斬魔の妖精   作:ベジタブル

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12話「楽園の塔」

▼ルーシィ視点

 

トウヤとアルマがいないという事実に気づくも、現実的にもうどうする事もできない。

エルザのピンチに駆け付けられなかったって凄く自分を責めるんだろうけど、こればっかりは仕方ないからなぁ……

蚊帳の外にしてごめんねって謝らないとね、勿論、エルザとハッピーも連れて!

どうしようもない事でうだうだ考えても仕方ないから、と海の中から地下の入り口を見つけたジュビアの手引きで塔へ侵入した。

そこで見張りの兵士に見つかってしまい、交戦するハメになったが……

 

「火竜の鉄拳!」

 

「キャンサー、お願い!」

 

水流斬破(ウォータースライサー)!」

 

「アイスメイク“大槌兵(ハンマー)”!」

 

魔法の使える人はいなかったみたいで、そうなるとあたし達の敵ではない。

対して、この塔の主――襲撃犯たちはジェラールと呼んでいたが――は一筋縄ではいかない人物らしい。

あたし達が最後の見張りを片付けたのと丁度同じタイミングで、塔内部へ上る梯子の先の扉が開かれたのだ。

ジュビアの見立てでは魔法で遠隔操作しているとの事だが、つまりは塔内部の事を完全に把握していて、しかも“上ってこい”と挑発する余裕まである、という事だろう。

 

「そんなの関係ねぇ!ハッピーの匂いはあっちだーー!!」

 

「ちょ、ナツ!?」

 

しかし、そんなジェラールの不気味な態度もナツには効果がなかったらしく、「待ってろハッピー!四角野郎ーー!!」と駆け出す。

 

「あンのバカ炎が……!」

 

と、グレイが顔を覆って嘆息する。

しかも、その大声が悪かったのか、ナツが走り去った通路とは別のところから衛兵が駆けつけてきた。

 

「キリがないですね……」

 

とジュビアが手を構えたその瞬間、ズババッという音がして、なぜか兵士たちが倒れてしまう。

何事かと身構えたあたし達の前に、兵士たちの隙間を縫って現れたのは緋色の髪の女騎士だった。

 

「エルザ!?無事だったんだ!!」

 

「お前たち、なぜここに……!?」

 

驚いているのはコチラだけじゃなかったらしい。

でも、エルザがあたし達の登場にビックリするのはおかしいと思うな。

 

「なんでって…当たり前でしょ!目の前で攫われたエルザを放っておける訳ないよ!」

 

「そ…れは……」

 

あたしの言葉にエルザの整った顔が、悲痛そうに歪む。

 

「そうだぞ、エルザ。んなつまんねぇ事聞いてんじゃねぇよ」

 

「ジュビアも…その……」

 

その声を聞いてようやくジュビアに気づいたのか、苦しそうだった顔を、意外なものを見た、という顔に変えるエルザ。

そして、更に何かに気づいたように辺りを見回す。

 

「そういえば、3人だけか?」

 

「いや、トウヤとアルマはホテルだ。ナツが匂いを追える内にと思って焦って出てきたからな、連絡しそびれた」

 

「ではナツとハッピーは?」

 

「ハッピーさんはエルザさんと一緒に攫われています。それで、ナツさんはこのフロアに入った途端にハッピーさんの匂いのする方へ走って行ってしまいました……」

 

ナツがいない理由を聞くと、「くっ」と焦ったような顔になる。

 

「だからエルザ、ナツとハッピーに早く合流して、すぐにこの塔から出よう?」

 

あたしの提案を聞くと、エルザはあたし達に背を向けてしまった。

 

「それはできない……」

 

「なんで!?」

 

「この塔は危険なものだ。私はこの塔の頂上で待つジェラールを止めねばならない」

 

危険……?

ただの塔じゃないって事?

 

「何が危険なの?それに、ジェラールって誰なの……?」

 

「これ以上は話せない……これは私の問題だ。ナツとハッピーは私が必ず連れ帰る。だからお前たちはここから離れていてくれ」

 

何言ってるのエルザ?

