機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 シノブとの4vs1のガンプラバトルを終えたその一週間後、他のメンバーをかばいすべての責任を負ったソウシに対し、ガンプラマイスターシノブに言い渡された示談の条件とは…。

「さぁ、私たちの戦争(デート)を始めましょう!」


第24話:「デート・ア・レギーラ ~前編~」

「……そろそろ時間か」

 

 日曜日の午前9時50分。先日のレギーラ暴走騒動とシノブ姐さんへの挑戦から丸1週間経った今日、俺ことキモト・ソウシは駅前に立っている、この地方出身の昔の偉い人の像の前にてとある人物と待ち合わせをしていた。

 日曜のこの時間帯は、俺と同様に待ち合わせをしている男女でいっぱいだ。“彼女”が来るのを待っている間にも、他の待ち合わせの男女は一人、また一人と待ち合わせ相手が姿を現し、そのまま仲睦まじげに談笑しながら何処かへと向かう。そのほとんどが異性同士であることから、十中八九デートであることが伺えた。

 かくいう俺も、いつもとは雰囲気も外観も少し違う。真新しく整えた服装に身を包み、柄にもなくワックスでセットした髪形が崩れていないか、毛先をつまんだりしながら確かめ、時折腕時計で時間を確認しながらそわそわと待つ。

 

「おっ、あれかな? おーい」

 

 そして9時58分、それらしき人物が広場に現れ、俺はその人物に位置がわかるように手を振る。それに気が付いたのか、俺の姿を見つけた“彼女”は俺の姿を捉えるなり小走りでこちらに向かってくる。近づくにつれて、彼女の格好と表情がなんとなく伺える。褐色の肌に映える白い肩出しのワンピース、膝上までのサイズなレザーのスカート、黒いブーツ、背中まで伸びている淡く長い紫色の髪は結われ、先端は金属の尖った鏃で留められている。だが最大的な外観の特徴は、目を覆うスリット状のゴーグル。その異質さ故、彼女がかなりの美人であるにも関わらず周囲の者たちはチラチラと視線を送るだけでその場を避けて通っていく。

 だが、彼女はそんなことを全く気にしていない様子だった。だがなぜかムスっとしていて、不機嫌そうな感じでツカツカと軽快な足音を立てながら俺の方に歩む。

そしてジャスト10時、彼女は俺の前で止まると無言のままじっと視線を送る。

 

「時間ピッタリだな」

「……」

「さて、どこから行くか? 昼飯にはまだ早いし……」

「……おい」

 

 彼女は表情同様に不機嫌そうな声色を俺に向ける。

 

「な、なに?」

「何故……なにゆえにこの私が貴様などと一緒に行動を共にしなければならぬのだ!?」

「俺に言われてもなぁ……」

 

 と、彼女こと“レギーラ”は、不満そうな言葉をぶちまけた。

 

 

 

 

 

―――――第24話:「デート・ア・レギーラ ~前編~」―――――

 

 

 

 

 

 ことの発端は先週、シノブ姐さんとのガンプラバトルが終わった後……。

 

………………

…………

……

 

 ~一週間前~

 

「さ~て、せっかくのガンプラバトルに勝ったんだから何か賞品を貰わないとね♪」

「えっ!? そんな条件……バトル前に提示されてましたっけ……?」

「今決めたわ。古来より真剣勝負の場っていうのは負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くのが定石でしょ?」

 

 と、シノブ姐さんはバトル後の帰り道でそんな提案を唐突にしてきた。なんという暴論だろうか……こともあろうかガンプラバトルを始める前には無かった勝利後の報酬を、今ここで付け加えたというのだ。全くこの人の傍若無人ぶりには困ったものだ。

 

「ちょっ、ちょっと待つでござるぞ!? シノブ殿、それは流石にズルいでござるぞ!?」

「そうだよ! 勝ったら言うこと聞くなんて……バトルを始める前に言いませんでしたよね!?」

 

 タクオとオトメの二人はこの理不尽さに当然反論をする。

 

「なに、文句あるの? この私に意見するのなら、ガンプラバトルで一撃でも私にダメージを負わせてから言うことね」

 

 と、元より否定意見には耳を貸す気はさらさら無い様子で、姐さんは二人の反論をそのまま聞き流す。

 

「そ、それとこれとは……―!」

「いいんだタクオ、大人しく姐さんの言うことを聞こう」

 

 もうこうなったら姐さんは自分の意見を押し通すことしかしない。だから反論して問題を長引かせるよりかは、大人しく要件を聞いて実行に移す方が早い。本心はもちろん言いなりになんてなりたくないが……この人に勝てる要素が無い以上、仕方がない。

 

「でも、姐さんの言うことを聞くのは俺だけでいい。それでいいでしょう? 姐さん」

 

 そうだ、命令を出すのが一人なら、四人全員がそれに付き合う必要はない。だったら、俺が生け贄になろう。それで丸く収まるなら、安いものだ。

 

『マスター……』

「大丈夫だファントム、大したことじゃない」

 

 俺を心配するファントムの声が脳裏に響く。そう、大したことじゃない。この人はいろいろと身勝手な人ではあるが、身の丈に合わない条件や、実行不可能な無理難題は押し付けない主義だ。俺程度であればどうせ美味い料理を出せとか、部屋を片付けろと命令されるぐらいのものだろう。

 

「ええいいわ。元よりソウ君だけに命令するつもりだったから」

 

 ほら、やっぱり。ということはやはり家事系をやれと言われるのだろう。

 

「あなた、来週の日曜日予定はある?」

「いえ、ないです」

「そう。じゃあちょっとデートしましょ」

「はい。…………ええっ!?」

 

 シノブ姐さんの口から出た俺に対する命令は、俺の予想を大きく裏切るものだった。

 デート……というのは俗にいう、仲の良い男女が互いに手を握りながらあちこちを廻り、食事をしたり、映画を見たり、買い物をしたりと楽しい思い出を作ったりするという……あのデートだろうか!?

