機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 午前に引き続き、午後もレギーラ、ファントム、カルナとのデートは続く。
 この3人を今日一日の間で好感度を一定数以上に上げなければならないのだが、果たしてソウシは3人を満足させ、デートを無事完了させることができるのだろうか……?


第25話:「デート・ア・レギーラ ~後編~」

「おっ、ソウシ達動いたみてぇだな」

 

 車内にて、コンビニで買ってきたおにぎりを頬張っていたトモヒロは、画面が再び動き出したことに気づき、食べかけだったおにぎりを急いで飲み込む。

 

「でもどうする? お姉さんまだ帰ってきてないよ?」

 

 ペットボトルの紅茶を飲みながらオトメは言う。そう、シノブはというと、この場は創主(マスター)とマシンソウル達に任せて、自分だけどこかへお昼ご飯を食べに出かけてしまったのだ。

 

「ったくアイツ、自分からマシンソウルの安定がどうのこうのって言っておきながらだらしのねぇ」

「まぁまぁ、仕方ないでござるよ。もし選択肢が出たらこの場は僕らだけでどうにかするしかないでござるな」

 

 尚も2,3個菓子パンをコンビニのビニール袋の中に控えたままのトモヒロが、パンを頬張りながらもがもがとした口調で提案する。

 

「だな。おい、お前らも気合入れて選べよ」

「へ~い」

 

 食後ということもあり、後ろの席でだらけていたゴッド達もその言葉で重い腰をあげる。

 

「なんかトモヒロさん、なんだかんだ言っていた割に結構楽しんでますよね」

「うむ、意外と“ぎゃるげー”にはハマりやすい体質なのかもしれぬな」

 

 トモヒロには聞こえぬよう、サバーニャとザクが小声で話をする。その時、パソコンの画面から「ピコンッ」という音と共に選択肢と新たな場面が映し出される。

 

「おっ、さっそく出てきたぞ」

 

 その場面とはデパートの衣服売り場。情景はレギーラのバイザーの代わりになりそうなものを選ぶというものだった。

 

 

 

 

 

―――――第24話:「デート・ア・レギーラ ~後編~」―――――

 

 

 

 

 

『レギーラの顔を隠す物……なにがあるかな?』

 

①伊達メガネ

②サングラス

③サンバイザー

 

「なるほど、また無難なところを選んできたでござるな」

「私、直感で言うけど①番の伊達メガネがいいと思うよ」

「その心は?」

「一番自然っていうか、当たり障りがないっていう感じ。レギーラさんってリバイバルの影響かちょっと雰囲気が大人っぽくなったからメガネ似合うと思うんだ」

「でもメガネ程度では顔を隠していることにはならないのではござらぬか? レギーラ殿の“恥ずかしい”と思ってしまうのは、あくまで自分の顔の全てを曝け出してしまうことなのでござろ?」

「あっ、そっかぁ……」

「というわけで僕は②番のサングラスを推すでござるよ。大人びた雰囲気というのであればサングラスも似合うと思うでござるし、目元が外見からは見えなくなっているので一部顔を隠していることになるでござる」

 

 と、タクオがうんうんと頷きながら若干ドヤ顔で答えた。

 

「待たれよお兄ちゃん。それならばいっそ顔全部が隠れる③番のサンバイザーでいいのではないかの?」

「えっ、ザクさんいくらなんでもそれは……」

「ないな」

「ないわね」

「いくらなんでも……ないよな」

「なっ!? なんじゃとぉ!?」

 

 ザクの意見を速攻で切り捨てるメンバー。本人は結構理にかなった答えをしたつもりをしていただけにショックは大きい。

 

「お、お兄ちゃん……? お兄ちゃんはわしの意見を取り入れてくれるじゃろ……?」

「いや……ごめんザクきゅん。僕もサンバイザーだけはないと思うでござるぞ」

「なっ!?」

「というか、ザクきゅんもまさかそれ本気では言ってないでござろ?」

「なぁあっ!!?」

 

 その言葉がトドメとなり、ザクは膝を抱えて隅の方を向いて拗ねてしまった。

 

「でもこれじゃあ意見まとまんねーなぁ」

「そもそもデパートにある商品で顔を隠す商品ってこの3つに限らないでござろ?」

「じゃあいっそのこと、レギーラさんに色々試着してもらえば? ……一応サンバイザーも含めてさ」

 

 オトメの提案に、沈んでいたザクもピクリと反応する。

 

「そうだな、デートの話題作りにもなるし、それでいくか」

「なんかこのゲームの根幹を否定する選択になったけど……まぁ面白そうだしいっか」

 

 と、ギャルゲー画面を眺めながらゴッドは呟いた。

 

………………

…………

……

 

「しかし、本当にこのデパートの衣服売り場は広いなぁ」

 

 2階の売り場は、フロアのほとんどが衣服に関するものの商品となっている。いくつもの衣服専門店がひしめき合っており、オマケにフロア全体がかなり広いときた。これならばレギーラのバイザーの代わりになりそうな物の一つや二つは見つかるだろう。

 

(え~っと……さっきトモヒロ達から受けた指示は確か『似合いそうなものを手あたり次第』だったな。選択肢とか出るって聞いてたけどそれに従わなくっていいのか……?)

「どうしたのですかマスター?」

「ソウシ、置いてっちゃうよ~!」

「あぁ、はいはい」

 

 てなことを考えていたが、置いてかれそうになってしまったため考えるのを一旦止め、とりあえず色々試してみることにした。

 

「レギーラ、これはどうだ? 完璧に顔を隠せるぞ」

 

 まず最初に目についたのが、車やバイクなどのカー用品を取り扱っている店舗で見かけたバイクのヘルメットだった。(何故衣服コーナーにこんな店があるのかは疑問だが、なにせ広いフロアだからとりあえず空いたスペースに入れたのだろうと思い至った)

 俺はその中で黒い色のものを手に取り、レギーラに差し出す。

 

「……これを日常的に被っていたら不審極まりないだろ」

「だよな」

 

 と、手に取るまでもなく一瞥しただけであっさりと否定されてしまった。

なんとなくわかってはいたが、こうもバッサリと切り捨てられるとちょっぴり心が痛む。ならばと、俺はヘルメットを陳列棚に戻し、その隣の店で別のものを選ぶ。

 

「よし、じゃあこれだ。お前仮面レイヤー好きだろ?」

「なにっ!? もしや仮面レイヤーのマスクか!?」

「い、いや……いくらなんでもそんなもんこの店には無いよ。その代わりにこれだ」

 

 と、仮面レイヤーと聞いて予想以上の食いつきを見せたレギーラに対し、(ちょっと引き気味になりながら)俺は黒い布製のマスクを差し出す。レギーラはそれを訝し気な表情で手に取り、布端を摘まんで広げた。黒いそのマスクは、頭からスッポリ被る覆面タイプのもので、目、鼻、口の部分に穴が開いて、その縁は白いラインが入っている。そして額の部分には白い鳥のマークが入っている。

 

「これは……」

「ジョッカー戦闘員のマスクだ」

 

 “ジョッカー”とは、主に昭和時代の仮面レイヤーシリーズに登場する悪の組織の名だ。仮面レイヤーに詳しくない人でも、その名くらいは聞いたことがあるだろう。そして同様にその組織の下っ端戦闘員も、「キーッ!」という甲高い声で返事をすることで有名だ。

 この店はパーティーグッズを専門に取り扱う店なのでこういうちょっとしたコスプレ衣装も置いてあるのだ。

 カルナとファントムは、それを被っているレギーラの姿を想像してしまったのだろうか、後ろの方でクスクスと笑いあう。

 

「それなら日常的に被ってても、ちょっと熱心な仮面レイヤーのファンだと思われるだけで別に不審者には思われないだろ。多分」

「……貴様、やはり私をおちょくっているなっ!?」

 

 瞬間、レギーラのバイザーに赤い走査線が走り、右手で俺の首を掴むとギリギリと締め上げる。

 

「ぎぇっ~~~!!? ぐっ、ぐる゛じい゛~~~! じ、冗談だってば! ぐぅっ……!」

 

 その力は俺の身体を軽々と片手一本で持ち上げるほどだ。俺は苦しさのあまり今まで出したこともないような声をあげながら、足をバタバタとさせる。

 

「やめなさいっ!」

「なっ……!?」

 

 その時、急にレギーラの力が緩み、俺は床に尻もちをついて落下する。ゴホゴホと咳き込むなか、レギーラの方に視線を向けると、わたわたと慌てている様子が見えた。そしてファントムの手には、レギーラのバイザーが握られていた。

 

「そ、それを返せ!」

「貴女のためを思ってマスターが選定してくださっているのにそのような蛮行に及ぶというのであれば、こちらも実力行使させてもらいます!」

「か、返せと言っている!!」

「マスターに謝るまでは返しませんっ!」

 

 レギーラは恥ずかしさで真っ赤になった顔を片手で覆い隠しながら、同時に鋭い正拳突きやキックをファントムに対して繰り出すが、隠すのに必死で狙いが合わず、ファントムはそれを悠々とかわす。

 

「ソウシ、大丈夫?」

「あ、あぁ……」

 

 不安げに俺の顔を覗き込むカルナ。絞められた首を擦りながら、俺は立ち上がり、しばらく二人の様子を眺めていた。

 

「はぁ……はぁ……」

「ほーら、欲しければ自分で取ってごらんなさい」

「くっ……! お、おのれぇ!」

 

 機動鎧(モビルアーマード)も纏わずに格闘技を繰り出していたために、レギーラがバテるのは早かった。それと対照的に、ただ避けていただけのファントムは余裕気にバイザーを高く掲げてレギーラを挑発する。

 

「調子に乗るなよ……この量産機風情が!」

「なっ!? それは今関係無……ぐふっ!?」

 

 “量産機”と呼ばれ少し態度を乱したファントムに、その隙をついてレギーラはタックルをかました。ファントムの腰辺りに飛びついたレギーラは、転倒したファントムともみくちゃになりながらバイザーを取ろうと奮闘する。

 

「このっ……! 大人しく返せ……! あぐっ!?」

「マスターに……謝るまでは……返しませ……きゃんっ!?」

 

 互いに髪を引っ張り合ったり、ボディブローをかましたりと、床の上で散々なことになっている二人に、そろそろ周囲の人たちの視線が集まり始めたところで俺は止めに入ることにした。

 

「おい二人とも、もうその辺にしておけ。ファントム、レギーラにバイザーを返してやれ」

「えっ……? あっ、は、はい……」

 

 俺の言うことには素直に従い、ファントムはバイザーを掴む力を緩めた途端、レギーラがそれを奪い取り、すかさず自分の目元に被せる。

 

