用意された武器を取り、果敢にもシノブのアストレイシャドゥフレームに立ち向かうもオトメのサバーニャはガス爆発により撃破されてしまう。
その爆発で散り散りになってしまったソウシ達。
一流のガンプラマイスター相手に3人はどう挑むのか……?
『マスター、レーダーが回復します』
ファントムの言葉に、消えかかった俺の意識が再び戦場へと目を向けさせる。息を荒げ、心臓が高鳴り、ひんやりとした感覚が俺の背筋と二の腕あたりを撫でた後、じめっとした嫌な汗がパイロットスーツを濡らす。それでも俺は必死に目の前のバトルに集中する。まずはレーダー……皆の位置を確認しなければ。
「サバーニャの反応は……?」
『……消滅しました』
「そうか……」
案の定、オトメのサバーニャはコンビナートの爆発に巻き込まれ、ゲームオーバーになってしまったらしい。衝撃波によりセンサー類が一時的にフリーズしてしまったために、撃墜告知が少し遅れて表示された。となると、残るは俺、タクオ、トモヒロの3人だ。
「ここから一番近い位置にいるのは?」
『タクオのザクⅠです。ド・ダイを捨て、地上を歩んでいます』
大方、爆発の衝撃によりド・ダイから振り落とされてしまったのだろう。タクオの位置はここからほぼ真下の位置にいるらしい。
「なら、俺達も地上に降りよう。周囲を警戒するには複数機いた方が得策だ」
『了解』
俺はスクランダーウィザードのバーニアノズルとウィングを下方向に向け、着陸態勢をとる。センサーが回復しても、依然カゲツキの姿がどこにいるのかがわからない。レーダーの範囲外にいるのだろうか? それともミラージュコロイドを使い、どこかに潜伏しているのだろうか……?
―――――第23話:「Who will know」―――――
地上に降り立ったザクファントムは、焼爛れた地面を歩み、ザクⅠの姿を探す。周囲の遮蔽物が全て破壊されてしまっているため、ザクⅠの姿を探すのはそれほど苦労しなかった。
「タクオ!」
「うわっ!? な、なんだソウシ殿でござるか……びっくりさせないでほしいでござるよ……」
背後からザクⅠに迫り、声をかけた俺に対し、ザクⅠはモノアイをこちらに向けて一瞬手に握ったビームライフルの銃口をこちらに向けようとしたが、すぐにおろした。
「そのビームライフルは……」
「あ、これ? さっきの爆発でド・ダイから落ちた時、スナイパーライフルも紛失してしまったのでござるよ。で、偶然目の前にこれが落ちていたから拾ったのでござる」
と、タクオはザクの手に持っているGP01型のビームライフルを振り上げ、俺に見せる。
「オトメが取り損ねたやつか。でも使えるのか? ザクはジェネレーター出力の関係上、ビーム兵器を持てない筈じゃ……」
「チッチッチッ、それはどうでござるかな? ザクはザクでも僕のザクはただのザクとは違うでござるぞ! ザクとは!」
口を鳴らして指摘するが、たくさんザクザク言うものだから少し「ザク」という言葉がゲシュタルト崩壊してきた。
「僕のザクはスナイパータイプの高出力ジェネレーターのバックパックを背負っているでござるからな、そこから伸びてるエネルギー供給チューブをこうして繋げれば」
よく見ると、確かにビームライフルにはバックパックへと延びるチューブが接続されている。このバックパックを装備している“ザクⅠスナイパータイプ”は、長距離射程のビームスナイパーライフルを装備しているため、この大型のバックパックからジェネレーター出力をライフルへと回しているという設定だ。ということは、そのチューブを繋ぎさえすれば、ザクであってもビーム兵器を使えるという魂胆らしい。
「なるほど……そういう武器選択の仕方もあるのか」
タクオの発想力に俺は思わず脱帽してしまう。俺は心のどこかで、宇宙世紀のザクはモビルスーツとしては初期の機体であるため、(ザクⅠスナイパータイプなどの一部を除いて)ビーム兵器は装備できない……いや、“ザク”というブランドを守るためにすべきではないと思い込んでいた。設定という名の“枷”に捉われて、自由に考えることを放棄していたのだ。
しかし……そうか、臨機応変な装備パターン、それこそがタクオとザクⅠとの相性の良さを物語っているようにも感じた。
『もしやあのシノブという女、ワシらにそういう発想力を持たせるためにこんなバトル方式を取らせたのではないだろうか?』
ザクがそんなことを言い出した。
「まさか、あの人は思い立ったらすぐ行動を起こすタイプの人間なんだ。このガンプラバトルを吹っかけてきたのだって、どうせ気まぐれさ」
そう、俺はこのグループの中ではトモヒロに次いでシノブ姐さんのことをよ知っているつもりだ。中学生の頃、傍若無人なあの人の我儘によく付き合わされていたからな、今回だって……―。
『っ……! お兄ちゃん! ソウシ! 伏せるんじゃ!』
「えっ……!?」
突然響き渡るザクの言葉に俺は頭の中で考えが出るよりも先に、ペダルとグリップレバーを動かし、反射的に機体をその場に伏せさせた。だが、タクオはその反応が少し遅れた。戸惑いの言葉を出した後に機体をそらした。
刹那、響き渡る斬撃音。煌く白銀の刃が俺の頭上を通過し、背後にあったガスタンクの残骸を真っ二つにする。
「なななななんっ……!? なんでござるか今のは!?」
と、今更姿勢を低くしてタクオが激しくどもりながら問いかけてくる。
「あら、よくかわしたわね。フフッ……」
シノブ姐さんの声が戦場に木霊した。声がしたのは前方からだ。その方向にカメラを向けるも……誰もいない。しかしよく見据えてみると、足跡が一筋、焼け焦げた地面を踏みしめながらこちらに近付いてくる。そして、ミラージュコロイドを解除し、カゲツキの姿が足元から徐々に実体が明らかになってくる。上半身まで姿が露わになると、その両手には電磁を帯びた刀を持っていることがわかった。
「……今の、もしかして真空刃ってやつですか?」
すぐに攻撃に移れるよう、俺はビームライフルの銃口をピッタリとカゲツキの方に向けながら姐さんに聞いた。真空刃……漫画やアニメでよく見る、その名の通り剣の斬撃により真空の空間を作り出し、それを鎌鼬として敵に向けて放つ技だ。だがそんなことが現実でできるわけなどない。しかし、ここはガンプラバトルの世界。ビルダーの想像力によって攻撃が具現化する世界だ。ましてや相手がシノブ姐さんならば最早人間離れした技の一つや二つ見せられたところでもう驚きもしない。
「ん~、残念ながら違うわね。これは電磁抜刀術の一つよ」
「電磁抜刀……?」
「そう、
レールガンは磁場の相互作用によって弾体を高速で撃ち出すという、サイエンスフィクョンにおいて最もポピュラーとされる兵器の一つだ。当然ガンダム作品においてもそれらの類は幾度となく登場しており、代表的なのが“機動戦士ガンダムSEED”に登場する「フリーダムガンダム」の腰に装備されているクスィフィアスレール砲や、“機動戦士ガンダムOO”でもフラッグやイナクト系の機体がリニアライフルを装備していたりする。
