斬魔の妖精   作:ベジタブル

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18話「穏やかな日々」

▼トウヤ視点

 

俺達がギルドに帰ってきた翌日、新築記念という事で週刊ソーサラーから取材が入る事になっていた。

週刊ソーサラーとは、毎週水曜発売の魔法、魔導士についての専門誌だ。新登場の魔法商品や、話題のギルドの情報に魔法関連のニュースなどを扱っている。とはいえ、そこまで硬い内容のものではなく、有名魔導士のコラムや、美人女性魔導士のグラビアが載っていたりもするのだ。ウチのギルドで言えば、ミラが数回モデルになっている。ちなみに俺は毎週買っているが、ミラが載っている刊はきちんと保存してある。

ミラのグラビアを除けば、『妖精の尻尾』についてはお騒がせ記事として載っている事が多いと言えるだろう。過去には「歴代お騒がせ妖精の尻尾(フェアリーテイル)事件特集」なるものまで組まれていたと記憶している。何かと物を壊すナツや、全裸徘徊のグレイ、天然でやらかすエルザを筆頭にして色んな事件が取り沙汰されてきたが、俺についての記事は驚くほど少ない。

そもそも普段の仕事ではトラブルは起こさないからだ。また、しょっちゅう絡まれる闇ギルド関連については、娯楽雑誌的にあまり大きく扱えないのか、情報規制がかかっているのか、俺の名前が出される事は少ない。純粋に、たまたま出くわして絡まれて、ノリで全滅させてしまうから、いつの間にか壊滅してた、とかで俺の存在に気づかれていないだけな気もするが……

 

俺って地味すぎ……?

 

という訳で、今回の取材では少しでも存在感をアピールしようと思う。

新品の藍色の羽織を下ろし、アルマに身だしなみのチェックもしてもらった。

 

いざ、という気持ちでギルドまで来てみると、すでにやんややんやの大騒ぎだ。自然体で騒いでいるヤツもいれば、俺のように取材だと意識してソワソワしているヤツもいる。ルーシィはおめかししているし、エルザ――鎧を脱ぐ時間は増えたが、単純に着ている方が落ち着くらしい――は新調の鎧を着ている。

 

「ルーシィ、エルザ」

 

「あ、トウヤ!」

 

「ほう、お前も新しい衣装にしたのだな」

 

「ホントだ。見たことないやつ着てる!いい色ね!」

 

2人ともすぐに気づいてくれて嬉しいです。

そこでルーシィが自分の番とばかりに、両手を広げてその場でくるりと回転してみせた。

 

「ねぇねぇ、あたしもおしゃれしてみたんだけど……どうかな?」

 

髪を後ろで纏め、ピンクのキャミソールとホットパンツで露出は多いが、ルーシィの活発さとセクシーさが出ていてかわいいと思います。

ていうか、その上目遣いで見てくる感じ凄くグッとくる……

 

「良いと思う」

 

グッと親指を立てて言う。

「そっか!」と嬉しそうな反応を示してくれて良かった。

こういう時の語彙力のなさヤバいからな、俺。

 

「では私はどうだ?」

 

今度はエルザが前に出てきた。

妖精の羽根のような意匠が付いた鎧は『妖精の尻尾』らしさを出しつつ、カッコよさを演出している。また、短めのプリーツスカートから覗く生脚も健康的で良いと思う。

でも、「良いと思う」はもう使ってしまった……残弾が無いぞ!?

 

「……素敵です」

 

「そ、そうか。ありがとう」

 

エルザは少し赤くなって顔をプイッと背けてしまった。

怒らせてしまったのだろうか?

褒め言葉の練習とか、アルマと一緒にやってみようかな……

 

そう悩んでいると、入り口の方から嗅ぎ覚えのない匂いが入ってきた事に気づいた。

 

「Oh――!!ティターニア!!本物のエルザじゃん!!COOL!!!」

 

という暑苦しい挨拶(?)が聞こえ、振り返ると、超ハイテンションで膝スライディングをかましてコチラに近づいてくる男が1人目に入る。おそらく、この人が記者の方だろう。カメラ持ってるし。

それにしても、やたらテンション高いし、『妖精の尻尾』のTシャツを着ているし、さてはこの人、ウチのファンだな?