「全く、手間を取らせる……」

「まだそんな態度を……!」

「二人ともよせ! これ以上騒ぎを起こすと人を呼ばれるぞ!」

 

 と、俺の押し文句が功を奏したのか、二人とも睨みあうだけでもはや喧嘩を起こす気はないようだった。

 

「はぁ……全く、どうしてこうなったんだ?」

「ソウシの悪ふざけのせいでしょっ! めっ!」

「うっ……ごめんなさい」

 

 カルナに怒られてしまい、さすがの俺も意気消沈してしまった。

 

………………

…………

……

 

「なんかえらい騒ぎになっちまったな……」

「これ、二人の好感度ダダ下がりなんじゃない……?」

 

 車内でその様子を、ギャルゲー画面を通して観察していた創主(マスター)達は、自分たちの選択が誤りで二人が喧嘩を始めてしまったのではないかと、それによって好感度が下がってしまったのではないかと危惧していた。

 

「いや、そうでもないでござるぞ。見るでござる」

 

 タクオの言葉で全員がパソコンの画面を見る。そこには、レギーラ、ファントム、カルナの3人の好感度がパラメーターとして表示されているのだが、ファントムとレギーラの2人とも好感度が先程よりも上昇しているのだ。

 

「これ、どういうこと?」

 

「ふむ、興味深いわね……」

 

 突然この場にはいなかったはずの人物の声が聞こえ、全員が騒然とする。

 

「あ、姉貴!?」

「いつの間に戻ってきたのでござる!?」

「遅くなってごめ~ん♪ この辺でお気に入りのカフェでランチタイム始まったからちょっと行ってきたの。お留守番ごくろうさまね~♪」

 

 と、特に悪びれる様子もなく持ち前のにこやかさで周囲をごまかした。

 

「ていうか車のドア空いた音しなかったんですけど……」

「細かいことは置いといて、なるほど、喧嘩するほど仲がいいとはまさにこの事ね」

 

 タクオの膝上に置かれているパソコンを覗き込んで見つめながら、シノブは顎に手を当ててふむふむと頷く。

 

「どういうことだよ姉貴?」

「あの二人は争っている時ほど気分に高揚感を得ているってこと。それが間接的に好感度となってパラメーターの上昇に繋がっているのね」

「争うことで……でござるか」

「それって、前にレギーラさんが言っていた『戦うために生まれてきた』っていうのと関係があるのかな?」

 

 オトメの言葉に、後部座席のマシンソウル達も顔を見合わせる。

 

「ま、今はまだよくわからないけどそこら辺はおいおい調べてみるとしましょ。じゃデートの続き。ソウ君、もうめんどくさいから、メガネかサングラスかサンバイザーで決めちゃってね」

「結局俺達の選択はいらないのかよ……」

 

………………

…………

……

 

「は、はい。となるとまずはメガネ屋か……あ、あった」

 

 周囲を見回すと、数歩歩いたところにメガネ屋があった。伊達メガネの販売も行っているため、まずはここでメガネの選定を行うとしよう。

 

「よし、じゃあレギーラ。まずこの赤いフレームのメガネ掛けてみてくれよ」

 

 言われるまま、レギーラは無言のまま試着用のメガネを手に取る。そして自分が被っているバイザーを外そうと、手をかけた。が。

 

「こ、こっちを見るな! 後ろを向け!」

「なんだよ、そんなちょっとの間だけなのに嫌なのか?」

「いいから後ろを向けと言っている!!」

 

 あまりにも必死に声を荒げるため、俺達3人はレギーラの方を見ないよう、そっぽを向く。俺達の姿が視界に入ってないことを確認すると、「カチャッ」という音が聞こえた。おそらくバイザーを外したのだろう。ここで振り向いてみようかとも思ったが、そんなことをすれば間違いなく殺されるだろうと思い、留まることにした。

 そして鏡の前で赤いメガネを掛ける……筈なのだが、それから数秒もしない内に再びバイザーが装着される音がしたため、俺達はレギーラの方を向く。

 

「どうしたんだ?」

「このメガネという物はダメだ! 欠陥が多すぎる!」

「いや、欠陥も何もこういう物だし……」

「ほとんど枠だけではないか! これでは顔を隠しているとはいえん!」

 

 実際はそこにレンズも入るんだぞ……とまで言おうとしたが、それでも外観上あまり変化はないし、レギーラを納得させるのは無理があるだろうと判断し、メガネは諦めることにした。

 

「惜しいなぁ……あのレギーラがメガネをかけたとこも見てみたかったんだが。なぁ、ファントム」

「へっ!? あっ、はははい!」

「……なにやってんの?」

 

 ふとファントムの方に話を振ると、ファントムは鏡の前で細長く黒いフレームのメガネを試着している最中だった。俺が話しかけた途端、慌ててメガネを外して後ろに隠した。が、俺はその瞬間を見逃さなかったので隠したのは無意味だと言える。

 

「す、少し興味を持ったので私も掛けてみようかと……しかしやはり私には似合いませんね! 眼帯が邪魔してますし……」

 

 そう言いながら、ファントムは後ろに隠していたメガネを棚に戻す。

 ファントムの左目はアストレアとの戦いで傷を負い、黒い眼帯が掛けられている。確かにその上からメガネを掛けても違和感があるのだろう。

 しかし、俺はそれを考慮してあえて提案する。

 

「ちょっと掛けてもらえないか?」

「えっ!? し、しかし……」

「メガネを掛けたファントムの姿を見てみたいんだ」

「うっ……わ、わかりました」

 

 と、ファントムは眼帯の紐に手をかけたが、俺はそこで待ったをかける。

 

「眼帯は外さなくていいよ。その上からで構わない」

「は、はい」

 

 言われるままに、ファントムは先ほどまで持っていたメガネを再び手に取ると、耳元の髪を上げ、メガネを掛ける。

 

「ど、どうでしょう……?」

「…………うん」

「や、やっぱり変ですよね! 眼帯の上からですし……そもそも私、メガネが似合うような容姿ではありませんし……」

「いや、似合ってる」

「えっ……?」

「ファントムって、髪が長いからメガネを掛けるとより一層知的な印象になるなぁ。メガネのフレームが黒いから、赤い瞳も際立って綺麗だ」

「えっ!? いえそのようなこと……」

「眼帯だって一種のファッションのアイテムだと考えると、目に関するアイテムを二つ同時に身に着けるのってアンバランスさが出て逆にいいね」

「うぅっ……そ、そのようなことを申されると困ります……」

 

 と、ファントムは顔を赤くし、気恥ずかしそうにもじもじとする。普段彼女のこんな反応を見ることはないためとても新鮮だ。思わず無意識のまま、もっと見ておきたいと思ってしまう。

 

「ふん、下らん」

「あっ!?」

 

 そんなことを思っていた矢先、レギーラはファントムの掛けていたメガネを奪い取り、棚の上に戻した。

 

「私のバイザーの代わりを探しているのだろう? 何故貴様らだけで盛り上がっているのだ」

「くぅ……! せっかくマスターのご要望にお応えしようとしたのに邪魔をして……!」

 

 またも二人が険悪な雰囲気に包まれつつある時、二人の間にカルナが割って入ってきた。

 

「ねぇ見て見て~。似合う~?」

 

 と、カルナ自身も子供用メガネを掛け、俺達の前でくるくると回りながらその視線を送る。踊るように回るため、獣の耳のようにはねた白い髪がふわふわと揺れる。その姿がまるで小動物を愛でるかの如くとても愛くるしく思え、俺達は思わず頬を緩める。

 

「あぁ、すげぇかわいい」

「天使のようですよ、カルナ」

「……悪くない」

 

 レギーラまでもがそんな声を漏らす。ここではレギーラの欲するアイテムを得ることができなかったが、結果的にカルナのおかげで好感度が上がったことだろう。

 さて、それでは別の売り場に向かおうとした時、唐突にインカムに通信が入った。声の主はシノブ姐さん……ではなくオトメからだった。

 

『ねぇねぇねぇソウシ君! ついででいいからちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいからソウシ君もメガネ掛けてくんない!? ソウシ君の総受メガネ男子姿絶っっっ対尊いから! ね? ね? お願いっ! あっ、ちょっと! 無視しないで! 勝手に場所移動しないでよ~う! ねぇ~!』

 

 尚もオトメの腐った声が続くようであればこのインカムを耳から外して床に叩き付けるところだったが、どうやら向こうでも止めに入ったらしく、それ以上オトメの声が聞こえることは無かった。

 

「さて、次はサングラスか」

「これなら目元全体を覆いますから顔を隠すことにもなりますね」

 

 サングラスのコーナーに来た。確かにサングラスであれば、黒いレンズで目元を視認しづらくできるため、素顔が分かりにくくなるはずだ。

 

「レギーラ、どうだ?」

「……どうにも私はこのサングラスというものを信用することができない」

「えっ、なんで?」

 

 レギーラはこの店の中で一番黒く、大きめのレンズのグラサンを手に持ったまま、またも訝し気な表情でそう言った。先ほどのメガネに比べればはるかに外部からの視認性は下がる筈なのに、一体何が不満だというのだろうか?

