その想いに応えるため、ソウシはトモヒロを自分の行きつけのショップに連れて行った。
翌朝、昨日の今日にあんなことがあったから、今日は行こうかどうかいろいろ考えたが、やはり無断で休むのもよくないと考え、学校に行くことにした。俺の作ったガンプラの人化から始まって、ギラーガとの戦い、さらにはオトメのガンプラまで人の姿になった。昨日一日だけでこれだけのことが起こったから、せめて今日一日ぐらいは普通の日常でありますように……と、半ば神に祈るような形で俺はいつもと同じように朝オトメを起こしに行き、そのまま学校に登校し、教室のドアを開ける。
教室の中は、いつもと同じ光景があった。友達同士で談笑している者もいれば、1限目の数学の宿題を必死で今終わらせようとしている者、携帯をいじっている女子、教室の隅でカードやゲームをしている者たち……本当にいつも通りの光景だった。この光景を見ると昨日一日の出来事が、すべて夢だったんじゃないかとさえ思えてくる。
と、その当たり前の光景の中に一人……やはりいた、キサラギ・レイナだ。
教室のほぼ中央に席がある彼女は誰とも関わらず、ただ一人、静かに本を読んでいる。俺のことを気にかけないのだろうか? 昨日あんなことがあったばかりなのに……。
「お! やっと来たかソウシ!」
と、いきなり俺を呼ぶ声がする。声の主はサラ・トモヒロだった。
「どうしたトモヒロ?」
「昨日さ、ガンプラ買えるいい店知ってるって言ってたよな?」
「あぁ、言ったけど」
「なら今日の放課後、俺をそこに連れてってくれないか?」
と、普段の暑苦しい感じを1.5倍増しにして俺に詰め寄るトモヒロ。
「そ、それはもちろん構わないけど……なにしに行くんだ?」
「何って、そりゃお前ガンプラを買いに行くに決まってるだろ」
「ガンプラを!?」
確かに昨日の会話でトモヒロがガンプラを作りたいという話はしていたが、それはもうちょっと先の話かと思っていた。
「まぁなんていうか……気を悪くしないでもらいてぇんだけど、昨日の戦い見てたらなんか俺も熱くなってきちまってさ。自分でも作ってみてぇって思ったんだよ」
昨日の戦い、というのはもちろんファントムとギラーガの戦いのことだろう。確かに、目の前であんなにも激しい戦闘が繰り広げられていれば、少なからず影響されてしまうのも道理か。
「あ、勘違いしないでもらいたいんだけど、俺ぁ別にファントムちゃんがあんな目にあったからってそれを考えてないわけじゃ……」
「あぁ、大丈夫だわかってるよ、お前はそんなつもりで言ったんじゃないってことぐらい。オーケーわかった、じゃあ今日の放課後一緒に行こう」
「おう!」
理由はどうあれ、俺らと同じくガンプラに興味をもってくれたのは嬉しいことだ。トモヒロのことだから恐らく作り方もわからないだろうから、道具も一式揃えないとな。
―――――第6話:「誕生! 新たなる輝き」―――――
結局、今日は本当にただの日常で授業は終わった。キサラギも普段の状態に戻ってしまったようだし、俺と口をきくのはもちろん、目線すら一度も合わなかった。
「ソウシー! 行こうぜ!」
「おう」
俺はというと、今朝トモヒロと約束した通り、行きつけの模型屋へガンプラを買いに行くことにした。
「ふっふっふっ…あの二人、私を置いておいて二人で帰るなんて…なにかあるわねぇ」
昇降口の下駄箱の陰からオトメがソウシとトモヒロの二人を見てそう呟く。
「いや……今朝ガンプラを買いに行くとかなんとか言ってたでござるぞ?」
その後ろからタクオがオトメに呟く。
「そんなの名目上に決まってるじゃない! きっとその後、二人っきりであーんなことやこーんなことをするに決まってるじゃないの! 仮に無かったとしても、二人でお買いものなんて……これはもうデートと呼ばずしてなんと呼ぶの! うふふふ……男二人で放課後のデート……妄想が捗るわぁ♪ 腐っ腐っ腐っ♪」
腐ったオーラを周囲に撒き散らしながらオトメは不気味に笑う。
「はぁ……じゃあ僕は昨夜録画した深夜アニメを見なければいけないのでこれで失礼……―」
と、タクオはこっそりとオトメの傍から離れようとするが……「ガシッ」と凄い握力で背後からオトメに肩を掴まれた。
「ひっ!?」
「ダメよ。私達二人であの二人の秘密を暴くのよ! 今年の冬コミのネタ、まだ思いつかなくて困ってたのよ! あの二人ならいいネタになりそうだもの!」