「電磁抜刀はそれを応用した剣術でね、電磁場の相互作用を利用して刀を鞘から高速で抜刀しているのよ」
俺達に対しそう説明しながら、シノブ姐さんは2本の刀を両腰の鞘に納めた。が、手は刀の柄を掴んだままの姿勢でいる。
「そ、そんなことが可能なのでござるか!?」
「えぇ、こんな風にねっ!」
姐さんの言葉が全て終わらない内に、周囲に電気が走った。ピリピリと地面を伝い、機体を通してアームレバーにも振動が伝わった。そして次の瞬間、一筋の閃光が煌いた。
「電磁抜刀……“
稲妻の如く鋭い閃光が、俺を襲う。それは単なる電気による発光ではなく、刃の煌きと超電磁の反発作用とが合わさり生まれた光だという事がわかった。と思った矢先、やや斜め向きな三日月状の光の刃となってこちらに迫ってくる。まさに電光石火の如く、それらは回避が遅れた俺達の機体を切り裂こうと襲い掛かる。
『マスター!』
「くっ……!」
兆速ともいえるスピードに思わず回避が遅れる。頭で判断するよりも体が先に動き、俺はレバーを左方向に倒していた。機体の姿勢を崩してもかまわない、とにかくあの斬撃から逃れなければ……! と、必死だった。
直後、堅く握るグリップと、姿勢を固定するシートに鋭い衝撃が走る。そして自分のすぐ耳元で「ヴンッ」という何かが光速で通り過ぎていく音が聞こえたのだ。例えるなら、高速で飛び回る蜂の羽音のようにも聞こえた。だが、それが実は先ほど放たれた電磁抜刀の斬撃だということはすぐにわかった。
なぜならば、左方向へ回避する際、右手で構えていたビームライフルを離してしまったため、それが先ほど放たれた斬撃によって銃口から銃底にかけて、綺麗に真っ二つに裂けて地面に落下していたからだ。その切断面からは火花が散り、そして一瞬の間を置いて爆散した。
『い、今のが電磁抜刀とな……!?』
「ソウシ殿、無事でござるか!?」
「あぁ……なんとかな」
『完全に避けきることができないとは……恐ろしい速さです』
おかげでこちらは武器を一つ失ってしまった。だが不思議に思う。シャドゥフレームカゲツキには二本の忍者刀が備えられている。その気になれば、二本同時に抜刀し、俺とタクオの二人を狙えたはずだ。事実、最初にあの抜刀術でこちらに攻撃された際、斬撃は二つ来ていた。
「姐さん……あんたまさか手加減してません?」
「当然じゃない。私がその気になったら、あなた達程度もうとっくにお陀仏している頃よ。あ、ちなみにマシンソウルの力も借りてないからね。バトルが始まった時点でカゲツキはずっとおねんねタイムよ」
そう言われて俺はヘルメットの通信機に耳を立てて聞いてみる。すると、確かに何者かが「Zzz……」と寝息を立てたり、「むにゃむにゃ……」と言葉にならない寝言を言ってるようにも聞こえる。カゲツキの奴、本当に今このバトルの真っ最中に寝ているっていうのか……!?
「ここんところあなた達の見張りを任せてたからね~、こんな時くらい休ませてあげないと。ほら、忍たる者寝場所は選ばずっていうし」
と、おそらく今思いついたであろう全く聞き覚えのないことわざを得意げに話す。
「……姐さん、もしかして俺達のこと舐めてます?」
「もしかしなくても舐めてるんだけど♪」
と、シノブ姐さんは実に気分良さげに満面の笑みで答える。元が美人だけに、何も知らない男性がこの笑顔を向けられたらすぐに恋に落ちてしまいそうなほどではあるが、生憎俺達にとってはこれほどまで邪悪な表情に見えたことはなかった。
「アンタって人はぁ……!」
『あまりいい気に……!』
「なるんじゃないでござるぞ!!」
激怒しそうな思いで咆哮するが、俺よりも先に飛び出したのはタクオの方だった。タクオはGP01型ビームライフルを撃ちまくりながらカゲツキに接近していく。
「ま、待てタクオ……! お前一人じゃ!」
「僕は一人じゃないでござる!!」
『ワシらはいつでも真剣勝負をしてきた! じゃが、その戦いを愚弄するという彼女の姿勢、捨て置くわけにはいかぬ!』
タクオとザクの怒る理由も最もだといえる。俺は昔からシノブ姐さんがああいう人だということはわかっているため、怒りも一瞬だけで覚めたが、ほぼ初対面のこの二人はそうはいかないらしい。いつもの穏やかな様子とは一変し、
だがカゲツキはその場から一歩も動くことなく、先程の電磁抜刀で抜き身にしたままの刀を目の前に構えると、その刀身でビームを弾いていく。どうやらあの忍者刀はビームコーティングも施されているらしい。
『ビームが……!』
「くぅっ……ならこれでござるっ!」
カゲツキに突撃しながら、ザクⅠが左手にヒートホークを装備する。それを大きく振りかぶると、カゲツキめがけて振り下ろす。が、先程ビームを弾いていた刀でそのままヒートホークを受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
「この距離ならば!」
『かわせまい!』
右手に持ったままのビームライフルをカゲツキの腹部あたりにピッタリと当てる。ここで引き金を引けば、当然タクオ達の勝ちだ。
……だが、タクオはいつまで経っても引き金を引こうとはしない。ザクはカゲツキと組み合ったまま、そのまま静止してしまった。
「勢いは良かったわ。けど、冷静さを欠いたのはいけないわね。坊や」
「なっ……!? う、動かないでござる!?」
少しに間をおいて、姐さんの声が聞こえた。見ると、カゲツキはもう刀をヒートホークから離しているのに、ザクは尚もヒートホークを振りかぶり、銃口を向けたままの姿で止まってしまっている。
「ザクきゅん!? どうしたでござる!? なぜ動かないのでござる!?」
『わ、ワシにもわからないのじゃ……! システムエラーではないし……』
突然のことに取り乱す二人。そんな二人を眼前にし、姐さんはため息を一つついた。
「あなた達が、さっきカゲツキがレギーラに放った技をちゃんと覚えていれば、この術に対処できた筈よ」
まさかと思い、俺は静止したザクから伸びる影に焦点を当ててみる。燃え盛る炎によって揺らめく影……その影には、三本のくないが突き刺さっていた。
「あれは……影縫いの術!?」
『レギーラの動きを止めた時と同じ……!』
いつの間にかシノブ姐さんはあのくないをザクの影に突き刺し、暗示をかけて動きを止めてしまっていたらしい。先程の暴れまわるレギーラは例外としても、この術を受けたガンプラは最早指一本も動かすことができないらしい。
「一つ、いいことを教えてあげる。ガンプラバトルには生態系っていうものがあるのよ。科学の授業で習ったでしょ? 食物連鎖ってやつ」
カゲツキは刀を再び鞘に納めると、今度はザクの持っているビームライフルの銃身を掴むと、ザクの手から引き離し、自身に装備させるとその銃口をザクに向け引き金に指をかける。
「はっきりとさせておかないとねぇ」
「うっ……ううっ……!」
