SWORD&SOUL -VS 33-   作:地水

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 この時かけていた曲:呀 ~Tusk of Darkness~(影山ヒロノブ)
黒騎士繋がりで暗黒騎士のテーマソングで書いてました。


03:黒き牙との死闘

 その日、とあるALOプレイヤーギルドは中立地域でクエストに出かけていた。

なんでも地域限定のレアモンスターを狩りに出かけたという。

ようやく目当てのモンスターと巡り合え、戦闘準備を行うプレイヤーギルドのメンバー達。

 

「いくぞ!お前ら!」

 

「「「「おー!!」」」」

 

「春先には"スリーピング・ナイツ"に先を越され、フロアボスを倒されちまったがそんなことは気にするな!次は俺達が黒鉄宮に名を刻む番だ!」

 

「「「「おー!!」」」」

 

「では諸君、モンスターを狩りにいくぞ!」

 

「「「「おー!!」」」」

 

リーダーと思われる男と共にプレイヤー達はレアモンスターを退治する

あの時は"バーサーくヒーラー"を加えた少数精鋭のスリーピング・ナイツに加え、噂の"ブラッキー先生"が邪魔立てして結局ボスには挑めなかったが、今度はそうはいかない。

このレアモンスターから獲れる素材を使い、戦力増強を図る。

 

『ギシャアア!!』

 

「いくぞ!うおおおおおお!」

 

「「「うぉおおおおおおお!」」」

 

先導しているリーダーのプレイヤーに続いて前衛職のプレイヤー達がモンスターへと襲い掛かろうとする。

 

―――だが、一瞬二つの黒い影がモンスターを挟んで通り過ぎたかと思うと、無数の切り傷のエフェクトが刻まれたモンスターが力なく倒れる。

 

そして、モンスターが倒されるときに出てくる特有のポリゴンとなって消えてゆく。

突然何が起きたか、呆然をするギルドのプレイヤー達。

自分達ギルドでやっと倒せるかどうかのモンスターが、一瞬にしてやられたのだ。

いったい誰が……!?と、リーダー格の男が怒鳴りたい気持ちを抑えながら、周囲を確認する。

 

すると、そこに先程の黒い影が一瞬にして姿を現す。

片手剣を構える全身黒づくめの剣士を見て、すぐさま思い出す

あの時ボス戦へ挑もうとするスリーピング・ナイツを手助けした、黒づくめの"ブラッキー先生"だと。

問い詰めるべくリーダー格のプレイヤーは彼に迫る。

 

「てんめぇブラッキー先生!?よくもまぁ俺達のレアモンスターを!どうしてくれんだぁ!」

 

「誰だか知らんがそりゃ災難だったな……だが、今すぐ逃げないともっとひどい目に遭うぞ」

 

「はぁ!?何を言って……」

 

そこでブラッキー先生が視線にむけている【その存在】を見て、身震いした。

 

そこにいたのは、『獣』。

黒い鎧を纏い、人の顔をしていながら『魔獣』と形容すべきそれは、片手に持った剣《きば》を構えて、一歩一歩近づいてくる。

正直、傍らにいる黒づくめの剣士と同じ顏をしている事にも驚きだが、それを指摘しているどころではない。

ソレの発する殺気が、脳から危険信号を察知したからだ。

 

「な、なんなんだよ、アレ……化け物か!?」

 

「てっめぇ!よくも俺達の狙っていたモンスターを勝手に狩りやがって!!」

 

「デスペナ喰らっても文句いえねぇぞ!」

 

激情に駆られた仲間のプレイヤーの二人が、『魔獣』に襲い掛かる。

片や剣、片や槍を構え、武器を振り下ろそうとする。

だが、その前に『魔獣』が先に動き、まるで宙に舞った紙を切り裂く様に剣を振るう。

その瞬間、二人のプレイヤーは胴体を真っ二つにされ、リメインライトとなって消えていく。

その様子を見て、絶句するリーダー……そこへ黒づくめの剣士が怒鳴った。

 

「はやくここから消えろ!コイツ相手にお前達を守りながら戦う余裕なんてないぞ!」

 

「ひ、ひぃぃ!!」

 