と、タクオの襟を引っ張るとそのままずりずりと引きづりながら、オトメ(とタクオ)はソウシとトモヒロの後を追うことにした。
………………
…………
……
細い路地裏を抜けると公園の裏に出る。そしてその正面に立つホビーショップこそ、俺の行きつけの店、ホビーショップ〝ブルーコスモス″だ。
「こんちわぁ」
ドアを開けると、店の中に入ると奥の方から青いツナギを着た男の人が、カウンターの前まで出てくる。
「よう、ソウシ君か」
「お久しぶりです、アベさん」
この人がこのショップの店主、アベさんだ。ちょっとソッチ系なところもあるけど、ガンプラを愛するとってもいい人だ。
「今日はどうしたんだ? HGのガンダムレギルス入ってるぞ。それとも新発売のMGイージスガンダムか?」
「いえ、今日は俺じゃなくて、俺の友達がガンプラを作りたいっていうんで連れてきたんですよ」
「ど、どうも」
トモヒロはアベさんに軽く会釈する。
「ほほう、ソウシ君のお友達とは珍しいな。で、何を作るんだ? 初心者ならまずオーソドックスなHGUCのザクF2型かダブルオーガンダムあたりを……―」
「あの……俺、ゴッドガンダムを作りたいんです!」
「なに、ゴッド?」
ゴッドと聞いて、阿部さんが一瞬「何でゴッド?」という表情をしたため、俺がそれについての説明を行った。
「アベさん、こいつはガンダムの中でGガンダムが好きなんですよ。ガンプラ作りのいろはを教えるのも大事だけど、一番大事なのはどのガンプラが一番好きか、でしょ?」
「ふ~む、確かにな。よし、ちょっと待ってろ。ゴッドなら確か在庫がまだあった筈だ」
そう言ってアベさんは店の奥に引っ込んでいった。
………………
…………
……
「むむっ! なにやら怪しいお店に入ったわね」
「別に怪しくもなんともないでござるよ……この辺じゃ有名な模型屋でござるぞ」
店のショーウンドゥから顔を出し、中の様子を伺うオトメとタクオ。
「い~え、私の勘が働いてるわ! ズバリあの店長さん、アッチの気があるわね」
「……そうなんでござるか?」
「そうよ! わざわざこんな公園の裏に店を構えてるんですもの! きっとここのトイレを利用しようとした男子学生をホイホイとって食って……ウェヒヒ♪」
「……はぁ……帰りたいでござる」
そんな二人に背後から近づく者がいた。
「……ねぇ」
「なによタクオ君! 今いいところなんだから!」
「今の僕じゃないでござるよ」
二人は背後を振り向くと、そこには……。
「……そこ……邪魔だからどいてくれる?」
「き……キサラギ・レイナ殿!?」
「な、なんでこんなところに!?」
突然自分たちの背後に立っていたキサラギ・レイナの存在に内心驚きながらも、二人は言われるがままに彼女に道を開ける。レイナはそんな二人の間を抜けると店の中へと入っていった。
「……なんでキサラギちゃんがこんなところにいるの?」
「さぁ……」
………………
…………
……
店のドアが空き、ドアに取りつけてある鈴が「カランカラン」と軽い音を立てて鳴る。どうやら客が入ってきたようだ。誰だろう? と思いドアの方を見てみる。
「き……キサラギ!?」
「なにっ!?」
「……」
なんと店に入って来たのはあのキサラギ・レイナだった。
キサラギの名を聞いて、警戒するトモヒロ。しかし、当のキサラギはというと俺達の方には目もくれず、無言のままガンプラの旧キットコーナーの方でプラモを物色し始めた。
「な……なんでキサラギがここに……?」
「なんだ、ソウシ君たちの知り合いだったのか?」
ちょうどその時、アベさんが店の奥からHGFCゴッドガンダムの箱を抱えて出てきた。
「レイナちゃんはウチの常連だぞ。ソウシ君、ちょくちょくウチに来てるのに気付かなかったのか?」
「常連!? マジで!?」
アベさんの店には度々来てはいるが、キサラギも来ていたなんて全く気付かなかった……。まぁつい昨日まで交流が無かった二人だからな、店の中で姿を見た事はあっても、それが誰だか大した認識もせず、お互いにすれ違っていたのかもしれない。
「レイナちゃんはいつもウチでガンプラを買っていってくれるんだ。おっと、これがゴッドガンダムだ」
そう言ってアベさんはトモヒロにゴッドガンダムの箱を手渡した。
「うおおおおお!! こ、これがゴッドガンダムのガンプラか……!」
その箱を見て、非常に興奮するトモヒロ。まるでクリスマスの日にプレゼントをもらった子供のようにはしゃいでいる。
「道具とか一式あるか? 無いならウチで揃えるといい」