冷たい声色と共にザクの胸部にビームライフルの銃口が押し当てられ、タクオの絞り出すような呻き声が聞こえる。
「
直後、閃光と共に放たれるビーム。そのビームは確実にザクのコクピットを捉え、バックパックまで貫通した。その直後にライフルを捨て、跳躍するカゲツキ。そのまま無防備な俺の方にも攻撃できたはずなのに、それをせずにまるで逃げるように去っていった……。一瞬その意味を考え、そしてハッと気が付き、すぐにファントムに指示を送りつつ自分もコンソールを操作する。
「ヤバい……! バーニア点火! 急上昇!」
『は、はいっ!』
スクランダーウィザードが起動し、空中に飛び立つ。直後、火花を散らしていたザクの残骸が閃光に包まる。
『あれはなんの光……―っ!』
状況が理解できないファントムの言葉がかき消されるかのように、突如大きな爆発音と熱波、閃光が俺達を覆う。間違いない、ザクの核ジェネレーターの損傷による核爆発だ。
それは先ほどのガス爆発の比ではなく、被害を免れた地域にまで爆発は広がり、加えて爆風と衝撃波が町中の建築物を薙ぎ払っていく。
「シノブ姐さんめ……! ザクの核融合炉を意図的に撃ち抜きやがった……!」
『衝撃波が来ます、備えてください!』
言われるがまま俺はレバーを固く握り、空中でザクファントムに防御態勢をとらせる。バーニアの姿勢制御はファントムに任せた。その数秒後、上空にまで到達する衝撃波。機体は揺さぶられ、レーダーは一時的に機能不全に陥り、ガタガタとレバーとコクピット内が激しく揺れる。
やがて、揺れが落ち着くと、俺はモニターに視界を向ける。少し煙が晴れ、街の様子が露わになる。瓦礫の山と化した街……そして目の前には大きく立ち上るキノコ状の雲……それにより太陽の光は遮られ、辺り一面が薄暗くなる。更に、上空に広がった粉塵から何かが降り始める。
「雪……?」
一見するとそれはとても幻想的な光景で、深々と降り積もる雪のようにも見えた。ザクファントムの手を広げ、その雪が掌に降り積もる。それをじっと見つめた後、俺は言葉を詰まらせる。これは雪などではない。核爆発によって舞い上がった粉塵と放射性物質が大量に入り混じった……俗にいう“死の灰”だった。眼下に広がる炎と黒煙に呑まれた廃墟に、死の灰が降り積もっていく。
『これが核の脅威……なんという恐ろしい光景なのでしょう……』
初めてその脅威を間近で感じてしまった衝撃に、思わずファントムの声が震える。
「もしも……」
『マスター……?』
「もしもこれが……ガンプラバトルの世界じゃなく……現実に起きたことだとするなら……」
手が震え、アームレバーから手が離れる。それと同時にザクファントムの広げた手が垂れ、掌に積もった灰が下に落ちる。
「一体何人が……死ん……―」
『マスター! 先程も申し上げました!』
俺の言葉を遮り、少々荒い口調のファントムの言葉がヘルメットいっぱいに反響する。
『これはこれ! 現実は現実です! シノブはこの核爆発をわざと引き起こし、私たちに精神的な揺さぶりをかけているのです! ですが、否定し続けて下さい! 自分を見失わないで下さいっ!!』
ほとんど絶叫に近いほどの声量で、ファントムは俺を叱咤する。僅かながら、その声色は震えているようにも聞こえる。怒りからだろうか? 哀しみからだろうか?
……いや、これはきっと無理をしてでも正常な状態であり続けようとしているような……自分自身にも言い聞かせているような……そんな感じだ。
本当は誰よりも、ファントム自身が叫びたいほどに感情を揺さぶられているのに……。
そうかファントム……お前も俺と同じ気持ちなんだな。
「あら、あんたたち相手にそんなことする必要があると思って?」
ノイズ交じりの通信が聞こえてきた。発信源は地上から……見ると、核爆発の衝撃波によって瓦礫の山と化した街中に腕を組んで佇む人影が見えた。間違いなく、シャドゥフレームカゲツキだ。先程まであの爆発を引き起こした位置……つまり爆心地にいたにも関わらず、当然の如く爆発からは逃げおおせたようで、その身に傷は一つもついてはおらず、尚も余裕な素振りで空にいる俺達を見上げる。
「姐さん! 俺にはバトルが始まってからずっと、あなたが意図的にこの街を過剰なまでに破壊しているようにも見える! そんなことに一体なんの意味があるっていうんですか!?」
「意味? 意味ならあるわよ。目を見開いて周りをよく見てごらんなさい」
言われるがままに、俺達は業火に燃え盛り、死の灰にまみれ、かつての面影は見る影もなくなってしまった俺達の街を見下ろしながら降下し、カゲツキの前に対峙する。
「どう? これがマシンソウルの力よ。この街だってあっという間に焦土に変えられるのよ。それだけの大きな力の根源をあなたたちは持っている……」
「な、なに言ってんだ! これはほとんどあんたの攻撃でこうなったんじゃないか!」
「えぇそうよ。でも、これがガンプラバトルの世界だからって、現実にだって起こり得ないという保証はないわけでしょ?」
「確かに今あなた達はマシンソウル……ガンプラ達との共存によって一時の平和を得ているわ。でも仮にその力が暴走した時、もしくは私利私欲のためにその力を行使しようという衝動にかられるかもしれない。その可能性が全く無いとは言い切れないでしょ?」
「……」
「……耳が痛い言葉でござるな」
Gポッドの外では、ずっと戦闘を見守っていたレイナと、撃墜され先にポッドの中から出てモニターで観戦をしていたタクオが、通信を介して聞こえたシノブの言葉を聞き、思わず視線を落とす。
「だからって……! 一方的に彼女らを兵器と決めつけるのはあんたの傲慢だ!」
「なら、徹底的にわからせる必要があるようね」
次の瞬間、カゲツキの姿が消えた。おそらくはミラージュコロイドを使用し、姿を消したのだろう。地面に積もった灰には、カゲツキの踏んでいた二つの足跡だけが残されていた。しかしそこから足跡が伸びている様子は無い。ということは……。
「っ……!?」
咄嗟の判断で俺は斬機刀を鞘から引き抜く。と同時に響き渡る金属音と、右アームレバーに襲い掛かる重さと衝撃。やはり思った通りだ。ミラージュコロイドを使用し、地面を跳躍したカゲツキがすれ違い様に忍者刀を抜刀し、俺を切り捨てようとしたのだ。
「あら、まぐれにしてもよく見切ったわね。でもこれはどう?」
姿は見えず、姐さんの声だけが不気味に響き渡る。次の瞬間、背後から聞こえたビーム音。振り向くと、緑色のビームが地上からこちらに向けて放たれる。
「その程度っ!」
振り向きざまに両肩の耐ビームコーティングシールドを正面に向け、ビームを弾き飛ばす。そしてすかさずブースターに備わっているファイアビー誘導ミサイルのハッチを開き、ミサイルをビームが放たれた地点に向かって放つ。
「くらえぇぇぇっ!!」
放たれたミサイルが尾を引いて地上へと向かい、そして炸裂する。煙が晴れると、大きく抉れた地面が露わになる。やったのか……?
