣いとカリカリと回答を書き込むペンの音だけだ。生徒全員が真面目に試験に取り組んでいることに、独先生は内心安心した。ここで不正行為を指摘することは、生徒にとってだけでもなく、自分ら教員にとっても辛いものだからだ。

 

(しっかし、私自らが彼らを守れったって……あいつの言った作戦じゃ……)

 

 一通り見回り終わると、黒板前のパイプ椅子に足を組んで座り、テストに集中する生徒たちを……特に、人化ガンプラを所有しているとされるキモト・ソウシやキサラギ・レイナらを見渡す。そこで二日前にサザビーに言われたことについて考えていた。

 彼女は学生時代、ガンダム好きの趣味がバレて恋人に振られたというトラウマを今も抱えている。今もガンダム好きが周囲に知られるのが怖いのだ。そんな自分がどうやって正体を明かさずに彼らを守ることができるのか……それについて考えていた。

 

 Zzz……Zzz……

 

「……ん?」

 

 試験開始から約30分後、そんなことを考えていた矢先、どこからかいびきのような声が聞こえる。他の生徒もそれに気がついたらしく、いびきの聞こえる方向をチラチラと見ている。このままでは不正行為に繋がる場合もあるので、独先生が立ちあがり、声の元へと辿っていくと……。

 

「サラ君、あなたという人は……」

「Zzz……Zzz……」

 

 そこには机に突っ伏して、空欄だらけの回答用紙に涎を垂らして眠りこけるサラ・トモヒロの姿があった。さっきあれほど注意したというのに……更に自分がこれほどまでにこの子らを守る術を考えているのに呑気に眠りこける……その理不尽さについに限界がきた。

 独先生は生徒名簿を手に取ると、その縁をパシパシと掌に叩く。眼鏡をキラリと光らせると、大きく振りかぶり、その縁を思いっきりトモヒロの頭上に振り下ろした。

 

………………

…………

……

 

「ではこれにて3限目の日本史の試験を終了します。後ろの生徒は回答用紙を前の生徒にまわして下さい」

 

 3限目の日本史の試験が担当試験官の号令とチャイムの音と共に終わりを告げる。前の生徒に回答用紙をまわすと、ようやく解放されたという感じで俺は大きく伸びをした。試験期間中は1日が短い。試験は三日目まで続くが、今日は3限目で終わりだ。

 

「どうだった? オトメ」

 

 日本史教師が回答用紙を束ね、教室を出て行くと隣の席のオトメに試験の手ごたえを聞いてみる。

 

「う腐腐腐腐腐……幸村と親方様が……う腐腐腐腐腐……♪」

 

 隣を見ると、トレードマークのアホ毛が不気味に蠢き、虚ろな目と頬を赤らめ、薄笑いと共になにかをぶつぶつと呟きながら腐ったオーラを出すオトメの姿がそこにはあった。

 ああそっか……オトメは某戦国アニメの影響でにわか程度の知識ではあるが歴女の血が入っているんだった。この様子を見る限り、問題を解いている最中にまた変なスイッチが入ってしまい、妄想に浸っている間にその後の問題がうまく解けなかった……そんなところだろう。さて、他の奴はどうかな?

 タクオは……天井を見上げて放心状態だ。体から湯気のようなものが出て眼鏡は曇り、半開きの口からまるで魂が抜けだしてしまいそうな様子を見ると……お察しといったところか。

 レイナは……っと。彼女はいつも通りか。まぁ元々優秀らしいし、変に点数を落とすことも無いだろう。

 

「ようトモヒロ、どうだった?」

 

 トモヒロの席まで歩いていき、様子を聞いてみる。

 

「1限目の時に独先生に殴られた痕が疼いてそれどころじゃなかったぜ……」

 

 そう言ってトモヒロは自分の頭頂部辺りを手で擦りながら答えた。確かに1限目の時は凄まじかった。あの生徒名簿の固そうな縁を普通にぶつけられただけでも痛いのに、それを思いっきり振り下ろされたりなんかしたら……。

 

「まぁ眠気覚めてよかったじゃないか」

「フォローになってないぞ……それ。ところで今日はもうこれで終わりだろ? アベさんの店行こうぜ!」

「えぇ~、もう新しいGポッド試しに行くのか? 中間試験が全部終わってからに……―」

 

 今日の試験はなんとかなったが、明日は特に苦手な科目ばかりの試験だ。内心早く家に帰ってテスト勉強をしようと思っていたのだが……。

 

「いや、ダメだ! グズグズしていたら他の奴に使われて俺が使う暇が無くなっちまうかもしれない! 今日入荷したことを知っているのは俺達だけ、加えて平日のこの時間帯! 行くしかねぇだろ!」

「……しょうがないなぁ」

 

 トモヒロがそこまで言うのなら仕方がない、付き合ってやるとするか。

 

「そう言うわけだ! みんなも付き合ってもらうぞ!」

 

 トモヒロは試験が終わって呆けているオトメ、タクオ、そして帰り支度をしているレイナにも声をかけた。

 

「……私、今日は用事がある」

 

 だが残念なことに、レイナからの返答は不参加を告げるものだった。

 

「え? あ、そうか……じゃまた今度な」

「……」

 

 トモヒロの言葉を聞き流し、目線も合わせずに教室を出て行くレイナ。

 なんだろう……なにか考え事でもしているみたいだった。なにか悩みがあるなら俺達に伝えてくれても良いものだが…。

 

「なんか……前のレイナちゃんに戻っちまったみたいだな」

「……気にしすぎだ、用事があるなら仕方ないだろ。今日は俺達だけで行こうぜ」

「そうだな。じゃ、一旦家帰ってガンプラ持ってくるからアベさんの店に集合な!」

 

………………

…………

……

 

「ただいま~」

 

 そんなわけで学校が終わった後、俺達は一度家に帰り自宅のガンプラを取ってくることにした。

 

「お帰りなさい、マスター」

「わ~いソウシ~♪ 今日は早いんだね~♪」

 

 玄関を開けるとファントムとカルナが出迎えてくれて、カルナは俺の方に抱きついてきた。

 

「ああ、ただいまカルナ。ファントム、悪いけど久々に頼む」

「……試験はまだ一日目ですよ? 明日も明後日もあるのに遊んでばかりでは……」

「俺もそう思ったんだけど、トモヒロがどうしてもって言うからさ……頼むよ、今日だけ」

 

 目の前で掌を合わせてファントムにお願いする。なんだかまるで、自分の母親にお願い事をするような気分だ。

 

「しょうがないですね……その代わり帰ったらちゃんと勉強して下さいね」

「あぁ、わかってるって」

 

 ファントムもまた母親のように、少し厳しい口調で俺に言う。すると、ファントムの身体は一瞬で縮み、元のガンプラの姿になった。俺はそれを拾い上げ、時間が惜しいので手に持ったまま外に出ようとする。

 

「さて、じゃあカルナ。行ってくるよ」

「え……もう行っちゃうの?」

 

 カルナが寂しそうな視線をこちらに向ける。

 

「あ、そうか……俺とファントムがいなくなるとカルナが一人になっちまうか……ええっとカルナ、今日はサザビーさん来てないのか?」

「うん、最近遊びに来てくれないんだ……」

 

 困ったなぁ……最近は勉強優先で外に遊びに行くことはなかったから問題なかったが、いざサザビーさんが来てくれないとどうしたものか……トモヒロに断りを入れるのも気が進まないしなぁ……。

 

『マスター、カルナも一緒に連れて行かれてはどうですか?』

 

 ガンプラ化したファントムが俺の手の中でそんな提案をした。

 

「カルナも……っていうことは外に連れてくのか?」

 

 いくらこの前の連中が襲ってこないとはいえ、そこまで油断しても良いものか……。第一、つい昨日ゴッドが呂布トールギスに襲われたばかりだし……。

 

『無闇に一人にするよりも、マスターの友人達の中に居させた方が安全かと思われます。私達もすぐ傍にいますし、それに、カルナも家の中ばかりではなくたまには外の世界も見ることが必要かと』

「……なるほど。ファントム、確かにお前の言うとおりだ」

「私もソウシ達と一緒に行っていいの……?」

 

 カルナは不安げな視線をこちらに向ける。俺はカルナをそれ以上不安にさせないよう、笑顔で答えた。

 

