▼三人称視点
猫まみれの部屋で、ウォーリーとの問答を終えたナツの前にシモンが現れる。
カジノ襲撃犯の中では、自分に攻撃したウォーリーにしか目が行っていなかったらしく、シモンを見て「誰だ、コイツ?」という顔をするナツと、事情を知らないが故に未だに敵側の存在だと勘違いしたまま警戒を露にするハッピー。
「ナツ、コイツあの四角の仲間だよ!」
なら喧嘩を売りに来たのか?と思うも、待て待てというように手を突き出しているシモンの様子を見るに、どうもそういう訳ではないらしい。1度握った拳を解く。
「今は味方だ……そこに倒れている2人もそうだが、オレとエルザは幼い頃をここで過ごした仲間だった」
驚きの事実だと驚くが、ならなぜエルザを襲ってきたのか、ここでナツとウォーリー達が闘ったのか、という疑問が湧いてしまう。
「今は味方ってどういう事?」
と、代表してハッピーが聞いてくれる。
「カジノを襲った他の3人はジェラールに騙されて、エルザを1人でこの塔を出た裏切者だと信じ込まされていたんだ。オレだけはエルザを信じていたが、ジェラールを倒すには力が足りなかった」
ジェラール……さっきのいけ好かないヤローか、と思い返して炎が揺らめく。
エルザを生贄にするなどと抜かす男への怒りがこみ上げてきたのだ。
「だからこうして、魔導士が多く集まる機会を待っていた。その全員でジェラールを攻撃しようとな……だが、結局それすら見越していたジェラールに刺客を放たれ、みなバラバラにされてしまった。おそらく、このままではエルザ1人でケリを付けに行ってしまうだろう」
助けてくれるか、とは聞いてくれたんだがな……と複雑そうに言うシモンだったが、ナツやハッピーにはエルザが1人で行く事の何にそんなに悩んでいるのか分からなかった。
もしや、コイツもあのヤローをぶん殴りたいのだろうか?その機会をエルザに奪われる心配をしているのか?と的外れな予想まで立てている。
「でもエルザなら大丈夫だよ!」
『妖精の尻尾』のエルザに対するその全幅の信頼は尊いものだが、単純にエルザが強いというだけでは解決できない関係性が、エルザとジェラールの間にはあると、そうシモンは考えていた。
「いいや……エルザではジェラールには勝てない」
その言葉には黙っていられなかったナツは、シモンの胸倉を掴んでしまう。
グイッと引き寄せて、威嚇するように叫ぶ。
「エルザをバカにしてんじゃねぇ!!」
が、逆にシモンもナツ以上の熱量を、眼帯のついていない片目から発して、ナツのマフラーを掴んだ。
その剣幕にナツも押し黙る。
「
そして、と言葉を続ける。
「ジェラールはそれすら利用する狡猾な男だ……それに、もうすぐエーテリオンが落ちる。エルザなら、それを利用して道連れにするとでも言いかねん……アイツを知るなら想像がつくだろう?」
「何!?」
エルザの因縁なら自分が出しゃばるまでもないのではないか、そう思っていたナツだったが、エルザが死ぬ気かもしれないとすれば、そんな事を言っている訳にはいかない。
「お前がジェラールを倒し、エルザをエーテリオン発射の前にこの塔から連れ出してくるんだ!……俺ではジェラールには勝てない……頼む、エルザを助けてくれ!」
この通りだと深く頭を下げるシモン。
ナツの位置からでは、その顔を伺い知る事ができないが、忸怩たる思いで歪んでいる事くらい簡単に想像がつく。
「ハッピー!」
「あい!」
「行くぞ!!」
言葉少なにやり取りを交わし、部屋の窓から身を乗り出させる。
その背中にハッピーが捕まり、翼を生やして飛び立った。
部屋には、ナツが出ていった後も頭を下げ続け、「頼む、頼む」と懇願を続けるシモンの声が響いていた。
一方、空からショートカットで頂上に向かおうとしていたナツ達だったが、そう上手くはいかなかった。
ある程度進んだところで、空中に巨大な結界が張られている事に気づいたのだ。
当然何度か体当たりを行い、破ろうと試みたのだが、これを無理やり壊すなら、早く中に入って、上がっていった方が早い、と結論づけた。
――エーテリオン発射まであと20分
▼エルザ視点
「期待外れどすなぁ、エルザはん……」
この女、強い……!
