多分半分くらいお風呂。数えてないから知らんけど。
17話「お風呂回です」
▼トウヤ視点
ドォン、ドォンという大きな音で目が覚めた。
「ここは……」
ホテルの部屋?
……そうか。
塔を命からがら脱出した後、エルザに抱きしめられてそのまま眠っちまったんだったな。
んで、この音は花火の音か。
ジェラールと闘ったのも夜だったから、多分丸1日寝てたんだろう。
折角花火なんてやってるんだからテラスで見るか。
そう思って重たい体を起こした。
「ってコレ……」
しかし、夜空に咲いていたのはただの花火では無かった。
全てに魔力を感じるのだ。
こんな派手な事をするのはナツ達だろう。
ただの花火とは比べ物にならないだろう火力で燃え盛る大輪の炎や、氷で出来た華が浮かんでいる。あのキラキラと光る星の結晶はルーシィの魔力だろうか?
綺麗なものだ。
だが、どうしてこんな事をしているのだろうか?
ホテルの方から頼まれたとか?
ふと気になって、打ち上げている人物の方に目を向けてみると、予想通り手や口を空に向けて魔法を飛ばしているナツ、グレイ、ルーシィを見つける。その少し前に、なぜか立派な鎧を付けて旗を振っているエルザが見えた。自然、更にその先に目が向くと――
「なるほど……門出か」
シモン、ショウ、ウォーリー、ミリアーナが小舟に乗り込んで航海へ出ようとしているのが見えた。
4人の目元から流れる雫は、花火の光に照らされてキラキラと輝いている。
シモンは旅に出ると言っていたが、他の3人も一緒に行く事にしたんだな。
1人くらいは『妖精の尻尾』に来るかと思っていたから少し寂しい気もするが、これが今生の別れという訳ではあるまい。
なにせ、皆生きていて、これから先は
いずれ俺たちとアイツらの道が再び交わる事もあるだろう。
その旅路に幸多からん事を。
そう願って小さく手を振る。
気づかれなくても良いと思ってやった行動だったが、シモンはこちらを見ながら大きく手を振り返してくれた。
これから頑張れよ……またな。
△ △ △ △ △
「目覚めたのか……!」
シモン達の舟が見えなくなって暫くしてから、俺の様子を見に来たエルザが部屋へと尋ねてきた。
1日中寝ていたのだったら少しは心配を掛けてしまっただろう。申し訳ない事をしたかもしれない。あの4人の船出にもギリギリでしか間に合わなかったしな。
「あの晩から3日起きなかったんだぞ。ナツの方は今朝目覚めたんだがな」
1日中どころじゃなかったでござる。
「したかも」じゃなくてはっきり申し訳ない事をしていました。
こりゃ、アルマなんか心配を通り越してキレてるかもしんない……
「……すまん」
「まったくだ……心配したぞ。お前が起きない間、どれだけ私が気を揉んだと思っている」
いや、もうホント申し訳ないです……
「悪いと思っているなら少し付き合え。いくつか話したい事がある」
「はい……」
まぁ、軽くお話しするくらいならどうという事はない。
説教怖いとか思ってない。思ってない。
あ、でも、風呂とかは済ませたいな……
あの後3日も放置していたと思ったら、急に気持ち悪くなってきた。
腹も減ってるが、逆に減りすぎてよく分かんないや。
そんな風に思っていると、少し逡巡している様子のエルザがある提案を持ちかけてくる。
その提案は、渡りに船のようで「え?その船沈まない?」的な、衝撃のモノであったために、軽い気持ちで頷いた事を後悔する羽目になるのだった。
「そ、そうだな……こういう時は裸の付き合いだ!風呂に入るぞ!!」
…………………………は?
▼エルザ視点
「子どもの頃は入っていただろう!」とか、「胸襟を開いて話すには風呂が一番だ!」とか誤魔化しながらトウヤを風呂に連れ込んでやったが、私は一体何に言い訳しているのだろう……?
実際、以前は自然に入れていたし、グレイやナツが相手ならこんなに緊張しないのに……って私は緊張しているのか!?
「お、オホン……トウヤ、気持ち良いか?」
「……………………………………あぁ」
気を取り直して、トウヤの背中を泡の付いたボディタオルで擦る。
それにしても背中が広いな……男性、という感じだ。
ルーシィなどとは違って、私の体は筋肉質で女性らしくないと思っていたが、やはり本物の男には負けるようである。
こうして触れていると、安心するような、少し高揚するような不思議な感じだ。
高揚?興奮か……?
興奮!?
わ、私は何を考えているんだ、破廉恥な!