そんなの出来っこないよ!

 

「エルザ、これはお前の問題なんだな?」

 

グレイ!?

まさか、こんなエルザを放って帰ろうっていうんじゃないよね!?

 

「ああ、そうだ」

 

「そうか……なら、()()()()()()()()()()()

 

「!」

 

そうだよ……そうだよね、グレイ!

 

「どんな危険があるのか分かんないけどさ、力になるよ、絶対」

 

ファントムの時は助けられてばかりだった。

でも、あの時とは違う。変わってみせる。

 

「今度はあたしがエルザを助けるよ!」

 

隣でジュビアが頷いているのが見える。

まだ『妖精の尻尾』に入った訳じゃないけど、きっと、こんなエルザをほっとけないって気持ちはあたし達と同じなんだろう。そういう意味では、今のジュビアなら、『妖精の尻尾』でも絶対上手くやっていけると思うな。

ぎゅっと拳を握ったまま、こちらを振り返らないエルザの肩が震え始める。

「……私は1人じゃない、か」と、そう呟くと、身体をもう1度反転させる。

 

その左目には、煌めく粒が浮かんでいた。

 

「助けて欲しい。私に力を貸してくれるか……?」

 

そう言ったエルザの表情は、今までに見た事もない程儚いもので、風が吹けば消えてしまうんじゃないかと思う程だ。

こんな…こんな表情をエルザにさせる何かが、この塔に、ジェラールってヤツにあるとするなら、あたしは絶対許せない!

 

「当たり前だよ!」

 

エルザの泣き顔に一瞬動揺したグレイも、「おう」と口角を上げる。

 

「で、具体的にこの塔は何なんだ?」

 

「そうだな…協力を頼む以上、話しておかねばならない……」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

斬魔の妖精 トウヤ・グレイス。

単刀直入に言う、お前の力が借りたい。

いきなりの手紙で何事かと思っただろうが、まずはオレたちの話をしておこう。

オレの名はシモン、とある島で楽園の塔と呼ばれる、死者を蘇らせる魔法の塔を建設するために、黒魔術を信仰する教団によって買われた奴隷だった男だ。

その塔では老若男女問わず、多くの奴隷が働かされていた。

その中にオレ、そして幼き日のエルザがいたのだ。

オレとエルザ、ミリアーナやウォーリー、ショウ、そしてジェラールという6人の年少奴隷達は、毎日毎日教団員に体罰を受けながらも、負けてなるものか、と互いを励ましながら兄弟のように育ってきた。

