機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 前話から時間は少し遡り、アベさんの店でガンプラバトルをしに向かうソウシ達一行。
 だが一方、その陰では新たな戦いが幕を開こうとしていた……。


第19話:「愛と怒りと悲しみと……」

 それはソウシ達がガンプラバトルを始める十数分前にまで遡る……。

 

「……行くの?」

「あぁ……奴らが動く」

 

 アパートの一室で、ソウシ達よりも先に帰って来たレイナは、自室の窓際に立つギラーガに複雑そうな視線を向けている。ギラーガはこれから、戦いに赴こうとしている。それはおそらく、以前カルナを狙って襲ってきた連中の一人と……。

 その実力はこの街にいる人化ガンプラのどれよりも強大な力を持っていることは既に明らかだった。それでもギラーガは戦いに行く。一見無謀にも思える行為だが、その戦いで果たして敗れることになっても、それはギラーガ自身を強くするものだと、彼女は信じて疑わなかった。そんな彼女に対し、レイナは無言で視線を送ることしかできなかった。

 

「なんだ、よもや私の身を案じているのではあるまいな?」

「……」

 

 その視線に気付いたギラーガが皮肉交じりげにレイナに問いかける。レイナは、その質問に答えることができずにまたも無言で視線を逸らす。

 

「ククク……これはお笑いだ。今まで気にもかけなかった同居人が、いざいなくなると思うとやはり寂しいものか。 寂しいなどと思う感情が、創造主にもあったということに驚きだがな」

「……貴女は居なくならない」

 

 ギラーガの蔑みがちな言葉とは裏腹に、レイナはしっかりとした口調でそう言った。今度は視線を逸らさずに、ギラーガの目を見ながら。ギラーガから見たレイナの瞳の奥には、強い意志の表れが見て取れた。

 

「……ふん、いいだろう。これは彼奴らの実力を、我が身を以て知るための戦い……私とて死ぬつもりなど毛頭ない。私はまたここに戻ってくる。その時には創造主、私に新たな力を授けてもらうぞ」

 

 レイナは何も言わず、ただ無言で頷いた。そしてギラーガもまた、無言でその様子を見ると、レイナに背を向けて窓辺から外へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

―――――第19話:「愛と怒りと悲しみと……」―――――

 

 

 

 

 

 カルナを連れ、アベさんの模型屋へと来たソウシ達。仲間と合流し、店内へと入ろうとしている。その様子を遠くの電柱の上に立ち、眺める者がいる。

 

「うふふ……見つけた」

 

 黒く左右非対称なボディに金色のラインが入った機動鎧(モビルアーマード)を纏い、長い金髪をなびかせながら彼女は呟いた。彼女の名は“ガンダムアストレイゴールドフレーム(アマツ)ミナ”……仲間内からは“ミナ”とも呼ばれている。以前カルナを襲った集団の内のリーダー格であり、今は何故か単独行動をしている。

 そんな彼女の目的は当然……カルナにあった。カルナを外に連れ出したのが運の尽き、ここでカルナを奪還しようと、そう考えていた。ミナが行動を起こそうとした……まさにその時だった。

 

「……っ!?」

 

 殺気を感じ、天ミナは電柱を蹴って上空へと舞い上がる。その瞬間、今まで自分がいた電柱の上をビームが掠めた。背中のマガノイクタチを翼状に開き、それで空中に留まり、攻撃を受けた方向に目を向ける。そこにはスピアを構えたギラーガが自分の方へと飛んでくるのが見えた。ビームはスピアの先端から放たれたものらしい。

 

「無粋ですね、挨拶もなしにわたくしに攻撃を仕掛けてくるなんて……よほど不躾な環境で育った駄犬なのかしらね?」

 

 ギラーガが前方に対峙すると、天ミナはそう言い放った。

 

「今のが挨拶代わりだ。元より不意を突いて討つつもりはない」

「ふぅん……」

「今更、こんなところで何をしている?」

 

 尻目に店の中へと入るソウシ達一行を見ながら、ギラーガは天ミナに問いかける。戦う相手と余計な言葉を交わすことなど、ギラーガの性格上あまり無いことだった。しかし、ギラーガも一応以前レイナの妹、アリサとの一件でソウシには少なからず恩義を感じているために、ここで天ミナの行動を足止めすることにしたのだ。

 

「別に……外に連れ出した今ならば、あの少女を奪還できるのではと思っただけですわ」

「それは貴様の創造主の命令か?」

「いいえ、あくまでわたくし個人の意思です、このようなことで我が主のお手を煩わせる必要はありませんので。あぁ……でも、もう屋内に入ってしまったのですね。これでは手が出せませんわ……はぁ~あ、どうしましょう……」

 

 と、天ミナは模型店の方向を見ながらわざとらしく手を頬に添え、残念そうな表情を作って溜息をついてみせる。一方のギラーガは、その様子に惑わされることなくスピアを構えたまま動くことは無い。

 

「仕方ありませんね……今日は大人しく帰りますわ。では御機嫌よう~」

「待て」

 

 踵を返し、その場を去ろうとした天ミナだが、その背後からギラーガの威圧する声と共にスピアの先端からビームを放ち、それは天ミナの顔を掠めた。それにより金色の髪が数本舞い切れ、天ミナの頬から僅かに血が滲む。

 

「貴様の行動を邪魔し、この場に留めた私を無視してそのまま帰るだと? それはなるまい」

 