先ほどから、新たな鎧を纏う度に斬り捨てられてしまっている。
どんな硬度、性質の鎧を身に着けても、コイツの刀の前では歯が立たない。
今も、私の保有する中で最高クラスの堅牢な守りと、装着者の膂力を何倍にもする最強候補ともいえる煉獄の鎧を纏っているが……
「ぐはっ!?……ハァ…ハァ……!」
粉々に砕かれてしまう。
全て細かいものではあるが、私の体は既に傷だらけで、血もそこそこの量を流してしまっている。
「うちに斬れないものはありません……欲を言えば、おたくのとこの斬魔はんを斬ってみたかったんやけどなぁ」
斑鳩の剣筋は、見えなくはないといった程度のものだ。
が、実際には反応できないでいる。
純粋な迅さはもちろん、巧さでもあちらの方が上なのだろう。そうでなければ、こうまでいい様にやられはしないし、何より同じように振ってぶつかった剣が、私の方だけ折れるなどという事にはならない。
それにしても、トウヤか……
確かに、なんでも斬れるトウヤと、この女の剣は似ているかもしれない。
格好的にも羽織と着物で共通性があるしな。
だがまぁ……
「お前ではトウヤは斬れんさ……アイツは私より強い」
トウヤだけじゃない、『妖精の尻尾』の誰もが、私より強い心を持っている。
だが、それに比べて、私は本当に弱い……
いつもいつも硬い
鎧が私を守ってくれると信じていたのだ。
でも、そうじゃなかった。
だから、この女に全て砕かれてしまったのだろう。
きっと、私はこいつとの対峙の仕方を間違えたのだ。
何をも斬り裂く剣を振るう相手に、鎧など纏っていてどうするんだ。
当たれば斬られるというなら、当たらなければいい。
必要なのは
身軽さ、柔軟さ、鋭さ、集中力、そして何より――覚悟だ。
「……敵わんからって、捨て鉢にならはったん?」
私が次に換装したのは、鎧ではなく、ただの装束。
何の魔力も持たないサラシと紅い
手には二振りの刀を持ち、後ろで髪を縛っている。
初めにこの衣装を用意したとき、使う時など来ないと思っていた。
それをまさか、ここぞという時に使う事になるとはな……
「違う……今更になって気づいたのだ」
「なんにどす?」
「私を守っていたはずの鎧は、実際には壁でしかなかったという事にだ……
「…………」
「
力を借りるぞ。
そう思えば、もう尽きそうだと思っていた気力が再び湧いてくる。
「下らんなぁ。そんなんで強くなれたら世話あらしまへん」
そうだろうな……お前たちには分かるまい。
人と人の繋がりを絶つ事を専門に受け持つ、暗殺ギルドではな……!
「覚悟ォ!!」
そう言って、これまでで1番のスピードでもってこちらに飛び込んでくる斑鳩。
だが――見える、反応できる……身体が軽い!
時間が遅くなったようにすら感じる。
こちらも走り出して迎え撃つ。
――もう迷いはない。私の全てを強さにかえて討つ!
