久々の姉弟の再会であるにも関わらず、トモヒロはあまり気乗りな様子ではない。
そして語られる、シノブの知り得る人化ガンプラ……“マシンソウル”の情報とは?
「ただいま~♪ お母さん、いる~?」
「お袋は今パート中だ」
小一時間後、俺たちはシノブ姐さんの実家……即ち、トモヒロの家である、“サラ家”に来ていた。引き戸をガラガラと開け、玄関でブーツを脱ぎ捨てると早々に家にあがるシノブ姐さんに対し、トモヒロはそのブーツを揃えながら言った。
「あら、私が毎月仕送りしてるのにパートなんかまだやってるの?」
「……親父の借金がまだ残ってるからな。……どうしたんだよ、入れよ」
「あ、あぁ……お邪魔します」
玄関の前で固まっている俺達に対し、トモヒロはちょっと不機嫌そうな視線を向けながら顎でしゃくって中に入るのを促す。
俺に続いて、オトメ、レイナ、タクオ、独先生も中に入る。
「ねぇ……急にトモヒロ君、機嫌悪くなっちゃったみたいだけどどうしたの?」
オトメがトモヒロには聞かれないように、俺の耳元でひそひそと囁きながら聞いてきた。
「あぁ……トモヒロの親父さんが結構アレな人でな、3年前に離婚してるんだ。その際に結構多額な借金押し付けられて……」
「えっ、でもそういうのって裁判所の方とかで……―」
「……トモヒロのお袋さん、その時結構精神の方にきててさ、別れられるんだったらなんでもいいってその借金肩代わりしちゃったんだ」
「そ、そんなの……」
「だからトモヒロは親父さんの話されるのすごく嫌がるんだ。気を付けてくれよ」
「う、うん……」
それっきり誰も、何も一言も喋らずに俺たちはサラ家の客間へと足を踏み入れた。
―――――第22話:「想いだけでも、力だけでも……」―――――
「さて、じゃあ何から話そうかしらね」
ズズッ……と、シノブ姐さんはトモヒロが淹れたお茶を一口飲み、そう話を切り出した。
「……俺的には、シノブ姐さんがどうして人化ガンプラを……マシンソウル……でしたっけ? を、連れているのか聞きたいっス」
俺は姐さんの隣で、同様にお茶を啜るカゲツキに目を向ける。お茶を飲む時でも頑なにそのマスクを外そうとはしない。しかし、湯飲みの中のお茶の量は減っていることから、飲んでいることは確からしい。一体どんな仕掛けなんだろうか……これも彼女の持つ忍法の一つだと言ってしまえばそれまでになってしまうが……。
「そうね、じゃあ無難にそこから話を……―」
「ちょっと待ちなさい」
と、姐さんが語りだそうとしたそのタイミングで意外な人物が待ったをかけた。カーディナル・アークだった。
「その前に一つ聞いておくことがあるわ。貴女……人を呼び出しておいたくせになんで私との待ち合わせ場所に来なかったの!?」
「……? なんの話? ってか、さっきから思ってたけど貴女、誰?」
「えっ!? そっ、それは……!」
と、カーディナルさんは俺たちの方に一瞬目を向ける。マスクのために表情がわからないが、おそらく俺たちの前で正体を明かそうかどうしようか迷っている様子だった。当然のことながら、俺たちはこの人の正体が俺たちのクラスの担任、独先生のあだ名で呼ばれているヤマナカ・ユリ先生だということは全員がわかっている。理由は知らないが、それでもカーディナルさんは正体を明かしたくはないらしい。それは先ほど、バスで移動中に周囲の客たちから奇異の目で見られつつも頑なにこのコスチュームを解かなかった様子からも明らかだった。
しかし、どうやらこの二人は元々知り合いの仲らしいのだが、このカーディナル・アークとしての姿では、シノブ姐さんとは当然初対面である。マスクを外さなければ誰なのかはわかってくれない。
「うぅ~~~……ええいっ! ままよっ!」
マスクと金髪ロングのウィッグを掴み、それらを脱ぎ捨てる。そして露わになったのは、やはり俺たちがよく知るヤマナカ先生のお顔であった。
「私よ私! ヤマナカ・ユリ! あんたの学生時代、散々仲良くしてあげた大先輩の顔忘れたなんて言わせないわよ!?」
と、自分の顔を指さしながらヤマナカ先生はシノブ姐さんに迫る。
「へぇ、独先生はトモヒロ殿の姉上と先輩の間柄であったのでござるか」
「お歳近そうだもんね、合コンとかたくさん行ってたのかなぁ」
と、シノブさんがトモヒロの姉と知った時とは打って変わって、タクオとオトメの二人はテーブルの上にある客人用のお菓子をむしゃむしゃ食べたり、お茶を飲んだりと大して驚きはしなかった。
「……プッ」
「……?」
「あはははっ、バカねぇ先輩。もちろん知ってたわよ。ちょっと意地悪してみただけ♪」
「なんっ……!? なっ、なぁぁぁっ!?」
「全く、先輩は相変わらずシャアが好きなのねぇ。生徒たちの前でもそんな恰好して……プププッ♪」
と、またも姐さんは堪えきれずに笑い出す。それを見てヤマナカ先生は真っ赤な顔えおして俺たちの方に泳いだ目を向ける。が、もうなんだかこの人がとてもかわいそうに思えてきてしまったために俺たちは誰も目を合わせることができなかった。
「と、ところでさっき待ち合わせがどうとかって……」
堪らず、俺が別の話題に切り替える。
「あぁ、実は今日ユリ先輩に頼んで直接あなた達の家に行って話をしてみようと思ってたのよ。抜き打ち家庭訪問ってやつ?」
「それなのにいつまで経っても待ち合わせ場所に来ないんだから……」
「ごみんごみん♪ あの模型屋さんでガンプラバトルの大会があったでしょ? 賞品が豪華だったからついつい
と、あははと笑うシノブ姐さん。その「
「ったくもう……久しぶりに会おうってアンタの方から言ってきたくせに! そういう適当なとこ、学生の頃から全っっっ然変わってないのね!」
「いや~それほどでも♪」
「褒めてない!」
「はいはい。じゃ、ユリ先輩のお話も終わったところでさっきの話の続きといきましょうか」
と、半ば強制的に話を切り上げられた独先生は「まだ言いたいことが……―!」と声を張り上げたが「まぁまぁ……」と、オトメとタクオによってなだめられ、渋々元の座り位置へと戻っていった。
「え~っと、何から言おうとしたんだっけ?」
「……シノブ姐さんがどうしてマシンソウルと呼ばれる人化したガンプラを連れているのか、ていうところからです」
同じことを二度言わなければならないことに若干の苛立ちを感じつつも、もう一度姐さんに事の事情の説明を促す。
「あー、そうだったわね。でも、そこから話すにはちょっと昔話をしなくちゃいけないわね」
「昔話……?」
「そっ。5年前、私がこの家を出て、どこで何をしてきたのかを」
それを聞いてピクッとトモヒロが関心を示した。そうしてシノブ姐さんは、ぽつりぽつりとその時のことを話し始めた。
「あの頃は大変だったわよねぇ、お父さんがよそに女作っちゃったり、ギャンブルで借金作ったり、しょっちゅうお母さんに暴力振るってお金せびってたわよね」
よりにもよってサラ家が分断する寸前の出来事を、まるで他人ごとのように軽く話し始めた。その話を聞いて途端にトモヒロの表情が険しくなったことを、俺は見逃さなかった。この人は……昔からデリカシーがない人だなとは思ってたが……まさかここまで空気が読めないとは……。
「そのうちに家にまで借金取りが押し掛けるようになっちゃうし、お父さんは私達
「……その時のことはよく覚えてるわ。シノブ、顔に青痣つくって大学来たことあったわよね……」
独先生のその言葉に思わずみんなが息を飲む。それほどまでに当時のサラ家の状況というのはひどいものだったのだ。
「あ~、そういえばそんなこともあったわね。おかげで授業料払えなくって大学は中退する羽目になっちゃうし、まぁ今となってはどれもこれもいい思い出……あら? トモ君、どこ行くの?」
シノブ姐さんの話を聞いていたトモヒロが無言で立ち上がり、客間から出て行こうとしている。
