機装女戦記ガンプラビルドマスターズ   作:ダルクス

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 ザクⅠの空からの攻撃によって窮地に立たされるファントム。
 窮地に立たされた彼女のために、ソウシは自宅に戻りオリジナルの新装備を作り出す。
 完成したパーツをファントムに届けるために、ソウシは彼女の元に急いで戻った。
 果たしてファントムはこの窮地を脱することはできるのか……?


第9話:「FLYING IN THE SKY」 ※オリジナル機体紹介あり

「往生際が悪いでござるねぇ、そろそろ降参したらどうでござるか? 僕としても女の子を痛めつけるのはあまり趣味ではないのでござるよ」

「私は……私はまだ負けるわけにはいかない! 負けたら……マスターはまた悲しんでしまう……! 私はもうマスターの悲しむ姿を見たくはない! だから!!」

 

 ファントムは片膝をついた態勢のまま、空のザクⅠに向かってビームライフルとビームガトリングを撃つ。が、その攻撃をザクⅠは空中で悠々とかわす。

 

「仕方ないでござるなぁ、ならもう少し痛めつけて終わりにするでござるよ。ザクきゅん」

 

 タクオの声を聞くと、ザクⅠはザクバズーカを構え、ファントムに狙いをつける。勝利を確信したタクオがほくそ笑み、オトメが思わず目を逸らし、トモヒロが苦々しい表情をし、ファントムが覚悟を決めた……その時だった!

 

「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

「ん? な、なんでござる?」

 

 謎の人物の雄叫びに、タクオが思わず周囲を見回す。公園の入り口の方を見ると、ソウシが全力疾走で走ってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

―――――第9話:「FLYING IN THE SKY」―――――

 

 

 

 

 

 今、ザクⅠはファントムに向けたバズーカを今にも放とうとしている。そんなところに俺は今全力疾走で向かっている。巻き込まれて大怪我をするかもしれない。けど、今ここでファントムに“これ”を渡さなければいけない! なりふり構ってなんていられないんだ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 柄にもなく雄叫びをあげながら呆気に取られているタクオ、トモヒロとオトメの間をすり抜けて荒れ果てた公園の中央に向かって走る。そこには足を負傷して動けないファントムがいる。穴だらけの地面に足をとられそうになりつつも、俺はなんとかファントムの傍にまでたどり着いた。

 

「なっ……!」

 

 上空でバズーカを構えていたザクⅠは照準器から目を離すと、バズーカを下におろす。この戦いはあくまでザクⅠとファントムのもの。そこにただの人間である俺を巻き込みたくは無いとい意志の表れなんだろう。何にしても好都合だ。今のうちに渡せる物を渡そう。

 

「ま……マスター……!」

 

 片足を負傷しても尚、敵の攻撃を連撃を幾度となくその身に受け続けたファントムはもう既に体中傷だらけだった。

 

「ファントム……よく耐えてくれたな」

「ですがマスター……もう私は……!」

「弱音を吐くな! お前はこの俺が作ったガンプラなんだぞ! この俺が……一生懸命気持ちを込めて……! だから……負けないでくれ!」

 

 満身創痍な様子で片膝を立ててしゃがみこむファントムの傍まで歩み寄ると、彼女と同じ目線にしゃがんで話をする。そして彼女に、俺の手の中にある物を手渡す。

 

「マスター……これは……?」

「これが、勝利の鍵だ」

 

 そう言って俺は、手でファントムの頬に付いた煤を拭う。初めてファントムの顔に触れたが、とても柔らかく、そして温かみを感じる。そうだ、やっぱりファントムはガンプラとして存在する以前に、一人の女の子なんだ。だから、いつまでも痛めつけられ続けるなんて、俺には耐えられない!

 

「俺がお前用に今さっき作ってきた新兵器だ。きっとそれで、お前は勝てる! だから信じてくれ……お前を創った俺を! 俺もお前を信じる!」

「……はい! それがマスターの望みならば!」

 

 元気を取り戻した様子のファントムはすっくと立ち上がる。怪我をした足が痛い筈なのに、それでも彼女は俺のために戦おうとしている。その姿勢に、俺はもう何も言わない……ただ信じるだけだ。

 

「マスターのお気持ち、無駄にはしません! 私は全力でその想いに応えます! ウィザードチェンジ!!」

 

 俺の手渡した自作のウィザードがファントムの手からキラキラと光の粒子となって消えていく。そしてそれと同じ形状をした、はるかに大きなものが、空間の中から出現し、ファントムの背中に装着される。

 

「フォーム、≪スクランダー≫!!」

 

