オトメが敗れ、男性側に有利になった……かと思いきや、「緋色の彗星」ことカーディナル・アークの逆襲が今始まる!
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら、尚もゴッドガンダムに剣を構えさせるサラ・トモヒロ。対するは鮮やかな赤い機体色のニュータイプ専用機、サザビーだ。サザビーを駆るカーディナル・アーク(自称、“緋色の彗星”)も、ビーム刃を最大出力で展開したビームトマホークを構えて対峙している。
「くそっ……! 先生! 往生際が悪いっスよ! いい加減降参したらどうっスか!」
「誰に物を言っているのかしら? サラ君! 私はまだまだいけるわよ!」
「へっ……無駄に年齢だけはくってないってことかよ……!」
カーディナルに聞かれぬように小声でぼやく。MF用のGポッドは、パイロットである自身の体の動きがガンプラにも投影され、同じ動きをする。即ち、腕と足だけで操縦している通常のGポッドとは違い、体全体を使う必要があるために、このGポッドに乗るパイロットは莫大な体力が必要となってくる。体力には自信があるさすがのトモヒロも、長時間の体を使った攻撃には疲れが出てきたようだ。
「疲れている様子ね。なら今がチャンス!」
チャージ音と共にサザビーの胸部のメガ粒子砲にエネルギーが溜まっていく。そしてチャージ量が臨界に達すると、ゴッドガンダムに向けて拡散メガ粒子砲が放たれる。拡散といっても、逆襲のシャア本編においては迫るジェガン3機を同時に葬ったほどの高威力のメガ粒子砲だ。シールドも持たないゴッドガンダム一機が真正面から受けて無事で済むはずがない。
「くっ……させるかよ!」
トモヒロは両手でゴッドフィンガーを発生させると、それを正面に何度も叩きつけるかのように突き出す。まるで相撲の張り手のようだ。そうすることで目の前に残像のゴッドフィンガーが出現し、メガ粒子砲から本体を守った。
「どうだ! ……っ!?」
しかし、メガ粒子の熱量は予想よりも凄まじいもので、ファイティングスーツに似たパイロットスーツを着ているトモヒロの両手が、真っ赤なダメージ表現に覆われる。連続的にゴッドフィンガーを使用し、あまつさえそれでメガ粒子を防ぐなどという大胆な芸当をやってしまったために、ゴッドフィンガーの熱の許容量を越え、オーバーヒートを引き起こしてしまったのだ。
「ち……ちょっと無理しちまったかな?」
『このバカご主人! んな使い方したらすぐに放熱が追いつかなくなるに決まっているだろ!』
「主人に向かってバカだと!? てめぇ! 後で覚えていろよ!」
あまつさえ自分の操る機体と口喧嘩を始める始末だ。
「あらら? 喧嘩している場合かしら!?」
そうこうしているうちにサザビーは地面に落ちているビームショットライフルを拾いあげ、それを素早く構えるとゴッドガンダムに向けて撃つ。
『来るぞ、ご主人!』
「ちぃっ!」
舌打ちをしながらも横に体を倒して地面を転がり、ビームショットライフルによる攻撃を避ける。そうして基地司令塔の陰に身を隠し、サザビーの射程から逃れる。
「独先生め……途中から戦法変えてきやがった。ったく、こっちには近接用の武器しかねぇってのに……おい、ゴッド。もっとなんか凄ぇ技とか使えないのか? 超級覇王電影弾とか、石破天驚拳とか」
トモヒロが並べた技名、それらは“機動武闘伝Gガンダム”において主人公のドモン・カッシュが自分の乗るシャイニングガンダムやゴッドガンダムで繰り出した、流派東方不敗の奥義の数々だ。