「……そんな話ばっかするために帰ってきたってんなら、俺はもうここに居たくない」
「おい、トモヒロ……!」
俺は思わずトモヒロの腕を掴んだが、強い力で振り払われた。トモヒロのこの感じ……中学の荒れてた頃を彷彿とさせる。
「何を話すのかと思いきや……昔のウチのことがそんなに面白いかよ! そりゃそうだろうな! アンタはあの惨状を見て見ぬふりをして、結局俺やお袋を見捨てて自分だけ逃げ出したんだからな!!」
吐き捨てるような荒い口調で、トモヒロはシノブさんにそう言い放った。逃げ出した……確かに、捉えようによってはそう思えなくもないが……。
「おい言い過ぎだぞトモヒロ! お前の家庭があの時どうだったのかは俺もよく知っている。でもだからってシノブ姐さんをそんな臆病者扱いして……―」
「いいえ、トモ君の言う通りよ」
先ほどとまでとは打って変わってシノブ姐さんの声のトーンが落ちている。談笑するかのように軽々しい口調だったのだが、今のシノブさんは年相応の落ち着きさと、そしてどこか物悲し気な雰囲気を醸し出していた。
「私ね、この家が大嫌いだったの。暴力振るうお父さんも、心が壊れかけたお母さんも、荒みはじめたトモ君も……何もかもが嫌になっちゃって、だから自分だけ逃げ出したの。そうね……確かに臆病者だったわ」
「姐さん……俺は……」
「いいのよソウ君、あなたは気にしないで」
そんなつもりで言ったわけじゃない……と、先ほどの自分の言葉を否定しようとしたが、シノブ姐さんは俺を宥める。
「だから私は……すべてを捨てて己の身一つでいろんなところをまわって、そしてあらかた極めていったわ。スポーツに芸術、伝統芸能、ファッション、一流企業、ゲーム分野……」
「そ、そんなにいろんなことを……!?」
「私、昔っから一つのことに縛られるのが嫌いな
「あっ! そういえば……私、前にファッション雑誌で見たことある! お姉さんが載ってるモデル記事!」
オトメがハッとした表情で姐さんの方を見つめる。どうやらこの人は、空白の5年間の間に様々なジャンルを体験し、自分探しをしていたらしい。昔からなんでもそつなくこなす完璧超人だとは思ってはいたが……この5年の間にその超人ぶりに更に磨きがかかったらしい。
「でも、どの分野でも私を満足させるものはなかったわ」
「……で、そんなアンタが次に目を付けた趣味がガンプラってわけか」
姐さんの話に少し関心を持ったらしく、トモヒロは自分の座っていた位置に戻り再び話を聞き始める。
「まぁね。じゃあここからがお待ちかね、私とカゲツキとの出会いのお話しといきましょう」
パンッ、と手を叩き不敵な笑みを浮かべるシノブ姐さん。それと同時に、先程までお茶を飲んでいたカゲツキの手が止まり、その場にじっと静止する。
「ことの発端は数ヶ月前。私はとある一流企業に勤めていたの」
「一流企業……?」
「社名は今のところ伏せておくわ。で、私はそこでなんやかんやあって社長秘書にまで成しあがったの」
そこまでの過程結構重要なところじゃないだろうか……? と、思いはしたがここはひとまず姐さんの話に耳を傾けることにした。
「そして私はそのポジションになって初めて知ったの。その会社が企む、ある計画のことを……」
「計画……?」
「さっき、私はあなた達に
「えぇ……確か、穏やかで純粋な気持ちで作ればマシンソウルは正しく宿って……」
「……マイナスの感情で組み上げれば……ソウルは宿らない……もしくは極めて不安定なものになり、暴れ出す……」
俺の言葉の後に、壊れたレギーラを手に抱いたままでいるキサラギが言葉を紡いだ。
「そうよ。そのプロセスも、あの計画の一端に記されていた内容だったから私は知ることができたんだけど……」
「その計画って……一体なんなの?」
独先生もそれが気になるようで、思わずシノブ姐さんを急き立てる。
「簡単に言うと……人工的にガンプラにマシンソウルを宿す計画……」
「なっ……!? 人工的にマシンソウルを……?」
その言葉に俺は驚愕のあまり声を漏らし、他の皆も息を飲む。シノブ姐さんが語ったその一言が、いかに恐ろしいことなのか……実際にマシンソウル達をマスターにしている俺達にはよくわかる。
マシンソウルは言うなれば、ガンダムのアニメに登場するモビルスーツを、人間大のサイズにまでスケールダウンさせた存在だ。しかし、簡単にスケールダウンといってもその戦闘能力は計り知れない。それは、俺達がこれまで数多く目撃・経験してきたマシンソウル同士の激闘を思い返してみれば明らかだった。たった一人で、軍隊を相手にできるほどの戦闘力……驚異的な体力の回復能力と、少しの怪我ならすぐに治る治癒力……そして、改造によって強化できる己の性能……。
もしそれが、とある企業の力によって大量生産できるほどの存在になったとするならば……。
「あなた達ならわかるでしょ? それがどういう事になるのか……」
かつて俺たちの前には、悪しき思惑でマシンソウルを使い、襲撃してきた存在もいた。ザクⅠを手に入れたばかりの時のタクオ、レイナの双子の妹、そして……あの
それらは今までどうにか退けることができてきた。しかし、この話はスケールが違いすぎる。その企業がもし人工マシンソウルの量産に成功し、それらが今後軍事目的で使用されたりなんかした場合には……。
「そんな……そんなの、まるで……!」
ごくりっ……と、思わず俺は生唾を飲み込む。マシンソウルが……ガンプラが……俺達が長年遊び、慣れ親しんできたものが……兵器として戦争に使用される日が来る……? それによって多くの人々が血を流し、土地が焼かれ、国が亡びるかもしれない。ということは、つまり……。
「まるで……ガンダムの世界の再現じゃないか……!」
俺の口から出た言葉……それは最早夢物語の話ではない。現実に、これから起ころうとしている近い未来の話……。
ガンダムの世界の再現……聞きようによっては憧れや羨望を持つかもしれない。しかし、要は地球規模での激しい戦争が起こるということを示唆している。従来の兵器では太刀打ちできない人類史を塗り替えるほどの人型機動兵器の登場……それによって発生する地球人口の激減……そこまでは子供の俺達でも容易に想像できる。
「そんなの……絶対に阻止しないと!」
「えぇ、私もこの計画を知った時、こんなのは百害あって一利も無いと考えたわ。だから、その企業が開発したばかりの人工マシンソウル……その
「えっ……? じゃあその人工マシンソウルはどこに?」
「そなたらの目の前におる」
と、今までずっと無言のままだったカゲツキが突然口を開いた。
「じ、じゃあカゲツキさん……って」
「そう、あの企業が人工マシンソウルの素体に選んだガンプラはアストレイタイプのガンプラだったのよ。まだ配色も外装も武器も施されていない、真っ白な状態の彼女を私が奪い、そして自我を与えたってわけ」
再びお茶を啜り始めるカゲツキ。その瞳は物思いにふけるようにいつもの鋭いものから静かな雰囲気になっていた。
「でもなんで忍者でござるか?」
「それは……まぁそんなに重要なことじゃないから今は省略させてもらうわ」
「じゃあ天ミナさんとの戦いでも引けをとらないほど強いのは?」
「そこも省略」
あまり触れられたくないのだろうか、シノブ姐さんはタクオとオトメの質問には答えなかった。
「じゃあ……姉貴がなんでこの街に戻ってきたのか……聞いてもいいか?」
先程からずっと無言のまま話を聞き入っていたトモヒロが、ようやく口を開いて質問を投げかけた。
「それはもちろん、あなた達マシンソウルの
「……それにしては伝えるのが随分と遅くありませんか? カゲツキさんは随分前からこの街にいたようだったのに、俺たちの前になかなか姿を出さないなんて……」