 

「かのクワトロ・バジーナはこのサングラスと偽名まで使って正体を隠していたにも関わらず、外部の人間からは『シャア』『シャア』と呼ばれまくっていたではないか」

「あっ……」

 

 言われてみれば確かに、クワトロ・バジーナという前例が存在するため、サングラスでは正体を隠すことは難しいかもしれない。

 

「そっかぁ……じゃあグラサンは無しだな」

「そういうことだ」

「ガンダム関連の話になるとマスターは急に物分かりが良くなりますね」

「ほんとだね」

 

 ファントムとカルナの会話を聞きつつ、俺達は別の売り場へと向かった。

 

「と、なると最後は……」

 

 そう、最後は三つ目の選択肢、「サンバイザー」だ。まさかこんなものを気に入る筈がないだろうと思いつつも、俺達は各種サンバイザーが取り揃えられている日用品コーナーに来た。

 

「ま、とりあえず気に入りそうなのがないか見てくれよ」

 

 まさかこんなものを気に入る筈がないだろうと思いつつも、そこに案内する。結果が目に見えているためか、若干投げやりな感じになるが、それでも念のためレギーラ自身に選ばせてみることにした。

 すると、意外な反応が返ってきた。

 

「ほう、これは良いものだ」

「ゑ“っ」

 

 なんてことを言いながら上機嫌で飾られているサンバイザーを手に取るもんだから、俺は思わず自分が出したことのない発音の「えっ」を呟いてしまった。

 

「外部からの視覚情報を完璧にシャットアウトし、内部からは外の様子が伺える。オマケにこれを被っていても不審に思われることもない。おまけにレディース用ときた」

 

 言われてそれをよく見てみると、そのサンバイザーはUVカットの処理が施された薄いクリアブラックのレンズと一体化したスポーツ用サンバイザーだった。見た目的には帽子とサングラスが一体化したような感じで、思っていたよりかは悪くない。被れば、スポーツ熱心な女性といった印象になるだろう。

 それに加えて、ここまで上機嫌な様子のレギーラを見たことがない。おそらくこれからもこれ以上の機嫌のレギーラを見ることはないだろうと察し、俺はこれを購入することにした。

 

「それでいいのか?」

「うむ、このデザインが良いな。これを一つ貰おう」

 

 と、レギーラは手にしたサンバイザーをレジの方へと持っていき、支払いは俺が済ませる。

 

「マスター、よろしいのでしょうか?」

「……ま、本人がいいって言うならそれでいいさ」

 

 思考を巡らせあれやこれやと考えていた割には、なんともあっさりした締め方となり、俺は少し意気消沈した。

 

「小僧……いや、ソウシよ」

「ど、どうした急に!?」

 

 サンバイザー購入後、突然レギーラから名前を呼ばれてしまったため、俺は驚愕する。今までレギーラからは「おい」「貴様」「小僧」と、散々な呼ばれ方しかされてこなかっただけに、名前を呼ばれたのにはかなり驚いた。思わずファントムの方を見てみると、彼女も驚いているようだった。

 

「紛いなりにも、今日は貴様のお陰でこのような良いものに出会うきっかけができた。それを一言、礼にして言いたくてな」

 

 らしくもなく素直なレギーラに、俺は若干の不気味さを感じる。が、ここで機嫌を損ねさせては元も子もないと思い、必死に会話を繋げる。

 

「そ、そうか。いや、こちらも喜んでもらえたようでなによりだ。まぁ機会があれば、これからもこういう付き合いは大事にしていきたいよな」

「は? なにを勘違いしている。私は貴様らとは敵対している関係だということを忘れているのか? 必要以上に慣れ合うつもりなど毛頭無い」

「あ、そう……」

 

 と、これまた急にツンツンになってしまったレギーラに、若干の理不尽さを感じつつも、俺はそれ以上何も言わないようにした。

 

「とはいえ、礼は言わせてもらう。ありがとう」

「……あぁ。どういたしましてだ」

 

 まぁレギーラ相手ならば、これくらいの距離感がちょうどいいのだろうと思いながら、俺達は次のデート場所へと向かうことにした。

 

………………

…………

……

 

「ほらほらほらほら! だから言ったじゃろ!? サンバイザーじゃと!」

「そ、そうですね……」

「まさか本当に選ばれるとは思わなかったぜ……」

 

 後部座席のマシンソウル達はザクに対して「ごめんなさい」と素直に謝った。それを見てザクはとても上機嫌な様子になった。

 

「でもそっかぁ、サンバイザーでもスポーツ用のなら結構オシャレなんだねぇ」

「俺はてっきりばあちゃんが被ってるような園芸用のかと思っちまったぜ……」

「くああっ! この僕としたことが! クワトロ・バジーナの例を失念していたとは……不覚でござった……」

 

 車の中でタクオは頭に両手を当てて思わず天を仰いだ。自称宇宙世紀マニアであるタクオにとって、この失念は自分にとって大きな痛手だと感じていた。

 

「フフッ、もしこの場にヤマナカ先輩が居たらその可能性を考えていたのかもしれないわね」

「そういえば姉貴、なんで独先生は今日呼ばなかったんだ?」

「実を言うと、呼ぼうか迷ったんだけど、あの人いると恋愛に関してあれやこれやと口出ししてきそうじゃない?」

「あ~、確かにそうですねぇ」

「自分はその恋愛一度も成就したことないでござるのにな」

 

 と、本人がいないのをいいことに普段怒られてばっかな3人は好き放題を言う。

 

………………

……………

……

 

「はーっくしょん!!」

 

 とあるマンションの一室、シャツと下着だけの姿でソファーの上で寝ていたヤマナカ先生が大きなくしゃみをする。それを聞いて台所で洗い物をしていたサザビーが居間の方に目を向ける。

 

「どうされました? ユリ」

「ううん……風邪ひいたのかも……」

「そのような格好で遅くまで酒盛りをしているからです……ところで、昨夜の合コンはどのような結果に……―」

「さ~て、今日は劇場版Zガンダム三部作見ながらもう1杯飲も~っと」

 

 サザビーの言葉を聞こえなくするように若干声のボリュームをわざとらしく大きくしてDVDプレーヤーのスイッチを入れにテレビの方へ四つん這いになって這っていく。

 

「まぁ、そんなことだろうと思いましたがね」

 

 それを見て何かを察したサザビーもまた、それ以上は追求せぬよう洗い物に戻った。

 

………………

……………

……

 

「まぁなにはともあれ、レギーラちゃんはこれで攻略完了ね」

「え、そうなんでござるか?」

「えぇ、画面を見て御覧なさい」

 

 言われるがまま、6人は手元のパソコンを覗き込む。そこには、嬉しそうな表情を浮かべたレギーラが、1枚絵のような演出で画面上で映し出されており、背景やテキストウィンドウにもキラキラとしたエフェクトがかけられてる。

 

「お姉さん、これって……」

「お察しの通り、エンディング画面よ」

「なんだそりゃ?」

「特定のキャラクターの攻略が完了した場合、そのストーリーの終了を意味する演出でござるよ、トモヒロ殿」

 

 タクオの説明にトモヒロは「へー」と納得した。とどのつまり、レギーラの攻略はこれにて完了したので今度は別のキャラ(カルナもしくはファントム)の攻略に集中せよということだ。

 

「なるほどな、そういうことか」

「こうやって順番に攻略していくんですねぇ」

「お兄ちゃんが普段やってるゲームもこんな感じなんじゃろうかなぁ」

 

 マシンソウル達もソノシステム性を改めて理解した様子で、視線をパソコンへと戻す。

 

「さて、あの子は次は誰を堕とすつもりなのかしらね♪」

「お姉さん、言い方がなんか卑猥ですよ……」

 

………………

…………

……

 

「…………」

「…………」

「なんだ貴様ら、なにか言いたそうだな」

 

 俺達がレギーラからちょっと離れて歩き、彼女の方をじーっと見ていることに気づかれたのか、レギーラはこちらに向き直り睨んでくる。といっても、目元先ほど購入したサンバイザーのレンズ部分で隠されており、その表情は伺えない。

 

「いや、意外と似合ってると思ってな」

「しかし、屋内でそれを被るのは……」

 

似合っていると言っても、今俺達がいるのはデパートの中だ。似合う、似合わない以前に陽のない屋内でサンバイザーを被ることがそもそもおかしい。

 

「何か問題があるのか?」

 

 と、バイザーの奥から睨んだ視線が僅かに透けて見えたため、俺は押し黙る。

 

「いや、別に……」

 

 とは言っても、先ほどまでつけていたヴェイガンタイプのバイザーよりかははるかに人の目を気にすることはないので、それはそれで良しとすることにした。

 

「そういえばさっきまで着けていたバイザーはどこにしまったんだ?」

「この中だ」

 

 と、レギーラは自分の手に提げられている紙製の買い物袋を指さす。先程購入したサンバイザーはこれに入っていたのだが、その代わりにヴェイガンタイプのバイザーを入れているらしい。

 

「意外と扱い乱雑なんだな……」

「素朴な疑問なのですが、そのバイザーを付けるとどのような映像が見えるのですか?」

 

 言われてみれば確かに、時折音が鳴ったり、敵意のある場合には光ったり、不思議なバイザーであることには変わりない。それを付けて日常を過ごしていると、果たしてどんな光景が見えるものなのか、確かに気になる。

 

「ん、そうだな……通常時は視認対象物をズームしたり、目視認識した光景を音声・映像データ化し、メモリーバンクに保存。対人認識の場合、対象者の心音、心拍、発汗等を計測し、画面上にデータ化して表示、それで対象者の抱いている感情を推測できる。武器の所有があれば、その武器の強度をランク付けして表示。更に敵性反応が現れれば、出現場所を瞬時に計測。攻撃時には自動追尾、ロックオン機能がオートで行われ、空間認識拡大の情報処理と有効戦術のプランがデータバンクから素早く抽出される」

「へー、便利なもんだな」

「難しいことよく分かんないけど、すごいね!」

 

 レギーラの初覚醒時、動きがやたらと機械的だったのはそのバイザーの様々な機能に誘導されて攻撃行動を行っていたのだろう。あの時のなんとなくぎこちない動きの正体が今ようやくわかった。

 

「ん? ちょっと待てよ、映像も保存できるっていうなら、お前まさかさっきの映画……!」

「見くびるなよ小僧、真の愛好家たるもの、そのような卑劣な手段で手に入れたものになんの愛着も湧かん。名作を汚すような行為を、私がするわけがなかろう」

「そ、そうか……すまん」

 

 と、あらぬ誤解をしてしまったことを、俺は素直に謝った。どうやらこいつの仮面レイヤーに対する愛情は本物のようだ。

 

「それだけの機能を兼ね備えたバイザー……ただのガンプラから生まれたとは思えませんね」

「そのセリフは今更だぞ。忘れているだろうが、我々自身元はただのプラスチックの塊からこのような肉の身体にへと変異したのだからな」

 

 確かに、レギーラの言う通り、ファントムを初めとするマシンソウル達は、元はただのガンプラだったということを再認識した。改めて考えるととても不思議なことだ……なぜただのガンプラが人の姿になったり、現代の科学技術では再現できないような超兵器まで備わっているのだろう?

