その力はソウシとトモヒロ、二人の力を合わせても圧倒されるほどの勢いだった。
果たして二人は、この強大な力を放つカルナのジェノアスに勝利することができるのか……?
「くそっ……どうなっているんだ!? おいソウシ! タクオは一体どうしたんだ!」
トモヒロは苛立っていた。状況もわからず仲間が一人撃墜され、今度は自分たちの番になるかもしれないからだ。
「落ちつけ、トモヒロ。……あの攻撃をカルナがやったとは俺も考えたくは無いが、それでも起きてしまったことは事実なんだ。ここは冷静に対処しよう」
と言いつつも、実は俺自身が一番動揺している……のかもしれない。スーツの背中にはじんわりと嫌な汗をかくのを感じ、僅かにだが声色は震え、レバーを握る手も自然と強張る。
しかし本当にどういうことなんだ……? 何故あのカルナが急にあそこまで……ただの偶然なのか? それとも……。
だが俺は確かに、何か異様な気配をこの戦場に感じ取っていた。言葉ではうまく言い表せないが、その気配は確実に俺達の元に一歩一歩近づいてきている。それはファントムも同様に感じているようで。
『マスター……カルナは一体……?』
「……お前でもわからないのか? ファントム」
『はい……しかし、ただ一つわかることといえば、今のカルナは先ほどまでとは違うということです』
どうやらファントムも俺と同じ考えのようだ。何が起きているのかはわからないが、ともかく、初心者のカルナに軽く稽古をつけてやるつもりが、これはかなりハードなことになりそうだった。
「だな……何が起こっているのかはわからないが、俺達だってただで負けるわけにはいかないからな」
『ご主人、ソウシ達の言うとおりだ! 休憩なんかしている暇はないぜ! ここは思い切って反撃に出て一気に攻めよう!』
俺達と同じ異様な気配をゴッドも感じ取っている筈だが、そんなことにはいちいちお構いなしといった様子だ。実にゴッドらしい。
「いや、ここでカルナを待ち伏せる。あいつは今頃、残った俺達を撃破するためにこちらに接近している筈だ。障害物が無い基地の外れと違ってほぼ基地の中央にあるここなら、先の戦闘で瓦礫があちらこちらに散乱している。機動性に劣る重装型のジェノアスでこの瓦礫の山を自由に動くことは難しいはずだ」
改めて周囲を見回す。崩れた管制塔、遮蔽物に使っていたMS倉庫、流れ弾に当たった基地施設など、ほぼ無傷な建築物が存在する基地のはずれとは違い、ここはかなり荒れており、俊敏に動きまわることはまずできないはずだ。それはこちらも同じ条件なのだが、ジェノアスと違ってこちらは空を飛ぶことができる。低空飛行の状態で2機同時に撹乱すれば、確実に撃破することができる筈だ。
「……俺は気乗りしねぇな、そんなこそこそと女の子一人に攻撃するなんて」
「だけどこれがより確実な戦法だ。それに、何があったかは知らないが、今のカルナを初心者と侮らない方がいい。もしかしてだが……このバトル、かなり苦戦を強いられることになるかもしれない」
もう何度も人となったガンプラ同士の壮絶な死闘を見てきた俺だ。何があったのかはなんとなくわかる。そしてそんな俺にも、そんなヤバげな雰囲気を察知する能力のようなものが芽生えてきている……そんな気がしていた。
―――――第18話:「初めて味わう勝利の美酒」―――――
「……わかった。ガンプラバトルに限っては俺よりもソウシの方が詳しい。ここは任せたぜ」
「任された」
さて、どうするか。そうなるとここに来るジェノアスを俺達が迎え撃った方が確実となるわけだが……。
『マスター、私は遮蔽物に隠れての奇襲作戦を立案します』
「うん、迫る敵を確実に仕留めるには奇襲が一番だろうな。よし、トモヒロとゴッドは格納庫の陰に、俺とファントムはこの崩れた管制塔の陰に隠れる」
それはちょうど広い滑走路を挟んだ2点に存在する場所だった。その挟んだ滑走路にジェノアスをおびき寄せ、2機で仕留めるという作戦だ。
「わかった。奇襲のタイミングはソウシに任せるぜ」
「おう」
そうして俺達はそれぞれの配置地点につく。あとはカルナの操るジェノアスがここに来るのを待つだけだ。
『……不可解ですね』
「なにがだ?」
瓦礫の陰に隠れながらザクファントムのモノアイを動かして滑走路を見張っていると、ファントムがそんなことを呟いた。
『カルナのことです。何故突然あそこまでの操縦技術を……』
「わからない……けど、もしかしたらそれもあいつの兆常的な能力となにか関係があるのかもしれない」
初めて会った時に見せたカルナの驚異的な治癒力……それも含めて今回のことがあの天ミナ達のところから逃げてきたことに関連しているのかもしれない。
『それは私も思いましたが、どうにも気がかりなことが……』
「どういうことだ?」
『私には……あの機体がパイロットに“動かされている”のではく、うまく表現できませんが……まるで自分の意思で“動いている”ように思えるのです』
「それ、どういう意味……―」
『来ます!』
俺の言葉を言い終わらないうちに、ファントムが声をあげ、同時に遠くの方で爆発音が響く。朦々と立ち上る煙の中、青いバイザー奥のツインアイを黄色く光らせ、カルナの駆るジェノアスコマンドーが姿を現した。
「おいでなすったか……トモヒロ、準備はいいか?」
「こっちはいつでもいいぞ!」
MS格納庫の陰から様子を窺い、腰のゴッドスラッシュに手を伸ばすゴッドガンダム。合図と同時に飛びだしたらこれで斬りかかるつもりだ。一方の俺もビームライフルを腰部にマウントし、斬機刀に手を伸ばす。一歩ずつジェノアスが歩を進め、そしてちょうど俺とトモヒロの間に入った!
「よし、今だ! かかれっ!」
「うおおおおおっ!!」
スクランダーウィザードを起動させ、低空飛行で一気に近づく俺のザクファントム。ゴッドガンダムの方も、トモヒロが雄叫びをあげながら構えたゴッドスラッシュで斬りかかる。一方のジェノアスはまだ動かない。このまま一気に仕留められるか……!