『ご主人、何か勘違いしてないか? 一応言っとくが、そのへんの技はあくまで流派東方不敗の継承者のみが扱える技であって、ゴッドガンダムに乗ったからって使えるわけじゃないんだぞ』
「えっ、そうなのか!?」
言われてみれば確かに……ドモン・カッシュもその師匠である東方不敗マスターアジアも、その技のいくつかは生身でもやっている描写があった。それをトモヒロはすっかり誤解し、機体本来が持っているポテンシャルだと勘違いしていたのだ。
『まぁ、俺は原作での能力はそのまま身体能力にフィードバックされているから、人化状態だと使えるけどな。けど……』
「……ガンプラバトルだとあくまでもビルダーが技を扱えないと、機体で発揮することはできないってことか」
小さな溜息をつき、トモヒロは少し項垂れてしまう。何故なら、ゴッドガンダムに代表されるモビルファイターは、他のガンダム作品に比べて武装がそこまで派手で強力というわけではない。それは原作のGガンダムにおいて、様々なモビルファイターがそれぞれ個性的な技の数々を繰り出していたためであり、つまりは技が武装扱いなのだ。
しかし、現実はそう甘くはいかない。こちとら必殺技なんてものは何も持ち合わせてはいないのだから、武装は頭部バルカンが2門、肩のマシンキャノンが2門、専用ビームサーベルことゴッドスラッシュが両腰に一対ずつ……そして、両手には唯一必殺武器といえるゴッドフィンガーがあるのだが……今はオーバーヒート中で使うことはおろか、ロクに腕を動かすこともできない。
「……我ながらいい考えだと思ったんだけどなぁ……」
虚しそうにトモヒロは自分の手を見る。確かに、ゴッドフィンガーから繰り出されるパワーは強大で、その必殺の掛け声、「ヒートエンド」と共に仕損じたことのない戦いは無いほどだ。しかし、本編でも専ら必殺武器として使用されるのが主であり、防御技として使われたことはない。
「くそっ……まだ俺はガンプラバトルのなんたるかがわかってないってのか……! 初心者の先生にも勝てないようじゃ、あの呂布にだって……!」
物陰に身を隠しながら、トモヒロは一人己の未熟さを嘆く。ゴッドが呂布に敗れた時、上っ面では厳しい態度をとっていたが、内心はとても心配していたのだ。それを感じ取ってか、ゴッドがトモヒロに告げる。
『嘆くなよご主人、その代わりと言っちゃなんだが、逆に言えばご主人がオリジナルで考えた技だってこのシステムでならバトルに反映させることも可能なはずだ』
「なにっ、俺が考えた技がか!?」
思わずトモヒロは聞き返す。自分で編み出した技がバトルで使える……それは、トモヒロが長年憧れ続けた「Gガンダム」という作品に対して、ある種の極みとも言えるべきことだったからだ。
『流石にご主人の体力じゃドモン・カッシュや東方不敗ほどの技を編み出すことはできないかもしれないが、それでも格闘バカのご主人にならいい技が生み出せると信じてるぜ!』
「俺の技か……ううむ」
今がバトルの最中だということも忘れて、トモヒロは腕を組んで考え出す。自分にはソウシ達ほどのガンプラを作る技術があるわけでも、抜群のガンプラバトルのセンスがあるというわけでもない。となると、頼れるのはほぼ素組みのゴッドガンダムと己の肉体のみ……。
Gガンダム内におけるモビルファイター、“ガンダム”という存在は、たいていは操縦者……ガンダムファイターの肉体の延長線上だと考えた方がいい。つまりは操縦者本来の持つ必殺技等も、ガンダムに乗ることで大幅にグレードアップされるということだ。だとするなら……今の自分にはどのような技が編み出せるだろうか……?