 いやしかし、いくら姐さんが傍から見れば美人な年上お姉さまといっても、今まで異性として意識して見てきたことは無い(その理由の10割はもちろん性格だ)。だからいきなりそんなことを言われても困るというか……。

 そんな考えが一瞬のうちに頭の中をぐるぐると巡り、次にどんな言葉を発してよいか困惑していると、見かねた姐さんが口を開く。

 

「なに勘違いしてるのよ。私とじゃないわよ」

「えっ……? 違うんですか?」

「なぁ~に残念がってるのよ。アンタ程度がこの私とデートしようなんて百万年早いっての」

「べ、別に残念がってなんか……誰となんですか?」

「それはね……♪」

 

………………

…………

……

 

「というわけだ。俺だって別に好きでお前と一緒にいたいわけじゃない。文句があるならシノブ姐さんに言うんだな」

「くっ……!」

 

 と、レギーラは実に不満そうに歯軋りをしてこちらを睨みつける。

 そう、俺はその時の姐さんの提案により、レギーラとデートすることとなってしまったのだ。なぜかって? それは姐さんの単なる気まぐれ……と、言ってしまえばそれまでになってしまうが、これにはちゃんとした理由がある。

 

………………

…………

……

 

 ~一週間前~

 

「これはマシンソウルの安定性を図るためにものよ」

「……デートでマシンソウルが安定するんですか?」

「そりゃそうよ。マシンソウルだって感情を持っているんですもの。楽しいことがあれば笑い、心が落ち着き、安定する。人間と同じよ? 特に今は“リバイバル”したてなんですもの」

「リバイバル……って?」

 

 またも俺達の知らない専門用語をさらっと口にするため、俺は疑問形で投げかける。

 

「あぁ、説明してなかったわね。リバイバルってのはその通りに“再生”ってこと。マシンソウルの憑代(よりしろ)であるガンプラが大破した際、それを強化・改造することでマシンソウルをより強靭な存在にすることをそう呼んでいるわ」

「例の企業が……ですか?」

「ん、そういうこと」

 

 なるほど、やはりガンプラの改造によってマシンソウルも強くなるという考えは間違っていなかったらしい。となると、俺達も何か具体的な改造プランを考えるべきかもしれない……が、今はそれどころではない。

 

「そういうものですか……でもなんで俺なんです? こういうのは創主(マスター)であるレイナがやるべきじゃないんですか?」

 

 と、デートの話題が出てからというもの俺達の方をずっとジトっとした訝し気な視線を送っているレイナを指さす。

 

「本来ならそうなんだけど……じゃあ聞くけどレイナちゃん。あなたレギーラを誘ってどこか楽しいところに行ける?」

 

 唐突に姐さんに急に話を振られてしまったため、レイナは面食らってしまいしどろもどろに答える。

 

「えうっ……!? え、えっと……その…………模型屋……巡り……?」

 

 と、一生懸命に答えをひねり出したのはわかるが、残念ながらレイナとレギーラの二人が仲睦まじげに模型屋を巡っている光景が俺の頭の中ではひどくシュールな光景に見えてしまい、同時に現実には実現不可能な情景だということが理解できた。そしてそう思えたのは俺だけでなく、俺以外の皆もその光景を妄想してしまったらしく、苦虫を噛み潰したかのような顔になっている。

 

「どう? ここはやはりあなたが適任だと思うのだけれど」

「う、う~ん……」

 

 一生懸命考えてくれたレイナには悪いのだが、現実で二人が模型屋を巡ったとしても、十中八九終始二人とも無言・無表情のまま終わるのは目に見えている。となれば、確かにマシンソウルの安定を図るのが目的なのであるならば俺でもいいのかもしれない。それに、レギーラには疑問に思ってることがいくつかある。こんな機会でなければ聞くこともできないと思うし、行ってみるのもいいかもしれない。

 

「わかりました。じゃあ……―」

 

『待ってください』

 

 と、俺が了解の意を姐さんに示そうとした時、不意に脳裏に声が響いた。そして次の瞬間、光が鞄の中からあふれ出し、それは地面にへと落ちると人の姿となる。ファントムがガンプラから人の姿へと顕現したのだ。

 

「どうしてもマスターが行くというのであれば、それならば……―」

 

………………

…………

……

 

「随分と遅かったですね、ギラー……いえ、今はレギーラという名でしたね」

 

 と、俺の背後に像の裏側から姿を現したのは、ファントムだった。

 ファントムもまた、いつもの機動鎧(モビルアーマード)やバイオスーツや武器を纏った姿ではなく、ベージュ色のホットパンツに黒のブラウスという、これまた普通の女の子らしい姿をしている。

 ただし、左目にかけた眼帯はそのままなのでレギーラのバイザー同様、そういう部分で一般人の目を惹いているが、当人は気にしてはいない。

 

「なに? 言いがかりはよせ! 私はきちんと時間通りに来たぞ!」

「こういう時、女性は男性よりも早く待ち合わせ場所に来るというのが習わしなのですよ」

「そ、そうなのか……?」

「えぇ、現に私はマスターが到着する3時間前からこの場所に陣取り、待ち合わせのスペースを確保していましたよ」

 

 そんな花見の場所取りじゃないんだから……と、俺は内心思いはしたがここは何も言わないでおくことにした。

 

「カルナも大丈夫だったか? ファントムと一緒に朝早くからここで待ってたんだろ?」

 

 と、俺はファントムに手を繋がれているカルナにも話しかける。そう、この場にはもう一人、カルナも一緒だった。ファントムが俺とレギーラとのデートに同行すると意思表示をしたとき、シノブ姐さんが「ついでに」と、カルナも同行させることを提案したのだ。特に断る理由もなく、カルナにはもっともっと楽しい経験をさせることが大事だと思ったため、言われるがままにこのデートにカルナも誘った。

 そんなカルナの今日の恰好はというと、レギーラやファントムとは違いいつもの白いワンピース姿のままだ。シノブ姐さん曰く、元々の服装がすごくかわいらしいだけに、変にめかしこむ必要は無いらしい。

 

「ううん、ファントムと一緒にいろいろお話したり遊んだりしてたから平気だったよ」

 

 と、カルナはニコッと眩しいばかりの無邪気な笑顔を俺に向ける。

 

「ふん、子供を長時間待たせるとは保護者として失格ではないのか?」

「なんだと!?」

「まぁまぁ二人とも、せっかくこれから遊びに行くっていうのにこんなところで喧嘩はよせよ」

 

 いつまで経っても言い争いを止めない二人に、俺は間に立って仲裁に入る。

 

「チッ……なぜこの私が貴様らなどと行動を共にしなければならないのだ」

「知れたこと、マスターと二人だけにしたらあなたはなにを仕出かすかわからないですからね。先の暴走事件もある。私は言わば護衛の立場です」

「護衛だと? 聞いて呆れる。今の貴様では私を相手にしたとて5秒と持つまい」

「それはどうでしょう? 先の戦闘であなたの武器類はカゲツキに全て破壊され、今レイナが修復作業をしていると聞いています。私一人でも十分に対処できるものだと容易に推測できますよ?」

 

 その煽りを聞いてレギーラは無言でバイザーの奥からファントムに睨みつける。同様に、ファントムもまた睨みかえす。両者ともに火花を散らしてはいるが、このままではラチがあかない……。

 

「カルナはどこに行きたいんだ?」

 

 もはや相手にはしきれない。ここはカルナの意見を聞いて、その要望に従って今日のデートプランを決めて行こう。というのも、今日の俺には今後どこに向かおうかという具体的なデートプランが無い。もちろん考えようとは思ったが、シノブ姐さんからの指示でノープランで行けと言われたのだ。

 

「ん~と……楽しいところがいいな!」

「楽しいところかぁ……」

 