「あぁ、俺達と一緒にお出かけしよう」

「やったー♪」

 

 満面の笑みを浮かべて俺に抱きつくカルナ。手にファントムを持っているため、少し不格好だが空いている手でカルナの頭を撫でてあげた。

 

「さ、行こうか」

「うん!」

 

 そして撫でてあげた手でカルナの小さな手を掴むと、カルナも俺の手を握り返し、俺達は外へと出た。

 

………………

…………

……

 

「お、もうみんな集まっているな」

 

アベさんの模型店、「ブルーコスモス」に着くと、店の前にはもうトモヒロ、タクオ、オトメが集まっていた。全員制服姿のままのところを見ると、トモヒロはともかく、オトメとタクオの二人はかなりトモヒロに着替える間もなく急かされて走って来たということが窺える。

 

「おせーぞソウシ! なにやってたんだ!」

「悪い悪い、カルナを一人にするわけにもいかないし、走らせるわけにもいかなかったからさ」

 

 そう言って俺の手をしっかりと繋いでいるカルナを見る。以前のように人前でビクビクすることもなくなり、今では3人に対してニコニコと手を振る。対する3人もそんなカルナの様子に和んだのか、ニヤけた顔で手を振る。

 

「にょほほ♪ カルナたんも連れてきたのでござるか~♪ ソウシ殿、グッジョブでござるぞ!」

 

 そんな様子でタクオが鼻息荒くニヤけた顔をしながらカルナに近づく。そんなタクオから庇うように俺はカルナを自分の後ろに下がらせる。

 

「な、なんで避けるのでござる!?」

「お前からはなんか危ないモノを感じた」

「そんな~……」

 

 意気消沈するタクオ。そんなタクオを押しやって今度はオトメが出てきた。

 

「カルナちゃん、こんにちは♪ 私のこと覚えてる?」

「うん、オトメでしょ? それにタクオとトモヒロ!」

 

 カルナはオトメとタクオとトモヒロ、三人の名前をあげると得意げな顔をした。

 

「うっひょおおお! カルナタソに名前呼ばれちゃったでござる~♪」

「最近会ってないのによく覚えていたな。ってか呼び捨てかよ! まぁいいけどさ」

「よく覚えていたね~えらいえらい♪ でもいいの? 外に連れ出しちゃって」

 

 オトメがカルナの頭を撫でながらそう聞いてきた。

 

「しょうがないだろ、家に一人で留守番させるのも可哀想だし、何かあったら危険だろ。ここなら俺達の目があるから安全だし、たまには外に出してあげなきゃな」

「それもそっか」

「どうでもいいけど、早く中入ろうぜ! ソウシが来るまでずっと待っていたんだからよ!」

 

 トモヒロがうずうずした様子で落ち着きがなく足踏みをしている。

 

「わかったわかった、じゃ入るか」

 

 

 

 そんなソウシ達の様子を角の電柱の影から覗く者がいた。

 ソウシ達のクラスの担任の、独先生ことヤマナカ・ユリ先生だった。今日は自分の担当する教科の試験が無かったため、早々にこのような時間帯から暇ができたのだ。

 

『予想通りあの店に入ったみたいね』

 

 そんな彼女の手の中でガンプラ状態となっているサザビーが呟いた。

 

「あの子達……明日も試験があるっていうのにこんなところで遊び呆けていていいのかしら……」

『ま、あの子たちなら新筺体が入ったという噂は早々に聞きつけていたのでしょう。で、どうします? やめますかね?』

 

 サザビーは未だ迷っている様子のユリに対して再度確認をとる。その問いに少々沈黙し、目を瞑ってうんうんと唸りながら苦々しい表情をした後、やっと答えを出した。

 

「や、やるわ! ここまで来たらなるようになれよ……やってやる!」

『そうこなくては。では今はまだここで待機。タイミングを見計らって“それ”を付けて出ることにしましょう』

 

 サザビーの言った“それ”という言葉を聞いて、ユリは“それ”が中に入っている自分の鞄を一瞬見る。そして電柱から離れると、店の前まで来てショーウインドウの前にしゃがみ、くれぐれも自分の姿が見つからないように用心しながら店内の様子を覗く。

 

………………

…………

……

 

「アベさん、こんちはー!」

 

 店内に入り声をかける。すると、俺の手を握っていたカルナは「わぁ……」と小さく声を漏らすと目をキラキラさせて辺りを見回す。模型店に来ること自体初めてだろうから、見る物全てが珍しいのだろう。俺が手を離すと、カルナは小走りであちこち展示してある模型を眺め始める。

 

「おや? ソウシ君達、今日は学校どうした?」

 

そんな俺の声を聞きつけて、商品棚の合間からアベさんが姿を現す。どうやら棚の商品入れ替えの最中だったようだ。

 

「中間試験期間中なので今日は早いんですよ。で、モビルファイター用のGポッドが入ったって聞いたんで早速来ました」

「おおそうか。今朝良かれと思ってレイナちゃんに教えておいたんだが、そうか試験で早引きだったか。てっきり放課後に来るのかと思っていたよ」

「えっ!? あの……もしかして、まだ調整中で使えないとか……!?」

 

 トモヒロが危機迫る表情で身を乗り出してアベさんに聞く。それを聞くとアベさんはわははと笑いながらこう答えた。

 

「心配ないよ、こんなこともあろうかと調整は昨晩のうちに済ましておいてあるからすぐに使えるぞ」

「良かったぁ~……」

 

 それを聞いて安心したのか、ホッと胸をなでおろすトモヒロ。よほどモビルファイター用Gポッドを使ってみたかったと見える。

 

「そうだよな、前々からトモヒロ君は催促していたもんな『モビルファイター用Gポッド入れてくれ!』って。よし! 今日は思う存分使っていけ!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 元気な返事と共にトモヒロはGポッドが置かれている2階のフロアに駆けあがろうとする。が、その前にと俺はトモヒロの制服の襟首を掴んで止めた。

 

「おい」

「な、なにすんだよソウシ!?」

「お前のことだから2階に上がったらすぐGポッドに入っちまうだろうから今決めておきたいことがある。チーム分けはどうする?」

 

 俺の言葉を聞いてトモヒロはハッとした様子で自分の周りを見回す。今日はレイナがいないから俺、トモヒロ、オトメ、タクオの4人となっている。

 

「そんなもん、2vs2でいいだろ。俺とトモヒロのチームで、オトメとタクオのチーム」

 

 トモヒロが俺の肩に首をまわして自分を親指で指さしながらそう言った。

 

「え~、そっち強くない? ……でも、私的王道カップリング的にそれはそれでアリかも~♪」

 

 また変なスイッチが入ったのか、不満を言いつつもくねくねしながらオトメの顔がニヤける。

 

「でも俺は初めてだからソウシにいろいろ教えてもらいてぇんだよ。な? ソウシ」

「ナニを教えてもらうつもり……あだっ!」

 

 自重しないオトメに俺は頭部に軽くチョップをかます。

 

「まぁ、俺は別に誰とでもいいけどさ」

「いやいや! 戦い方を教えてもらうなら別にソウシ殿でなくてもいいでござろう! ここは公平にじゃんけんで……―」

 

「あ、あの~……」

 

 あーだこーだと言い争っている俺達の傍で、誰かが手を上げている。カルナだった。カルナはおどおどとしながら俺達の間に入る。

 

「なに? カルナちゃん」

「あのー……カルナもガンプラバトルしたいです!」

 

 それは、軽く衝撃的な一言だった。

 

「え……えぇー!? カルナ、お前ガンプラバトルしたいのか!?」

「うん! ソウシたちばっか楽しむなんてずっるーい! カルナもやりたいよ!」

 

 と、少々頬を膨らませてカルナは縋る。と言われても、困ったなぁ……俺の今持ってきているガンプラはファントムだけだし……ガンプラ取りに家まで戻るっていうのも……。

 

「ねぇーねぇー、ソウシ。いいでしょー? ねぇ?」

「う、うーん……いいでしょって言われても……」

 

 今度は俺の制服の裾を引っ張って駄々をこね始める。どうしたものか……ガンプラバトルさせてやるのは多分問題ないと思うけど、機体が……。

 

「ソウシ君、その子は?」

 

 アベさんはカルナを見て俺に問う。

 