―――――第17話:「目覚める刃」―――――
「どうしたの? 出てこないかしら? なら……」
無闇に物陰に隠れる相手に対して攻撃していても仕方がないと悟ったのか、カーディナルはビームショットライフルの照準をゴッドガンダムの隠れる管制塔の中腹あたりに定め、ロックオンする。
「出てこられるようにしてあげるわ!」
そして放たれる最大出力のビーム。威力が収束されているそれはただ一点、管制塔を撃ち抜きビームが貫通する。そして音を立てて崩れる管制塔。
「なにっ!?」
その陰に隠れていたトモヒロは頭上より降り注ぐ瓦礫にハッと気がつく。バトルの最中だということも忘れて考えに耽っていたら、思わぬ不意打ちをくらった。
逃げようにも、ここを出たらビーム攻撃によって撃ち抜かれてしまう。どうすれば……!
その時、管制塔の頂が一際大きな瓦礫となってゴッドガンダムの上に落下してくる。それはかなり大きく、この勢いで落下すればゴッドガンダムでも簡単に圧し潰してしまうほどだろう。
『ご主人!』
「くそっ……!」
どうすることもできず、思わずトモヒロは目を固く閉じて身をすくめる。そして、頭上より来る衝撃に身構える。
……が、いつまで経っても頭上に衝撃が来ることはなかった。何故なら……。
「大丈夫か? トモヒロ」
「戦いの中で戦いを忘れるとは、トモヒロ殿らしくないでござるなぁ」
ゴッドガンダムの頭上に降り注ぐ巨大な瓦礫を、ザクファントムのビームライフルとザクⅠのビームスナイパーライフルで撃ち抜き、ゴッドガンダムの頭上ギリギリで破砕に成功した俺達は、崩れた管制塔の陰でうずくまるゴッドガンダムに通信を入れる。
「お……お前らが助けてくれたのか!?」
トモヒロの声が聞こえた。よかった、どうやら何事もないようだ。
「当たり前でござろ、チームメイトの危機を助けるのもまたチームメイトの役目でござる」
「その通りだ。トモヒロ、初めての戦闘で気合入っているのはいいが、もう少し味方を頼れ。お前一人で戦っているわけじゃないんだから」
少し厳しいことを言ったかもしれない。だが、このガンプラバトルはチーム戦だ。一人で倒すことができない相手は、2人がかりでも3人がかりで相手をしても、何も卑怯なことはない。それも立派な戦術だ。
得に今は、オトメが先に撃墜されて女性陣チームは2機のみと不利な状況になっている。それもほとんど初心者の。だから慌てることはない、全員で1機ずつ相手をしていけばいいのだ。
「悪いけど、先生といえども手加減はしませんよ!」
「初心者でもでござるがな!」
と、今度は地上のサザビーに向かってビームを撃つ。
「な、なによ! レディに対して3体1でかかってくるってわけ!?」
俺達の攻撃をシールドで防ぐと、サザビーは一歩後ろに後ずさりして後退しようとする。
「逃がさない!」
再びスクランダーウィザードの出力を上げ、サザビーに向かって吶喊する。勢い余って少し行き過ぎてしまったため、空中で急転換すると、残った左肩のシールドを機体前方に倒し、そこからビームトマホークを取り出し、右手に装備する。さらに右腰にあるレーザー重斬刀を左手で持ち、サザビーに向かって突っ込む。
「はぁあああっ!!」
掛け声と共に大きく振りかぶったビームトマホークをサザビーに向かって振り下ろす。サザビーはそれを巨大なシールドでガードするが、先ほどから被弾しまくってダメージが蓄積されているシールドはその衝撃に耐えられない様子で、巨大といえどもあっさり真っ二つに切り裂かれてしまう。
「くっ……このっ!」
切り裂かれるシールドからビームトマホークを左手に持つと、それを片面でビーム刃を発生させて切りかかる。同じビームトマホークといえども、あちらの方が大型で出力も段違いだ。だが、こちらにはこちらの利点がある。
俺と同様にビームトマホークを振りかぶり突っ込んでくるサザビー。だがビーム刃が迫る最中、俺は機体の脚部スラスターを起動させ、そのままバックステップを踏ませてサザビーから逃れる。と同時に、右手に持つビームトマホークをサザビーに向かって投擲した。投げられたトマホークは回転しながらサザビーに向かう。
「なにっ!?」
投げられたトマホークは右腕にあたり、ビームショットライフルごとサザビーの右腕を斬り裂いた。
「よしっ!」
思わずコクピット内でガッツポーズをとる俺。こちらのビームトマホークの利点は、こうやって投擲武器としても使用できるという点だ。
「よ……よくもぉっ!」
激昂したカーディナルさんは背中のプロペラトタンクをパージし、身軽になるとその勢いで再びビームトマホークを構える。俺はレーザー重斬刀を左手から右手に持ち替え、その斬撃をレーザー重斬刀で受け止める。パイロットは素人といっても、流石は重量級モビルスーツのサザビー、単機でのパワー出力は随一だ。加えて、カーディナルさんのビルダーとしての腕もそこそこ高い。そのためか、片手一本になっていてもこちらの格闘技を抑え込むほどの出力がまだ残っている。
トモヒロはこんなのを一人で相手していたのか……しかし、これも全て俺の狙い通り!