 これはまた漠然な答えが出たなと、俺は腕組みをして考え出す。どうするか……? この近辺で小さな子供も女の子も楽しめそうな場所といったら……―。

 

『ソウ君、ちょっと待って』

 

 その時、耳に嵌めていた超小型インカムよりシノブ姐さんの声が聞こえてきた。

 

………………

…………

……

 

 ソウシ達のいる広場より少し離れた駅前の駐車場、そこには1台の黒いワンボックスカーが停まっていた。その中、運転席にはノートパソコンを広げたシノブが座っており、その隣の助手席にはトモヒロ、後部座席にはオトメとタクオ、そのもう一つ後ろの席には人の姿と化したゴッド、サバーニャ、ザクが座っていた。そして列ごとに一台、シノブが持っているものと同じパソコンが持たされていた。

 

「さぁて出番よあなた達。ここには恋愛とは無縁な一匹狼、元ヤン、腐女子、キモオタ、脳筋、ノーコン、男の娘、そういったろくでもない連中が集まっているわ。ウン人集まれば文殊の知恵、好きにやってきましょう!」

 

 と、シノブはパンッ、と手を叩いてテンション高めで皆を鼓舞する(つもりではあるのだろうが、どう聞いても各々の悪口を言っているようにしか聞こえないため、他のメンバーは皆ムスッと不機嫌そうな顔をする)。

 

「出番……って言われてもよぉ」

「このパソコン、なんでござるか?」

「私達まで、いきなり人の姿になるなりこんなところに集められてなにをさせるつもりなんですか?」

 

 タクオとサバーニャが至極当然な質問をなげかける。パソコンの液晶画面はソウシの見ている視点と連動しているらしく、今はカルナの姿がアップで映し出されている。その周りにはピンク色の“好感度”を現す各種パラメーターが配置され、カルナが発した言葉が画面下部にテキストウィンドウとして表示されている。しかもほぼタイムラグ無し、リアルタイムでだ。

 その画面表示は、どう見ても恋愛シュミレーションゲーム……通称“ギャルゲー”のそれである。

 

「フフフ……そのパソコンにはね、ソウ君に持たせたインカムと超小型カメラとマイクを通してデート中のマシンソウル達の行動がリアルタイムで表示されるのよ。で、私が設計したOSでその状況に合わせた適切な選択肢を毎回三つ表示していくわ。それを私達で相談して、選んでソウ君のデートをより良きものにするのよ! そのために今日のデート、ソウ君にはノープランで来るように指示したんだから」

「な、な~んかそれどっかで聞いたことがあるような気がするでござるが……」

 

 内容を聞き、どう聞いても某ラノベや某アニメのパク……オマージュであることを察し、タクオは思わず苦い表情をする。

 

「はいはい、つべこべ言わない。そうこうしてるうちに、もう選択肢が出てるわよ」

 

 言われるままに皆はそれぞれに配られたパソコンに視線を向ける。画面下部には、カルナが先ほど発したセリフ、「ん~と……楽しいところがいいな!」がテキストウィンドウに表示されており、その後に主人公(この場合はソウシ)の心理状況と思われるメッセージが出現し、画面中央には三つの選択肢が用意されていた。

 

 

 

『さて、最初はどこに行こうかな?』

 

①公園でお昼まで時間潰し

②映画を見に行く

③ホテルへGO

 

 

 

「……お、お姉さん……? 一応聞きますけど、これどういう基準で選択肢が出てるんですか?」

「ん~? 対象者の表情、声のトーン、心拍なんかをカメラで観測してそれに合致する適切な選択肢をOSが分析して表示しているのよ」

「適切な……ですか」

 

 オトメは、タクオの持つパソコンの画面に再び視線を落とす。約一つの選択肢に若干の疑いの目を向けつつも、それ以外の選択肢で真面目に答えを考える。

 

「さぁ、あなた達がこれだと思う選択肢を選びなさい。5秒以内よ!」

「と、言われてもでござるなぁ……」

「これもう一択じゃねぇか?」

「うん、デートで早々に公園でブラブラするなんてありえないし、③番に至っては論外だし……」

 

 「これが男同士ならちょっと見てみたいけど……」と、オトメは小声でボソッと呟きながら冷ややかな視線をパソコンに向ける。

 

「でも、このホテルっていうのはなんのことですか?」

「おう、“でぇと”に行くってのにどっかに泊まるつもりなのか?」

「それらないっそ4人一緒にホテルに泊めれば今日の予定は終わりということで一番楽な選択肢じゃないかのう」

「「「ダメーーー!!」」」

 

 と、その意味を理解できていない3人のマシンソウル達に、3人の創主(マスター)達は必死で止めに入る。その様子を見てシノブは実に愉快そうにケラケラと笑う。

 

「じゃあ③番でいい?」

「ダぁメだっつってんだろうがぁ!! ②番だ②番!!」

「冗談よ冗談♪ ソウ君、聞こえる?」

 

………………

…………

……

 

「は、はい」

 

 先程の静止の合図から、俺はカルナに怪しまれぬようずっと考えるフリをしていた。そしてインカムがしばらく沈黙した後、再び聞こえてきたシノブ姐さんの声に耳を傾ける。

 

『ここはみんなで映画を観に向かいなさい。2時間ぐらいの映画なら終わった頃にはちょうどお昼ご飯の時間帯でしょ』

「わ、わかりました。え~っと、カルナ」

 

 再びカルナの方に向き直ると、カルナは「ん~?」と俺の顔を覗き込んでくる。

 

「映画を観に行こうか。ここからならすぐだし」

「えいが……って、なぁに?」

 

 と、カルナは首を傾げ、頭の上に「?」マークが浮かんでいるかのような疑問の表情を俺に向ける。そうか、カルナは“映画”が何なのかをまだ知らなかったか……。

 

「映画っていうのは、う~ん……要はでっかいテレビだな。座席に座って大きな画面でテレビを見るんだ」

「え~、テレビ? テレビだったらお家でも見れるもん。他のことがいいな」

「うっ……」

 

………………

…………

……

 

「あら? イマイチ反応悪いわね、選択肢間違えたかしら?」

 

 ぽりぽりと頬をかき、シノブの危惧する声と共に、パソコン画面のカルナの横側に表示されている好感度ゲージが少し減少する。この“好感度”を一定以上に上げるか、もしくはキープするのが今回のデートの課題といえる。だが、その貴重なゲージが、今の選択で5%ほど下降してしまったのだ。

 

「そ、そんなぁ……!」

「でもあの選択肢で他のものを選ぶわけにはいかぬのでござらぬか……?」

「なら映画に次いで無難な公園にしてみるか?」

「ご主人、俺らやっぱりホテルがいいと思うんだけど……―」

「だーから! ホテルは論外なんだっての!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒がしく議論を重ねる創主とマシンソウル達の様子がとても愉快に思えながら、シノブはくくっと笑いながら再び視線をパソコンの画面にへと向ける。

 

「ん? 新たな動きよ! みんなパソコンの方を見て!」

 

………………

…………

……

 

「ほう、映画か」

 

 と、映画以外のどこに行こうか考えていると、俺の背後から意外な人物が映画への関心を示してきた。先程までファントムと口論を続けていたレギーラだった。

 

「ちょうど見たいと思っていた映画があるのだ」

「えっ……? お前、映画とか見るの?」

「普段は見ん。しかし、先日気になる音声ワードを記録したのでな。その答えを探るために、私は映画を観に行くことを希望する」

 

 と、きたもんだ。さて……? どっちの意見を採用すべきか?