店のレジ前には、プラモデルの制作に必要な様々な道具や工具、改造用のパーツ等が売っている。
「あ、そうか……自分で作るんだから道具も揃えなきゃいけないんだったな」
普段、こういったものを作らないトモヒロは、自分が今持っているのがプラモデルだったんだと改めて悟る。初めて作るのだから、やはり不安に思うことが多いだろう。
「……ガンプラを作るの?」
と、いつの間にか俺達の背後にはキサラギが立っていた。手にはHGガンダムレギルスを持っている。
「お、おう……作るのはこのトモヒロなんだけどな」
しかし意外だった。まさかキサラギの方から俺たちに話しかけてくるなんて……。だがそう思った矢先、さらに意外な言葉がキサラギの口から飛び出した。
「……もしよければ……私が見つくろってあげる」
「み、見つくろうって……なにを?」
「……ガンプラ制作に……必要な道具」
その以外すぎる発言に俺もトモヒロもその場で固まる。果たしてこれは純粋にキサラギの好意と見て任せていいのだろうか? それとも……やはり何か別の狙いがあるのか……?
「お、おいソウシ……」
と、トモヒロが俺の腕を引っ張り店の隅でこそこそと話し始める。
「大丈夫なのかよ? アイツ……この前みたいに襲ってきたりするんじゃないのか?」
やはりトモヒロも俺と同じ考えだったらしい。
「う、うーん……でもここはアベさんの店だし、まさか店の中でそんなことはしないと思うが……第一今ここにファントム達はいないし」
「それでまたお前を人質にとるつもりかもしれないだろ!」
トモヒロと二人でキサラギについてあれやこれやと議論しているときだった。
「なにコソコソやってんだ二人とも? せっかくだから選んでもらったらどうだ?」
アベさんがレジの方から店の隅にいる俺たちに呼びかける。
「俺が言うのもなんだが、レイナちゃんは本当にガンプラのことをよくわかってるぞ。多分初心者にも適切な道具を選んでくれると思うから、ここは任せた方がいいんじゃないか?」
ふむ……アベさんがそこまで言うんだったら任せてみてもいいか……。
「だって、いいか? トモヒロ」
「……ああ、わかった。よーし、そこまで言うんだったら選んでもらおうじゃねーか」
と、なぜかトモヒロは急に態度をデカくしてキサラギの前に立つ。おそらくこうやって弱みを見せない作戦なんだろう。
「……なら、まずはガンプラ組立ての基本道具から」
キサラギは道具のコーナーまで行くと、その中からいくつか品物を選び出し、俺達の元に持ってくる。
「……まずはニッパー……この小振りのやつはとても使いやすい……刃ころびもしにくいし、握り手も持ちやすい」
「あ……本当だ。使いやすい」
そのニッパーを手にとって握ってみる。なるほど、確かに握りやすく、刃の部分も鋭い。初心者には使いやすそうなニッパーだ。
「なぁ、ニッパーならウチに工具用のニッパーがあるんだけど、それじゃダメなのか?」
「……いけない……工具用のニッパーは大きいから細かいパーツを傷つけたり……誤ってパーツそのものを切断してしまう可能性がある……プラモデルにはプラモデル用のニッパーを用いた方がいい……」
「へ~」
先ほどまで警戒していた態度はどこへやら、一転して関心した態度を見せるトモヒロ。
「……それとカッターナイフと紙やすり……ゲート処理に用いる」
今度はペン状のデザインナイフと、いくつかの種類がある粗目な紙やすりをトモヒロに手渡す。
「ゲート?」
「……パーツを切りだした後に残るパーツとランナーとの接続部分……これを綺麗に取り除かなければ……後の工程に異常が出る場合があるし……なによりも完成した姿が美しくない……」
「なんかよくわかんねぇけど、とりあえずそれも買っとくわ」
まぁいきなりゲートだのランナーだの専門用語言ってもわかんないよな。その辺は後で組み立てを手伝う時、俺が説明してやるか。
「部分塗装用に……ガンダムマーカーとスミ入れペン……ゴッドガンダムなら、赤・黄・青・白で十分……」
更に4色のペンと、ペン先の細い黒いペンを渡す。
「なんだこれ? ペン?」
「……ガンプラに色を塗るためのペン……容器に中の塗料をあけて筆で塗ってもいいけど、そのまま塗ってもいい……」
「でもガンプラってパーツ時点で色分けされてるんだろ? 色塗る必要なんてなくないか?」
確かに、2~30年前だったら1色のみのパーツで構成されていたガンプラだが、今では技術が進歩してランナーの時点で色分けされているパーツがある。
