そんな中、突然オトメからの電話で二人はオトメの下に呼び寄せられる。
部屋の中からは何者かの声がする……果たして二人の見たものとは!?
家に着くと、俺とファントムはようやくひと段落し、ソファーに座りこんだ。
「はぁ~あ……今日はなんかいろいろあって疲れたなぁ」
「そうですね、マスターもどうぞごゆっくりお休みになられて下さい」
「ん、そうさせてもらうよ」
今日は本当にいろいろあって疲れた。だからファントムの気遣いはとても嬉しかった。だが、疲れているのは俺よりも戦っていたファントムの方だろう……。俺はソファーの上で横になりながら、ファントムに気をかける。
「だけどそれを言ったらお前もそうだろう? ファントム、まだ疲れているなら無理せずに休めよ?」
「わたくしは大丈夫です。先ほどお休みになりましたから」
「そうか? それならいいが……」
確かにファントムが先ほど受けた傷は、もう跡形もなく完治している。だが俺が見る限り、ファントムはそういった外見で判断できるような身体的な面にではなく、内側の精神的な面でに疲れているのは目に見えて明らかだった。身体の疲れは休めばとれるが、精神の疲れはそうはいかない。なんとかリフレッシュさせたいが、どうすればいいのか……。
「マスター、携帯が」
その時、テーブルの上に置いた俺のマナーモードに設定してある携帯が振動し、ファントムがそれを知らせる。
「ん? おう」
気だるそうにソファーから起き上がり、携帯を手に取る。全く、人がせっかく休もうとしていたのに……一体誰だ? 開いて着信画面を確認すると、『フジヨシ・オトメ』とあった。
「オトメから? こんな時間に一体何の用だ?」
疲れているから無視しようかとも思ったが、こんな時間に用とはよほどのことなんだろうと思い、とりあえず電話に出てみる事にした。
「……もしもし?」
若干ダルそうにして電話に出てみる。これでまた「BL小説のネタになってほしい!」なんていうふざけた内容なら、即刻切ろうと思ったが……。
『ソウシ君大変なの! 早く私のウチに来て!』
「大変って……なにが大変なんだ?」
『そ、それは……なんとも名状しがたく……』
なんだ? オトメの奴、柄にもなくなんだか焦っているようだが……。
「わ、わかった。じゃあ今から行くから待ってろ」
『う、うん』
俺はオトメからの電話を切り、ソファーから立ちあがる。
「マスター、どちらに?」
「ちょっとオトメの家に行ってくるよ。なんか知らんけど大変なことが起きてるらしい」
「大変なこと……? マスター、私も御同行させてはもらえないでしょうか?」
「ファントムも? そりゃあまぁもちろんいいけど…」
ファントムが気にかけることだとすると……まさか!
―――――第5話:「もう何も怖くない、怖くはない」―――――
「……ずいぶん大きなところに住んでいるのですね、オトメは」
というわけで俺達は今オトメのマンションの前に来ている。外を出歩くのにファントムのあの格好では目立つので、今のファントムは俺の体育の時に使うジャージを着てもらっている。サイズの合う女性用の服が無かったために緊急の措置なのだが、これはこれで馴染んでて違和感があまりない。そのため、道中普通に人とすれ違っても特に不審がられることはなかった。
「ああ、あいつの家は結構な金持ちだからな。両親とは別居してるから、幼馴染のよしみで毎朝俺が起こしに行ってるんだ」
「それで今朝は早くに家を出られたのですね」
オトメの部屋に向かうエレベーターの中、俺とファントムはそんな他愛のない会話をしていた。ふと携帯の時計を見てみるともう19時近くになっていた。こんな時間に人を呼びつけるとは、やはりただ事ではない。しかもさっき別れたばっかりなのに……。
となると、その理由はやはり……。
「着いたみたいですね」
「このエレベーターの向かいがちょうどオトメの部屋だ」
エレベーターを降り、オトメの部屋の前まで来る。俺はそのままドアノブを握り、中に入ろうとした。しかし、その俺の手を突然ファントムが止めた。
「どうした?」
「もしも……という場合があります。十分に用心して下さい」
「……例のニュータイプ的な勘てやつか?」
「そういうわけではありませんが……しかし、あんなことがあっては私としても警戒せずにはいられませんので」
キサラギとギラーガの事を言っているのか。ということはやはりまさか、オトメの身にも俺と同じことが……?
