その様子を壁の陰から覗いていたサラ・トモヒロとアキバ・タクオの二人。
ソウシの元に顔を出そうかと迷う彼らの前に現れたのは……?
「お……おい、終わったみたいだぜ?」
「すごい戦いでござったなぁ……」
壁の裏側でファントムとギラーガの戦いを見ていた二人は、おそるおそる顔を出す。
「あれってやっぱ全部本物……?」
「そんなこと僕はわからないでござる……。で、これからどうするでござるか」
二人の視線の先には、先ほどの激戦で傷ついたファントムを抱きかかえ、地面に座り込むソウシの姿があった。
「やはり……出て行くべきでござろうか?」
「……いや、どうやら俺らは見てはいけないモノを見ちまったみたいだからこのまま帰……―」
「見ちゃいけないモノってなぁに?」
突然二人の背後から聞こえる聞き覚えのある声。
「お、オトメ殿!?」
「いつの間に……!?」
「なに二人でこんなところでコソコソしてるの? あ! もしかして二人ってそういう……♪」
「違うわ!!」
二人の意外な関係を示唆し、顔を赤く染めるオトメだったが、二人は同時に声をハモらせて全力で否定する。
「うそうそ♪ はいこれ、没収されてたゲーム」
「お、おう」
「ありがとうでござる」
オトメは二人に独先生に没収されていたゲームを手渡した。
「で、ソウシ君はどこにいるか知ってる? もう帰っちゃったのかな?」
「そ……ソウシなら……」
と、トモヒロはチラッと目線を体育館裏の方に向ける。その視線の先に気付いたオトメが、声をあげた。
「あ! あんなところにいるじゃない! お~いソウシく~ん!」
「お、おいバカ! 出るんじゃ……―!」
―――――第4話:「アニメじゃない!本当のことさ」―――――
背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。それは、すぐにオトメの声だとわかった。
「ソウシく~ん♪ …って、なにこれ……?」
体育館の角の裏から出てきたのは、やはりオトメの姿だった。オトメは先ほどまで戦争さながらの戦いが行われていたこの体育館裏の攻撃の爪痕にかなり驚いている様子だった。そしてその視線は、俺の腕の中で気を失っているファントムに向けられる。
「そ……ソウシ君? その娘……誰?」
「あ……いや、これは……!」
「二人とも! 見てたんでしょ? これってどういうこと!?」
二人とも……?
するとオトメの問いに対して何者かが二人、体育館の角の裏から這うようにして出てきた。
「よ、よう……ソウシ」
「その……なんというでござろうか……」
「お前ら……!」
出てきた二人とは、トモヒロとタクオだった。二人とも……もしかして最初から見ていたのか?
「もしかして……ずっと見てたのか?」
「お、おう……」
「ごめんでござる!」
二人は申し訳なさそうに頭を下げる。別に謝ることなんて何もない。あの激しい戦いの中に自分からのこのこ入ってこようなんて、誰も思うはずがないし。
「それよりも……その娘!」
オトメは気絶しているファントムを指さす。
「お、オトメ……これはだな……」
「怪我してるじゃない! 大丈夫なの!?」
「え……? あ、あぁ。気を失っているだけだ」
「じゃあ怪我の手当てするために保健室行こ! あそこならベッドもあるから休ませられるし、今日保健室の先生は出張でいないし」
「わ、わかった」
「手貸してあげる。ほら二人とも!」
「は、ハイ!!」
「なんでござるか!?」
俺とオトメがそれぞれ両方からファントムの脇を抱え、その腕を肩にまわして抱き起こす。そしてオトメはトモヒロとタクオの二人に指示を出す。
「急いで職員室に行って、保健室の鍵を取ってきて! それから保健室で手当てに必要な物を用意しといて!」
「わ、わかった! おい、行くぞタクオ!」
「か、かしこまりっ!」
トモヒロとタクオの二人はオトメの指示通りに動き、急いで校舎内に戻っていった。
やはり腐っても女の子、こういう時に的確な指示をしてもらえるととてもありがたい。それに、どうやらオトメはファントムの素性のこと今は気にかけないらしい。
「手当てが終わったら、全部教えてもらうからね」
「……あぁ、わかった」
俺とオトメはファントムを抱え、校舎の中へと入っていった。片手でファントムの身体を支え、もう片方の手には貫かれたザクファントムのシールドを抱えていた。