 『スクランダー』……それは俺の自作ウィザードに、ファントムが新たに名付けた名だ。スクランダーウィザードはグフイグナイテッドから流用したウイングと、ブレイズウイザードから流用したバーニアのカバーが開き、ファントムが上空のザクⅠを見据える。

 

「ふ、ふん! たかが数分の間に自作したパーツなどで! 今更この戦況が変わることはないでござる! ザクきゅん! トドメでござる!」

 

 タクオの命令を聞き、空中のザクⅠがまたバズーカを構え、その照準にファントムを捉える。ファントムは目を閉じている。俺にはわかる……ああやって背中のウィザードと自分の意識を同調させているんだ。

 そしてザクⅠのザクバズーカが火を噴いた。その瞬間、俺は思わず叫んだ。

 

「飛べえええええぇぇぇっ!!!! ファントーーーーーームっ!!!!」

 

 その瞬間、ファントムはカッと目を見開いた。次の瞬間、バズーカからの砲撃が地面に着弾し、辺りが土煙で覆われる。

 

「ゴホッ、ゴホッ……や、やったでござる!」

 

 土煙にむせながら、タクオが勝利を確信する。……が、土煙が晴れると、そこにいた誰もが驚愕した。

 何故ならファントムの姿は、そこにはなかったからだ。ではどこに行ったのかと、全員は周囲を見回す。俺はすぐに見つけた。ファントムがどこにいたのかを。

 

「……やったな、ファントム」

 

 ファントムは、飛んでいた! バズーカが着弾した地点の、地上から約10メートル付近を! ただのジャンプではない、バーニアの噴射による一時的な浮遊でもない。翼を広げ、各部スラスターを機能させ、確かにファントムは飛行していた!!

 

「ようやくお前と同じ土俵に立てたな」

 

 飛び上がったファントムは、ザクⅠと同じ高度まで飛翔すると、彼の目の前でそう言った。

 

「くっ……!」

 

 先ほどまで空中という圧倒的アドバンテージを得ていたザクⅠは、突如として相手も同じ条件になったことへの不満感からなのか、苦々しい顔で下に向けていたザクバズーカをファントムに向け、トリガーを引く。しかし、その攻撃をファントムはバーニア全開で素早く上昇し、上空で静止すると、そこからさらにビームライフルを構えてザクⅠ目がけて突進する。

 ザクⅠも上空に向けてバズーカを何発も何発も撃つが、当たらない。まるで軌道を読んでいるかのように、ファントムはその攻撃を悠々とかわすとビームライフルを撃つ。ビームはド・ダイの主翼を掠め、僅かにザクⅠの姿勢がグラつく。

 

「こっちの方が小回りが利く!!」

「なっ……! 舐めるでないぞ!」

 

 このまま一気に攻められる……と思ったが、さすがにザクⅠの方もやられてばかりではいられないようだ。弾が切れたらしいザクバズーカを棄てると、今度はザクマシンガンを装備してファントムに向けて銃撃する。

 大型スラスターのおかげでド・ダイよりも速度は速いが、それが仇となったのかファントムの後ろをザクⅠのド・ダイが追い、背後から攻撃してくる。俗に言う『ドッグファイト』というやつだ。それだけに留まらず、ド・ダイ本体からの8連装ミサイルがまた発射され、ファントムを追尾する。

 

「面白い……競争といくか!」

 

 ファントムは加速し更に上昇すると、今度は空中で方向転換をし、左手のビームガトリングを構える。ミサイルが尾を引きながらファントムを追尾するが、しかしそれよりも遥かに速いスピードでファントムは大空を駆け抜けながらミサイルをかわしていく。そして左手に装備されたビームガトリングを起動させると、緑色のビーム状のバレットが高速発射され、追尾するミサイルを一つ、また一つ落としていく。しかしその最中、不意にビームガトリングの弾丸が止んだ。

 

「弾切れ……!? だが5つ落とした……あと3つ!」

 

 残り3つのミサイルは横に連なってファントムを追う。ファントムは後ろを向くと、背部の姿勢制御用のスラスターが回転して正面を向く。脚部のバーニアからも炎を上げ、その姿勢のままビームライフルを両手で構えると、目を細め、中央のミサイルだけに狙いを絞る。

 そして、中央のミサイルが照準に入った。

 瞬間、緑色の閃光がビームライフルから放たれ、見事に中央のミサイルを貫く。直撃を受けたミサイルは、両脇の2発のミサイルも巻き込みながら爆発した。

 それを確認したファントムは、再び全スラスターを起動させ下降しながら、空になったビームガトリングの弾倉をパージすると、新たな弾倉をシールドの裏から取りだし、ガトリングの基部に取り付けてリロードする。

 

「お……落としたのか……!? あの8発の追尾ミサイルを……全て落としたと……?」

 