「悪く思わないでちょうだい、ソウ君。それからみんなも。私は数週間この街に滞在してこの街のマスターたちがどんな人柄で、どこまでのことを知っているのか……それと、各マシンソウル達の性能なんかも、カゲツキを通して調べていたのよ」
「なんでそんなスパイみたいなことを……」
「なんで? まさかこの期に及んでまだわかってないのかしら?」
ここで突然、シノブ姐さんの口調が荒くなった。
「さっきあなた達が見たものはなに? 恐るべき破壊力を持った戦闘兵器同士の戦いでしょ。それよりもずっと前から、あなた達はそれらの戦いを幾度となく目撃してきたはずよ。それを見てまだ悠長なことを言ってるなんて、ちょっと呑気すぎるんじゃないかしらね?」
「なっ……!? 姉貴! いくらなんでもそんな言い方ねぇだろ!」
「姐さん、ガンプラは戦闘兵器なんかじゃ……!」
「これを見てもまだそんなことが言えるかしら?」
と、シノブ姐さんは胸元からスマホを取り出し、それに入っている画像データを俺達に見せる。大きなクレーター状の穴が開いた学校の校舎裏の広場……コンクリートがめくれ上がり、鉄製の柵がひしゃげたオトメの住むマンションの屋上……燃え尽きた木々と、見る影もなく破壊された公園の林と噴水……バス亭前に遺されたおびただしい量の血痕……ステルスフィールドの影響でカーナビが機能しなくなり、渋滞を起こす車道……隆起した地面と竜巻痕によって見るも無残な光景となった河川敷……天井が崩れ落ち、建物の半分が無くなった廃工場……そして惨劇の場となった先ほどの公園……。
そこに映されているどの画像も、俺達のマシンソウルがかつて死闘を繰り広げ、それによって被害が出た場所ばかりだった。
「ここまでの甚大な被害を出すものを、兵器と呼ばずしてなんと呼ぶわけ?」
姐さんの言おうとしていることはわかる。マシンソウルたちの持つ恐るべき戦闘能力……それは意図したものでなくとも、周囲にこれほどまでの甚大な被害を出す。でも……。
「それでも……俺達は、ファントム達を……マシンソウルをただの兵器だなんて思いたくない。彼女らにだって、ちゃんと俺達人間と同じ“心”があるんだ」
「そうですよ! 私たちは今まで、マシンソウルたちと心を通わせてきました!」
「これからだってそうできると、僕たちは信じてるでござる」
俺だけではない。オトメもタクオも、俺と同じ意見のようだ。自分と同じ志を持つ者がいるのは、それだけで心強い。
しかし、そんな俺達を見てシノ姐さんは納得する素振りは見せず、小さくため息をつくと俺達の方を見据える。
「甘いわね。甘々よ……そんな考え方じゃ」
「姐さんにはわからないんですよ! 俺達はそのカゲツキさんよりもずっと長くファントム達と接している。それだけ心が絆で繋がっているんです!」
「絆……ねぇ」
またも冷たい視線で俺達を一瞥する姐さん。
「だったら試してみる? あなたたちの言うその“絆”とやらと、私の主張……どちらがまかり通るのか、ガンプラバトルで」
次の瞬間、姐さんの隣にいたカゲツキが一瞬のうちにガンプラの状態に戻り、姐さんの手に収まった。
「望むところです。でもいいんですか? 俺達は3人ですよ」
「いや、4人だ」
トモヒロも立ち上がり、話に加わる。
「姉貴、あんたが今までどこでなにしていたのかなんてのはこの際どうだっていい。けどな、俺はやっぱり納得できない。俺達を置いて、自分だけこの家から逃げ出して、またふらっと戻ってきたと思えばそんな偉そうな話……あんた何様のつもりだ。そんな勝手なこと、やっぱ許せねぇ!」
「だったらいいわ、一人ずつは面倒ですもの。4人まとめてかかってらっしゃい」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいあなたたち!」
と、俺達の間に割って入ってきたのは独先生だった。
「冷静になりなさい! 今は仲間内で争っている場合!? こうしている間にも、あの連中はまた襲ってくるかもしれないでしょ!? だったら、それをなんとかする方が先決じゃないの!?」
「心配いらないわよ、先輩。こんな坊やとお嬢ちゃん相手なんて、片付けるのに時間はかけないわ」
「なんっ……!? 黙って聞いてりゃいい気になって!」
「ソウシ君、やっちゃおうよ!」
自分でも冷静さを欠いているのはわかっている。けど、助けてもらったとはいえいきなり帰ってきて好き勝手言っているこの人には、やはりぎゃふんと言わせたい。そんな気持ちが俺達の中に渦巻いていた。
「あ、あなた達……」
そんな俺達の様子を見て、独先生は退くしかなかった。
………………
…………
……
そして数十分後、模型店“ブルーコスモス”の工作室にて。
「独先生、頼みがあります」
「なにかしら?」
俺達は今、この場所を借りてガンプラの補修を行っていた。といっても、俺のファントムはその驚異的な治癒力のおかげで目立った外傷や破損個所は無いようだったので、バトルを行うには問題はない。問題なのは他の3人だった。3人は机に向かってガンプラの補修を進める中、俺は扉の前で再びカーディナル・アークの姿に扮装した独先生にある頼みごとをする。
「今、俺の家でカルナが一人で昼寝をしているはずです。サザビーさんを向かわせてもらってもよろしいでしょうか?」
本来なら家を留守にする場合、毎回サザビーさんにカルナと一緒に居てもらうよう頼んであるのだが、今日は用事があると言われた(その用事とは言うまでもなくシノブ姐さんとの待ち合わせだが)ので、頼むことができなかった。しかしつい今しがたレギーラが天ミナ一派のマシンソウルと交戦したとあっては、すぐにでもカルナが狙われる可能性があった。
「それなら心配いらないわ。あいつなら、もうとっくにあなたの家に向かっているわよ。今頃カルナちゃんと一緒に遊んでるんじゃないかしら」
「そうですか……ありがとうございます」
「お礼はいいけど、あなた達本当にシノブとやるつもり?」
「……はい。ここまで来たらもう後戻りはできません」
「はぁ……言い出したらきかないのはシノブもあなた達も同じか……まぁせいぜい頑張りなさい。私は一応、あなた達の味方だから」
そう言って独先生は俺の肩にそっと触れ、仮面の下で優し気に微笑みかける。
「ありがとうございます、先生」
「先生じゃなくって、今の私はカーディナル・アークよ。それ以上でも、以下でもないわ。じゃあ私は2階で観戦してるから」
「はい」
そう言って独先生……いや、カーディナルさんは工作室を出て、2階へと登っていった。
「レイナ、お前にも聞きたいことがある」
「……うん」
次に俺はレイナの方に向き直り、話を切り出す。レイナは、自分に対して質問が来ることをわかっていたかのように、神妙な面持ちで俺の目をじっと見つめる。
「なんで、俺をガンプラバトルの大会に誘わなかったんだ?」
先日、レイナはこの店で大規模なガンプラバトルの大会が開かれることをトモヒロ、オトメ、タクオの三人には話して誘っていたのに俺にだけその話はされなかった。それがどうしても気になっていた。
「……」
「別に、怒ってるわけじゃないんだ。ただ、何か理由があるなら聞いておきたいと思って……」
とは言ったものの、俺は内心少し残念な気持ちだった。なぜなら、このメンバーの中でおそらく俺が一番レイナからの信頼を得ているはずだったからだ。その築き上げた友情とも呼べる信頼があるならば、真っ先に俺を誘うのが筋というものだろう。なのに俺だけ誘われなかった……。悪く言えば仲間外れといった感覚……。怒りは無い、ただ少しだけ、ほんのちょっとだけ残念な気持ちだったのだ。
「……私は彼女の……レギーラの願いを尊重したかった……」
「願い?」
「……彼女は、ファントムとの真剣勝負を望んでいる」
なるほど、そういうことか。互いにライバルの関係であるが故に、決着は互いの準備が万端な状態で、模型店のガンプラバトル大会などではなく、もっと別の真剣勝負の場でつけたいということか。
