アンダーワールド後の原作世界観に迷い込む、33ステのお話。単純にキリトVS整合騎士キリトが見たかっただけ←
某所。
草木が生い茂ったとある森の中、一人の少女が走っていた。
漆黒の剣を大事そうに抱え、何かから逃れるように必死に地面を蹴り上げた。
「はぁ……はぁ……!!」
息切れをしながらも、彼女は走る速度を落とさない。
鎧当ての付いた純白の衣装は赤黒く穢れており、少なからず傷を負っているのは素人でも明白なほど。
長い榛色の髪が激しく揺れ動くことも気にせず、何処かへ逃げようとする。
だがそこへ、彼女を立ちふさがるように現れた者がいた。
「よぉ、探したぜ」
「ッ…!」
声をかけてきた人物を見て、少女は思わず立ち止まる。
丁度影になる場所で待ち伏せていたのか、金属質な鎧以外にはよく姿が見えない。
少し動揺したかのような、しかし目の前の人物を目をそらさずにしっかりと見据える瞳を見て、声の主は露骨に苦笑いしながらため息をつく。
「……はぁぁ、そんな瞳で見られると流石の俺でも傷つくぞ」
「わざわざこんな所にまで追いかけてきたの?」
「当然だ。アンタはかのアドミニストレーター様に刃向かった大罪人。大事に保管されていた神器の一つを奪った盗人だ」
「これは渡さない。たとえあなたであっても」
少女は大事そうに両手に持つ漆黒の剣を握りしめる。
その様子を見て、頭に手を置いて声の主は首を横に振る。
「そうだよな、アンタはそういう人なんだよな」
「………」
「そう怖い顔するなよ。今なら間に合う。俺がなんとか口添えして許して上げられるようにしてやるから」
声の主は口元で笑みを浮かべて、少女へ向けて手を差し伸べる。
籠手に覆われたその真っ黒い手をゆっくりとゆっくりと手を伸ばす。
少女はその手を拒めず、ゆっくりと迫りくるのを待ち受けていた。
「さぁ、俺が守ってやるからな。■■■■■」
「……ッ!■■■くん……」
二人が互いに名前で呼び合い、その肌に触れようとする。
―――その時だった、近くの草木の裏から物音がしたのは。
二人が物音がした方へ見てみると、そこに現れたのは紅色の鎧を身にまとった戦士達だった。
戦士達は二人を見て下卑た笑い声を上げている。
「おいおい、なんだなんだ?プレイヤー同士の喧嘩か?」
「へっへっへ、いいじゃねえか。漁夫の利ってやつで」
「おい、てめぇらアイテムと金をよこせ。そうすりゃ命だけは助けてやる」
紅色の戦士達は二人に武器を構えながら距離を狭めていく。
どうやら自分達の持つ装備目当てで狙っているらしい。
そして、戦士の一人が少女に気づいて近づく。
「おい、かわいい子ちゃんがいるじゃねえか」
「……」
「へっへっへ、とんでもねえ戦利品じゃねえか!あれだ!お楽しみが増えたぜ」
「お前、趣味悪いぞ。ハラスメントすれすれの事すんじゃねえぞ」
「わかってるって。さぁ、こっちにきな。悪いようにはしないからさ」
仲間の一人に注意されながらも、一人の紅色の戦士が少女へと近づく。
少女は嫌悪感を示す表情を示すも、意に反さず手を伸ばそうとする。
「おい、お前」
「あん…?」
呼び止められた声に振り向いたその瞬間……。
深々と戦士の胴体を鎧ごと剣の刃が突き刺さった。
そのまま横へ無理やり斬ると、突き刺した本人である声の主は冷めた目つきで戦士に言葉を投げた。
「彼女に触るなよ」
「がはっ……!?」
冷酷な声音を放った後、もう一度剣を振るって、戦士の男に首に一閃叩き込む。
少女を捕まえようとした紅色の戦士の一人は、首と胴体が泣き別れになった後、一つの紅い炎となって消えた。
容赦のない行動に、他の紅色の戦士達が驚く。
「てめぇ!やりやがったなぁ!」
「はっ、そっちこそ随分と行儀の悪い亜人どもだな。なんだ?ダークテリトリーの奴らか?」
「ダークてっ……何を言ってんだお前!?」
「チッ、知らないのか。どうやら俺と彼女はまったく別の世界に来たようだな」
舌打ちを打ちながら、周囲を見渡すと、一際大きい白い巨樹が見える。
"元の世界"にも悪魔の巨樹と呼ばれる木があることを噂程度に聞いていたが、それよりも明らかに上をゆく巨大さに関心している。
