斬魔の妖精   作:ベジタブル

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15話「鎧として」

▼三人称視点

 

エーテリオンにより、全てが灰燼に帰したはずの楽園の塔。

その頂上にて、未だに息をしている事に疑問を持ったエルザが、思わずといった様子で呟いた。

 

「生きてる……?それに、ここは……?」

 

エルザと同様、いやそれ以上に動揺した様子を見せたジェラールは抱きしめていたエルザをグイと押しのける。

 

「な…にが……?」

 

エルザが抱いた疑問はまず、自分がなぜ生きているか。次に、自分の居る場所がどうして、()()()()()()が蒼い魔水晶(ラクリマ)でできた建物に変貌しているのか。

自分の頭上からは確かにエーテリオンが降り注いだはずで、それならば今頃死んでいなければおかしい。まさか、この()()()に魔力の光を浮かび上がらせる魔水晶の塔が天国という訳ではあるまい。その証拠に塔の外側の景色はエーテリオン投下前のものと一致――とは言っても、一面に海が広がるだけなのだが――している。ならば、この魔水晶は楽園の塔の内側にあったのか?

 

そこまでエルザが考えた時、不意にジェラールが駆け出し、フロアの淵まで行って上、下と塔を観察し始めた。

 

「どうして!?計算は間違っていなかったはずだ!!なぜ足りない!?」

 

ジェラールが困惑していたのはエルザと同じ理由ではなかった。

生きている事――想定通りだ。

塔の中から巨大な魔水晶が出てきた事――元々そういう設計だ。

2人が生きているのは、塔内部に仕込まれていた巨大魔水晶が、エーテリオンの魔力を吸い取ったからであるはずだ。

エルザの言っていた通り、Rシステムには膨大な魔力が必要で、ではそれをどこから持ってくるのか、というのが問題だった。それを、エーテリオンの魔力を吸収させるという方法で解決する、というのがジェラールの回答である。

計算上では殆ど丁度、Rシステム起動に必要な27億イデアの魔力が魔水晶に蓄積され、エルザを生贄に捧げさえすれば、ゼレフが復活するという状態になるはずであった。

 

では、今ジェラールが何に焦っているのかといえば、それは蓄積された魔力が想定していたよりも遥かに少なかったからである。

確かに、塔からは迸らんばかりの魔力を感じる。

しかし、明らかに27億には達していない。

あくまで目算であるが、およそ半分程しか溜まっていないと感じたのである。

誰も行った事のない計算であるが故、溜まる魔力に多少の誤差が出る事はあり得るだろう。しかし、半分しかないなど、それは流石にあり得ない。何か不測の事態が起こったに違いないのだ。

 

一体何が起きたのか、そう必死に思考するジェラールだったが、不意にその答えが――文字通りに――降りてきた。

トウヤとアルマが2人のいるフロアに下降してきたのだ。

トウヤは黒いパンツに、腹の部分のない黒のインナー、その上から緑のマントを羽織るという、普段とは異なる出で立ちでありつつも、満身創痍で今にも倒れそうな様子。アルマも、そのトウヤを重そうに抱えて、疲労困憊である事が見てとれた。

結局限界を迎えたのか、アルマが地面まであと少しというところで取り落としてしまい、トウヤが「ウゴ!?」などと声を上げる。

 

「トウヤにアルマ!?どうしてここにいるのだ!?」

 

トウヤはもう立っていられないとばかりに横たわり、辛うじて左手を「よっ」という風に上げ、質問に答える。

 

「迎え、だ……」

 

アルマも引き継いで、

 

「エーテリオンも何とかしましたし、先ほど見ていたところ、そちらの方とも和解したのでしょう?なら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に帰りましょう。ジェラールさんも一緒にいかがですか?」

 

と、逆に聞き返してきた。

エーテリオンをなんとかした――なったではなく、()()――という部分に激しく疑問を浮かべつつも、数分前の自分が余りにも想定できていなかった状況に困惑しすぎて、「あ、あぁ……?」と声を出す事しかできずにいるエルザ。

しかし、「一緒にどうか?」などと聞かれた男の方の心中は激しい怒りと憎しみに支配され、返答などしている場合ではなかった。当然、仮に返答したとしても、間違いなくNOではあるのだが。

 

「まさか……まさか、まさかまさかまさか!?」

 