だが。
「なにっ!?」
「ジェノアスが……!」
突然、ジェノアスの姿が目の前から消えた。トモヒロと俺は突然のことに面喰ってしまい、機体を急停止させようとする。が、加速がついた機体はそう簡単には止まらない。結果、ザクファントムとゴッドガンダムは空中で激突してしまい、構えていた斬機刀とゴッドスラッシュは手を離れて大きく弧を描きながらあらぬ方向へと飛んでいく。
「くそっ! 一体なんだってんだ!?」
ぶつかったゴッドガンダムは頭を擦りながら起き上がる。
「こ、この機動性は……!?」
俺がそこまで面喰らったのも無理は無い。何故なら、あのジェノアスは武装面ではかなりパワーアップされているが、機動性に関してはほとんどノータッチなのだ。つまり、ガンダムAGE劇中のジェノアスカスタムと推力はほぼ変わっていないはず。むしろ重い追加武装等を施された分、重量が増して重くなっているはずだ。加えてこのステージは地上の重力化にある。あそこまで素早いマニューバが、果たして何故できたのか……!?
「ウソだろ……たかがジェノアスにあそこまでの機動力があるはずが……!」
呆気にとられながら驚嘆の言葉を漏らす。これは案外、ファントムの言っていたことも図星なのかもしれない。
こちらも素早く立ち上がり、ジェノアスの飛び退いた方向を確認する。しかし、機体を起き上がらせると同時に何か嫌な推進音が聞こえてきた。
カメラをその方向に向けると、炎を吹き出しながら二つのロケット弾頭がこちらに向かって一直線に向かってくる。
「げっ!?」
「シュツルム・ファウストだ! 撃ち落とせ!」
宇宙世紀において主にジオン系のMSに装備されている使い捨ての片手で撃てるロケットランチャーのような武器だ。ジェノアスコマンドーもそれを2基装備しているらしく、二つの弾頭がこちらに迫る。
重い重力化では転んだ機体を起こすのもやっとだ。そんな状態ではすぐに飛び退いて回避なんて真似はできない。ならば、ここは弾頭を撃ち落とす方が早い!
ザクファントムは左手のビームガトリングを、ゴッドガンダムはサザビーの時と同じく頭部のバルカンと肩のマシンキャノンを起動させ、撃ちまくる。
連続的な発砲音が周囲に響き渡る。そしてどちらかの攻撃が当たったのか、なんとか放たれた二つの弾頭は途中で撃ち落とすことができた。
が、その際に大きな爆発が起こってしまい、それによって生じた爆煙によって視界を遮られ、またもジェノアスの姿を見失ってしまう。もしや、これもカルナの策略なのだろうか?
ほとんど遮蔽物のないこの滑走路を舞台にしてここまで姿を眩ませるとは……やはりカルナの潜在能力は計り知れない。
『マスター、右です!』
「……っ!?」
今度は右舷から三発のミサイルが飛んできた。ジェノアスの脚部に装備されていた三連装型のものだろう。
『左からもだ! ご主人!』
あらかじめ曲射設定で放ったものだろうか。ゴッドガンダム側からもまた三発のミサイルが迫る。
「チィッ……! 左舷はトモヒロに任せる!」
「わ、わかった!」
またもビームガトリングの連射で右舷から迫るミサイルを迎撃する。一発に命中し、その爆炎が隣に連なった二発目を巻き込み、なんとか処理できた。残りは一発……!
だが、その時カラカラという嫌な音が響き渡り、ビームが銃口から発射されなくなった。ふと画面端のビームガトリングの残弾数を見てみると、ゼロ発になっていた。
「弾切れ!?」
「こっちもだ!」
ゴッドガンダムの方に至っては、一発落としただけで二発はそのまま迫ってくる。万事休すか……!
「くそがぁっ……!!」
だが俺は諦めず、左側を向いて左肩のシールドをミサイル側に向ける。こっちはこれであのミサイルをやり過ごす。後は……!
「ファントム、スクランダーウィザードパージだ!」
『えっ!?』
「早く!!」
バックパックのスクランダーウィザードを分離させると、そのまま推力全開でゴッドガンダムの頭上をかすめ、ミサイルに向かって突っ込んでいく。
瞬間、一瞬の炸裂と共にミサイルに命中したスクランダーウィザードは木端微塵に吹き飛んだ。そしてそれを見届けて間もなく、左肩に強烈な衝撃と爆音、爆熱と爆風が襲いかかる。機体は吹き飛ばされ、またも傍にいたゴッドガンダムを巻き込んで大きく転げる。
「ぐっ……大丈夫か、ソウシ!?」
「あぁ……なんとかな。でも……」
おそるおそるカメラを左方向に向ける。やはり、今の衝撃で左腕が吹き飛んでしまっている。シールドで防御したと言っても、ミサイル相手では威力は殺しきれないか……。いや、この場合はむしろ左手一本で済んで幸いといったところかもな。
「そっちは大丈夫か、トモヒロ」
「あぁ、ちょっと転んじまったがこっちは問題ねぇ」
「そりゃよかった。わざわざミサイルがまだ残っているスクランダーウィザードを犠牲にした甲斐があったよ」
ちょっと皮肉交じりにそう言ってみると、少し黙ってトモヒロが答えた。
「……すまねぇ、俺が射撃へたくそだから……」
通信越しでもそれは精いっぱいの謝罪の言葉だということが、声色でわかる。ちょっと悪いこと言ったかな……軽く罪悪感を覚えつつこう返した。
「……明日の昼飯」
「へ?」
「この借りは明日の昼飯で返してもらう。学食の特盛りランチセット。テスト期間中だけの限定メニュー」
トモヒロはしばらく唸ってから応えた。
「……わーったよ! けど一つ条件、この勝負に勝てなかったらその借りはナシだ」
「いいだろう、なら全力で勝つぞ!」
互いに合意をし、俺達はミサイルが発射された方向を見る。基地の建築物の上に立ったジェノアスが、撃ち尽くした脚部のミサイルポットをパージしていた。すると今度は左肩のバズーカラックが開き、背中のフレキシブルアームが可動する。そこにマウントされているバズーカが左の手元に持って来られ、ジェノアスはそれをバズーカラックの上に乗せて構える。先ほどタクオのザクⅠを撃ち墜としたあのバズーカだ。威力はさほど高くは無いが、射程がある。距離を詰めてかからなければ苦戦を強いられることになるだろう。
ジェノアスもそれがわかっているのか、先ほどまでのようにこそこそと姿を隠さずに今度は堂々と俺達の前に出てきている。
左手のバズーカと、右手に装備されたブルパップマシンガン……二つの銃口はピッタリとこちらに付いている。おそらくこちらが一歩でも動けば攻撃されるといったところだろう。
だが……ならば何故あちらは攻撃してこない?
