SWORD&SOUL -VS 33-   作:地水

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02:狂愛の黒騎士

 

舞い上がった土煙が晴れると、一人のノームの男性プレイヤーが黒い鎧を纏った男に串刺しにされている光景だった。

ノームのプレイヤーの胴体には剣が深々と突き刺さっており、さながら昆虫の標本のような光景にも見える。

 

「あがっ……がっ……」

 

「ふん……」

 

鎧姿の男が剣を握って勢いよく押し込むと、ノームの男性プレイヤーは大爆発のエフェクトを起こした。

そして黄色のリメインライトとなって消え、残されたのは鎧姿の男だけだった。

 

「なに、あれは……」

 

「リーファの言っていたPKをやっている黒騎士ね」

 

アスナはその異様な雰囲気に驚き、シノンは鎧姿の男が件の黒騎士があの男だと判断する。

シノンは弓矢を装備し、アスナも細剣を装備して引き抜く。

何時襲い掛かって来てもおかしくない……そう思った二人は、武器を構える。

だが、そこへ鎧姿の男……もとい黒騎士が口を開く。

 

「そこにいる二人、出てきてもいいんじゃないかな」

 

((…!気づかれた!?))

 

「……ここはシノンさんが出て言ってください。もう一人のママを守れるのは……私のママしかいないんです」

 

「わかった。ユイちゃんを信じるわ」

 

ユイの言葉を従って物陰から出るシノン。

弓矢の標準を黒騎士に捉えながら、言葉を投げかける。

 

「そこを動かないで。黒騎士さん。一歩でも動いたら撃つわよ」

 

「おー怖い怖い。その殺気は是非ともうちに欲しい所だが……」

 

「生憎とナンパはお断りよ」

 

「ナンパねぇ、何だから知っている気がするがなんだったかな」

 

黒騎士はワザとらしくとぼける表情を浮かべる。

シノンは油断せず、弓矢の弦を引っ張り続ける。

暫しの緊張の中、両者に静寂が訪れる。

 

「「………」」

 

そして、先に動いたのは黒騎士だった。

先程の剣を構えると、そのままシノンへ突っ込んでいく。

その瞬間、シノンは弦を手放し、矢を放った。

鋭く飛んで行った矢は真っ直ぐ黒騎士へ捉えて……真っ二つに斬られた。

驚くシノン。その彼女へ向けて一気に距離を詰めた黒騎士の刃が迫る。

 

「させない!」

 

「……!」

 

黒騎士の振るったその刃が届く寸前、アスナの細剣が受け止める。

暫しの拮抗ののち、黒騎士がアスナの顔を見て驚く。

 

「お前……!」

 

「シノのん!スイッチ!」

 

「―――Bang!」

 

アスナが飛びのくと同時に放たれたのは、シノンの弓矢によるゼロ距離。

矢は見事に兜へと直撃し、数m先まで吹っ飛ぶ黒騎士。

アスナは追撃を言わんばかりにソードスキルを発動させようと構える。

だが、その時聞こえてきた"自分と同じ声"を聴いて、躊躇してしまった。

 

「―――やめ、て」

 

「えっ」

 

ステイシアが弱弱しくも必死に手を伸ばす。

その手の先にいたのは……。

 

 

「たっく、痛いもんだなぁ」

 

 

顏を隠していた兜が粉砕され、―――キリトと同じ顏を露にした、黒騎士の姿だった。

 

その姿を見て、アスナとシノンは驚く。

 

「き、キリト……くん?」

 

「そんな、アイツは確か……」

 

身近の人物の顔をしていて動揺する二人。

その隙をついて、黒騎士は頭から血を流しながら立ち上がる。

滴り落ちる血をその手で拭いながら、アスナ達を見やる。

 

「はぁ、痛い。というかいったいどうなってるんだ?」

 

「……何が」

 

「アンタ、なんでステイシアとおんなじ顏をしている?」

 