「遅いのよねぇ」
「っ!?」
まるで自分のすぐ耳元で囁かれるかのように、艶っぽい姐さんの声が聞こえ、俺はゾクリと背筋を凍らせた。ザクファントムのモノアイを左横に向けると、ミラージュコロイドを解除したカゲツキが機体のすぐ傍らを通過していく最中だった。
だが、通過すると思ったのは俺の憶測。カゲツキは両手に忍者刀を装備し、両腕をクロスする。
「唸れ疾風! 轟け雷光! シュツルム! ウント! ドランクゥゥゥゥゥッ!!」
直後、猛烈な旋風と雷撃を周囲にまき散らしながら高速回転しだすカゲツキ。それは大きな竜巻となり、俺のザクファントムを飲み込む。
「な、なにっ!? その技は……! うわあああああああああっ!!」
コクピットが揺さぶられ、目の前の景色全てが回転しだす。と同時に、鎌鼬のような刃の猛攻と嵐のような電撃がザクファントムに襲い掛かる。“シュツルムウントドランク”……機動武闘伝Gガンダムに登場する
ガンダムシュピーゲルはゲルマン忍者であるシュバルツ・ブルーダーの乗機であるため、このアストレイシャドゥフレームカゲツキと同様“忍術”を武器として戦う機体だ。なので同じ技を繰り出すのは不可能ではないとは思うのだが、まさかSEED系の機体であるはずのアストレイがGガンダムの機体の技を繰り出すとは思いもしなかったため、俺は完全に対応が遅れ、その直に攻撃を受けることとなった。
それらによって翼はもがれ、全身切りつけられ、あらゆる計器がショート寸前になる。なんとかこの竜巻から逃げ出さないとバラバラにされてしまう……! しかしどうすれば……? 激しく揺さぶられるコックピットと、けたたましく鳴る警報と、先程の核爆発を見たことによる俺の精神的ショック……それら全てが俺の思考を妨げ、考えが纏まらない……!
『……っ!? マスター! スクランダーウィザードをパージします!』
「な、なに……?」
『パージ!』
俺の疑問符もファントムの聞き耳には入らず、ガチャンと背後で大きな音がする。ウィザードの接続が外れた音だ。その直後、背後で大きな爆発が起こった。スクランダーウィザードが爆発した音だというのはすぐにわかった。その衝撃により、ザクファントムは竜巻を抜けることができ、外に放り出される。
「ぎ、逆噴射を……!」
放り出された直後、アームレバーを操作し、機体の背部と脚部に備わっているバーニアを噴射し、姿勢を整えると、灰が積もった地面に見事足から着地する。と思ったが、灰で滑ってザクファントムが尻もちをついてしまったため、お世辞にも恰好の良い着地とはいかなかった。その衝撃でGポッド内が激しく揺さぶられるが、それでも撃墜だけは免れることができた。
「はぁ……はぁ……」
『マスター、ご無事ですか?』
「あぁ、衝撃で身体がベルトで締まってちょっと痛いけど……。それよりもファントム、お前ウィザードの不調を察知してパージしたのか?」
『はい。あの状況ではウィザードの爆発によって機体が大破する恐れがありました。ですが……マスターの判断を仰がずに勝手な行動をしてしまいました。申し訳ありません……』
「な、なに言ってるんだよ! むしろお礼を言いたいくらいだ! あの状況、俺は咄嗟の判断でそこまでの行動を起こすことができなかった。それをお前はちゃんとフォローしてくれた。ファントム、ありがとう」
『い、いえ! 私はそんな……』
顔は見えないが、今のファントムは少し照れているようにも思える。おそらく、口元は緩み、顔は赤くなっていることだろう。
「……おかしいわね、とっくに墜ちててもいい頃なのに」
スタッ、と俺の正面に着地するカゲツキ。想定外のことが起き、さすがの姐さんもちょっと動揺しているらしい。
「確かに今の攻撃、俺だけだったらあのまま撃破されていたことでしょう。でも、ファントムが俺を助けてくれた。それはやはり、マシンソウルと
「まだそんなことを……!」
「じゃあ姐さん! 今のあなたの心には、マシンソウルを信じる気持ちが宿っていますか!?」
「……」
姐さんは無言のまま、何も答えない。
「俺はマシンソウルを信じる……ファントムを信じる!」
「……偉くなったものねぇ、あんた程度がこの私に説教するなんて」
その言葉と共に、カゲツキの右手が鞘に収まった左脹脛の忍者刀へと伸びる。
「この私に勝てると、本気で思ってるのかしら?」
「っ……!」
空気が変わった。それは、カゲツキから発せられる殺気が凄みを増したからだ。先程まで姐さんはほとんど遊びのような感覚で戦っていた。しかし、一連の俺の返答が神経を逆撫でしたのか、とうとう本気を出させてしまったようだ。
「一煌きの斬閃で終わりにしてあげるわ」
先ほどのおちゃらけた口調とは全く違う。ずっしりとした重さを持った、威圧する口調だった。カゲツキの伸ばした手が、左の忍者刀の柄を掴んだ。
「さぁ、敗北の記憶をその身に刻み付けなさい」
「うるせぇっ!!!!」
その時、何者かの怒号と共に、カゲツキの背後からトリコロールカラーの機体がカメラアイをギラつかせて飛び出してきた。
「それはてめぇのやるこったああああああああああああっ!!!!」
雄叫びをあげながら飛び込んできたのは、トモヒロとゴッドガンダムだった。トモヒロは、ゴッドガンダムの両手に握らせた大剣を大きく振りかぶり、カゲツキのいる場所へと振り下ろす。
瞬間、轟音と共に地面に積もった灰が巻き上げられ、ゴッドガンダムの降りた地点がそれらに覆われ見えなくなる。徐々に舞い上がった灰が晴れていくなか、最初に認識できたのはゴッドの両手に握られた大剣から発振されるレーザー刃と、怒れる修羅の如く眼光を燃やす、ゴッドガンダムのツインアイだった。
「ふぅ……あぶないあぶない」
「チッ……!」
空中で3回転しながら俺のザクファントムを飛び越え、ザクファントムの背後に着地するカゲツキ。どうやらゴッドが大剣を振り下ろす直前で跳び上がり、攻撃を回避したようだ。トモヒロはそれを見て、口惜し気に舌打ちをする。
「と、トモヒロ! お前無事だったのか!?」
『てっきり爆発に巻き込まれたものかと……』
「あぁ! あのガス爆発のあと遠くに吹き飛ばされちまってな。お前らを見失っちまったが、そのおかげであの核爆発に巻き込まれなくって済んだってわけだ」