 俺はいつか知りたい。彼女達マシンソウルがどこから来て、そして今後どうなっていくのか……。

 

「ねーねー、この後はどうするのー?」

 

 不意にカルナが俺の服の袖を引っ張る。先程シノブ姐さんの方から、レギーラの攻略が完了したという知らせがあった。まさかバイザーの購入が攻略の糸口になるとは思いもしなかったが……。

 となると次はファントムかカルナを重点的に攻略していくということになる。そろそろ次の選択肢が出てくると思うのだが……おかしいな、インカムの向こうからは何も通信が入らない。まだ選択肢が出ていないのか? となれば、こちらでなにかアクションを起こしてみるしかない。

 

「あ、うーん……じゃあまぁとりあえず」

「とりあえず?」

「ガンプラコーナー、見に行ってもいい?」

 

………………

……………

……

 

「で、姉貴。この後はどうする予定なんだよ」

「うーん、そうねぇ……現状、彼女らの好感度は70~80%という高度を保った状態になっているわねぇ。このまま余計なアクションを起こさずにデート終了まで待つってのも手だけど」

「まだ2時半くらいですよ? デート終了には早いんじゃないかな」

「でござるなぁ、もう一つないしは二つくらいなにかイベントが欲しいところでござるが」

「ま、ここはとりあえず様子見ね」

 

………………

…………

……

 

「おっ、この店結構品揃えいいなぁ」

 

 おもちゃ売り場の一角、ガンプラコーナーに着くと、俺は(自分で言うのも何だが)水を得た魚のように目を輝かせてあちこちガンプラを見て周る。売り場も広い分、ラインナップも充実している。玩具コーナーのこの部分だけ特に広いスペースを設けられているところを見ると、最近のガンプラバトルの人気も相まって、店側もガンプラの販売に力を入れているようだ。

 今までガンプラ関連はアベさんの店で買い物を済ませていたが、たまにはこういう大型デパートで見て周るのも悪くはない。

 

「割引品かぁ……買っちゃおうかなぁ」

 

 と、俺は手に取ったHGUCザクⅢを見てそう呟く。そのパッケージには「3割引き」のシールが貼られていた。ザクⅢがHGUCに登場した頃は、HGUCのシリーズ化がまだ始まったばかりであり、正直可動範囲を初めとする諸々の部分は今のキットと比べると雲泥の差である。なので、誰もこのような初期キットを買おうとは思わないため、店側も見かねて在庫を減らそうと割引をしているというところなのだろう。

 

「またそうやっていくつも増やして……家にいくつ積みプラがあると思ってるんですか?」

「ソウシの部屋のクローゼット、上の段までガンプラでいっぱいだもんね~」

「い、いいじゃんか別に! 積みプラはガンプラビルダーの宿命みたいなもんなんだぞ! というわけでこいつは買っておく」

 

 と、俺はどさくさに紛れてザクⅢの箱を脇に抱える。

 

「はぁ……なんだかマスター、今日一番楽しそうな顔してますね」

「ふん、下らん。……ん?」

 

 その時、別の方向を見ていたレギーラの視線が何かを捉えた。

 

「ん? どうした?」

 

 つられて俺達もその方向へ視線を向ける。おもちゃ売り場のほぼ中央のスペースに、机と椅子がいくつか並べられており、机の上にはニッパーややすりなどのガンプラを作るのに必要な道具がいくつも並べられている。そして店員がなにやら忙しそうに準備作業をしており、のぼり状の広告をその傍らに立てる。

 

「小・中学生以下限定ガンプラ制作体験会?」

「作ったガンプラは持ち帰れるようですね。しかも参加は無料だそうです」

 

 大方、今日(こんにち)のガンプラブームに推され、デパート側も宣伝を兼ねて児童にもガンプラを作る楽しさを知ってもらおうとする催しなのだろう。タダでガンプラを貰えるという点には少し惹かれるが、生憎俺達はどう見たって中学生以下には見えないので参加することは……―。

 

「ねぇねぇ! 私、ガンプラ作ってみたい!」

「えっ、カルナが?」

 

 と、カルナが目を輝かせながら俺に(すが)る。確かにカルナの見た目なら小学生だと言っても通りそうなものだが……。

 

「そうか、カルナ、ガンプラ作りたいか?」

「うん!」

「よし、じゃあ参加できるかどうか聞いてくるよ。ついでにこれも支払い済ませとくか」

 

………………

…………

……

 

 受付は無事完了した。制作会の開始は3時ちょうどかららしく、時間に近付くにつれ参加者たちが集まってきた。そのほとんどが親子連れであり、案の定父親を同伴している親子の割合が高い。また、中学生くらいの年齢では友達同士でグループ参加といった感じが目立つ。定員18名で、3つの丸状のテーブルに6人ずつ座って開始される。

 俺達はというと、他の保護者の方々と同じく会場の端の方で子供たちの方を見守る。上手く作れるのか、やきもきするこの気持ちは子供の授業参観に来た親のような感じだ。

 

「えー、本日はお集りいただき、ありがとうございます!」

 

 そして3時きっかり、おもちゃ売場担当と思われる店員の号令で制作会が開始される。

 

「わたくし、この売り場担当のアオバ・ケンイチと申します。こう見えても、この売り場担当のガンプラマイスターであります」

 

 と、外観年齢30代程の男性店員が自己紹介する。ガンプラマイスター……ということはシノブ姐さんと同じような役柄というわけか。となるとガンプラバトルの腕前も同等かそれ以上ということ……まさかこんなところにマイスターがいるとは思ってもみなかった。

 

「本日は中学生以下限定の制作会ということで、ガンプラをまだ作ったことのないお子さんもいらっしゃることでしょう。わたくしも少なからずお手伝いとアドバイスをさせていただきますが、どうぞ保護者の皆さんもお子さんと一緒に作ってみてください」

 

 その言葉で遠巻きに見守っていた保護者の方々が各々の子供たちが座る席に向かい、その隣に中腰で座る。俺もまた、カルナの隣に腰を落とす。

 

「さて、ではお待ちかね。本日皆さんに作っていただくガンプラはこちらです!」

 

 と、マイスターアオバが取り出したガンプラの箱。それは、HGBI「ガンダムバルバトスルプス」だった。機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ、第2期の主人公機であり、1期のバルバトスよりもさらに長身でスマートなプロポーション、そして全体的に鋭利なシルエットになったガンダムだ。

 

「このバルバトスルプスと一緒にMSオプションセット5も用意しました! さぁみんな、バルバトスルプスを組み立ててオリジナル武器も装備させよーう!」

 

 マイスターアオバの掛け声に子供たちは元気な返事をする。

 

「ほー、バルバトスルプスにオプションセット付きとは気前いいなぁ」

「わー、かっこいいガンダムだね! 楽しみ~♪」

 

 このガンダムバルバトスルプス、定価は1000円とガンプラの中では比較的安価な方ではあるのだが、とはいえそれをオプションセット付きで無料で作らせてくれるというのだから嬉しいサービスだ。

 次々と回されてくるバルバトスルプスとオプションセット5を受け取り、カルナの前でバルバトスルプスの箱を開ける。ランナーの数は3枚と、比較的パーツ数は少ない。これなら手伝いがあればさほど時間をかけずに完成させることができるだろう。

 

「ちなみにお聞きしますが、マスターはこのガンプラを作ったことがあるのですか?」

 

 俺の横から、ファントムが小声で聞いてきた。

 

「いや、というか鉄血のオルフェンズ系列の機体を作ること自体初めてだ」

「えっ? でもウチにいくつかありますよね?」

「あぁ……あれ全部積み……オプションセットは作ったんだけど……」

 

 それを聞いてファントムは呆れた顔をしながら後ろに引っ込んだ。そう、買ってはあるけど作ってはない。なんともモデラーあるあるなのだが、この機会にHGIBシリーズの出来がどれほどのものか見せてもらおう。特にあの噂のガンダムフレームとやらを。

 

「では、制作開始といきましょう」

 

 マイスターアオバの号令で皆も箱を開け、道具を手に作り始める。以外にも皆真剣な様子で、うるさくお喋りをする子供は誰もいなかった。かく言う俺も、カルナにニッパーの使い方を教えながら一つ一つパーツを切り出していく。

 

「そうそう、ランナーはちょっと残してな」

「残ったのはニッパーで切り落とした後、ヤスリできれいにするんだよね」

「そういうことだ」

 

 カルナに作り方を教えつつ、俺は周囲を見回す。マイスターアオバはうまくできない子供のところに行き、道具の使い方や作り方を教えている。実に忙しそうだが、俺の方には来ない。おそらくカルナに作り方を教えている俺が、ガンプラ作成の心得を知っている者だと悟り、余計な手を出さないようにしているのだろう。俺以外にもそういった親子グループはいるらしく、それぞれにお父さんが自分の子に作り方を教えている。なんとも微笑ましい光景だ。

 

(なんか、こうしてると俺とカルナって親子みたいな感じだな。自分の子供って……もしかしたらこんな感じなのかな)

 

 と、カルナが一生懸命ガンプラを作る様子を見ながらそんなことを考える。まだ十代も半ば過ぎという年にも関わらず、父の気持ちがわかってしまった……そんな感じがする。

 

「ん? なぁにソウシ?」

 

 俺の視線に気が付いたのか、カルナがガンプラから目を離して俺の方を見る。

 

「あ、いや……も、もうそこまで作ったのかと思って」

 

 慌てて話題を逸らす。だが、その通りにカルナのガンプラ制作のスピードの速さは尋常ではなかった。他の子供たちが最初の組み立て工程で、パーツの向きが違ったり、違うパーツを切り出してしまったり、ポリキャップを入れ忘れたりとトラブルに見舞われている中。カルナはちょっとニッパーとヤスリの使い方を教えただけでこの短時間にもう胴体と頭部が完成し、すでに腕の制作工程に入っている。

 

「うんっ! やっぱりソウシの言った通りガンプラを作るのってすっごく楽しいよ!」

 

 と、カルナは裏表のない、実に楽しそうな笑顔を俺に向ける。向けられた方も思わず頬が緩むほどに眩しい笑顔だ。

 

「そっか、楽しんでくれてうれしいよ」

 

 そこからは、俺はあまり口出しをせずに、カルナは嬉々として目を輝かせたまま黙々と作業を続ける。

 

………………

…………

……

 

「…………」

 

 その様子を、壁際に背中を預けて腕を組んで遠巻きに見つめ続けるレギーラの姿があった。

 

「それを被ったままで少年少女たちの方を凝視し続けていると店員に怪しまれますよ」

 

 と、ソウシの元から戻ったファントムが若干悪戯っぽく言い、レギーラの隣に立つ。

 

「ん……そんなつもりはなかったのだが……」

 

 意外にも素直にレギーラが自分の話を聞き入れたのでファントムは少し面食らう。

 

「貴女、もしかして……」

「な、なんだ?」

「子供が好きなのですか?」

 

 ファントムのその問いに対し、レギーラは沈黙してしまう。だがその口からは時折唸り声のようなものが漏れており、なんと答えるべきか考えているように思える。

 

「……なぜかはわからん。だが……あのぐらいの子供たちの姿を見ると心がとても穏やかな気分になる」

「そうですか」

「…………それだけか?」

「別段、おかしなことではないでしょう。私は、子供が好きだというのは万人の認識だと思っていますし。まぁ、以前の貴女でしたら微塵も興味を示さなかったでしょうが」

「やはりか……」

 