黒づくめの剣士の放った鬼気迫る言葉に押され、リーダーを始めとしたこの場から一目散に逃げていくプレイヤー達。

その間にも『魔獣』は近くにいたプレイヤー達に剣を振るって、鋭い一太刀で狩っていく。

やがて周囲に様々な色のリメインライトが地面に転べ落ち、まるで二人の戦いの狼煙を上げるかのように灯っている。

『魔獣』は一瞬を視線を向けると、黒の剣士に言葉をかける。

 

「おい、いいのかよ。無辜の奴らを殺られてしまって」

 

「さぁてな……本当に死ぬわけじゃない。少しデスペナルティを喰らうだけだ」

 

「はっ、薄情だな、案外」

 

「誰かを庇いながら戦って勝てるほど、侮れない相手だからな。お前は」

 

黒づくめの剣士は剣を構えながら『魔獣』を睨みつける。

『魔獣』はニヤリと口角を上げ、同じく剣を構える。

黒のづくめの剣士と『魔獣』……二人のキリトは地面を蹴り上げ、その刃をぶつけ合った。

 

 

――――

 

 

数刻前。

アスナとシノンの待ち合わせ場所に向かっていたキリトとリーファ。

駆けつけた二人が目撃したのは、謎の鎧を纏った黒い騎士と戦うアスナとシノンの姿だった。

戦っている相手が件の黒騎士だと判断したキリト達は加勢に向かおうとしたその時、黒騎士の素顔が露になった。

 

「なに……!?」

 

「お兄ちゃんと、キリトくんと同じ顔……!」

 

二人は先程のアスナ達二人と同じ驚愕の反応をする。

なんせ自分と同じ、もしくは自分の知り合いと同じ顏をしているのだ。無理もない。

一方、黒騎士はアスナ達を適当にあしらい、物陰に隠れていた少女をその身に寄せる。

その衣装とその顔を見たキリトは目を見開いて驚いた。何故なら抱きかかえられた少女の姿はステイシアのアスナだったからだ。

自分の知っているアスナは黒騎士とステイシアの目の前で立っているのに……頭の中ではわかっていても、キリトは奇妙な気分になる。

 

そして、あろうことか自分と同じ顏をした黒騎士はステイシア姿のアスナとそのまま唇を重ね合わせた。

激しい接吻を見たリーファは顏を赤くし、キリトに至っては――怒りの感情を支配された顔で、歯を食いしばり、手を剣にまでかけていた。

 

「アイツ……!」

 

「お、お兄ちゃん!?いったいどうする気……!」

 

「俺が突っ込んだ後、スグはアスナの方へ向かってくれ」

 

そういうとキリトは、黒騎士が再びステイシアに唇を重ねようとした所へ、目にも止まらぬ速さで突っ込んでいく。

その後、剣と剣によって散らされた火花と共に対峙する二人のキリト。

咄嗟に助けたステイシアをリーファに預けると、キリトは黒騎士姿のキリトと互いに向かって走り出し、剣と剣をぶつけあった。

 

 

――――

 

 

そして現在。

激しい激闘を繰り広げる二人の『キリト』。

二人の剣士は互いに片手剣一本だけでぶつかり合っている。

自分自身との戦いを互角で渡り合う二人、その表情は決して晴れたものではなかった。

キリトは鍔迫り合いをしながら、整合騎士のキリトへ言葉をかける。

 

「妙な気分だな。俺が、俺と同じ顏をした奴と戦ってるなんてな」

 

「ハッ!同じか……見てくれだけなら同じかもしれないが、一緒にしてくれては困るな。黒の剣士」

 

「なんだと?」

 

「お前はコイツが使えるかよ」

 

そういうと整合騎士のキリトは剣に力を込めて弾き飛ばし、剣の持ってない空いた手を前へ突き出す。

そして口にしたのは、キリトも知っているとある詠唱だった。

 

「―――システム・コール」

 

「ッ、神聖術!?」

 

キリトは整合騎士のキリトが口にした術式に驚く。

 

―――神聖術。

仮想世界・アンダーワールドで使える魔法のようなもので、熱や風などを生み出すことができる。

まさかALOのような他の仮想世界でも使えるとは思ってもいなかった。

整合騎士のキリトの掲げた手には風素と熱素を融合させた炎が生み出され、それをこちらの方へ向ける。

 