それならば、知る人ぞ知る――自分で言うの悲しい――俺の事を取材してくれる可能性も高いとみた。

 

「もう来ていたのか、見苦しい所を見せてしまったな」

 

代表して受け答えをしたエルザが、酒場で行われている飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎを指して謝るが、記者さんは気にするどころかむしろ歓迎しているようだ。何でも「こういう自然体を期待してた」とか。

 

「良かったらいくつか質問に答えてくれないかい?」

 

「かまわないが……」

 

エルザと記者さんはそのままインタビューに入るらしく、2人で向こうの方に行ってしまった。

そして、この場には必死にアピールしつつもスルーされた俺とルーシィだけが残った。

 

「あたしの知名度ってやっぱこんなモンか……ていうかトウヤもスルーされるんだ」

 

「……うん」

 

悲しい。

あ、エルザがなぜかバニー服に換装し(きがえ)た。

どういう流れでそうなったかはさっぱりだが、やはりああいう派手さが必要なのだろうか?

 

「俺達も……ああいうの着るか?」

 

「バニーを!?トウヤが!?!?」

 

「やめてください!!」

 

まったくもう、といった様子で俺に突っ込みを入れに来たのはアルマだ。

 

「だいたい、トウヤの顔が売れても大していい事は無いでしょう?……闇ギルドに絡まれる回数が増えますよ?」

 

う、それは嫌だな……

 

「悲惨ね……」

 

うるさいやい、ルーシィ。

 

「まぁ、私達は私達のペースでやりましょう。評価してくれる方達はきちんといるんですから」

 

そうだよな……

マスター(じいちゃん)が認めてくれたからS級になれているんだし、仲間達の中で俺を蔑ろにしてる奴なんていない。

ちょっと目立ってる奴らが羨ましくなって、大事な事が見えなくなっていたん……

 

「Oh!!アルマ!!そんな小さい体でどうやって家事をこなすんだい?本当にクールだよ!!」

 

「え!?え?……ま、まぁ日ごろの努力の賜物です……そう褒められると照れてしまいますね」

 

アルマを見つけてバビュンと飛んできた記者さんに話しかけられ、驚きながらも答えていくアルマだったが、横で俺とルーシィが白い眼を向けている事に気づいているかい?

 

「「アルマ…………」」

 

「こ、これは違います!聞かれてしまえば、答えなくては失礼というものでしょう!?もう、トウヤ、ルーシィ!」

 

まぁ、そりゃシカトしろとは言わないけどさ……

と、不満タラタラの目でアルマを見ていたのだが、記者さんはアルマが俺の名を呼んだ事でようやく俺の存在に気づいたらしい。

 

「も、もしや君が斬魔のトウヤかい!?ほ、本物だぁーー!!超COOOOOOL!!!」

 

おおお!!?

この反応だよ!!

やっぱ嬉しいよなぁこういうの!ついに俺の時代到来なんじゃないのか?

……ま、まずは明るく、フレンドリーに返事をしなきゃな!

 

「…………………………ウム」

 

「無口!!超クール!!」

 

ウムってなんだよ……………

まぁ、記者さん喜んでるし別にいいか……?

 

「オレ、ジェイソン!実は今回の取材ではナツとトウヤの話を是非聞きたいと思っていたんだ!」

 

なんだと!?

これはやはり俺の時代だ!

ここで完璧な受け答えをして、意外と気さくで優しい魔導士、トウヤ・グレイスとして有名になるんだ!

 

「く、くるしゅうない………」

 

ああ、もう!!

殿か!!?

さっきから汗が止まらない……アルマは頑張れという視線を送ってくるだけだし、ルーシィは「やるしかない!」とどこかへ行ってしまうし、誰も頼れないぞ……!

 

「トウヤ・グレイスといえば闇ギルド討伐だよね?どういう経緯であんなに多くの闇ギルドと戦う事になったんだい?」

 

いや、それは偶然出会った所で、(ガン)つけてると勘違いされて襲われてるだけで、別にそんな深い理由とかはないんだけどな……

あ、でもコレ不憫エピソードとかで怖い印象を払拭できるんじゃ……?

