斬魔の妖精   作:ベジタブル

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言いたい事いう時だけ饒舌になる主人公(キャラブレ)


10話「流れ星一つ」

▼トウヤ視点

 

俺は今、マグノリアの少し西に位置する、鳳仙花村というところの温泉旅館に来ていた。

東洋建築が居並ぶ風情ある場所で、観光地でありながら落ち着く雰囲気の小さな村だ。

 

セルバルドが消えて、1人ぼっちになってしまった俺は、修行をしながら旅をしていた。当初こそ、人里にたどり着く事を目標としていた訳だが、最初に訪れた村で、ドラゴンがいるなどと嘯き、奇妙な魔法――ナツのような火の魔法ならまだしも、腕を振るだけで大きな斬り傷が生まれる魔法など、本当に理解不能だったろう――を使う悪魔の子として迫害を受けてからは、定住の地を作る事を諦めてしまった。それからの俺は、セルバルドとの繋がりを滅竜魔法に見出し、鍛錬を積みながら各地を巡ったのだ。当時の楽しみといえば、これまたセルバルドが消える直前に言い残した鍛錬方法を忠実にこなす事で、着実に伸びていく力を実感する事だけであった。我ながら、思い返すと灰色の幼少期である。

途中、まだ卵だったアルマを拾い、その卵が孵ってからは2人旅となり、やがて『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に辿り着く訳だ。

そしてその旅の中で――確かあれはアルマを拾う少し前だったと思うが――ココとは別の東洋風の村に立ち寄った事がある。そこで、東洋文化の粋である刀の味(切れ味ではなく、文字通りの“味”である)を知る事になったのだが、俺はその時に東洋文化フリークとなったのだ。

『妖精の尻尾』所属になった後も、暇を見つけてはちょくちょくとこの鳳仙花村に来ては温泉に入ったり、小物を漁ったり、刀を買って味わったりしている。何を隠そう、俺の着ている羽織も全て、ここ、鳳仙花村で購入しているのである。

 

では、今この村に来ているのも、普段通りに遊びに来ているのかというと、若干事情が異なる。

今回は仕事で来ているのである。

厳密に言うと、仕事でやってきたのは近くにある砦で、そこを根城にしていた盗賊を討伐してきたのだ。

しかも、ナツ、ハッピー、グレイ、エルザ、ルーシィと一緒に、である。

何かとアルマと2人で行動しがちな俺ではあるが、ファントムを倒してからは、ルーシィなどに何かと誘われるようになり、この5人+2匹で行動する事が増えた。

 

これまでにも1度、一緒にクエストをこなしたが、その時に行ったのはなんと演劇。依頼文では、魔法による特殊効果の演出を求められていただけだったのだが、余りに不評が続いたせいで、役者が逃げ出してしまったという事実が分かると、ノリノリのエルザが役者もこなすと言い出したのだ。やりたかったのね。……ちなみに、俺もやりたかったのだが、あの微妙に失礼な物言いの監督に「キミ、顔怖いし、喋れないから使えないね」と言われ、問答無用で裏方に回らされた。これでもかというくらい大道具を作成してやっても「まぁまぁ使えるな」としかいわれなかった……

 

そんなこんなで、一仕事を終えた俺たちは、エルザの提案の元、鳳仙花村で一泊していく事にしたのである。

ちなみに、先ほど見かけて話したが、ロキも仕事でこちらに来ているようだ。

俺やルーシィを避ける時のアイツはいつも妙な挙動になっているが、最近は輪をかけて奇妙であり、ふとした瞬間に何かに思い悩んでいる様子を見せている。

避けられている俺では力になれないかもしれないが、心配である。

 

「ね、ねぇトウヤ。もしよかったら一緒に、村を歩かない?」

 

ロキについて考えていた俺にそう聞いてきたのは、浴衣姿のルーシィだった。

昼飯を食べ、クエストをこなした疲れを温泉で癒し……いや、盗賊相手にエルザ、ナツとそろった時点で過剰火力なので疲れてはいないが、兎に角、1度汗を流したとはいえ、まだ昼過ぎ。旅館での夕飯はまだ先だし、いろいろと店を物色するにはいい時間だろう。

こちらとしても断る理由が無いので快諾した。

それにしても……その、もうちょっと胸元を締めた方がいいと思う。

今にもこぼれそうで目のやり場に困る。

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

「あ、コレかわいい!」

 