音も色も消え失せて、斑鳩の一刀、私の二刀、この三点だけに集中する。
凛、という音がして、2人の剣閃が交わった。
「くっ」
私の肩口に傷が走った。
「勝負あり」と呟いた斑鳩に、そうだなと笑ってやる。
すると、斑鳩の体に、私の傷よりも深く、紅い一文字が刻まれた。
斑鳩は「そんな」と驚きながら、桜が散るように崩れ落ちてしまう。
「み、見事…どす……うちが負けるなんて……ギルドに入ってからは…初めてや……」
言葉だけを聞けば、素直に負けを認めている斑鳩だが、その声音には、なぜか意地の悪い響きが籠っている。
まさか負け惜しみでもあるまい、と振り返ると、やはり不敵に笑っている口許。
「でも……エルザはんもジェラールはんも、揃って負けどすわ……あと15分」
「なに?」
仰向けになって、天へと向けて徐に右手を突き出した斑鳩。
「 落ちていく~
正義の光は~
皆殺し~ 」
ひどい詩、と1度自嘲して気を失った。
その様子を見届けた後、エーテリオンの事か?と焦りながら斑鳩の元を離れ、ジェラールのいる頂上を目指して走りだすエルザ。
残された時間はあまりにも短い。
――エーテリオン発射まであと15分
▼トウヤ視点
「ホーホホウ!!」
奇妙な掛け声とともにこちらへと突っ込んできて、蹴りを浴びせながら、俺たちの右側を抜けていく梟。
助走の時間がある分躱す事自体は難しくないが、それにカウンターを合わせようとなるとかなりの集中力が必要となってくる。
しかも、相手の手数は少ない訳でもない。
今も、Uターンしながら再び突っ込んできたのだが、その軌道が描く弧は思っていたよりも遥かに小さい。
この調子で縦横無尽に飛び回られては捉えようもないだろう。こちらはアルマと2人で飛んでいる分、無茶な姿勢が取れないし、そもそも、今日のアルマはここまで何度も飛んでくれていて余裕がない。あまり時間をかけすぎる訳にはいかない。
「斬竜の刀牙、二連斬!」
両手を交互に振るい、こちらに向かってくる梟に斬撃を飛ばす。
相手も馬鹿正直に振るわれた二条の斬撃には悠々と対処し、僅かに身を捻るだけで躱してくるが、それでも少しはスピードが落ちる。
これなら、と梟が繰り出した蹴りを掴んで止めた。
捕まえた!
この状態なら対等な殴り合いができる!
そう思って拳を突き出すも……
「斬竜の槍け……ぬおっ!?」
梟は逆に俺の腕を掴んできて、ジェットエンジンを吹かして飛び始める。
一瞬たじろいだが、関係ない!
強烈な風圧に負けないように体を無理やり起こして一撃…一撃……うっぷ。
ダメだ!コイツ乗り物扱いか!?
物凄い吐き気が襲いかかってきて、つい攻撃をやめてしまう。
「
――くそ、コイツ自分を乗り物扱いされる事に抵抗がねぇ!?
いやいや、そこはどうでもいいが、実際かなり相性が悪い。
俺達の最大の弱点である乗り物酔いを的確に突いてくる上、接近のために魔法のエンジンを使うだけで、肉弾戦自体には魔法を使ってこない。
元々こういうスタイルなのか、俺の事を調べて対策を練ったのかは知らないが、頗るやりにくい……
魔導士というものは、どうしても自分の魔法が打ち消されると、大なり小なり何かしらの反応を示してしまうものだ。それは例え、俺の能力を知っている相手だとしても例外ではない。自分の魔法なら大丈夫かもしれない、という意識がほんの僅かにあるからだ。また、確実に自分の魔法が消されると分かった上で魔法を放ってくる相手であっても、その意図――たとえば陽動など――を読めば、カウンターを取る事は容易い。
が、コイツには打ち消すべき魔法が無い。エンジンの魔法は斬れるかもしれないが、そこだけ狙えるなら、最初から本人を斬ればいい。
あ、やばい……考えがまとまらない。
きもちわるくなってきた……
い、いや、ここは自己暗示だ!
コイツは鳥だ!鳥だ!フクロウだ!乗り物じゃない!!