「トモヒロ! 今だ!」
「……! おうっ!! ゴッド、考えるのはひとまず後回しだ!」
『おうさ!』
通信でトモヒロに呼び掛けると、俺の狙いに気がついたのか、トモヒロは機体の体勢を持ち直すとゴッドフィールドダッシュで接近する。
「なんですって!?」
背後から接近するゴッドガンダムに気がつくカーディナル・アーク。だが、今さら遅い。片腕を失い、残った左腕もこうして俺と鍔迫っていてはもう一方から接近する敵には対応できない。
『仕方ない。サイコミュのコントロール系統を回復してください! めちゃくちゃに撃っても弾幕程度にはなるでしょう』
「そ、そうね! ファンネ……―」
だがファンネルのコントロールが回復し、地面に落ちていたファンネルが一瞬宙に上がるも、それらはド・ダイによって空に上がったタクオのザクⅠによる狙撃によって撃ち落とされてしまう。
「そうくると思って、空でスタンバっておいたでござるよ」
6発目の狙撃で、ファンネルは全て破壊される。これでカーディナルさんの万策は尽きた筈だ!
「こっ……このおおおっ!! ならこれでも……!」
ふと視線を下に向けるとサザビーの胸部メガ粒子砲にエネルギーがチャージされている。まさか……! この至近距離で撃つつもりか!?
『いけない! マスター、離れて!』
ファントムの声が最後まで聞こえたか聞こえないか……そのくらいのタイミングでメガ粒子の発射音が響き渡り、目の前が閃光に覆われる。だが、メガ粒子砲が発射される寸前に俺は先ほど同様に機体にバックステップを踏ませて後退する。
それでも発射されたメガ粒子砲は俺のザクファントムへと迫る。そこから先は考えるよりも先に体が行動を起こしていた。機体のバランスをわずかに左に傾けることにより、右肩のシールドを正面に向けた。メガ粒子砲はそのシールドに直撃し、激しい衝撃に機体が揺さぶられ、後方へと弾き飛ばされる。
「あの攻撃を……防ぎきったですって!?」
『ユリ! 背後を!』
ザクファントムの神業ともいえる回避・防御手段に一瞬呆気にとられるカーディナル・アーク。だが、すぐ後ろにゴッドガンダムが迫っていることをサザビーが知らせ、機体を反転させる。
「ソウシが作ったこの隙! 無駄にするもんかよおおおおおお!!」
機体を反転させると同時に視界に飛び込んでくるゴッドガンダム。ゴッドフィンガーの冷却も済んだらしく、構えるその右手には赤く燃え滾る掌を大きく広げている。
それを見てカーディナルは咄嗟に左手に持ったままのビームトマホークを出力最大にして迫るゴッドガンダムに対して正面から突き立てる。それに対して大きく後ろに引きこまれるゴッドフィンガー。次の瞬間、前方に勢いよく突き出されるゴッドフィンガーと、突き立てたビームトマホークの剣先とが接触し、激しい音と光が周囲に瞬く。
「うおおおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああっ!!」
トモヒロとカーディナルの絶叫が反響し合い、互いに一歩も退かない攻防戦が続く。だが、片腕を失い、先ほどメガ粒子砲を撃ってパワーダウンししているサザビーの方が、機体の出力的に足りない様子で、徐々にゴッドガンダムが圧していく。
「まだだ……まぁだだぁ!!」
さらに左腕のゴッドフィンガーも発動し、それを両手に重ね合わせてサザビーのビームトマホークを押し込むように迫っていく。
「う、うそっ……!? エネルギーが……!」
そしてついに、サザビー側の方は残りエネルギーが尽きてしまい、展開しているビーム刃が出力低下に伴い徐々にビームが揺らいで不安定になっていく。ゴッドフィンガーを押さえつけている腕のパワーも低下していき、その隙にトモヒロは機体の出力を一気に上げ、両手を押し込む。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