「でも私は……い、一応友人という立場上、彼らも大会に誘わなければいけないと感じた……だ、だから……結果的にあなただけを仲間外れにすることになってしまった……ごめんなさい……」
と、レイナは一つ一つ言葉を選びながら俺に対して深々と頭を下げた。
「い、いや! 謝ることなんてそんな……でもちゃんと理由があったんだな。それを聞いて安心したよ」
俺の言葉にレイナは顔を上げ、少し笑顔を見せた。そうか、友人として……か。あの冷たい態度をとっていた頃のレイナからでは考えられないような変貌ぶりだ。俺以外にも、きちんとトモヒロ、オトメ、タクオのことも友人としての信頼関係を築いていたことが、俺は内心とても嬉しかった。
「じゃあ、もしかしてレギーラの武装パターンがアレなのは……」
暴走状態に陥ったレギーラが見せた攻撃の数々……ビームシールドを拳に纏い、目標に対して打撃する“バスターナックル”、Cファンネルとビットのダブルオールレンジウェポン、そして尾の長距離射撃用ビームライフル……それぞれがゴッドガンダムの格闘技、ガンダムサバーニャのシールド&ライフルビット、ザクⅠのビームスナイパーライフルに役割が酷似していた。ということはもしかして……。
「そう……彼らの使うガンプラの長所を取り入れた」
なるほど、友人たちの使うガンプラの主兵装を参考にし、それらを取り入れてみたというわけか。
「そういう武装の強化パターンもあるのか……」
「……まだ私は全ての武器を使いこなせてはいない……でも、いつか全てを完璧に使いこなすことを約束する。だからその時になったら、私と真剣のガンプラバトルをしてほしい」
「あぁ、もちろんだ。俺もその時までに今よりももっと強くなってみせる。手始めにシノブ姐さんに勝ってな」
「……本来ならば私もガンプラバトルに参加したいところだけども、レギーラがこの状態……だから、私も先生と一緒に観戦に回らせてもらう」
「おう、モニターの前で俺達のこと応援してくれよ」
俺の言葉にレイナはこくりと頷いた。よし、聞きたいことは全部聞けた。あと残った問題は……。
「3人とも、ガンプラの様子はどうだ?」
俺はトモヒロ、オトメ、タクオの3人に声をかける。ゴッド、サバーニャ、ザクⅠの3体は先ほどの戦闘で大きなダメージを負い、意識を失ってしまっていた。そのままの状態でシノブ姐さんとのガンプラバトルに勝てるとは思えない。なので、真っ先に俺はその3体のことを気にかけた。
「一応、応急処置は済んだでござるよ」
「こんなこともあろうかと、予備のパーツを持ってきといてよかったよ」
と、オトメはレギーラに破壊・破損されたホルスタービット、その全てが破壊される前とほぼ同様の状態で備えられているガンダムサバーニャを取り出す。しかし、破壊される前と相違点が一つだけある。ホルスタービットの数が2つほど足りない。本来ならば10基備えられているはずだが、このサバーニャには8基だけ装備されていた。
「あれ? ホルスタービットの数、少なくないか?」
「あっ……うん。えへへ、実はね……サバーニャってさ、ライフルビットが収納されていないダミーのホルスタービットがあるでしょ?」
「あっ……」
言われてみれば確かに、このホルスタービットは中にライフルビットが入っていない。しかもホルスターは2個で1基と、連結されたままになっている。これはキット本来のガンダムサバーニャにおけるパーツのままだった。というのも、正キットのガンダムサバーニャにはライフルビットが収納できるホルスタービットは2つしか付属していない。あとの8つは中に何も入ってない、2つのホルスタービットが連結されたままのダミーパーツだ。
オトメはそれを、破壊されたライフル・ホルスタービットの代わりとして装備させていた。
「何も無いと寂しいと思ってさ、ビームは撃てないけど、盾にはなると思うよ」
「僕のも新しいパーツに交換したでござる。胸パーツに穴が開いてしまったからスナイパータイプのからとったでござるよ」
と、タクオもザクⅠを取り出す。その胸部装甲は、レギーラの攻撃によって穴が開いてしまったため、代わりにザクⅠスナイパータイプのものを使用している。機体の胸部パーツをまるまる換装しているため、胸部のみブラウンとブラックの装甲、それに接続される頭部・腕・下半身はグリーンのため、傍から見ればとても不格好な配色となってしまっている。
「名付けて、“ザクⅠリペア”! まぁこれはこれでジオン残党軍っぽい配色で嫌いじゃないでござるよ」
「うん、私もこれ嫌いじゃない……かな。えへへ」
と、二人は言うが、その言葉の裏腹には悔しさが滲み出ている感じを俺は察し、それ以上何も言わなかった。
「……それで、今二人はどんな感じだ?」
耐えられず俺は話題を変える。俺の言った「二人」とは、サバーニャとザクⅠのことである。いくらいつもは能天気なあの二人とはいえ、先の戦闘であれほど手痛くやられたのであれば、あまり元気がないのではないかと思うが……。
『呼びましたかソウシさん?』
『ワシらのことなら心配いらんぞ、この通りピンピンしておる』
「二人とも……無事だったんだな!?」
『なぁに、あれくらいでくたばりはせぬて』
『そうですよ、私まだまだやりたいこといっぱいあるのに死んでる暇なんてありません!』
ガンプラの方はなんとか修復できたとはいえ、やはり本人たちの声を聞くと安心する。この調子ならば、以前の調子となんら変わらない様子だ。
「さて、問題は……」
そう、問題はトモヒロとゴッドの方だった。オトメとタクオには破損したパーツを交換できる余裕があるが、トモヒロには予備のパーツが今は無かった。
トモヒロはこれまでの戦闘でゴッドのパーツが破損すると、ゴッドガンダムの説明書に付属しているパーツの注文用紙をコピーし、必要なパーツを注文していたのだが、生憎今日はその注文をする暇もなく、姐さんとバトルをする羽目になってしまった。
なので今のトモヒロは工作室の隅の方で、レギーラの攻撃によって胸部が大きく凹んだゴッドガンダムをじっと見つめることしかできなかった。
「ゴッドの様子はどうだ?」
見かねて俺がトモヒロに話しかける。先ほどのピリピリした感覚がまだ残っているのか、チラッと目線をこちらに向けただけで、また険しい表情のままゴッドを視線に向けた。
「……こいつ、俺と姉貴が話してた時、目が覚めたらしくてさ」
「えっ……!?」
トモヒロの言う「こいつ」というのは、今視線を向けているゴッドのことだというのはすぐにわかった。トモヒロは、ゴッドには自分の家庭のことをあまり詳しく話してはいないと聞いたことがある。しかし、遅かれ早かれすべてを知る時が来るだろうとは思っていたが、このタイミングとは……。
「ガラにもなく心配してくれちゃってさ、『俺にできることがあったらなんでも言ってくれ!』だってよ。自分はこんなザマだってのにな……笑っちまうぜ」
と、トモヒロは自嘲気味に薄ら笑いを浮かべた。
「安っぽい同情をされるのが嫌だったのか?」
「そういうわけじゃねぇよ」
「けど創主とマシンソウルという関係上、いつかはわかることだったぞ? それに、オトメ達にも……」
「そうだけどさ……俺は、嫌だったんだ……その……」
「?」
トモヒロは何か言いたげな様子だが、柄にもなくもじもじしていてなかなかはっきりとその理由を言わない。心なしか、恥ずかしがっているようにも見える。
「か……かっこわりぃじゃねぇか……。俺ってさ、ほら結構硬派で通ってるだろ? だから、家庭の問題とかを会話の中に出したりなんかしたら……その……ダセェじゃん?」
と、案外返答に困る理由が出てきた。それに対して俺がなんと答えようか少し考えていると、俺達の脳内に笑い声が響き渡った。