小物屋の店頭に飾ってある簪を手に取って、髪にあててみる。

「どう?」と聞くと目を泳がせながら「……良いと思う」と答えるトウヤ。

相変わらず無表情だし、言ってる事もなんの捻りもない言葉だけど、本心から言ってくれてるんだなぁ、というのが不思議と分かる。だから少しニヤニヤしちゃう。

ナツやグレイにも話を聞いたし、普段から東洋風の羽織を着ていることから考えても、トウヤが東洋文化を好んでいるというのは間違いないはず。

浴衣+簪という組み合わせも効果があるに違いない。

あたしはママ譲りの――我ながら――綺麗な金髪だから、コスプレっぽくなっちゃうのが玉に瑕だけど、そこは色気でカバーよ!

現に、トウヤは少し大胆目に開けたあたしの胸元をさっきからチラチラと見ているもの。ちょっと、ううん、結構恥ずかしいけど、普段のカナの格好よりは肌面積小さいから、大丈夫、大丈夫。

 

「これは……?」

 

そう言ってトウヤが渡してきたのは、花の意匠が可愛らしい、淡い色の巾着だ。特有の布で作られており、肌触りが滑らか。サイズ的にも、普段ちょっとしたものを入れてカバンにしまっておくのに丁度いいだろう。トウヤのススメという事もあり、ぜひ買いたいのだが……

ちょっと高いなぁ……

今月も家賃ギリギリなんだよねぇ。元々この店に入ったのもウインドウショッピングのつもりだったし。

 

「あぁ、それも可愛い!色々あるなぁ……あ、じゃあじゃあコレは?」

 

と言って別の小物を取る。

ちょっと誤魔化し方下手だったかな?大丈夫だろうか?

残念だけど、ここは我慢だ。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

その後も色んなところを回った。

ただ静かに石畳の道を歩いたり。途中にいた居たお地蔵様に手を合わせてみたり、そのお地蔵様になぜか動物みたいな耳がついてるねって笑ったり。

木で組まれた橋の上から川の流れを眺めたり。どこから貰ってきたのか、その川にいる鯉のエサをやったり。

小腹が空いたって言いながら、刃物屋に入って刀を買ってきたトウヤが、軽食のノリでバリバリ齧りだすものだから、我慢できずに笑っちゃったり。

相変わらずトウヤの口数は少なくて沈黙の時間も多かったけど、それはそれで居心地が良いんだって事に気づいたりもした。

楽しい時間は早く過ぎてしまうもので、あっという間に辺りが暗くなり、もうすぐ夕飯の時間だ。

 

「そろそろ旅館、戻ろっか?」

 

最後にちょっと勇気を出して欲張ってみようかな……!

て、手をつないでみたりして……

そう思い、ゆっくり、ゆっくりとトウヤの手に自分の手を伸ばしていく。

しかし、その手が繋がれる事はなかった。

「あ」と1度声を出したトウヤが、「忘れ物した」と言って、来た道を走って行ってしまったからだ。

 

「え、ちょ、トウヤ?」

 

曲がり角を曲がって姿が見えなくなってしまう。

お、置いてきぼり……?

……酷くない?

ここで待ってればいいのかなぁ。

手を繋げなかった落胆も混じった溜息を吐きながら、近場で座れそうなベンチを探す。

そこに後ろから男の人の声がかかる。

あれ、トウヤ早かったなぁと思い振り返ると、そこに居たのはトウヤとは似ても似つかない、見るからにチャラそうな2人組の男たちだった。

 

「お嬢さん1人?」

 

「浴衣似合ってるね~?観光?」

 

うわ、ナンパだ。

それも古典的な。

 

「オレたちオシバナから来てんだけどっサ、いい店知ってんだよね。一緒に呑み行かない?」

 

「悪いけど、ツレを待ってるトコだから」

 

あくまで軽い感じで流すあたしだが、2人はそれでは引き下がってくれないみたい。

 

「君みたいなかわいい子、待たせるカレシなんてほっとこうよ~」

 

「そうそ、3人でファンキーな夜にしようぜ」

 

そう言ってあたしの後ろから肩や腰に手を回してくる男たち。

さすがにこれは、と思って無理やりにも手を解くために動こうとした瞬間、違和感に気づく。

――あれ、体が動かない!?