二つのゴッドフィンガー同様に、トモヒロとゴッドとの声が重なり合い、その掛け声と共にゴッドフィンガーはビームトマホークを破壊し、それを突き立てるサザビーの左腕、左肩、それらを砕きながらサザビーの頭部をガッシリと両手で掴む。
「ガンダムファイト国際条約第1条!」
『頭部を破壊された者は失格となる!』
トモヒロとゴッドとが交互に叫ぶ。
両手のゴッドフィンガーを直に受けるサザビーの頭部は徐々に融解し始め、同時に機体制御も行えなくなる。というのも、サザビーのコクピットは頭部にあるという設定だ。だからここにダメージがいけば、必然的に機体全体が行動不能になってしまう。
「うっううっ……! そんな……! 私は……カーディナル・アークで……! 緋色の彗星で……!」
最早打つ手が無くなってしまい、気弱なカーディナルさんの声が聞こえてくる。当然それは現在進行形で攻撃を行っているトモヒロにも聞こえているはずだが、当の本人は手加減をするつもりは毛頭無いらしい。
「これで終わりだ! ヒィィィィト!!」
『エェェェェェェンド!!!!!』
二人の掛け声と共に、ゴッドガンダムは両手を思いっきり握りしめる。
「今年三十路なのよおおおおおおおおお!!!?」
カーディナルの絶叫(なぜこんなセリフなのかは謎……)と共に爆発するサザビーの頭部。頭部を破壊されたサザビーは、そのまま糸が切れた人形のように崩れ落ち、カーディナル・アークからの通信も途切れる。
この激戦を制したのは、タクオとゴッドガンダムだった。
「いよっしゃあああああ!! ゴッド! 俺とお前との初勝利だぜ!」
『それは違うぜご主人、俺達二人だけじゃないだろ』
その言葉に気付いたトモヒロは後ろを向く。そこには、俺のザクファントムとタクオのザクⅠが親指を立ててトモヒロの方を向いていた。
「……ああ!」
それを見たトモヒロもまた、親指を立てて俺達に返した。
………………
…………
……
―ゴッドガンダムに撃墜されました―
「う、嘘……やられちゃったの……?」
一方のカーディナル・アークことヤマナカ先生こと独先生は、自分が教え子に敗北してしまったことが信じられず、しばらく仮面を外してボーっとしていた。
実力差的には双方ほとんど初心者……つまりは互いにほぼ同じ条件。しかし負けてしまった……。敗因があるとするならば、それは……。
『どうしたね? カーディナル』
あまりにも呆けている時間が長いからか、サザビーが問いかける。
「……教師としては喜ぶべきところなのかもしれないけれど、素直に喜べないわね……だって、こんなに悔しいんですもの」
『ほう、やはり貴女も一人のガンプラビルダーとして負けたくなかったわけだ』
「それもあるけど、サラ君は日頃から授業を真面目に受けてないんですもの! だから負けたくなかったの! 今日だってテストの最中に居眠りしていたのよ!? 有り得ないでしょ!? だからガンプラバトルの時くらいはぎゃふんと言わせたかったのよ!」
と、カーディナル……いや、ヤマナカ先生は拳を握ってふるふると震え、青筋を立てながらそう言った。
『ふははは。なるほど、ビルダーとしてよりも先に個人的な感情の方が先に出てしまったというわけか』
「でも……負けは負けね。この次はもっとファンネルの使い方だって上手くやってみせて、今度こそ勝ってみせるわ」
『その意気だ。さて、我々は外に出てこのバトルの行く末を見守りましょう』
「そうね。といっても、あのカルナって娘一人じゃ厳しいだろうからもう勝負は決したようなものでしょうけど」
そう言うとヤマナカ先生はまたシャアの仮面を被ると、ガンプラスキャナーからサザビーを取り出してGポッドの外に出る。このバトルで残された女性チームのメンバーは、あとはカルナのみ。