 レギーラのこの反応、やはり自分でも自分が前に比べて本質的な部分で変異していることを自覚している様子だ。

 

「やはり違うものなのですか? 改造された後と、前とでは」

「なんだ、興味があるのか?」

「べ、別に……ただ、私達も自分の限界を超えるならマスターの手によって改造されるのも必要なことだと思っていますので」

「だが、あの男は以前お前のその意見に対しては否定的だったではないか」

 

 レギーラはカルナの傍でガンプラの手伝いをするソウシを顎でしゃくる。

 

「しかし、マスターも理解しているはずです。先のシノブとのガンプラバトルを経て、現状の私では満足な戦績を残すことはできないと……。それに、貴女という成功例もいます。きっと改造案には納得してくださると思います」

「ふん、人を成功例扱いか。気に入らんな」

 

 ムスっとした表情でレギーラは尚もカルナたちの方を見据える。

 

「今の私には力が必要なのです。マスターやカルナを守れるだけの力が……」

 

………………

……………

……

 

「できたっ!」

 

 その掛け声とともに、カルナが完成したガンダムバルバトスルプスを机の上に立たせる。両腕に200mm砲を備え、右手にソードメイスを担ぎ、左手にはオプションセットのバスターソードを、バックパックにはツインメイスがジョイントパーツで取り付けられている。力強い印象を与えるそのガンダムは、素組みであるにも関わらず、今にも動き出しそうなリアルささえ感じる。

 ただの素組みのガンプラなのに、何故このような感覚になるのか……。やっぱりカルナにはガンプラに関する不思議な力があるように思える。

 

「私、まだ完成してない子のとこ行って手伝ってくるね~」

「お、おう」

 

 そう言ってカルナはマイスターアオバと一緒になって他の子たちが集まる机に出向いてガンプラの作り方を教える。一人残された俺はというと、そんなカルナの様子を遠目で見守りながら、手元に残されたバルバトスルプスの可動範囲を見たり、適当にポーズを取らせたりして遊んだ。

 

「できたー!」

「僕もできた!」

「ありがと、カルナちゃん♪」

「えへへ、どういたしまして」

 

 そしてそれからさらに30分後、あちこちでガンプラが完成し、子供たちが歓喜の声をあげる。カルナはほぼ全ての席に出向いて子供たちにガンプラの作り方を教えていたのだ。これにはマイスターアオバも思わず驚きの表情を見せた。

 

「すごいですね、お宅のお子さん。ガンプラを作った経験がおありで?」

「えっ? あ、いや、僕が作っているのを遠くで見ていたりはしていますけど、自分で作るのは今日が初めてで……あと、カルナは僕の娘ってわけでは……」

「えっ!? あっ、そ、そうですねよ~。やだなぁ僕ったら」

 

 と、マイスターアオバはハハハと笑う。どうやらちょっと抜けてるところがある人みたいだが、気のいい人のようで好感が持てる。

 

(同じマイスターでもどこかの傍若無人おっぱいとは大違いだな)

 

 と、心の中でシノブ姐さんのことをそんな風に思った。

 

 

 

 

「はーっくしょっ!! ふふっ♪ きっとどこかで私が優しくて美人だと噂しているのね♪」

 

 車内のメンバーはそんなシノブの独り言に「何言ってんだこいつ」と言わんなかりの冷ややかな視線を向けながらスルーすることにした。

 

 

 

 組みあがったそれぞれのバルバトスルプスが一堂に机の上に立ち並ぶ。なんとも壮観な光景だが、よく見ると目のシールが曲がっていたり、ちょっと不格好なポージングだったりと、作った子の初心者らしさが伺える。

 

「さぁてみんな、自分のガンプラはできたかな?」

 

 マイスターアオバの問いに対し子供たちが元気に「はーい!」と答える。

 

「いや~、正直こんなに早くできるとは思わなかったよ。では、残った時間を使ってガンプラの次なる楽しみを君たちに教えましょう。さ~て、それは一体なにかな~?」

 

 ガンプラを作った後の楽しみ……ときたら、それは一つしかない。そしてそれを聞いて俺と同様に子供達も察したようで、途端に目をキラキラと期待に満ちたものに変え、そして答える。

 

「「「「「「ガンプラバトル~~~~~~!!」」」」」

 

「正解! 隣のゲームコーナーではガンプラバトルもできるので作ったガンプラを持ってみんなでガンプラバトルをしよーう!」

 

 子供達は「は~い!」と元気な返事をし、各々に机の上に立てたガンプラを手に、隣のゲームコーナーへと足早に向かう。

 

「ソウシ~、みてみて! ライフル欲しいっていう子がいたから代わりに剣貰ってきちゃった」

 

 と、カルナが手に持ったオプションセット5のバスターソードを掲げながら小走りになって戻ってきた。

 

「これともう1本の剣を足して……って、あーーーーっ!!?」

「えっ!? あ、いやこれは……!」

 

 と、急にカルナは大きな声をあげる。というのも、その原因は俺にあるのだが……。

 

「壊したな~!?」

「い、いや別に壊したわけではなく……」

 

 そう言う俺の手元にはバルバトスルプスの白い装甲と武器類、そして机の上にはフレームのみの状態になっているバルバトスルプスが立っている。どうしても一度ガンダムフレームとやらを拝んでみたかった俺は、我慢できずカルナのバルバトスルプスの装甲を外せる範囲で全て外してしまったのだ。

 

「も~、早く元に戻してよ! みんな先に行っちゃうじゃない!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 先ほどと同じ声のトーンになりながら、俺は急いで手元の装甲パーツをガンダムフレームに装着していく。

 

「と、ところでさっきもう1本の剣とどうとかって言ってたけど……」

 

 バルバトスルプスに装甲を装着させていきながら、俺は少しでもカルナの不機嫌を正そうと質問を投げかける。

 

「うん? うん、これとこれのここを切り落として」

 

 そう言ってカルナはバルバトスルプスに付属している2つのジョイントパーツを机に置き、その一つを手に取るとニッパーで丸部分を切り弾く。もう一つも同様だ。

 

「そしてこれとこれをこれにくっつけて……」

 

 今度はそのジョイントパーツを200mm砲の基部に接着剤で取り付ける。

 

「で、剣を2本付ければ……」

 

 オプションセット付属のバスターソード2本をジョイントパーツに取り付ける。

 

「できた! すごく大きな剣!」

 

 そうやって出来上がった新たな武器。なんと2本のバスターソードは峰部分を連結されたより大きな両刃型のバスターソードへと姿を変えたのだ。

 

「うおっ!? すごいなカルナ、どこでこんなの教わったんだ?」

「別に教わってないよ。この剣を二つ組み合わせるてジョイントパーツを合わせた時、大砲の根元の部分と幅が一緒だなってことに気づいたからやってみただけ~♪」

「やってみただけ……って」

 

 なんとカルナはつい1時間前に初めてガンプラを作ることを覚えたばかりだというのに、もう”ミキシング”のノウハウを身に着けたのだ。それもただ見て、限られたパーツだけで。ほとんど思いつきではあるが、バランスのとれた武器が出来上がった。こんなことはもちろん他の子供達もしていない。まさに発想の勝利だった。

 

「ところでガンダムはまだ直らないの?」

「あっ、いや今全部つけ終わったところだよ、はい」

 

 そう言って俺は装甲を全て付け終えたバルバトスルプスをカルナに手渡す。カルナはそれに実に楽しそうな表情をしながら、今しがた作ったばかりのオリジナル武器、両刃型バスターソードを装備させた。

 

………………

…………

……

 

「あ~あ~、なにやってんのよソウ君たら。自分からカルナちゃんの好感度下げちゃってるじゃない……」

 

 その様子を車内で見ていたメンバー、特にシノブは額に手を当てて項垂れる。その通りに、パソコンの画面上においてカルナの好感度がぐんぐん下がっていた。

 

「新しいガンプラが手元にあったが故、ソウシ殿も我慢できなかったのでござろう……」

「ガンプラビルダーゆえの悲しい(サガ)……だね」

「あぁ……完っっっ全に今がデート中だっていうこと忘れてたよな、あいつ」

 

 創主(マスター)三人はソウシに対しては散々な言いようである。

 

「ですが、カルナちゃんのガンプラ制作の手際も相当なものです」

「あぁ、少なくともウチのご主人じゃあんな武器の発想は出てこないぜ」

「これもあの子の持つ不思議な力の一つなのじゃろうか……」

 

 一方のマシンソウルズはカルナのガンプラ制作技術に感服な様子で画面に釘付けになっていた。双方ともに全く異なる視線を集めながらも、デートは次の舞台へと向かう。

 

………………

…………

……

 

 場所をゲームコーナーへと移し、子供たちは各々ロッカールームで着替え、Gポッドの前に集合する。ここのGポッドの数はアベさんのところ同様、6基稼働しており、18人の制作会参加者は一人1戦ずつ、それを3回に分けてガンプラバトルを行うことができる。今、マイスターアオバが対戦組み合わせを練っているところだ。

 

「マスター、ガンプラバトルなどさせて、カルナは大丈夫でしょうか……?」

「……あの時のことか?」

 

 Gポッドの向かいにあるUFOキャッチャーコーナーの筐体に背をもたれかかせながら、俺とファントムはカルナ達の方を遠目で見守りながら神妙な面持ちになる。というのも、カルナは以前俺とトモヒロとタクオとでガンプラバトルをした際、俺達3人を相手にしても全く引けを取らないほどのバトルセンスを発揮したのだ。しかも、バトルが終わってみると、それが実はカルナの無意識下で行われていたことであり、当のカルナはひどく体力を消耗しているという始末だった。

 

「また前のようにならないとは限りません……」

「うん……でも、だからってカルナをガンプラバトルから遠ざけるのは間違いだと思う」

 

 俺のその言葉に、ファントムは俺の方に視線を向ける。

 

「さっきガンプラを作っている時のカルナは、今日見たどの笑顔よりも輝いて見えた。とても楽しそうだったんだ。それを見ちまったら、ガンプラバトルをやるなって言う方が酷ってもんだ」

「ですが……」

「大丈夫、あの時とは状況が違う。あの時のカルナは俺達に付いて来ようとして必死だったが、今日のバトルはみんなが初心者だ。だからカルナだって、そんなに気張ってやるつもりは無いだろうさ」

「フン、貴様が先ほど損ねた機嫌のせいでその思惑が崩れなければ良いがな」

 

 と、俺の隣に腕を組んで立つレギーラが皮肉を言う。

 

「そ、それを今言うか……」

 

 痛いところを突かれてしまい、俺は意気消沈する。

 