『おそらくあちらも残り残弾数が少ないのでしょう。機体の全容を見る限りですと、予備弾倉も装備していないようですし』
なるほど、ファントムのおかげで合致がいった。確かにさっきからあんなに撃ちまくっているんだものな、戦いもここまで長引けばそろそろ弾も貴重になってくるわけだ。大方俺達がどのように動くかを様子見ながら、どのように攻めるかを考えているといった感じか。
となると……こちらのとれる攻撃パターンも自然に狭まってくる。
『こちらに残された武器は近接戦闘用のものばかり……嫌でも近接戦に持ち込みざるを得ませんね』
ファントムの言うとおり、こちらに残っているのは斬機刀とレーザー重斬刀のみ……どちらも近接用の武器だ。だが、ここから一歩でも動こうものならマシンガンとバズーカの攻撃を受けてゲームオーバーだ。さて、どうしたものか……。
「……よし、これでいこう。トモヒロ、俺が後方から援護するから、お前はゴッドフィールドダッシュでジェノアスに接近しろ」
「後方で援護って……銃も無しにどうやってやるんだ!?」
「こちらにはこちらの考えがある。いいから俺が相図したら行け」
「わ、わかった!」
『おいご主人、安易に安請け合いすんじゃねぇよ! 接近しろったって、こっちは動いた瞬間に狙い撃ちされるんじゃないか?』
「あ、あぁ……そう言われてみれば」
ゴッドの言い分も当然といえる。このまま考えもなしに敵に突っ込むのは、愚策ともいえる。
「大丈夫だ、それについてもちゃんと考えてある。あのな……―」
と、俺はその考えの内を二人にこしょこしょと小声で説明する。
「……なるほど、アレならいけるか。ゴッド、使えるか?」
『さっき結構無理しちまったからあと一回が限度だぜ』
「十分だ、それでトモヒロがフィニッシュを決めればいい」
「俺が決めるのか?」
「今回は譲るよ。トリを飾ってくれよ?」
「おう、任された!」
頼もしいトモヒロの声と共にゴッドガンダムが親指を立てて頷く。
ガンプラバトルに限っては、トモヒロよりも俺の方がほんの少しだが経験が上だ。だから俺が指示を出す。本来ならば初心者のトモヒロをアタッカーに使うべきではないのかもしれないが……しかし、体を使った攻撃に関してはトモヒロの方が俺よりも得意だ。それはMF用Gポッドを使っているトモヒロ本人にも機体のポテンシャルとしてそのまま反映されるはずだ。俺はそれに賭ける!
「3、2、1……今だ!」
「ゴッドフィールド・ダァァァッシュ!!」
合図と共にトモヒロのゴッドガンダムはジェノアスに向かって一直線に向かう。同時に、ジェノアスの銃口が火を噴き、バズーカの弾頭とマシンガンの銃弾がゴッドガンダムに浴びせられる……だが。
「そいつはどうかな!」
『ご主人、ゴッドフィンガーだ!』
「おう!」
先ほどのサザビーのメガ粒子砲を防いだ時と同じく、両手のゴッドフィンガーを目の前に突き出し、そこから発生する熱波で砲弾や銃弾から自身を守る。右手はバズーカの砲弾を、左手はマシンガンの銃弾を受け止めた。
「名付けて、≪ゴッドハンド・バンカー≫といったところかぁっ!」
それはトモヒロが自分で考え出したオリジナルの技。ゴッドガンダムに代表されるモビルファイターは、こういった実際に体を使った技が豊富なおかげで自分だけの技をバトルで繰り出すということも可能なのだ。
しかし、それはあくまである程度ガンプラバトルにおいて経験を得た玄人がやるものだ。今日始めたばかりでまったくの素人のトモヒロがもう自分だけの技を編み出すとは……こちらも負けてはいられない!
『今です、マスター!』
「わかってる!」
ファントムの掛け声で、俺は機体を右側に飛び退き、転がす。モニター画面が揺らぎ、機体が地面につくと同時に衝撃が体を揺さぶるが、おかげで先ほど落としたビームライフルがすぐ手元にある。
俺はそのライフルを素早く拾い上げると、そのままジェノアスに放つ。放たれたビームはジェノアスが左手に装備しているバズーカに直撃し、暴発する。
それと同時に揺らぎ、思わず後方にのけ反るジェノアス。その隙をゴッドとトモヒロは見逃さなかった。
『今だ! このまま一気に押し潰すぜ!』
「おうよ! ばぁぁぁく熱!! ゴォォォォッド!!」
ゴッドガンダムの右手が更に熱を帯びる。後ろに引きこみ、ダッシュと共に一気に目の前に突き出し、ジェノアスの頭部をその手に握る!
……筈だった。
「なっ……!」
『にっ……!?』
トモヒロとゴッド、二人が面喰ったのも無理は無い。何故なら、たった今目の前に突き出した右手のゴッドフィンガーが、バラバラに砕け散ってしまったからだ。いや、というよりもパーツごとに分解してしまったという方が早い。
ゴッドガンダムの右手の腕関節から先は、パーツが全て外れ地面に落ちる。
「な、なんで……!」
『ご主人!』
思わず呆然とし、今度はトモヒロが隙を見せてしまった。その隙をついてジェノアスはよく動く関節を利用し、強烈な右回し蹴りをお見舞いする。
「ぐわっ……!」
思わず蹴りをトモヒロの利き手である右手ガードしようとするが、右手が無くなってしまっているために防ぐことができず、モロに蹴りをボディに受けてしまい、機体が後ろに飛ばされ、地面を転がる。
「くそっ……なんでったって腕が突然バラバラになるんだよ!?」
「トモヒロ! お前ちゃんとゴッドガンダムの腕組んだのか!?」
「く、組んである筈だけどよ……」
パーツの接続が緩くなっているために、バトル中にパーツが分解してしまうという話は割とよく聞く話だ。これもそれが原因か……!?