そんなある日、6人の中でも特に幼かったショウが、塔からの脱走を提案したのだ。そこからは当時からリーダー格だったジェラールを中心として、計画を練った。

だが、その計画は失敗に終わってしまう。

牢からは逃げ出せたものの、すぐに教団員達に見つかってしまったのだ。

その後、立案者だと決めつけられたエルザが拷問を受けてしまう事になった。帰ってきたエルザの体はボロボロで、右目を失ってすらいた。

更に、今度はエルザを助けに行ったジェラールが入れ替わりに拷問されてしまう事となる。

地獄だった。

だが、いや、だからこそだろう。

エルザは立ち上がった。

全ての奴隷を引き連れて反乱を行ったのだ。

途中、ロブ爺さんという俺たちに良くしてくれた人が死んでしまった事をきっかけに、エルザは魔法にまで目覚め、この反乱は成功する事となる。

この時の彼女は、それまでのただのか弱い少女ではなく、強い、誰かの為に戦える戦士に変貌していたのだと思う。

が、変わってしまったのはエルザだけではなかったらしい。

結果から先に言うと、島から出られたのはエルザただ1人だった。

外に出るのに使おうと考えていた教団の船が1つ残らず爆発したのだ。

「エルザは魔法を正しく習得できなかったせいで、その力に酔ってしまった。だから弱かった頃の象徴である自分たちを消すために爆弾を仕掛けた」とジェラールは言った。

そんな訳がない。絶対にありえない。

恐らくは、ジェラールの自作自演だろう。

しかし、ジェラールがエルザの裏切りに気づいたから爆発する船から離れられたのだと恩を感じていた他の元奴隷たちは、そのジェラールの言葉を鵜呑みにしてしまった。

ジェラールも変わってしまったのだろう。エルザとは真逆の方向に。

きっと、激しい拷問に心が耐えられなかったのだ。

ジェラールの変化の証拠に、塔の建築はその後も続けられた。

言葉巧みに元奴隷達を操ったのだ。塔を作る事で、自分達を虐げてきた人々に復讐し、そして、安穏と生きる全ての人々を支配する事ができる、と。

確かに、教団員がいなくなって、強制労働も、体罰も拷問もなくなった。自由が増えて、食事も豊かになった。

しかし、そこにエルザの、そしてかつてのジェラールの姿はなかった。

これがオレたちの過去だ。

 

そして現在、楽園の塔は完成しようとしている。

ジェラールは「あとは生贄を用意するだけだ」と言っていた。

そして、その生贄として選ばれたのがエルザだ。

俺たちはそのために、エルザを連れてくるようジェラールに命じられた。

だが、俺はここである計画を立てた。

それは、エルザをできる限り派手に、今の仲間たちの前で攫うことで、塔に強大な魔導士を招き入れるという事だ。そして、その全員でジェラールを叩く。

ジェラールが蘇生しようとしているのは“黒魔導士ゼレフ”。

まともな魔導士、それもエルザの仲間ならば協力してくれるだろうと思っての事だ。

そして、この計画に魔法すら斬る事ができるお前は必ず必要になる。

お前がエルザと共にアカネビーチに来ると聞き、お前だけは何としても引き入れねばならないと、筆を執った。

万が一にも塔に来ない、などという事が無いように、お前の部屋に置いておく事にしたのだ。

どうか、ジェラールを止めてくれ。

そして、エルザを助けてくれ。

 

 

これが手紙の内容であった。

海図とコンパス、塔に行くための舟の置かれた場所のメモが同封されていたが、舟に乗っても仕方がないと、海図とコンパスだけをアルマに渡し、俺は昼間着ていた水着に着替えた。

すぐにホテルを出て、アルマの(エーラ)で海上を飛ぶ。途中疲れてくると交代し、俺が海を泳ぎ、アルマはその背に乗る。

これを繰り返しながら塔に向かうしかない。

シモンが3隻用意したという船が2隻になっていたことから、おそらくナツたちも塔へ向かっているのだろう。

待ってろ、エルザ……今行くからな。

 

 

 

 

▼エルザ視点

 

「ジェラールにショウ達の命を人質に取られていたとはいえ、1人だけ外の世界へ行き、8年も皆を放置した事実は変わらない。だから、ここで私がジェラールを倒す」

 

償いになるだなんて思ってはいない。

しかし、誰かがやらなければならない事で、私がやるべき事だ。

本当は今もルーシィ達を巻き込みたくないという思いがある。

だが、私の問題は自分達の問題だと言ってくれた人がいる。力を貸すと言ってくれた人がいる。私の鎧になってくれると言ってくれた人がいる……今はいないが。

まったく、しまらん男だな……ふふ。

でも、勇気は貰った。

ジェラールとの対峙を譲るつもりはないが、そこまでの道は頼れる仲間たちにお願いしよう。

ひとまずはナツと合流するところからか。アイツは何をしでかすか分からんからな。ここぞという時の爆発力は本物なのだが。

と、そこに新たな足音が響いてくる。

 

「その話…ど、どういう事だよ、姉さん……?」

 

ショウ……

この島に連れてこられた当初、私は地下牢に入れられており、そこで監視をしていたショウを気絶させてここまで来た訳だが、すでに目覚めて私を追ってきていたのか。

 

「ジェラールは…ジェラールは、姉さんが俺たちを無かった事にするために爆弾を仕掛けたって!姉さんが裏切ったんだろう!?」

 

私は彼になんと声を掛けるべきなのだろうか。

きっと、ショウにとって、ジェラールの言葉は一種の救いだったのだろう。

私が消えて、船が爆発したという事実がある。

信じていた私に裏切られたと思ったショウが、ジェラールだけを頼りにこの8年を生きてきたなど、想像するに難くない。

そんなショウを置いて、私は『妖精の尻尾』で新たな仲間たちと過ごしてきた。

私に「裏切った」という言葉を否定する術はない。

 

「あなたの知ってるエルザはそんな事する人だったの?」

 

ルーシィの言葉にハッとするショウ。

ルーシィはいつも助けられてばかりだと言うが、私はお前の明るさや、優しさに何度も救われているんだぞ?