 空を見上げていたザクⅠは、その光景に思わず驚嘆の声を漏らす。

 

「くっ……!」

 

 ザクⅠはド・ダイを上昇させ、ファントムと同じ高度でまたドッグファイトは再開する。背後からの銃撃をファントムは悠々と避け、時折振り返ってビームライフルを撃った。しかし、双方ともになかなか攻撃が当たらない。そうこうしているうちに、二人は徐々に公園内にある湖の方へ飛んでいく。

 ザクⅠの追撃は徐々にファントムを追い詰めていく。ファントムが高度を下げ、湖の水面スレスレを飛行すると、その背後からザクⅠがピッタリと張り付き、ザクマシンガンの照準を絞る。ザクⅠ側としても、もう弾数が残り少ない。この一撃で決めるつもりで、スコープ越しに狙いを定める。そして……ファントムの姿がスコープの中央に入った!

 トリガーを引き、フィニッシュを決めようとした……その時だった。

 

「わっ……!? なんじゃ!?」

 

 突然目の前が霧に覆われ、視界が塞がれてしまう。ファントムが腰のレーザー重斬刀を装備し、それを湖面に突き立てたことにより水蒸気が生まれたのだ。ファントムはレーザー重斬刀を湖面に突き立てたままザクⅠの周囲を旋回し、それと同時に巻き上がった水蒸気がカーテンのようにザクⅠの周囲を包み込む。

 

「目くらましか……! だがこの程度でわしの攻撃が防げると思うなよ!」

 

 すぐさまド・ダイを加速させ、水蒸気のカーテンを突っ切る。そして水蒸気のカーテンから逃れると、その位置からファントムを探す。ファントムの位置は彼女のブースターの噴射音ですぐにわかった。音のした方向を見ると、ザクⅠの位置から約30メートル先の、林の上あたりを飛行していた。あの位置からは、こちらは攻撃できない。そう確信したザクⅠはスコープを覗きこみ、狙いを合わせる。

 

「なっ……!?」

 

 しかし、ザクⅠはそこで気がついた。スコープ越しに見えたその先にはファントムの姿はなかった。つまりは、バックパックだけが……飛行用ウィザードのみが単独で飛行していたのだ!

 

「しまった、囮か!」

 

 ザクⅠがそのことに気がつき、本体はどこかと周囲を見回した時だった。

 

「はぁあああああっ!!」

 

 突如湖の中から斬機刀を真上に構えたファントムが飛び出す。刀の先にはザクⅠの乗るド・ダイがいる。ド・ダイはファントムを追うために湖面近くを飛行している、それが仇となった。ファントムは背中と脚部のブースター全開で水面から飛び上がると、直上のド・ダイに刀身を入れる。火花が散り、金属同士が擦れる音と共に、ド・ダイを真っ二つに切り裂いた!

 

「ば……バカな……! こんなバカにゃあああああ!!?」

 

 真っ二つになり、爆発四散するド・ダイ。そこから投げ出され、ザクⅠは叫びながら湖の中へと落ちていった。ウィザードが方向転換し、こちらに向かってくる。湖の上から飛び上がったと同時にファントムの背中に装着され、ファントムは再び飛行する。

 そして湖の上を飛行しながら、斬機刀の鞘を取り出すと、刀を鞘に収めた。

 

「勝負あったな」

 

 湖の端に降りたファンオトムを見て、俺達もそこへ向かう。息をきらせながら走ると、俺達に笑顔を向けるファントムの姿が見えた。ウィザードのスラスターが停止し、翼が折り畳まれる。それと同時に、俺の自作ウィザードは光の中に消えていく。

 

「ファントム……やったのか?」

「はい。マスターのおかげです」

「そうか……そうか……! やったな! ファントム!」

 

 思わず喜びの声をあげ、俺はファントムに駆け寄ると彼女を目いっぱい抱きしめた。

 

「ちょっ!? ま、マスター! 何を!」

「よかった……よかったぁ……! 本当によかったなぁ……!」

 

 俺の胸あたりにファントムの固い装甲が当たったりするが、そんなことは気にしない。彼女の後頭部を摩り、思わず涙を流してしまう。正直、勝つことなんてどうでもよかったんだ。俺はただ、ファントムがなんとかして生き延びて、こうしてまた元気な姿で俺の前にいてくれる……それだけで満足だった。

 

「ったく、調子のいい奴だな」

「でも……本当によかったよ。ファントムさん無事で」

 

 トモヒロとオトメも、皆ファントムの無事を喜んでいるようだ。ただし、一人を除いて……。

 

「ぐむむむむっ……! こ、こんなのあり得ないでござる! 僕の……僕のザクきゅんが負けるなんて!」

 