明らかに様子のおかしいジェラールの態度に首をかしげる3人。

特に、エーテリオン投下直前の穏やかな会話を知るエルザの困惑は測り知れない。

が、そんな周囲の雰囲気などもはや眼中に入っていないジェラールは、トウヤを只管に睨みつけた。

その眼は親の仇を見るような、大切なものを奪った人間を見るような憎悪に彩られており、視線の先のトウヤの心胆を寒からしめる。

怒りによる興奮で呼吸すら乱していたジェラールが、声を裏返しそうになりながらも絶叫した。

 

 

「トウヤ・グレイス…貴様……エーテリオンを斬ったのか!!!?」

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

――エーテリオン発射5分前

 

グレイ達と別れ、ジュビアと2人でナツを探し始めてすぐ、あたしたち2人は闇ギルド髑髏会・三羽鴉(トリニティレイブン)の1人であるヴィダルダス・タカに襲われたんだ。

相手の魔法でジュビアを操られたり、水が効かなかったりと苦戦もしたけど、最終的にはあたしとジュビアの合体技みたいなもので撃破する事ができた。

後でジュビアに聞いたら、合体魔法(ユニゾンレイド)という凄く難しい技術だったらしく、別々の魔法同士の魔力を融合させて大威力の魔法に昇華させるモノだそうだ。

でも、あたしとしてはそんな凄い魔法を発動できた事よりも、戦闘を通してジュビアとの距離が大分近づいた事の方が嬉しいかった。一度は敵対した相手だけど、これからは仲良くできそうだ。早く『妖精の尻尾』に入ってきて欲しいなぁ。

 

結局その後、2人とも魔力の使い過ぎで眠ってしまい、次に気がついた時にはウォーリーとミリアーナって人に背負われて塔を出るところだった。

最初はどういう状況かと焦ってしまったが、話を聞いてみると、2人とも既に大体の事情をシモンから聞いているみたい。

2人はナツに倒された後、ナツと話に来たシモンに介抱されて、その間にジェラールやエルザの事を聞いたって。その上で、エーテリオンから避難するために外に出ろという指示をのんで移動していたところに、倒れているあたし達を発見、連れてきてくれたみたいだ。

ジュビアも、ミリアーナもウォーリーも、全員が一度敵対した事があると思うと、なんだか面白い縁だなと思える。きっと『妖精の尻尾』は、色んな人を変えてしまう力を持ってるんだろうなぁ。

 

4人で、あたし達が乗ってきた小舟に乗り込もうとしていた時に、グレイとショウもやってきた。

グレイが大きなケガをしたみたいで、それを見たジュビアが大分取り乱していたが、きちんと応急処置がされていて、今は血も止まっていると分かったら――それでも大分心配そうだが――すぐに落ち着いてくれた。

その騒動が終わったと思ったのも束の間、舟を出してすぐに目覚めたグレイが、エルザを置いてきてしまったと騒ぎ出した。こちらはショウの「今は姉さんを信じるしかない」という言葉を聞いて渋々納得したようだ。

そうは言っても、今も塔に残っているエルザ、ナツ、シモンが心配なのは変わらない。

それはここに居る全員に共通の気持ちのようで、横を見れば皆一様に不安そうに塔の方を伺っていた。

――早く出てきて、3人とも

 

 

そうして塔の中に思いを馳せていると、唐突にグレイが質問してきた。

 

「ん?何か聞こえねえか?」

 

そう言われると、エンジン音のような、悲鳴のような……何かが近づいてくる音が聞こえる。

その正体は、あたし達にとても馴染み深いものだったようで……

 

「トウヤァァァァァァァァアア!!速すぎますぅぅぅぅぅうううう!!」

 

「………………止まらん」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

トウヤとアルマの2人が謎のロケットのようなものを背負って爆速でやってきていた。

しかも、何とか聞こえてきた言葉から考えると、かなりマズい状況のようだ。

 

「みゃあ……爆速ネコネコ……元気最強………!?」

 

あの元気っ子のミリアーナにすら若干引かれるスピードで迫る2人だが、最悪なのは軌道的にこっちに向かって突っ込んできているという事だろう。

 

「なにやってんだアイツら!?……まあいい、ひとまず止めるぞ!」

 

「は、はい!グレイ様!!」

 

ツッコミながら、氷の壁をいくつも生み出していくグレイと、その間に挟むように水流の壁を作るジュビア。

 

「ネコネコのピンチ!?……ネ拘束チューブ!!」

 

ミリアーナもチューブを何本か出し、かなり目の粗いネットのようにして、受け止める体勢を作っている。

 

あ、あたしも何かしなくちゃ!