この2人、魔導士か!と、勘づくも時すでに遅し。

術中にはまって抜け出す事ができない。

 

(ヤバ……)

 

「遅くなった」

 

と、そこに帰ってきたトウヤの声が響いた。

あたしは、辛うじて動く首を何とか回して後ろを向く。

男たちの後ろから声を掛けながら、2人の間の位置に立つ。肩に手刀の形で1度触った後、それを倒すようにして肩を掴み、強引に人壁を割る……いや、()()()()

 

「トウヤ!」

 

空いた隙間からトウヤの方に走って、そのまま飛びつく。

目を丸くしながらも受け止めてくれたトウヤの温もりに、先ほどまで不安で凍っていた心が溶けていく。

 

「な、何で……!?」

 

「何しやがったテメェ!?」

 

2人組の瞠目した様子を見て、心だけでなく、動きを阻害していた魔法までも氷解している、と気づく。

あ、そっか、手刀を肩に置いた時に、アイツらの魔法を斬ってたんだ。

また、守られちゃった。

あの……「俺が守る」って本気なのかな?

 

「行くぞ!」

 

それを合図に駆け出すあたし達。

逃げ出すとは思っていなかった男達は初動が遅れたせいで追いつけない。

何度もこの村に来ているらしいトウヤの土地勘も相まって、いくつかの角を曲がった時には、追手の影は消えてしまっていた。

息を整えながら、旅館までの道を歩いていく。

 

「あっ」

 

手、繋いじゃってる。

駆けだした時に、トウヤが掴んでくれたのだろう。

 

「す、すまない……」

 

あたしの視線がつながった手の平に向かっているのに気づいたのだろう、トウヤが謝って手を放そうとしてくる。

 

「ううん……旅館まであと少しだから」

 

そんなの勿体ないよね。

いざ繋いでしまえば勇気が湧き出てきて、あたしはトウヤの手を掴む力を強める。

トウヤは1度周りを見回す素振りをした後、「そ、そうか」と言って、ぎゅっと掴み返してくれた。

 

「あの、これ……」

 

心なしか顔を赤くしてくれている彼が、繋いでない方の手を懐に入れて小さな袋を取り出し、そのまま差し出してくる。

 

「え?なに、これ?開けていい?」

 

頷くのを確認した後、トウヤの持っている袋に手を突っ込んで中身を取り出す。

それは最初に行った店で見た巾着袋だった。

 

「欲しそうに見てたから」

 

も、もう……こんなの反則だよ。

 

「大事にするね……!」

 

巾着をしっかりと抱え、反対側でもう一度ぎゅっとトウヤの手を握る。

その後、旅館に入るまでの間、2人は一言も話さなかった。

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

「始めんぞーーーーっ!!」

 

と言って枕を掲げるナツとハッピー。

ルーシィと旅館に戻ってきてすぐに夕飯を食べ、ひとまず一服……と思っていたが、枕投げが始まるようだ。

正直さっきまでのルーシィとの空気を引きずっていたので、気分を変えるにはよさそう。

あの、さっきまでのは、その……デートでいいんだよな?

初めての経験で緊張しっぱなしだった……

 

「ふふ、質の良い枕は私が押さえている……この勝負、私が貰った」

 

相変わらず、妙なところでノリノリなエルザだ。

両手に5つもの枕を抱えている。

 

「俺はエルザに勝―――つ!!」

 

先手必勝とばかりにナツが投げた枕の狙いはエルザだったが、彼女は飛び上がり逃れてしまう。ぶつかる先を失った枕はそのまま飛んでいき、寝る体勢に入っていたグレイの顔面に突き刺さってしまう。

最初はやる気のなかったグレイだったが、こうなると黙っていない。

 

「ナツてめェ!!」

 

俺はと言えば、エルザの着地のタイミングを狙って枕を放る。

しかしエルザはこれにも反応。

手に持っていた枕で飛んできた枕を弾き、ナツの方へ飛ばす。

 

「甘い!」

 

「ほげ!?」

 

こうして戦いは乱戦へともつれ込む。

ちなみに、ルーシィは流れ弾に吹き飛ばされて早々に場外となり、ハッピー、アルマと共に旅館の外へ避難してしまった。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「んん……」

 

結局枕投げの勝者は、男子3人の意識を刈り取ったエルザとなった。

俺も何とか最後にまで残ったが、魔蔵(まくら)の鎧の纏ったエルザのマシンガン枕の前に成すすべなく気絶してしまった。

いや待て、魔蔵の鎧ってなんだ?