『けど、今度はその核爆発の衝撃で機体がフリーズして動かなくなっちゃってな、遅くなっちまったぜ。待たせたな! 二人とも!』
あの惨状を見たであろうにも関わらず、トモヒロとゴッドはいつもの元気な調子で俺達に答える。それだけで、先程まで弱気になっていた俺達の気持ちが励まされる。
「トモヒロ、その武器は……」
「ん? あぁ、さっき吹っ飛ばされた先に偶然こいつが地面に埋もれててな、使えそうだったからありがたく使わせてもらってるぜ」
ゴッドガンダムが両手に装備する武器、それはソードインパルスガンダムが装備する、機体の全高にまで匹敵する巨大な剣、2本の“エクスカリバー レーザー対艦刀”だった。その名の通り戦艦のブリッジや大型モビルスーツの撃滅に用いられるこの大剣は、“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”本編において、怒りに燃えるシン・アスカが宿敵、フリーダムを討ち取った際にも活躍した武器としても有名だ。
格闘重視のゴッドガンダムが装備する武器としては、まさに鬼に金棒といった印象だった。
「エクスカリバーか。いい武器だけど、扱いにくくはないか?」
「へっ、姉貴にぎゃふんと言わせるためだ。この際無理にだって使わなきゃな」
『細かい部分は俺が制御してるから大丈夫だ!』
こうやってガンプラバトルにおいて通常のガンプラビルダーにはできないような機体の細かい操作も任せられるのが、マシンソウルの強みだ。
「さぁて、覚悟しろよ姉貴! こいつでてめぇをなます切りにしてやる!」
ゴッドガンダムは両手に持ったエクスカリバーの柄同士を連結させ、アンビデクストラスフォーム形態とし、頭上で回転さえると両手で構える。
「あら、強い武器を手にした途端に強気に出たわね。いいわ、付け焼き刃の力がどれだけ脆いか教えてあげる」
カゲツキは腕組みをしたまま構えようともしない。
「姐さん……確かに姐さんの言う事も正しいのかもしれない。けど、俺達はどうあっても自分たちの考えを曲げるつもりはない。たとえここで敗北に喫しても、あなたの考えを受け入れるわけにはいかないんだ」
「俺達だって、もう何も知らないガキじゃねぇんだ! マシンソウルを自分達だけのために使ったりなんかしねぇ! 戦争にだって使わせはしねぇ! それを抑止するためにもマシンソウルとの絆は大事だんだ! そうじゃねぇのかよ、姉貴!」
「ガキよ」
「なっ……!?」
「んっ……!?」
俺達の言葉によって姐さんの心境にも少しばかり変化があればと思ったのだが、それをこの人はわずか3文字で切り捨てた。
「私に言わせてみれば、あんたたちの言ってることは子供の妄言にしか聞こえないわね。そこいらのガキ共と変わらない……ただの口約束。自分の都合のいいことばかり綺麗な言葉を吐いて、それで大人を無理やり納得させようとして、出来もせずに結局後でしっぺ返しが来る……まるでわかってない」
どうやらこの頑固さは、サラ家の特徴らしい。
『やはりわかってはもらえないようですね』
『だったら俺達がとる方法は一つしかねぇようだな』
「あぁ……そうだな二人とも」
「姉貴を説得するのが無理なら……やるしかねぇ」
「あら、どうするっていうのかしら?」
「「決まってるだろ」」
俺とトモヒロ、二人の言葉が同時に重なり、俺はザクファントムの腰から斬機刀を、ゴッドガンダムは両手に握ったエクスカリバーを、その切っ先を正面に仁王立ちするカゲツキにへと向ける。
「あんただけは!」
「ブッ倒す!」
「ふぅん……上等ォ♪」
俺達二人から向けられる本気の敵意を前にしてもなお、シノブ姐さんはものともせず、むしろ不敵な笑みを浮かべて俺達を迎え撃つつもりだ。
「二人同時に波状攻撃を仕掛ける! 行くぞトモヒロ!」
「おうよ!」
掛け声とともに飛翔する俺のザクファントムとトモヒロのゴッドガンダム。2機は左右に分かれ、二方向からカゲツキを取り囲むように迂回し、そして一気に距離を詰めていく。
「レフトウェポン! ビームガトリング!」
「バァァァルカン!!」
早退距離を詰めていく過程で、双方の機体はビームガトリングとバルカンを撃ちっぱなしにしながらカゲツキに接近していく。速射性のある武器でカゲツキを攪乱し、あわゆくばそれで撃墜しようという魂胆だ。
「見た目は派手だけど、ガラ空きよ!」
姐さんの言う通り、この攻撃には抜け穴がある。一見カゲツキを取り囲むよう、全方位に向けて撃っているようにも見えるが、俺達は意図的に弾幕の薄い箇所を作り出し、カゲツキをその抜け道に誘っていた。それはカゲツキの上空だ。十字砲火でカゲツキを追い立てているが、カゲツキの立つ位置から見てちょうど直上だけは弾を通さず、カゲツキが逃げれるようにしていた。
そして狙い通り、カゲツキは上空に飛び上がる。
『今です、マスター!』
「そこだぁぁぁぁぁ!!」
脚部バーニアで加速し、カゲツキとの距離を一気に詰めると、俺は右手に持った斬機刀を大きく振りかざす。瞬間、振り下ろされた刀とカゲツキの忍者刀が組み合い、火花が散る。受け止められてしまった。
「今だトモヒロ!」
だがこの状態であればカゲツキは逃れることができない。その隙に背後から一撃を加えれば俺達の勝ちだ。
「うおおおおおっ!! ゴッドフィィィィルド! ダァァァァッシュ!!」
トモヒロが雄叫びをあげながら、ゴッドガンダムのウイングを展開し、日輪を描きながら連結したエクスカリバーを両手で構え、カゲツキへと迫る。
『いくぜえっ! ご主人!』
「ばぁぁぁく熱! ゴォォォッド! スラァァァァァッシュ!!」
機体のエネルギーをエクスカリバーへと回し、発振されているビーム刃がより鋭利になり、出力も各段に上昇する。“爆熱ゴッドスラッシュ”は、Gガンダムにおいて対マンダラガンダム戦において使用された一撃必殺の剣技だ。それをエクスカリバーへと転用することによって切れ味も出力も格段に上昇させているらしい。
「墜ちろやああああああああっ!!」
トモヒロの雄叫びが木霊する。ゴッドガンダムはエクスカリバーを大きく振りかざし、カゲツキへと振り下ろす。
「ふん、甘いって……」
その時、カゲツキの左手が激しくスパークする。なんだこれは……? もう一本の刀には手を触れていないから、電磁抜刀術の類ではないようだが……?