………………
…………
……
俺達が体育館裏を離れた後、騒ぎを聞きつけた部活中の生徒や教員達が集まり、体育館裏は大騒ぎとなった。一方、そのお陰か校舎の中には人影が全く無かったので誰にも見つかることなく無事ファントムを保健室に運ぶことができた。
「これでよし……っと」
ファントムの手当てを終え、ベッドの上に静かに寝かせる。怪我は見た目ほど大したことないようだった。こういったことはあまり得意ではない俺でも、簡単に手当てができた。
「どう? 様子は」
「気を失ったままだ。けど、大事は無いと思う」
オトメから手渡された水の入った洗面器を受け取りながら、俺は答えた。洗面器の中にタオルを入れ、よく絞ってファントムの額に乗せる。早く気が付いてくれればいいんだが……。
「よかった、大したことないみたいで。……ファントムちゃん、っていうの?」
「あぁ……」
オトメの質問に俺は短く答える。ファントムが装備していた武器の数々は、今は彼女の身体から取り外させてもらっている。手当てをするにしても、ベッドに寝かせるにしても邪魔だったからだ。
「すげぇ……マジ物みてぇな刀だ」
「こっちのビームライフルもずっしり重くて本物みたいでござる」
一方のトモヒロとタクオの二人は、いつもなら保健室の先生がいる机の方で先ほどまでファントムがギラーガと戦っていた武器を手に取って見ていた。どうやらこの二人、まださっきの戦いを芝居か何かだと思っているらしい。
「言っておくが、その武器はみんな本物だぞ」
「またまた~、ソウシったら冗談キツいぜ」
「そうそう。さっきは混乱してて本物かと思ったでござるが、冷静に考えてみたらどうせ映画研究会あたりが自作の映画を撮影してたんでござろ? しかし陰で見てたでござるが今年はすごいクオリティ……―」
その時、タクオがうっかりビームライフルのトリガーを引いた。
瞬間、ガンダムSEED本編内でよく聞くビームライフルの発射音が保健室中に響き渡ると、緑色の高エネルギービームが発射され、保健室の壁に大きな穴を開ける。
「う……うわわわわわ!!」
慌ててビームライフルを取り落とすタクオ。
「が……ガチで本物!?」
それを見てトモヒロも慌てて刀を放り出す。
「だから言ったのに……まぁまずは三人とも、俺の話をよく聞いてくれ」
慌てふためく二人を落ち着かせ、俺は三人に全ての事を話した。昨日、朝起きたら美少女になったガンプラが隣で寝ていたこと……その持っている武器が全てガンダムの世界に登場する本物の兵器で、人間サイズにスケールダウンさせたものだということ……キサラギに体育館裏に呼ばれ、彼女も俺と同じく人の姿となったガンプラを従えていたということ……そして決闘を申し込まれ、負けてしまった事……。
「……俺たちの知らないところでそんなすげぇことが起きてたなんてな……」
「今の話……アニメかなんかの話じゃないのでござるか?」
「アニメじゃない」
「本当のことか?」
「本当のことだ」
なんかZZのOPのようなフレーズで、トモヒロとタクオの質問に答える。
「じゃあ、あの娘が……」
「……そう。あれこそまさに人の姿となったガンプラそのもの……ザクファントムのファントムだ。ま、あいつが目を覚ましたらちゃんと紹介してやるよ」
「いえ……マスターが紹介する必要はありません」
その時、保健室のベッドのカーテンが開き、目を覚ましたファントムがおぼろげな足取りでこちらに歩み寄ってきた。手には、先ほど俺が額に乗せた濡れたタオルを持っている。
「ファントム! もう起きて大丈夫なのか!?」
「この程度…私にとっては何とも……あっ!」
「お、おい!」
フラフラとしていたファントムが躓きそうになったところを、俺が身体を支え、態勢を立て直す。
「まだ無理しない方がいいって」
「……はい、御心配おかけして申し訳ありません…マスター」
大人しくなったファントムは俺の指示に従い、保健室のパイプ椅子の一つに腰をおろす。だがそれと同時に、ファントムはさっき俺が手当てした包帯や絆創膏やらをはがし始める。
「おい、まだ……えっ?」
はがされた絆創膏や包帯の下は、怪我をする前とほぼ同じの、なんでもない普通の女の子の肌に治っていた。あれだけ手痛くやられたのにもうここまで治ってるなんて……これもガンプラ少女特有の能力なのか?