「わかった。十分に用心するよ」
俺がそう言うと、ファントムはコクリと頷いて手を離した。オトメに限って俺たちに襲いかかってくるなんてことはないと思いたいが……それでも用心に越したことは無い。俺はゆっくりとドアノブに手をかけ、少しづつドアを開けていく。
「……」
俺達がギリギリ入れるくらいまでドアを開けると、物音を立てないようにソロリソロリと部屋の中に入っていく。
「やっ……! ちょっと……やめてください……!」
「ウェヒヒヒ♪ よいではないかよいではないか!」
「マスター、奥の部屋から女性の声といかにも下劣そうな輩の声が聞こえます」
「オトメ……まさかこの部屋の中で……!」
その声の元は、どうやらオトメの私室からするようだ。オトメの奴……もしかして自分の身の危険を感じたから俺に電話したのか!?
「蹴破るぞ! ファントム!」
「承知しました」
その言葉と共に、ジャージ姿だったファントムの格好が一瞬であのザクファントムの武器と鎧を纏った姿に変わる。肩のスパイクシールドでショルダータックルをしてドアに突撃し、同時に俺はドアを思いっきり蹴破り、部屋の中に踏み込む!
「オトメ!」
「御無事ですか!?」
俺とファントムは部屋の中の状況を見て、そして……唖然とした。
「いやぁ~! お、お嬢様! 勘忍してください!」
「ぐへへへへへ♪ 次はこのキャラの衣装を着てみよっか♪」
オトメが涙目になりながら着衣の乱れた一人の少女を相手にいろいろなコスプレをさせて、涎を垂らしながらそれはそれは心底楽しそうな顔をしていた。
「おいこら」
「あいたっ! ……あ、ソウシ君ファントムさん、いらっしゃい」
自重しないオトメの頭を蹴り倒すと、ようやく俺達が来た事に気付いたようだ。
「いらっしゃいじゃない! お前、なんだって俺を呼んだんだ? 大変なことだっていうから慌てて来たんだぞ!」
「あ……うん。そのことなんだけど……」
オトメは頭を擦りながら起き上がると、コスプレをさせていた少女の方を指さす。
「お、おい、まさか……」
俺が「まさか」という顔をすると同時に、ファントムが彼女を警戒し、腰の斬機刀に手を伸ばす。
「うん、そのまさかでね、彼女の名前は……」
「えっと……はい♪ 私はフジヨシ・オトメ様のガンプラで、『ガンダムサバーニャ』と申します。以後お見知りおきを♪」
そう言って目の前の女性はペコリと頭を下げて挨拶をする。
「が……ガンダムサバーニャって……もしかして今朝オトメが俺に見せてくれたあの……?」
「そうですよ、キモト・ソウシさん。お嬢様からお話は聞いています」
サバーニャは先ほどまで着せらそうになっていたコスプレ衣装の代わりに、乱れた着衣を直し、全身に重そうな緑色と白の装甲と、10個のホルスタービットを纏っていく。確かにその姿は、どこからどう見てもあのガンダムサバーニャそのものだった。
「そして……女ですね、私よりも早くに人の姿になったガンプラというのは」
サバーニャは先ほどからずっと斬機刀に手を伸ばし、警戒しているファントムに視線を向ける。
「……だとしたらどうする?」
「お、おい! お前ら!」
威圧的なファントムの答えに、俺は思わず二人の間に入る。このまま放っておいて部屋の中で戦争でもされたんじゃたまらないからな、なによりも俺はオトメとは戦うことなんてしたくないし、ここはできるだけ穏便に済ませたいところだ。
「大丈夫だよファントムさん、サバーニャちゃんは貴女と戦おうだなんて思ってないから」
と、俺が間に入っていたが、ファントムの行動を制止させたのは、意外にもオトメの奴だった。
「サバーニャちゃんはついさっき人の姿になったばっかりだから、先輩である貴女にいろいろ聞きたいの。そうだよね、サバーニャちゃん?」
「ええ、お嬢様の友人のガンプラに手を出そうだなんて思ってないですもの。貴女さえよければ……お友達になってはいただけませんか?」
そう言ってサバーニャはファントムに手を差し出す。
「……」
それを見たファントムは、若干怪訝そうな顔そしていたが、やがて斬機刀から手を離し、握手に応えた。
「一時的な共同戦線ということで、よろしいか?」
「貴女がそれでいいっていうなら、私も構わないです」
「うんうん、よしよし♪ これで二人ともお友達だね♪」
オトメが呑気なことを言って二人の頭を撫でる。しかし驚いたな……ガンプラの人化が、まさかオトメの所にまで起こるなんて……。
ぐぅ~……
その時、誰かのお腹から勢いよく腹の音が鳴る。どうせまたオトメあたりだろうなと思い、ジト目でオトメの方を見るが。音の元はそこからではなかった。
「す、すいません……」
と、若干小声になって顔を赤らめてお腹を抑えたのは、サバーニャだった。
「あはは、人間になって結構時間経つもんね。ソウシ君」
「ん?」
ここでなぜか俺の名前を呼ぶオトメ。嫌な予感がするが……。
「お夕飯作ってくれると嬉しいな~♪」
「……なんで俺が」
「だって私料理作れないし、せっかく人の姿になって初めて食べる食事がコンビニ弁当とかじゃ味気ないし、何よりソウシ君の料理美味しいんだもーん♪」
と、満面の笑みで答える。なにが「もーん♪」だ! ここはお前の家だろうが!