 その光景を見ていたタクオは悔しさのあまりに歯を食いしばって顔が真っ赤にしていた。

 

「諦めろタクオ、お前の負けだ。さっさとザクⅠを呼び戻して、大人しく家に帰れ」

「何を言うでござる! このまま引き下がる僕では……! へへっ」

 

 往生際の悪いタクオに若干うんざりしていたが、何故かタクオの言葉がそこで一瞬止まった。そして……その表情は瞬時に気味の悪い笑顔に変わった。

 

「ドゥフフフ……ここで引き下がるわけにはいかないのでござる。僕も……ザクきゅんも!」

 

「……! マスター、離れて下さい!!」

 

 何かを感じ取ったファントムが、抱きついていた俺を強引に引き離すと腰の斬機刀を抜き、背後を向く。その視線の先には湖から這い出たザクⅠがヒートホークを構えてファントムの直上にヒートホークを振り下ろす! ファントムが斬機刀を突きの姿勢で構え、互いの刃が頭部に、腹部に迫る!

このままでは二人ともただでは済まない! 止めようにももう手遅れ……そう確信して俺は思わず目を瞑った……その時だった。

 

ガチィンッ!!

 

 突如、金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえた。何が起こったのかと、俺はおそるおそる目を開ける。

 

「双方とも動くな。これ以上の戦闘は無用……この戦い、私が預かる」

 

 右手の槍でザクⅠのヒートホークを受け止め、尾でファントムの斬機刀を斬り払って止める人物……。切り払われ、ファントムの手を離れて地面に突き刺さる斬機刀の刀身に、顔の上半分を黒いバイザーで覆い、赤い姿のその人物が映る。間違いない、それはキサラギの持つ擬人化ガンプラ、ギラーガだった。

 

「お……お前……!」

 

 突然現れたギラーガに、なんと声を発してよいのかわからなく、ただ茫然と立ち尽くす。その時、背後の草むらからまた何者かが俺達の前に現れる。

 

「……間に合ったようで……よかった」

 

 息を切らせながら姿を現したのはギラーガの創造主、キサラギ・レイナだった。両手には何故か大きな紙袋を二つ持っている。

 

「キサラギ! お前……なんでここに?」

「……あれだけ派手にやっていたら……嫌でもわかる……周りをよく見て……」

 

 言われるままに、この公園の周囲を見回してみる。ガナーウィザードによって焼き払われた林……爆撃によって見る影もなくなってしまった噴水……。ファントムとザクⅠの戦いに夢中になって気がつかなかったが……なんてこった、周囲にはかなりの被害が出ていた。

 

「……彼女達の存在を世間一般に知られるわけにはいかないのに……こんな派手な戦い方は軽率すぎる……少しは自重して……」

 

 いつになくキサラギの口調が少し荒くなっているように感じる……もしかして、怒ってるのか?

 

「う……で、でもタクオのやつが……これは正当防衛ってやつで……」

 

 若干言い訳気味にも聞こえるが、俺はありのままを話す。そもそもあいつが仕掛けてこなけりゃ、こんなことにはならなかった。と、タクオの方を見てみると、何故かさっきまでの不気味な笑みはどこえやら、少しうろたえているような感じだった。そうか、こいつも俺と同じで今ようやく周囲の被害状況を認識したってことか。加えて今こいつは自分の目の前で自分のガンプラが死ぬような場面に直面してしまったんだ、動揺は隠せないだろう。

 一方のファントム、ギラーガ、ザクⅠはというと……。

 

「引け、小僧。これ以上戦うというのであれば私が相手になるぞ」

「くっ……わしは……負けられんのじゃ! ぬし様のためにも……負けるわけには……!」

 

 尚も戦う意思を崩さず、ヒートホークに力を込めるザクⅠだったが、ギラーガがスピアを持った手を一たび振るうとザクⅠの手からヒートホークは弾き落とされてしまった。そして、スピアをザクⅠの喉元に突き付ける。

 

「私は決闘は好むが、このような一方的な戦いは好まん。さぁ……どうする?」

「よせ、ギラーガ! そいつにはもう戦う力は残されてはいない!」

 

 それを見てファントムが叫ぶが、ギラーガはザクⅠの喉元からスピアを離すことない。ザクは、どうしていいのかわからないという表情だった。このままギラーガと戦えば、自分は死ぬ……それは誰よりもこの状況を理解している。しかし、自分はタクオの役に立ちたい……だから最後まで戦いたい。その二つの感情が、ザクの心の中でせめぎ合っているんだ。

 

「……タクオ、お前はどうしたいんだ?」

「え……?」

 

 その光景を何も言わずに茫然と立ち尽くすタクオに、俺が迫る。

 