 ゆっくりと振り返る天ミナ。その目は、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気から一転して、鋭く、まるで目の前に映るモノ全てを破壊し尽くさんとするような、殺意に満ちた鋭いものに変わっていた。

 

「うふふ……やると仰いますの? このわたくしと?」

「貴様らの実力を量るのにまたとない機会だ、このまま尻尾を巻いて逃げるようならば……私はお前をどこまでも追い続け、必ずや刃を交えさせる」

「後悔なさらないことね。尻尾を巻いて逃げるのはむしろ貴女の方……いえ、そのご立派な尻尾ごと、ちょん切ってしまうかもしれませんが」

 

 と、天ミナはギラーガに生えているギラーガテイルを見ながらそう言った。

 

「いいでしょう、実を言うとわたくしもこのところ運動不足で退屈をしていたところです。お望み通り、お相手をしてさしあげましょう」

 

 不敵な笑みを浮かべながら天ミナは左の人さし指先で滲んだ血を拭うと、自分の舌で舐めとる。それを見て本気になったと確信したのか、ギラーガもまた口元を僅かに歪めて嗤う。

 

「ふっ……そうこなくてはな」

 

………………

…………

……

 

「廃棄された町はずれの廃工場だ。ここならば人気は無いし、攻撃も民家にまで及ぶことも無い」

 

 ギラーガは埃っぽい地面を歩きながら自分の背後を歩く天ミナに言った。

 

「なるほど、思う存分暴れられるというわけですか……」

 

 周囲を見回しながら天ミナは呟く。穴の空いたトタン屋根、崩れてかけている二階通路、長年その場に放置されて錆びついた機材や資材の数々……おそらくずっと昔に閉業した工場なのだろう。そのまま何年も隙間からの雨風に曝されて、歩を進める度に床がギシギシと軋む音が聞こえる。

 だが確かに、ここには人の気配は全くない。兆常の力を持つガンプラの彼女らが思い切り力の全てを出したとしても、誰も傷つけず巻き込むこともない。

 

「いいでしょう。では始めましょうか、血の決闘を。念のために自己紹介を。わたくしはガンダムアストレイゴールドフレーム(アマツ)ミナ、親しい者からは“ミナ”と呼ばれております」

 

 天ミナは傅いて自分の名をギラーガに告げた。

 

「フッ……決闘の前の慣わしというわけか、いいだろう。我が名はギラーガ、戦いを生きがいとし、力を追い求める者。そして貴様を打ち倒す者だ」

 

対するギラーガはスピアを自分の前で地面に突き刺し、気丈な自己紹介を行った。

 

「うふふ。これはこれは、随分と大きく出ましたわね。では……」

「いざ!」

 

 天ミナは腕を広げ、ギラーガはスピアを構える。次の瞬間にはもう戦いは始まり、ギラーガスピアの鋭い突きがミナを襲う。以前のように、ギラーガは相手の出方を窺ったりはしない。先手必勝、それがこの決闘における必勝の戦術だと考えているからだ。

 あの時、アストレアを相手にした時、ギラーガ達の攻撃はあっさりとあしらわれていた。その後の呂布トールギスとゴッドガンダムとの戦いを見てもそれは明白であり、おそらくはこの街にいるどのガンプラよりも天ミナ達のグループは強い。当然ギラーガとて、それは例外ではない。となれば、不意をついた先手こそが、自分よりも力の勝る相手への必勝のカギとなるはず。

 だが、実際はそう甘くは無かった。

 天ミナはギラーガの突きにマトモに視線をくれることもなく、軽々と攻撃をかわしていく。それはまるでダンスのステップを踏むかのように、無駄な動きこそ多いがそれも余裕の表れなのか、気味の悪い微笑のままスピアの突きを避ける。

 

「あらあら、この程度ですの? これではこのわたくしを本気にさせるには到底及びませんわね」

「くっ……!」

 

 今度はギラーガスピアを二本に分裂させて天ミナに斬りかかる。それに対して天ミナもまた動く。左手に備わっている金色の鉤爪……“ツムハノタチ”を展開する。分断したギラーガスピアを逆手に構え、ギラーガが斬りかかる。だが、天ミナが腕を一振りするとツムハノタチの刃が引っ掛かり、ギラーガの手からスピアをとり落とす。

 ならばともう片方のスピアを剣のようにして持ち、それを天ミナに向かって突き立てる。しかし、突きの攻撃は既に天ミナに見切られている。

 

「無駄なことを……何度やっても同じこと!」

 

 また先ほどのように、華麗な舞いで翻弄しながら攻撃をかわそうとする天ミナ。……だが。

 

「なっ!?」

 

 想定外の事が起き、天ミナの口から思わず声が漏れ、動きが止まる。それを聞いてギラーガが口元を歪ませてほくそ笑む。天ミナの足に、ギラーガの尾……“ギラーガテイル”が巻き付き、天ミナの動きを封じたのだ。

 

「私を舐めてかかった代償だ! その身を以て払うがいい!」

 

 そして構えたスピアはしかと天ミナのボディを捉えた。このまま突き立てれば天ミナに深手を負わせることができる。そう確信したギラーガは、迷いなく天ミナの胸元にスピアの切っ先を突き立てる!