「あ、えーっと……なんていうか……う、ウチの親戚の子ですよ! カルナの両親、旅行に行っちゃうとかでしばらくウチの方で預かってほしいって言われたんで! ははは……」

「ほー、そっか。こんな小さな女の子がソウシ君の傍にいるものだから何事かと思っちまったよ」

 

 おいおいアベさん……タクオじゃあるまいし、その一言は何気に結構傷つきますよ……。

 

「カルナちゃん、って言ったか? ちょっとおいで」

 

 アベさんが中腰でカルナに目線を合わせると、立ち上がって手招きをしながらどこかへ向かっていく。俺達もその後に続いてアベさんの後ろを歩いていく。

 

 

 

「やばっ! こっち来た!?」

『隠れて!』

 

 ショーウインドウの影から覗いていたユリ先生は、生徒達が自分が覗いている方に歩いてきたことを察し、慌ててさっきの電柱まで戻り、その影に姿を隠す。

 

 

 

「この中から好きなガンプラを貸してやるよ」

 

 アベさんが案内したのはショーウインドウに展示してあるガンプラの数々だった。それを見上げると、カルナの表情が一気に嬉しそうなものへと変わり、キラキラした瞳で目移りしながら機体を選び出す。

 

「いいんですかアベさん? なんか悪いみたいで……これ、従業員の人が作ったガンプラでしょ?」

「構わないよ。ウチは初心者のために機体の貸し出しも行っているんだ。まぁここにあるのはみんなウチの若いモンが作った展示用のばかりだが、それでも気に行ったのがあれば遠慮なく使っていい」

 

 この店がそんなサービスも行っていたとは知らなかった。その話を聞くと途端にアベさんがとてつもなく聖人の類のようにさえ思えてくる。もし俺が女だったらその優しさのあまりこの人のことを好きに……いやいやいや、何を考えているんだ俺は。

 

「私、これにする!」

 

 そう言ってカルナが選び出したのは展示スペースの端の方に置かれていた機体、“ジェノアスカスタム”だった。ジェノアスカスタムは『機動戦士ガンダムAGE』のストーリーにおいて、序盤のフリット少年編に登場する地球連邦軍の量産型モビルスーツ、ジェノアスの改造型だ。原作では“白き狼”の異名を持つウルフ・エニアクルの専用モビルスーツとして登場し、その名の通り機体の全身が真っ白に塗装されている。

 しかし、今カルナが手にしているジェノアスはそれのさらに改造型……白い機体色はミリタリーチックな濃いグリーンとグレーに塗装され、機体の各所に追加の装甲板が張られ、武装もブルパップマシンガンにバズーカ、シュツルムファウストに脚部ミサイル、両肩に二門のガトリング砲と実弾系の武器が満載で、主に火力面で強化されている機体だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それでいいのか? もっと強そうな機体もあるぞ、ウイングガンダムゼロとかジ・Oとか」

 

 俺がそこに飾ってある他のガンプラも勧める。いくら強化型とはいえ、所詮はジェノアスだ。どうしても機体の性能差というものは出てしまう。それが初心者の使うガンプラならなおさらだ。しかし、カルナはそのジェノアスを大事そうに棚から持ち上げる。

 

「いいの。この子が『自分を使ってくれ使ってくれ』って言っているのが聞こえたから」

 

 ガンプラの声を聞いたっていうのか? このジェノアスは別に人化ガンプラだってわけでもないのに?

 カルナに不思議な能力が備わっていることは、今に始まったことじゃない。きっとその力の一部が今少しだけ覚醒して、ガンプラの声を聞いたのかもしれない。だとするなら、ここはカルナのしたいようにさせるのが一番だ。

 

「わかった、じゃあそれでバトルしよう」

 

 俺がそう言うと、カルナは嬉しそうに頷いた。

 

「ほう、そいつを選んだか。そいつの名前は“ジェノアスコマンドー”、ウチの若いモンが改造と塗装の練習に作った機体だ。大切に使ってやってくれ」

「うん♪」

 

 ジェノアスコマンドーをその手に握るカルナの顔から、笑顔が零れた。

 

「で、カルナたんを加えてこれで5人になってしまったわけでござるが……」

 

 タクオの言葉に俺達はきょろきょろと自分たちの顔を見合わせる。

 

「確かに2vs3じゃ途端に分が悪くなっちまうな……初心者が2人もいるし」

 

 仮にベテラン二人vsベテラン一人+初心者二人という、一見バランスの良いチーム構成にしたとしても、初心者を二人も抱えている側は操縦の仕方やらなにやらを教えている合間に相手チームに攻撃を受けてしまうだろう。仮に相手チームがその間に待っていてくれるということも考えられるが、それではバトル全体のテンポがものすごく悪くなってしまう。

 

「そうだ! アベさんが入ればちょうど6人になるよ?」

 

 オトメの提案はもっともだった。ここでアベさんが入ってくれれば万時丸く解決する。

 

「あぁ……ごめんな。平日のこの時間帯はバイトの子が入ってなくて俺一人なんだ。チームに入ってやりたいのは山々だが、店番が居なくなるわけにもいかんからな……」

 

 そういえばアベさんは商品陳列の途中だった。確かに平日のこの時間帯は人が来ないらしく、客も俺たち以外にはいない。それはそうだろう、試験期間中とはいえ、世間はただの平日。こんな時間帯から模型店に来る人はそうそういないだろう。

 

「せめて俺ら以外のお客の一人でもいれば、その人加えて6人になるんだけどなぁ…」

 

 どうしたものだろうか……と、天を仰いだその時だった。

 勢いよく開けられた店の扉、それと共に扉に取り付けられていた鈴がカランカランとけたたましく鳴る。誰かが入ってきたのだろうか?

 

「フフフ……お困りのようね」

 

 と、女性の声が聞こえたため、入ってきたのは女性だとわかる。俺達はその声を聴き、一斉に店の入口に視線を向け……そして唖然とした。

 そこには、やはり一人の女性が扉に手をかけて立っていた。……しかし、正確に女性かどうかはわからないが、多分女性だろう。何故確証が持てないのかというと、その理由はその人の恰好にあった。まず、赤いハイヒールに上下ともに派手で真っ赤な女性用のスーツ……その格好がセミロングの黒髪におそろしく似合っていないが、問題はまた別にあった。

 その人は顔にマスクを付けているのだ。そのマスクというのが、“機動戦士ガンダム”においてシャア・アズナブルが付けるマスクとおそらくほぼ同じものだった。

 突然のことに唖然としてしまい、ポカンと口を開けて呆然となってしまっている俺達をよそに、そのマスクを付けた赤いスーツ姿の女性はつかつかと俺達の元に歩み寄る。よく見ると身長も高く、スタイルも良い大人の女性だということがわかる。

 

「あの……俺達に何か?」

 

 俺達の前まで歩いてきたその女性。少し間をあけて、できるだけ目線を会わせないように、まずは俺がその女性に質問をしてみる。

 

「話は聞かせてもらったわ。メンバーが不足しているのなら、私がガンプラバトルに参加してあげてもよくってよ」

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 その人が割とフレンドリーに俺達に話しかけてきたというのに皆は無言のままだった。そりゃそうだろう……いい年してこんな変な格好してる人が話しかけてきたら誰だって警戒する。

 ってか……あれ? この聞き覚えがある声……もしかして……?

 

「え……え~っと……もしかして、ヤマナカ先生ですか?」

「……っ!?」

 

 おそるおそる勇気を出して、俺が自分の担任であるあの婚期ピンチで性格のキツい独先生ことヤマナカ先生の名を出すと、その女性はドキリとしたのか思わず一歩下がって冷や汗をかきながら顔をしかめる。

 

「ヤマナカ先生……ですよね?」

 

 念のため、もう一度名前を呼んでみる。

 

「ひ、人違いじゃないかしら!? 私は謎のガンプラビルダー、人呼んで“緋色の彗星”……そう、“カーディナル・アーク”とでも呼んでもらおうかしら!」

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 またも周囲に流れる不穏な空気。そして俺も含めその場にいるカルナ以外の人物がこの……自称カーディナルさんのことを「かわいそうな人」を見るような目になってしまう。

 

「じ、じゃあ俺商品入れ替えの途中だから! あ~忙しい忙しい!」

 

 とうとうその空気に耐えきれなくなったのか、アベさんが苦しそうな笑顔で軽く小走りになりながら先ほどの作業場所へと駆けて行った。

 一方の俺達はというと、俺がオトメ、タクオ、トモヒロの四人を手招きすると、みんなで店の隅で固まるとしゃがんで小声で話し合いを始める。

 

「な、なぁ……あれってやっぱ独先生だよな?」

「う、うん……どこからどうみても……っていうかヒイロの水性ってなに?」

「なんであんな恰好でここにいるのでござる……?」

「とうとう独身で三十路が近づきつつある現実を直視できなくなったのか……?」

 

 あれやこれやと話し合う俺達。

 

 

 

(ちょっ、ちょっと!? この恰好すれば正体バレないって言ったじゃない!)