「うう、うっぷ……斬竜の……鋭爪!」
背中のアルマが意図を読んで、勢いよく俺の体を跳ね上げてくれる。
持ち上げた体の右足だけを勢いよく振りぬき、踵落としを仕掛けるが、至近距離での大きな動きでは流石に避けられてしまう。
だが、俺の腕を放させる事には成功した。
勢いが付きすぎてくるくると回りながら、梟との距離が離れていくが、掴まれていた時を思えば少し気分がマシなのだから、
「ホウ……大したものだ、この
フクロウのように首を傾けて俺に賛辞を送る梟。
……フクロウのような梟って分かりにくいな。
「だが、もうじき塔の連中に裁きの光が落ちる頃だ……そろそろ貴様にも正義の鉄槌を下してやろう」
裁きの光……一体何の話だ?
不可解な単語に首を傾げ、後ろのアルマにも疑問の視線を向けるが、こちらにも心当たりがないらしい。
「ホウ?その顔では知らなかったと見える……冥土の土産に教えてやろう。あの塔には、にっくき悪の首魁、魔法評議院によるエーテリオン攻撃が敢行される事が決定しているのだ……時間にしてあと10分といったところか」
なに!?エーテリオンだと!?
しかもあと10分!?
クソっ、そんな切羽詰まった状況だなんて……!
大体どうやって評議院はこの塔の存在を知ったんだよ、捜査したなら優秀すぎないか!?
普段は頭硬い癖にこういう余計な時だけ行動力がある奴らだな、全く。
というか、なんでそんなヤバい事態のクセに、塔から人が出てきている様子が無いんだよ。
一体、塔内はどうなってるんだ!
「では行くぞ!これでトドメだ、斬魔の死神!!」
こちらの動揺などお構いなしに突進を仕掛けてくる梟。
トドメという言葉に相応しい火力だが――
「アルマ、耳」
「分かりました!」
こんなところで遊んでいる訳にはいかなくなった。
アルマが俺の指示を受けて、腕で耳を折りたたんだのを確認した後、大きく息を吸い込む。
コレをやると、普段声を出さない分、喉が痛くなって嫌なんだがな……
今回は仕方あるまい。
「斬竜の……咆哮ォ!!!!!」
俺の口許から銀色の閃光が吹き出して放射線状に広がり、こちらへ超スピードで向かってきていた梟の全身を包み込む。
「ホオオオオオオオオ!?!?」
光の中で四方八方から斬撃を浴びた梟は、ズタズタに斬り裂かれていった。
やがて光が収まると、全身に傷のない所が無いといった様子で意識を失い、海へと落下していく。
「アルマ!」
墜ちていく梟の背中を見た瞬間に、あることを閃いた俺は、アルマを呼んで梟の方を指さした。
「え、拾うんですか……?」
そう、着水する前に回収する必要がある。
急いで梟の落下地点に体を割り込んだ俺は、フクロウマスクの大男を、まるで女の子を受け止めるように、そっとキャッチした。
「め、珍しいですね。倒した敵を助けるなんて」
え?
いや何言ってんの?
用があるのはコイツじゃなくて、コイツの背負ってるバックパックだよ?
よしよし、まだ生きてるな、ジェットエンジン。
これを傷つけないように外して、残りのフクロウ男は海にポイ――とする前に、一回素顔を見ておこうか。
あれ?
このマスク、外れない……え、やだ怖い。
うん、忘れよう。
良い感じの流木を見つけたからそこに寝かせておき、自分はアルマを抱えてバックパックを背負う。
さぁ、塔まで全速力だ!