「ところがな、BANDAIがどれだけ頑張ってもどうしても色分けが不十分な部分がいくつかあるんだ。その部分にそのペンで色を塗るってわけだな」
と、俺が補足的に説明を入れる。まぁこればっかりはBANDAIの技術がこれから先、どんどん進歩していくのを見守っていくしかない。
「ふ~ん、じゃあこの細いペンは?」
「……それはスミ入れペン……モールド線という溝に塗ることで、リアル感を出す……」
「ゴッドガンダムだと、腰のアーマーや足にモールド線があるんだ。そこに線を入れるだけで、リアル感がより出てくるぞ」
「へ~。じゃあこれも買うわ」
手渡されたペン類を工具と一緒に買い物かごの中に入れる。ゴッドガンダム1個買うだけの筈が、結構買うことになりそうだ。
「最後に……これ」
「スプレー? 塗装するならペンでいいって言ったじゃないか」
「……これは艶消しスプレー……プラモデル特有のプラスチックに質感を消して、リアルさに近づけるための塗料が入ってる……これも購入しておいた方がいい……」
「ほーん、じゃあこれも買うとして……よしっ、これで全部だな!」
と、トモヒロはそこまでキサラギに見つくろってもらった道具の数々とゴッドガンダムの箱を入れた買い物かごをレジの前まで持っていく。
「……本当は合わせ目消し用の接着剤や全塗装用のサーフェイサーや塗料もオススメしたかったけど……作るだけなら道具はそれだけで十分。……後は上達し、ディテールアップさせたいと思ったらそれらを買いそろえればいい……」
確かに、やる以上はとことんまでやってほしいというのがキサラギの本心なんだろうけど、初心者だということを考慮すると、自分が勧められるのはそこまでなのかな。あとはトモヒロがゴッドガンダムをどう作っていくかか。
「え~っと、HGFCゴッドガンダムが1点、ニッパー、デザインナイフ、紙やすり3種セットがそれぞれ1点づつ、ガンダムマーカーレッド・イエロー・ブルー・ホワイトとスミ入れペンが1点づつ、艶消しトップコートを咥えて……以上で4550円だ」
「うっ……意外とするな……」
レジに打ちこまれた金額を見て、トモヒロがちょっと固まる。
「ま、ゴッドガンダムだけならまだしも、同時にこれだけ道具を揃えるとなるとそれくらいはいくぜ? どうする、やめとく?」
「い……いや! 俺だって男だ! 一度買うと決めた物を止めるわけにはいかない! アベさん、それ一式売ってくれ!」
意を決したらしく、トモヒロは財布の中から1000円札を4枚、500円玉と50円玉を1枚ずつ出してアベさんに手渡す。
「まいどあり~」
心苦しい表情をしていたトモヒロだったが、初めてのガンプラと道具一式の入った袋を手渡されると、表情がとても明るくなった。
「……じゃ、私は帰る」
トモヒロに道具を見つくろってくれていたキサラギは、先ほど購入したガンダムレギルスを抱えて、店の出口まで歩いて行く。
「キサラギ、ありがとうな」
「……」
俺がキサラギに礼を述べると、急に歩みが止まった。
「……なにが?」
「トモヒロに道具を選んでやってくれたことさ。俺だったら、多分あそこまで適切に選べなかったと思う。だから、ありがとうな」
「……別に……お礼を言われる事なんて……なにもしてない……」
それだけ言うと、またキサラギは出口に向かってスタスタを歩いて行き、店を出ていった。
「なんだよあいつ、ソウシが礼言ってるってのに」
「ま、きっと普段そういう事言われるのに慣れてないんだろ。……それからオトメ、タクオ、いい加減出てこいよ」
俺はさっきから店の外でチラチラと中の様子を伺っているオトメとタクオに視線を向ける。
「あ、あはは……バレてたんだ」
観念した様子で、オトメとタクオが店の中に入ってきた。
「あんな下手くそな尾行で気付かない方がおかし……―」
「お、お前ら!? いつからそこにいたんだ!?」
……どうやらそのおかしい人物が約一名、俺のすぐ隣にいたようだ。
「えへへ、だって二人してどっか行くなんて珍しいなーって思ったからつい……ね♪」
「ぼ、僕は来たくて来たわけじゃないんでござるぞ! オトメ殿が無理やり……」
「はぁ……もうわかったわかった。俺達の用事は済んだんだからもう帰れお前ら」
俺は呆れ顔でオトメ達に「しっしっ」と手を振る。
「まだよ、まだ終わらんよ! この後ソウシ君、どうせガンプラの作り方をトモヒロ君に教えるためにトモヒロ君の家に行くんでしょ? 私達も行くー♪」