(だが気になりはする……(くだん)の戦闘時、私はその場に居なかった。あの子の戦い方が彼奴等の言う通りならば非常に興味深い。もしその時の力をこの場で発揮させるというのであれば、刮目させてもらうぞ、カルナ)

「……お前、何を考えている?」

「何も」

「……そうか」

 

 レギーラが急に真剣な面持ちになったため、何か変なことを考えているのではないかと俺は悟った。が、それ以上追及しても何も変わりはしないと思い、ここは大人しく沈黙してカルナの様子を見守ることにした。

 そうこうしているうちに、マイスターアオバのガンプラバトルによる説明が終わり、実際にガンプラバトルが始まる。6基あるGポッド全てがフル稼働となり、それぞれ3vs3の組み合わせでバトルを行う。抽選の結果、カルナは最初の組でガンプラバトルを行うことになった。

子供たちがGポッドの中に入り、ガンプラスキャナーにそれぞれの作ったバルバトスルプスを入れ、スキャニングされる。そして始まるガンプラバトル。俺達は親御さんたちと一緒に備え付けのモニターでバトルの行く末を見守る。

 

「バトルステージはミニチュアフィールドか」

 

 “ミニチュアフィールド”は実際の1/144ガンプラの視点になって戦闘を行う方式となるステージだ。俺の場合、アベ店長の元で初めてのガンプラバトルを体験させてもらった時のフィールドがそうだ。

あの時は模型屋の店舗内部が戦場となったが、今回はなんと今この場所、デパートのゲームコーナーが舞台のバトルステージとなっている。

 

「この方式のガンプラバトルは、周囲にあるものをどれだけ利用して戦況を有利に運べるかが重要になりますね」

「そうだな、ゲームコーナーってことは広い上に障害物も結構多い。なまじ参加メンバーが初心者なぶん、混戦になるだろうな」

 

 そんな中にあの超常的なバトルセンスを持つカルナを投入するのは、いささか気が引ける。せいぜいカルナが本気を出さずに、初体験の子にも満足してほしいというのが正直なところではあるが……。

 

「始まるぞ」

 

 レギーラの言葉に俺はモニターを見る視線に集中する。モニターには6機のガンダムバルバトスルプスが映り、イサリビのモビルスーツデッキにセットされ、カタパルトによって外へ放出されていく。

 放出されたバルバトスルプスは、それぞれが特有の武装パターンをしていた。ある者はツインメイスを、ある者はバスターソードのみと、またある者はオプションセットの200mm砲2門とロングライフルを携え射撃に特化したりと、装備する武器によって個人差が出ている。使用している機体は全員同じため、武装のバリエーションで見比べて差別化していく他ない。保護者の方々も自分の子供がどのバルバトスルプスを使っているのかキョロキョロと探している。まるで運動会の見学のようだ。

 一方のカルナは、先程即興で制作した自前の両刃型バスターソードを肩に担いでいるためすぐに判別がついた。背中のバーニアを吹かしながら地面に着地し、対峙しあう両チーム。通常であればここで相手側の出方を伺うのがセオリーというものだろう。しかし、それはガンプラバトルのノウハウを知っていればこその戦法。プレイヤーのほとんどが初心者ともなれば、はやる気持ちを抑えきれず、飛び出していきたくなるのが心情というものだろう。

 

「いっけーーー!!」

「突撃ぃー!!」

「ガンダム、行きまーす!」

 

 と、カルナ側から見て相手側のチームの少年たちが次々とバルバトスルプスのバーニアを吹かし、武器を構えてこちら側に突っ込んでくる。厳選に抽選を行ったはずなのであるが、相手側は全員が男子、しかも中学生となっている。一方のカルナ側はカルナを含めて女子2人に低学年男子1人という、傍から見れば弱小としか言いようのないチーム構成になっていた。案の定、カルナチームのメンバーは迫る相手男子チームに気圧されてしまい、弱々しくソードメイスを両手持ちで構えるものの、引き腰になってしまいじりじりと後ろに下がる。これは一方的な展開になるだろうと誰もが思った。

 だが、そんな中カルナだけは違った。カルナのバルバトスルプスは、両刃型バスターソードを担いだまま、前方に一歩大きく歩を進める。目の前には、迫る男子勢のバルバトスルプス。彼らの最初の標的はカルナに決まった。一機が大きく飛び出し、背中のジョイントからツインメイスを両手に持ち、大きく振りかぶりながらバーニア全開で迫る。

 だが、それでもカルナはピクリとも動かない。思わず後方の女子が自分たちの方に引き戻そうと手を伸ばす。ツインメイスが届く距離に入ると、それを振り下ろさんと男子は思いっきりレバーを前方に倒す。女子の伸ばした手が、カルナのバルバトスルプスの肩に触れる。その時だった。

 カルナが担いだ両刃型バスターソードを大きく横薙ぎに振るった。肩に触れた手が思わず離れる。

 瞬間、それはツインメイスを「バギンッ」 という重厚な音と共に、弾き飛ばす。飛ばされたメイスは、まるでバットでボールを打ったかのようによく飛び、クレーンゲームのガラスケースに突き刺さり、皹を入れる。

 ツインメイスを失った少年のバルバトスルプスは、一瞬呆気にとられたがすぐに状況を理解した。が、すでにバスターソードの攻撃範囲内に入ってしまっている。次の瞬間、バスターソードが横薙ぎに振るわれ、鈍い衝撃音の後、少年のバルバトスルプスが宙を舞う。少年の駆るバルバトスルプスは、そのまま対戦格闘ゲームの画面に叩き付けられ、画面は割れて筐体からは煙が出る。並のガンプラならここで撃墜だろうが、さすがは衝撃に強いナノラミネートアーマーの装甲を纏うガンダムフレームの機体、まだ動けるらしい。

 

「やったぁ!」

 

 敵機を弾き飛ばして歓喜の声をあげるカルナ。その声に気弱だったチームメンバーも闘志が奮い立つ。

 

「カルナちゃんすごーい!」

「よーし、僕もやるー!」

 

 各々の装備する武器を構え、敵チームと激突するレイナのチーム。弾ける弾丸、ぶつかり合う剣や鈍器。火花が散り合い、装甲が激しく削れていく。そんな混戦の中、カルナのバルバトスルプスは自ら前に出る。敵チームの標的にわざと自分に向けさせているようだ。自分ならば攻撃を一手に引き受けても対応は可能だし、その方法を味方メンバーにもお手本として教えることができる。そういうことだろう。

 後方からロングライフルと2門の200mm砲を構えたバルバトスルプスが、カルナのバルバトスルプスに向けて銃弾を放つ。それをカルナは両刃型バスターソードを地面に突き刺し、巨大な刀身に自機を隠すことにより、弾丸を防御する。続いて迫るソードメイスを構えたバルバトスルプス。素早く両刃型バスターソードを構え直し、ソードメイスを受けきる。

 しかしそれだけでは終わらない。今度は上空より別のバルバトスルプスが拳を振り上げ、飛び掛かってくる。武器を何も持っていないところを見ると、先程カルナにツインメイスを弾き落され、吹っ飛ばされたあのバルバトスルプスであることが伺える。振り上げた鉄拳はカルナのバルバトスルプスの顔面にクリーンヒットし、両刃型バスターソードをその場に残した状態で吹っ飛ばされる。

 

「うっ……! このっ!」

 

 受け身をとってなんとか着地し、体勢を整えるカルナ。こうなれば肉弾戦だと言わんばかりに、カルナのバルバトスルプスは再び敵機に接近して回し蹴りを喰らわせようとする。だがその時。

 ポロリ……と、何かがカルナのバルバトスルプスから零れ落ちた。

 

「む? 何か落ちたぞ?」

「あれは……」

 

 観戦していたレギーラとファントムもそれに気が付き、そのことを指摘する。カルナのバルバトスルプスのカメラが地面に落ちた落下物に視線を落とす。それは、赤い外殻に白い下地で「鉄華団」のマークが施されている、バルバトスルプスの肩アーマーだった。

 

「あれ? ってことは……?」

 

 落下物の正体を知り、おそるおそる自分の右肩へと視線を移す。案の定、肩アーマーが外れ、内部のガンダムフレームが露出していた。

 だがそれだけでは終わらない。次にはグラグラと揺れていたバルバトスルプスの胸部パーツが外れ、それにつられる形で腰部のリアアーマーも。さらに腕の合わせ目部分にも隙間が大きく入っていき、ポロポロとパーツが落ちてしまった。

 

「あれ? あれあれぇ!?」

 

 突然のことで思わず困惑の声をあげるカルナ。その困惑は当人だけでは収まらず、バトルに参加している子供達、観戦している子供、大人たち、マイスターアオバ、そして俺達の間にも広がっていく。

 

 

 

「一体どうしたんだ?」

「部品が落っこっちゃったよ」

「うまくハマってなかったのかな?」

 

 うまくハマってなかった……? 観戦していた子供のこの言葉を聞いて、俺はハッと思い出した。

 

「まさか……」

 

先程俺がいじってバルバトスルプスの装甲を全部取り払って、その後慌てて付け直したのだが、もしかしたら接続部にちゃんとハマってなくって、ガンプラバトルの衝撃でポロリしてしまったのか……?