トウヤはこんな状況でも落ち着き払っているというのに!!
……落ち着いている、というのも何となく腹が立つな。
私には女性としての魅力がないというのだろうか?
「それで……話は?」
少し考え事をしていると、トウヤにそう催促されてしまう。
折よく背中も洗い終わっていた。
「む……そうだな。湯船で話そう。流すぞ?」
ザーっとシャワーをトウヤに流しかけ、背中合わせになるよう誘導しながら風呂につかる。
……小さい頃は普通に前向き同士で入れていたのに、どうしてこうも今回は上手くいかないのだろうか。
気のせいか、心臓がバクバクと早鐘を打って、苦しいどころか痛いし。
まぁいい、とりあえず、背中越しででも話をしよう。
「シモン達は先ほど全員で旅に出てしまったよ……私も
「……良かったな」
良かった、か。
そうだな。寂しくはあるが、アイツらにとっては最善の選択だったのだろう。
なにより、自分達自身でそれを選べたという事が、本当に嬉しい。
「アイツらがお前にも礼を言っていたぞ……シモンなんかは、落ち着いたら私の分と一緒に手紙を出すともな」
「楽しみだ……」
「エーテリオンに突っ込んでいった事や、最後の魔法を斬った事、忘れないと口々に言っていた……まったく無茶しすぎだぞ」
「う……すまん」
そうだ、もっと反省しろ。
お前は自分なら大丈夫だからと、無闇に敵の攻撃へ突っ込みすぎだ。
完全にではないとはいえ、エーテリオンを受け止めたなど前代未聞もいいところだし、最後はナツとそろってエーテリオンの籠った
しかし、ただ叱る訳にもいかない。
コイツの一番
「だが……お前のおかげで全員がああして新たな道を進む事ができた、勿論私もだ」
「……」
「エーテリオンが弱められていなかったらゼレフが復活していたかもしれん。ジェラールを倒してそれを阻止していても、塔の魔力が暴発して全員が死んでいたかもしれない。少なくとも、ジェラールの攻撃でシモンは死んでいただろう……本当にありがとう」
トウヤが黙ったままで、ズルっと体を湯船の中に下げていっているのを感じる。
背中の感触からして、肩までつかっているのだろう。
「別に、礼を言われる事じゃない……」
暫く続いた沈黙を破ったのはトウヤだった。
「俺がしたかった事だから……エーテリオンの時、鎧を脱いだお前を見て、ここで死ぬのは勿体ないと思った。シモンの時は、アイツが死んでお前が泣くのを見たくないと思った」
ほう、そういう風に言うのか。
「なら、私がお前に礼を言うのは、私が言いたいからだな」
そう言うと、「ぐぬぬ」と言って押し黙る。
可愛い奴め。
「じゃあ、もう一つ」
「何だ?」
「俺は、普段からエルザに世話になってる。俺じゃナツ達をまとめられない。剣も貰ってるし、フォローもして貰ってる……最近、一緒に仕事するようになってから楽しい」
ふふ、それこそお互い様というものだろう。
「私だって、普段から何度も助けられている。ファントムの時だって、ジュピターを受け止めたのはお前だろう?ナツやグレイを纏めながら、自分ものびのびといられるのだって、お前が後ろにいると思うからだ」
そうして、こっちこそ、そっちこそとお互いの良い所、助かる所で言い合いになってしまう。
元々何の話だったかも忘れてきた頃、なんだか無性におかしくなって、笑いがこみあげてきた。
「ふふ……はは…はははは!」
トウヤもつられて笑い出し、バスルームに楽し気な声が充満する。
塔の事も、ジェラールの事も、ショウ達の今後の事も、こうして一緒に風呂に入っている事も、無意識に絡まっていた様々な緊張の糸が解れて、体に入っていた力が抜けていった。
幸せだな、本当に。
2人の声が止んで心地の良い沈黙が降りた時、トウヤが心底嬉しそうな声で言う。
「……泣いてるエルザも綺麗だが、やっぱりそうやって笑ってる方が好きだ」
………………………………ん゛んっ!!!?
「の……のぼせそうだ!私は先に出る!お前はしっかり温まってこい!!」
ザバッと音を立てて立ち上がり、急いでバスルームを出てしまう。
簡単に体を拭き、髪にはバスタオルを巻いて女子部屋に戻った。
まだ胸がドキドキと鳴って痛い……
まったく、心臓に悪い奴めっ!!
▼トウヤ視点
「ドキッ嬉し恥ずかしエルザと密着混浴大会、ポロリはないよ!」から少し経ち、我らがギルドに帰ってきた。
いや、アレは何だったんだ、本当に。
あの話を風呂場でする意味あったか???