夢と現実がごちゃ混ぜになってないか……?

まあいいや。

そんな訳で一時気を失っていた俺だが、他の2人よりは先に目が覚めたようだ。

ついでに布団を敷いて、グレイとナツを寝かせておこう。

ちなみに、ルーシィ&猫ズはまだ戻っていないようだ。

 

「ん、起きたかトウヤ」

 

そうやって男2人の世話を焼いていると、縁側で涼んでいたらしいエルザに声を掛けられる。

ささっと目的を済ませてしまい、俺もエルザの隣に腰掛ける。

 

「ふふ、久しぶりにお前に勝てた気がするぞ、トウヤ」

 

「参った」

 

魔法込みの勝負だと、エルザの得物全てを封じてしまう俺に軍配が上がりやすくなる。しかし、素の身体能力では一歩劣ってしまうようだ。それに、いざとなったら、素手でも魔法込みの俺に勝ってしまいそうなのがエルザという女だ。

まったく、嫌になるね。一応滅竜魔法ってのは、肉体自体を変質させて、戦闘に特化したモノに作り替える効果も持つはずなんだがな。それが素の力で負けるって、どんな化け物だって話だ。

エルザと俺はナツやグレイの顔を見て、少しの思い出話に浸る。

あの時はこうだった、実はそうだった、などと笑いあう。

この4人の中では『妖精の尻尾』に入ったのが一番遅かったのは俺なので、3人にまつわる俺の知らない話も飛び出してきた。

やがて話の種も尽き、少しの沈黙が降りる。

すると、ふと月を見たエルザの横顔、その左目が揺れているのに気づく。

 

「こうして静かになると…急に不安になる事があるんだ」

 

「エルザでも?」

 

「茶化さないでくれ」

 

1度こちらを見てから、ゆっくりと視線を地面に落とす。

 

「私は……本当は凄く弱い女だ」

 

それは……どうだろうな。

正直俺には分からない。

『妖精の尻尾』にいるエルザはいつだって強い(ひと)だった。

それがただの鎧だったなら、(かこ)の彼女がどんな人か、俺は知らないという事になるのだろう。

 

「鎧で自分の身を固めていないと、怖くて前に進めなくなる」

 

でも、それでもいいのだと思っている。

全てを知らなくても、今を知っている。

隠している事があっても、喋れるようになるまで待てばいい。

それが仲間の仕事なんじゃないだろうか。

 

「詳しい事は言えないが、私には…そうだな……置いてきてしまったモノがあるんだ」

 

「……そうか」

 

「それを取りに帰るには強さが足りない。でも、安穏と生きていくにも、置いてきたモノがあまりに大きかった……どっちつかずだ。私は本当に弱いな」

 

それの何が悪い。

1人でなんでもできる程強いというなら、仲間なんていらない。

ギルドなんて必要なくなる。

 

「いいよ、弱くて……」

 

「いや、それでは……」

 

そうじゃないよ、エルザ。

 

「置いてきたモノ、取りに行こう」

 

「!」

 

「それがどこにあるのか知らないけど……厚い壁があるならナツが砕いてくれる。高いところにあるなら、アルマとハッピーが翼になってくれる。地中深くにあるなら、ルーシィが星霊を呼んで掘り進めてくれる。鍵のかかった部屋にあるなら、グレイがカギを作ってくれる」

 

そうやって進んでいけばいい。

 

「鎧を脱ぎたいのに、怖くて脱げないと言うのなら……俺が代わりになるよ」

 

知っているだろう?

この鎧はジュピターですら壊せないんだぞ。

 

「だからエルザは、俺たちが茨に囚われた時、それを斬り裂く剣になって助けてくれ」

 

「お前が鎧で、私が剣、か……」

 

「面白くていい……」

 

「そうかもしれないな」

 

俺は夜空を見上げる。

エルザもつられて顔を上げる。

そこでは、いろんな星がいろんな色の光を放って、一つの夜空を作っていた。

 

「たった1人で進んでいける(さみし)い人なんていなくていいんだ」

 

夜空からエルザへと視線を移した。

 

「お前は1人じゃないんだぞ」

 

エルザの左頬に一筋の光が流れる。

 

「私は……本当に良い仲間を持ったな」

 

その時、夜空で星が1つ流れた。

その光は、エルザの涙を流せない右の義眼に映り込み、涙のような煌めきを作った。

 

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