 

『ソウ君、ここはやっぱり映画に行きなさい』

「姐さん? どうしてです?」

 

 再びインカムより聞こえてきたシノブ姐さんの声に、俺は小声で答える。

 

『今レギーラちゃんの好感度がぐぐっと上がったの。この機を逃すわけにはいかないわ。カルナちゃんだって映画の楽しさを知ればあなたへの好感度が上がる筈よ』

「……わかりました」

 

 確かに、知らないものだからといってそれを体験させもしないで別の選択肢を選ぶというのは愚行なのかもしれない。ここはひとつ、カルナには映画館初体験をさせてみよう。

 

「よし、じゃあやっぱり映画館に行こう。ファントムもカルナもそれでいいか?」

「私は構いません」

「……うん」

 

 カルナは若干不満げではあるが、大人しく俺の言うことに従ってはくれた。映画館はここから歩いて5分、駅ビルの中にある。俺達4人はぞろぞろと固まって映画館へと向かった。

 

………………

…………

……

 

「さて、ところでなんの映画が観たいんだ?」

 

 5分後、俺達一行は映画館の前に立っている。あのレギーラが観たいという映画、果たしてどんなものなのか気になるところだ。ちなみに今やっている映画といえば、ハリウッド超大作のアクション作品、実話を基にした感動系邦画、十数年ぶりに復活した怪獣映画、タクオが見てそうな女児向け変身ヒロインのアニメ映画などが公開されている。映画館前にはそれらのポスターがでかでかと貼られていた。

 正直、どれもレギーラが見たいと言うには思えないものばかりだが、強いて言うなればアクション映画あたりだろうか?

 

「これだ」

 

 と、そんな予想をしていた俺を余所に、レギーラはとあるポスターを指さした。どれどれ、とその指の先を見る俺達。しかし、それを見て俺は顔をしかめ、思わず硬直する。なぜなら、レギーラが指さした映画ポスターは俺の予想の斜め上をいくものだったからだ。

 

「こ、これって……仮面レイヤーかぁ?」

 

 そう、レギーラが指をさしていたのは今も昔もちびっ子たちに大絶賛されている変身特撮ヒーロー、「仮面レイヤー」シリーズの映画だったからだ。

 

「……一応聞きますけど、何故これを?」

 

 疑問に思ったのは俺だけでなく、ファントムも同様に思ったらしく、その理由をギラーガに尋ねる。

 

「先日、私と対峙した子供がこの作品の名を呟いていたのだ。後でいろいろと調べてみたが、非常に興味深い。まさかこの平和に思える日本の影で、日夜悪や怪人と戦うあのような(つわもの)たちがいたとは……。しかもこの私に微塵も気配を察知させないとは……なかなかのしたたかさだ」

 

 それを聞いて俺もファントムも再び沈黙する。まさか……レギーラは特撮世界における事件や戦闘が現実のものだと信じ込んでいるのか? これは少々面倒なことになってしまった……。ファントムに至っては、あのレギーラをかわいそうな人を見る目線になってしまっているし。

 

「というわけで私は日夜人知れずこの国の平和を守るために戦う仮面の戦士たちの記録映像を見ることを所望する。異論は無いか?」

「私は構いませんが……」

 

 チラッとファントムは俺の方に目線を送る。それはきっと、今ここでレギーラに「仮面レイヤーの話は全てフィクョンですよ」と伝えてもよいか? という意味合いなのだと察した。

その答え、もちろん俺はNOだ。レギーラはつい最近暴走事件を起こしたばかりだ。何かがきっかけであの時の二の舞になるかはわからない。ここは当たり障りなく、話を合わせていこうと思い、ファントムには無言で首を横に振る。それを見てファントムは小さくため息をひとつついた。

 

「俺もいいぞ。カルナはどうだ?」

「ん~……みんなが見るっていうなら見るけど」

 

 やはりカルナはあまり乗り気ではない様子だ。ぶすっとした表情で手をブラブラとさせている。

 

『ソウ君まずいわね。カルナちゃんの好感度がどんどん下がってるわよ』

「ええっ!? そ、そんなこと言われても……」

『ちょっと待って』

 

 ここでまた、シノブ姐さんからの通信が一旦途絶えた。

 

………………

…………

……

 

「さぁさぁ皆の衆! 選択肢その2が出てきたわよ! 選びなさい!」

 

 皆が持つパソコンの画面上に不機嫌そうなカルナの顔とまたも主人公のメッセージと三つの選択肢が表示されている。それは60%台まで下がってしまっているカルナの好感度を上げるためのものであるのは明らかだ。

 

 

 

『カルナの機嫌が悪くなってしまった……そうだ! なにか買って喜ばせてあげよう!』

 

①グッズを買ってあげる

②ジュースは買ってあげる

③ポップコーンを買ってあげる

 

 

 

「なるほど、物を買ってご機嫌をとろうという魂胆でござるな」

「確かカルナちゃんは映画館は初めてだと言っておったな? なら映画のなんたるかをまだ理解していない以上、グッズは何が欲しいかなどわからないじゃろう」

 

 ザクの言うことは最もだった。よって①の選択肢は皆の選択から除外される。

 

「ん~、やっぱり映画を見るなら飲み物食べ物は欠かせないですよねぇ」

「いっそのことジュースとポップコーン両方買うのはどうだ? 俺ならそうするぜ」

「じゃが映画を観た後は昼食をとるのじゃろう? あまり食べ過ぎるのは良くないぞ」

 

 と、意外にもマシンソウルズはこの選択肢にわいわいと盛り上がっている様子だった。それを見て創主(マスター)達も思考を巡らせる。

 

「もし私たちが映画を観る立場だったらどうするかな……」

「僕はゴッド殿と同じく両方買ってしまうでござるな~。もちろん昼食も問題なく食べるでござるよ」

「そんなんだからぶくぶく太るんだよ。男は黙って飲まず食わずでじっと映画観るのが一番だろ」

「トモ君、それじゃあ問題の解決にならないじゃない」

 

 話し合っていてもラチが明かないと判断したシノブは、ここで一つの提案をする。

 