………………
…………
……
「ゴッドガンダムの腕がとれちゃったよ!?」
「う~む……トモヒロ殿、ガンプラの完成度が今一つだったのでござろうか……」
「いえ、そうでもないわね」
この状況をカーディナル・アークは冷静に分析していた。
「考えてもみてみなさい。さっき彼のガンプラは私のサザビーのメガ粒子砲を真正面から右手一本で受けて防いだのよ。で、今度はバズーカの弾頭……いくらゴッドフィンガーを防御技として使って機体をダメージから守ったといっても、その威力までは殺しきれないわ」
「つまり……どういうことですか先生?」
「強い負荷が何度も何度も同じところにかかったら、そりゃパーツは分解するでしょうね。人間でいったら骨が砕けるのと同じよ」
それはちょうど防弾チョッキが、銃弾から人体を守るが、その衝撃までは消せないのと理屈は似ている。事実、銃弾は防げてもその衝撃により負荷のかかった場所が骨折してしまうというのはよくある話だ。
「なるほど、流石は先生でござるな」
「先生、現文だけじゃなくて物理の担当にもなれるかもしれないですよ」
「でしょ、こう見えても学生時代は理系も専攻して……って! 私は先生じゃなーーーいってばぁ!!」
………………
…………
……
「随分手痛くやられちまったな……俺もソウシも腕が一本ずつか……ソウシ、ここからどうやって戦うつもりだ?」
「なんだよトモヒロ、そんな状態でまだ戦うつもりなのか?」
と、俺は少し挑発交じりにトモヒロに問いかける。
「当たりめ―よ! 俺もゴッドもまだまだ戦える! だろ?」
『そうだな……少なくとも、何もしないで降参するっていうのは俺の性に合わねぇぜ!』
どうやら二人とも、まだまだ気合十分といったところだった。そのガッツは見事としか言いようがない。ガンプラバトルに限らず、たいていの勝負事は、ここまで相手にコテンパンにされてしまうと、残りの勝負はただの捨て勝負として適当にこなしてしまう場合が多い。
だが、こいつらはこんなにボロボロにされながらもまだ立ち向かう気力と根性がある。俺も一人のガンプラビルダーとして、初心者のこいつらには負けていられない!
「了解だ。なら最後の作戦といくか」
「まだ作戦があるのか!? 流石だぜソウシ!」
「ほとんど捨て身の戦法だ……作戦と呼べるかどうかすら怪しい」
そして俺は秘匿回線にて、その捨て身戦法の詳細をトモヒロとゴッドに告げる。
「……なるほど、確かにそりゃ無茶な作戦だ」
「嫌なら止めてもいいんだぞ?」
「冗談。それでいこう! やれるな、ゴッド!」
『誰に言ってやがんだ! 俺達のコンビネーション、見せてやろうぜ!』
この圧倒的にピンチな状況で、トモヒロは笑っていた。顔は見えないが、おそらくゴッドも同じ表情をしているのだろう。
「やるぞ、ファントム」
『えぇ、トモヒロやゴッドに負けてはいられません』
その通りだった。この作戦は俺かトモヒロ、どちらかのタイミングが少しズレても敵に十分なダメージを与えることはできない。まさしく、これでどちらかに軍配が上がると言っても過言ではない。
一方のジェノアスはというと、先ほどの攻撃で弾が切れてしまったらしく、右手のブルパップマシンガンを捨てると、左手のシールド裏からヒートナイフを取り出す。それは赤く白熱し、俺達のどちらかが先に仕掛けても対応できるように構えているようだった。
「向こうもそろそろ手品の種が切れかかっているらしいな」
「アレが最後の武器か。上等! やっぱガンプラバトルは白兵戦でねぇとな!」
今日始めたばかりなのに、まるでガンプラバトルのノウハウを全て理解したかのようにトモヒロが叫ぶ。だが、良い兆候だ。初めてのバトルでトモヒロはこのガンプラバトルを全力で楽しんでいる。俺だってそうだ。まさにやるかやられるか……本物さながらのこの緊迫感が味わえる戦場は、堪らなく気持ちが昂る……!
「そろそろ仕掛けるぞ……準備はいいか!」
「いつでも!」
『どこでも!』
「よし……行くぞ!」
ザクファントムの右腕にレーザー重斬刀を、ゴッドガンダムの右腕にもゴッドスラッシュが握られ、俺達は残された推力を全開にしてジェノアスに突っ込む。ジェノアスの残された武器は残りたった一個。さらに先ほどアクロバティックなジャンプをこの重い重力下のなかで披露したお陰でバーニアの噴射剤はもう底を尽いている筈だ、もう逃げることはできない。これで俺達二人の攻撃を同時に防ぐことはできないはずだ!
バーニアをふかし、地面スレスレをホバー移動の要領で高速移動し、俺のザクファントムはジェノアスの左舷に回り込む。一方のゴッドガンダムは右舷に回る。これで逃げ道は塞いだ。あとは挟み撃ちにしてトドメを刺す!
「一気に接近して勝負をつけるぞ!」
『了解、マスター!』
回り込んだ先からジェノアスへと高速接近し、レーザー重斬刀を大きく振りかぶり、ジェノアス向かって振り下ろす。一方のゴッドガンダムもゴッドスラッシュを横一閃に振り、ジェノアスを仕留めようとする。だが。
「なにっ!?」
「ウソだろ、オイ!?」
俺達二人に挟まれた中央のジェノアスは、なんとその同時攻撃を受け止めた。俺のレーザー重斬刀による攻撃は左腕のシールドで、ゴッドガンダムのゴッドスラッシュはあの細く短いヒートナイフの刀身でだ。双方共に一歩も退かず、押し合いの攻防が続く。
『マスター、こうなったらこちらで攻撃を!』
「ぐっ……!? ダメだファントム! レーザー重斬刀がシールドにめり込んだまま抜けない……!」
そんな攻防が続いたためか、なんとジェノアスのシールドにめり込んだレーザーの刃が、そのまま動かなくなってしまったのだ。押しても引いても動かせない。このジェノアスのシールドはいくつものプラ版が重なり、とても強固になっている。そのせいか、どうやらレーザーの部分ではなく、レーザーを発生させている剣の峰の部分に溶けたプラスチックに絡んでしまい、時間が経ってプラスチックが固まってしまったらしい。ガンプラならではのアクシデントともいえるが、まさかカルナはこれを故意に起こしたとでもいうのか……!?