……とはいえ、文句言ってもどうせ聞き入れてくれないんだろうからここは大人しく俺が作ることにした。
………………
…………
……
「ふぅ……毎朝あいつのために朝飯作ってやってはいるが、とうとう夕飯まで作れというようになってきたか……」
エプロン姿で台所に立つ俺。そう、一応平日の朝食は俺が用意してやってるため、冷蔵庫の中には最低限の食材が揃っている。といっても、今日はオトメ一人の分だけを作ってやるわけにもいかない。俺を含めて4人分の食事を作らなければならなかったため、冷蔵庫の中はほぼ空になってしまった。
「お~い、飯できたぞ! ……何やってるんだあいつら?」
というわけでなんとか4人分の夕飯を作ったわけなんだが、どういうわけかあいつら、俺が呼んでも一向に来ようとしない。聞こえないのか? こっちから呼びに行った方がいいか……?
「はいは~い! 今行くよ~」
「ったく、おせーよ。3人で何して……って……」
オトメの部屋の方から声が聞こえ、やっとリビングに来た3人の姿を見て……俺は驚きのあまり手を拭いていたタオルを床に落とし、言葉を失った。
「どう? 似合うでしょ~♪ この衣装は周りに似合う人がいなくて持て余してたのんだよね~♪ クラスのみんなには内緒だよ?」
まずオトメだが、ピンク色の髪(おそらくウィッグと思われる)を両サイドで赤いリボンで留め、その服装は同じくピンクと白いフリルのついた服装…。
「見せ物じゃないのよ~。なんてね、うふふ♪」
サバーニャの格好は、茶色のセミロングの髪はサイドにロールで巻かれ、白と黄色を基調としたオトメと似たような格好……そしてファントムはというと。
「そ、その必要はないわ……。オトメ、こんな感じでよろしいのでしょうか……?」
長い黒髪はそのままに、白い下地の服に紫色の襟とスカートを履いて、左腕には盾のような物を付けている。
「うんうん、みんなよく似合ってるよ~♪」
「お、おいオトメ……この恰好ってまさか……?」
「うん♪ 魔法少女まど……―」
「えーい! それ以上言わなくてもわかる! しかし、これはまた……」
俺は改めて今この場にいる3人の衣装を見回す。オトメはしょっちゅうコスプレしているから、そのコスプレのクオリティが毎回凄いことは知っていたが……衣装を着る相手といえばいつもオトメ本人だったため、なんというか……目が慣れてしまっていたんだろうだからオトメ以外の者が、オトメの作った衣装を着てコスプレをしているのは、なんだか新鮮だった。
「マスター、いかがでしょうか?」
「ふぁ、ファントム!?」
と、黒い魔法少女の格好をしたファントムが突然俺に尋ねてきた。
「私はこういう格好をするのは勝手がわからないのですが……やはり、似合っていないでしょうか?」
いや、あなたが普段してる格好も他の人が見たらコスプレにしか見えないんだよ? ……という心のツッコミはなしにしておいて。
「い、いや、似合っているぞ。元々オトメの作った衣裳って本物に限りなく似せてあるからな。それに……コスプレってのは何よりも着ている本人が良くなきゃ似合わないものだからな」
「マスター……!」
俺がそう言うと、ファントムの表情がパァっと明るくなった。褒められて嬉しいってことなんだろうか? やっぱり、元がガンプラでも、コスプレしていても、こいつらは一人の女の子なんだな。
「お! ご飯できてるね~♪ さぁみんな、食べよ食べよ♪」
「おいおい、その格好のまま飲むつもりか? こぼしても知らないぞ」
「あ、そっか……みんな、食べる前に着替えてこよ」
「何のために着替えてきたんだお前らは!」
オトメのボケボケぶりに俺もとうとう突っ込まざるを得なくなった。
………………
…………
……
「これは……何ですか?」
数分後、先ほどの格好から装甲類や武装類を外した軽装状態となったサバーニャが食卓につき、テーブルの上に乗っている料理を不思議そうな表情でしげしげと眺める。
「鯖の味噌煮だよ。ちょうど安い時に買っておいた鯖があったんだ」
「ほう……美味しそうな匂いがしますね」
確かに、味噌の甘じょっぱい匂いと生姜のヒリリとした匂いが空腹の俺達の鼻孔を刺激する。料理ができてからも、二度の着替えで結構待ちぼうけを食らったからな、流石の俺ももう限界だ。
「よし、食うぞ。いただきます!」
「いっただきま~す♪」
「いただきます」
「……いただきます」
手を合わせてから箸を取り、鯖の切り身に箸を入れるて口まで運ぶ。あぁ……思った通り。口に入れた瞬間柔らかい身は溶けるように崩れて味噌の味が口いっぱいに広がる。自分で言うのもなんだが、満足な出来だ。
「うーん、美味しい!」
「いつもながら、マスターの料理は格別です」
オトメとファントムは喜んでくれているようだ。さて、一番反応が気になるのは人となって初めて食事をとるサバーニャの反応。果たして口に合うだろうか……?