カーディナル以上に実力不足の彼女では、まだ3人残っている男性チームを相手にすらできないだろう。大方、ソウシあたりが適当に稽古をつけて、それでおしまいになるだろうと、そう思っていた。そんなことを考えながら、カーディナルは先に撃墜されたオトメが見ているモニターの前まで行き、彼女の隣に立つ。
「フフッ……お互いにまだまだ精進しなきゃいけないわね。これからも頑張りましょう」
当人はビシッとかっこいいセリフを決めたはずだった。
「……」
「……どうしたの?」
だが、オトメからの反応が無い。その顔を正面から覗き込むと、何故かとても信じられない物でも見たかのように驚きの顔になっている。不審に思ったカーディナルは、彼女がずっと凝視しているモニターの方を見る。
「えっ……? なに、これ……?」
………………
…………
……
―その数分前……―
「ふーんだ……どうせ私なんか弱っちいから誰も相手してくれないんだ……」
基地の外れの方で、カルナは自分を差し置いて激しいバトルを繰り広げているソウシやトモヒロを横目に、Gポッド内で膝を抱えてむくれていた。すっかりいじけてしまっている。それに比例してか、ジェノアスコマンドーも体育座りをしていた。両肩の無力化されたガトリングは重荷になるのでパージされ、それはジェノアスの足元に無造作に転がっている。
「この子がもっとうまく動いてくれれば……ううん」
思わず口から愚痴が零れてしまう。だが、それは違うということは自分でわかっていた。全ては自分が未熟なため、このガンプラの持つポテンシャルを完全に引き出せてないのだ。
「私が、もっとこの子のことをわかってあげられれば……!」
試しにシートにしっかりと座り直すと、両手を握り合わせて、目を閉じ、心の奥で念じてみる。すると、頭の中で何か囁き声のようなものが聞こえてきた。カルナは、必死でその声に耳を傾ける。
「……うん……うん……わかった」
囁き声に相槌を打つと、カルナはしっかりと目を見開き、レバーを握る。そしてその声に導かれるようにジェノアスを立ち上がらせると、次に照準器を起動させた。
「やってみるよ」
………………
…………
……
「それにしてもソウシ殿、さっきの変態機動は一体なんだったのでござる? どこであんな動きを習得したのでござるか?」
サザビーを撃墜すると、タクオからそんな通信が入ってきた。
「さぁな、気がついたら体が勝手に動いていたよ。自分でも驚きだったけどな」
あの時、自分が窮地に立たされたと感じたその瞬間、どう動けばよいのか頭よりも先に体が反応して動いていた。それはきっと、俺が今までこのガンプラバトルで培ってきた反射的な直感が働いたのだと思う。要は確かに強くなってきている。そう実感せずにはいられなかった。
「えーっと、これで女チームは全員倒したんだっけか?」
「何言っているんだソウシ、まだカルナちゃんのジェノアスコマンドーが残っているだろ」
「あぁ、そうだったか」
いかんいかん、カルナのことをすっかり忘れてしまっていた。だが、カルナだけならここから先は遊びみたいなものだ。適当に稽古をつけて終わりにしよう。そう俺は考えていた。
「んじゃ、あとはソウシがカルナちゃんを適当に相手してやってくれよ。俺は疲れた」
そう言ってトモヒロのゴッドガンダムは地べたに座り込む。サザビーを撃破したトモヒロは幾分かこのガンプラバトルにおいても自信がついたようで、気持にも余裕ができてきたみたいだ。
「そういやカルナは今どこらへんにいるんだ?」
「ちょい待ち、上空から見てみるでござる」
モニターに表示されるレーダーにも反応が無い。ということは、レーダーの範囲外まで離れてしまっているということか。トモヒロが目視で位置を確認するために、ド・ダイで上空まで上がりそこから基地内を見渡す。