 

「は、歯向かう者を血祭りに上げただけだ」

 

違う!違うの!!

いう事聞いて、俺の体!!

もうさっきから緊張で足がガックンガクンなんだよ!!

 

「COOL!COOL!超COOOOOOL!!」

 

もう喜んでるからいいかな……

 

「じゃあ、じゃあ、トウヤは剣を食べられるんだろう?好きな刃物とかあるのかい?」

 

む、それは難しい質問だな……

やはり、東洋の刀が一番だが、その中でもどこの刀匠が一番か、とか、どの形状がおいしいか、となると詳しい話をしなくてはならない。

それに、そういったものは手に入りにくい。その意味では普段よく食べるものから選ぶべきかもしれないし……

俺に全てを説明できるのか…?

 

そう1人悩んでいる俺だったが、急に辺りが暗くなった事で正気に戻る。

この演出は昨日も見たが、ミラがもう一度歌うのか?

そうステージの方に視線をやるが……

 

「オレを雇ってくれるギルドは数少ねぇ♪」

 

違う!?

なぜかバニー姿のルーシィをバックダンサーに起用して、自らはアコースティックギターを握ったガジルだ!?

 

「たとえかつての敵だとしても 友と思い歌ってみせよう♪」

 

ぼび~んとギターを鳴らして弾き語るガジル。

ギターは超絶下手だが、言ってる事的には、あいつも不器用なりに『妖精の尻尾』に馴染もうとしているのが分かって少し嬉しくなる。

昨日「キャラ被ってる」とバッサリいかれた時はどうしてくれようかと思ったが、いいとこあるじゃないか。少し見直したぞ。

 

「オレが作った曲だ……『BEST FRIEND』聴いてくれ」

 

なんだか少し緊張が和らいできた。

こういうのはやっぱり自然体で答えるのが大事なんだよな……

 

ってジェイソンいねぇ!?

いつの間にか、最前列で聴きに行ってる!?

 

「カラフル カラフル シュビドゥバー♪

 恋の旋律~♪ 鉄色メタリック~♪」

 

そして歌詞ひでぇな!?

 

「……トウヤは頑張りましたよ」

 

アルマが俺の頭を撫でてくれる。

ちなみに、後日発売された週刊ソーサラーではガジルの歌が大きく取り上げられており、俺の記事は端の方にちょこんとあるだけだった。

ガジル許さねぇ……

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

『妖精の尻尾』特集の載った週ソラが発売されてから少し経った現在、俺はミラと2人であと数日に迫ったマグノリア収穫祭に向けての買い出しに来ていた。

なぜ街が祭りをするからといって買い出しに出る必要があるのかといえば、2日間開催される祭りの最終日、その夜に大きなパレードをするからだ。“ファンタジア”と呼ばれるこのパレードは、大陸中からわざわざ見に来る人がいるほど毎年盛大に行っている。

俺も当然参加するのだが、ナツのように火を噴ける訳でも、エルザのように剣を浮かせて乱舞させられる訳でも、エルフマンのように怪物に変身できる訳でも、女子のようにいるだけで華を添えられる訳でもない俺は、毎度地味なポジションや裏方に徹す事になる。

ミラと買い出しに来ているのもその一環なのだが、買った内容がいつもと若干違う気がして、疑問の目をミラに向けてみた。

 

「あぁ、今年は1日目にちょっとした出し物をするのよ。ミスフェアリーテイルコンテストって言って、私も参加するから応援してね!」

 

へー、ミスコンかぁ。

ウチの女性陣は美人揃いだから、相当熱い戦いになりそうだ。

今は誰がエントリーしているのだろうか?