俺の心臓を爆発させて暗殺する依頼だった、とか言われたら納得できるレベルで緊張したぞ。
その……背中同士でくっついてただけだけど、すごくこう、シトっとしてて気持ちよかったです。
いや、そんな事よりギルドについてだ!
ついに新ギルドが完成していたのである。
旅行に出る前に大分完成に向かっていたし、旅行も一週間も(その内、2日目は楽園の塔を駆け、そこから6日目の夜まで眠っていた)あったからそこまで不思議ではないのだが、知らない内に完成していたとなると何だか不思議だ。サプライズ的な感動が増える。
外観は城塞のような豪華なものになり、門から建物までの間にはオープンカフェが配置されていた。解放感があって非常によろしい。外で食べる刀というのも乙なものだ。
入り口にはグッズショップが開かれており、様々な『妖精の尻尾』グッズが置かれている。ギルドマークの入った特製Tシャツや、リストバンド、タオル、魔水晶などがあった。ちなみに俺は、アルマと自分の分のマグカップを買っておいた。
変わり種では、『妖精の尻尾』魔導士たちのフィギュアなどというものもあり、実はこれが一番人気だという。
女性陣のものが下着姿にキャストオフ可能で、十中八九そのせいで売れてるんだと思うんだが……マカオとか買ってそうだし。
俺?
俺はさ……ホラ、アルマに見つかるとさ?ね?
あ、でも招きネコ的な感じで
ちなみに、売り子のマックスによれば、俺のフィギュアは魔除けとして奥様方に人気なんだとか。解せぬ。
いや、我ながらご利益ありそうだけども。
「お、トウヤ!帰ってたのかい?早く中に入んなよ」
そうカナに引っ張られて入った建物の中も、凄まじい変わりようだった。
全体的にキラキラしてる感じがする。
酒場には整然と机や椅子が並べられ、最奥にはステージが置かれている。
その奥にはなぜかプールがあったり、地下にビリヤード、ダーツなどが楽しめる遊技場があったり……
他にも、クエストは勿論別だが、S級じゃなくても2階に行っても良い事になったらしい。
えー!超ワクワクするんだが!
ビリヤードしたい、ビリヤード。
そういった感じで地下に行こうとウズウズしていた俺に声がかかった。
「帰ってきたか、バカタレども」
若干ドヤ顔のじいちゃんが歩いてくる。
後ろに女性を連れているが……あれ?
「新メンバーのジュビアじゃ」
おお、ジュビアじゃん!
『妖精の尻尾』に入れたんだな……いやぁ、これでグレイにアタックしやすいというものだ。
「がんばれよ~」と「よろしく」という気持ちを込めて、スッと手を挙げておく。
すると、丁寧にお辞儀を返してくれた。
「おお!本当に入っちまうとはな!」
そんな風に喜ぶグレイや、「アカネビーチでは世話になったな」と声を掛けるエルザ。
それを見たじいちゃんは「知り合いか……?」とサプライズが失敗して落胆した様子だ。
「じゃあこっちはどうじゃ!?」
と、もう一人いた新メンバーを呼びつけたが、このメンバーには流石に驚かされる事になった。
「ガジル!?」
前ギルドを壊した張本人が現れた事で、グレイやナツ、エルザは顔を険しくして「どうしてコイツが!?」と声を荒げている。ルーシィなどは怯えているようだが。
話を聞くに、孤独を好むガジルを心配してジュビアがウチを紹介したみたいだ。
俺としては別になんでもいいかな。
妖精の紋章を刻んだなら守るべき家族だ……まぁ、守る必要はなさそうだが。
じいちゃんが良いと言ったなら、おそらく大丈夫さ。
レビィ達シャドウギアがどう感じるか、という問題もあるが、そこら辺も解決しているのだろうし――
と、ふと視線を逸らすと、遠まきに怯えた目つきで「全然気にしてナイヨ~」とおどおど呟くレビィと、鋭くガジルを睨みつけているドロイ、ジェットが目に入ってしまった。
あぁ、解決してねーな、コレ……
ま、まぁ、ここは一肌脱ぐか、とガンつけている他のヤツらをのけて、「よろしく」と手を差し出した。
が、ガジルは腕を組んだままで
「慣れ合うつもりはねぇ……だいたいテメェはキャラが被ってんだよ」
と宣った。
あぁ~ね、食べる物とか似てるよね、うん。
目つき悪いし、あんまり喋らないし、うん。
え、俺こんなに怖いかな……?