「彼はお前の役に立とうと……必死で戦おうとしているんだ! でも、このまま戦えば死ぬ……それは誰よりも、あいつ自身がわかってることなんだよ! 本当はこんな無駄な戦いなんかせず、お前と一緒にいたいのに……お前自身はどうなんだ!!」

「ぼ、僕……?」

 

 タクオの胸倉を掴んで思いっきり怒声を浴びせる。今の俺が……そしてザクⅠ自身が心の中で感じていることを、こいつに伝えるために。

 

「あいつは本気なんだ! お前は軽はずみな自己主張のつもりだろうけど、それをあいつは本気で実現しようと命を賭して戦っている! お前は本当にそれを望むのか!? ちっぽけな自己主張なんかで、この世界に生を受けたお前の相棒を、死に至らしめるような事がお前にとって本当に望むべきことなのか!?」

「ぼ……僕は……!」

 

 タクオは徐々に涙目になって、必死になって回らない舌で言葉を発しようとする。

 

「ぼ、僕は……僕は……! これ以上は望まないでござる! ザクきゅん! もういいのでござる! ザクきゅん!」

 

 ようやく心の内を明かしたタクオに、俺は&して胸倉を掴む手を緩める。手を離すと、タクオはザクの元へと駆け寄り、抱きしめた。

 

「ぬし……様……?」

「僕らの負けでござる……ザクきゅん……ごめん……もう戦う必要はないでござるよ……」

 

 その言葉を聞いて号泣しだす二人、それを見てギラーガはザクに突き付けていたスピアを静かに下ろした。全く、こっちとしてはいい迷惑を受けた筈なんだが、なんでかな……こっちまで目頭が熱くなってきやがった。

 

「タクオ、その子を大事にしてやれよ。人化ガンプラは主人のことを誰よりも大事に思っている。だから主人も、その気持ちに応えれるくらいにガンプラのことを大事にしてやれ」

「わかったでござる……もう僕は、自分勝手のためにザクきゅんを戦わせるような真似はしないでござる」

「ぬし様よ、これからわしは、この者達と同じく、主人たるぬし様を守るためにこの力を使うでござる」

 

 と、ザクⅠはファントムとギラーガを見てそう言った。ファントムは、そのザクⅠを安心したような表情で微笑み返し、ギラーガは「ふん」とそっぽを向いた。なんにせよ、これで一件落着だな。

 

「……まだ終わってない」

 

 と、締めのムードだったのだが、キサラギがまだなにか言いたげだった。キサラギは先程から両手に持っている大きな二つの紙袋を突きだす、それをタクオに渡す。

 

「なんでござるかこれは? お、重い……!」

 

 渡された袋が予想以上の重さで、タクオは歯を食いしばって両手でその紙袋を抱え込む。

 

「……今回の騒動は貴方のAC(アナザーセンチュリー)ガンダム作品に対する勝手な偏見が招いたのがそもそもの原因……だから、それをしっかり見て、知って、反省して……」

 

 タクオが袋を地面に置き、中を開けて物を取り出すと、それは『新機動戦記ガンダムW』のDVDだった。

Wだけじゃない。Gに∀にSEEDにSDガンダムフォースその他もろもろ……アナザーセンチュリー系ガンダムのDVDや関連書籍だった。

 

「こ……これは……?」

「……貸してあげるから全部見て。特に劇場版∀と劇場版OOは最低3回見て……。見ないで返そうとしてもダメ……1つの作品につき原稿用紙20枚以上の感想文を書いてもらう……」

「ひえ~!? ま、マジでござるか……!?」

 

 と、大変な状況を突き付けられたタクオだが、引くに引けないこの状況でタクオに選択肢などあるはずもなかった。しかしこれはいい機会だ、あいつにもアナザーセンチュリー系ガンダムの面白さを知ってもらうとしよう。

 

「でもお前、そんなに貸しちゃって自分で見たくなった時は大丈夫なのか?」

「……平気……あれは貸し出し用……あとは自分用の視聴用と、コレクション用の保管用があるから……」

 

 俗に言う『視聴用・普及用・保管用』って3つ買うやつか……。まさか、本当にそういうのをやっている奴がいるとは思わなかっ……。

 

「あ、それ私もよくやるやるー!」

「確かに3つ揃えるのは基本ではござるが……感想文でござるか……」

 

 ……どうやら俺が気付かないだけで、結構俺の周囲にもいたみたいだな。

 

「……そろそろ引きあげた方がいい。この騒ぎが人に知れ渡ったら、面倒なことになる……」

「そうだな」

 

 俺としてはこの破壊され尽くした公園を放っておくことに凄く罪悪感があるのだが……ファントム達の存在を公にできない以上、仕方ない。というわけで俺達は各々、公園から帰ることにした。