「わ、私〝達″ってなんでござるか〝達″って!」
……と、来たもんだ。やれやれ……かなりうるさくなりそうだなこりゃ。
「え、お前ら俺ん家来るのかよ」
「もちろんよ! バレてしまったのなら仕方ないわ、こうなったらこの目でしかとトモ×ソウの絡み合いを見させてもら……あだっ!」
自重しないテンションのオトメに俺は一発蹴りを入れ、アベさんの店を出てトモヒロの家へと向かった。
………………
…………
……
トモヒロの家は小さな一軒家だ。両親はトモヒロが中学の頃に離婚しており、今は母親と姉の3人で暮らしている。と言っても、母親は仕事で日中はほとんど家にいないし、姉の方は自由奔放で世界中を飛び回って働いているらしい。そうなると必然的に、サラ家はトモヒロ一人だけとなる。
「おじゃましまーす」
「おう、入れ入れ!」
トモヒロを先頭に、俺とオトメとタクオは玄関にあがる。
「そう言えば私、トモヒロ君の家行くの初めてだ!」
「僕もでござる」
そうか、二人はトモヒロの家に来るのは初めてだったか。俺は中学の頃からトモヒロと友達だったから、ちょくちょく遊びには来てたけど、高校生になってからはまだ来てなかったな。
「そうだったか? じゃあソウシ、二人を俺の部屋に連れてってくれ。俺は茶淹れてくる」
「おう、わかった」
言われた通り、俺は2人をトモヒロの部屋がある2階へと連れて行く。
「ここがトモヒロの部屋だ」
ドアを開け、中に入る。やはり中学の頃とあまり昔から変わってない。部屋の隅には小さなテレビとベッドが一つずつ。天井から吊り下げられているサンドバッグに、床に転がっているボクシンググローブやダンベルがある。昔習っていたボクシングの名残だ。
「お~、これがトモヒロ殿の部屋でござるか!」
「あいつ、中学の頃までボクシングやってたからな、この様子じゃ今でも時々気分転換がてら練習でもしてるんだな」
「むふふ~♪ いいねいいね~こういう男くさい部屋~♪ イマジネーションがかき立てられる~♪」
……なんのイマジネーションかはあえて聞かないでおこう。
「待たせたな、粗茶で悪いが」
しばらくして熱いお茶の入った湯のみを5つ、盆に乗せてトモヒロが部屋に来た。
「おう、もらうわ」
それを一口飲んで一息ついた。だが、トモヒロの方は早くガンプラを作りたくて仕方が無いようだ。
「ソウシ、さっそくで悪いがガンプラの作り方、俺に教えてくれ!」
「へいへい、わかったわかった」
よっこらしょっと立ちあがると、トモヒロが普段使っている勉強机に買ってきたものをあける。その中からゴッドガンダムの箱を取り出し、その箱を開けて中身を見てみる。
「うわぁ……なんか細かいパーツばっかだな」
「安心しろ、ゴッドガンダムはガンプラの中では比較的作りやすい方の部類だ。ちゃんと順序通りに作っていけば、簡単に組めるよ」
「ね~、私達はなにしてればいいの~?」
と、早くも暇になったらしくオトメがうだうだ言ってくる。確かにトモヒロの部屋はこんなものなので、ゲームの類は置いてない。
「勝手に付いてきたくせに……適当に漫画でも読んでろ」
俺はトモヒロが保管してある漫画を二人に勧める。といっても、揃えてあるのは不良漫画やレース漫画ばかりなのでオトメの口に合うかどうかはわからないが……。だが気にせず、こちらはガンプラの方に集中する。
「説明書をよく読んでおけよ、順番通りに組み立てないと後々大変なことになるからな」
「わ、わかった」
袋を破ってランナーを取り出すと、トモヒロは買ってきたばかりの新品のニッパーを握る。心なしか、握る手が少し震えているように思える。
「な……なんか緊張するな……」
「まだ切り出してもいないのに……そんなんじゃいつまで経っても完成しないぞ? あ、パーツ切るときにはランナーの部分ちょっと残しとけよ」
「お、おう……」
意を決し、パチリという音とともにパーツがランナーから切り離される。続いて次のパーツも一つ、また一つとランナーから切り話していく。まずは上半身のボディ部分からの組み立てだ。
「パーツを切りだしたら、今度はカッターと紙やすりで出っ張ったランナーの部分を削るんだ。そうすると、出来上がった時に綺麗になる」
「わかった」
まずはカッターで、大きく出っ張った部分を削る。次に紙やすりで、残った部分を削る。この工程ははっきり言って個人差が出る。カッターだけで済ませてしまう人もいれば、紙やすりで確実に綺麗にするという人も。しかし、前者はパーツがちょっと荒削りになってしまうし、後者は時間がかかってしまう。初心者であるトモヒロにはこの2つを合わせた方法がちょうどいいか。