「あれ~? おかしいでござるな、姿が見えないでござる。ザクきゅん、僕が見落としてないかそっちでも確認頼むでござる」
『う~む……ワシの方でも捕捉できないでござるが……』
「一体どこに……のわっ!?」
その時だった、突然タクオの叫び声が聞こえ、上空の方で大きな爆発音が聞こえた。その声と音に驚き、思わず見上げてみると、何かの攻撃を受けたド・ダイが炎上し、地面に落ちていく。そして、地面に衝突して巨大な爆発と共に炎があがった。
「な……なんだ……?」
俺には何が起きているのかわからなかった。ただ間一髪、炎上するド・ダイから飛び降りたザクⅠが背部と脚部のバーニアを噴射しながら、空中でなんとか姿勢を保ちながら降下してくる。
「く、くそっ……! どこからでござるっ!?」
空中でタクオは自分を攻撃した目標がどこにいるのかを探す。しかし、ド・ダイが攻撃を受けたショックでザクⅠにもいくらかダメージが及んだらしく、機体が激しく揺さぶられ、危険値を知らせる警報がけたたましく鳴る。だがそれでも、必死にバーニア操作で姿勢を保ちながら攻撃してきた目標を探す。
その時、基地の端の方で何かが光った。ザクのモノアイをそこに向け、ズームしてみる。すると、そこにはバズーカを構えたジェノアスコマンドーの姿があった。光はバズーカの砲口が太陽の光で反射したものだった。
「あんな距離からこっちを攻撃したのでござるか!?」
備え付けのセンサーはおろか、あんな照準器もないようなバズーカでは射程のはるか外にいる機体を捉えるなど不可能に近い芸当だ。しかし、現にあの機体はしっかりと空を飛ぶタクオのザクに命中させた。まぐれなのだろうか? それとも……。
「ええいっ! だとしても……!」
タクオは落下し続けるザクを空中で操作し、ビームスナイパーライフルの銃身をジェノアスのいる方向に向ける。
『ここから撃つのか!? 無茶じゃ!』
「いつもいつも! 最初に落とされて終わるばっかりな僕ではないでござる!」
激しい揺れと、上空から猛スピードで落下するこの状況で、遥か遠方にいる敵に対して精密射撃をするなどどだい無理な芸当だが、それでもタクオは、このまま素直にやられるつもりは無いらしい。このまま落下し続ければいずれは地面に激突し、ゲームオーバーとなる。しかし、それならばせめて一矢報いる。そういう気持ちなのだろう。
「あの距離で向こうに当てられたのなら……こっちだって!」
揺れる照準器が敵機を捉えた。その一瞬にタクオは全てを賭けて引き金を引く。ライフルからビームが放たれ、真っ直ぐにジェノアスの方へ向かう。……が。
「なにっ!?」
その弾筋が見えていたとでもいうのだろうか。ジェノアスはビームが命中するギリギリのタイミングで横に飛び退き、狙撃から逃れる。そして機体を素早く起こすとまたもバズーカを構えてタクオに放つ。
「うおっ……!?」
短い驚きの声と共にタクオの声は聞こえなくなり、ザクⅠは空中で撃破されてしまった。
…………………
…………
……
―ジェノアスコマンドーに撃墜されました―
「な、なんだったのでござる……? 今のは……?」
ゲームオーバーとなり、レザルト画面が表示されていても、タクオはしばらくの間、操縦桿を固く握りしめたまま離すことができないでいた。それほどまでに自分の体験したことが信じ難いものだったからだ。相手は今日ガンプラバトルを始めたばかりの、自分よりも遥かに年下な女の子……。それも、自分が作ったガンプラを使用しているわけではないため、その機体の持つ特徴も癖も何一つわからないままにこの戦場に出てきたはずだ。にわかには信じられない。しかし、あんな戦い方を見たら信じられずにはいられなかった。
あれは……あのガンプラを操っているのは、本当にあのカルナなのだろうか……?