えっと、えっと、アクエリアスは全員巻き込まれるし(そもそも今は彼氏と旅行中らしく呼べない)、今日はタウロスを呼べない曜日だし……ええい!

 

「開け、処女宮の扉!バルゴ!!」

 

と、少しでも受け止める人間を増やすためにバルゴを呼んだ。

呼び出されてすぐ周囲を観察し、瞬時に状況判断を行うバルゴ。

 

「姫、トウヤ様を受け止めればよろしいのですね?……お仕置きですね」

 

いや、何でよ!?

 

コチラの体勢が丁度整った頃に突っ込んでくるトウヤ達。

氷を砕き、水の膜を破り、チューブの網を巻き込み、けれど確実に減速しながらあたし達の方へやってくる。

 

よし、来なさい!

 

ぐっと、バルゴと2人で踏ん張ってトウヤ達を受け止める。しかし、遅くなっているとはいえ、そもそも男の人1人分の重さが突っ込んできている訳で、女子2人では身に余るものだったらしく、結局は体勢を崩して全身で受け止めてしまう事になってしまった。

 

って、近っ!!

しかも、なぜかトウヤの格好が海パンで、すぐそこに肌があって、押し倒されてるみたいな――!

 

「すまん……」

 

「う、ううん!……トウヤは大丈夫?」

 

至近距離でのやり取りに顔を熱くしていたが、「姫、これはお仕置きですね?」という声を聞いて、あたしたちに下敷きにされているバルゴを思い出し、すぐに移動することになった。

もう少しでもあのままがよかったなぁ……いやいや、違う違う。

ちなみに、バルゴはトウヤの分の星霊界の服を出し、早着替えさせた後に帰って行った。帰る瞬間、そっとあたしに耳打ちして、「色は姫とお揃いにしておきました」と言っていた。

……グッジョブ。

 

 

「それにしても、どうやって2人はここに?」

 

あたし達はナツの鼻でなんとか辿り着けたのだし、そもそもトウヤ達はエルザ達の事情を知らないという問題もあると思うのだが……

あと、さっきまで背負ってた謎のロケットも何だったのだろうか?

その質問に答えてくれたのはアルマだ。

 

「シモンさんという方からお手紙をいただきまして……ここまでは泳ぎと、私の翼と……あと、先ほどのは三羽鴉の方からの戦利品ですが……まぁそうしてやって来た訳です」

 

飛んできたのは兎も角、合間に水泳って……結構ビーチから距離あったと思うんだけどなぁ……

というか、シモンはトウヤに手紙なんて渡してたんだ。まぁでも、カジノに居た時点から、塔に魔導士を集めるようにしてたんだから、おかしくはないよね。トウヤほどの魔導士を呼ばない意味はないだろうし。

 

「シモンが?……もしかしてボーイが斬魔とやらかい?」

 

あ、そっか、ウォーリー達は初めて会うんだもんね。

ジュビアはカジノで会ったって言ってたけど。

 

「この人はトウヤ、後ろのネコちゃんはアルマ。妖精の尻尾の仲間なんだ」

 

そう言えば、ウォーリーはなるほどと頷き、ミリアーナは「ピンクのネコネコ!元気最強?」とアルマに抱き着いている。

 

「あなたがミリアーナさんですね?……そして、私たちの顔を知らないという事は、そちらの角ばった方がウォーリーさんですか」

 

よろしく、と言いあう2人と1匹だったが、トウヤの方は周りを見回してから、あたしの服の裾をクイクイと引っ張ってきていた。

 

「どうしたの?」

 

「……2人は?」

 

そうだ……そのことも話さないとね。

 

「ナツとエルザと、あとシモンって人もまだ塔の中にいるの……あたし達、ここで3人が出てくるのを待ってるんだけど……」

 

そう伝えるとトウヤはわずかに目を開いて、焦りだす。

こんな事言いたくないけど、もしトウヤ達がもう少し早くついてたら、今頃3人ともここにいたりとか……

ううん、舟も無しにここまで来れてる時点で相当頑張ったんだもんね、2人とも……

 

早く出てきてよ、皆……

 

 

しかし、あたしの願いは届く事なく、無情にもタイムリミットがやってきてしまう。

太陽が沈んで薄暗くなってきていた空が、再び白みだした。

それは塔の上空にあまりにも巨大な魔法陣が出現して、発光しているから。

その威容から漏れ出る光だけで、マズいモノだと気付いてしまう、そんな代物だ。

 

本当にアレが落ちるの……?