 

「今はね……確かカナ、ジュビア、エルザ、レビィ、ビスカ、ルーシィがエントリーしてるわよ。私を入れて7人ね」

 

カナはエキゾチックビューティーって感じで色気が凄いし、エルザやミラは押しも押されぬ『妖精の尻尾』の看板娘だ。ルーシィは知名度こそまだまだだが、素材は抜群に良いし、作戦が嵌ればいい勝負ができるだろう。

ジュビアやビスカは特定の男子がいるから厳しいかもしれないが、あの2人は狙った票が取れれば満足だろう。ジュビアは兎も角、ビスカとアルザックはそろそろハッキリさせて欲しいものである。

そういう意味では未知数なのがレビィかもしれない。おそらく『妖精の尻尾』きっての清楚かつ常識人だと思うが、それがどう転ぶのか。あと、一応ジェットやドロイとの三角関係でもある訳だが、こちらはどう響くのはというのも気になる。ただまぁ、あの2人は完全に相手にされていないというか、恋愛対象として見られていない感じだからなぁ……

俺もレビィとは本の貸し借りなどでちょくちょく話すが、割と仕事中の愚痴は多い。主に、ドロイとジェットが先にやられてしまってその尻ぬぐいをした、という話だ。確か3人は幼馴染という話だが、その立場に胡坐をかいていたら、ポッと出の男に取られてしまいそう。

というか、冷静に考えると、『妖精の尻尾』で育った奴らなんて大体幼馴染なんだから、そもそもアドバンテージにもならないのではないのだろうか。

 

「ねぇ、トウヤ」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべたミラが、ミスコンに思いを馳せていた俺に問いを投げかけてきた。

あ、この顔は困らされるやつだ。

 

「トウヤは誰に投票するの?」

 

えっ、あ、うーん……

そりゃこの場で答えるならミラって事になるだろうが、そんな答えを見透かせないミラではあるまい。

ジュビア、ビスカは除外して考えても、みんな身近過ぎるが故に皆関わりが深くてなかなか決め難いな。

ルーシィはファントムの後のほっぺちゅーの一件から正直意識してしまっているし、エルザはこの前の件から雰囲気が大分柔らかくなり、女性的な魅力が増したように思う。カナは3年程修行を見ている仲だ。一生懸命取り組んでいる様子を見ている分、思い入れは深い相手と言えよう。その3人程関係が深いとは言えないが、レビィだって十分魅力的な女の子だ。

ミラも普段は抜けているところが目立つが、アルマの次に世話を焼いてもらっている自覚がある。俺の気持ちをすぐに読み取ってくれる人の1人だし、俺があんまり掃除をさぼったりすると、アルマのヘルプに入って家事を手伝ってくれている。

いや、もうホント自分でやりなさいって話ですよね、すみません。もちろんミラが来たときは俺だって一緒にやるんですよ?それがアルマの作戦な気もするが。

あと、たまに家族2人(ミラとエルフマン)では余るから、と持ってきてくれるおかずはめちゃくちゃ美味しい。(ただ、大食漢のエルフマンをして食べきれないとなると、3()()()作ってしまったのではないかと、しんみりとしてはしまうのだが)

それに何より、こうして見るとやはりとびきりの美人だ。

白雪のような髪、優し気でクリッとした瞳、スッと通った鼻筋に、額を出していて快活さを感じさせる髪型も可愛らしい。週ソラのグラビアを何度も飾ったスタイルは文句なしに抜群だし、ふとした仕草にも女性的な魅力が詰まっている。さすがは『妖精の尻尾』のアイドルだ。いや、もうホント、昔の面影どこ行った?

 

「もうっ!そんなに見ないで……ちょっと恥ずかしい」

 

「す、すまん……」

 

長考に入ってしまったせいで、ますますミラに投票するとは言いづらくなった……

というか、そもそも目の前にいるのに「入れるよ」って言うの凄くハードルが高いのでは?

でも、別の人に入れるって言うのも嫌な奴だよな……?

どうすればいいんだ……!?