 

「あ~、腹減ったぜぇ~」

「お腹空いたね。みんなでソウシ君の家でご飯食べてこっか?」

「お! いいなぁそれ!」

 

 と、トモヒロとオトメはまたそんな勝手な事を言い始めた。

 

「お、おい! お前らはまた……!」

「だってここからだとソウシ君の家って目と鼻の先じゃーん。私お腹も空いたけど寒くって寒くって……」

「なっ、いいだろソウシ? な? な?」

 

 思い出したかのようにわざとらしく身体を震わせるオトメと、両掌を擦り合わせて俺に懇願するトモヒロ……はぁ、しょうがない。こうなったらなるようになれだ。

 

「わーったよもう! みんなまとめて面倒見てやる! ウチに来い!」

「やったー!」

「やりぃ!」

「ぼ……僕もいいのでござるか……?」

 

 と、タクオも不安そうな表情で聞いてきた。

 

「当たり前だろ。お前も俺達の仲間なんだから。これは俺達の仲直りの証にしよう」

「うっ……ありがとう……ありがとうでござる……!」

 

 と、頭を下げて涙を流し、俺の手を両手で堅く握るタクオ。

 

「……過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい」

「え?」

「……それが……大人の特権だ」

 

 タクオに対して、キサラギがそんな言葉を言う。ガンダムUCのフル・フロンタルの名言だ。

 

「……プッ……あはははははは」

「……?」

 

 不意に放たれたその言葉に、何故か自然と笑いがこみあげてきてしまった。キサラギはそんな俺を不思議そうな目で見る。

 

「いやごめん……お前、本当にガンダムが好きなんだな」

「……うん」

「ならお前もウチに来い。そこで飯食いながらみんなであのDVDでも見ようじゃないか」

 

 と、俺はタクオの抱えてる紙袋を指さす。

 

「えうっ……でも」

「遠慮することないぞ? 好きな物は共有し合うと、面白さも増すもんだ」

 

 これだけは何事にも言えることだろう。キサラギはこの性格だ、きっと今まで友達と呼べる人もいなかったのだろう。だから一人でしか趣味の幅を広げることができなかったのだろうが、今ここには同じガンダム好きが4人もいる。きっと今まで以上にガンダムが好きになることは間違いない。

 

「さぁ、行こうぜ?」

「……うん」

 

 しばらくの沈黙の後、頷くキサラギ。それを承諾の意と捉え、俺達は一路俺の家へと向かう。

 

「あ! じゃあ一番最初はOOから見ようよ!」

「いーや! Gからに決まってる!」

 

 と、オトメとトモヒロの二人はどの作品を最初に見るかで揉め合っている。

 

「キサラギはどう思う?」

 

 ここは俺達以上にガンダムに詳しいキサラギにご教授願うとしよう。

 

「……アキバ君は宇宙世紀ガンダムが好き……ならば宇宙世紀との繋がりがある∀を見るのが得策といえる……」

「だとさ、よし! じゃ鍋でも食いながら∀ガンダム見るか!」

 

 こうして俺達は結束し合う。最初はバラバラだった俺達が、こうして『ガンダム』という共通の作品によって紡がれる……それは以前よりも強く、そしてきっと永遠のものに変わった筈だろう。

 

………………

…………

……

 

「どうやら貴様は、新たな力を手にしたようだな」

「……」

 

 一方で、湖の畔にてファントムの前に対峙するギラーガ。その表情はバイザー覆われており、窺うことはできないが、口元は僅かに嗤っているように見えた。ファントムはそんなギラーガに対し、無言の視線で応える。

 

「だが、私もまだまだ強くなる。いずれは貴様と真の決着をつける時が来るだろう…その時が来るのを、楽しみにしているぞ。“ファントム”」

「……! お前、今私の名を……!」

「さらばだ」

 

 ファントムの言葉も無視し、ギラーガは飛び上がるとそのまま空の彼方へと飛び去って行ってしまった。だが、今奴は確かに、そしてはっきりとギラーガは初めてファントムの名を呼んだ。ファントムにはなんとなくわかる。それはギラーガにとって、ファントムを真の好敵手と認めた……ということなのではないだろうか。

 

「なにやってんだ? 行くぞファントム」

「マスター……はい」

 

 自分の主人に呼ばれ、ファントムは走り出す。そう言えばと先程負傷した足を見てみると、もう傷が塞がっていた。つくづく自分ら人化ガンプラというのは人間に比べると特異な体質だと実感したが、今はそれよりも新たな仲間も加わったことに喜びを感じている。