『あっはははははははは! なんだよご主人、そんなことで今まで内緒にしてたのかよ?』
その声の主はゴッドだった。どうやらゴッドの意識はずっと覚めたまま、俺達の会話をじっと静かに聞いていたらしい。
「そ、そんなことだとぉ!? 俺にとっちゃ結構重要な……―!」
『んもぉ、意外とかわいいんだから♪』
「か、かわっ……!?」
おそらく、今までのトモヒロの人生の中で「かわいい」などという言葉が向けられたことは無かっただろう。そのフレーズを自分に向けられて、トモヒロはかなり混乱している様子だ。
「けどよぉ! 俺にだって男としてのプライドがある! そんな女々しいことで同情されちゃ男として……―!」
『はいはい、自意識過剰。その考えがすでに女々しいんだってば』
「なんっ……!?」
ゴッドの反撃に思わず口を噤んでしまうトモヒロ。驚いたことに、今日はゴッドの方がトモヒロを圧倒している。すごく新鮮な光景だ……。
『別に気にかけられることって嫌なことでもなんでもないことだと思うぞ。それだけご主人の周囲にいる人たちの仲間意識が強いことの証拠じゃないか』
「仲間……」
「そうだトモヒロ。俺達は別にそれでお前のことを憐れんだりとか、敬遠したりなんかはしない。ただ“共感”はしたいと思ってる」
「共感……?」
「苦しみを少しでも俺達に分け与えろ。それだけでお前の重荷は少し軽くなるだろ。な、みんな」
気が付くと、俺の後ろにはオトメとトモヒロ、そしてレイナも加わって話を清聴していた。
「そうでござる。僕らはマシンソウルの創主という共通項で繋がってるでござる」
「だから、難しいこと考えないで私たちに話しちゃえばいいと思うな」
「……私もかつて自分の内に苦しみを溜め込んでいた……けど、ソウシはそれを受け止めてくれた……だから少し、気持ちに余裕ができた……」
「お前ら……」
各々の言葉に励まされ、トモヒロはすっくと立ちあがる。そして、俺達に向かって深々と頭を下げた。
「すまねぇ! 今まで何も話さなくて……。俺、別に疑ってたわけじゃねぇけど……お前らに話す勇気がなくて……」
「そ、そんなに気にしなくていいでござるぞトモヒロ殿! トモヒロ殿のそんな恰好は僕らあまり見たくないでござるぞ」
「そうだよ! どうせ見せるならさっきの赤面した表情もっと見せてよ! 私の脳内で保管して後で悶えながら漫画に描くから! ふひひ……あうっ!」
オトメは安定のご様子だったのでとりあえず頭頂部にチョップを入れておいた。
「共感……か。覚えておくぜ。その言葉」
トモヒロが決意を新たにした、ちょうどその時、工作室のガラス戸がコンコンとノックされ、俺達の視線はそちらを向く。
「はいは~い、仲がよろしいのは結構なことだけど、レディをあまり待たせるものじゃないわよ~」
と、待ちくたびれた様子のシノブ姐さんが工作室の戸を開けて入ってきた。
「……聞こえてました?」
「い~え、外には会話は漏れてなかったわ。でもなんとな~く言ってる内容はわかったわ。こう見えても、読唇術の心得もあるのよ」
忍術に続いて今度は読唇術ときた……本当になんでもありだなこの人は。
「よし、行くぞみんな。トモヒロ、ゴッドはその状態のまま出撃することになるけど……」
「構わねぇよ。壊れたパーツの分は気合で補ってみせるさ」
トモヒロのその真っ直ぐな瞳に、もはや迷いは感じられなかった。
「ふふっ……なかなか見上げた闘志だけれども、それだけでガンプラバトルを制することはできないわ。それをたっぷりと教えてあ・げ・る♪」
尚も余裕な態度を見せつけ、シノブ姐さんはバトルルームである二階へと向かう。俺達も、その後ろを無言でついていった。
………………
…………
……
「さて、改めて今回のバトルルールを説明するわ」
着替えを終え、各々のGポッドへと入った俺とトモヒロ、タクオ、そしてシノブ姐さん。外のモニター前ではレイナとカーディナルさんがバトルを見守っている。
「ルールは変則バトルロイヤルルールよ。私は一人、あなたたちは四人まとめてかかってきなさい。それと、あなた達のチームにはいくつか万全な状態ではない機体があるわね」
それはおそらく、代用パーツを使っているタクオのザクⅠや、損傷個所の修復を行っていないトモヒロのゴッドガンダムのことを指しているのだろう。
「だからもう一つハンデよ。私のガンプラには一つ特別な設定を加えさせてもらったわ。それは、敵の攻撃を一撃でも受ければ即撃墜されるという仕様にね」
言われるままに、コンソールを操作してシノブ姐さんの操るガンプラ……ガンダムアストレイシャドゥフレームカゲツキのステータスをモニター上に表示してみる。工作、塗装、可動範囲等、全てがトップクラスのゲージで示されているが、耐久性を現すゲージだけは異様に低い。おそらく、バルカンの弾一発でも当たれば撃墜できるほど脆く設定されているのだろう。
「要するに、俺たち四人のうち誰かが姐さんに一発でも当てればそれで撃墜ってわけですか?」
「随分と強気じゃねぇかよ姉貴。後悔すんなよ」
「あら、それはどっちの方かしらね」
俺達の言葉に対し、シノブ姐さんは逆に挑発的な返答をする。シノブ姐さんの実力……どれほどのものだろうか。アベ店長に話を聞くと、レイナが参加していたガンプラバトル大会において、バトルロイヤルルールで参加していたガンプラ全てを瞬殺し、勝利を手にしたと聞く。だが、あの大会は一回戦目終了時点でレイナと共に店の外へ出てしまったために終わりまで見ることができなかった。それ故にシノブ姐さんの戦い方は未知数……しかしかなりの強敵だということは確かだ。心してかからなければ。
「あともう一つ特別ルールがあるんだけど……まぁこれはバトルが始まった時に説明するわね。あそうそう、更に加えてもう一つ。今回のバトルステージは私が決めさせてもらうわ」
「それは構いませんけど……どのステージで?」
「それは見てのお楽しみ~♪」
そうこう言っているうちにモニターには戦艦内のモビルスーツカタパルトの様子が映し出される。こうなったらどこであろうと構わない。全力で戦うのみだ。
「よし……ザクファントムカスタム
「ゴッドガンダム! サラ・トモヒロ! 往くぞ!」
「ガンダムサバーニャ、フジヨシ・オトメ、行っきま~す!」
「ザクⅠリペア、アキバ・タクオ、ド・ダイで行くでござる!」
俺のザクファントムに続いてガンダムサバーニャ、ゴッドガンダム、ド・ダイに乗ったザクⅠが順次カタパルトから射出されていった。
空に出た途端、眩いばかりの日光が照らしだし、その眩しさに俺は思わず目を瞑る。日光が当たる……そしてずっしりと重い重力があることから昼間の地上のステージだということがわかる。
そして、目が慣れてくるにつれて瞼を開き、このステージの全景がスクリーンに映し出される。
「こ……これは!」
………………
…………
……
「わかっちゃいたけど、みんなのガンプラの評価低いわね」
「……」
カーディナル・アークことヤマナカ・ユリは目の前の観戦用モニターに映し出されるソウシ達のガンプラデータを見て唸る。そしてその傍らにいるレイナも、無言のままモニターを見つめる。
「フジヨシさんのサバーニャは交換パーツがダミーパーツだから工作精度が低い……アキバ君のザクは胸部だけ別のパーツ使ってるから色が違うし素材剛性と塗装精度が低い……サラ君のゴッドはそもそも論外……唯一マトモなのはキモト君のザクファントムだけね。それでも素人に毛が生えた程度だけど……」
顎に手を当てながら、カーディナルは各ガンプラのパーソナルデータが表示されるモニターを見て呟く。いくらハンデをつけた対戦とはいえ、今のソウシ達は有象無象の雑兵達といってもいいくらいに統一性もなく、ガンプラの出来も万全ではない。このような状態でバトルロイヤルの大会を制覇したシノブに一撃与えるなど、到底不可能だった。