『う~む……やはり声でバレてしまいましたなぁ』

 

 ソウシ達がヒソヒソと店の隅っこで話しあっているのをよそに、カーディナル・アークことヤマナカ・ユリは自分の鞄の中にいるサザビーに毒づく。

 

(呑気なこと言ってないでなんとかしなさいよ! こちとら恥ずかしくって死にそうなんだから!)

『こうなれば私が出るしかありませんな。私を鞄から出して下さい』

(わ、わかったわ……)

 

 言われるがままに独先生は……いや、カーディナル・アークは自分の鞄の中からサザビーのガンプラを取り出す。

 

 

 

『諸君、驚かせてすまない』

 

 不意に俺の脳裏に響くその声。俺達はヒソヒソ話をやめて独せんせ……じゃなくて、カーディナル・アークの方を向く。

 

「その声……もしかしてアンタ! あのサザビーさんか!?」

「最近見ないと思ったらこんなところで出てきたでござるな」

 

 確かにカーディナル・アークがその手に持っているのは、サザビーのガンプラだった。脳裏に響くその声色からして、俺たちのことを幾度となくサポートしてくれたあのサザビーさんであることは間違いない。ということは……このカーディナル・アークこそがサザビーのマスターってことなのか?

 

『そう、今こそ君達に私のマスターを紹介しよう。彼女こそ私のマスター、カーディナル・アー……―』

「いやだからヤマナカ先生でしょ?」

『……』

 

 俺が再びヤマナカ先生の名を出すと、あれだけ意気揚々と喋っていたサザビーは途端に黙り込んでしまった。もしかして……堂々と紹介すれば誤魔化せるとでも思ったのか……?

 

『……人の心の中に踏み込むには、それ相応の資格がいる』

「は?」

『さらば』

 

 何故か最後にクワトロ・バジーナのセリフを言い残してサザビーの意識はどこかへ消えてしまった。……結局なにしに来たんだあの人……いや、あのガンプラ?

 

「ちょっ! ちょっと!? なに引っ込んでるのよ!? なんとかしなさいよ!」

 

 ヤマナ……じゃなくて、カーディナル・アークは意識の消えたサザビーに向かっていろいろ叫んでいるが、サザビーはもううんともすんとも言わない様子だ。

 

「ね~、ソウシ~?」

「ん?」

 

 ふと目線を下に向けるとカルナがジェノアスコマンドーを握りしめながら、同時にもう片方の手で俺の制服の裾を引っ張っていた。

 

「早くガンプラバトルやろうよ~」

 

 カルナは待ちくたびれている様子だった。

 ……まぁ、聞きたいことはいろいろとあるけど、先生には先生でいろいろあるみたいだし、ここは深く追求しないでおくことにしよう。

 それに、このメンバーに参加者が一人増えればちょうど3vs3、双方ともに初心者が加わる形になればバランスが良い。この際ガンプラバトルに参加してくれるなら、緋色の彗星だろうがヒイロ・ユイだろうが誰でもいい。

 

「あの~、せんせ……じゃなくて、カーディナル・アークさん?」

「は、はいっ!?」

 

 突如俺がカーディナルの名で呼んだことにビックリしたのか、カーディナル・アークはサザビーに喚き散らすのを止めてビクリと裏声を出して俺の方を振り向く。

 

「もう深くは聞きませんから。俺達と一緒にガンプラバトルするんでしょ?」

「そ、そうよ! この緋色の彗星、カーディナル・アークがチームに加われば勝利は間違いなし……―!」

「あー、はいはい。早く上に行きましょう」

 

 ごちゃごちゃと御託を聞いている時間も惜しいので、俺達はGポッドが置いてある店の二階へとちゃっちゃっと向かう。

 

………………

…………

……

 

「お、これがモビルファイター用のGポッドかぁ!」

 

 二階に上がると、いつもなら二階フロアの左右の列に三つずつGポッドが並んでいるのだが、フロアの一番奥の片付けられていなかった部分が片付けられており、そこにモビルファイター用Gポッドが新たに一対ずつ設けられていた。

 外観は普通のGポッドと変わりないが、中身を見てみるとハロ型のGスキャナーはあるが、従来のスロットルレバーやコンソールといった機材が廃されており、ルームランナーのような床と全天候モニターとなった球体状のコクピットだけがそこにはあった。ただし、天井付近をよく見てみると、搭乗者の体の動きを感知するためのセンサーのようなものがいくつも出ているのがわかる。

 

「なんだか結構さっぱりしているでござるな」

「へ~、でも本当にモビルファイターのコクピットみたいだな」

 

 俺がMF用Gポッドの内部構造に見とれている時だった。

 

「よう、おまたせ!」

 

 後ろから声がし、振り向くとそこには機動武闘伝Gガンダムの劇中に登場したものとほとんど同じの、あの黒くてピチピチなファイティングスーツに身を包んだトモヒロが立っていた。

 

「お前、もう着替えてきたのか?」

「おう! やっぱモビルファイター操縦するならこの恰好じゃないとな! お前らも早く着替えてこいよ!」

 

 どうやらトモヒロは早くバトルをしたくて堪らない様子だ。ここはご要望通り早急に着替えて、早くバトルを始めるとしよう。

 5分後、ロッカールームで着替えを済ませた俺達はまたGポッドの場所まで戻る。しかし、そこで待っているのはトモヒロだけだった。

 

「あれ? 女性陣はまだ着替え終わってないのか?」

「そうなんだよ! こちとらずっと待ってるのに何やってんだよ全く……」

 

 トモヒロは足をパタパタと揺すりながら少しイライラした口調で答えた。俺達も同じくその場でしばらくそこで待っていた時だった。

 

「みんな、お待たせ~」

 

 最初に女性用ロッカールームから出てきたのは、いつものピンク色のパイロットスーツを着たオトメだった。

 

「おせーぞ! こちとら待ちくたびれてたんだからさぁ」

「ごめんごめん! カルナちゃんのサイズに合うスーツがなかなか見つからなくてね。あ、来た来た」

 

 そのオトメの後に続いて、今度はカルナが小走りでこちらに走ってきた。小さな身体に合わせた子供用の白いパイロットスーツを来ており、それはいつもの白いワンピース姿を彷彿とさせ、とても似合っていた。

 

「ソウシ~! どう? 似合う?」

「あぁ、とっても似合っているぞ」

 

 そう言って俺はカルナの頭を撫でる。カルナはとても嬉しそうな笑顔を俺に向け、それはとてもかわいらしかった。

 

「で、あの人は?」

 

 あの人、というのは勿論カーディナル・アークのことである。オトメは無言で女性用ロッカールームの方を指さす。

 

「待たせたわね、諸君」

 

 その声と共にカーディナルさんがロッカールームから出てきて、俺達の前で腰に手を当ててモデルっぽいポーズをとる。カーディナルさんのパイロットスーツは、案の定ヘルメットを含め、上下ともに真っ赤なパイロットスーツだった。こんな派手なスーツはこの店では見たことがないため、おそらくは自前で用意したものなのだろう。

 

「さぁ、ではさっそく始めるとしましょう。チーム分けはどんな感じかしら?」

 

 もう先ほどのことなど忘れて何事もなかったかのような口調でカーディナルさんは淡々と話を進める。

 

「じゃあ……男vs女のチームでいいですか?」

「了解したわ。ではフジヨシさん、カルナさん。私が指揮をとるから私の指揮下に入って」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「お願いしま~す♪」

 