 

「あらあら……わたくしを舐めていたのは、貴女ではなくって?」

 

 その言葉と共に、天ミナは不気味な笑みを浮かべる。その口元からは、先程までは確認できなかった牙のようなものがちらりと見え、紅い瞳がより一層紅く染まっていくようにも感じた。

その時だった、不意にギラーガは自分の体から力が抜けていくのを感じた。振り下ろされたスピアは勢いが衰えていき、胸元に突き立てるつもりだった刃はコツンと軽い音を立てて天ミナの黒光りする外装に阻まれ、その手から零れ落ちる。そして立つこともままならなくなり、堪らずギラーガは膝を折る。

 

「な……なんだこれは……?」

 

 突然の脱力にギラーガは訝し気な表情をしながら小さく呟く。

 

「うふふ……貴女の力、いただきますわ♪」

 

 ギラーガが頭上を見上げると、挟み込むかのような形で天ミナの背中に備わっている一対の奇妙な形状の翼が開き、天ミナの肩の上から前方へと展開されていた。そしてその間から、自分の力が吸い上げられていくような感じがする……。

 

「こ、これは……!」

 

 息を荒げながらも、意識だけはなんとか保とうと気力を振り絞る。

 

「これぞ我が必滅の武装、“マガノイクタチ”。捉えた敵を生きながらその精を貪り食らう。そしてそれは我が贄として力となる」

「私の力を……吸収しているというのか……!?」

 

 エネルギー吸収能力……そのような特殊な能力を持った敵を相手にしたことは、ギラーガにはまだなかった。自分の意識がありながらみすみす敵にそれを吸収される嫌な感覚……それを感じつつも、ギラーガはこれからどう動けば良いのか必死に考えていた。

 

「無駄ですわよ、わたくしのこの技に捕まって逃れられた者は一人としていない。大人しくそのまま意識なき骸と化しなさい」

「ふん……残念だがそのような気は……毛頭無い!」

 

 ギラーガはゆっくりと腕を動かす。大きく動かせば、天ミナに気付かれるか無駄な体力を消費してしまうために少しずつだ。そして目の前に転がるスピアの片割れをその手に掴むと、逆手に持ち、突き立てる。

 ただし突き立てたのは天ミナに大してではない。自分に対してだ。スピアの切っ先を装甲の合間から自分の脇腹に突き刺したのだ。

 

「ぐっ……! ぬうぅっ……!」

 

 予想以上の苦痛に思わず呻き声をあげるギラーガ。刺し傷は決して深くはないが、それでも突き刺した個所からは血が溢れ、スピアを伝ってギラーガの手元には血溜まりができる。

 

「何を? 力が抜けすぎて血迷ったのですか?」

「ふふっ……そうかもしれんな……だが!」

 

 仮面の奥でギラーガはカッと目を見開くと、二本の足でしっかりと立ち上がり、そのまま後ろに飛び退きマガノイクタチの呪縛の範囲内から逃れる。

 

「チッ……痛みで意識を保ったということですか」

「古典的だがなかなか有効な手だぞ!」

 

 後ろへ飛ぶと同時に掌のビームバルカンを天ミナに向かって放つ。天ミナはそれを右手のトリケロス改のシールド面で防御しつつ、翼を開いて飛行する。だが狭い廃工場内では高度を飛行することはできず、高機動の戦闘も行えない。天ミナはそのまま工場内を旋回し、柱の陰に降り立ち身を隠す。

 

「しかし自らの身を傷つける行為など、やはり愚策としか言いようがありませんわ。吸収し尽くさないにしても、貴女から大量のエネルギーを吸収できた。加えて脇腹の傷。もう満足に戦えるだけの体力は無いのではなくって?」

 

 工場内に天ミナの声が響き渡る。それはもちろんギラーガの耳にも届いている。が、ギラーガはそれに答えもせず、ビームバルカンによる攻撃を止め、胸部へとエネルギーを溜める。溜められたエネルギーを一気に放出し、ビームバスターとして天ミナが隠れている場所に放たれる。

 

「っ……!?」

 

 ビームが着弾する一瞬、天ミナの驚嘆の声が短く聞こえた気がした。そしてそれはすぐに轟音にかき消され、着弾したビームがその場を破壊し尽くす。長年積もった埃と爆煙でその場が見えなくなる。

 古びた支柱が折れ、そこを支えていた部分の天井が崩れ、外の明かりがその場所から漏れる。そして最後に、一本の鉄パイプが音を立てて転がる。金属の転がる音が止むと同時に爆煙が晴れていく。

 この威力だ。天ミナに対しての攻撃がマトモに命中しなかったにしても、大量の瓦礫の山に圧し潰されれば無事では済むまいと、ギラーガは思っていた。それでも勝負の決着を確認できるまではゆめゆめ油断せぬよう、視線はその場所から逸らすことはない。

 だが、報復は思わぬ場所から来た。

 

「ぐあっ……!?」

 

 短い声をあげ、自分の右足を押さえるギラーガ。何故なら、太もものあたりに太く長く、先が鋭く尖った槍が貫通していたからだ。ギラーガは仮面の下で苦悶の表情をしながらも、自分の足に刺さった槍……“ランサーダート”を引き抜く。

 

「バカな……奴はどこから!?」

 

 右足に負担をかけぬよう、スラスターを起動させ地面から少し浮いて周囲を見回す。天ミナは瓦礫の中に埋もれている筈……いや、もしかしたら自分がそう思っているだけで、実際は……。

 その時、また背後から攻撃を受ける。今度はビームだ。だが、ギラーガも同じ手には何度も引っ掛かりはしない。姿は見えないが、ビームの発射音は確かに聞こえた。その発射音からビームが迫る位置を把握し、掌からビームサーベルを展開すると振り向きざまにそのビームを眼前でサーベルを振るって弾き飛ばす。