「言ってるでしょう!!」
次の瞬間、ゴッドスラッシュがカゲツキを捉える寸前、俺と刀が組み合った状態からカゲツキは左掌から何かをゴッドガンダムに向けて放った。それは激しく火花を散らせる球状の発光体で、ゴッドガンダムの凹んだボディに直撃すると大きく炸裂する。
「なにっ……!? うわあああああああああっ!!」
電撃を帯び、体勢が揺らぐゴッドガンダム。と同時に聞こえるトモヒロとゴッドの絶叫。そして、攻撃を受けた箇所から激しく火花が飛び散り、内部から爆発を起こす。
『ぐっ……! ダメだご主人! コントロールが効かない!』
「ちく……しょお……!」
悔し気な二人の声が通信で聞こえる。ゴッドガンダムの方を見ると、もはや原型を維持することもままならず、内部から爆発が起こる度にゴッドガンダムのパーツが零れ落ちていく。リアアーマー、背部ウイング、左腕……それでも最後の力を振り絞って、揺らいだ体勢をなんとか立て直し、もう一度エクスカリバーを構え直してカゲツキの頭上に振り下ろそうとしているが、それも徒労に終わる。エクスカリバーのレーザー刃がカゲツキの頭部にもう数センチで触れようとしたところで、ゴッドガンダムは一際大きな爆発を起こし、その途端にレーザー刃は消える。
「すまねぇ……ソウシ」
トモヒロからの最後の通信が聞こえた後、レーダーに表示される味方シグナルの反応が一つ消えた。
「トモヒロ……!」
残骸と化したゴッドガンダムは、地面にエクスカリバーを突き刺して膝をつき、そして完全に沈黙した。
「お休み、トモ君」
まるで本当に子供を寝かしつけるかのように、先程とは打って変わって優しい口調で姐さんがそう口にした。
『トモヒロ! ゴッド!』
「今の技は……まさか!」
「フフ、ガンダムに詳しいソウ君なら知ってるでしょ?」
「光雷球……ですか」
“光雷球”とは、ガンダムSEED ASTRYにおいてガンダムアストレイレッドフレームが使用した技だ。掌から放出されたビームサーベル用の荷電粒子を球状に固定し、相手に叩き付けることで部位を破壊したり、システムをショートさせ機能を停止させることができる技だ。劇中ではレッドフレームのみが使用した技だが、アストレイシリーズは内部フレームが全て同一のものであるため、他フレームの機体でも使用可能とされている。
「さっきのシュツルムウントドランクといい、忍術や電磁抜刀に加えてガンダム作品本来が持っている技まで会得しているなんて……!」
『一体、どれだけの業前を持っているというのでしょうか……!』
「驚いたかしら? でもそれはガンプラマイスターにとっては……いえ、たとえどんなガンプラビルダーにとっても……当たり前なことのはずよっ!」
急に右手で握るアームレバーの感触が重くなった。カゲツキが鍔迫りになっている刀を押し出し、そして咬み合った状態から離したのだ。会話に夢中になっていた俺は、突然のことに刀の構えが解かれてしまった。姐さんはその隙を見逃さず、素早く横薙ぎに刀を振り払った。
「しまった……!」
キィンッ、と静まり返った空間に響く鮮やかな金属音。と同時に俺のアームレバーに重さが一瞬圧し掛かる。その一撃で斬機刀の刀身が弾かれ、ザクファントムの手を離れる。その一閃で刀身が真っ二に折れ、それぞれ別の方向へと飛ばされ、灰の積もった地面に突き刺さった。
慌ててもう片方の腰に携えている剣、レーザー重斬刀へと手を伸ばすが、カゲツキの忍者刀がザクファントムの喉元に突きつけられる。完全に動きを封じられた。もはやこうなれば生かすも殺すも姐さん次第だ。
灰色の空の下、灰色に染まった街の中で、俺達は静かに対峙し合う。
「現にあなたが駆るそのザクファントムだって、見たところ改造パーツは全てガンダムSEEDシリーズのパーツのみで構成されているわね」
姐さんの言う通り、俺のザクファントムカスタム・BIはザクファントムをベースとして同じガンダムSEED系のパーツのみで構成されている。しかも、ザフト側の機体のみでだ。そうすることによって俺はこのザクファントムが実際のガンダムSEEDの
「……それがどうかしたんですか?」
「いえ、ちょっと思っただけよ。確かにあなたのガンプラはある意味では王道を行き、設定に忠実な出来に仕上がっている。それは認めるわ。加えてマシンソウルとの絆……それがどんな曖昧なものであれ、確かにあなた達の力になっている。それも結構なことだわ」
それは意外な言葉だった。なぜなら、俺達が中学生の頃の姐さんであったならば、俺達のことを「認める」だなんて言葉は決して口にしなかったであろうからだ。やはり俺達との戦いの中でマシンソウルとの絆のことを理解してくれたのだろうか……?
「でもね、あなたのガンプラは所詮はおもちゃ……ガンプラという“
「……っ!?」
「この違いがわかるかしら?」
姐さんの言っている言葉……俺にはわかるようでわからない……。意味をそのまま直訳すると、俺のガンプラはまだ型に捉われた汎才の域だということだと伺える。しかし、それだけではない気がする。その言葉の真意は一体……?
「まだ坊やにはわからないようね」
「くっ……!」
「その言葉をしっかりと胸の内に刻み付けておきなさい。いずれあなた自身がその言葉の意味を知ることになるでしょう」
そう言いつつ、喉元に突きつけられた刀がゆっくりと下へと移動し、コクピット部を指す。
「終わりにしようかしら、ソウ君。結構楽しめたけど、そろそろ飽きてきたわ」
「あんたは……! 楽しいと思っていたのか! この破壊を……この惨状を!」
「あら、だってこれはガンプラバトルよ。ただのゲームじゃない。楽しまなきゃ損損♪」
と、姐さんの笑顔の表情がモニターに表示される。お気に入りのゲームで勝つことができた、子供のように無邪気な笑顔……誰だってしたことがある笑顔だ。しかしそれは、曇天の空の下、周囲が核の汚染物質にまみれ、廃墟と化した俺達の故郷で見せるには、あまりにも似つかわしくない表情だった。
『彼女にとっては……この戦いはただのゲームとして楽しんでいたというのですか……!』
なんていうことだ……! 俺達は必死で武器を探したり、この人に立ち向かったり、爆発に巻き込まれぬよう逃げ回ったりしていたというのに、この人はこのバトルのすべてを楽しんでいた……いや、“楽しむ余裕があった”。俺達にはとてもじゃないが、そんな余裕はなかった……。それどころか、いくつものハンデをつけられていても、全く太刀打ちできなかった……。
正直言って、完敗だ……。
「闘志が消えたわね。これで力量の差というものがわかったかしら?」
「……」
「マシンソウルの力を借りたにしろ、なかなか粘ったほうだったけど、これでお終いね。じゃあね、ソウ君♪」
カゲツキの刀が突きの形でザクファントムのコクピット部に突き刺さる。
寸前で俺は動いた。
「っ!?」
バックステップを踏み、瞬時に機体を後方へと下げる。その瞬間にモニターに笑顔で映っていた姐さんの表情が驚愕の顔へと変わったのが見えたが、それを確認するよりも先に俺は動いていた。
退がると同時にカゲツキが突き出した刀は空を突く。そこに隙が生まれた。俺は素早くレバーを前方に倒し、姿勢を低くし、カゲツキの突き出した刀の下から回り込むようにして地を踏みしめて前進し、姿勢を起こすと次の瞬間にはカゲツキの頭部がすぐ眼前に迫っていた。