 本人は正体を隠しているつもりといっても、そこはやはり担任の先生。下手なことをしたら怒られると思い、オトメは結構固くなっている。一方のカルナは対照的に初めてのガンプラバトルということでとても朗らかな様子だ。

 

「そう緊張する必要はないわ。ただ認めて、戦いの糧にすればいい」

「はぁ……」

「でも、実戦というのはガンダムのアニメのように恰好の良いものじゃないから気合入れてね」

「はい……」

「勝利の栄光を君に!」

 

 そう言ってカーディナルさんは颯爽とオトメとカルナに敬礼をし、Gポッドの中に入る。なんか言っていることがシャアとかフロンタルのセリフごちゃごちゃでその真意がよく伝わってない気がするんだけど……まぁ本人が楽しそうだし別にいいか。一方のオトメはちょっと重い足取りでGポッドに入り、カルナも入る。

 

「よし、俺達も出撃準備だ!」

「おう!」

「かしこまり!」

 

………………

…………

……

 

「今日のステージはトリントン基地か……」

 

 トリントン基地はOVAガンダム作品である“機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY”と“機動戦士ガンダムUC”に登場する地球連邦軍の軍事基地だ。各種主要施設の他、モビルスーツの格納庫、司令塔、滑走などが点在している。基地の外は戦闘エリア外となっており、だだっ広い砂の荒野が広がっている。今回は、この基地を舞台にしてガンプラバトルが行われる。

 

「二人とも、宇宙やコロニー戦と違って重力で機体が重くなるから気をつけろよ。トモヒロ、うまくやれそうか?」

 

 トモヒロに通信を入れると、モニターのワイプにMF用Gポッド内のトモヒロの様子が映し出される。

 

「おう、心配いらねぇぜ。いつでもいけるぞ!」

 

 トモヒロはすでに身構えており、気合十分といった感じだった。MF用Gポッドは通常のGポッドとは違い、体を動かすという単純な操縦方法な分、搭乗者の体力をかなり使う動作が求められる。さらに今回のステージは重力下の地上戦だ。いくら体力自慢のトモヒロでも、初めてでこのステージとなれば少々厳しい戦いになるかもしれない。

 

「タクオ、トモヒロは初心者だ。危なくなったら俺達がフォローに回るぞ」

「了解でござる」

「それじゃあぼちぼち始めるか。行くぞ、ファントム!」

『はい、マスター』

 

 いつものようにファントムの声が俺の脳裏に響く。今日のファントムは専用の飛行用ウィザードであるスクランダーウィザードの装備だ。重力下においては高い機動力が求められる。これでそれを補うつもりだ。

 

「よし……ザクファントムカスタムBI(ブラックインパクト)、キモト・ソウシ、出撃()るぞ!!」

 

 モニターに映し出されるミネルバのMSデッキのハッチが開き、カタパルトに機体がセットされると勢いよく外に射出される。

 

「ザクⅠ、アキバ・タクオ、いきまーす!」

 

 次にタクオのド・ダイに乗ったビームスナイパーライフルと大型ジェネレーターバックパック装備のザクⅠが発進する。

 

「ゴッドガンダム! サラ・トモヒロ……往くぞおおおおおお!!」

 

 トモヒロのゴッドガンダムは漢らしく腕組をしたままカタパルトに射出され、外に出ると同時にウイングが開き、バーニアを吹かして飛行する。

 ミネルバから射出された俺達は眼下のトリントン基地を見下ろしながら基地の周りを大きく回る。敵はガンダムサバーニャとサザビー、それにジェノアスのカスタム機。サバーニャはともかく、他の2機は飛行能力を持っていないはずだ。このバトル、空という圧倒的アドバンテージがある俺達に分がある。とはいっても油断はできない。空を飛んでいればその分、地上から狙い撃ちにされる可能性は高くなるのだから。

 

「一旦地上に降りよう。そこで敵を迎え撃つ。俺とトモヒロが先行するからタクオは空から援護を頼む」

「わかったでござる」

「よっしゃあ! 特訓の成果見せてやるぜ!」

『あんま張り切りすぎてバテんなよ、ご主人』

 

 通信越しにトモヒロの気合いに満ち満ちた声と、ゴッドの茶化す声が聞こえてきた。初めてのバトルでこの気合の入りよう、良い傾向だ。少なくとも、緊張してしまって動けないよりはいい。ただじっとしているだけではただの的になってしまうからな。

 

「さぁ、どっからでもかかってきやがれ!」

 

 俺のザクファントムとトモヒロのゴッドガンダムが基地内に降り立ち、女子チームからの襲撃に備える。

 基地内には司令塔やMS格納庫などの、大型な遮蔽物が多く存在するため敵を探し出すのは一筋縄ではいかない。こういうときに上空にフォロー役をまわしておくと、敵の発見に一役買ってくれる。

 

「来たでござるぞ。10時の方向、数3機!」

 

 タクオからの通信でその方向を向く。基地の外からカーディナルさんのホバー移動するサザビーを筆頭に、カルナのジェノアスコマンドーが地上を走り、オトメのガンダムサバーニャが低空飛行で近づいてくる。

 

「私が先に仕掛けるから、フジヨシさんとカルナさんはフォローをお願い」

「はい!」

「カルナちゃん、どう? さっき教えてあげた通りにできる?」

 

 通信越しにオトメとカルナの会話が聞こえる。

 

「大丈夫だよ、オトメ。ガンプラ動かすのってすっごく楽しい♪」

 

 そう言ってカルナはガシガシとジェノアスを動かし、サザビーの前に出ようとする。

 

「あ、こら! フォローをお願いって……!」

「まぁまぁ、先生。カルナちゃんずっとバトルしたがっていたから少し好きにやらせて下さいな」

「わ、私は先生じゃ……! しょうがないわね……」

 

 カルナのジェノアスコマンドーが接近してくる。後方支援機なのに、こんなに近づいて大丈夫なのか……?

 

「いっくよー! ソウシー!」

 

 基地内に侵入したジェノアスは右手に装備しているブルパップマシンガンを構え、俺達に向けて発砲する。周囲にマシンガンの連続的な発砲音が響き渡る。

 

【挿絵表示】

 

 ……が、当たらない。俺達は得に素早く動き回っているというわけでもないのに、当たらない。照準を外れた銃弾は建造物の壁や、MS格納庫など、あらぬ方向へと飛び、俺達の機体には掠りもしない。その原因は単純に、カルナの射撃の腕に問題があった。いや、初心者なのだから仕方ないと言えばそれまでなんだが……それにしたってこの射撃のへたくそさ、オトメよりも下なんじゃないだろうか……?

 

「ええ~い! あたれあたれ~!」

 

 どうやら俺のザクファントムを狙っているらしいが、俺がスクランダーウィザードをほんの少しだけ起動させ、機動性を上げてその攻撃をかわしていく。そのまま遮蔽物などを利用し、接近する。

 

「も~、なんで当たらないの~!?」

 

 いくら撃っても当たらないことに次第にカルナのテンションも下がっていく。一方こちらは徐々に距離を詰めていく。そんな俺に圧倒されてか、ジェノアスが一歩ずつ下がっていく。どれ、ここらで一発脅かしてみるか。

 俺は遮蔽物の影からビームライフルの銃口を覗かせ、一発撃つ。もちろん、照準は合わせてないので放たれたビームはジェノアスの足元あたりに当たった。

 

「ひゃあっ!?」

 

 カルナの驚きの声が通信越しに響き渡り、ジェノアスもそれで大きく後ろに下がる。

 

「あ~あ、あんな内股になっちゃって……」

 

 先ほどは意気揚々と飛び出してきたが、今のカルナはすっかり弱気になってしまい、彼女の操るジェノアスもそれに呼応してか必死に左手のシールドで胸元を守り、内股になってガクガクと震えだす。

 

『ちょっと脅かしすぎではありませんか? マスター』

「だな。トモヒロにタクオ、ジェノアスにはあまり攻撃してやるなよ」

 

 そんな会話を通信越しにしている時だった。突然アラーム音が鳴り、ジェノアスの後ろから黄色い閃光が迸る。俺は慌てて身を伏せる。黄色い閃光の正体はサザビーのビームショットライフルだった。ショットライフルから放たれたビームは俺が隠れていたMS格納庫の壁に命中し、それでも威力が落ちない様子で貫通して後方に流れて行く。さすがはサザビー、標準装備の武装でもここまで火力が高いか。