あれが何なのかは気になるが、今はそれより目の前にいる雑魚を片付けるのは先だ。
声の主は陰の中からその姿を現す。
漆黒の鎧姿に顔を覆うほどの兜を被り、まるで黒騎士といわんばかりの風貌のその男は、片手に剣を携えながら目の前にいる敵を見据えている。
「さて、と。一本で事足りるか」
「舐めてんのかテメェ!!」
「俺達ユージーン将軍配下の戦士達!今さら泣いたって許してやんないぞゴラァ!!」
紅色の戦士……もとい、火妖精サラマンダーの戦士役のプレイヤー達は各々の武器を装備して目の前の黒騎士を打ち倒さんと襲い掛かる。
黒騎士は兜越しにニヤリと口元を歪めて、片手剣一本でサラマンダーのプレイヤー達へ突っ込んでいった。
―――数分後。
そこには黒騎士とプレイヤー達が倒された証である炎・リメインライトだけが残っていた。
紅く燃えるリメインライトの一つを踏みつぶしながら、黒騎士は周囲を見渡して少女がこの場にいない事を察する。
「……なんだよ、逃げることはないじゃないか。まあいいや、気ままに探すとするか」
黒騎士はそう言いながら、鼻歌交じりに歩いてこの場から去っていった。
ココはVRMMORPG"アルヴヘイム・オンライン"。
妖精たちが住まう北欧神話を舞台としたゲームの仮想世界にて、異世界からの訪問者が迷い込む。
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「ユージーン将軍の所のプレイヤー小隊が全滅した?」
「うん、昨夜の事なんだけどね。中立帯に差し掛かった所でPKに遭ったらしいの」
溜まっていた課題をようやく終えて、アルヴヘイムの空を飛んでいるキリトは同じく並行飛行しているリーファの最近の噂話を聞いていた。
なんでも、中立地帯に差し掛かったところで謎のプレイヤーに襲われて倒されたらしい。
かつて初めてアルヴヘイム・オンラインにログインした時にリーファを助けるためにSAOで鍛えたステータスでサラマンダーの戦士を倒した自分を脳裏で思い出しながら、キリトはリーファに尋ねた。
「どの種族の誰か判明しているのか?」
「それがその、黒い鎧に黒い兜をつけた騎士みたいな恰好をしていて、どの種族か分かってないの」
「ふぅん、正体不明の黒騎士か」
「全身真っ黒、なんてまるでお兄ちゃんみたいだね」
普段の兄もといキリトと同じ格好をしている人が他にもいるなんてという意味でリーファは声を上げて笑う。
そんな妹に不貞腐れた表情をしながら、キリトは俗称・黒騎士の事について深掘りをする。
「で、その黒騎士の情報は他にあるのかよ」
「えっとね、確かまず一つは羽根を出して飛ばなかった事かな」
「羽根を出して?」
「うん、普通ALOって誰もが飛行できることはもちろん知ってるよね。でもその黒騎士は羽根を出して飛ばなかったって言っていたんだよ」
リーファの語る通り、証言によるとこうだ。
サラマンダーのプレイヤー達が飛んでいたにも関わらず、黒騎士は対抗して飛ばなかったという。
本来ならば飛行できるプレイヤーの方が有利のはずだが、結果は黒騎士が全員倒した。
何故黒騎士は複数人の飛ぶ相手に対して倒せたのか。
その答えをリーファが告げた。
「それがその、変な話で……魔法とは違う、妙な術式を出してたらしいの」
「魔法とは違う?」
「うん、何かを唱えて手や指先から炎や風を生み出して、それで撃ち落としたり、時には勢い任せに飛んで相手を斬っていたらしいの」
「……なんだそりゃ。魔法じゃないってならなんなんだ?」
黒騎士の逸脱した戦いぶりにキリトは眉を顰める。
自分も無茶な戦い方はしていた経験はあるが、それ以上におかしな戦い方をしている奴がいるとは思ってもみなかった。
「お兄ちゃん、そろそろアスナさんとシノンさんが言っていた待ち合わせの場所だよ」
「お、そうか。今日のクエストも頑張るか」
「おー!」
キリトとリーファは待ち合わせしているアスナとシノンの元へ向かって飛んでいく。
二人は気づいていなかった。
奇妙なる出会いが、既に始まっていることを。