「じゃあファントム、座ったままでいいからこいつらに自己紹介してくれるか?」
「……」
考えていても仕方ないので俺はファントムに3人への自己紹介そ勧める。紅い瞳で、ジッと三人を注意深く見つめるファントム。警戒しているのだろうか? 無理もない。ついさっきまで俺のクラスメイトのガンプラと命を賭けたいをしていたのだから、俺のクラスメイトとはいっても警戒はする。
「大丈夫だファントム。そんなに警戒しなくても、この三人は俺の友達だ。さっきのような奴とは違う」
「……はい。失礼しました御学友方、私はマスターの作ったガンプラ、ザクファントムのファントムと申します。以後お見知りおきを」
自分のことを簡潔に紹介すると、ファントムは三人に向かって頭を下げる。
「あ、これはこれはどうもどうもご丁寧に。私はフジヨシ・オトメっていって、ソウシ君の幼馴染なんだ、よろしくね♪」
「ソウシの友人のサラ・トモヒロだ」
「同じくアキバ・タクオでござる」
同様に三人もファントムに対して簡潔に自己紹介を述べた。
「こいつら三人とも、俺と同じでガンダムが好きなんだ、よろしく頼むよ」
「はい。オトメにトモヒロにタクオ……ですね。よろしくお願いします」
三人の名前を復唱し、丁寧にお辞儀を返すファントム。それに釣られて三人も会釈をした。よかった、どうやらこれでファントムの三人に対する警戒心が解けたみたいだ。
「あれ? そういえば私の……」
何かに気が付いたかのように、ファントムが自分の肩や腰あたりをペタペタと触っている。
「ああ、お前のシールドや武器ならここだよ」
俺は先ほどまでトモヒロやタクオがいじっていたファントムの武器類をファントムに返す。
「ありがとうございます。……」
手渡された武器を見て、ファントムが突然何故か悲しいような寂しいような……そんな悲壮感漂わせる表情を見せ、急に黙りこくる。
「どうした?」
「……私、負けたんですね……」
ファントムが自分の武器を装備していくなか、右肩のシールドを装備しないのを見て思い出してしまった。右肩のシールドは、先ほどの戦いでギラーガに粉々にされてしまった。その破片は全て回収してきたのだが、それはファントムが敗北したという証に他ならない。
「き……気にするなよ! 弱いだの強いだの、そんなこと俺は気にしないし」
「……マスターのお気遣いには感謝します。ですが、私がこの様ではマスターを満足にお守りすることもできない……!」
それを聞いて俺は何も言えなかった。俺にとっては、ファントムには戦ってほしくないというのが本音だ。しかし、俺の気持ちとは裏腹に、今日のギラーガみたいな奴がまだいるのかもしれない……それでもしまた戦うことになったら……今回は辛うじてこの程度で済んだが、次もこういくとは限らない。最悪の場合は……。
「と、とにかくさ! もうそろそろ帰ろうよ。外も大分暗くなってきちゃったし。ね?」
「そうだな。これからどうするかはまた明日にでも考えるとして、今日はもう休めよ」
「これ以上学校に残っていると誰かに見つかってしまうかもしれないでござるからな。……あの穴も」
そう言ってタクオはビームライフルの誤射で開けてしまった壁を指さす。
「あれもバレたらヤバいな……とりあえずポスターかなんかで隠しておこう」
俺は穴に『外から帰ったらうがい・手洗い』と書かれているポスターを貼って、一応誤魔化すことにした。確かに、3人の言う通り初秋の夕方は陽が落ちるのが早い。外はだんだんと暗くなっていく。ファントムもさっきの戦闘で疲労が溜まってるみたいだし、家に帰ってちゃんと休ませた方がいい。
「これでよし……っと。さて、じゃあ早いところ帰るとするか」
ポスターを貼り終えると、俺たちはこっそりと保健室を出た。
「よし、バレないように裏の昇降口からこっそり出ようぜ」
廊下の角から顔を出し、周囲を見回しながらトモヒロが小声で呟く。
「幸い生徒はほとんどが帰ったか部活中か、もしくはさっきの騒ぎで荒れた体育館裏を見物している頃だろうからね」
「行くなら今しかないでござるよ」
「そうだな。ほらファントム、行くぞ」
「……はい」
ファントムは心底落ち込んでいるようだったが、今はこのままでいても仕方がない。ひとまず、家に帰ってからこれからのことを考えないと。
………………
…………
……
「……よし、うまくここまで来れたな」
なんとか学校からはうまく誰にも出会わずに出ることができた。もうすっかり日も落ち、暗くなるとY字路に差し掛かった。片方は俺とオトメの方向、もう片方はトモヒロとタクオの家の方向だ。
「じゃあ、俺達はここまでだな」
「あぁ、二人ともまた明日な」