「彼らだってそれはわかっているはずなのにどうして……」
「……彼らにも意地がある」
尚もレギーラを両手に抱きながら、レイナはモニターに視線を向けたまま呟いた。
「……彼らはマシンソウルとの絆を何事よりも第一に考えている……だからその絆をこのバトルで証明したい……」
「でも、これじゃどうやったって……」
「……そう……気合だけで勝てるほど、ガンプラバトルは甘くない……」
そうこうしているうちに全てのビルダーの出撃準備が整い、バトルが開始される。それに合わせて、観戦モニターにはバトルフィールドが表示された。・
「っ……!? シノブの奴……なんて悪趣味な……!」
………………
…………
……
「こ、これは……!」
目の前に映し出される光景……まずは、青い空が視界に入った。どこまでも続く澄んだ青い空。俺のザクファントムはそんな青空のもとを飛行していた。次に視線を眼下に向けた。おそらくは、ガンダム世界における地球を舞台にしたどこかのバトルステージなのだと思っていた。
しかし、それは違っていた。
なぜなら、今俺達の眼下に広がっているフィールドは……ガンダムのアニメよりもずっと親しみ深く、俺達にとって見覚えがありすぎる光景だったからだ。
「こ、これって……!」
「僕らの街ではござらんか!?」
オトメとタクオの言う通り、そこはまさしく俺達が住んでいる街、そのものだった。その証拠に見覚えのある建物がいくつもある。
まず、アベさんの模型店「ブルーコスモス」。今まさにガンプラバトルをするためにその店内にいるというのに、空の上からその建物を見下ろしているのは不思議な気分だった。よく幽体離脱をした人が、空中から自分の身体を見下ろしていたという体験をしたというのを聞いたことがあるが、こんな気分なのだろうか?
そして、その裏側には雑木林と湖と噴水公園がある。ファントムとザクが対決した場所だ。そしてその近辺には……
「……俺の家だ」
まさしく、塀の色から屋根の形までそっくりなキモト家があった。そしてそこから通学路を辿っていくとオトメのマンション、学校……他にも見覚えのある場所がちらほらと。
「こんなの……アリなのかよ!?」
思わずトモヒロが叫ぶ。トモヒロだけではない。俺達4人がその忠実すぎる再現度に不気味な感覚を抱きつつあった。それ故思わず一つの場所に固まってしまい、眼下の景色を見下ろし続けている俺達。だがその時、レーダーが新たに出現した熱源を捉えた。数は一つだが、熱源の識別色は……赤。敵機を示す色だ。
「どう? 驚いたかしら?」
学校のグラウンドの土が盛り上がったかと思うと、その中から腕組みをしたまま姿を現すガンダムアストレイシャドゥフレームカゲツキ。土煙に機体が覆われる中、緑色のツインアイが妖しげに光る。
だが先ほどレギーラと戦った時のような武装のフル装備状態ではない。ここから確認できるだけでも、武装は両腰に携えた忍者刀二本と背中に背負ったライフル、それと脹脛のくない三本のみという、かなりシンプルな装備だった。おそらく先ほどのようなフル装備状態はごく稀なもので、このアストレイはストライクガンダムのように戦況に応じて武装を交換したり、追加装備したりするバトルスタイルなのだろう。今の状態を見る限り、これが通常装備なのかもしれない。
「ガンプラバトルのバトルフィールドはね、ガンダム世界だけのステージばかりで戦うわけじゃないのよ。現実世界の、あらゆる場所を戦場に選択することもできるのよ」
「でもだからって……! なにも俺達の街で戦うこと……!」
「無駄口を叩いている余裕があるのかしら?」
姐さんのその言葉と共に、カゲツキが背部にマウントされているビームライフル……“
今の攻撃は誰かを明確に狙った攻撃ではない……おそらく、さっさとバトルを始めろという姐さんからの合図に違いない。
「さっきも言ったけど、もう一つ特別ルールを設けてあるわ」
そのルールを説明しながら姐さんは尚もライフルを撃ち続ける。これも俺達を明確に狙っているものではなく、むしろ俺達を仲間内からそれぞれ引き離そうとしている攻撃のように思える。現に放たれるビームに追い立てられ、俺のザクファントムは他のガンプラとの距離がどんどん離れていく。
「この街には各所に武器が隠されているの。それを探して装備し、戦いなさい」
「武器だって!? でもどこに……」
言われるままに俺はモニターに表示される街の景色をズームし、その武器とやらを探すがどこにも見当たらない。
「あなた達のガンプラは先程の戦闘で傷つき、マトモな攻撃力なんて持ち合わせちゃいないようだから、ハンデをあげようっていうの。ほら、例えばここに」
そう言って姐さんは急にライフルの照準を俺達にではなく、自分のすぐ横に建つ建造物……つまり俺達の学校にその銃口を向け、引き金を引く。
直後、閃光と共に大きな爆発音を立てて崩壊する校舎。爆炎に包まれながら、俺達の学び舎があっという間に……見るも無残な瓦礫の山と化した。
「なっ……! なんてことを!」
『だ、大丈夫ですよお嬢様! これはガンプラバトルの世界での出来事だから、現実ではありませんよ!』
「っ……! そうだけど……でも……!」
通信越しにオトメとサバーニャの悲痛な声が聞こえてくる。これがガンプラバトルの……ゲームの世界だというのはわかっている。それでも、なまじリアルなバーチャル世界であるせいか、俺達の母校が目の前でああも簡単に破壊されてしまうのは、正直いい気分はしなかった。
「ん? 校舎の中に何かあるでござるぞ」
『あれは……ガトリングガンではあるまいか?』
ザクの言う通り、崩落した長方形の校舎の中には何か長細く黒光りする物体が横向きに置かれていた。それは紛れもなくガトリングガンだった。形状的にはガンダム5号機が装備しているジャイアントガトリングガンに酷似している。しかもご丁寧に弾帯と弾倉付きだ。
「ほらこの通り。武器は街の至る所に隠してあるわ。大きな施設なほどこういう大型で強力な武器があるのよ」
「それって……俺達の街を壊しながら戦えってことかよ! 姉貴!」
『なんちゅう根性曲がりな……』
「なんとでも言いなさ~い♪ あ、ちなみに私は全ての武器の隠し場所を知っているけど、あえて装備はしないわ。それもハンデに付け加えておくわね。じゃあ改めて、バトル再開よ♪」
と、まるで俺達がこのルールを聞いて思い通りの反応をしてくれたことに満足しているかの如く、シノブ姐さんは実に楽し気な声色で一連のルール説明を締めくくる。
とは言われたものの、どうする……? ここがバーチャルな世界とはいえ、自分達の街を自分達の手で壊したいだなんて思う奴はいるはずもない。皆シノブ姐さんのカゲツキを凝視するだけで武器を探そうとはしなかった。しかし、シノブ姐さんのいう通り、俺達のガンプラは総じて先程のダメージが祟って火力不足だ。しかもシノブ姐さん自身もかなりの実力者……ハンデ付きの4vs1とはいえマトモに戦ったら勝ち目はない。
とりあえず、今のところ判明している武器……ガトリングガンを取りに地上に降り立ちたいと思っていた。だけど、それにはあのカゲツキのすぐ傍をすり抜けて武器を取りにいかねばならない。あのシノブ姐さんが、そんなことを易々と許すとは到底思えない。
「ほらほらどうしたの? 動かないなら……こっちから行くわよ!」
と、カゲツキが一瞬両脚部を曲げて地面を固く踏みしめたかと思うと、一瞬のうちに跳躍し、飛行モビルスーツと同じ高度まで上昇してきた。
「脚の跳躍だけでこんな高さまで……!」
『マスター、こちらに来ます! 迎撃を!』
「お、おう!」
ビームライフルのフォアグリップを左手で握り、精密射撃モードにし、迫るカゲツキに狙いを定める。バーニアにより飛行ならまだしも、ただの跳躍ならば急な方向転換はできない筈! 補足してしまえば避けることはできない筈だ!