 

「カルナさん、ここは私に任せなさい!」

 

 そういって飛び出してきたのはカーディナルの操るサザビーだ。そしておそらく、彼女の操るこのサザビーはあのサザビーさんなのだろう。となればかなりの強敵となるはずだ、気を引き締めてかからなければならない。

 

「ソウシ、ここは俺に任せてくれ!」

 

 そういってトモヒロの操るゴッドガンダムが俺の前に手を伸ばし、前に出る。

 

「サラ君、貴方が相手? いいわ……この私がみっちりと指導してあげる!」

 

 どうやらカーディナルさんもトモヒロの相手を承諾したようだ。サザビーはゴッドガンダムの手前で進行を停止し、互いに身構える。

 

「バトルは先手必勝よ! いきなさい! ファンネル!」

 

 サザビーの背中のファンネルコンテナが開き、そこから六つのファンネルが射出される。ファンネルはニュータイプ専用の兵器で、パイロットの脳波を感知することにより、円筒状の移動砲台が立体的な軌道を描いて目標を包囲し、全方位からの攻撃を可能とする、俗に言うオールレンジ兵器だ。特にファンネルはNT専用機においては必殺武器ともされる武装だ。

 始まって早々こんな武器を使用してくるなんて……どうやらカーディナル・アークは本気でトモヒロと戦いたいらしい。初心者の、しかも自分の教え子を相手にちょっと大人げないとは思うが……。

 射出された六つのファンネルはまっすぐゴッドガンダムに向かう……と思いきや。

 

「あ、あれ? あれれっ!?」

 

 通信越しにカーディナルさんの慌てふためく声が聞こえた。何か様子がおかしい。見ると、カーディナルさんが操るファンネルがあっちへふらふら、こっちへふらふらと、ゴッドガンダムとはまったく関係の無い方向へ飛んでいく。

 

「ファンネル! 私の言うことが聞けないのか!? ……いやマジでなによこれ~!?」

 

 一瞬キャラを作ったが、それでもすぐに素に戻って慌てる。なんとか制御しようとカーディナルさんはうーん、うーんと唸りながら精神を集中する。その様子に空気を読んでか、誰も無防備の彼女に攻撃を仕掛けようとはしなかった。そしてようやくファンネルが統率のとれた動きをし始めた。

 

「やった! さぁファンネル! 私の敵を撃……―」

 

 だが攻撃の指示を出したとたん、突然ファンネルの銃口が逆の方を向きカーディナルさんの駆るサザビーの方を向き、ビームを撃ち始めた。

 

「ええええええっ!? ちょっ、ちょっと!? なんでこうなるのよ~~!?」

 

 ビームをさけ、俺達の目の前でサザビーは頭をかかえてだばだばと走り回る。マスクをしているためわからないが、おそらく今のカーディナルさんは涙目になっていることだろう。

 

「ど、どういうことよサザビー!?」

『う~む……適正が無い者がファンネルを使うとこんな風になろうとは……』

「かっこつけて言ってるんじゃないわよ!」

 

 通信越しにカーディナルさんとサザビーの会話が聞こえてきた。なるほど、カーディナルさんはファンネルを操るのに適性が無いのか。噂で聞いた話だが、ファンネルやビット系の武器を自由自在に操るにはそれ相応の適性……一種のセンスのようなものが必要だということを聞いたことがある。だが劇中のニュータイプや強化人間とは違い、この手の武装はガンプラバトルを何度も繰り返していくなかで自然と鍛えられるものだというが……それを全くと言っていいほど使いこなしていないということは……?

 

「せんせ……じゃなくてカーディナルさん。あなたもしかして……初心者なんですか?」

 

 言ってからなんだが、まさかそんなことはないだろう……少し失礼かな? と思いつつも、俺はおそるおそる聞いてみた。カーディナルさんは自分のファンネルに追われながら答えた。

 

「し、失礼ね! 私これでもガンプラバトル2回目よ! ……そりゃサザビーを使うのは今日が初めてだけどさ……」

「ええーーーーっ!!?」

 

 それを聞いて俺は思わず絶叫した。いや、俺だけではない。トモヒロとタクオとオトメも同同時に声を重ねて驚いた。

 

「2度目って……十分初心者ですよ!」

「しかもサザビーに乗るのも初めてときたでござったか……」

「じゃあ“緋色の彗星”って……勝手に自分で呼んでるだけなの!?」

「どうりで操縦がへたくそなわけだぜ……先生」

「せ、先生じゃないって言っているでしょーっ!! もう! ファンネル、コントロールカット!」

 

 俺達がボロクソ言っているとついにカーディナルさんはファンネルのコントロールを強制的に切る。機体との繋がりが切れたファンネルはぼとぼとと地上に落ちていき、6基全てのファンネルはうんともすんとも言わなくなった。

 

「はぁ……最初からこうすればよかったわ」

 

 カーディナルさんは深いため息をつくと、右手のビームショットライフルを捨て、左手のシールド裏にマウントしてあるビームトマホークを装備し、ビーム刃を展開する。

 

「さぁ、茶番は終わりよサラ君! どこからでもかかってきなさい!」

『いや、あんたが勝手に一人で遊んでいただけだろ!』

 

 何事もなかったかのようにバトルを再開しようとするカーディナル・アークに対し、ゴッドが思わずツッコミを入れた。それは通信越しにカーディナルさんの耳にも届いているはずだが、当の本人は知らん顔で聞こえないフリをする。

 どうやら当初の目的通り、カーディナルさんはトモヒロのゴッドガンダムを相手にして戦うつもりらしい。しかもわざわざゴッドガンダムが得意とする格闘戦で。

 

「ま、いいか。おっし! んじゃ仕切り直しといくか!」

 

 掌に拳を当て、気合を入れるトモヒロ。その動きはトレースされ、バトル上のゴッドガンダムにもそのモーションが重なる。そして改めて機体を構えさせるモヒロ。相手はビームトマホークを装備しているというのに、不思議と腰のビームサーベル、“ゴッドスラッシュ”は装備しない。軽いフットワークで左右に機体を揺らし、自分の顔と脇の下あたりで拳を構える。あの構えの形には見覚えがある。トモヒロが中学の頃に習っていたボクシングの構えだ。

 

「……ッシュッ!!」

 

 短い掛け声と共にゴッドガンダムがサザビーの懐に飛び込み、右ストレートを一発放つ。拳はサザビーの巨体を確かに捉えた……と思った。

 しかし、拳は本体に届く寸前のところでサザビーが左手に装備する巨大なシールドによって阻まれる。

 

「甘いわよ!」

 

 シールドの影から剣状に展開したビームトマホークの剣先をゴッドの頭部めがけて突き立てる。だが、その攻撃をトモヒロは紙一重でかわす。ボクシングを習い、動体視力が人よりも優れているトモヒロであれば、自分の眼前に迫る攻撃など止まって見えているのかもしれない。

 

「やるわね。でもこれで終わりだと思わないことね!」

 

 サザビーは脚部、肩部、スカートアーマーなど、各所のバーニアを噴かし、ゴッドガンダムと距離をとる。機体の各所にバーニアやアポジモーターが備え付けられているサザビーであれば、地上の接近戦においてもここまでの機動力を発揮するらしい。

 距離をとったサザビーはシールド裏のミサイルをゴッドガンダムに狙いを定め、発射する。発射されたミサイルは3発、帯を引いてゴッドガンダムに迫る。

 

『ご主人、ミサイルが来る!』

「ならこれだ! バァァァルカン!!」

 

 トモヒロも負けじと、頭部のバルカン砲と肩部のマシンキャノンでミサイルを撃ち落とす。なるほど、グリップやコンソールが存在しないMF用Gポッドにおいては、内蔵武器等を使用する際は音声入力が主となるらしい。

 軽快な射撃音を響かせ、バルカンは迫るミサイルを3発とも全て撃ち落とすことに成功する。射撃は苦手そうなトモヒロだが、そこは無茶な鉄砲数撃ちゃ当たるといった具合に、必要以上にバルカンやマシンキャノンを撃つことによりなんとか迎撃できたようだ。

 

「どうしたよ先生、格闘戦で俺と勝負するんじゃなかったのか? なのにもうミサイルなんかに頼っちまって、情けねーとは思わな……―」

 