「明日……でござるか」
「明日」というタクオがワードを聞いてタクオが表情を曇らせる。
「……ソウシよぉ、気になるんだが、明日学校に行くのは止めた方がいいんじゃねぇか?」
「え……?」
「もし、お前が明日学校に来たとたんにまたアイツに襲われたらどうするんだよ?」
「アイツって……キサラギにか?」
確かに、こんなことがあった矢先、昨日の今日でキサラギに会うのは気まずいというかなんというか……。
でも……だけどあいつはさっき別れ際に……。
『…また、明日…』
……まるでクラスメイトとして当たり前のように最後に俺に挨拶をしていった。どうにも俺はあいつが自分から俺達にガンプラをけしかけてきたようには思えない…。
「あぁ……その辺は、またウチに帰ったら考えておくよ」
「そうか。まぁもしものときは安心しろ。俺が絶対にあいつをお前に近づけはしないからな!」
「んん“っ!?」
その時、俺とトモヒロの会話を聞いていたオトメが変な声を出して目を爛々と輝かせ、同時にオトメの頭の中で[[rb:種 > SEED]]が割れる音が聞こえた。
~乙女の妄想空間~
『安心しろ。お前は俺が守ってやるから!』
トモヒロの腕が総始の首と背中にまわされ、二人は互いに見つめあい、徐々に顔を紅潮させてゆく……。
『トモヒロ……ダメだ……! 俺達……親友同士なのに……こんなこと……!』
『親友以上の関係になろう。俺はもう、お前を誰にも奪わせない……』
艶やかにソウシは親友の名を呟く。ソウシの潤んだ瞳がトモヒロを捉え、二人の顔は徐々に接近する。
そして……―
「ウェヒヒヒ……♪ じゅるり♪」
「マスター、オトメの様子がなにやらおかしいのですが大丈夫でしょうか?」
「気にするな、いつものことだ」
オトメの妄想空間にいちいち付き合ってたらキリがない。というか、どんな妄想をしているのか知りたくもないし……。こういうときはオトメの気が済むまで放っておくのが一番だ。
「じゃあな、また学校で」
「さらばでござるー」
「おう! ……ほらオトメ、いつまでも涎垂らしてないでさっさと帰るぞ。ファントムの姿が誰かに見られたらどうするんだ」
「はっ!? は、はいはーい」
俺の声で正気に戻ったオトメは、短く返事をすると俺達の後に付いて来た。
………………
…………
……
「じゃ、俺達はこれで」
「うん、できるならまた明日ね」
「オトメ、ではまた」
オトメのマンションの前まで来ると、ソウシとファントムの二人は自分たちの家に帰っていった。一人になったオトメはエレベーターで自室に向かいながら、オトメなりにこれからのことを考えてみた。
(はぁ……なにかいい考えはないかなー。もし明日またソウシ君が襲われたら……あ、襲われたらって性的な意味じゃなくてね。明日の今日じゃ、正直ファントムさんだけじゃ心もとないし……いっそのこと味方で、もう一人くらい女の子になったガンプラが出てきてくれたりしないかなー。そうすればファントムさんと協力できるのに)
そんなことを考えているうちに、「チーン」という音と共にエレベーターが目的の階に到着する。
「なーんてね、そんなことしょっちゅうあるわけないかー♪」
エレベーターを降り、部屋のロックを解除して中に入る。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい、お嬢様」
「はぁ疲れた……今日はいろんなことがあったから大変だったなー」
「それは御苦労さまでした~。どんなことがあったんです?」
「それがね~……あれ?」
その時、オトメは自分の不意に行動がおかしいということに気が付いた。自分は今、いったい誰と会話をしているのか……?
「だ、誰!?」
「あ、ごめんなさい! びっくりしちゃいました……?」
と、キッチンの方から申し訳なさそうな顔をする女の子が出てきた。長身でスタイルは良く、茶色の綺麗な髪は肩までかかるセミロングで、胸は……ちょっと悔しいけど私よりも大きい。でも、私が何よりも気になったのは彼女の格好。
全身に白と緑色の装甲のようなものを纏い、腰には……はなにやら大きな板のような物を左右に5つずつ、合計10個付けている。
「あ……貴女は一体……?」
「私ですか? ではお茶でも一緒に飲みながらゆっくりお話しましょう♪」
そう言って彼女は先ほどまでキッチンで温めていたと思われる、紅茶の入ったティーポットを持ってきた。
今回はオトメ、トモヒロ、タクオの3人にMS少女について説明するのが主な回となったので、ちょっと退屈だったかもしれませんねw
そしてラストに登場した新キャラ…彼女の正体とは…?(まぁほとんどの人が気付いているとは思うけどねw)