「そこだ!」
モニターに表示される照準器がカゲツキを捉え、緑から赤へ変色する。ロックオン完了の表示だ。それを確認すると、俺はトリガーを引き、ビームを放つ。
空間を劈く音と共に放たれる高出力のビーム。ビームは確実にカゲツキに命中し、撃墜を確信した。
だが、カゲツキの姿が突然、霞のように揺らぎ、幻のように俺の目の前から消え去る。
「なっ……!? ミラージュコロイドを応用した……分身!?」
レーダーも確かに熱源を捉え、照準器も機能していた。それでも撃破できなかったということは……デスティニーガンダムも用いた、あの分身の応用だということがすぐにわかった。
そしてその直後、視線の先にあった住宅街が一つ、消し飛んだ。
「っ……!? しまった! 俺の攻撃で……!」
幻影となったカゲツキの姿を突き抜けて、その背後にあった住宅街に命中したのだろう。しかも収束させたビームの威力は通常よりも大きく、命中箇所からクレーター状にその威力が広がり、周辺の家々を業火が包み込む。
「あっ……ああ……!」
『マスター!』
「俺……なにをして……―!」
『マスター!! しっかりしてください!』
「っ!? ファントム……?」
一際大きなファントムの呼びかけで、俺はハッと我に返った。
『冷静になってくださいマスター。これはシノブが用意したただのガンプラバトル用のステージ……まやかしの世界です! 本物ではありません!』
「あっ……あぁ……そうだな。そうだった……」
眼下に広がる炎と破壊の痕を見下ろしながら、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
「そうだ……! シノブ姐さんは!?」
さっき攻撃したのがミラージュコロイドによる幻影だとするならば、本体は別のところにいるはずだ。
「きゃああああああっ!!」
通信越しに聞こえた叫び声。オトメの声だ。
「オトメ!?」
カメラをサバーニャがいる地点に向ける。そこには、2枚組み合わせた状態のホルスタービットでシノブ姐さんのカゲツキの斬撃を防ぐオトメのガンダムサバーニャの姿があった。
「まずい……! この中じゃ一番武装が少ないのはオトメのサバーニャだ!」
このガンプラバトルにおいてサバーニャはライフル無しのホルスタービットしか備えてはいない。つまりは、射撃用の武器が全く無いのだ。唯一あるとすれば、胸部に備わっているGNミサイルだけだが、近接戦特化型のカゲツキ相手では使いようが無い。
「待ってろ、今行くぞ! トモヒロにタクオ! お前たちも援護を頼む!」
「わ、わかってるけどよ! この距離じゃ……!」
先ほどの姐さんの射撃に追い立てられて、ゴッドはかなり遠くの空域にいた。近接格闘に特化したモビルファイターでは、攻撃範囲内に近づく前にサバーニャが墜とされてしまう。
「タクオ、この中で一番遠くから攻撃できるのはお前だけだ! 当たらなくてもいい、撃ってくれ!」
「わ、わかったでござる!」
タクオの応答の後、ザクⅠはド・ダイの上で片膝立ちの射撃姿勢をとり、ビームスナイパーライフルの銃身をカゲツキの方に向ける。そして放たれるビーム。当然当たりはしないが、それでも弾幕を張りサバーニャを守ることぐらいはできる。
「俺達もやるぞ!」
『はい!』
俺も同様にトリガーを引き、ビームライフルと左手のビームガトリングによる射撃を行う。短い間隔で放たれるライフルのビーム、そしてばら撒くようにカゲツキを牽制するガトリングのビームとが、ザクⅠから放たれるビームと十字に交じりあい、上手いことサバーニャをカゲツキの刃から守っている。
だが、カゲツキはその足元に立つ建造物や地面に降り立ってはジャンプし攻撃を避け、また着地しジャンプしては避け、また別の場所に降り立つ……といった具合に巧みに攻撃を避け続け、俺達を攪乱する。だが、確実にサバーニャから引き離すことに成功した。
「今だオトメ! ガトリングガンを取れ」
「僕たちが援護するでござるから!」
「う、うん! わかった!」
この中で一番丸腰に近いのはオトメのサバーニャだ。故に武器を取りに行かせるならサバーニャが一番適任だろうと判断した。サバーニャは周囲に展開していたシールドビットを全て左側のみに再装填し、地上に降り立つ。
「よいしょ……っと」
そしてガトリングを持ち上げ、弾帯から伸びる弾倉を、先ほどまでビットが装備されていた右側のフレキシブルアームを外し、テールスタビライザーから突起した3mmジョイント部に弾倉に開いている同じく3mmの穴とを結合させる。そうすることにより、左側には合計8枚のホルスタービットが接続され、右側には弾倉とジャイアントガトリングという、見た目的にはかなりアンバランスなフォルムとなったが、それでも総合的にはよくやく火力と防御力が均等になったというところだ。
「結構重たいね、これ」
『でも、火力の高さは折り紙付きですよ!』
「そっか。よ~し、頑張っちゃうよ! で、これどうやって使うの?」
『これはですねぇ……―』
と、オトメは初めて使う武器を前にして呑気にサバーニャから使い方を教わる。一方の俺達は尚もカゲツキを攻撃し続けていた。あわゆくばここでカゲツキを墜とせないかと躍起になり、避け続けるカゲツキの軌跡を追うように、俺もタクオもビームを放ち続ける。しかし、高速で動き回るカゲツキを捉えることはほぼ不可能であり、避けられたビームは建造物の上に降り注ぎ、次々に崩落していく。
「武器を取ったわね。なら本番はこれからよ!」
すると、突然カゲツキの動きが変わった。俺達の十字砲火に翻弄されている様子だったのだが、急に方向転換し、地上のサバーニャにへと迫る。もしや、俺達に翻弄されている“フリ”をしていたというのだろうか?