――エーテリオン発射まであと10分
▼エルザ視点
先ほど走り出してから5分が経った。
つまりは、エーテリオン投下まであと10分。
――だが、間に合ったぞ……
大きな扉を開けるとそこは、左右に側廊方式のようなアーチ型に配置された柱が並ぶ空間だった。そのアーチの向こうには外の景色が、ガラスなどを隔てることなく広がっている。
そこから取り込まれた夕焼けの光が、部屋全体を紅く染めていた。
しかし、少しの間部屋に居れば、徐々にその光が弱くなっているのが分かるだろう。じきに夜が来るのだ。それこそ、あと10分もすれば。
「久しぶりだな、エルザ」
部屋の奥、シルエットだけが浮かんでいるのかと錯覚するような黒ローブを着込んだ男が、凝った造りのチェス盤を弄りながら、こちらに声を掛ける。
「ジェラール」
その呼びかけに、男はローブのフードを取りながら振り向いた。
評議員ジークレインと全く同じ顔が現れる。
そのせいで、8年ぶりだというのに、あまり久しいとは感じられなかった。
浮かべる表情が、双子の兄より少し悪辣に見える程度だ。
「私はかつての仲間たちを解放する」
楽園の塔、そして、ジェラールという鎖から。
「構わんよ……もう必要ない。楽園の塔は完成したのだからな」
必要ない、か……
昔のお前は、絶対に言わなかった言葉だ。
「あと10分足らずで破壊されるというのに?」
そう、ここが謎だった。
8年もかけて建てた悲願の塔へエーテリオンが発射されるように仕掛けるなど、タガが外れているとしか思えない。
それに、この塔には、ある肝心なモノが欠けているハズだ。
この8年、近づけばショウ達を殺すと脅されていたために、ここ自体を訪れる事は終ぞできなかったが、楽園の塔というモノ自体はそれなりに調べてきた。
当時私たちを働かせていた教団は、ここ以外にもいくつか塔を建設していたという。その資料から、Rシステムと呼ばれる、塔の根幹を成す魔法の構想や原理を学んだのだ。
この1日、塔を登って見てきた分には、確かに設計図通りに作られている。
しかし、だからこそ、他の場所に作られようとしていた塔と同様の、根本的な問題も抱えていると推測できる。
つまりは――魔力だ。
圧倒的に魔力が足りない。
Rシステムを起動するためには、大陸中の魔導士を集めるというような、まさに桁の違う魔力が必要となってくるのだ。その魔力がこの塔のどこにも見当たらない。
「エーテリオンか……それも問題ない。簡単な話さ。すべてを破壊されるその時より先に、お前を生贄に捧げ、ゼレフを復活させればいい」
私を生贄にする程度で、その魔力を補えるというなら、それはそれでとんでもない発明ではあるのだがな。
もはや狂人になり果ててしまった、というだけならばいいのだが……
しかし、なんにせよ、エーテリオンさえ落ちてしまえば、ジェラールも塔も粉々になるのだ。私にできるのは、その間ジェラールをこの塔から出さない事。
「そうか……ならば私のやる事も簡単だ。貴様をココに足止めする……それで全ての決着が付く!」
外で待ってくれているはずの皆に申し訳ないとは思う。
だが、ここでコイツを止めて、全ての軛を壊すのが、私の8年に課せられた使命なのだと思うのだ。
その時に、ジェラールだけ1人など寂しいじゃないか。
「行くぞ!」
掛け声とともに左手を突き出したジェラールが魔力弾を放ってくる。
こちらは側転しながらそれを避ける。
避けきれないものは手に持った刀で弾く、いなす、斬り落とす。
トウヤほどではないが、極限の集中状態にある今の私ならば、この程度の芸当はこなせる。
そうして一歩ずつ近づいていったが、ジェラールへの道が空いたと思った瞬間に放たれた衝撃波を食らい、柱を砕きながら宙に投げ出されてしまう。
が、墜ちてやる訳にはいかない。
私と一緒に吹っ飛ばされた瓦礫を足場に、右、左と空を飛び回り、元の場所まで戻ってくる。