 

今までは、「全員が死ぬ」とか、「灰燼に帰す」とか、大仰な字面でしか理解できていなかった事が、こうして目の前に顕現した事で一気に絶望的な気分になってしまう。

 

こんなの、本当に塵も残らない!

もう間に合わないの……?

嫌だよ、そんなの……

 

 

「クソッ………………アルマ!!」

 

余りの光景に全員が押し黙ってしまう中、トウヤだけがアルマの目を見て叫んでいる。

呼ばれたアルマが「本気ですか?」と聞き返したが、トウヤは軽く頷くだけ。

やがて、諦めたように溜息を吐き、「私も覚悟を決めます」と呟いてから翼を生やし、トウヤの背中に張り付いた。

黙ってふよふよと浮かんでいく2人。

 

「お、おい、どこ行くつもりだ!?」

 

そんなグレイの質問に振り返ったトウヤは、後ろからエーテリオンの光を受けていて、まるで天使のような………

 

そう想像して気づく。

…………トウヤ、エーテリオンを止めるつもりなんだ。

 

本当に大丈夫なの?

皆そろって帰ってきてくれるの……?

 

そんな視線に気づいたのか、トウヤはこちらを見て、本当に薄くだけ笑った。

 

「すぐに戻る」

 

私は両手の指を絡めるように組んで、塔に向かっていくトウヤの背中を見つめた。

 

エーテリオン発射まで、残り数十秒。

奇しくも、評議員たちがエーテリオンの犠牲者の冥福を祈っていた丁度その時、あたしは仲間の無事を願って祈りを捧げていた。

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

いやぁ、カッコつけて出てきたはいいが、流石に無理じゃないかなぁ、アレは……

こうして近づけば近づく程、圧縮された魔力の力強さを感じるんだが、ジョゼの魔法など比にならんパワーだぞ。

一番良いのは発射される前に近づいて、魔法陣自体を破壊してしまう事だろう。そうすれば危険は殆どない……ハズ。

 

「アルマッ!」

 

「分かってます!もう一段スピードを上げます!!」

 

宣言と共に、俺にかかる重圧がグンッと増え、スピードが上がる。

梟のジェットエンジンを使った時ほどではないが、それでも凄い速さだ。目の前にある塔がどんどんと下方へ流れていくように見える。

今日は一日中飛びっぱなしだというのに、その疲労を感じさせない。

この件が片付いて落ち着いたら、旨い魚でもたらふく食わせてやらなきゃな。

 

ほんの一瞬だが、塔頂点の2本突き立ったような部分の1つ下の階、おそらく人が入れる分では最上階にあたるであろう場所で一組の男女が抱き合っているのが見えた。

緋色の髪の女と、蒼い髪の男だ。

女の方は間違いなくエルザだろう。男の方はパッと見た感じだけなら、評議員のジークレインという胡散臭いヤロウに似ていたのだが、まぁ状況的にアレがジェラールなのだろう。

抱き合っているなら、和解が済んだのかもしれない。

エーテリオンという、自分を明確に死に追いやるモノを間近で目にしてようやく正気に戻れたとか、エルザの説得が効いたとか、そんな感じだろうか?

何にしても、ジェラールだって元を正せばエルザの仲間だったのだ、更生するというならそれ以上は無い。評議院からは逃げ回る生活になってしまうだろうが、ここで死ぬよりマシだろう。その方がきっとエルザも喜ぶ。

こりゃ、エーテリオンを止める理由が1つ増えたな。

それに、嬉しい発見はもう1つあった。

エルザが鎧を着ていなかったのだ。

勿論、普段着だったという意味ではない。魔力を感じない戦装束を着ていたのである。

単にそれで闘うのが効率面で良かっただけ、という可能性もあるのだろうが、俺にはそれが覚悟を決めた故の格好であるように感じられた。きっと自分を閉じ込めていた殻を破る決心が付いたのだろう。

めでたい事だ。

きっとこれからのエルザは更に強く、いい女になるのだろう。

やはり、こんなところで死なせる訳にはいかない。

 