 

「お見事……フフフッ」

「っ……!?」

 

 急に自分の耳元で声が聞こえた。ゾクリと気味の悪い感覚が背筋を凍らせる。その感覚を覚えながら背後を振り向きながら掌のビームサーベルでそのまま斬りつける。が、やはりその場所には誰も存在せず、ビームサーベルは虚しく空を斬る。

 

「さぁ、踊りなさい」

 

 また背後で声がした。その直後、突然虚空からワイヤーに繋がれた鏃が二つ飛び出し、ギラーガに襲いかかる。ギラーガスピアとビームサーベルで弾き飛ばすが、また別の攻撃が別方向から来る。今度もあの槍だ。それを目にしたギラーガは背中を向けると、器用にテイルを操作してそのまま弾く。

 

「お見事。ではこれはいかが?」

 

 弾かれた鏃が虚空に消えると、また天ミナの声が響く。そしてギラーガの右腕が後ろにまわされ、そのまま抑え込まれる。しかし、自分の腕を押さえつけている何者かの姿は全く見えない。堪らずその手からスピアの片割れが零れ落ちる。

 ならばとテイルで自分の背後を貫く。が、虚空より現れたビームサーベルによってテイルが斬り落とされ、無力化される。最後の左腕のビームバルカンで背後を攻撃するが、全く手ごたえを感じられない。ほぼ零距離で接近されているため、こちらの攻撃が全て読まれてしまっているのだろう。

 

「貴様は……自分の姿を自由に消せるというのか!?」

「うふふっ……ご明答」

 

 ブップガン、と巨大な何かが展開する機動音が聞こえる。そして自分の首を両側から締め付けられるような感覚。間違いない。不可視ではあるが、またあのマガノイクタチが自分を挟み込むようにして展開されているのだ。このままでは僅かに残されている自分の体力が全て吸い取られてしまう……!

 

「まぁ、もう終幕(フィナーレ)ですか? 残念ですわねぇ」

「くっ……!」

 

 天ミナがギラーガの耳元で囁き、同時に指で顎を沿うように撫であげる。その感覚にギラーガは耐え難い屈辱感と悪寒をその身に抱くが、それでもがっちりと抑え込まれてしまう、自分の身体を動かすことができない。

 

「でも無様な虫けらには相応しい終幕かもしれませんね。ダンスもマトモに踊れないのであれば……このまま朽ち果てなさい!!」

 

 マガノイクタチが駆動音を唸らせて起動し始める。だが、そんな絶体絶命の窮地に立たされている状況であるにも関わらず、ギラーガは小さく笑みを浮かべる。それが諦めの意味なのか、はたまた逆転の手立ての前触れなのか、天ミナにはわからないが、そのまま言葉を紡ぐ。

 

「生憎ダンスは……苦手だな!」

 

 その言葉と共にギラーガの背中のXトランスミッターが起動し、周囲に光球状のビットを放出する。その量は今までXトランスミッターを使用したどの戦いのときよりも膨大な数だった。そしてそれらのビットが一気にビームを放出する。

 ギラーガを中心にして、ほぼ全方位に放たれるビーム。それは姿が見えなくとも、ギラーガに取りつく天ミナにも迫る。やむを得ずマガノイクタチの起動を止め、ギラーガから離れる天ミナだが、まるで雨のように降り注ぐビームを交わし続けるのは至難の業だ。

 そのビームの一つに天ミナの左肩を掠った。その瞬間に解かれる不可視の業。天ミナの姿が再び現れる。

 

「そこか、見つけたぞ!」

 

 肉眼で天ミナの姿を確認したギラーガは、その方向を指さすと全方位に放っていたビットの照準を全て天ミナの居る方に向け、ビームを放つ。それを天ミナは必死でかわし、またはトリケロス改のシールド面で防御する。

 

「まだこんな隠し玉を持っていたとは……! しかし、既に貴女の体力は限界。ただでさえ広い空間認識能力を必要とするビット攻撃を、ここまで膨大な量を操る力も僅かな筈! 果てさてどこまで続けられるものか!」

 

 天ミナの言うとおり、段々と放出したビットが消えていき、降り注ぐビームの勢いも衰えていく。ギラーガの息も荒くなり、尚も足と脇腹からは血が溢れ出て、汗が噴き出る。目が霞む……。

 そして、ついに限界が来たのか、ギラーガが膝を折った。その瞬間、集中力が切れたために放出されたビットの大半が消滅する。勿論天ミナはその隙を見逃さなかった。

 

「あーらあらどうしたのかしら? もっとわたくしと踊って下さいよぉ!!」

 

 上空に飛び、トリケロス改からビームをギラーガに向けて乱射する。ビームはギラーガに直撃し、直撃した個所の赤い鎧が砕け散る。さらにXトランスミッターであるバックパックや腕のクリアパーツは割れ、バイザー状の仮面にも当たり、仮面の右半分が砕け散る。

 片膝立ちだったギラーガは撃たる度にその反動で、まるで車に轢かれたソフビ人形のように跳ねる。ビームが当たった箇所からは煙があがり、金属とプラスチックが溶けるような嫌な匂いが周囲にたちこめる中、ギラーガは唸り声をあげながら前のめりに倒れる。

 