「綺麗になったか? なら今度はパーツをはめこもう」
「一つ気になったんだが、接着剤はいらないのか?」
「いらない。昔は必要だったが、今はそのままパーツをはめこむだけで出来上がるようになってるんだ」
と言っても、その昔と言うのも30年くらい前の話だがな。今では接着剤を使うガンプラはほとんどない。オマケに色を塗らなくてもすでにパーツごとに色分けがされている。全く……BANDAIの技術は化け物か。
と、そんなことを心の中で思っている合間に、トモヒロはゴッドガンダムの上半身を完成させた。
「うおおお! すげぇ! あっという間に組み上がった!」
「意外と早いな。うん、なかなかよくできてるじゃないか」
手にとって組み上がったパーツを見てみると、初めて作ったにしてはなかなかの出来になっていた。
「よし、ならもう一工夫してみるか」
「もう一工夫?」
「トモヒロ、ここのパーツが何か知ってるか?」
俺は組み上がったゴッドガンダムの上半身の中央にあるハッチを開く。
「あぁ、『キング・オブ・ハートの名の下に!』って時に紋章が光るアレだろ?」
「そう、正式名称はエネルギーマルチプライヤーっていうんだけどな、ここの部分、アニメじゃ黄色だっただろ?」
「あ! 確かに! なのに青一色じゃん……」
いくらBANDAIの技術が進歩しても、こういう細かい部分にまではコスト的に考えてまだ色分けができないのが現状だ。だから、ここに一工夫する。
「ここでガンダムマーカーの出番だ。よく振って、ここに色を塗ればより本物に近付けられるぞ」
「おう」
マーカーを振ると、カラカラカラと特有の音が響く。そして先端の部分に塗料が染みわたり、それを先ほどのパーツに押し付けるように塗る。
「薄いなと思ったら、乾かしてから重ねてまた塗るんだ。そうすればだんだん色が付いてくる」
「……あっくそ! はみ出しちまった!」
「大丈夫だ。はみ出したら、その部分を乾かしてカッターで削り取れば問題ない」
本当はガンダムマーカー用の剥離マーカーもあるんだが、今はそれがないから仕方がない。それはまた今度、トモヒロに勧めるとしよう。
「あ~あ、もう全部読んじゃったよ~……」
「ぐぬぬぬ……なかなかウルトラレアが出ないでござる……」
ふとオトメとタクオの方を見てみると、オトメはもう漫画を一通り読んでしまったようで、タクオはスマホで女の子がいっぱい出るゲームをやっている。
「あれ!? オトメもう読み終わったのか!?」
慌てて腕時計を見ると、既に2時間が経っていた。参ったな……これ以上遅くなるとファントムが腹を空かせてしまう……。
「トモヒロ、悪いんだが……」
「あぁわかってるわかってる。ここから先は俺一人でも大丈夫だ。お前らは帰ってもいいぞ」
「悪いな最後まで見れなくて……じゃあ最後にスミ入れだけお前に教えるわ」
俺はスミ入れペンを手に取り、ゴッドガンダムのスカートアーマーのパーツのモールドに沿って、線を入れていく。
「ほら、こうやって線を入れるだけでかなりリアル感が出てくるだろ?」
「おぉ……! 本当だ!」
「ちょっと細かい作業だけど、これをやると出来上がった時の印象がかなり違うからオススメしとくぜ」
「おう! いろいろありがとうな!」
「じゃ、また明日学校でな」
トモヒロに別れを告げ、俺とオトメとタクオは自分たちの家に帰った。
………………
…………
……
「なるほど、今日はそのようなことがあったのですか」
「あぁ、おかげで飯作るの遅くなっちまって……ごめんな」
家に帰った俺は、すぐに飯の支度をした。ファントムは大人しく待っていてくれていたんだが、空腹なのは間違いない。そう思い速効で夕飯の支度をした。
そして今は夕飯後、まったりとした空間のなか、俺は今日あったことをファントムに話した。
「いえ、ご友人との交流を大切にされるのは当然のことです。私のことはどうぞ、お気になさらずに」
と、まぁ本人はあまり気にしていないようでちょっと安心した。その時、また俺の携帯に着信がかかり、バイブ機能で震える。
「ん? また電話か。今度はトモヒロからか……もしもし?」
通話ボタンを押し、電話に出る。おそらくガンプラのことについて何か聞きたいのだろう。