『ま、マスター……!?』
突然のことに、ガンプラバトルシステムと同化しているファントムの意識でさえその反応には追い付けていない様子らしい。だが俺はそんなファントムの困惑の言葉をも聞き流し、次の行動に移っていた。今、俺の眼前には完全に無防備になったカゲツキがいる。なら、やることは一つ。
「この距離なら……」
左側のアームレバーを操作し、ザクファントムの左腕に備え付けられているビームガトリングの銃口をピッタリとカゲツキのコクピット部に押し付ける。
「ミラージュコロイドで逃げることはできないっ!!」
躊躇わず俺はトリガーを引く。断続的な射撃音が木霊し、眼前のモニターは眩いばかりのビームの反射によって視界が揺らぐ。零距離でガトリングを撃っているため、銃身がすぐに灼けつき、警告音が鳴る。
「うおおおおおおおおおおああああああああああああっ!!」
しかしそれでも俺はトリガーから指は離さない。雄叫びをあげながら無我夢中で撃ち続ける。だが、それも長くは続かなかった。一際大きな警告音が鳴る。
「っ!?」
その警告音を聞き、俺はふと我に返る。それは武装使用不可能の状況を知らせる警告だった。ビームガトリングの銃身が焼け落ち、その機能を停止してしまったのだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……あれ? 俺、今……」
行動を起こすことに夢中になりすぎ、呼吸をすることすらも忘れてしまっていた。顔を俯かせ、滴る汗に煩わしさを感じながら息も絶え絶えに荒い呼吸を繰り返す。攻撃は確かに命中した。姐さんがこのバトルを始める前に提示したハンデ条件の通りならば、これでカゲツキを撃破することができたはずだ。
『ま、マスター……』
「ハァ……ハァ……ふ、ファントム……ハァ……ハァ……や、やったのか……?」
ファントムの答えを聞くよりも先に、俺は前方のモニターを見据えた。
「……っ!? なん……で……?」
思わず俺は失意と絶望の声をあげる。視界が震える……幻覚であってほしいと願っていた。
なぜならそこには、先程と同じようにザクファントムの前で仁王立ちする、ガンダムアストレイシャドゥフレームカゲツキの姿が未だ健在であったからだ。しかも、その身に傷は全くついていない。俺のビームガトリングによる攻撃は、確かにコクピット部に命中したはずだ。なのに……なぜ……? 撃つ寸前で、またおかしな忍法を使ったとでもいうのだろうか……?
「……ソウ君。あなた今、何をしたの?」
「えっ……?」
姐さんからの通信が入る。しかもなんと俺がまさに姐さんに対して聞きたかった質問を、逆に姐さんが俺に対して投げかけてきた。何をしたか、と言われてもなんのことなのかはわからない……。俺はただ夢中で機体を動かしていただけだ。
「そ、それはこっちのセリフですよ! なんで姐さんのガンプラは無事なんですか!? バトル前に提示したあのハンデは……嘘だったんですか!?」
思わず俺はその質問をそっくりそのまま姐さんに返す。バトル前のハンデ、それはカゲツキの装甲設定はかなり低く設定されているため、「敵の攻撃を一撃でも受ければ即撃墜される」という仕様になっているはずのものだった。確かに俺はビームガトリングの零距離をカゲツキにお見舞いした。しかもコクピット部に。だのにそれでカゲツキが撃墜されていないのは、どう考えても嘘か設定ミスと思わざるを得なかった。
「あぁ、そのこと。安心して、ソウ君の攻撃は確かにカゲツキに命中したわ」
「だったら……!」
「でもあれはね、“機体の完成度が私と同等かそれに近いかそれ以上の相手の攻撃”の場合の話だったのよ」
「……は?」
『なっ……!』
それを聞いて頭の中が一瞬フリーズする。
「ま、要するにソウ君たちの作った程度のガンプラじゃどんだけ頑張っても私には傷一つ付けることはできないってこと。例えるならレベル1の勇者がレベル99の魔王にひのきのぼうで挑むようなものよ。いや~悪かったわね、肝心なとこ説明しなくって。まさか私に攻撃当てられるなんて思ってもみなかったもんだからさぁ。でも攻撃効かなかったってことは、やっぱあんたたちと私とじゃそもそもビルダーとしてのレベルが……いえ、ランクが違うってなのよね。お分かり?」
俺に何かを言わせる隙をも与えず、間髪入れない語彙力で俺を圧倒する姐さん。だが俺は、その話を聞いた後、頭の中で少しその内容を整理すると怒りがふつふつと湧いてきた。なんだよそれは……じゃあ俺達がいくら頑張っても結局あんたには勝てなかったってことじゃないか……!
「ふざ……―!」
けるな!! と大声で叫ぼうとした途端、急にモニターが斜めになった。何が起こったのか理解が追いつかない。次の瞬間、ズズンという地鳴りのような音と共にモニターに地面が映し出される。どうやら地面に倒れ込んでしまったらしい。機体を起こそうとレバーやペダルを操作するが、機体はピクリとも動かない。
なんだこれは……!? また理解が追いつかない出来事が起こり、俺は激しく混乱する。そしてふと真横のモニターの見た途端、俺は凍り付いた。
そこには、地面をしっかりと踏みしめるザクファントムの脚部が映し出されていた。
その瞬間、俺は全てを理解した。
ザクファントムの上半身が切り落とされているのだと。
「電磁抜刀、“
斜めになった視界の先でカゲツキが放電する刀を鞘に納めるのをただ茫然と眺めながら、姐さんの冷たい声が響く。
「
声色同様の冷たい視線を俺達の方に向けながら、姐さんは呟いた。久しぶりに見たその視線……。威圧感に満ち満ちており、先程まで怒りをぶちまけたかった俺の心は思わず竦みあがってしまい、言葉は喉の奥に押し詰められ、何も言えなくなってしまった。そしてそれは、初めて姐さんのあの眼を見るファントムも同様の様子らしい。
あの視線……俺は見るのはこれで2度目だ。
「願わくば、再び私と同じ
その時、思い出したかのように機体の切断面から火花が散り、モニターにノイズが走る。
「一度ドン底でのたうち回って、それから這い上がってきなさい。その時こそ、本気で相手をしてあげるわ」
刹那、一瞬の爆発音と衝撃の後、画面が炎で覆いつくされ、暗くなる。そして表示される一文。
―ガンダムアストレイシャドゥフレームカゲツキに撃墜されました―
「……ちくしょおっ……!」
向けられていた威圧眼の脅威から解放されて、やっと絞り出した言葉はそんな言葉。本当はもっとこの場でぶちまけたい言葉がいくつもある。だが、今はこれだけしか出てこなかった。
「ちくしょう……ちくょおおおおおおおおっ!!」
『マスター……』
ゲームが終了してもしばらくの間、俺はGポッド内で慟哭していた……。
………………
…………
……
「ソウ君がさっき見せた動き、あれは一体……」
一方のシノブの方も、ゲームが終了してもすぐには出ずに、しばらくポッド内で考え事をしていた。それは、先程ソウシが見せたあの兆速の動きについてだった。
「あの動きは明らかに普通の人間の反応速度じゃなかったわね……」