 レギーラとファントムもその結論に至ったらしく、俺の方に冷ややかな視線を向けてくる。

 

「……マスター」

「何か申し開きがあるなら聞いてやらんこともない」

「いや、あの…………ごめんなさい」

 

 この場で二人に謝っても仕方がないのだが、その威圧感に気圧されてしまい、縮こまって謝罪する。とはいえ、謝るべきはカルナの方だ。これではガンプラ全体のバランスが悪くなってしまい、もちろん勝負にも重大な支障が出てしまう。

 俺のせいでカルナが負けてしまうのか……と、責任感を感じつつモニターにまた視線を向けると、意外なことが起こっていた。

 

 

 

「うんしょ。よし、こっちも」

 

 そこにはなんと、バルバトスルプスの装甲を自らの手で引きはがしていくカルナの姿があった。白く鮮やかだったバルバトスルプスは、今やほとんど黒いガンダムフレームだけ。装甲が付いているのは、脚部の自立に必要な装甲パーツのみという状態だった。

 確かに、中途半端にパーツが付いている状態では稼働にも機体のバランス的にもあまりよろしくはないが、それならばすべての装甲を脱ぎ捨てるという発想は無かった。これならば身軽にはなるが、その分敵の攻撃を一発でも受ければその時点でゲームオーバーとなってしまう。

 それを知ってか知らずか、カルナはとうとう両腰のサイドアーマーまで脱ぎ捨てた。

 

「よしっ、すっきり! さぁ、いっくよ~!」

 

 そう言ってほぼフレームだけの状態になったバルバトスルプスは、突き刺さって残されていた両刃型バスターソードを担ぎ上げ、目の前の敵チーム3人の方に向く。敵チームも、カルナがパージしている最中は攻撃をしないようにしていたのだ。

 

「へー、その状態で戦うの?」

「ヘヘヘッ、おもしれぇ! やろうぜ!」

 

 トレーディングカードアーケードゲーム、『ガンダムトライエイジ』の筐体の周りに集結していた相手チームは、カルナの覚悟(?)に応えるかのように、各々の武器を構えて突撃してくる。

 

【挿絵表示】

 

「カルナちゃん! 私達も一緒に戦うよ!」

「カルナちゃんだけにいい恰好はさせられないもんね!」

 

 同様に、味方のチームメイト達もカルナに感化されてか、恐れることなく前進する。ぶつかり合う両チーム。そこには剝き出しの闘志というよりも、ただ純粋に「楽しい」という気持ちと「喜び」が混在していた。そんなカルナ達の想いをひしひしと感じながら、俺達は終いまで子供たちのガンプラバトルを観戦していた。

 

………………

…………

……

 

「あー、楽しかった♪」

 

 ガンプラバトルが終わり、俺達の元に戻ってきたカルナは眩いばかりの笑顔だった。

 

「良かったなぁカルナ、初めて作ったガンプラみんなに褒めてもらって」

 

 カルナの手には、先程自分で作った初めてのガンプラ、“ガンダムバルバトスルプス”が握られている。外れそうだった外装は、ガンプラバトル終了後に俺がしっかりと付け直した。

 

「それにガンプラバトルも頑張ってましたね」

「あぁ、他の子たちも上手くやってたとは思うけど、やっぱウチのカルナは別格だったな~」

「フン……親馬鹿め」

 

 レギーラが小さく呟いた。親ではないが、確かにそれだけは本当だった。ほぼガンダムフレームの状態のみで戦い、終いには引き分けに持ち込むだなんて、少なくとも俺にはそんな芸当はできない。

 以前、アベさんの店でガンプラバトルした時も感じたが、やはりカルナはガンプラバトルをするにおいて特別な才能があるように思える。もっとも、今日のバトルではあの時のような超常的な戦い方はせず、ただ純粋に楽しむための戦いをしていたような気がした。レギーラが予測していたであろう暴走状態も引き起こさなかったことも、俺にとっては非常に喜ばしい。きちんと力を制御しているようで、改めて安心できた。

 

「私、今日このデートに付いてきてよかったなぁ」

「本当ですか? カルナ」

「うん! だってこんなに楽しい思い出がいっぱいできたんだもん!」

「そっか、それなら連れてきた甲斐があったってもんだな」

 

 正直、このデートにカルナを連れてきた当初はそれほど楽しくなさそうにしていただけに、これほどまでに楽しそうに充実してくれているとは、俺も嬉しかった。

 そう言えば元をただせば、カルナをこのデートに同行させようと提案したのはシノブ姐さんだった。あの人もたまには気の利いたことができるんだなぁと、心の中で少し関心した。

 

『ソウ君、おめでとう』

「うわぁ!? な、なんだ姐さんか……」

 

………………

…………

……

 

「なんだとは何よ?」

『い、いえ……急に通信が入ってきてビックリしちゃって……』

 

 実は心の中で少し小馬鹿にしていました、などと言えるはずもなく、ソウシは言い得て妙な言い訳でその場を凌ぐ。それに対しシノブは「あらそう」と特に気に掛ける様子もなく、話を切り出す。

 

「カルナちゃんの好感度が90%を突破したわ。到達すべき目標値をゆうに超えているから、彼女の攻略はこれで十分ね」

『じゃあ……!』

「えぇ、残るはファントムちゃんのみね」

 

 シノブのその言葉を発した直後、パソコン画面に次の選択肢が表示された。

 

「きたわね! さぁ皆の衆、これが最後の選択よ! 心してかかりなさ……―!」

『いえ、姐さん。今回は選択肢は無しで』

 

 ノリノリだったシノブの声を、通信越しのソウシの声が遮った。

 

………………

…………

……

 

「ファントムのデートプランは……俺が決めたいんです」

 

 俺の声はいつになく真剣味を帯びていた。それは自分でもわかる。なぜなら、これまで俺は彼女らMS(マシンソウル)とのスキンシップを完全に第三者(シノブ姐さんたち)に任せていた。要は、俺自身の考えを以って彼女達には接していなかった。

 が、ファントムだけは俺の考えで満足させてあげたい。そんな気持ちが俺の中では強かった。最初は初めてのデートでどうしていいのかわからなかったけど、今なら彼女らがどうすれば喜んでくれるのかがわかる気がする。

 

『ふ~ん……まぁいいわよ。好きにやってみなさい』

「あ……はい! ありがとうございます!」

 

 意外にもシノブ姐さんはすぐ理解を示し、そしてそれっきり通信が入る気配は無い。さて、ここから先は俺だけのステージだ。

 

「ソウシ、まだどこに行くの?」

「そろそろ夕刻だ。私は十分満足したが、まだデートとやらを続けるつもりなのか?」

 

 カルナとレギーラの好感度はカンストしているらしく、これ以上の上昇は望めない。したがって、この二人はもうデートに対する興味自体が薄れてきているのだろう。しかしまだだ、まだファントムに満足してもらっていない。

 

「あぁ、ちょうどゲームコーナーに居るんだ。せっかくだから4人であれをやっていかないか?」

 

 そう言って指さしたのは、ピンク色の色彩が強い、カーテンがかけられた四角い筐体、俗にいう“プリクラ”だ。俺に言われるがまま、3人はカーテンをめくって中に入る。

 

「これは……どういった機械なのですか?」

「画面に我々の姿が映っているぞ」

「なんかかわいいね~♪」

 

 案の定、3人はプリクラ初体験であり、これが何をする機械なのかイマイチ理解していない様子だ。かく言う俺もそう何度もやったことはないが、筐体から発せられる案内の音声に従っていればうまいことできるだろうと思っている。

 

「これはまぁ、要は写真撮影機だな。撮った後は自分達で絵や字を書いたり、顔とかを編集することもできるんだ」

「何故このタイミングで写真なのですか?」

 

 と、ファントムが首をかしげて質問を投げかける。

 

「だってさ、この4人でデートすることなんてそうそうないと思うから、記念にと思ってな」

 

 俺はお金を投入口に入れ、撮影のフレームを選びながらそう言った。「そうそうない」、なんて言ったが正直な話、もうこの面子でデートをすることは2度とないと思っていた。そもそもデートというものは男女二人で行うのが普通なのであり、今このように男が一人で女性が複数という状況が異常なのだ。それに、レギーラだって今回は仮面レイヤーの映画や、バイザーを購入するという名目があったから、付き合ってくれたようなものだ。もしまたデートをする機会があるとするなら、その時の相手は俺ではなく、創主(マスター)であるレイナと一緒に行ってほしいというのが本心だった。

 

「よーし、カウント始まったぞ! ほらみんな、中央によってポーズとれ!」

「ええっ!? いきなりそんなことを言われましても……―」

「ふん、くだらん」

「もー、レギーラそっち行っちゃだめー。はいここ♪」

「うっ……わ、わかった」

「いくぞ! 3、2、1……」

 

 カシャッ

 あたふたとしながらも、俺を中心とし、左隣にファントム、右隣にレギーラ、そして俺の顔の下からカルナが顔を覗かせピースサインをしている。カルナはしっかり笑顔だが、両隣の二人はあたふたとしていたがために笑顔にはならず、困惑というか慌てふためく、なんとも微妙な表情になってしまった。しかし、それが逆に彼女達らしいというか、変に作り笑いを浮かべられるよりかは遥かに親しみ気のある顔で、記念としては相応しい写真になったと思っている。

 

「カルナ、なにか書くか?」

「うん! 書く書くー♪」

 

 撮影した写真は筐体横のタッチパネルで自由に字が書けたりスタンプを押したりできる。俺はカルナをその場所まで連れて行き、専用のタッチペンを持たせる。そして俺は、カルナが何を書くのか横で眺める。

 

「できたー!」

 

 書き終えたらしく、俺達はその写真を見てみる。そこには、キラキラとしたエフェクトがあしらわれ、俺達の周りにはかわいらしいキャラクターのスタンプがたくさん押され、そして写真の頭上にはピンク色のカルナの字が書かれていた。

 

『みんな、仲良く♪』

 

「仲良く……か」

 

 完成した写真の現像を筐体横で待ちながら、俺はカルナが書いた字のことで思い悩んでいた。

 「仲良く」……シンプルな言葉なのに、俺達の間柄を考えるとそれはとても難しいことだった。特に、ファントムとレギーラのことを示すとするなら……。

 あの二人は、俗にいうライバルという関係だ。初めて会ったその時から、戦うことを宿命付けられていると言っても過言ではない。もちろん、俺はそんなことを望んではいない。しかし、当のレギーラはファントムとの決着をつけたがっている。それは、彼女が”ギラーガ”という存在から”レギーラ”という存在へとリバイバルしたことからも伺える。明らかに彼女は己を更なる高みへと登り詰めているように見える。ファントムと決着をつけるその日のために……。

 そしてファントムもまた、心のどこかでレギーラとの決着をつけたいと思っている……漠然とだがそんな感じがするのだ。

 もしそうなった場合、双方共にきっと無事では済まないだろう……そうなればカルナが望む未来……「仲良く」という言葉から最も遠い未来となってしまう。それよりもなによりも、ファントムを失うようなことになったら……俺は……。

 

「ソウシ、写真出てきてるよ?」

「えっ……? あ、あぁ本当だ」

 

 カルナの言葉でハッと現実に引き戻され、俺は目の前の排出口から出ている写真を手に取る。先程のタッチパネルに表示されていたのと同様の写真だ。

 

「4枚出したから一人1枚ずつ配るぞ、ほら」

 

 4枚の写真をそれぞれに配る。手渡されたカルナはとても嬉しそうに、レギーラは対照的にどうでも良さそうな顔色だ。

 

「あのマスター、私には?」

「ファントムの分はちょっと待っててくれないか? 下の階でもう一つだけ買いたいものがあるんだ」

 

………………

…………

……

 

 そういうわけで1階まで降りてきた。この階はヴィレバンに代表される輸入雑貨等の店舗が多い。しかし、この時間帯は徐々にそれらの店が閉まってくる頃の時間だ。果たして間に合うだろうか……?