落ち行く私を見る為にか、部屋の淵にきていたジェラールに、飛び上がった勢いで上段から斬りかかった。
ジェラールはそれを後ろに跳躍する事で回避し、先ほどよりも濃密な魔力の籠った魔弾を投擲する。
そこでふと、トウヤの言葉――を読み取ったアルマの言葉――を思い出した。
『とっておきの魔法を正面から突破してみせれば、殆どの魔導士は動きが止まる、だそうです』
これからエーテリオンを浴びようというんだ、ここでジェラールの魔法を食らう事など、どうという事でもない。
「ジェラァァァァル!!」
放たれた魔力塊に背面から突っ込んで抜け出し、振り向きながら袈裟懸けに斬る。
案の定驚いた顔をしたジェラールは反応が遅れ、それをもろに食らってくれた。
「ぐあ!!」
怯んでいるところに、畳みかけるように蹴りを叩きつけ、後ろ倒しにしてやる。
そして、そこに馬乗りになって、左手と右脚でジェラールの両手を拘束しながら、右手で刀を突き付けておく。
もう残り時間は本当に少ない。
最期の語らいといこうじゃないか、ジェラール。
「どうしてRシステムが完成したなどと嘯く?」
「完成したさ!もはやお前を生贄にさえすれば起動する段階にある!」
「そんな訳があるか……私だってRシステムについて調べた。少しでも知識のある者なら、魔力が足りていない事など、すぐに気づく」
そこまで言うと、観念したようにジェラールが笑う。
「そんな事まで見抜かれていたか……」
さあ、本当のお前を見せてくれ、ジェラール。
何がお前の狙いだというんだ。
「オレの体はゼレフの亡霊に憑りつかれている…ゼレフの肉体を蘇らせるための人形になり果てているんだ……」
憑りつかれた……?
操られていた、とでも言うのか?
「亡霊の囁くままに、この塔を建てさせられてきた。最終的に魔力が足りなくなるという事に気づきながら……だが、それでも止まれなかった」
「魔力のないままに、儀式の完成を求めた……完成しない事など、俺自身にも、亡霊にも分かりきった事だったのに……」
「きっと、生贄にお前を選んだ事は、最後に残った俺のひとかけらが、お前を求めていたからなのだろう……エーテリオンもそうだ。お前という死に場所を求めて……」
「すまない、エルザ……俺という壊れた機関車と、運命を共にさせてしまって」
本来なら、操られていたとはいえ、ショウ達の時間を奪った事は許される事ではないとなじるべきなのだろう。私を裏切り者にし、皆を人質にとったと怒るべきなのだろう。
だが私は、ジェラールもゼレフの犠牲者だったのだな、と思ってしまうのだ。
誰もお前を救ってやれなかったという事なのだろう。私にも、ジェラール自身にも。
なら、私はここでその罪を償おう。
すっと、ジェラールの上から体をのかし、手を差し伸べて上半身を起こしてやる。
「いいんだジェラール……思えば私は、ココにたくさんのモノを置いていってしまった。ショウ達はもう外に出たはずなんだがな……最後に残ったお前が、ココで終わりたいと言うなら、付き合ってやるのが私の仕事だ」
空を見れば、すでに太陽は沈み切ってしまっていた。
しかし、夜というにはあまりにも明るい。
理由は至って単純で、この塔の直上にもう一つの太陽が現れたからだ。
その太陽は、強い光を放射しながら、今にも落ちてきそうに渦巻いていた。
▼三人称視点
「ありがとう、エルザ……」
エーテリオン発射まで、あと10秒……
エルザはそっとジェラールの体を抱きしめた。
8秒…7秒…
「最期に見たのがエルザの顔で良かった……」
5…4…3…
「オレは…救われたよ……」
2……
1。
聖なる祈りが光となって降り注いだ。
その光は、エルザと楽園の塔と、「勝った!」と黒い笑みを浮かべるジェラール
――そして、
イカれたバンドメンバーを紹介するゼ!
書いてて楽しいエセ京都弁の斑鳩!
正義の味方を自称するcv小山力也の梟!
1人だけ戦闘とばしてごめんね、ヴィダルダス・タカ!