 

 

「ふふ、そんなに悩むならもういいわよ。当日のアピールタイムを見て決めてね」

 

 

思い悩む俺に向けて、ミラは唇に指を当ててウインクしてきた。

 

やっぱミラに投票しよ……

 

余りに可愛い仕草のせいで頭の中が蕩けさせられていたところに、コロコロとボールが転がってきた。俺の足にゆっくりとぶつかって止まったので、持っていた荷物を片手にまとめ、空いた方の手でそれを拾う。おそらく子どもが遊んでいて、こちらに飛ばしてしまったのだろう。持ち主を探さなければ。

と、道の少し先に何かを探す素振りを見せる小さな男の子を見つけた。

あの子だなと思い、ボールを転がす姿勢を取ろうとしたのだが、それより先に子どもの方がこちらに気づいて嬉しそうな顔をする。

が、俺と目が合った途端、すぐに泣きそうな顔になってしまった。

 

「ふふ……トウヤ、貸して?」

 

泣き叫ばれれば俺には弁明不可能だ。最悪逮捕されてしまってもおかしくない。

大人しくミラにボールを差し出し、成り行きを見守る。

すたすたと子どもの方へ寄っていき、同じ目線になるようにしゃがみ込んだミラ。そして「よく泣かなかったわね」と頭を撫で始めた。

 

「あのお兄ちゃん、見た目は怖いけど、とっても優しいのよ?だから大丈夫」

 

ほら、今も私の荷物を持ってくれてるの、と続けるミラに少し照れて頬を掻く。

このくらいは男手として駆り出されている時点で当然の事だと思うのだが。

 

「ほんと?」

 

ミラが手招きしているので、こちらも近づいて、ミラにならって男の子と目線を合わせた。少し恥ずかしいが、頭も撫でてみよう。

 

「ボール、もう無くすなよ」

 

「うん!」

 

素直ないい子だ。

久しぶりに子どもとこうして話せた気がする。ミラ様々だなぁ……

その後少しだけ話をしたが、お友達が待っている事を思い出した少年が「いかなきゃ」と言って、たったったと駆けていってしまった。

 

「おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばーい!」

 

走りながら大きく手を振ってくれるので、俺達も小さく振り返しておく。

前を見ていないのでこけそうだと心配していたが、無事に路地を曲がって見えなくなってしまった。

それを見送ったミラが、ふふと笑ってこちらを見てくる。

 

「子どもっていいわね……凄くほっこりするわ」

 

「あぁ……」

 

「最近は新しいギルドができて活気が増してきてるし、収穫祭も近くて楽しみだし……なんだか、こういう穏やかな日がずっと続けばいいのにって思っちゃうな」

 

確かに、ギルドに居る時くらいゆっくりしていたいもんな。

冒険をするのはクエストに出た時で十分だろう。もう二度とファントムの時のようなギルド全体を巻き込む面倒ごとは御免だ。

 

「現役を引退して、確かに毎日の刺激は少なくなったけど、ギルドの皆が元気に帰ってきてくれるのを待つ、そういう生活も気に入ってるの」

 

帰ってくるのを待つ、か。

俺はいつもミラにおかえりと言われる側だからそちらの事は分からないが、いつもその言葉にホッとしている自分がいるのは確かだ。

俺にできる恩返しはそうだな……それこそ、ミラの言う通り、元気に帰ってくる事なのかもしれない。

 

「……ケガしないようにしなきゃな」

 

お願いね、と笑うミラ。

 

ふと、その笑顔に、失ってしまった少女の姿が重なってしまった。

 

元気に、怪我なく帰る。

大事な事だ。

俺達の仕事は常に危険と隣り合わせ。

失敗すれば帰る事すらできなくなってしまうのだから。

 

「トウヤ、行きましょ?」

 

気持ちが沈んでいる事を察したらしいミラがこちらに寄ってきて、上目遣いに俺の袖をクイと引っ張り急かしてくる。

考えてみれば、男の子と会ってから何となく足が止まったままだった。ギルドでは今持っている荷物を待っている奴もいるはずだし、これ以上油を売っている訳にはいかないだろう。

 

「そういえば……」

 

そこで何かに気が付いたような様子のミラが、俺に耳を貸すように手招きしてくる。

その顔は、さっきまでの俺のしんみりとした気持ちを吹き飛ばす太陽のような笑顔だった。

 

「さっきの私達……2人で子どもをあやして、夫婦みたいだったわね」

 

それだけ囁いたミラは、さっさと前へ向き直って歩いて行ってしまう。

俺も遅れてそれに付いていくが、決してミラの横に並ぶ事はしなかった。

理由は簡単で、自分の顔をミラに見られたくなかったからだ。

 

は~、顔が熱い。

 

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