それは、私にはない強さだ。

 

「じゃあ…じゃあ!姉さんの言葉が正しくて、間違ってるのはジェラールだって言うのか!?」

 

と、更に新たな人物が姿を現す。

 

「……そうだ」

 

そう肯定したのはズンズンと足音を響かせながら歩いてきたシモンだ。

どうしてここに……?

い、いや、それよりもどうして先ほどのショウの言葉を肯定できるんだ!?

 

「お前もウォーリーもミリアーナも、みんなジェラールに騙されていたんだ。俺もこうして気が熟すまで騙されたフリをしてきた……」

 

騙されたフリ……

8年間顔も見せなかったんだぞ。私は?

 

「俺は初めからエルザを信じていた……8年間ずっとな」

 

あぁ……

シモン……ありがとう。

そのまま真っ直ぐに私の前までやってきたシモンは抱擁を求めてくる。

当然それを受け入れ、私もシモンの背に手を回そうとする。

しかし、シモンの巨体ではそこまで手が回らない。

大きくなったんだな、シモン。

8年か……それだけの時間があればこんなに変わるものか。

いや、でも、きっとこの温もりは変わっていない。

 

「会えて嬉しいよ、エルザ」

 

「私もだ、シモン……」

 

少しの間そうしていると、近くで誰かが崩れ落ちる音がする。

抱擁を解いてそちらを見ると、ショウが嗚咽を漏らして泣いていた。

 

「どうして…俺は姉さんを……信じられなかったんだ……!」

 

何を言ってやればいいのかは、やはりまだ分からないが……言いたい事は言っておこう。

ショウの近くまで行ってしゃがみ、泣いているショウの頭をそっと抱きしめる。

 

「大分雰囲気が変わったと思っていたが、泣き虫なのは相変わらずか?」

 

「姉さん……」

 

「……私はこの8年、お前たちを忘れたことなど1度もなかった……だが、何もできなかった…私はとても弱くて……」

 

でも、そんな私はもうおしまいだ。

 

「ショウ…もし、こんな私でも信じてくれるなら……お前も力を貸してくれ。私たちの力でジェラールと戦うんだ」

 

その言葉を引き継いだのはシモンだ。

 

「まずは火竜(サラマンダー)とウォーリー達が激突するのを防がねば。ジェラールと戦うにあたって滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は大きな力になる。できるだけ消耗を減らす必要がある」

 

 

 

 

▼三人称視点

 

そんな風に言われていたナツだったが、現在ネコグッズまみれの部屋にて、絶賛交戦中であった。

 

「秒間32フレームアターック!」

 

自分の体を四角く分解させて高速でぶつけるカクカク男、もといウォーリー・ブキャナン。

その攻撃を逃れたナツの元に猫娘改めミリアーナの魔法が迫る。

 

「ネ拘束チューブ!!」

 

名前こそファンシーだが、効果は凶悪で、相手の身動きを封じた上で、魔力の放出をも防ぐのである。ナツが捕まってしまえば、炎が出せなくなるのは勿論、滅竜魔法由来の卓越した身体能力も発揮できなくなってしまう。

その事は知らないまでも、危険性は感じ取ったナツが横へ転がり、間一髪で避ける。しかし、長年ともに過ごした2人のコンビネーションは、更なる追撃を放つ。転がっている最中に放たれたウォーリーの銃弾にはさすがのナツも反応することができず、顔面に食らってしまい、後方へと吹っ飛ぶ。

 

「ぐおっ!?」

 