 撃ち落としたミサイルからは爆発音と共に爆煙が噴出する。余裕をこいてトモヒロが軽口を叩いた、その時だった。その爆煙の向こうから、サザビーがビームトマホークを構えて突っ込んできた。

 

「なにっ!?」

 

 煙で姿が見えなかったためか、これにはトモヒロも反応が遅れた。だが、すかさず両腕を顔の前に持ってきてガードの姿勢をとる。

 

「日頃の鬱憤……晴らさせていただくわ!!」

 

 上から振り下ろされるビームトマホーク。だが、その寸前でトモヒロは腕を突き出し、サザビーの腕を掴み、斬撃を止める。

 

「それはこっちのセリフだっての! ばぁぁぁく熱!!」

 

 その瞬間、サザビーを掴んだ腕が赤く熱を帯びる。ゴッドフィンガーを発動させ、サザビーの腕を溶断しようとするつもりだ。

 

『いけない!』

「わかってるわよ!」

 

 その最中、サザビーがその太い足を後ろに引き、そして前方に大きく振るうとゴッドガンダムを蹴飛ばし、大きく後方へと追いやった。その瞬間にゴッドフィンガーは離れ、サザビーの腕は溶断されずに済んだ。

 

「っとと、やるじゃねぇか先生」

「こういう時でもないと貴方に手を上げられないからね、サラ君」

「よく言うぜ、しょっちゅう人の頭バンバン叩いてるくせに……」

 

 バトルに夢中になっているためか、カーディナルさんはもう自分が普通に“先生”と呼ばれても訂正しようとはしない。やはり、この二人は互いに日頃から結構な不満を持っているものだということがわかる。トモヒロはよく授業中居眠りするし、独先生はそれを何度も注意する立場にいるのだから。

 

「トモヒロ殿、この高度からならサザビーを狙撃できるでござるぞ。援護するでござるよ」

 

 タクオからの通信が入る。上空を見ると、ビームスナイパーライフル装備のザクⅠがド・ダイの上に立ちながらライフルの銃口をサザビーに向けている。

 

「手出すんじゃねぇ! これは俺の……俺達の戦いだあああああっ!!」

 

 トモヒロはタクオからの援助を拒み、右手のゴッドフィンガーを解除すると、代わりにゴッドスラッシュを装備し、ビーム刃を展開しサザビーに切りかかる。サザビーもそんなゴッガンダムの猛攻に応えるように、ビームトマホークで迫り。互いにサーベルとトマホークを打ち付けあう。

 

『マスター、上を!』

 

 しばらく二人の激闘を観戦していた俺だが、アラートが鳴るよりも早くにファントムの声が響き、上空から放たれたビームを寸前で飛び退ける。

 

「私もいるってこと、忘れてもらっちゃ困るな!」

 

 攻撃してきたのはオトメのガンダムサバーニャだった。ライフルを手に持ち、狙撃用のバレルを付けてこちらを攻撃してきたようだ。そうだ、この二人だけがガンプラバトルをしているわけじゃない。こうなれば総力戦だ!

 

「タクオ、サザビーの相手はトモヒロに任せて、俺達は俺達で戦うぞ!」

「了解でござる! ザクきゅん、移動するでござるぞ」

『了解じゃ』

 

 ザクⅠのド・ダイがゴッドガンダムとサザビーが激闘を繰り広げる上空から移動し、俺のザクファントムがいる場所まで移動する。そしてスナイパーライフルの銃口をサバーニャに向け、攻撃する。

 

「そんな攻撃! サバにゃん、ホルスタービット展開!」

『はい、お嬢様!』

 

 サバーニャがオトメの指示に応えると、サバーニャの両脇に備えるホルスタービットが外れ、目の前に強固な壁を形成する。ザクⅠの撃ったビームはその壁に阻まれ、サバーニャまでは届かない。すると、連結したホルスタービットの一部が外れ、その隙間からサバーニャがライフルビットの銃口を突き出し、攻撃する。

 

「うわっ……っと!」

 

 放たれたビームがド・ダイの主翼を掠める。ザクⅠはド・ダイの上に固定されずに乗っているだけなので急な方向転換やアクロバティックな機動ができないのが難点だ。なので今のは十分に当たる距離だったが、オトメの射撃のへたくそさがここで発揮されたために難を逃れた。

 

「よし、タクオ! 俺も行くぞ!」

 

 背部のスクランダーウィザードを起動させ、空へと舞い上がる。そしてガンダムサバーニャをロックオンすると、ファイヤビーミサイルを発射する。発射されたミサイルは全弾命中し、サバーニャの展開したホルスタービットが崩れ落ちる。その隙を逃さず、タクオはスナイパーライフルを撃ちこむ。

 

『お嬢様!』

「くっ……!」

 

 撃ちこまれたビームはサバーニャに当たった。が、威力が足りなかったのか決定打とはなりえず、胸部装甲を吹き飛ばす程度でとどまった。

 

「もう! 2vs1なんてズルいよ! こっちは実質初心者2人も抱えているのに!」

「そんなこと言われてもな……」

 

 ビームライフルを腰にマウントし、斬機刀を引き抜き、サバーニャに突進する。

 

「勝負は勝負だ!」

 

 刀を大きく振りかぶり、サバーニャに迫る。振り下ろされる瞬間、サバーニャは2丁のライフルビットのバレル部分をパージし、下部のブレードをクロスしてそれを受け止める。が、こちとらは横に並べた3機のジンを一刀両断できるほどの切れ味を持つ刀だ。その程度で止められるはずもなく、火花を散らしながら刀はブレードに切れ込みを入れていき、それは間もなく銃身にまで達しようとしていた。

 

「このままじゃ……!」

 

 オトメの不安げな声が通信越しに聞こえた。その時だった、不意に地上の方から射撃音が木霊する。見ると、カルナの操るジェノアスコマンドーが肩のガトリング砲を展開し、こちらに向けて撃ってくる。

 

「そうだった、カルナがいること忘れていた……!」

 

 ジェノアスから放たれた砲弾は鍔迫るザクファントムとサバーニャの間に迫り、やむを得ず俺はサバーニャとの接近戦を諦め、後退する。離れたサバーニャとザクファントムの間を、ガトリングからの砲弾が掠めていく。

 

「もう! ソウシったら私のこと忘れないでよ! そんなこと言うソウシには……こうしてやるんだからっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 と、カルナは少々怒り気味に肩部のガトリング砲でこちらを攻撃してくる。だが、カルナはまだまだ初心者。その射撃の腕はオトメよりも下だと先ほどわかった。この程度で攻撃を受ける俺では……。

 

「なにっ!?」

 

 だがジェノアスコマンドーから放たれる弾は空中にいる俺のザクファントムを正確に狙って攻撃してくる。ならばと、高速機動で撹乱しようとするが、それでもジェノアスのガトリングは肩部と接続されているボールジョイントをぐねぐねと動かしながらピッタリと俺を追尾して離さない。それと同時に射撃も正確だ。一体どういうことだ……?