「はいはい。時間も押してるからもうちゃっちゃと決めるわよ。ズバリ恨みっこ無しの多数決で。私も含めれば7人になるからどっちかの選択肢には必ず絞れるわ。それじゃあまず①番の人」

 

 シーン……。これには誰も手をあげない。

 

「じゃあ②番」

 

 オトメ、トモヒロ、ザクが手を挙げた。

 

「ということは③番は……」

 

 タクオ、ゴッド、サバーニャ、そしてシノブも手を挙げた。

 

「はいけって~い。③番ね、理由は後で聞くわ。ソウ君、カルナちゃんにポップコーンを買ってあげなさい。それでご機嫌をとるのよ」

 

………………

…………

……

 

「は、はいわかりました。カルナ、ポップコーン買ってあげるよ」

「ぽっぷ……ってなに?」

「う~ん……乾いたトウモロコシを破裂させた白いお菓子かな。美味しいぞ」

「えっ!? お菓子あるの!?」

「あぁ、ほらあそこに」

 

 指をさした先には売店があり、そこには店員のお姉さんが出来立てのポップコーンを容器に詰め、お客さんに笑顔で手渡していた。

 

「わ~い! お菓子食べる食べる~!」

 

 と、カルナの表情が急にパァっと明るくなり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。そんなテンション高めのカルナを宥めつつ、俺は手を引いてポップコーン売り場に向かう。

 

「え~っと、塩味にキャラメル味に季節限定バナナキャラメル味なんてのもあるのか。カルナはどんな味がいい?」

「ん~……わかんないからソウシに任せる~♪」

「あ、そう。……姐さん、どの味がいいか選択肢出てません?」

 

 と、俺は小声で姐さんに通信を送る。

 

『アホ。そんなとこまで出るわけないでしょ! 味ぐらい自分で決めなさい!』

 

 ときたもんだ……。若干の理不尽さを感じつつも、軽く推理する。カルナが子供だという点を考慮すれば、ここは甘いキャラメル味かバナナキャラメル味を選ぶべきだろう。しかし、映画の後に昼食を食べることを考えると……。

 

「すいません、塩味のMサイズ一つ下さい」

 

 無難な塩味にすることにした。

 

………………

…………

……

 

「はい、それじゃあ理由を聞くわね」

 

 ソウシ達がポップコーンを購入したのを確認し、改めてシノブは他のメンバーに選択肢の理由を尋ねる。

 

「それはやっぱり映画を観るなら食べ物が欲しいからでござるよ」

「俺はどっちでもよかったんだけどよー、強いて言うなら飲み物かなって感じで」

「私もー。映画とか見るときは集中したい派だから」

 

 というのが各々の創主(マスター)達の理由だった。

 

「で、あなた達は?」

 

 と、今度はマシンソウルの側に理由を聞く。

 

「俺はどうせタダで食いもん食わせてくれるならそりゃあそっちの方がいいからさぁ」

「ワシは菓子はあまり好まぬ。ジュースというか、飲み物があればそれで良い」

「私は……そ、その……なんと言いますか……」

 

 と、サバーニャはなぜかもじもじとして、顔を赤らめ俯いて声も小さくなる。

 

「えっ、なに?」

「あ、あの…………え、映画を観るとき、ジュースを飲むと……わ、私だけかもしれないんですけど…………すぐに行きたくなっちゃうんです……」

「どこに?」

「えっ!? そ、それは……その…………お、おし……おしっ……―」

「わーっ! さ、サバーニャ! それ以上ははしたないぞい!?」

「へうっ!? す、すいませぇへん!! へぶっ!?」

 

 慌ててザクが止めに入るが、目を「><」な形にしてサバーニャは勢いよく頭を下げた。が、勢い余って前の座席におでこをぶつけてしまった。

 

「だ、大丈夫サバにゃん!?」

「うぅ……恥ずかしい……そんな風になってしまうのは私だけなのでしょうか……」

 

 恥ずかしさのあまり、頭から湯気が出るくらいに顔を真っ赤にして、サバーニャは頬に手を当てて俯く。

 

「あ、安心せい! おぬしだけではない! 言われてみれば確かに、わしじゃって映画を観ている時に厠に行きたくなったら困るからな」

「えっ? じゃあ……」

「うむ、その気持ちは十分にわかるぞ」

 

 と、ザクはサバーニャの額を優しく擦ってあげた。それを聞いてサバーニャは安堵の表情をする。それを見てタクオは「ザクきゅん、ナイスフォロー」と小声で呟きながらガッツポーズをとる。

 

「うんうん、確かになんでかわからないけど、映画観てる時って肝心なところでトイレ行きたくなるよね~。で、重要なシーン終わって行って戻ってきたら重要な会話終わった後だったりね……ほんと困るわよねぇ、あれ」

「えっ? ということはシノブお姉さんも……?」

「うん、同じ理由。私ってただえさえ昔っからおしっこ近い体質なのに困っちゃうわよ」

 

 あっ……そこは隠さずにダイレクトに言っちゃうんだ……と、その場に居る全員が同じことを思ったがあえて口には出さず、そのまま聞き流すことにした。

 

「でもお姉さん、なんでそんなことを聞くんですか?」

「うむ、ただの選択肢にそんな深い理由など必要ないようにも思えるが……」

「まぁまぁ、これはちょっと私の方でデータとして欲しいのよ。さて、そろそろインカムとカメラの電源を切っておきましょうか」

 

 と、パソコンに映し出される画面が劇場へと入ったところでシノブがそれらの電源を切り、画面には「POUSE」の文字のみが映し出される。

 

「え? なんで切っちゃうんですか?」

「あら、だって映画泥棒は犯罪じゃない♪」

 

 もっともな理由ではあるのだが、この人が言うと違和感しかない……という感覚をまた全員で感じながらも、映画が終わるまでの約2時間の間、一行はここでひとまずの休憩をとることにした。

 

………………

…………

……

 

 映画を観初めて約1時間ほどが経過した。映画のストーリーも今がちょうど最高潮の盛り上がりを見せているところであり、劇場に入る前はあれほど不満がっていたカルナも今は思わずポップコーンの手が止まるほどに映画に見入ってしまっている。その隣ではレギーラが腕を組んだまま微動だにせずじっとスクリーンの方を見つめている。バイザーをかけているためちゃんと見えているのか妖しいところだが、おそらくかなり集中して見ているのだろう。

 ちなみに、席は真ん中の列をとり、一番右の通路側をファントムが座り、その左隣が俺、カルナ、レギーラの順番に座っている。

 中盤のバトルシーンが終わり、少し一息ついたところで再びカルナのポップコーンを食べる手が動き出す。それを横目に微笑まし気に見ていると、ふとカルナの手が止まり、じーっと隣のレギーラの方を見ている。レギーラもその視線に気が付いたようで、同時に疑問に思ったのか、思わずスクリーンから目を離しカルナの方に目線を向ける。

 

「はい♪」

 