吹っ飛びながら、ナツはウォーリーとミリアーナのコンビプレイに対して、やりにくい相手だと感想を抱くが、ウォーリーの方は、銃弾受けて吹っ飛ぶだけってどういう事だ、などとと考えており、むしろ攻撃を当てた方が追い込まれている心持ちであった。

このままではまともなダメージが入らないと感じたウォーリーは、1度ミリアーナに拘束してもらってからトドメを刺すべきだと作戦を立てる。

その旨をアイコンタクトでミリアーナに伝えると、すぐに体をバラバラにしてナツの周囲を包む。

全方位を囲まれてはナツも対処に手間取り、その場に落ちていたネコの巨大ぬいぐるみを振り回したりしながら、突進してくるウォーリーの一部を打ち落としていくが、どうしても一瞬の隙が生じてしまう。

その間隙を狙ったミリアーナのチューブがナツの右手をとらえる。

 

「なんだ!?急に魔法が使えなくなった!!」

 

1度巻き付いてしまえばあとは早い。

みるみる内に、右足、左腕と巻き付けられていき、終いには腕ごと胴をグルグル巻きにされてしまうナツ。

そこにウォーリーが銃口を突き付けてくる。

さしものナツも、魔法なしで銃弾を受ければ致命傷となるだろう。

万事休すかと思われたその時、高く愛らしい声が響く。

 

「ナツーーー!!」

 

隣の部屋でナツが敵と闘っている事に気づいたハッピーが、飛んでやってきたのだ。そのまま、ナツを仕留める前に決め台詞を言おうとしていたウォーリーに体当たりをかます。

 

「ハッピー!!」

 

無事だったかと喜ぶも、依然として拘束されたままで、魔法も使えないという状況は変わっていない。

 

「ハッピー、ネコ女の方を頼む!」

 

「あいさー!」

 

この部屋の主であると予想されるミリアーナにハッピーを当てる事でかく乱を狙ったナツの作戦は見事に嵌り、「ネコネコが飛んでるー!天使のネコネコ?」と夢中でハッピーを見つめるミリアーナ。

集中が乱れたせいか、ナツの拘束が緩み、しかもそのことにウォーリーとミリアーナは気づいていない。それどころか、ハッピーを撃とうとしているウォーリーを見たミリアーナが「ネコネコをいじめないでー!」と仲間割れをはじめている。

 

「おっし!」

 

「いけー、ナツー!」

 

ナツのつぶやきに反応したハッピーだけがミリアーナの元を離れる。

その動きを見てようやくナツが拘束から抜け出している事に気づく2人だが、もう遅い。

 

「火竜の翼撃!!」

 

突き出した両手から炎を噴出し、隙だらけの2人を吹き飛ばしてしまう。

 

「四角野郎にリベンジ完了だー!」

 

「やったねナツー!」

 

パァンとハイタッチするナツとハッピー。

しかし、完全に意識を失っているミリアーナとは異なり、ウォーリーは辛うじて体を動かせるようで、立ち上がろうとしている。

 

「オレたちは楽園へ行くんだ…真の自由がある世界、人を支配できる世界へ……こんなところで負ける訳には……」

 

だが、やはり体は限界を迎えていたようで、震えながらも持ち上げた膝が崩れ落ちてしまう。

ナツはそんな様子を見ながら、「自由な~」と考える。

そして、口を開こうとしたその時、部屋中にナツの顔程もある大きな口が無数に現れる。

当然ナツの口がいきなり増えた訳ではない。

 

「なんだぁ!?」

 

「何コレ!?キモチわるいよ、ナツ!!」

 

その口から話すのは、この事件の首謀者たる男だ。

ねっとりとした、悪意を煮詰めたような声が辺りに響く。

 

『ようこそみなさん、オレはこの塔の支配者、ジェラール……』

 

「なんだこれは……ジェラール?」とウォーリーですら困惑の声を上げている。

当然ナツとハッピーも訝しげな目で、口の1つに近づいて睨みつけた。

巨大な口は、そんな様子などお構いなしとばかりに続ける。

 

『互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか……楽園ゲームを』

 

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