地味にショックだなぁ。
すると、俺の心を写したようにギルドの照明も暗くなってしまう。
……と思ったが、これは何かイベントが起きる合図のようだ。
周りの事情を知ってそうなヤツはそわそわとして嬉しそうだし、ところどころで「メインイベントが始まるぞ」といった声が聞こえてきている。
何がはじまるのかと期待していると、酒場奥のステージにスポットライトが当たり、ギターを持ったミラの姿が目に入った。
ミラは手に持った楽器と、宙に浮かぶマイクで仕事に出る魔導士に当てた歌を奏でる。優しい歌声が酒場全体に広がり、ガジルに抉られた俺の心も癒されていった。
と、ここまでで終われば良かったのだが……
「痛てぇー!今わざと足踏んだだろ!?」
というナツの声が響いた。
それに反応してしまう輩が数人。
「ミラちゃんが歌ってんだろ!」「暴れんなコノヤロー!」「物投げたの誰だコラァ!」「私のケーキが……」と、どんどん連鎖して騒ぎが広がっていく。
いつの間にか、ミラまで空気を読んで、バラード調からロック調に曲が変えたようだ。
「はぁ…………」
俺は溜息を吐きながら、ルーシィやウエイトレスなどの喧嘩に参加しない人達の方へ歩いていき、飛んでくる椅子や机をぶった斬っていく。こういう乱闘が始まると、俺は大体、こんな感じで、ケガ人を出さないような立ち回りをしてしまう。たまには俺もギルドの奴らと喧嘩してみたい、といった気持ちもなくはないのだが……
――あ~あ、新しいギルドがもう傷だらけだよ……ったくもうさぁ。
いつも結局こういう呆れの気持ちが勝ってしまう。
ま、でもこういうのが俺達らしさなのだろう。
新しいギルドの雰囲気に馴染めず、機嫌が悪そうだったナツが楽しそうに笑っていたのを見て、俺も少しだけ笑った。
▼三人称視点
『妖精の尻尾』が新ギルド完成に沸いていた頃、別のところでは暗躍者たちの会話が繰り広げられていた。
泡の浮かぶ浴槽から、豊満な肉体を覗かせる黒髪の女が、脇に置いた通信用魔水晶に話しかける。
「評議院は責任問題が大きすぎて、しばらくは機能しないでしょうね……組織解体もありえるわ」
たゆんと胸を揺らしながら髪をかき上げる仕草にはえも言われぬ色気が漂っていた。彼女は風呂に入っているのが熱くなったのか、脚を組み、白磁のようなすべらかな太ももを露出させる。
『見事だ、ウルティア……で、ジェラールはどうなった?』
魔水晶から聞こえるしわがれた声を聞き、厚い唇を妖艶に歪めさせた女。
その正体は声の言う通り、ウルティア・ミルコビッチだ。かつてはジェラールに従い、ゼレフ復活の為に協力していた女性である。
楽園の塔の折には、ジェラールのエーテリオン投下発議に真っ先に賛成し、投下後も自らの持つ強力な
「さぁ……死んだんじゃないかしら?」
しかし、その悪戯気な返答には、以前のジェラールとの蜜月な関係性を感じ取る事は出来なかった。
楽園の塔での失敗で見限られてしまったのか。
否、そうではない。
『哀れな男だ。利用しているつもりの女に、逆に利用されていたとも知らず……』
最初からジェラールなど、ウルティア、そして彼女の所属する闇ギルドにとっては、駒の一つにしか過ぎなかったのだ。
ゆっくりと風呂から上がったウルティアの背中に、タラリと雫が流れ、それが心臓を模した紋章をなぞっていく。これこそが、彼女の所属するギルドの紋章だ。
その名も『
「私は楽しかったわよ?……だって彼、8年間ずっと私がゼレフの亡霊のフリをしていたって事に気づかないんだもの」
しっとりとした黒髪を拭い、妖しい魅力を放つ肢体をバスタオルにくるんでいくウルティア。
『洗脳の甲斐あって、コトは順調に進んでいる……評議院をも巻き込んだ騒動のおかげでコチラは好きに動く事ができたのだからな』
少しの報告を済ませ、通信を切ってバスルームを出ながら誰に言うでもなく呟く。
「ホント、気の毒な人。ゼレフ復活だなんて……ゼレフは今も生きていて、ただ眠っているだけだと言うのに」
ふふ、と笑うその姿には危険な魅力が漂っていた。
あともう1話挟んでバトルオブフェアリーテイル編に入る予定です。
大体プロットは考えたんですが、トウヤ君がBoFメタ過ぎて……
石化は解除できるし、術式も踏みつぶせるしで、最初からいられるとそもそもゲームが開始できないと泣くラクサス君が見えた。