 他の客に迷惑にならないほどの小声でそう言い、カルナはポップコーンの容器をレギーラに差し出す。

 

「いや、私は……」

「美味しいよ?」

「…………」

 

 流石に相手がカルナであってもあのレギーラが誰かの施しを受けるとは思えない。やんわりと断るのだろうと、そう思っていた。が、レギーラはしばしの沈黙の後、ポップコーンへと手を伸ばした。

 

「……頂こう」

 

 意外にもレギーラはポップコーンを一つまみすると、それを自分の口へと運んだ。それを見てカルナはより一層笑顔になった。

 

「はい、ソウシも♪ ファントムにもあげてね」

「あ、あぁ……ありがとう」

 

 面食らってしまった俺にもちゃんと分けてくれるようで、俺はポップコーンを適当な数掴むと隣のファントムにも分け与える。

 

「見たか?」

「えぇ……意外な光景でした」

「だよなぁ……」

「まさかあの場面で仮面レイヤーデコードの宿敵、アポロガイウスが登場するとは……」

「そっちじゃない!」

 

………………

…………

……

 

「いやぁ、案外面白かったなぁ」

「はい。子供向けと思って侮っていましたが、思わず夢中になってしまいました」

 

 それからさらに1時間後、映画は終わり、俺達は劇場から出る。映画は思っていたよりも面白く、脚本も戦闘シーンもとてもクオリティが高かった。これならばカルナもきっと気に入ってくれたはずだ。

 

「カルナ、初めての映画はどうだった?」

「うん! すっごく面白かった!」

「カルナはどの仮面レイヤーが好きですか?」

 

 今回の映画は俗にいうオールスター出演の作品だ。昭和から平成まで、全てのレイヤーたちが一堂に集結し、共通の悪と戦うというのが大まかなストーリーだ。

 

「え~っとね、仮面レイヤージャングルが好き!」

「ほう、渋いな」

 

 “仮面レイヤージャングル”はその名の通り、変身者はジャングルで生まれ育った野生児という設定であり、従来のレイヤーとは異なり、呪文を唱え魔術的な方法で自身の肉体そのものを変身させ、生物的なフォルムのレイヤーとなる。片言で肉体派な攻撃を繰り出すことで有名だ。

 

「私は仮面レイヤーファントムですね」

「ファントムと同じ名前だからか?」

「それもありますが、一度死んだという設定が惹かれますね。やはり、戦士というのは敗北を知ったときに本当の強さを得るものなのだと感じました」

 

 “仮面レイヤーファントム”は、去年まで放送していた比較的新しい仮面レイヤーだ。変身者は放送初回で敵に殺されてしまい、その後は幽霊の身でありながら仲間を守るために戦うというストーリーだ。成仏してしまうまでの1年間、徐々に薄くなっていく自分の身体を必死に現世に留めながら奮闘する姿はなかなかの感涙ものだ。

 

「俺はやっぱり仮面レイヤービートルだな。あのキメ台詞、かっこいいよなぁ」

「『おじいちゃんが言っていた……俺は天の(サガ)を持つ、才能の(いしずえ)だと』、ですか?」

天性才礎(てんせいさいそ)、やっぱかっけぇよなぁ。あの作品はレイヤーたちのバトルスタイルも独特だし」

 

 “仮面レイヤービートル”はその名の通り、カブトムシをモチーフとした仮面レイヤーだ。作中に登場する他のレイヤーや怪人も昆虫をモチーフとしたものであり、昆虫らしく外部アーマーを脱ぎ捨てる「脱皮」と呼ばれる戦い方が特徴だ。主人公である「天性才礎」は清々しいまでの俺様系キャラなのだが、時折見せるシュールさと敵に単啖呵を切るときのキメ台詞(とかなりのイケメンビジュアル)が人気を博し、長年仮面レイヤーシリーズの上位人気キャラクターにノミネートされている。

 

「俺も中学時代はよく真似をしたもんだ」

「ところでレギーラはどのレイヤーが気に入りましたか?」

 

 と、ファントムは思い出したかのように、劇場を出てからずっと腕を組んで黙り込んでいるレギーラの方を向き、質問を投げかける。

 

「ふん、愚問だな。いいか、仮面レイヤーたちは全てがそれぞれ異なるモチーフと戦い方、境遇、そしてなにより年代が分かれているのだ。見る層によって好みが千差万別なのは当然といえる。だが、私はあえて言わせてもらおう!」

 

 唐突にレギーラは声を張り上げ、拳をグッと握る。「なんだかめんどくさいことになったな……」と、俺とファントムは若干引き気味になる。

 

「私は全てが好きだ! 全ての仮面レイヤー、そのビジュアル! 戦士として戦うことに至った境遇! そして戦い方! その全てを受け入れる! それが平和を守るために日々奮闘する彼らへのせめてもの謝礼となるのだろうと……―!」

「わ、わかったから話は後で聞くからちょっと落ち着いて外に出よう。な?」

 

 ただでさえバイザーを被っていて人の目を集めるのに、館内で堂々とこんなことを宣言されたら溜まったものじゃない。俺とファントムは不満そうなレギーラの背中を押し、ひとまず映画館を後にした。時刻は12時30分、昼食をとるにはちょうどいいくらいの時間だ。

 

『ソウ君、喜びなさい』

 

 その時、再び電源が入ったインカムからシノブ姐さんの声が聞こえた。

 

………………

…………

……

 

「映画を観たおかげで3人のソウ君に対する好感度が10~30%も上がったわよ」

『本当ですか!? よかったぁ……』

「あら、なんだか嬉しそうじゃない。もしかして、やっぱりソウ君にもそういう気があるのかしら?」

 

 と、シノブは意地悪く微笑しながらソウシに問う。

 

『そ、そんなことありませんよ! ただ、カルナからポップコーンを貰った時、レギーラはやっぱり喜んでたんだなぁと思って』

「レギーラがカルナちゃんのを?」

『えぇ、意外な光景だったので思わず見入ってしまいましたよ』

「ふぅん……興味深いわね。後でまた詳しく聞かせてもらうわ。さて、じゃあ次の選択肢を選びましょうか。……って」

 

 後部座席側を振り向いたシノブは、そこで一旦言葉を止め、息を溜める。

 

「やっぱ今期アニメは“サテラの魔法育成計画”一強でござるなぁ」

「え~、“銃剣乱舞”だよぉ!」

「お前らマジで言ってんのか? “ジャジャ4部”を挙げないとか感性疑うぜ」

 

 その一方で創主(マスター)3人はパソコンで動画内にコメントが打てる大手動画サービスサイト、“笑笑動画”で公式配信されているアニメを見ていた。

 一方のマシンソウル達は。

 

「この人がお嬢様の推し実況者さんなんですよ~」

「あっ、この人ならお兄ちゃんもよくゲームの実況見ておるぞ」

「へ~、結構面白ぇな」

 