おまけにこちらは片手一本で出力が足りず、引き抜こうにも押し込もうにもパワーがまるで足りない。
「仕方ない、レーザー重斬刀を破棄する! 代わりに斬機刀を装備だ!」
『了解!』
レーザー重斬刀を右手から離し、左腰の斬機刀を握って鞘から引き抜く。一方のジェノアスはレーザー重斬刀が突き刺さったままのシールドはもうシールドとしての機能は持たないと判断したらしく、左手からシールドをパージする。
「トモヒロ、もう一度だ! もう一度同時攻撃を仕掛けるぞ!」
「わかった!」
ゴッドガンダムは後ろに飛び退き、一旦ジェノアスと距離をとる。
そして双方、残された片手に一本ずつ剣を握り、それを前と後ろの両方から横一文字の斬撃を放つ。しかし、またもかわされた。ジェノアスは上に飛び退き、軽い身のこなしでMSハンガーの屋根の上に降り立つ。しかもバーニアを使用していないところを見ると、ほぼ純粋なジャンプ力だけで跳んだとみられる。
ジェノアスはガンプラの中でも可動範囲が特に広いといえる部類だ。そのガンプラ本来の性能をよく活かした機動性だ。
「同じ手は喰わないっていうわけか……!」
「くそっ、まだあんなに動けるのかよ! こっちはもう近接用の武器しかないってのに!」
「いや、近接用の武器しかないのはジェノアスも同じ筈だ。決着を付けるためにも、奴はこちらに接近せざるを得ないだろう」
「でもよぉ、あんなに動かれちゃいくら攻撃したってこっちの攻撃はちっとも当たんねぇぜ!」
トモヒロの言うとおりだ。ジェノアスがまだここまでの機動性を有していたとは正直予想外だった。今はまだ許容範囲だが、次にまたあの機動性を有したまま攻撃に転じれば、機体の損傷度的にもこちらが一気に不利になってしまうのは目に見えている。
なにか……もう一つなにか欲しいところだ。この攻撃を当てる、そのきっかけさえ何かあれば……!
「……そうだ!」
『何か思いついたのですか? マスター』
「あぁ。今度こそ、今度こそいけるぞ!」
俺は大事なことを忘れていた。それは最初にこのステージを……トリントン基地というステージを選択していた時から気付くべきだったんだ。
そして今あのジェノアスは俺達にとって最も有利な場所にいる。こいつを活かせば……!
「トモヒロ、5秒でいい! ジェノアスの動きを止めてくれ!」
「へっ、簡単に言ってくれるぜ全く」
文句を言いつつもトモヒロは機体のバーニアを吹かして上昇する。そしてMSハンガーの上に立つジェノアスよりもさらに上に上昇する。
「ゴッド、ゴッドフィンガーはまだ使えるか!?」
『さっきから使いまくっているからそろそろオーバーヒートしちまいそうだよ。最大稼働で5秒弱が限界だ!』
「ギリギリっていったところか……上等! ならゴッド、アレをやるぞ!」
『アレ……?』
ゴッドはトモヒロの言葉が何のことだかわからず、思わず疑問符が言葉に出る。
「決まってるだろ……必殺技だぁ!!」
上空からジェノアスを見下ろすゴッドガンダム。その位置からゴッドフィンガーを右手に宿し、肘を奥に引き込む。ジェノアスはこちらを見据え、ヒートナイフを構える。このままゴッドガンダムが突撃してきたならば、機体にナイフを突き刺して撃墜するつもりなのだろう。
「いくぞ、ゴッド! 俺達の編み出した技、見せてやろうぜ!」
『おう!』
トモヒロの声にゴッドが呼応する。ゴッド側にしてみればそれは半ばトモヒロのノリに付き合わされているような感じだが、今は大人しく自分の主人の言うとおりにする。
すると、不思議なことにトモヒロのイメージしている“必殺技”のイメージがゴッドの脳裏にも投影され、どのような技なのかが鮮明にわかる。人化ガンプラとマスターとの意識の共鳴、はたまた同化しているのかはわからないが、とにかく今はその感覚に従うことにした。
ゴッドガンダムが十分な高度まで上昇すると、全ての推進機能をカットする。すると、機体は重力に引かれて自由落下する。それと同時にバーニア出力を上に向けて全開にし、更に勢いを付ける。すると、右手の赤く燃えたぎるゴッドフィンガーが残像を作りだし、まるで尾を引く流星のようにゴッドガンダムを赤く染め上げる。
「これが俺の……俺達の編み出した必殺技、パート1! 流れる星の力を得て、今必殺の!」
『流星爆撃! 名付けて!』
「≪ゴッドハンド・シューティングソニック≫!!」
後ろに引きこんだ右手を目の前に大きく突き出し、トモヒロとゴッドは同時に技の名前を叫ぶ。ジェノアスが目前にまで迫る。このままいけばゴッドフィンガーは確実にジェノアスを捉えるが、それと同時にジェノアスの構えるヒートナイフがゴッドガンダムのコクピットを貫くことになるだろう。だが、それをトモヒロはもちろん承知していた。
「今だ!」
その掛け声と同時に、背中のバーニアの方向を少し変える。それにより、真っ逆さまに落ちるゴッドガンダムの落下軌道が、ジェノアスに接触する寸前で変わった。あまりにも突然の落下予測地点の変更に、ジェノアス……いや、カルナもそれに対応することができなかったようだ。
ゴッドガンダムに突き立てられることは無く、両手に構えられたヒートナイフはそのままただ握られているだけだった。では、落下地点がズレたゴッドガンダムはどうなったかというと……。
(俺の目的は倒すことじゃない……! 仮にここで俺とあいつが刺し違えることもできたかもしれない……だけど……)
ゴッドフィンガーを構えたまま、赤き流星と化したゴッドガンダムはそのままジェノアスの眼前を通り過ぎると、MS格納庫の屋根を突き破り、地上に落下する。
「だけどそんな決着の付け方は、漢らしくもなんともねぇ!!」
だが地面に接触する寸前で、トモヒロはゴッドフィンガーの残された全エネルギーをその地面に叩きこむ。それによって激突の際の衝撃を殺し、自機を守ったのだ。だがそれだけではない。一瞬とはいえ、莫大な熱量を叩きこまれた地面は赤く発熱し、ゴッドガンダムがゴッドフィンガーを撃ちこんだ地点を中心にして波紋状に熱量が広がっていく。その熱は瞬く間に地面を溶かし、それにより格納庫を支えている鉄柱も溶けて曲がる。すると当然、モビルスーツ1機が乗るほどの重量には耐えきれずに、格納庫はジェノアスを巻き込んで崩落した。
トモヒロがゴッドフィンガーを発動してからこの間までジャスト5秒。いくらあのジェノアスを操るカルナが化け物的な反応速度を見せたとしても、寸前の落下地点変更からここまでのたったそれだけの僅かな時間で十分な対応をすることは不可能だった。
深緑のジェノアスは為すすべなく崩落に巻き込まれ、動きが止まる。どうやら落下の衝撃でフリーズを起こしたようだ。チャンスは今しかない!