(……今日はマスターの身には危険なことは起こらなかったが、それは私も同じ……。サバーニャとはマスターが学校に行っている間に交流をとっているが、彼女の方もオトメにこれといった危険はないと言っていた……)
「あぁ、角の出っ張りか? アレは安全性を期すためにあるものだから削っちまってもいいぞ。ただし、角まで切らないようにな。それと、スカートも一体化してるが……―」
(このままずっと、何事も起こらなければいいのだが……)
「あぁ、それじゃ頑張れよ」
ガンプラについてのアドバイスを求めてきたトモヒロからの電話を切り、俺はまたファントムの方に目を向けた。
「どうしたファントム? そんな気難しそうな顔してて」
「え……? あ、いえ! ちょっと考え事をしていたものですから……」
「そうか? いろいろ考え過ぎて無理しないようにな」
「……はい」
ファントムのことだ、また俺になにか危険があるんじゃないかと心配している顔だった。でも、今日キサラギと改めて会って、話をしてみて、あいつも思っていたほど悪い奴じゃないんだっていうことがわかった。ファントムの心配は、杞憂に終わるだけだと、俺は思いたい。
………………
…………
……
「オーッス、おはよう」
翌朝、いつものようにオトメと一緒に学校に登校し、いつものように教室に入り、いつものようにトモヒロに挨拶をするが……トモヒロの様子がいつもとは違った。
「オッス……ソウシ……ふぁ~……」
「お前……どうしたんだ? その目」
トモヒロは机に突っ伏しており、俺が挨拶をするとほとんど目を閉じたまま俺に挨拶を返した。目の下にはくまができ、大きなあくびをしてまた突っ伏してしまった。
「……昨夜は3時まで起きてゴッドガンダム作ってたんだ……」
「そんな時間まで……なにも1日で無理に作ることもなかっただろ……」
HGのガンプラなどは、作り慣れてしまえばさほど時間をかけずに作り上げる事ができるが……トモヒロは初心者だから、きっとあの電話があった後も四苦八苦しながら作ったのだろう。それはトモヒロの絆創膏だらけの指を見れば察しがつく。
「けどな……お陰さまで完成したんだぜ~」
「本当か!?」
「あぁ……放課後ウチに見に来いよ……」
「おう、初めての出来がどんなものか、見せてもらうぜ」
放課後、またトモヒロの家に行くことを約束すると、トモヒロはぐぅぐぅ寝息を立てて寝てしまった。もうすぐ1時限目が始まってしまうのだが……起こすのもなんだか気の毒だし、このまま放っておくことにした。
………………
…………
……
「ぃいよーっし終わったー! さぁ行こうぜソウシ!」
「へいへい」
で、放課後。結局トモヒロの奴は1時限目から6時限目まで、全て寝て過ごしてしまった。途中何度か授業担当の教師に起こされたりはしたが、またすぐに居眠りを始めてしまった。で、現在はこの通りすっかり目も覚めたようだ。
「そういや俺だけじゃなくてオトメとタクオは誘わないのか?」
「んぁー、一応誘ったんだが、オトメはこれから用があるんだってよ。タクオは言わずもがな、アイツGガンに興味ねーだろ?」
「あぁ、確かに」
いつもの2人がいないとなんだか静かだなと思いつつ、下校路を他愛のない話題で話し合いながら、俺たちはトモヒロの家まで来た。
「さて、トモヒロの初ガンプラがどれほどの出来なのか見せてもらおうか」
「おう! 我ながら結構いい出来に……ん? ちょっと待て、ソウシ」
家にあがり、トモヒロの部屋の前まで来たとき、突然トモヒロが俺を制止させた。
「どうした?」
「いや……おかしいな、俺の部屋から人の気配がする」
そう言ってトモヒロはドアに耳をあてる。俺も釣られて同じく耳を当ててみるが……確かに中からはゴトゴトと物音がする、明らかに何者かがこの部屋にいる。
「……お前の姉さんあたりが帰ってきてるんじゃないのか?」
「いや、姉貴ならまず真っ先に脱ぎ散らかしたスーツがリビングあたりに放っておいてあるはずだが……」
確かに……俺もトモヒロの姉のことは中学の頃からよく知っているが、正直言ってだらしないの一言に尽きる。あの人の部屋は……未だに樹海と化している。正直言って入りたいとは思わない……。
しかし、姉さんじゃないとなると……。
「さては……泥棒か! ウチは貧乏だってのによぉ!」
「あ~……いや、俺なんかわかったかも……」
なんとな~く悟り、俺はドアから離れる。トモヒロは部屋の中の人物が泥棒だと踏んでいるようで、ドアを開けようとする。
その時……!