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一方、アスナとシノンはユイの案内により、今日攻略するクエスト開催場所で待っていた。
アスナは自分の肩に乗せたピクシー姿のユイに対して、感謝の言葉を言った。
「ユイちゃん、ありがとね。久しぶりのクエストの事調べてもらって」
「例には及びませんよ。ママ。溜まってるクエストはいっぱいありますから」
「そうねぇ。キリトには頑張ってもらわないとね」
シノンは相棒というべき弓の手入れをしながら、キリトとリーファの到着を待っていた。
いつもと変わらぬ日常、きっとこの後は集まった四人でクエストを攻略し、また新しいクエストを探して明日やろうという何気ないやりとりを行うつもりだった。
だが、それは一人の人物によって崩された。
突如、アスナとシノンの視界にとある人影が写りこむ。
それは黒い剣を抱えて、少し薄汚れた白い衣装を身にまとった、榛色の長い髪をした一人の少女。
はて、何故だろう、何処かで見覚えのあるような……。
そんな既視感に至るか至らないかの時、少女の身体が地面に倒れた。
その光景を見ていたユイが最初に叫ぶ。
「大変ですママ!シノンさん!人が倒れてます!」
「助けないと!シノのん!」
「わかってるわよ。向かいましょ、アスナ」
アスナとシノンは、倒れた少女の元へ向かう。
少女に近づいてみて、二人はその姿に眉を顰めた。
何故なら、その衣装は本来ならもう見るはずのないモノだったからだ。
「アスナ、この衣装って……」
「うん、アンダーワールドのステイシアアカウントの時に着ていたものと同じものだよ」
―――ステイシア。
通称・スーパーアカウント001『ステイシア』。
アンダーワールドにおいて創世神ステイシアの元にしたアカウントであり、かつてアスナはキリトを助けるためにステイシアの姿を借りて降り立った事がある。
目の前に倒れている少女の衣服は、多少黒ずんで穢れているが、アスナの使っていたステイシアの衣装そのものだった。
「なんでこの子はステイシアの姿を……」
「とりあえず起こしましょ?」
「うん、そうだね」
アスナとシノンは二人で抱きかかえて、少女を起こした。
そして露になった顏を見て驚愕した。
―――なぜなら、アスナと瓜二つ……いや、アスナそのものの顔をしていたからだ。
「わ、私!?」
「そんなアスナがもう一人……!?」
「ねえシノのん!?これってあのドッペルゲンガーかな!?私死ぬの!?」
「落ち着きなさいアスナ!」
お化けが苦手なアスナは目の前に会わられた自分そっくりの顔をした少女を"ドッペルゲンガー"と勘違いして怖がり、シノンはそんな彼女を落ち着かせるため宥め始める。
その間、アスナの肩から降りたユイがステイシア姿のアスナ(?)の元へ降り立ち、状態を調べる。
「……これは」
「ユイちゃん、何か分かったの?」
「まさか、本物のドッペルゲンガー!?」
「いえ、そうではなく……このママそっくりの方のアカウントなんですが、とても高位のアカウントだとわかりました。それも話で聞いていた、ステイシアのアカウントレベルです」
ユイは真剣な表情で分かった事を答えていく。
まず、先程言った通りハイレベルのアカウントでこのALOの世界にいること。
次に、データこそ互換性があるように似ているものの別の仮想世界のものだと判明したこと。
最後に、彼女の精神状態はとても弱っており、介抱しなければ危険な状態になるかもしれない。
以上の事を伝えられた二人は深刻な表情に変わる。
「……とりあえず、そうね。彼女を助けましょ」
「そうよね。いくらなんでも私をほっとくわけにはいかないもんね」
「近くの宿屋にいきましょう。そこなら十分に休められるはずです」
ステイシア姿のアスナ……便利上、ステイシアをアスナは抱えようとする。
その時だった……シノンがケットシー特有の索敵能力の高さで何かを感じ取ったのは。
「……待ってアスナ」
「シノのん?どうしたの」
「何かこっちで向かってくる、隠れて」
シノンに言われて、三人は物陰に隠れる。
―――その直後だった、前方にて何かが落ちてきたのは。