ステイシアと呼ばれて、アスナは驚く。

自分の事をステイシア呼びのキリト君なんて知らないのだ。それなのに目の前にいるキリトと同じ顏をした彼はアスナの事をステイシアと呼んだ。

いったい何が何だが、と考え込み始めてどう切り返せばわからなくなった。

 

「そ、それは……」

 

「……まあいいや。確かにアンタは気になるが一番重要なのは、こっちだ」

 

そういうとアスナとシノンを後にして、黒騎士は真っ直ぐに物陰に隠れたステイシアの元へ向かう。

途中、ステイシアに付き添っていたユイが攻撃しようとするも、軽くあしらわれ放り投げられる。

ステイシアは目覚めてはいるものの、意識が朦朧とした状態だと黒騎士は察する。

そしてステイシアを抱きかかえると……

 

 

「ん」

 

「……んんんん!?」

 

 

―――かぶりつく様に彼女の唇を奪った。

その瞬間、入ってきた異物に気づきステイシアの目が見開き、意識が覚醒した。

嫌がるステイシアを無理やり腕で抱きかかえて拘束する黒騎士。

なんとか逃れようともがくも、如何せん黒騎士の方が力が強く、快楽が彼女を襲い、その瞳をとろんとさせていく。

 

「    」

 

「わぁ!」

 

「きゃっ!?な、なにを!!」

 

アスナはいきなりの突拍子のない黒騎士の行動に固まり、ユイは黄色い声を上げ、シノンに至っては目の前で繰り広げられる熱い接吻に顔が真っ赤になっていた。

無理もない……なんせ自分と同じ顔、もしくは自分の知り合い達が目の前で激しいスキンシップを取っているからだ。

ハッと我に返ったシノンが弓を構え、お楽しみ中の黒騎士を脅す。

 

「あ、アンタ、何しているのよ!さもなくば……」

 

「んっ……むぅ……はぁ……」

 

「んん……ん……!!」

 

「キスを続けんじゃないわよ!本気で撃つわよ!」

 

渋々といったん唇を話し、黒騎士は不機嫌そうな表情でシノンの言葉に答えた。

 

「ぷはぁ……なにって、気付薬だが?」

 

「気付薬って……普通キスじゃないでしょ!?」

 

「俺と彼女はこれでいいんだよ」

 

ニヤリとわざとらしい悪戯めいた笑顔を浮かべ、口元を歪ませる。

その笑みが自分の知る誰かと余計に重なって見えるせいか、どうしようもない怒りを見せる。

 

「さぁ、お前達は見逃してやる。特別にな」

 

「なっ…どうして!?」

 

「目的の者は見つかった。短いなりにも介抱してくれていたそうだしな。ああ、流石に疲れたしこれから無駄な争いはしたくないからな」

 

そう言いながら、アスナの質問に答えた黒騎士はステイシアを抱えて彼女の頬を撫でる。

先程負った傷から滴り落ちた血が彼女の頬に付着し、白い肌を赤く染める。

その姿を見た黒騎士は再びステイシアの唇を重ね合わそうとする。

 

―――その時だった、黒い人影が黒騎士目掛けて飛んできたのは。

 

振り下ろされた剣を自らの剣で受け止め、後方へ飛びのく黒騎士。

一体誰だ、と相手を確認すると、その顔は一瞬驚いたように変わった。

 

何故ならそこにいたのは、自分と同じ顏の剣士。

耳が尖がっている事と服装・武装の違いはあれど、目の前に立っているのは自分自身だった。

思わず、黒騎士は驚きの声を漏らす。

 

「……俺?」

 

「それはこっちのセリフだ。なんで目の前に俺がもう一人いるんだ。それに……」

 

キリトは、空いていたはずの自分の腕の中に抱えていたものを見る。

その傍らには無意識で抱えたステイシアがいた。

何故ステイシア姿のアスナがここに?という疑問を思い浮かべているが、それより先にステイシアがキリトへ向けて目をあけて手を伸ばしてきた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「キミは………」

 