俺は以前、アイツに鎧の代わりになってやると言ったが、自分から脱げたのなら、もう俺はお役御免だ。何もしてやれなかったが、せめてものお祝いに、鎧としての最後の仕事をするとしよう。

正直、エルザを守るだけなら、アルマに頼んで、塔から運びだせばいいだけだ。ナツだってハッピーと一緒なんだから、逃げおおすくらいはできるハズだし。

しかし、エルザが鎧に、体だけでなく心を守る役目をも求めていたのなら、俺はそれに応えてやらねばなるまい。シモンもジェラールも、エルザの大事なもの全てを守ってやって、ようやく鎧の代わりになれる。

 

グッと力を込めて拳を握った。

目の前には何重にも描かれた魔法陣の下端の1枚がある。

発射までに少しでも削っておく!

 

「天爪……斬竜の槍拳!!」

 

魔法陣の1枚と俺の拳が激突する。

 

重い……!

今までいくつもの魔法を打ち消してきたが、ここまで反応が鈍いのは初めてだ。

魔法陣だけでこれほどか!

だが諦めればこの場の全員の命がない。となれば諦めるなどという選択肢は端から存在しないのだ。

歯を食いしばり、血がにじむ程に拳を握りしめ、ケツに力を入れる。

 

「ッラァァァァアア!!!」

 

ギンッと音が鳴って、巨大な陣に亀裂が走り、消失していくのが分かった。

良し、1枚は何とか削れた!

 

……が、ここが限界か。

 

俺が割った魔法陣の遥か後方の上空に、バカげた密度、サイズの魔力球が現れた。

まるで太陽のようにすら見えるそれは、バツバツと弾けて今にも爆発しそうだ。

言葉にするなら、人が生んだ災害、とでも言おうか。

 

ははっ、これからアレとやり合おうってのか、俺は。

 

 

「……アルマ」

 

俺を上に放り投げて、全速力で逃げてくれ、そう言おうとするが、アルマはゆっくりと首を横に振った。

 

「いいえ、あなたの背中ならアレは食らいませんから、逃げません……いつもと同じですよ。私はあなたを信じています」

 

そうか……

本当にお前は最高の相棒だよ。

じゃあ、こっちもその期待に応えて、とっておきの技を見せなきゃな……!

 

両手を前に突き出し、そこに体内の全魔力を集中させていく。

迸る銀色の光が徐々に形を成していき、白銀の太刀が生まれた。

軽く、それでいて重厚で、見れば誰しもが業物であると気付けるような、そんな刀だ。刃だけではなく、鍔や束まで全てが銀色で、幻想的な逸品である。

 

斬魔ノ太刀 (じん)の型・斑征(ムラマサ)

 

俺の技の中では、文句なしで切り札と呼べるモノだ。

自分の全ての魔力を斬魔の性質に変化させて、それで刀身80センチ程度の太刀を形成する。

風牙や天爪は他の攻撃に斬魔の性質の魔力を上乗せする、言うなれば強化技(エンチャント)だが、こちらは斬魔の魔力そのものを叩きつけるため、斬れる魔力の量は比にはならない。

ちなみに、名前は東洋に古くから伝わる有名な妖刀から貰ったものだが、きっとホンモノの方でもこんな大一番は経験していないだろうな、と思う。

 

上を見れば、いよいよ太陽が落ちようとしていた。

少しだけ回転を付けながら、こちらへと迫る極大の光線。

 

ふう、と1つ息を吐く。

 

「行くぞ、アルマ」

 

「はい!」

 

やり取りのあと、アルマが加速を開始し、俺自身も魔法を使って宙を裂く斬撃と化してスピードを高めていく。太刀を前方へ突き出し、この勢いを乗せる!

 

「滅竜奥義……斬覇月竜閃(ざんぱげつりゅうせん)!!」

 

 

全てを破壊する閃光と、全てを斬り裂く剣閃が衝突した。

 

 

「ぐっっっ!?」

 

手元の魔力はかき消せているが、全てを打ち消すには処理速度が足らないらしく、徐々に徐々に下方へと押し込まれていく。

 

いや、何も全てを消す必要はないんだ。

この太さなら、塔にあたらず海を抉る部分も多分にあるだろう。そんなところは放っておいたらいい。

大事なのは手元の分だけ。ここから穴をあけて、円錐状にエーテリオンが落ちない地帯を作る。そこに塔を入れればいい。

そう思って手元だけに集中するも、それでもやはり押し込まれていってしまっている。

そもそも、太刀に込められた魔力が足りていないのか、少しずつ少しずつ刀身にヒビも入ってきていた。

 

やはり無理なのか……!?