 

「くそっ……避けるので精いっぱいか……! カルナのやつ、急にどうしたっていうんだ!?」

「ソウシ殿、カルナたんが何故あそこまで正確に射撃できるのかわかったでござる」

 

 空中を飛びまわりながらぼやく俺に、タクオからの通信が入る。

 

「どういうことだ?」

「あの機体のガトリング砲の後部を見てみるでござる」

 

 その言葉の意味を確かめるために、俺はザクファントムのスクランダーウィザードの出力を一瞬だけ全開にし、ジェノアスの背部まで回りこみ、そのガトリングの後部を見る。

 

「これは……レドームか?」

 

 そう、両肩部に装備される二門のガトリング砲。その後部には、丸い円盤状のパーツが貼り付けられており、そこからアンテナが伸びていた。

 

「なるほど……そういうわけか!」

 

 それを確認すると、脚部と背部のバーニアを駆使して空中で急ブレーキをかけるように姿勢を制御すると、照準をそのレドーム部に絞り、左腕のビームガトリングを起動させる。回転しだす銃身部。そして赤い閃光が音を立てて何発も発射される。

 

「きゃあっ!?」

 

 発射されたビームは見事右肩部のレドームを打ち抜く。それと同時に衝撃で驚いたのかカルナが小さな悲鳴をあげる。小さな爆発が起こり、ガトリングの後部から煙が上がる。そして右側のガトリングの銃身はだらんと力なく肩部から垂れ下がり、もう俺を追尾することはなくなった。

 

「やっぱりそういうことか」

『どういうことですか、マスター?』

「あのガトリング砲はただのガトリングじゃない。基部の後ろ側に付いていたレドーム、あれは高度な策敵能力を持っていたんだ。起動すればロックした目標をずっと追尾し続ける。だから射撃がへたくそなカルナでも俺のザクファントムをずっと追い続けることができたんだ」

 

 現実にもこういった兵器は存在する。艦船等に配備されている捜索・追跡レーダーと火器管制システムを一体化した完全自動の防空システム……「ファランクス」だ。大方それをガンプラで再現しようと、あのジェノアスコマンドーの製作者はそんな装備を作ったんだろう。全く、そのアイデアには思わず感心してしまう。

 

「黙って聞いてればへたくそへたくそって……ソウシなんかこうしてやるー!!」

 

と、あまりにバカにされたことに怒ったのか、カルナはバックパックのフレキシブルアームにマウントされているバズーカを左手に装備し、空中の俺のザクファントムに向け、放つ。放たれた弾頭はまっすぐ俺の方に向か……わずに左下方にズレて後ろの建築物に直撃する。

 

「ふ、ふふん! よく避けたねソウシ! でもそれを避けたってまだこっちには左肩のガトリングが……!」

 

今のはカルナの方が外したんじゃ……というツッコミは思いこそしたが口に出せばこれ以上カルナを怒らせることになってしまうので、無言でいることにした。

カルナは攻撃目標を尚も俺のザクファントムに合わせ、残されたもう片方のガトリングで攻撃する。が、2~3発撃っただけで弾は出なくなり、後はカラカラと虚しい音が響き渡った。弾切れだ。

 

「あれっ!?」

 

 突然の弾切れにカルナが素っ頓狂な声をあげる。どうやらあの肩のガトリングの弱点は装弾数が少ないという点のようだ。装弾数を増やすためにガトリングベルトやタンク等を付けると、フレキシブルな稼働ができなくなってしまうからだと思われる。どんな兵器も一長一短ということが。

 カルナには悪いが、これで一番の脅威は消えたわけだ。この隙に一気に攻勢に出させてもらう! と、その時上空からビームによる攻撃を受ける。オトメのサバーニャだ。

 

「カルナちゃん! 一旦引いて、ここは私が!」

 

 そう言ってライフルビットを展開し、照準を俺に合わせて攻撃してくる。こちらも下手な鉄砲なんとやらというやつで、その攻撃により右肩部分に攻撃を受けてしまい、シールドのジョイントが外れる。

 

「右シールドがやられた!? オトメめ、これ以上はやらせん! タクオ!」

 

 通信でタクオを呼び、俺の横にタクオのザクⅠが乗るド・ダイが並ぶ。

 

「コンビネーションでいくぞ!」

「了解、僕がビットを落とすから、ソウシ殿は本体へ突撃を! ザクきゅん、できるでござろ?」

『当然じゃ、任せておけ』

 

 ザクⅠの頼もしい声が通信で聞こえてくる。よし、いける!

 

「よし……行くぞ! ファントム、最大戦速!!」

『了解! 出力安定、スクランダーウィザード、最大稼働で約15秒!』

「十分だ!」

 

 その声と同時に俺は足元のペダルを思いっきり踏む。そしてザクファントムのウィザード部のブースターが最大出力で噴出され、目の前のサバーニャ目がけて突撃する。

 

『お嬢様! 突っ込んできます!』

「やらせないよ! ライフルビッ……―」

 

 「ライフルビット!」と叫びたかったのだろうが、そう叫ぶ前にザクファントムの背後から赤い閃光が迸り、サバーニャの周囲に回るライフルビットが撃ち落とされていく。それはザクファントムの後方にいるザクⅠからの狙撃だった。オトメとは違い、その正確無比の狙撃により、サバーニャの周囲に配置されている8基のライフルビットは一つ、また一つと撃ち落とされていく。本来ならば無防備のライフルビットはホルスタービットで守るのだが、そのホルスタービットは先ほどの戦闘でほとんど撃破されているため、狙撃から守りきることができない状態だ。

 

「オトメ殿、狙撃というのはこうするのでござるよ」

『残り3つじゃ、主様』

「了解ザクきゅん。それじゃあここは、この前レイナ殿から借りて見たガンダムOOのセリフを借りて……狙い撃つぜええええええ!!」

 

 柄にもなく大声で叫びながらタクオは連続的にスナイパーライフルから3発のビームを放つ。放たれたビームは真っ直ぐにライフルビットへと向かっていき、サバーニャの周りにある残り3つのライフルビットを撃ち落とした。これでガンダムサバーニャのビット類は全て撃墜されたことになる。

 

「ううっ……! ビットが!?」

「オトメ、覚悟!!」

 

 斬機刀を抜き、それを両手で握る。ビットを失ったサバーニャは残った武器の両手のGNビームライフルでこちらを攻撃するが、こちらは刀を利用しそのビームを全て切り裂くか、刀身で弾く。

 

「うそっ!?」

「てやああああああっ!!」

 

 面喰らい、思わず動きが止まるオトメ。それはサバーニャの動きにもリンクされ、サバーニャの動きが一瞬止まる。互いの目と鼻の先まで迫るサバーニャ。その地点で俺はバーニアを下方向に向け、斬機刀を直上に構えるとそのまま上に上がり、一気にバーニアの制御を上方向に向けると、その勢いに任せて構えた刀をサバーニャに振り下ろす。

振り下ろされた刀は火花を散らしながら金属同士が擦れ合う音が響き渡り、手には重い手応えを感じる。ガンダムサバーニャの頭のてっぺんから下まで、その刀の一振りで真っ二つにした。

 そのまま俺はザクファントムの向きを変え、サバーニャに背中を向ける。そして腰にマウントしてある鞘を取り出し、そこに刀を納める。

 鞘と鍔が合わさる金打の音が響くと、それと同時に背後の火花を散らすガンダムサバーニャは、一瞬の閃光が瞬いた後、大きな爆発音と共に消滅した。

 

「勝負あり……悪いが俺達の勝ちだな、オトメ」

 

 

 

 ―ザクファントムカスタムBIに撃墜されました―

 

 ソウシのザクファントムに撃墜されたオトメのGポッドのモニターには、ゲームオーバーのレザルト画面と共にそう表示されていた。

 

「もう! なんで私がいつも最初に撃墜されちゃうのよー!?」

『おいたわしや、お嬢様……』

 

 

 

「見事でござった、ソウシ殿」

 

 後ろでフォローしてくれていたタクオのザクⅠが俺の元に合流する。

 

「タクオの援護射撃のおかげさ、ありがとうな」

「むふふふ、僕もザクきゅんもここ最近強くなっている実感があるでござるなー♪」

 

 確かに、タクオもここ最近俺達とのコンビプレーが板についてきて、それに伴って射撃の腕が一段と上がっているような感じがする。俺達もうかうかしていられないな。

 

「さて、カルナの様子は……っと」

 

 空中で待機しながら地上に目を向けてみる。

 

「降りてきなさいよ! ソウシー!」

 

 地上ではカルナがジェノアスでじたばたと地団太を踏んでいた。自分の射撃の腕ではこの距離からは届かないとわかっているからか、装備している火器でこちらを攻撃してくる素振りは今のところないようだ。仕方ない、あとで適当に相手をしてあげるか。

 さて、そういえばトモヒロの様子はどうなっているかな……?

 

 ―続く―




新社会人よして働きだして2ヶ月ほど経ちました。
毎日が忙しいため、小説を書ける時間も限られてしまっていますが、それでも創作活動は今後も続けていきたいと思っています!
どうか長い目で見守って下さい。

今回からトモヒロが本格的にガンプラバトルに参戦しました。
MF用のGポッドはガンプラビルダーズ外伝のビギニングDに登場しているので、おそらくこんな感じなんだろうなと半分は自分の妄想で書いてたりしますw
次回、トモヒロvsカーディナル・アークの決着の行方やいかに!?
そしてカルナが……!?
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