「ディスチャージ!」

 

その言葉と共に放たれた炎の本流がキリトへ向かって飛ぶ。

アレを直撃すればひとたまりもない事を悟ったキリトは、背中に羽根を出現させる。

地面を力一杯蹴り上げ、後方へ向かって跳躍をする。その瞬間、先ほどまでいた場所は爆炎に飲み込まれてしまう。

視線を空に向け、上空を飛ぶキリトの姿を見てため息をつく。

 

「やっぱり、お前も空を飛べるのか」

 

「まあな……だが、ここに来る前に多くの妖精たちを倒してきんだ。飛行対策はしているんだろ?」

 

「ああ、飛ぶ相手は初めてだったが面白い経験だったよ」

 

そういうと整合騎士のキリトは再び神聖術の詠唱を行った。彼の周囲に風が渦巻き始め、鎧を纏った身体を軽く浮かせる。

それを見たキリトは空に浮かんでいる整合騎士のキリトの絡繰りを見抜いた。

 

「なるほど、風素の神聖術で起こした風圧で飛んだのか」

 

「ご名答。本当は疲れるから一瞬だけの時に使っていたんだが、お前相手に出し惜しみしている余裕はないからな」

 

不敵な笑みを向けて、再び剣を向ける整合騎士のキリト。

対してキリトは特に表情を変えることなく、こちらも剣を構える。

二人にとっては場所が地上から空中へと変わっただけ、対して違いはない。

 

―――剣士と騎士、二人の黒い剣は再びぶつかりあった。

 

 

 

同時刻。

ぶつかり合う二人の『キリト』を追って、上空から探すアスナ、リーファ、シノン、ユイの4人。

リーファはステイシアの方のアスナを抱えており、ユイが心配そうに顔を覗かせる。

 

「……」

 

「ママ……」

 

「大丈夫だよ、ユイちゃん。もう一人のアスナさんだって、きっと強いんだから」

 

母と同じ姿をした女性の事を心配するユイに、リーファが元気づける。

一方、アスナの方はシノンと共に二人のキリトが何処へ行ったのか探していた。

 

「シノノン!そっちはどう!」

 

「……ダメ、こっちの方向にもいない!アイツ、一体どこに行ったの!」

 

「急がないと、キリト君が……!」

 

アスナはキリトの姿を思いながら、胸元に手をやりながら握る。

もう一人のキリトと対峙した際見せた、普段見せない彼の怒りの表情。

きっとステイシア姿の自分を傷つけたもう一人のキリトを許せないのだろう……同じ顏をしていながら、正反対の存在に見える、二人の黒の剣士。

今、あの二人は譲れないもののために刃を交えて戦っているに違いない。

愛する人の傷つく姿を見たくないアスナは、いち早く探そうとしようとしていた。

 

「私、もうちょっと先に行って探しに……」

 

「待ってアスナ!落ち着きなさいって!」

 

「シノノン?」

 

「聞いて、アスナ……確かにキリトの事が心配なのはわかるわ。それに私たちの前に現れたもう一人のキリトの事も気になるのも」

 

「だから早くキリト君を追いかけないと!」

 

「だけど、今あなたが焦ってはだめ。しっかりと肝を据えておくこと」

 

シノンはアスナに言い聞かせるように言葉を紡いでいく。

正直、アスナだけではなくリーファもシノンも、ユイだってこの状況を全て把握しているだけではない。

33番目の整合騎士と名乗るもう一人のキリト、目の前に現れたステイシア姿のもう一人のアスナ。

……普段なら考えられない状況だが、だからこそ落ち着きを失ってはいけない。

 

「今のキリトを助けられるのは、私達しかいないの。いっつもアイツに助けられてばかりだけど、今回はこっちが助けてもいいんじゃないかしら」

 

「シノノン……」

 

「どう、少しは冷静になった?」

 

「うん、ありがとう」

 

シノンの言葉を聞いて、冷静さを取り戻すアスナ。

その時だった、爆発音が聞こえてきたのは。

突然の事態にリーファが驚きの声を上げる。

 

「わわわっと!?な、なに!?」

 