「うふふ、大口叩いた割にこの程度ですか? そっちからわたくしをダンスに誘っておいて、ステップ一つ満足に踏ないなんて、なっさけな~い」

 

 廃工場の2階にあたる場所の柵の上に立ち、階下を見下ろす天ミナ。その視線の先には……床に倒れこむギラーガ。

 

「くっ……!」

 

 半分に砕かれた仮面の奥で、尚も鋭い眼光でギラーガが睨んでいた。が、その頭部からは先ほど受けた攻撃のせいか、剥がれた仮面によって露わになる右側の目元に血が一筋流れる。

 

「うふふ、これでわかったでしょう。貴女程度ではわたくし達に勝つことなど、とても浅ましく、おこがましいということが」

「……あぁ……よく……わかったよ……」

 

 息も絶え絶えにギラーガが答える。だが、半分見えるその瞳には、もう先ほどのような戦いの意思は無く、闘志は消え、諦めにも似た色に染まっていた。

 

「私程度では……お前に……いや、お前達に勝つどころか……満足に戦うことすらできないということが……」

「あっははは! ようやく己の無力さを思い知ったようですわね!」

 

 天ミナが2階の柵に足を組んで座り、階下に倒れるギラーガを見下しながら嘲笑する。

 

「私では……いや、この街にいる人と成ったガンプラの誰であっても、お前達に勝つことはできないだろう……。一つ聞く……お前のその強さの源は……一体何だ……?」

 

 言葉を一つ発するのもままならない状態であるにも関わらず、ギラーガは天ミナに質問を投げかける。本来であれば、ギラーガの性格を考慮すると誰かの助言など決して得ようとはしない性であるはずだが、それでもあえてギラーガは質問をする。自分よりも遥かに実力が上……となれば、自分がそこに追いつくためにはその強さの秘密を知るしかなかった。

 

「あはっ……あはははははっ! なんですのそれは? 貴女、自分が何を言っているのかわかっておいでですか? 自分の敵に対して強さの秘訣を聞くとは……全く節操のない。恥というものを知らないのですか貴女は?」

 

 それを聞いて尚も嘲るように笑い飛ばす天ミナ。だが、ギラーガはその様を激昂するまでもなく、悔しさに崩れ落ちるでもなく、ただじっと仮面の奥で見つめていた。

 

「まぁいいですわ、せっかくだから教えて差し上げましょう。こんなこと教えるまでもないことだとは思いますがね……。わたくしの強さの源は他でもない、“愛”ですわ!」

「愛……?」

 

 その言葉の意味がよく理解できなかったのか、ギラーガが「愛」というワードに疑問符を付けて繰り返す。

 

「えぇ、愛ですわ。全ては我がマスターのために。マスターがいるからこそ、わたくしはこの世に生を受けた。そしてマスターがわたくしに戦うための力と、使命を与えてくださった。だからわたくしは強く、気高くいられるのですわ。あぁ、マスター……本当に愛おしい……♪」

 

 そう話す天ミナの表情は嬉々として愛を語り、その頬は紅潮して、目も恍惚とも思えるような顔をしていた。とても先ほどまでギラーガを相手に鋭い眼光を飛ばしていたのと同じ人物とは思えない。

 

「ふん……なるほど……愛か……」

「おわかりになって? 貴女もマスターに仕える身であるのなら、その愛しさが力になると感じたことがある筈ですわ」

「下らんな」

 

 ギラーガが突然言い放ったその言葉に、天ミナは思わず一瞬沈黙する。その言葉の真意がわからなかったのか、聞き返す。

 

「……なんですって?」

「愛だと? ふざけるな黒塗り成金。貴様らも私達も、所詮は戦うために生まれてきた存在。そこに愛などという不確かな幻想が力になるだと? 笑わせるな」

「……では、貴女はマスターのために戦ったことはないと……そう言うのですか?」

 

 先ほどまでのマスターのことを想って浮かべていた嬉々とした表情は消え失せ、今は対照的に冷徹な視線をギラーガに送りながら、天ミナはそう問いかけた。

 

「無いな、一度も、微塵たりとも。私は常に私のためだけに戦っている。戦いこそ我が宿命……強さこそ我が求めるもの。そこに他人が入りこむ余地など、ありはしない!」

「他人……そう、貴女にとってマスターとはただの他人ということですのね」

 

 天ミナはその冷徹な表情を崩さぬまま、柵の上から階下に下りるとトリケロス改からビームサーベルを展開する。そして血溜まりの中で倒れこむギラーガに一歩一歩、少しずつ歩み寄っていく。

 

「どうやら貴女と私とでは、根本的な部分で分かり合えそうにありませんね、残念です」

 

 ギラーガの傍まで歩み寄ると、その首元にビームサーベルを突き付ける。

 

「フッ……微塵もそんなことを思っていないだろうに……」

 

 首元にサーベルの熱を感じながら、ギラーガは皮肉交じりにそう答えた。自分の心の内を見透かしているような、そんな態度が最後の引き金になったのか、天ミナは大きく目を見開くと、一瞬恐ろしい形相をしてビームサーベルを振り上げる。そのままギラーガの首を斬り落とすつもりなのだろう。だが当のギラーガは、戦う力を全て失い最早抵抗することすらできない。

 天ミナの右手が振り下ろされる。ビームサーベルが赤い軌跡を描き、ギラーガに迫る。

 その時だった。

 

「……っ!?」

 