「今だ、ソウシ!」
崩落寸前に格納庫内から逃れたトモヒロが叫ぶ。俺は再度斬機刀を構え、バーニア全開で動きの止まったジェノアスに接近するが、それと同時にトモヒロに呼び掛ける。
「トモヒロ、お前も一緒に!」
「……! おうっ!」
俺の声を聞いてトモヒロは慌ててゴッドスラッシュを構える。トモヒロはジェノアスの動きを止めた後は俺にトドメを任せるつもりだったのだろう。だが、今の俺達は二人で……いや、四人で戦っているんだ。誰一人外れることなく、このバトルを勝利で飾らなければならない。
斬機刀とゴッドスラッシュ、双方の剣がジェノアスの前方と後方の二方向から迫る。だが、その直前でジェノアスの目に光が灯り、再起動する。再起動したジェノアスは機体の関節を軋ませながらゆっくりと立ち上がろうとする。このまま立ち上がられ、またあの化け物的な反応速度を発揮させられたらもう俺達に勝ち目は無い。はやる気持ちを抑えながらも、俺はスロットルレバーを全開まで前方に倒す。
「いっけえええええええええええええええええっ!!!!」
ジェノアスが完全に立ちあがったと同時に、俺は叫ぶ。いや、俺だけじゃない。トモヒロ、ファントム、ゴッドも同じ叫び声をあげながらジェノアスに迫る。俺達四人の声が重なり合うと、構えた剣を大きく振るい、二方向からの斬撃がジェノアスに加えられる。
斬撃の瞬間、レバーには確かな重みを感じ、モニターの左側には火花が散ったのが見えた。方向転換し、後方の様子を見てみる。そこには、俺のザクファントム同様にゴッドスラッシュを構えたまま後ろを振り向くゴッドガンダムの姿と、胴体に二筋の斬撃を受け、胴体を3つの部位に切り分けられたジェノアスがゆっくりと崩れ落ち、そして爆散するのが見えた。
「か、かっ……」
『かっ……』
それを見てトモヒロとゴッドが何かを言いたそうだった。
「勝ったぞおおおおおっ!!」
『うおおおおおっ!! よっしゃ! 勝ったあああああ!!』
傍から見れば何でもない、たかがガンプラバトルで一機落としてそれで勝利した程度なのだが、相手の桁違いの機動性と操縦テクニック、そしてなによりトモヒロとゴッドはこのバトルが初ガンプラバトルということもあり、それに見事勝利できたということは二人にとってとても特別な意味を持つようだった。そのためか、喜びが体に現れてしまっているらしく、俺の目の前で片腕のゴッドガンダムは小躍りをして喜んでいた。
『実にひょうきんですね、あの二人は』
そんな通信越しに漏れるトモヒロとゴッドの歓喜の声を聞いて、ファントムもまた微笑んだ様子でそう言った。
「あぁ、そうだな」
俺はそんな二人の様子が少し羨ましいとさえ思えてしまった。何故なら、俺の初ガンプラバトルは勝利で飾ることができなかったからだ。
それでも、着実に俺は……いや、俺達は強くなってきている。そう思えているのだった。
「そうだ! カルナは!?」
カルナの操っていたジェノアスのあの規格外の機動性……そして、あのジェノアスの真価が発揮されたあたりから終始無言だったカルナ自身が、今どうなっているのかがとても気がかりだった。早く彼女の元に行ってやらないと。
モニターに現れるレザルト画面もスキップし、俺は転げるようにしてGポッドの内部から出る。
「カルナ!」
先に外に出ていてこのバトルの様子をモニターで見ていたカーディナル・アーク、オトメ、タクオには目もくれず、一目散にカルナのGポッドへと駆け寄る。カルナのGポッドはすでにゲームオーバーの状態だったため、ロックが外れており、そのままハッチを開くことができた。
「カルナ! 大丈夫か!?」
Gポッドのハッチを開けると、中にはぐったりと力なくシートに寄りかかり、意識を失っているカルナの姿があった。それを見て慌てて俺はカルナを抱きかかえ、Gポッドの外に引きずり出す。
「ソウシ! カルナちゃんは……!?」
「ふむ……見たところ貧血で気絶したのと症状が似ているわね……よし、床に寝かせてヘルメットをとって」
トモヒロやカーディナル達も駆け寄る。流石は現役教師の独せんせ……じゃなくて、カーディナルさんだ。カーディナルの指示通り、俺達は皆で協力してカルナを床に寝かせると、ヘルメットをとり、カーディナルがパイロットスーツの胸元も少し開ける。
「年頃なのはわかるけど、男子諸君は見ちゃいけないわよ」
「み、見ないですよ!」
カーディナル・アークの言葉にドキッとし、俺とトモヒロとタクオの三人は同時に声をハモらせながら慌てて壁側を向いた。その間オトメがパタパタと手を扇ぎながら少しでも涼しくしようとする。まんま貧血の時の処置と同じだが……果たしてこれで大丈夫なのだろうか?