 同じくパソコンで笑笑動画に投稿されているゲームの実況動画を見ていた。

 

「あんた達ねぇ! なに人のパソコンで笑笑動画見てんのよ! 目標が動いたわよ! さっさとゲーム画面に戻しなさい!」

 

 シノブの大声に動画に夢中になっていた一行はビクッっと体を震わせる。

 

「えっ、もう映画終わったのでござるか?」

「アニメ見てると時間経つの早いねぇ」

「俺、この実況の次の動画見てぇんだけど……」

「後にしなさい! 早速次の選択肢が出てるんだから!」

 

 一同はぶーぶーと文句を言うが、シノブの言葉で一喝され、渋々笑笑動画のウィンドゥを閉じ、先程のギャルゲー画面に戻す。

 ギャルゲー画面には、確かに新たな選択肢が表示されていた。

 

 

 

『昼食はなにを食べよう?』

 

①ちょっとお高めレストラン

②駅前デパート内のフードコート

③さくっとそこら辺で済ませられるファストフード

 

 

 

「お昼ご飯か……そういえば、お腹減ったね」

「確かに……もう12時過ぎてるでござるからな」

 

 タクオがぽっちゃりしたお腹を擦りながら、グゥ~と腹の虫が鳴る。

 

「この選択肢を選んだら、そこらのコンビニで何か買ってきましょ」

「けどよぉ、この選択肢、午後にどこに行くかによって左右されるんじゃねぇか?」

「どういう意味だ? ご主人」

「考えてもみろよ、レストランは駅から結構離れた銀座街にあるし、フードコートに行くなら必然的にデパートの中も回って行くことになるだろ。ファストフードっていや、この辺なら歓楽街のワクドナルドが一番近い」

 

 銀座街はそのレストランを初めとする高級なブランドを扱う店が揃っているため、学生身分のソウシ達が行くには少し不相応だ。歓楽街は、カラオケやボーリング場といった遊べる施設が揃ってはいるが、先程の選択肢に出た(大人な意味での)ホテルをはじめとする、ややいかがわしい店が結構あるため、カルナへの影響があまりよろしくない。

 

「それに、この時間帯じゃどこも込み合うだろうけど、フードコートなら割と簡単に席が確保できるし、他の選択肢ほど注文に待たされる心配もないんじゃねぇか?」

「なるほど……ご主人の言うことにも一理あるな」

「でしたら、午後はデパートの中を回ってみるのは如何でしょう?」

「うむ、デパートの中なら買い物も楽しめるし、女子と共に選んだりもできるじゃろう」

「ふぅん、トモ君にしては珍しく論理的な選択ね」

「へへっ、だろ? ……って、珍しくは余計だっつーの!」

「じゃあソウ君には②番を伝えるわね」

 

………………

…………

……

 

 シノブからの通信を受け、ソウシ達は駅前デパートのフードコートに来ている。お昼時という時間帯のため、案の定フードコートはデパートの買い物客でいっぱいだが、なんとか4人分座れる席を見つけ、そこに椅子を4つ(カルナは子供用の少し座高の高い椅子を)持ってくる。

 

「席と荷物を取られないように交代で注文に行くか」

「ではマスターとカルナが先に行ってきてください。ここは私とレギーラが残ります」

「そうか、じゃあ頼むよ」

 

 そう言ってソウシはカルナを連れて売店の方に向かった。後に残されたファントムとレギーラは、互いに向かい合って座る。が、レギーラは正面に座るファントムの方を向かず、机に頬杖をついてソウシとカルナの背中を追っていた。

 

「……なにを企んでいる?」

「なんのことです?」

 

 目線を合わせぬ状態のまま、ぼそりと呟くレギーラ。それに対してファントムは全く心当たりのない様子で問い直す。

 

「とぼけるな。先程からあの男が小型通信機で何者かとやりとりをしているのはわかっている。大方あのシノブとかいう女の指示なのだろう」

「あぁ、そのことですか」

 

 このデートにおいて、ソウシがシノブと通信を介しているのを、ソウシはレギーラ、ファントム、カルナには明かしていなかった。しかし、レギーラとファントムはそのことをとっくに察していた。

 

「あの御人の考えることは私にはわかりかねます。名目上は貴女のマシンソウルの安定を図るためのこととされていますが、それも詭弁でしょう。私達にとても興味があるようですから、本命はそのデータ収集だと思われますが」

「マシンソウル……か」

 

 尚も洋食料理店の行列に並ぶソウシとカルナの姿を見つめながら、レギーラは小さく呟いた。

 

「創造主から聞いた。私は暴走時、わけのわからぬことを言っていたようだな」

「……はい」

 

 レギーラが言っているのは、先日リバイバルしたての状態だったレギーラが暴走状態になったときにファントムに対して発した謎の問いかけのことだった。

 あの時、レギーラはシノブが現場に到着し、ソウシ達に説明するよりも先に“マシンソウル”という言葉を発した。初めて聞く単語の筈なのに、まるで以前から知っているかのように……。さらにそれと共に、レギーラは“一族の繁栄”という言葉を口にし、そしてファントムのことを“スメラギノミコト”と呼んだのだ。

 

「その時のことを、覚えていないのですか?」

「あぁ……だが何かが頭の中で引っかかっている。マシンソウル、一族の繁栄、そしてスメラギノミコト……この言葉を口にすると不思議な感覚がする。なんというか、その……」

「?」

 

 頬に当てた右手を頭に当て、考え込むレギーラ。次に発すべき言葉がなかなか見つからず、困窮している様子をファントムは訝し気な様子で見つめている。

 

「……懐かしい……という言葉が相応しいのだろうな」

「懐かしい、ですか?」

 

 それは、彼女らマシンソウルにとっては最も無関連なワードだった。なぜなら、彼女たちがマシンソウルとして覚醒してからはそれほど長い月日が経ってはいない。「懐かしい」と思える事柄をそもそも体験したことが無いのだ。

 

「その感覚は……私には分かりません」

「ふん、元より貴様などに理解してもらおうなどとは思っていない。だがいずれ全てが明らかになる時が来るだろう。わかるな? その時が来たなら、お前は私と……」

「えぇ、真の意味での決着をつける、ということですね」

「その通りだ。決着の場で互いに下らぬ疑問など残したくはないからな」

 

 そう言ってレギーラはこの場で初めてファントムと目線を合わせた。宿敵を前にして互いに敵意をぶつけ合う、そんな状態だった。

 

「お待たせ。いや~、結構時間かかっちまったな」

 

 と、その時注文を済ませたソウシとカルナが席の方へ戻ってきた。手には店側から渡された数字の書かれた無線機を持っており、注文した料理が出来たらこの無線機から音が鳴るという注文システムだ。

 

「前の列の人が友人だかを間に入れてさぁ、それで時間かかって……って、二人ともどうしたんだ?」

 