 

「あった! まだ開いてた!」

 

 今まさに、店主がシャッターを閉めようとしていたところに俺は慌てて滑り込み、そして速攻で店内からとある物を手に取り、レジへと持っていく。店主は少しムッとしている様子だったが、それを承知で俺はそれを購入し、ファントム達の元に戻る。

 

「これを、こうして……―」

 

 買ってきたものをまだ見せないようにして、俺は先ほど撮ったプリクラを取り出し、小さな折り目を付けて端の部分を少しずつ折っていく。きちんとメンバー全員が映っているように、それらが中心に来るようにして。そして円状になったプリクラ。そこで雑貨屋で買ったものを取り出す。

 

「じゃーん」

「ペンダントですか……?」

 

 取り出してみたが、確かにパッと見ただけではこれはただのペンダントに見えるだろう。シルバーの細やかなチェーンに繋がれ、メタリックな楕円状で、ゴシックな装飾が施されている。俺はそこから少しだけ出っ張っているツマミの部分を指で押す。すると、パカッと蓋が開き、中に物が入れられるようになっている。そこに先ほど丸く折ったプリクラを入れ、ファントムに手渡す。

 

「サイズが合うか心配だったけど、なんとかなったな」

「これを……私に?」

「あぁ。考えてみたら、今日はファントムに付き添ってもらうばっかりで何もしてやれてなかったからさ。最後で悪いけど、俺からのささやかなプレゼントだ」

 

 手渡されたプリクラ入りロケットペンダントを、ファントムはとても大切そうに固く握り、胸元に押し当てる。そして深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐きだす。

 

「ど、どうした……? もしかして、そんなのじゃ嫌だったか……?」

「い、いえとんでもない! ただ、私はマスターをお守りするのが役目……本日も、私は護衛のつもりでこの場に居合わせています。なのに、このような施しを受けてしまって本当によろしいものなのかと……」

「なに言ってるんだ、俺はそんなつもり、全然無かったぞ」

 

 と、ファントムの言葉を打ち消すかのように言葉を紡ぐ。

 

「今日の俺は、お前たち3人とデートするための来たんだ。デートってのは、仲のいい男女が遊んだり、食事したり、楽しむことをしたりするためにするもんだろ? それはファントムだって例外じゃないさ」

「私と一緒で……マスターは楽しかったということですか?」

「当然さ。お前はどうだ? 俺と一緒に遊べて楽しくなかったか?」

「いえ! そんなことは全く……」

 

 今のファントムは柄にもなく顔を赤らめて、次にどんな言葉を発して良いか悩んでいる様子だった。俺にはわかる。今この光景をシノブ姐さんが見えているとするのなら、今が落とす好機だと俺に告げるだろう。

 

「だったら是非それを受け取ってくれ。それは今日この日が、ファントムと共に居られて楽しかったという証なんだ。それをずっとファントムの胸中に抱いてもらえたらなと、俺は思ってる」

「マスター……」

「その気持ちを表すためのプレゼントだ。受け取ってくれ」

「……はい。このロケットは、私の宝物にします。ずっと……ずっと!」

 

 そう言ってファントムは、ちょっと涙ぐんだ瞳で、今日一番の笑顔を俺に見せてくれた。

 

………………

…………

……

 

 時を同じくして、ワンボックスカーの車内。シノブ達の持つノートパソコンの画面には、とびきりの笑顔を見せるファントムの姿と、先程のレギーラ、カルナと同様のキラキラなエンディングエフェクトがかけられた情景が表示されていた。しかしそれを見つめるメンバーの表情はあまり芳しくなかった。

 

「なんか……終わったは終わったけどよぉ」

「うん……ムカつくでござるな」

「ソウシ君……さっきの眼鏡の時もそうだったけど、たまにこういう攻め的な台詞を恥ずかし気もなく言う時あるよね。私の中では絶対総受けなのに……“ソウ”シだけに……」

 

 最後のオトメの寒い台詞にはあえて突っ込まず、シノブは全てのメンバー攻略が完了したノートパソコンを閉じ、一息つく。

 

「まぁ何にしてもこれでデートは終了ね。みんな、お疲れ様」

「あの~……シノブさん。ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」

 

 と、質問を投げかけてきたのは後部座席のサバーニャだった。

 

「画面に出てた選択肢って①花束を贈る、②手をつなぐ、③耳元で愛を囁くの三つでしたよね?」

「そうじゃ、選択肢に無い選択をソウシはしてしまったが、何故それで攻略が完了したんじゃ?」

「この選択肢って、対象者を色々測定して適切なの表示してんだろ? なのにそれ以外の選択肢で好感度上がるのはおかしいじゃねぇか」

 

 サバーニャに続き、ザクとゴッドも質問をする。確かに選択肢に無い選択によってファントムの好感度が上がり、あまつさえ攻略が完了してしまうというのは妙な話だった。

 

「あら、その答えは簡単よ。というか、あなた達マシンソウルにならそのことをとっくに理解しているのだと思っていたけれど」

 

 シノブのその言葉に、マシンソウル一行の頭上に「?」が浮かぶ。

 

「創主からの施しならマシンソウルは何だって嬉しいはずでしょ? 元より、ファントムちゃんのソウ君への好感度は始まった時点で既に80%を越えていたんですから」

 

 それを聞いてマシンソウル達は各々の創主達と顔を見合わせ、そして納得する。

 

「さて、そろそろ終わりでしょうけど、最後まで行く末を見せてもらいましょうか」

 

………………

…………

……

 

「もうこんな時間かぁ……すっかり遅くなっちまったなぁ」

 

 時刻は午後19時を過ぎ、20時に近い。ガンプラの制作会とその後のガンプラバトルに結構時間をとられてしまったようだ。外はすっかり暗くなり、店内も客がまばらになりつつある。手をつないでいるカルナが、ドサッと俺の方に体重をかけてきたので、俺は慌てて両手でカルナを支える。

 

「カルナ、大丈夫か?」

「うん……」

「眠いのか?」

「無理もありません。今日はお昼寝をしていませんものね」

「加えて、朝早くから待ち合わせに付き合わされていたからな」

 

 レギーラの一言に、ファントムはムッとした視線を向ける。しかし言われてみれば確かに、カルナはいつもと言っていいほど日中はお昼寝をしていた。今日はそれが無く、一日中あちこち歩き回ったから疲れたのだろう。

そろそろデートも切り上げて、各々解散しようと思っていた……が、その時俺はあることをふと思った。

 

「なぁレギーラ。そういえば今日レイナはどうしたんだ?」

 

 外で俺達のデートの様子を伺い、選択肢の指示を出してくれているシノブ姐さんを含めるマシンソウルとその創主達のメンバーの中に、レイナは居なかった筈だ。

 

「創造主ならば今日は自宅で破壊された私のパーツの修復を行っている。あの女(シノブ)ももちろん誘ったらしいのだが、修復作業を優先して断った」

 

 相棒のマシンソウルよりもガンプラパーツの修復が優先とは……なんともレイナらしい。

しかし、もしも俺がレイナの立場だったらどうだろうか……? いくら信頼している相手とはいえ、異性を相手にデートをしてくると思ったら……居ても立ってもいられない筈だ。となれば、俺がやるべきことは……。

 

「……ちょっと食品売り場に行ってくる。まだ開いてる筈だ」

「えっ!? あの、マスター!?」

「すぐ戻るからちょっと待っててくれ。レギーラ、カルナを頼む」

「あ、あぁ……」

 

 寝ぼけ眼なカルナをレギーラに任せ、俺は生鮮食品売り場に駆け足で向かう。

 

『ちょっとソウ君? なにをするつもりなの? デートはもう終わりでしょ?』

 

 俺が予定外な行動をとったため、インカムを通じてシノブ姐さんが耳障りなほどに質問攻めをしてくる。

 

「ごめん姐さん。でも、ここから先は俺だけの考えで行動してみたいんだ」

『あんた一体何を……―!』

 

 これ以上は付き合いきれないので、俺は耳からインカムと襟元のマイク兼小型カメラを外し、それらの電源を切る。

 

「悪く思わないでくれよ、姐さん」

 

………………

…………

……

 

「悪いな、おぶらせちまって」

「構わん」

 

 夜もすっかりと暮れた夜道で、俺は両手にいっぱいの買い物袋を提げ、カルナはレギーラの背中におぶさり、すぅすぅと寝息を立てて眠ってしまっている。ファントムはレギーラのバイザーが入った袋と俺がデパートで買ったガンプラとカルナが作ったバルバトスルプスの入った袋、その二つを持って俺の隣を歩んでいる。

 

「しかしマスター、本当に行くのですか?」

「あぁ。これを機にちょっと話し合っておきたいことがあるんでな」

「フン、何を企んでいるのかは知らないが、言っておくが我が住処に貴様らが土足で踏み入ることを私は快くは思っていないぞ」

「大丈夫だって、ちゃんと靴は脱ぐからさ」

「そういう意味で言ったのではない!」

 

俺に反撃できないことをいいことに、レギーラのことを少し茶化しつつ、俺達は目的の場所に着いた。今にも崩れそうな木造のボロアパート。ここに住む者もあまりいないのだろう、ほとんどの部屋に明かりは灯っていないが、2階の一番端の部屋には明かりが点いていた。

 

「いつも一緒に登校するために迎えに来てはいたけど、ここまで入ってくのは初めてだな」

 

 そう言いながら、俺はアパートの階段を登っていく。後ろからファントムと、カルナをおぶったレギーラが付いてくる。歩を進める毎にギシギシと音を立てて、今にも崩れてしまうんじゃないかと思うくらいにボロい。

 そして目的の部屋の前まで来ると、買い物袋を片手で二つ持ち、もう片手でドアをノックする。

 

「…………はい」

 

 ほどなくして部屋の主の声が聞こえ、ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、ギギギッと、立て付けの悪そうなドアが開く。

 

「よう、レイナ」

 

「……えっ? えうっえっ!?」

 

 俺が一言軽く挨拶すると、扉の前でレイナが素っ頓狂な声をあげた。

 さぁ、デート第2幕の始まりだ。

 

―続く―




まずは新年あけましておめでとうございます!

さて、当初の予定ではカルナのガンプラバトルは入っていなかったのですが、せっかくだからバトルさせてみようと思い、急きょガンプラバトルの描写を入れました。
そして何気にこのビルドマスターズだと鉄血のオルフェンズ系ガンプラの登場は初だったりします。

また、タイトルには「後編」とあるのですが、3人のデート終了の描写を入れる際いつも自分で決めている字数を大幅にオーバーしてしまい、字数が多くなっています。
なので前編よりも後編の方がボリュームが多かったりします。

そんなこんなで土壇場の変更が多い25話となりましたが、今年もビルドマスターズをよろしくお願いします。
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