「くそっ……! オトメ! そっちへ行ったぞ!」
「えっ……!?」
サバーニャが空中に視線を向ける。そこには、鞘から引き抜いた忍者刀をギラリと煌かせ、重力を味方にし上空からサバーニャにへと迫るカゲツキの姿があった。
「こ……このおおおおおおおっ!!」
ガトリングを持ち上げると、引き金を引く。それと同時に銃身が回転し、軽快な音と共に放たれる数多の弾丸。それは確実に迫るカゲツキを捉えていた。しかし、放たれた弾丸はカゲツキの姿を通り越え、虚空へと消えていった。撃ち抜かれたカゲツキの姿も、煙のように消滅していく。
「えっ!? なにこれ!?」
『分身です! お嬢様、周りにも!』
周囲を見回すと、建造物の影から何かが姿を現す。それは、紛れもなくシャドーフレームカゲツキだった。しかしその影は一つだけではない。建造物から伸びる影から次々と姿を現し、合計十体以上ものカゲツキにサバーニャは囲まれていた。
「これって……全部分身なのかな?」
『わかりません……本体が紛れているのかもしれません』
「も~う! 全っ然わかんないから!」
そう言ってオトメはガトリングの銃身を影たちへと向ける。
「全部倒しちゃっていいよねっ!」
直後、火を噴くジャイアントガトリング。サバーニャの立つ学校のグラウンドには弾帯から出た薬莢がジャラジャラと音を立てて落下し、積み重なっていく。そして影の一つが撃ち抜かれる。
が、オトメはトリガーから指を離すことなく、横薙ぎにガトリングの銃身を振るう。そうすることにより、自身を取り囲むカゲツキの分身を根こそぎ撃滅するつもりらしい。
「こっちも使っちゃえ! ミサイル発射ぁっ!」
『ちょっ!? お嬢様ぁ!?』
流石にやりすぎではないかと思い、サバーニャは止めに入ろうとするが時すでに遅し、サバーニャの胸部と脚部のハッチが開き、そこからGNミサイルが全弾発射され、周囲のカゲツキの分身に向かって炸裂する。そして爆炎に包まれる街に尚もガトリングで発砲し続ける。確かに、その攻撃によってカゲツキの影は劇的に数を減らしていく。と同時に街にも甚大な被害が出ているが最早オトメは気にしていない様子だ。
「オトメ殿、やりすぎでは……?」
「あいつ……ちょっとは躊躇えよ」
「二人とも、見ている場合じゃないぞ!」
いつの間にか俺達の元に合流したゴッドとトモヒロ。見ると、地上の分身達がジャンプし俺達の方へと向かってくる。迫る分身に対し、俺達も攻撃を開始する。俺はビームライフル、タクオはド・ダイのミサイル、トモヒロはゴッドスラッシュと鉄拳でだ。
そして取り囲んでいた分身をあらかた殲滅し終えると、サバーニャはガトリングの銃身を静かに下げる。下げた銃口からは一筋の細い煙が立っていた。
「ふぅ……ふぅ……」
『お……お嬢様?』
息を荒げ、完全に目が据わっている様子のオトメが心配になり、サバーニャが声をかける。
「これ……しゅごい」
『え?』
「快っっっ……感んんん♪」
『えぇっ……』
思わずサバーニャは困惑の声をあげた。オトメの表情をよく見てみると、頬は紅潮し、口元が緩み、その口からは時折艶めかしい吐息が漏れていた。どうやらこのガトリングガンで敵を殲滅するのがよほど爽快だったらしく、その感覚に酔いしれてしまったようだ。
『オトメの様子、なんだか危ないですね』
「ま、まぁガトリングの爽快感はわからないわけじゃないけどな……」
と、俺もザクファントムの左腕に装備されているビームガトリングに視線を向ける。
「しかし、今倒した分身の中に本体はいなかったみてぇだな」
トモヒロの言う通り、かなりの数が出てきたにも関わらず、それらは全て分身体だった。カゲツキ本体の姿は影も形もなかった。
「一体どこに……」
サバーニャの立つ学校の周辺を旋回しながら俺は周囲を警戒する。空にはいないとなると、おそらく街のどこかに隠れているはずだ。そう推理し、俺の視線は街の方へと向いていた。
だが、襲撃は思わぬところから来た。
サバーニャのすぐ傍、カゲツキが初めてこのバトルに姿を現した際に出現した場所……そう、グラウンドに空いた穴の中から出てきたのだ。
「なにっ!?」
「そんなところから……!」
驚く俺達を余所に、シノブ姐さんが不敵に笑う。
「フフフ……これぞ月影忍法“土遁潜窟の術”! あなた達が影を相手にしている間に潜り込ませてもらったわよ!」
地面から出てきたカゲツキが忍者刀を抜き取るとサバーニャに迫る。
「オトメ殿! 逃げるでござる!」
「う、うん!」
短く返事をし、オトメは地面を蹴って空を飛び、カゲツキから逃げようとする。だが、シノブ姐さんはそれを許さない。忍者刀を構えながらジャンプすると、それでサバーニャを斬り付けてくる。オトメも応戦しようとガトリングの銃身をカゲツキに向ける。が、攻撃は向こうの方が早かった。忍者刀の斬撃によりガトリングガンの銃身が斬り落とされる。
「そ、そんな……!」
『ぐっ……! ホルスタービット、展開!』
左側に集中的に連結されていたホルスタービットが解かれ、2枚1組のホルスタービットがサバーニャの周囲に展開される。ライフルビットが収納されていないダミーパーツではあるが、2枚に結合している分防御力は高く、カゲツキの忍者刀をそう簡単には寄せ付けない。
だが、それでも攻撃する武器が無いサバーニャにはなす術がなく、ホルスタービットで必死に身を守るのが精いっぱいだ。
「ん……? ビルの中に何かが……」
オトメの援護に向かおうとしたその時、先程オトメの放った流れ弾によって倒壊したビルの中に、太陽の光によってキラリと反射したものが見えた。その地点にカメラを向けると、案の定隠された武器があった。
「ビームライフルだ! オトメ! あれを取りに行け!」
「う、うん!」
そこにあったのはガンダム試作1号機が装備するタイプのビームライフルだった。俺はオトメにそのライフルを取るように促す。
カゲツキをホルスタービットで抑え込み、サバーニャがビームライフルを取りに地上に向かう。
「ふん……甘いわよっ!!」
姐さんの声と共に、カゲツキがホルスタービットを踏み越えて跳躍する。
『ビットを踏み台にしたぁ!?』
自身を追い越して地面に向かって跳ぶカゲツキに対して、サバーニャが叫んだ。そしてカゲツキがサバーニャよりも先にビームライフルの置かれている地点に着地すると、そこからもう一度サバーニャに向かって跳躍する。
「えっ……!?」
面食らった様子で呆けた声を出すオトメ。そして次の瞬間、激しい衝撃と共に揺さぶられるオトメのGポッド。カゲツキが強烈な右回し蹴りをサバーニャに食らわせたのだった。
「きゃあああっ!!」
「オトメ!?」
叫び声をあげながら彼方に向かって落ちていくサバーニャ。その落下地点にあるのは……。
「マズいぞ……あの場所は!」
『ガスコンビナート……!?』
街の少し外れ、河川敷の下流あたりには大きな球状のガスタンクがいくつも並んでいるコンビナート施設がある。よりにもよって、カゲツキによって蹴り飛ばされたサバーニャはその地点に落下した。
刹那、巻き起こる爆炎、粉塵、破片、黒煙……そして空中に居てもビリビリとした衝撃波がコクピットを揺らす。一つのガスタンクの爆発が別のタンクに引火。爆発が爆発を呼び、あっという間にコンビナートを中心とした半径約1kmの地点は炎に包まれた。視界も辺り一面が炎と煙に覆われ、衝撃波によってレーダーも一時的に機能が停止する。
「くっ……サバーニャは!?」
『マスター、カゲツキの姿もありません!』
時折降り落ちてくるガスタンクの破片をシールドで払いのけながら、俺は必死に周囲を見渡す。だが、どこを見渡しても見えるのは地獄の如く燃え広がる炎、炎、炎……。もはや、タクオのザクⅠも、トモヒロのゴッドの姿すらも見えない。
見えるのは燃えていく俺達の街だけ……。圧倒的……ひたすらに圧倒的なパワーが飲み込んでいく……街だけではない……俺の精神力が……そんな錯覚にさえ陥った。そう……サラ・シノブとカゲツキというパワーに……。
―続く―
今回はトモヒロのお姉さん、サラ・シノブさんの紹介も兼ねて彼女の持ちうるガンプラバトルスキルのお披露目の回となりました。
はっきし言ってこの人、作中ではトップクラスの強さにするつもりです(強くなりすぎて主人公たちを食っちゃう存在感にならないよう気を付けないと……)
サラ家の過去と、マシンソウルの使役についても語られましたが、まだまだ謎を秘めている女性という位置づけにしています。
次回はガンプラバトルの後半戦。果たしてどのような結末になるのか……?