不慣れな手つきで箸を使い、鯖の身をほぐして口に運ぶサバーニャ……さぁ、どうだ?
「こ、これは……!」
口に入れた瞬間カッと目を見開き、無言になるサバーニャ。気が付くと、俺だけでなくオトメやファントムまでもサバーニャの反応が気になるようで箸が止まってしまっている。
しばしの沈黙……そして。
「あむっ……モグモグ……はぐはぐ!」
「お、おいおい」
急に箸が進みだしたかと思うと、ひょいひょいと鯖の味噌煮、白飯、味噌汁を次々と頬張っていくサバーニャ。その食いっぷりにまたも俺達は箸が止まる。そしてあっという間に、サバーニャの前に用意された食事は綺麗に食べ尽くされた。
「ふぅ……ごちそうさまでした。とても美味しかったです、ソウシさんのお料理は♪」
「そ、そうか。それはよかった」
俺達はまだ半分も食べていないというのに、サバーニャは食器を片づけ、ティーカップを持ち、上品に食後の紅茶を飲む。
「しかし、本当に美味しいです。何故マスターはそれほどまでに家事が得意なのですか?」
「まぁウチは昔から両親が二人とも仕事で出てるから必然的に一人になることが多くてな。そりゃ嫌でも家事が得意になるよ」
「私のとこも同じなんだよ~♪」
本当に……オトメも俺も同じ境遇だっていうのにどうしてこんな家事の能力に差がついたんだか……しかも男と女で……。
「働きに……ですか。では現在留守なのは?」
「それがな、あの二人貯まりに貯まった有給を使って今世界一周の旅行に行ってるんだよ。全く、一人息子置いといて薄情なもんだよな」
「寂しくはないのですか?」
「全然。別に死に別れたわけじゃないし、むしろ居なくて家で好き勝手な一人暮らしできて、それを楽しんでるから俺は別にいいんだよ」
これは強がりでもなんでもなく、本当のことだった。たまに電話で連絡しているし、何かあればすぐに戻ってくるとも言っている。何も心配する必要なんかない。
「お嬢様も同じですか?」
「う~ん、そうだね。周りにはソウシ君達みたいな友達もいるし、これからはサバにゃんとも一緒だしね♪」
「ブフッ!?」
オトメがサバーニャのことを「サバにゃん」と呼んだ途端、サバにゃん……い、いや、サバーニャは口に含んだ紅茶を思わず吹き出してむせてしまった。
「ゴホッ、ゴホッ……さ、サバにゃんってなんですか!?」
「〝サバーニャ″って、なんだか猫みたいな名前でしょ? で、この鯖の味噌煮見てたら頭の中で鯖を咥えた猫が思い浮かんだんだぁ、だからサバにゃん♪ かわいいでしょ?」
なんという安易なネーミング……。そして「かわいい」というフレーズを聞いて、サバーニャの顔がどんどん赤くなっていく。
「そ、そんな……! か、かわいいだなんて……お嬢様、私、困ちゃいます……」
「え~、もしかして……嫌?」
「い、いえ! 嫌というわけでは……!」
「ならいいじゃん♪ これからよろしくね、サバにゃん♪」
「は……はい!」
どうやらサバーニャの方も、大人しくオトメのセンスを受け入れたようだ。本人もまんざらでもないようだし、まぁいいんじゃないかな。
「なら、俺からもよろしく頼むぜ、サバにゃん」
「守るべきマスターのため、共に戦いましょう。サバにゃん」
「も~! その名前で呼んでいいのはお嬢様だけなの~!」
と、俺たちは冗談で言ったつもりなのにサバーニャは顔を真っ赤にする。たしかに、オトメのガンプラと一緒にならこれから先、どんな奴が相手でも大丈夫だろう。根拠は無いが、そんな気がしたのだった。
今回はサバーニャ登場の回でしたが、残念ながらバトルではなく、日常的な感じの登場となりました。
サバーニャのモデルはまんまマ○さんですw 戦い方といい、武器といい。
別に頭は取れないけどね!
さて、次回はようやく久々なバトルとなります。
次に登場するガンプラは…果たして?