 

そう思った矢先、塔の先端、2本の尖った部分の辺りまで高度が落ちた時、不思議な事が起こった。

その水晶質の尖塔が魔力を吸収し始めたのだ。

おかげでグッと楽になったが、楽園の塔は魔水晶製だったという事だろうか……?

よくわからないが、単純に負担の軽減にもなるし、とあるアイデアもくれたので、俺としては楽園の塔くんには感謝したいぐらいだ。

……いや、やっぱエルザ達をひどい目にあわせた元凶だからダメだわ。

 

そのアイデアとは、魔力の吸収だ。

魔力が足りないなら、回復すればいい。

幸いな事に魔力なら目の前に沢山ある。

……本当にこんなもの食べて大丈夫なのか、という心配はあるが、剣を食べても問題ないとかいう滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の不思議体質に賭けるしかない!

 

 

すううううう、と息を吸う。

すると、周りのエーテリオンが狙い通りに口に入ってくる。

変な味だな……甘いような辛いような苦いような痛いような……!?

 

 

「お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??!?!?」

 

 

痛い!!

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたい痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたい痛い痛い痛い痛いいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたいいたい痛いいたい痛いいたい!!!

 

全身を内側から何かが食い破ってくるような激痛に見舞われる。

焼かれるような、裂かれるような、抉られるような、捻じられるような、千切られるような、絞められるような、消されるような、轢かれるような、刺されるような、破られるような、斬られるような、殴られるような、蝕まれるような、剥がされるような、穿たれるような、撃たれるような、壊されるような、ありとあらゆる痛みが俺を襲う。

 

死んだ方がマシという責め苦を浴びて、自分はなぜこんな事をしているのか、と何も考えられなくなってきた。

 

が、しかし――

 

後ろから相棒の温もりを感じる。

下にはエルザ達が見える。

遠くの海からルーシィ達が祈る声が聞こえる。

 

だから負けるわけにはいかない。

 

「アアアアァァァァアア!!!!」

 

身体が爆発しそうなほどに、全身を迸っている魔力を全て魔剣に注ぐ。

もう一度エーテリオンを吸い込み、痛みに耐えて、魔力を注ぐ。

 

俺の体のいたるところに、鋭い鱗のような模様が現れていた。

 

 

それを何度繰り返したろうか……

魔法陣を一枚砕かれ、俺と塔に魔力を取り込まれ、妖刀に力を殺がれたエーテリオンがついに力尽きた。

光が段々と細くなっていき、俺にかかる圧も小さくなっていく。

 

 

――勝った

 

やってやったぞ!

と、本当はガッツポーズを決めたい心持ちなのだが、生憎と体はピクリとも動かない。

 

「お疲れ様でした、トウヤ……」

 

後ろでアルマが囁いてくれる。

お前もあきらめずに俺の背中を押してくれたんだ。だからアルマもお疲れ様。

 

閃光も力尽きたが、それと同時にこちらも限界が来たらしい。

魔力自体はエーテリオンを食べたせいで、いくらか残っているが、痛みに耐えた体が悲鳴をあげ、力が入らなくなったのだ。

体制御のできない人間を支える力はアルマにも残っていなかったらしく、2人そろって墜ちていった。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「トウヤ・グレイス…貴様……エーテリオンを斬ったのか!!!?」

 

こうして、状況は冒頭に至ったのだが、ジェラールの激昂を見るに、鎧としての俺の仕事はまだ残っていたらしい。

もう既に俺の体はボロボロで、血管が弾けるようにして裂けており、血も噴き出しまくっているのだが、ジェラールの殺意はそんな事お構いなしとばかりに突き刺さっている。

どうやら、エルザと和解したように見えたのは、ジェラールが演出したウソだったらしい。

そうじゃなきゃ、エルザがあんな風に、悲しそうな、悔しそうな、情けなさそうな、それでいて憤怒に染まっていると分かるような複雑な表情はしまい。

状況は驚く程悪いが、そんな顔を見せられればやるしかないだろう。

 

元々今回の件は殆ど参加できてなくて不満だったんだ……

こんなボロボロの状態でも、目いっぱい殴り合ってやるよ、ジェラール!!

 




次回、ブチ切れジェラール君vs血管ブチ切れ主人公
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