「……んっ」
「カルナ!?」
小さくカルナの声が聞こえ、俺は慌てて振り向く。床に寝るカルナは、意識が戻ったらしく、薄く目を開けるとこちらに視線を送る。
「……ソウシ」
「よかった、無事だったんだな!?」
小さく俺の名を呼び、俺はホッと胸を撫で下ろす。聞きたいことはいろいろあるが、カルナに無理をさせない程度で聞いてみることにした。
「カルナ、あのジェノアスの機動性はどういうことなんだ? 本当にお前が操縦していたのか?」
上半身を起こし、俺の質問に答えようとするカルナ。俺も片膝立ちになり、カルナに目線を合わせる。
「よく覚えてないの……でも、ソウシ達だけ楽しそうにバトルしてたから、私も混ぜてもらいたかったのは覚えてる。そこから意識を集中させて……そこからは……」
「そうか……」
やはりこれもまた、カルナの持つ能力の一つなのだろうか? ガンプラバトルにおいて、扱うガンプラの能力を最大限にまで引き出す。しかし、その代償にカルナはここまで衰弱する……。それはまるで、ガンダムシリーズに登場するNT-Dやゼロシステムのような感じだ。
「ごめんなカルナ。あの時、俺達はカルナを差し置いてバトルに熱中していたのは事実だ。本当にごめん……」
「一番盛り上がっていたのは俺だ……初ガンプラバトルで浮かれちまってて……」
「いえ、私の方ももっとカルナちゃんをサポートするべきだったわ。つい熱中してしまって……申し訳ない」
と、俺に続いてトモヒロとカーディナル・アークもカルナに頭を下げる。
「う、ううん! みんなそんなに気にしないで! 私の方も結構楽しかったもん。えへへ♪」
と、カルナは疲労もものともせず俺達に笑顔を向けた。そのかわいらしい笑顔だけで、俺達の方もなんだか癒されてしまう。
「あ、そうだ!」
少しふらつきながらもカルナは立ち上がり、自分が入っていたGポッドへと歩み寄る。
「今日はありがとうね♪」
そしてGスキャナーの中から取り出したジェノアスコマンドーを自分の手の上に乗せ、笑顔でお礼を述べた。
………………
…………
……
「結局なんだったのでござろうな? あの時のあれは」
家路につく途中でトモヒロが呟いた。ガンプラバトルの終わった俺達は、次にGポッドを使いたいお客さんが来てしまったため、そのまま帰路につくことにした。バトルで使ったジェノアスコマンドーは元あったショーケースの中に戻され、再びレンタル用のガンプラとしてそこで使う人が来るのを待つことになる。
「さぁな……でも結局、あれもカルナの持つ不思議な能力の一つなんだろうさ」
そのカルナはというと、ガンプラバトルで疲れてしまったのか俺の背中におぶさり、そのまま小さく寝息をたてて寝ている。
「でももしかしたら、あれはカルナの操縦技術だけじゃなく、あのジェノアス自身が『自分はここまで戦うことができるんだ』っていうことを、俺達に知ってもらいたかったのかもしれないな」
「なんだよそれ。じゃああれも人化したガンプラだったってことなのか?」
「そうじゃないさ。でもきっとガンプラ一つ一つには何かしらの意思が宿っている。何がきっかけになるかはわからないけど、ふとしたことでそれが開花することで人の姿になったり、もしくはその意思を感じ取れる人を通じて他者に語りかける……そんな感じじゃないかなって俺は思うんだ」
完成品のガンプラが飾られているあの棚の中で、目立つ場所にはガンダムシリーズの主人公機や、ライバル機など特に人気のあるガンプラが飾られていた。そんな棚の中で、あのジェノアスだけが端の方に置かれていた……。
改造されているとはいえ、脇役メカだからあまり好んで使う人もいなかったのだろう。だから、ジェノアス自身が自分の本当の強さを見せてやりたい……そうカルナを通じて語りかけていたのかもしれない。
「ところで、どうだったトモヒロ? 初めてのガンプラバトルは」
「ソウシよ、俺は一つ勘違いをしていた」
俺の質問に対し、トモヒロは腕組をしながら目を閉じ、そして語る。
「お前やみんなのバトルを見ていて、ガンプラバトルってのは本物のモビルスーツを動かすみたいに複雑で、それで一種のセンスが問われるものだと思っていた。俺は、バトルしたいのはやまやまだが、そういう細かいことが苦手だから、いざガンプラバトルをするって時にうまく戦えるのかが心配だった」
意外だった。あのトモヒロが実はそんなことで悩んでいたとは…。
いや、でも真っ直ぐな奴だからこそ、誰よりも自分がガンプラバトルをすることに対して、真剣に悩んでいたのかもしれない。
「けど、今日お前らと一緒にバトルして、自分の中での戦闘スタイルも決まった。いざ始めてみると、なんていうか、こう……」
「楽しい?」
言葉が詰まってしまったトモヒロに、オトメが疑問符交じりに聞いてみる。
「そう、楽しいんだよ! 俺やソウシ以外にも、トモヒロにも、オトメにも、それぞれ違った戦闘スタイルがあった! それに自分の戦闘スタイルをどう組み合わせるのか、もしくはどう対応させるのか……あーもう! 細かいことはわかんねーけど、とにかくすっげぇ楽しかったんだ!」
熱くそう語るトモヒロの瞳は、まるで幼い少年のようにキラキラと輝いていた。そうか、ガンプラバトルはここまで人を楽しませることができる素晴らしいものなんだな。中学時代は荒れに荒れていたあのトモヒロがこんなにも何かの物事に純粋な気持ちを持てるようになるとは……あの時を知っている俺からしたら想像もできなかった。
「満足できるバトルができたなら、俺達も学校終わってすぐに来た甲斐があったってもんだな」
「そういえば、なんで今日こんなに早くにアベさんのところに行けたんだっけ?」
と、オトメが頭のアホ毛で「?」の形を作りながらとぼけた表情をする。
「何言ってるんだオトメ、今日から中間試験だから学校は早くに……って」
「み……みんな、一つ聞くでござるが……明日の試験は科目何でござったっけ……?」
何かを思い出したが、できるなら思い出したくは無い……そんな現実が俺達に襲いかかるが、タクオの言葉でその現実を直に言葉にしなくてはならなくなった。皆が暗い顔をして無言の中、俺が小さく呟いた。
「……現文と、英語と、政治経済……」
よりにもよって俺を含む大多数の生徒が苦手とする科目が明日には集中している。オマケに俺達の担任である独先生……ことヤマナカ先生の担当試験も明日の一限目からあるときた。
「だからあの人、バトル終わったらさっさと帰ったのか……」
「こうしちゃいられねぇぞソウシ! 今から試験勉強しとかねぇと!」
トモヒロが慌てた様子でそう言いだすが、もう周囲は日が落ちかけ、暗くなり始めている。今から付け焼刃の試験勉強をして果たしてどうにかなるのかどうか……。
「よーし! じゃあこれからソウシ君の家でみんなで勉強会だね!」
「はぁ!? お、おいオトメ! いきなりなに言いだすんだ!」
「それは良いでござるな。ここからならソウシ殿の家が一番近いでござるし、ついでに夕飯も食べさせてもらえるし」
「何納得したようなこと言ってんだ! ってか後者は完全にたかりに来てんじゃねぇか!」
オトメの横暴な発言を皮切りに、トモヒロまでその意見に乗り始めた。冗談じゃない……! 今のこいつらのこのテンションで勉強会なんて始めたら、勉強どころじゃなくガンダム観賞会になることが目に見えている……!