「……キリト、くん……だよね。私の知って、いる……キリトくん」

 

「……ああ、キリトだ。俺はキリトだよ。アスナ」

 

「よかった……また、会えたんだね……」

 

弱弱しい声ながらも、キリトの名前を呼ぶステイシア。

その顔には涙が流れ、笑みを浮かばせていた。

キリトの頬に手を当て、愛おしく撫でた後、意識を手放した。

 

「………」

 

「お兄ちゃん」

 

「スグ、彼女を頼む」

 

キリトは静かに彼女の身体をリーファに預ける。

そして黒騎士へ向き直り、彼へ静かに言い放つ。

 

「お前が何者か、何故彼女を狙うのは色々気になる……だが、一番お前に言いたいことがある」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

キリトは怒気の孕んだ目つきで、目の前に立つ黒騎士を睨みつける。

自分と同じ顏でありながら、冷酷な表情を浮かべる黒騎士に恐れの字も知らない様に怒鳴り声を上げる。

 

 

「何故俺なのにアスナを平然と傷つけられるんだ!お前は!」

 

 

それは、怒り。

自分と同じ姿をしていながら、愛する人を傷つけて持て余す目の前の(じぶん)に対しての怒りの感情。

許されざる行為を平然と行う黒騎士に対しての激怒の感情がキリトの心を支配する。

 

「俺……だと……ぐっ!?」

 

「お前が誰であろうと、アスナはアスナだ。俺の最愛の人で、大好きな人で、かけがえのない女性だ……たとえ、同じ顏をした別人でも、俺は見捨てることはできない。あの時から守り抜くって決めたんだ!」

 

揺るぎない意思を宿した瞳でキリトは目の前に立つ黒騎士を見つめる。

最愛の人に対する言葉の丈を言われ、若干顏を赤らめるアスナ……。

だが、それを打ち壊さんとばかりに黒騎士の低い声が響き渡る。

 

「……うるさい」

 

「…なに?」

 

「黙れ!黙れ黙れ黙れ!」

 

「!?」

 

突然黒騎士は周りに当たり散らすように叫んだ。

その際、憎しみにも嫉妬にも見える黒い感情が瞳越しに伝わってくる。

目の前にいるキリトを見ながら、黒騎士が怒号を上げる。

 

「なんでお前は俺と同じ顏をしている!? 何故お前がアイツと一緒にする!? 何故お前と同じ顔なのにアイツは……ステイシアはお前にあんな安堵した顏を向ける!?」

 

辺り散らすように剣を振り回し、近くのオブジェクトを壊す黒騎士。

やがて落ち着きを取り戻し始めると、キリトを睨みつけながらこう言った。

 

「ああそうか……そうか、そうだったのか。ようやく理解した」

 

黒騎士は何かを理解したかのようにキリトを見ながら、剣を向ける。

 

「―――お前が、アイツの探していた俺か」

 

その目に宿るのは、『殺気』。

人生最大の敵を見つけたといわんばかりの殺気にキリトは驚くが、自分の中にある激情がある以上引くわけにはいかない。

冷静さを取り戻し、静かな声音で黒騎士が訊ねてくる。

 

「お前、何者だ」

 

「黒の剣士・キリト」

 

「俺は整合騎士 キリト・シンセシス・サーティスリー」

 

二人の『キリト』は互いに名乗り上げ、得物である片手剣を構える。

自らに流れる思いを相手にぶつけるため口々に言った。

 

 

「俺はお前を許さない」

 

「俺はお前が気にくわない」

 

 

「アスナを傷つけた、お前に負けるつもりはない」

 

「ステイシアをお前なんかに渡してなるものか」

 

 

「―――お前は俺が斬る」

 

「―――お前は俺が殺す」

 

 

相対する、二人の剣士。

片や影妖精スプリガンの黒の剣士・キリト

片や33番目の整合騎士・キリト・シンセシス・サーティスリー。

本来なら交わることのない者同士による激情の戦いが、火蓋が切って落とされた。

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