「そこにいるのは誰だ!!」
部屋の中から声が響き、突然ドアが吹き飛ばされ、赤い拳が飛び出したかと思うとドアを開けようとしたトモヒロの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐふぉっ!?」
ドアが吹き飛ばされた衝撃で埃がもくもくとあがる。その向こうにいる人物のシルエットは、まるで甲冑のようなものを着こんでいるようにも見える。そして指の骨をポキポキと鳴らしながら俺達の前に姿を現す。それは、黒髪短髪で中性的な顔立ちの少女だった。一人称と外見だけだと、パッと見は男かと思った。しかし、膨らんでいる胸を見て女の子だとわかった。そしてその身に纏うのは、白と赤と青を基調とした装甲……どこかで見覚えがあるものだ。
「何者だ! さてはてめぇ……泥棒だな!? 俺ンとこのご主人の家に泥棒に入るたぁいい度胸してるじゃねぇか!」
少女は乱暴な口調で、目を回して倒れ込むトモヒロの胸倉を掴み上げる。
「あ、あの~…」
俺はおそるおそる彼女に声をかけてみた。
「あん? なんだお前は! お前も盗人の仲間なのか!?」
「い、いや、そうじゃなくて……この家、そいつの家だから泥棒とかじゃなくて普通に帰ってきただけなんだけど……」
そう言って俺は気絶して目を回しているトモヒロを指さす。
「あん……?」
俺の言葉にはっとした様子で、彼女は自分が胸倉を掴んでいるトモヒロの顔をよく見てみる。
「う……うわわわわ! 何やってるんだよご主人! ボロボロじゃねぇか! 誰にやられた!?」
慌てた様子で彼女はトモヒロの胸倉を掴んだままガクンガクンと揺さぶる。いや……誰ってあなた以外の何者でもないんですがね……。
「……だーっ! 何だじゃねー!」
トモヒロが目を覚まして叫ぶ。流石トモヒロ、あれだけ派手に吹っ飛ばされたのに怪我ひとつしていない様子だった。
「このアマ! 人の事泥棒呼ばわりしやがって! ここは俺ん家だぞ! お前こそ誰だ!」
と、今度はトモヒロの方が彼女を問い詰める。すると、彼女は何故か物悲しそうな表情を浮かべる。
「う……誰だってことはないだろ……昨夜あんなに一生懸命に俺のこと
「はぁ? つくっただぁ……?」
トモヒロはわけがわからないという表情だ。だが、俺はもうこの時点で察してしまった。何せ似たような現象を目の前で3度ばかり経験しているからな。そりゃあわかるようになってくるさ。
「そもそもお前の名前は一体なんだ! 変なコスプレしやがって!」
トモヒロが彼女に問い詰める。すると、彼女はこう答えた。
「俺の名はゴッドガンダム! サラ・トモヒロが
ほら、やっぱりな。
―続く―
え~、まず最初に…ごめんなさい!前回「次回はバトルです」と言っておきながら今回はバトルやりません!申し訳ない!
次回こそ…次回こそやりますんで!
さて、今回はソウシ君によるガンプラ制作講座とゴッドガンダムの登場になりました。
ガンプラ制作の説明は既にガンプラを作り慣れている人にとっては退屈だったんじゃないかな…と思いますが、ご理解の方お願いします。
え?ゴッドガンダムの登場はサブタイの時点で知ってたって?まぁまぁw タイトルバレはGガンではよくあることw
そして次回は…皆さんお待ちかね!ガンダムファイト!!レィィィィィ…ゴォォォォォ!!