「恐らくですが、あそこにパパ達が戦っているんだと思われます!」

 

「派手にやっていることわね。いくわよ、皆」

 

「うん!……待っててね、キリト君」

 

シノンは繰り広げられている戦闘の大きさに感心し、アスナは愛しの人の無事を願い、他のみんなと共に爆発音が聞こえてきた方向へ向かって飛んでいく。

 

―――その際、アスナのキリトという言葉に反応して、漆黒の剣を抱きしめるステイシアの指が動いたことにその誰しもが気が付かなかった。

 

 

―――気が付けば、いつの間にか"彼女"は真っ暗な空間を漂っていた。

右も左も、上も下もわからないその場所を水の中にいるように浮いていた。

このままこの暗闇に溶けて消えるのではないか、そう思ってた矢先……。

 

『起きるのじゃ』

 

謎の声が空間に響き渡る。

まるで頭の中に響いてくるかのように、その声は聞こえてくる。

"彼女"は弱弱しくも儚い声で声の主に尋ねた。

 

「……誰?」

 

『お前さんが目覚めないとお前さんの大切なひとが戻れなくなる』

 

「大切なひと……」

 

"彼女"はそう言われて、自分の中にある記憶を思い返す。

次々と大切な人の姿が彼女の脳裏を通り過ぎる。

 

 

リズ。

シリカちゃん。

リーファちゃん。

シノン。

クラインさん。

エギルさん。

ユイちゃん。

 

 

そして最後に思い出したのは、黒衣のコートを身にまとう、二刀流の剣士。

"彼女"は、―――"アスナ/明日奈"はその名を呟いた。

 

 

「キリト君」

 

 

アスナは思い出す。

自分は『彼を取り戻す』ためにステイシアアカウントを借りてアンダーワールドへやってきたのだと。

そこで記憶を奪われたキリトを取り戻すべく、最高司祭と名乗る者を対決、そして死闘の果て彼の愛用していた神器を奪ってなんとか逃れた……。

偶然か必然か、逃げていた先に謎の空間の歪みが現れ、そこへイチかバチか飛び込んだ。

 

―――目が覚めた時には、そこに広がっていたのは自分のよく知るALOの世界だった。

 

何故、アンダーワールドとALOが繋がっていたのか。

そんな疑問が浮かんだが、考えてもわからないし些細なことだった。

ALOにまで追いかけてきた彼から逃げていた……今、『これ』を渡すわけにはいかなかった。

逃げて、逃げて、逃げて……。

打開策を見つけるわけもなく、逃げたはて、誰かに助けられた。

そのあとの事は意識が朦朧としていたのはよく覚えていない。

 

キリト君との熱いキスが、よく覚えている。

ただ私で欲望を満たすように触れ合うキスでも、それでも拒めなかった。

私じゃ君は救えないのかな……もうダメかと思った、その時だった。

もう一人のキリト君が、私のよく知るキリト君が現れて助けてくれた。

なんでなのか……神様が施した奇跡なのか、それとも足掻いた末の結果なのか、理由はわからなかったが、私は無性に涙が出た。

私が取り戻したい君とは違っていても、キミがだれであっても、もう一度で会えた事が嬉しかった。

 

 

『お前が誰であろうと、アスナはアスナだ。俺の最愛の人で、大好きな人で、かけがえのない女性だ。……たとえ、おんなじ顏をした別人でも、俺は見捨てることはできない。あの時から守り抜くって決めたんだ!』

 

 

『なんでお前は俺と同じ顏をしている!?何故お前がアイツと一緒にする!?何故お前と同じ顔なのにアイツは……ステイシアはお前にあんな安堵した顏を向ける!?』

 

 

二人の想いの丈が、私の耳によく残っている。

もう一人の彼はキリト君と向き合った。

二人のキリト君は、おそらく今剣を持って戦っているんだろう。

だって君は、大切な人を守るためなら自分がどれだけ傷ついても構わない人なんだから。

 

―――だからこそ。

あの二人のキリト君を止めなくちゃならない。

 

 

その瞬間、アスナの揺蕩っていた空間の暗闇が真っ白い閃光に変わる。

二人のキリトの戦いを止めるべく、アスナは目覚めた。

 

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