「おっしゃあ! ならソウシの家まで競争だ! 一番に着いた奴が今日の献立を決めるぞ!」
あれだけ動いたのにトモヒロはまだ体力が有り余っているようだった。流石は体力バカ……。
「腐っ腐っ腐っ、負けないよ! 腐女子の体力を侮らないことね! じゃあそれに追加で『最初に着いた人はビリの人になんでも一つ言うことを聞かせる』を追加しよ! そう! 例えば私が一着になってソウシ君がビリになったら、私の妄想心をかきたてる命令をすることができるっ!」
「ちょっと待て!? 自分で条件追加して自分で叶えようとしてんじゃねぇ!」
オトメは頭頂部のアホ毛をピーンと伸ばし、活き活きとした表情でそんな条件を追加してしまった。
「おう!望むところだ!」
「ちょっ、お前ら……!」
俺のことなど無視して、二人は勝手に話を盛り上げる。トモヒロとオトメはクラウチングスタートの形をとるとトモヒロの「よーい、ドン!」の合図でもう走り出してしまった。
「あ! ズルい! 今『よドン』のタイミングで言った!」
「言ったもん勝ちだ! ハッハー!!」
「ま、待つでござる! デブを急に走らせるなでござる~!」
「お前らなぁ……!」
言いたいことが山ほどある俺を尻目に、3人はもう走り出してしまい俺の声など既に届かなくなってしまった。仕方なく、俺もその競争に参加することにしたが、眠ってるカルナを起こさないように走るのは至難の技で、案の定俺は4人の中で一番後ろを走ることになってしまった。
『ふふっ、マスター達はいつも楽しそうに毎日を過ごしていらっしゃる。マスターが楽しいと私もなんだか楽しくなってしまう』
ガンプラ状態のファントムは、走るソウシの鞄の中で揺られながらそんなことを思っていた。
―――……―――!
『っ……!? なんだ今のノイズは……!』
何か電波のようなものがファントムの脳裏をよぎったかと思うと、それはすぐに消えてしまった。
『この感覚……まさか、ギラーガ!?』
………………
…………
……
ちょうどその頃、町はずれの廃工場跡にて……。
「うふふ……この程度? そっちからわたくしをダンスに誘っておいて、ステップ一つ満足に踏めませんの?」
廃工場の2階にあたる場所の柵の上に立ち、階下を見下ろすのは、ガンダムアストレイゴールドフレーム天ミナだ。そして、その視線の先には……。
「くっ……!」
鎧が剥がれ、スピアは折られ、仮面は半分砕かれたギラーガが、頭部から血を流しながら床の上に倒れていた……。
~オリジナル機体紹介~
100年の歴史を見守る不動の哨兵
「ジェノアス・コマンドー」
【機体説明】
謎のMS群、“UE”の襲撃に対し、地球連邦軍の主力MSであるジェノアスを拠点防衛用に改造した機体。最も目を惹く両肩の「CIWS(シーウス)ガトリングキャノン」は後部にレーダーを備えており、索敵だけでなく、敵機を捕捉後自動追尾し、俊敏な動きのUEへの対抗策として備えられている。しかし基部の可動範囲の構造上、装弾数が多くないのが欠点でもある。
主にコロニーの重要拠点や、来るべきUEの地球侵攻を見越して配備されていたが、「銀の杯条約」により装備されているのは旧型の実弾系兵装ばかりである。そのうえ電磁装甲を有したUE側の新型機の登場により、それらの武器はほとんど意味を為さなくなってしまった。結果、UE側には決定的な打撃を与えることができず、ジェノアスコマンドーは少数のみが生産された。
地球連邦軍とヴェイガンとの終戦間際、マッドーナ工房の倉庫の奥で1機だけ残されていたこの機体が何者かに持ちだされたという事例が存在する。真偽のほどは確かではないが、娘を誘拐された特殊部隊出身の元軍人が、娘を救出するためにテロリストのアジトへ奇襲を仕掛けるためにこの機体を使用した……という噂があるが、定かではない。
【武装】
プルバップマシンガン
CIWS(シーウス)ガトリングキャノン×2
ハイパーバズーカ
脚部3連装ミサイルポッド×2
シュツルムファウスト×2
ヒートナイフ
【ベースキット】
HGAGE ジェノアスカスタム
これまでは長くても基本的に2話完結が主だったのですが、バトル開始前とカーディナルさんの見せ場が思ったよりも長くなってしまったために、まさかの3話構成という形になってしまいましたw
今回バトルの相手にジェノアスを選んだのは、改造機とは言えあえて弱そうな機体を選ぶことで、それが主人公らをどう圧倒するのかを書きたかったので、それを表現してみました。
結果、文章の出来もガンプラの方も、自分の満足がいくものができたと思うので満足ですw