 堅い面持ちで互いを睨みあっていた二人に対し、ソウシは声をかける。その言葉に互いの目線が離れた。

 

「いや、別に……」

「レギーラ、もしかして……怒ってるの?」

「お、怒ってなどいない!」

 

 カルナが不機嫌そうな表情のレギーラを見て、不安げに語り掛ける。

 

「私達も食事を注文してきます。この場はマスター達にお任せしてよろしいですか?」

「おう、行ってこい」

 

………………

…………

……

 

「しかしお前……」

「……なんだ?」

 

 俺は注文してきたパスタを食べながら、俺の正面の席に座って焼きおにぎりを食べるレギーラを眺めながらつぶやく。

 

「そんなものでよかったのか?」

「別にいいだろう。問題はない」

 

 とは言うが、その焼きおにぎりというのが店で買ったものではなく、フードコートの端に置いてある食品用自動販売機で買ってきた、3個入りで350円という安っぽさ極まりないものだった。なので、ファントムがまだ注文中の最中、いち早く俺達のところに戻ってきたため少し面食らってしまった。

 

「食べ物であればそれでいい。満腹になってしまえば何も変わらんだろ」

「いや、それは……! まぁ、お前がいいならいいけど……」

 

 正直言うと、主夫派な俺にとっては「食べられればなんでもいい」的な考え方は一言物申したいところではあるのだが、ここは好感度のこともある。あまりレギーラの機嫌を損ねる発言は控えた方がいいと考え、ぐっと言葉を胸の奥へと押し込む。

 ちなみに、それとは全く対照的にファントムは有名ラーメン店の醤油ラーメンを注文してきた。ラーメン店の味だけは流石の俺でも再現不可能なので、ファントムはこの機を逃すまいとばかりに俺の隣でそれをずるずると啜っている。そしてカルナは俺と同じ洋食屋さんで注文してきたオムライスを実に美味しそうに頬張っている。

 

「レギーラ、食べる?」

 

 と、レギーラの隣に座るカルナが、俺の言葉で食事に不満ができてしまったのではないかと思い、レギーラにオムライスを掬ったスプーンを差し出す。

 

「い、いやいらん! 余計な心配は無用だぞ」

「そう? あむっ」

 

 差し出したスプーンを自分の口元へと持っていき、そのまま食べるカルナ。それをじっと見つめる若干困惑顔なレギーラが、先程のポップコーンの件と相まって実に微笑ましい。それがとても新鮮な感じに見えてしまい、俺も思わず笑みがこぼれた。

 

「貴様、今私を笑ったな?」

「えっ!? あ、いや……!」

「正直に言え! 何が可笑しい!?」

「わ、笑ってない笑ってない!」

「嘘を言うなっ!」

 

 と、凄みのある声色と共に突然胸倉を掴まれてしまったため、弁解するしかできない俺を、レギーラはバイザーの奥からギラギラと眼光を燃やして睨みつける。

 

「レギーラ、その辺にした方が身の為だと思いますよ」

 

 ふぅふぅと熱い麺に息を吹きかけながら、諭すように語り掛けるファントム。珍しい……いつのもファントムなら、ここで俺を守るために身を挺してくれると思ったのだが……。

 だが、その理由がすぐわかった。周囲の客たちの視線が俺達の方を向いている。ただでさえ目に変なバイザーをつけた褐色肌に薄い紫髪という、あまり普通ではない容姿の少女なのだ。自然と周囲の目を集めてしまう。ファントムもこの人ごみの中で騒ぎを起こしたくはないから、あえて自分から手を出さないのだ。

 レギーラもそれを理解したのか、やがて「フン」と鼻を鳴らして手を離し、俺は元の席についた。その途端に周囲の視線は(多少)離れた……気がする。

 

「そ、そういえばさ、お前……」

「……今度はなんだ?」

「そのバイザー、恥ずかしいから外したくないんだってな」

「んなっ!? き、貴様ぁ……! 一体誰から聞いた!?」

 

 珍しくレギーラがかなり動揺している。やはり話は本当だったようだ。

 

「決まってるじゃないか、レイナからだよ」

「ぐっ……創造主めぇ……全く余計なことを……!」

 

 拳を固く握り、身体をわなわなと震わせ、ギリギリと歯を食いしばるレギーラ。先程の教訓からか、今度はもう俺に掴みかかったりはしないようだ。しかしこの反応を見る限り、本人はよほど俺達に知られたくなかったことらしい。

 

「その話、本当ですかマスター?」

「あぁ、当人がこの様子なんだから本当なんだろ」

「レギーラ、隠すのが下手だね♪」

「くっ……!」

 

 もはや何も言えなくなったレギーラは、顔を俯かせ時折悔し気な声を漏らすだけだった。

 

「ですが、これでようやく謎が解けました。レイナがあの時、何故私にレギーラのバイザーを攻撃しろと言ったのか。そしてバイザーを割られたレギーラが、なぜあそこまで動揺したのかを」

「あぁ、それも一重に“恥ずかしい”からだったんだな。意外とかわいいとこあるじゃねぇか」

「……いい加減に黙らないとその舌を切り落とすぞ」

 

 と、威圧的な低い声色でそんな物騒なことを言われてしまったため、いい加減俺も口を閉じることにした。正直、この話をレイナから話された時、俺も「まさか」とは思った。けど、考えてみれば彼女たちはガンプラではあるが、同時に“女の子”だということを忘れていた。外観的に考慮すると、人間でいえば15~17歳といったところ、まさに花も恥じらうお年頃だろう。そりゃあ恥ずかしいと思うところ、またはコンプレックスなんかもあるのだろう。レギーラにとっては、それがたまたま“自分の素顔”だったというだけの話だ。

 

「よし、じゃあこうしよう! この後はデパートの中を色々見て回るからさ、その時にレギーラのバイザーの代わりになるようなのを探そうぜ」

「なに……? これの代わりだと?」

機動鎧(モビルアーマード)着ている時ならまだしも、今日みたいに普通の服装の時はそのバイザーはかえって目立つだろ? 今更とは思うけど、何か代わりはないか探してみようぜ。要はそれみたいに目元が隠せればいいんだろ?」

「それはそうだが……そんな都合よくあるものなのか?」

「ここは県内でも有数な大型デパートだ。特にファッションには力を入れているから、きっとあると思うぞ」

「そ、そうか……いや、実を言うと、私も先程から一般人の視線が気になっていたところだ……。代わりがあるというのであればありがたい」

「決まりだな。よし、午後はみんなでデパートの中を見て回ろう」

「はい」

「うん♪」

 

 というわけで午後の予定も決まり、食事を食べ終えた俺達は食器を店に戻し、フードコートを後にした。

 

―続く―




ここんところバトル回ばっかだったのでここらでひとつデート回を入れようと思いました。
この話でキャラ達の魅力が掘り下げられれば幸いですw
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