『ぬし様! ぬし様! 大丈夫か!?』
ザクⅠからの呼びかけでハッっとようやく我を取り戻したタクオは、スキャナーからザクⅠを取り出すと慌ててGポッドの中から出る。
「大丈夫!? タクオ君!」
「お……おおおおおおオトメ殿ぉ!?」
転げるように中から這い出ると、そのまま自分の元に駆け寄ってきたオトメの傍まで寄る。
「ああああれに乗っているのは誰でござる!? ぼ、僕らの知らないうちにパイロットを変えたのでござるか!?」
どもりながらもオトメに問いかけるタクオ。オトメは最初に撃墜され、先にGポッドの外に出た。そして少なくともその時まではカルナの声が通信越しに聞こえており、不慣れな腕でジェノアスコマンドーを操っていたことはわかる。だが、それ以降に誰かがバトルに介入したとすれば、それがわかるのは外に出ていたオトメだけだった。
例えば……そう、バトル慣れしているアベさんが見かねて入ってきたとか……?
しかし、オトメはタクオの言葉に静かに首を横に振った。
「……タクオ君、私はここにずっといたけど、誰も入ってきてないよ。だからあのGポッドに入っているのは……紛れも無くカルナちゃん本人だよ」
「そんなバカな……!」
オトメが右側列一番後ろのGポッドを指差す。女性チームのポッドの中で、唯一今も『出撃中』のランプが点き、稼働しているポッドだ。
「私もカーディナルさんも、最初見た時は声が出なかったよ。きっと今も、あそこでは凄い戦いが繰り広げられているんだ」
事実、タクオがカーディナルの方を見ると、彼女はモニターを凝視したまま動けないままでいた。
「ソウシ殿……タクオ殿……」
今はまだ無事なチームメイトの名を呟き、タクオもまたモニターの前に歩み、その戦闘状況を確認する。
………………
…………
……
「1機撃破……やった! 1機墜とした……!」
タクオのザクⅠの撃墜を確認すると、Gポッドの内部でカルナは呟き、小さくガッツポーズをする。先ほど、自分が照準を合わせ、敵機の攻撃を避けた時の自分は、さっきまでの自分とはまるで違った。慌てず、冷静に対処し、自分の呼吸音がヘルメットの内部で静かに響くのを感じながら、トリガーを引いた。すると、あっさりと敵機は墜ちた。まるで不発の打ち上げ花火のように、静かに黒い煙の尾を引きながら地面へと墜ちて言ったのだ。
「これなら……ソウシだって……」
それだけ呟くと再びカルナは無言となる。あとはまるで無機質な機械のように、スロットルレバーを静かに堅く握ると、基地の内部へとジェノアスを侵入させた。
―続く―
いつも通りの2話構成にしようとしたら結構長くなってしまったのでまさかの3話構成となってしまいましたw
カルナが使用しているジェノアスコマンドーですが、こちらでも次話で紹介する予定ですがpixivでは一足先に公開させていただいてます。
興味のある方は是非ご覧ください。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44523690