 突然、金属同士が擦れるかのような音が三度に渡って廃工場内に響く。まず一度目と二度目はほぼ同時に。振り下ろされるトリケロス改に何か小型のナイフのようなものが二本突き刺さった音、それによりビームサーベルは思い描いていた軌跡を逸れ、ギラーガの首ではなく地面を抉る。そして三度目は天ミナの右肩にそれが突き刺さった音だった。それにより天ミナはバランスを崩し、体勢がよろける。

 

「これは……!?」

 

 トリケロスと右肩に刺さった武器を見て、天ミナが呟く。ナイフのように短く、銀色に輝く刀身……だがナイフよりも万能の事に使えるそれは、まさしく忍者が使うことで有名な近接用武器、“くない”だった。

 

「なっ……何者ですか!? 一体どこに……!?」

 

 ギラーガのことなど放って、天ミナは工場内を見回す。この工場内には自分とギラーガの二人だけしかいなかったのは確かだ。もし新たに何者かがここに入ってきたのなら、いの一番に自分自身が気付いている筈だ。それなのにその存在を察知できなかった……。しかもこの投擲の命中度、相手はよほどの実力者と見ていた。

 そして……見つけた。その人物は薄暗い影のかかった二階の手すりの縁に腕を組んで立っている。そう、ちょうど先ほどまで天ミナがいた位置にだ。

 

「天に月が昇りし時、全ての悪行を照らし出す」

 

 隙間から吹く風に揺れる首に巻いたマフラーと紫色の短髪。そして静かに登場の口上を述べるのは……謎の忍者型人化ガンプラ、“シャドームーン”だ。

 

「魔の囁きが木霊するなら、影に忍びて闇夜の始末!」

 

 その姿にただならぬ威圧感を感じながらも、天ミナは負傷した右肩を気にする暇もなく、その姿を警戒する。

 

「貴女……一体何者ですか!?」

「月光の影忍、“シャドームーン”! お呼びとあらば即、見参!」

 

 誰も呼んだ覚えなどないのだが、それでもシャドームーンは天ミナの問いに対し、お決まりの登場文句を詠う。

 

「シャドームーン……? そうか、貴女が呂布から報告があった忍タイプの新型ですね。その実力は未知数……ならば、面倒なことにならぬ内にここで排除させてもらいます!」

 

 マガノイクタチから鏃……“マガノシラホコ”を射出する。二本の鏃は弧を描いて左右両側からシャドームーンに迫る。だが、それらがシャドームーンに接触する寸前のところで、シャドームーンは静かに目を閉じる。すると次の瞬間、縁の上に腕を組んで立っていたシャドームーンの姿が消え、マガノシラホコは虚空を突く。

 

「なっ……!」

 

 天ミナが驚嘆の声をあげる。だが驚いている暇はない。自分の右方向からプレッシャーが迫るのを感じた天ミナは、左手で腰に備えてあるトツカノツルギを手に取ると、それで右側から来るプレッシャーの源を突く。案の定、その正体はシャドームーンだった。トツカノツルギはシャドームーンの頭を掠め、髪が数本舞う。その瞬間天ミナはシャドームーンの顔を初めて至近距離で見ることができた。

 マフラーと覆面で口元が隠れているが、その面持ちにはどこか見覚えがあった。天ミナはシャドームーンと初対面であるにも関わらず、そのことに疑問を感じた。対するシャドームーンも同様に、天ミナに対して何か言いたげな眼差しを向ける。が、すぐに元の鋭い眼光となり、突きを繰り出した天ミナの右手を掴むと、そのまま地面に説き伏せる。

 

「バカな……! こ、このわたくしがこうも……!」

 

 天ミナの動きが止まった一瞬の隙に、シャドームーンは煙玉を破裂させ周囲を煙幕で覆い、素早くギラーガを抱きかかえると、瞬く間に廃工場から飛び出していった。

 

「ま、待ちなさい! ゲホッ……ゲホッ……!」

 

 後に残された天ミナは、その後を追おうとするが、煙幕によって視界が閉ざされてしまい、煙が晴れる頃にはもうシャドームーンとギラーガの姿は彼方へと消えてしまっていた。

 

「あのシャドームーンなる者……もしかすると」

 

 追撃するつもりはないらしく、天ミナは自分の肩に刺さったくないを引き抜き、それをまじまじと見つける。切っ先は自分の血で赤く染まっているが、それだけで何の変哲もないくないだった。だが、天ミナはそのくないを通じて、持ち主であるシャドームーンから何か親近感のようなものを感じ取っていた。

 

「間違いない。奴は私と同じ、“王道を外れし者”(アストレイ)の遺伝子を持つ……あの時失われた……」

 

 そしてそれを固く握りしめると、自分もまた翼を広げ、吹き抜けになっている工場の屋根の隙間から外に出ると、そのまま空へと飛び去る。

 

「私の……片割れ。まさかこんな場所で再会することになろうとは……」

 

………………

…………

……

 

 ガンプラバトルの終わった俺達は、一路俺の家で明日の試験勉強をするために向かっていた。その最中にトモヒロが急に競争を提案したために、俺は今トモヒロ、オトメ、タクオの三人から遅れて息を荒げながら走っていた。何せこちらはカルナをおんぶしながら走っているのだ。しかも眠っているカルナを起こさぬように揺らさず慎重に、そして静かに速足で走りながらだ。これがなかなかにしんどい。

 

「あの角を曲がればもうすぐ……!」

 