 だがそれと同時に、これからの不安も大きかった。敵……と言うにはあまりにも安易な存在のギラーガ。彼女とはまた己の死力を尽くした戦いをすることになるだろう。どちらかが命を落とすかもしれない。そうなった場合、ソウシとレイナ、二人のマスターは……。

 

「……っ」

「どうした?」

「いえ……何も」

 

 いや、考えるのはやめよう。今はまだこの平和な時を満喫しよう。そう思いファントムは、ソウシの傍らで共に歩を進めた。

 

………………

…………

……

 

「あ~、疲れた……」

 

 学校で授業が終わった後、ソウシ達のクラス担任、ヤマナカ・ユリは大学時代の友人の誘いで合コンに付き合わされることになった。それが終わって今ようやく自分のマンションに帰宅し、床の上に項垂れるように倒れこむ。その状態でユリは頭を上げ、壁にかかっている時計を見上げる。時刻は夜の12:00を回っている。友人たちはそのまま二次会へと向かったが、ユリは翌日も授業があるし、体力的にも限界だったため一次会で切り上げてきたのだった。

 

「全くトモコめ……私は明日も仕事があるっていうのにそんなことをお構いなしに……。しかも集まった男ときたら何!? 私のことをトモコの先輩とか言って……私はトモコと同級生だっつーの!」

 

 むくりと起き上がると先程の合コンのことを思い出し、苛々しながら上着を床の上に脱ぎ棄てて髪をくしゃくしゃとかき上げる。

 

「あ~もう本当に嫌! 男なんて! ……でも私も今年で29だし、そろそろ誰か見つけなくちゃなぁ……あれ? 留守電入ってる。……母さんから?」

 

 ため息をつくと、居間のテーブルに置いてある電話の『留守電』ボタンが赤く点滅しているのに気付く。留守電の主は、ユリの母からだった。ユリは留守電ボタンを押し、留守電の内容を聞く。

 

『もしもしユリ? あんたそろそろ男見つけんと、お父さんも心配しとるきに。それと、あの赤いの集める癖は治ったと?』

 

 地元の方言で喋るユリの母。それを聞いてユリはまた大きくため息をついた。

 

「……いえ、すいませんお母さん……男も見つかってないし、その癖の方も……むしろ酷くなってます」

 

 改めて自分の部屋を見回すユリ。テーブルの上には夕べの晩酌で空けたままのつまみの袋、その周りには飲み干したビールの缶、衣類や学校で使う書類なんかが散らばってる。これだけ見ればただのだらしのない大人の部屋だが、問題はそこじゃない。部屋の四方にある棚……そこに飾られているのは、大小様々なサイズのプラモデル……そう、“ガンプラ”だ。それもただのガンプラじゃない。そのどれもがカラーリングが赤や金色のものばかり……そう、これらは全てユリが大好きなガンダムのとあるキャラクターが乗った機体のガンプラなのだ。ガンプラばかりじゃない。コスプレ衣装にマグカップにキャリーバッグ、全てユリが好きなガンダムキャラのグッズだ。そしてそのキャラというのが……。

 

「よし、こんな時は『逆シャア』でも見ながら癒されよう」

 

 と、堅苦しいスーツを脱ぎ捨ててテレビの電源を点け、DBプレイヤーを起動させる。

 

「やっぱいいわぁ……大佐」

 

 ユリの視線はテレビの中で活躍する“シャア・アズナブル”に釘付けになる。そう、ユリは昔からこのシャアという人物が大好きなのだ。だからユリの持っているガンプラも、その全てがシャアの乗った機体だ。

 

「いやいや……わかってる……わかってますよぉ……私ももう三十路手前。こんなことを続けていたらいつまで経っても彼氏ができないのはわかってる……でもさぁ……好きなものは好きなんだからしょうがないじゃない!」

 

 と、酔いがまだ残っているのか、誰もいないし何も言われても無いのに勝手に自己嫌悪に陥るユリ。

 

「……はぁ~あ……なんだかなぁ……やっぱ気分乗らないなぁ……」

 

 ユリはちょうどフィフスルナが落下したところで停止させ、BDプレーヤーの電源を切ると、その場に寝そべる。そして、自分の大学生時代の頃を思い出していた。

 彼女は今まで彼氏がいなかったわけじゃない。大学生の頃にいたが、この趣味を知られてしまい、それでドン引きされて……別れてしまったのだ。だからそれ以来、この趣味が周囲に知られることを極端に恐れている。そのせいか生徒達にはキツく当たってしまうこともある。

 

「あ~あ……こんな趣味の私が、なんで高校の教師になんかなったんだか……こんな時、シャア・アズナブルならなんて言うかなぁ…」

 