通常の人間ならば、あの状況、迫る刀を見て、それを脳が処理して、レバーやペダル操作のために手や足に伝達信号を送るまでに最低でも1~2秒はかかるはずだ。なのに、あの時のソウシの動きは迫る刀を見切り、行動を起こすまでおそらく1秒もかかってはいなかった。それどころか、その後カゲツキの懐まで潜り込むのにもわずかな時間で動いた。明らかに通常とはかけ離れた反応速度だ。
「ただのまぐれかしら? それとも……」
『先刻、相対するあのガンプラより、マシンソウルの反応が僅かの時間倍化したように感じた』
「あら、いつから起きてたの?」
『無論、最初から最後まで。これぞ月影忍法“
突如シノブの脳裏に響く声。それは先ほど彼女の操っていたガンプラ、ガンダムアストレイシャドゥフレームカゲツキからだった。カゲツキはこのバトル中、シノブに加担しないよう意識を閉じ、眠っていたはずだったのだが、実は狸寝入りをしてバトルの様子を終始観察していたのだった。周囲の人間に気配を悟られず、完璧な寝たふりを演じつつ、辺りの状況を探る……それも彼女の用いる立派な“忍法”の一つだった。
「マシンソウルの倍化……ねぇ。そんなことが起こり得るのかしら?」
『我々の体には、我々ですら知り得ない能力がひた隠されている。しかるに、新たな能力が開花してもなんら不思議はあるまいて』
「なるほど……となるとまだまだ目を離すことはできないわね。特にソウ君とファントムちゃんには……」
『ふっ、先程はあのソウシという少年に一本取られましたな』
珍しくカゲツキは陽気な様子で話す。
「……マシンソウルを信じる心がどうのっていうの?」
『はい。あの少年の問いに答えなくてよかったので?』
「……そんなの答えるまでもないじゃない」
『もう少し素直になられるよう』
「……わかったわよ。後で答えるってば」
やれやれとした表情をしながら、シノブはガンプラスキャナーを開いてカゲツキを手に取り、Gポッドの中から出た。
………………
…………
……
「さぁこれで格の違いがわかったかしら? 愚弟、そしてその仲間たち」
「くっ……」
しばらくGポッドの中から出てこないかと思ったら、出てきた途端にこの高慢な態度だ。正直相手にしきれない……。
「それで……ファントム達をどうするんです?」
「なにが?」
「姐さんは……マシンソウルを兵器だと主張した。そしてそれは姐さんの勝利で正しいものだと証明された……本当は認めたくはないけれど……。だから、兵器であるマシンソウルを……姐さんはどうするつもりなのかと思って……」
俺の質問に皆は固唾を飲んで見守る。姐さんの返答によっては、このままファントム達とお別れ……なんてこともあり得るからだ。
「べっつに~、どうもしないわよ?」
「……へ?」
姐さんの答えに、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
「確かに、私はマシンソウルのことを兵器だと主張したわ。でもだからって、心ある彼女たちを別に取って食ったりなんかはしないわよ」
「ちょっ、ちょっと待つでござるよ!? でもさっきソウシ殿との会話だとてっきり僕らと離れさせるかのように聞こえたのでござるが……」
「誰もそんなこと言ってないじゃない」
と、姐さんは眉を八の字のしてやれやれといった感じだ。と言われても、正直俺もそういう風に聞こえてたから覚悟していたんだが……。
『フッ……許してやってくれ。この御人は自分本位でこれまで
と、フォローする形でカゲツキの言葉が俺達の脳裏に横切った。あぁ……言われて思い出したか、確かに姐さんは昔っからそういうところがあった。言葉足らずというか、言わなくても理解してもらえると思ってる……そんな節があるため、俺もトモヒロも結構苦労したんだった。
「カゲツキ、余計なこと言うんじゃないの。私はただ、あなた達に“自覚”を持ってもらいたかったのよ」
「自覚……?」
「そう、マシンソウルは確かに人間と変わらぬ外観と感情、そして心を持っているかもしれない。でも人の形をしていても、それは紛れもなく強力な“力”なのよ。あなた達はその力を、まだきちんと制御しきれてないでしょ? だから心配になったのよ」
「お、俺達は制御してるつもりですよ……」
「街があんな惨状になるかもしれないという考慮も含めて?」
姐さんの言葉に俺は口を噤んでしまった。ガンプラバトルで見た街の惨状……確かにあれはガンプラバトルの中でも出来事に過ぎない。しかし、一歩間違えれば現実の俺達の街もああなるかもしれない……俺は本当にそのことを考慮して、ファントム達を戦わせていただろうか……?
答えは……NOだ。
「……姐さんの言う通りです。俺は……いえ、俺達はファントム達が戦うたびに、心のどこかで他人ごとのような気がしていました。ファントム達ならうまくやってくれる……街へは目立った被害は出さないし、ましてや死人なんて……と、安心しきってしまっていました」
「ふぅん?」
「けれども……俺も今回彼女達の視点に立ってみてようやくわかった。ファントム達も必死なんだ。戦いの最中にそんなところにまで気が回るはずがないし、いくら気をつけていても少なからず被害が出る。下手をしたらファントム達の命ですら危ないこともいくつかあった……。今までの戦いは単に……運が良かっただけなのかもしれない」
事実、カゲツキが介入してこなければもっと大事になっていたこともいくつもあった。俺達が今こうして気兼ねなくマシンソウル達と触れ合えるのは、常に誰かの助けがあったからだ……それを痛感させられた。
「う~ん、40点ってところね」
「え……?」
「まだまだ言葉の中には他人事のように聞こえる節があるわね。それに、私の出した課題の答えにもまだまだ辿り着いてないようだし」
“課題”というのは先ほどされた質問……「あなたのガンプラは所詮はおもちゃ……ガンプラという“
「その答えを見つけて、加えて自分なりの筋の通った主張ができて、尚且つ私に勝つことができたら、合格。100点をあげるわ」
「……高度な課題っスね」
「あら、ヒントをあげてるだけまだマシと思ってもらわなくっちゃ。それにこう見えて私はソウ君のことを高く買ってるのよ? いつか答えを見つけられるって信じてるわ」
「……ご期待に応えられるよう、頑張ります」
俺の言葉にシノブ姐さんは「うん」と頷き、階段の方へ歩んでいく。
「そうだ、私ばっか質問してちゃ悪いから、私もさっきのソウ君の質問に答えてあげる」
と、姐さんは歩みを止めて俺達の方に向き直る。さっきの質問……? 俺が投げかけた質問といえば、バトル中に「今のあなたの心には、マシンソウルを信じる気持ちが宿っていますか!?」と聞いたことだけだろうか。我ながらなんて不躾で身の程知らずな質問をしてしまったのだろうか……と、今になって後悔の念が押し寄せてきた。
「あるに決まってるでしょ」
迷いを感じられない、真っ直ぐな声色。
「カゲツキは、私の最高の相棒よ」
そう言って姐さんは、今日見せたどの笑顔よりも、素直に綺麗と思える笑顔を俺達に見せた。
今回でシノブ姐さんとのバトルはこれにて決着とさせていきたいです。
やっぱ付け焼刃な強化や中途半端な出来のガンプラじゃ敵わないということですね。
ですがこの敗北を機にソウシ達はより一層成長することでしょう。