 俺の家への到達地点が近くなってきた。もうこの際競争とかどうでもいいから、ただ家に帰って一息つきたかった。そんな一心で走りながら角を曲がった俺の前に、何者かが上空から降り立つ。

 

「うわっ……!」

 

 突然のことに驚きながらもぶつからぬように急ブレーキをかける。が、体がよろめく。だがカルナがおぶさっていることを考慮し、尻もちをつきそうにふらつく体を咄嗟にその場に留める。そして俺は、俺の目の前に立つ人物を見る。

 口元をマフラーとマスクで隠し、紫色の髪をした、細く薄い機動性に特化したと思われるフォルムの装甲を纏った少女だった。俺の見たことのないタイプではあるが、この子も機動鎧(モビルアーマード)を纏った人化ガンプラであることは明らかだった。

 

「君は一体? ……っ!?」

 

 その少女が手に抱いている人物を見て驚愕した。半分に割れた仮面……砕けた赤い鎧……体の至る所から血を流し、気絶している様子のギラーガだった。

 

「ど、どうしてギラーガが……!」

『マスター、私を出して下さい』

 

 ファントムの声が響き、俺は言われるがまま鞄の中にしまってあるザクファントムを取り出し、地面に置く。次の瞬間には俺のよく知るいつものあの黒髪眼帯な美少女の姿に、ファントムはなっていた。

 

「やはり……さっき私が感じた感覚の正体はギラーガだったか」

 

ファントムが歩み寄ると、紫色の髪の少女は抱きかかえているギラーガをファントムに託す。ファントムもそれを受け入れ、傷だらけのギラーガに自分の肩を貸した。

 

「一体ギラーガに何が……」

 

「あーっ! お前!」

 

 その時、トモヒロ達が走って行った方向から、人の姿となったゴッドガンダムがゴッドフィールドダッシュで猛突進しながら俺達の前に姿を現す。そして俺達と謎のMS少女の間に割って入って指さしながらこう言った。

 

「変な気が近づいてきたのを察して戻ってきたと思えば……お前はこの前のシャドームーンとかいう奴! なんで今頃また出てきやがった!」

「シャドームーン!? 彼女がか!?」

 

 そうか、以前呂布トールギスとゴッドガンダムが決闘した際、ゴッドを助けて俺達のいる場所まで連れて来てくれたシャドームーンという忍者タイプはこの子のことだったのか。

 

「ゴッド、彼女はギラーガを助けて私達のところまで送り届けてきたようです」

 

 尚も気絶しているギラーガを抱きかかえながら、ファントムがゴッドに説明した。

 

「なにっ!? ってことはこいつもあの時の連中の一人と対決を……!」

「……」

 

 シャドームーンは尚も無言のまま腕を組み、目を瞑る。その様子はどうやら肯定の意味合いらしい。あのギラーガがここまで深手を負わされてボロボロにされるなんて……やはり奴らの能力はファントム達を……いや、この街にいるどの人化ガンプラをも軽く凌駕する力を持っているらしい。

 

「……けど、お前はあいつらとギラーガとの戦いの最中、ギラーガを救いだしてきた。前もそうだったけど、俺が呂布にヤられそうだったところをお前は助けてくれた。ということはだ、お前だけはあいつらに対抗できるだけの力があるんじゃないか?」

 

 ゴッドが鋭いところを指摘する。その指摘に対してシャドームーンは尚も無言のままだが、少し目線を逸らして誤魔化すかのような素振りを見せた。ということは、どうやらゴッドの言った言葉が図星だったらしい。

 言われてみれば確かに、こちらの人化ガンプラよりも実力が数段上の天ミナ率いるあの連中と、このシャドームーンは今回を含めて2回にわたってその激闘の最中を潜り抜け、ゴッドとギラーガを救出している。このシャドームーンだけは、なぜ別格なのだろうか?

 

「なら……頼む! 俺を鍛えてくれ! 俺をあいつらに……呂布に負けないくらい強く鍛え直してくれ! この通りだっ!!」

 

 するとゴッドは突然地に両手をついて、額を地面に擦るかというほどまで近づけて、シャドームーンに対して懇願する。俺はその光景に一瞬面喰ってしまった。人一倍戦いや強さに対して純真だったゴッドだが、まさかこのように自分のプライドを捨ててまで誰かに弟子入りを祈願するとは思わなかったからだ。少し意外な一面を見た気持ちだった。

 だが、シャドームーンはそんなゴッドの姿を見ても態度を全く変えることなく、ゴッドに対して背を向けると一言だけ呟く。

 

「今はまだお前たちと関わり合える時ではない」

 

 直後、一瞬脚に力を込めると大きくジャンプし、家の屋根から屋根へと飛び移り、素早い身のこなしで走り渡る。

 

「お、おい! 待ってくれよ!」

 

 ゴッドがその後を追おうとするが、シャドームーンはあっと言う間に姿を消してしまった。後に残されたゴッドはがっくりと項垂れる。

 

「おいゴッド!お前いきなり走り出してどうし……」

「ソウシ君! そ、それって……!」

「レイナ殿のギラーガ殿でござるか……?」

 

 ちょうどその時、ゴッドの後を追ってきたトモヒロ、オトメ、タクオが戻ってきた。

 

「ああ……この傷、どうやら天ミナにやられたらしい」

 

 ギラーガの足には鋭い槍のようなもので刺された痛々しい傷跡があった。あの一団の中でこんな攻撃ができるのはトリケロス改に装填されているランサーダートが撃てる天ミナのみ……。