 そんなこと大佐に言ったところでどうにかなる問題じゃないのはわかってる。さしずめ、『サボテンが花をつけている……』って言われて話をはぐらかせるんだろうな……と、そんなことを考えながら、ユリは部屋に飾ってあるガンプラの前まで行き、ザク、ズゴック、ゲルググの順から眺めていく。

 

「うーん、やっぱ赤はいいわねぇ、赤は。ジオングは赤じゃないけど、いかにもラスボスっていう風格が最高。赤いリック・ディアスは後々量産されるけど、この風貌でガンダムの一種っていうのがまたいいわねぇ。百式はこの金色が最初は受け付けられなかったけど、大佐が初めて乗ったガンダムタイプってことで今では好きな機体だし。キャスバル専用ガンダムや専用リックドムみたいなゲームや小説に搭乗した機体もちゃんと揃えてあるし。そして大佐の乗った最後の機体といったらこのサザ……あら?」

 

 独り言を呟きながらガンプラで癒されていたのだが、そこであることに気が付いた。

 そこに飾ってあるはずのHGUCサザビーがなくなっているのだ。

 

「あれ……? おかしいわね、昨夜は確かに見た筈なのに……」

 

 ユリは棚の後ろや下の隙間にサザビーが転げ落ちていないか見る。他にも座布団の下、衣類や書類の下なぞ、部屋中あちこちを探すがサザビーは見つからない。その時だった。隣の寝室からゴトゴトと物音が聞こえた。

 

「……え、なに今の音……?」

 

 不気味な音に思わず立ちつくし、その場に硬直するユリ。すると、また物音が聞こえる。間違いない……寝室に自分以外の誰かがいる。

 

「え……嘘なに……? 泥棒……?」

 

 ビクビクとしながら、ユリはそろりそろりと寝室のドアの傍まで近づき、そのドアノブに手をかける。彼女はこう見えても高校の頃には柔道をやっていたから、男一人くらいなら投げ飛ばせるはず……と、意を決してドアノブを捻り、一気にドアを開く。

 

「おや、帰ってたのかね? 気がつかなくってすまない」

「……え?」

 

 ドアを開けると、そこには一人の女性がいた。その女性はどうやら散らかった寝室を綺麗に片づけてくれていたらしい。脱ぎ散らかされたパジャマは綺麗に畳まれ、ベッドはまるでホテルにあるベッドのようにきちんと整ったメイキングを施されていた。だがユリが気になったのは、部屋の状態ではなくその女性の方だった。長い金髪で、長身の大人な女性だ。外国人のモデルのようなグラマラスで整った顔立ち……とても美人だ。でも、その格好はどこかおかしい。頭のてっぺんに3本の角が生えた赤いヘルメットのようなものを被り、スカートを彷彿とさせる赤い腰部を覆う装甲に、全身に身に纏っている機械的な鎧。そのヘルメットも装甲も鎧も、みんな色は真っ赤だ。そしてその全身像……その姿にはどことなく見覚えがある。

 

「しかし……貴女の寝室には初めて入ったが、ここもリビング同様に散らかり放題だな。ここが終わったら、リビングの方も掃除するとしよう」

 

 と、彼女はまるでユリのリビングを前々からずっと見続けていたかのような口調でそう言った。

 

「は、初めてって……? ていうか……貴女誰?」

「ん、私かね? 私の名はサザビー、ご覧の通りガンプラだ」

 

 こうしてキモト・ソウシ達の知らないところで、また意外な人物の新たな出会いが幕を開けた……。

 

 

 

 

 

~オリジナル機体紹介~

 

虚空に走る黒き衝撃

「ザクファントムカスタム・BI(ブラックインパクト) スクランダーウィザード装備型」

 

【挿絵表示】

 

 

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【挿絵表示】

 

【機体説明】

 専用の飛行用ウィザード、“スクランダーウィザード”を装備したブラックインパクト。大気圏内において重装備であっても自在な飛行が行えることを目的とし、ブレイズウィザードのブースターをそのまま推進部に用いている。ブースターの推力をウイングで無理やり制御しているため、扱いが難しい。しかし、純粋な速度だけならば地球連合軍のジェットストライカーをも凌ぐと言われている。

 

【武装(スクランダーウィザードのみ)】

ファイヤビー誘導ミサイル×28

 

【主な使用キット】

HGSEED ブレイズザクファントム(ブレイズウィザードのみ)

HGSEED グフイグナイテッド(バックパックのみ)




飛行能力付与は物語中盤でよくある展開といえども、良いものですよね~
ファントムの戦い方はASTRYのPVにおいてのレッドフレームの戦い方を意識しています
あのレッドフレームはかっこよすぎる~

さて…終盤にまた新キャラが登場しましたが、次回からはさらに大きな展開を迎えます
お楽しみに!
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