 

「ね、ねぇ……ギラーガさんこのままずっとってわけにはいかないよね? 早く手当てした方がいいよ!」

「そうだな。よし、俺の家に運んでそこで……―」

 

「その必要は……無い」

 

 俺達の背後から声が聞こえた。見ると、そこにはギラーガのマスターであるキサラギ・レイナがいた。息を切らせ、汗もかいているところを見ると、ギラーガの異変を感じて自分のアパートから走ってここまで来たらしい。

 

「レイナ……ギラーガが!」

「わかってる……」

 

 レイナはそう言ってギラーガの肩を抱いているファントムまで近づくと、傷ついたギラーガの手をとる。

 

「貴女の予想は当たったみたいね……」

 

 小声でそう呟くと、ギラーガの体が光に包まれ、縮んでいき、光が止むと元のガンプラの状態に戻った。しかし、ガンプラの状態になったからといって傷が癒えるわけではない。傷があった個所はパーツが割れ、穴が空いているままだ。レイナはそのガンプラをぎゅっと握りしめると、顔を俯かせたまま踵を返してもと来た道を帰ろうとする。

 

「ちょっ、ちょっと待てよ!」

 

 俺がレイナの手を掴んで立ち止まらせる。レイナはもう片方の手にボロボロのギラーガを握ったまま振り返ろうとはしない。

 

「そんな状態のギラーガを手で運んで家まで戻るのは危険じゃないのか? 俺の家がすぐ近くだ。そこなら道具もあるし、パーツもある! 応急処置ぐらいならできる!」

 

 俺はそう提案するが、レイナは無言のままこちらを振り向こうとはしない。

 

「……できない」

「なんだって……?」

 

 レイナの言った言葉の意味が理解できない。「できない」って……何が? もう一度聞こうとレイナを掴む手に思わず力がこもる。

 

「貴方の手を……借りるわけにはいかない。それはこの子も望んでない……だから……」

「そんな理由で! お前とギラーガを行かせるわけには……っ!」

 

 俯いていた顔を少しこちらに向け、視線を送るレイナ。前髪に隠れ、表情は左目の部分までしか見えなかったが……その目にはうっすらと涙が滲んでおり、同時に俺が今まで見たことも無いような鋭い眼差しをしていた。

 

「レイナ、お前もしかして……」

 

 そこまで言うと、レイナの腕を掴む力が急に萎えてしまい、レイナは俺の手を振りほどいて走り去る。後に残された俺は、虚空に伸ばした自分の手を握りしめ、名残惜しげに下げるしかなかった。もうレイナを追う気にはなれなかった……。なぜなら、レイナのあんな顔を見てしまったからには、とても追いかける気など起きなかった。

 ……あのレイナがまさかあんな顔を見せるとは思わなかった。だから思わず面喰らってしまい、彼女を行かせてしまった。

 

「マスター……?」

 

 俺のそんな様子を心配してか、ファントムが後ろから心配そうな声色で呼び掛ける。だが、俺はそれに気を止めることなく、今のレイナのあの表情の意味を考えていた。紛れも無くそれは、ギラーガを傷つけられたことに対する悲しみの涙と、そして……。

 

「あいつ……怒ってた」

 

 あの鋭い眼差し……それは、殺意にも似た……レイナの激しい“怒り”を現していた。

 

………………

…………

……

 

「そう、貴女のお姉さんに会ったのね」

 

 夜の街、その煌めく夜景を眼下に臨みながらビルの屋上に立つサングラスをかけ、黒いコートを着た長身の若い女性は、夜風で揺れるウェーブがかった茶色い髪をかきあげながら、背後で跪くシャドームーンに語る。

 

「はい。さらに今日、ゴッドガンダムに弟子にしてほしいと頼まれました」

 

 普段は無口なシャドームーンも、自分の主君である“彼女”の前では饒舌に今日の出来事を話す。

 

「まぁゴッドガンダムは“アイツ”が作ったガンプラだものね。その強さに一生懸命なところ、アイツそっくりね。やっぱり作った人に似るのかしら」

「如何いたしましょう?」

 

 どこか懐かしそうな表情を浮かべながら、茶色い髪の女性は眼下の夜景を見渡しながら言った。

 

「今はダメね、まだ私達があの子達の前に姿を出せる時ではないもの。でも“奴ら”も段々と動き始めている……そう遠くないうちに、私達の方から接触してみましょう」

「御意」

 

 短く頭を下げると、シャドームーンは跪いた状態から素早くジャンプし、あっという間に夜の闇に消える。

 

「この街の夜景をここで見るのも久しぶりね……」

 

 夜景を一望しながら彼女は自身の思い出に浸る。

 

「そっか……アンタもガンプラ始めたんだね、トモ。ふふっ」

 

 不敵な笑み交じりにそれだけ言い残し、彼女は夜景を背にし、ビルの屋上から姿を消した……。




今回は、前回ソウシ達がガンプラバトルを行っている一方その頃、ギラーガは……という、時間帯を同じにして別視点での出来事を書いてみました。
こういう書き方は始めてやったのでなかなか難しいものですが楽しくもありましたw
ビルドファイターズトライやGのレコンギスタも始まってますますガンプラ熱が増しています。作者だけでなく、きっと読者の皆様も増していることでしょう!
次回は…ギラーガがパワーアップを!?待ちきれなくても…待て!
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