斬魔の妖精   作:ベジタブル

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呪歌編
2話「最強チーム結成…?」


▼トウヤ視点

 

「今日はここまで」

 

俺は現在、自宅の近くの山にて普段からしている修行を行っていた。

しかし、完全に普段通りという訳でもない。今日の鍛錬はカナ・アルベローナと2人で行っているのである。

2年ほど前、カナとはとある“約束”を交わしており、そこからお互いの時間が合えば俺がカナの戦闘訓練を見てやる、という関係になったのである。

 

「ハァ…ハァ……まだまだあんたには敵わないねぇ」

 

そう言うと、カナは癖のある茶髪をガシガシとかき上げる。

 

「いや……」

 

「伸びてきてるって?…そういってくれるなら嬉しいけどね」

 

カナの魔法は所持(ホルダー)系で、特殊なカードを使って戦うものだ。的確な判断の元にそれらを扱う事が肝要になるため、俺が相手役となって兎に角ひたすら戦闘訓練を行い、経験値を増やしていっているところなのである。出力上昇も重要だが、正直に言ってしまえば滅竜魔法のノウハウが他の魔法に応用できるとも思えないので、そちらに関しては本人の努力に丸投げしている。不甲斐ない師匠ですまない……

そして、その戦闘訓練は着実に実を結んでいると言えた。

 

「この調子なら……」

 

今年のS級昇格試験に合格するかもしれない。

 

「あぁ、そうだね。今年こそは…!」

 

「ん」

 

「じゃあその為にも、次の修行に備えて、まずは酒を呑んでリフレッシュしないとねぇ!」

 

……なんだか不安になってきた。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「今日こそ一緒に呑んでもらうからね」「やだ」「何でさ!?」などと会話をしながらギルドの前まで向かうと、何やら妙に騒がしい事に気が付いた。

そういえば今はマスター(じいちゃん)がクローバーで行われる定例会で不在のハズだが、それに関係しての事だろうか。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)』は基本的にどこまでも自由なギルドだが、マスターともなるとそうは言っていられないらしく、近隣の魔導士ギルドのマスターが多く集まる定例会なるものに出席しなくてはならないそうだ。魔導士ギルドでありながら法を無視して悪事を働く闇ギルドへの対策、そして正規ギルドの連携の為に必要なことらしい。

闇ギルドの奴らは本当におっかないのである。成り行きとはいえ、少なくない数をつぶしてきた俺としては、ギルド建物内部で行われていた民間人への凄惨な仕打ちや、怪しげな実験などを思い出して身が震える思いである。ついでに、いつか報復されるのではないか、という意味でも戦々恐々としてしまう。

とはいえ、今回のこととそれらは関係なさそうだ。

覚えのある女性の匂いがギルドの中からしたのである。

 

「なんだいこりゃ?」

 

「ん……帰ってきてる」

 

「誰が?」

 

「エルザ」

 

「いぃ!?」

 

カナは心底ビビったというような声を上げるが、それが良くなかったのだろう。エルザがその声に反応してギルド入り口へ振り向いてしまう。

 

「カナ、今来たのか……まったく相変わらずの格好だな」

 

と早速お小言をこぼすエルザ。久しぶりに帰ってきて第一声がそれか、という思いはあるものの、言っていることについては全面的に同意である。

何を隠そう、このカナという女、ローライズで7分丈のパンツを履いた下半身は兎も角、上半身はビキニのようなブラジャーのような、そんな布1枚なのである。

へそ出しどころか、ほぼ全出しなのである。

それも、めちゃくちゃスケベな身体をしているのである。

正直、目のやり場に困るのである。

戦闘訓練中も集中しきれない時があるのである。

もしそういった作戦であるならば、なかなかの策士なのである。

 

「おかえり」

 

「あぁ、トウヤか。ただいま。今はギルドにいる時期なのだな。お眼鏡に叶う依頼が無かったのか?いつかお前がクエストを選ぶ時の規準を解き明かしたいものだが……」

 

あっ、いやそれは……

ぶっちゃけ、目についた範囲の中で一番依頼料の高いものを選んでるだけです……

俺は基本的に面倒くさがりであり、そんなに多くの仕事をこなしたくないのである。その結果、一発大きな仕事をして大金を稼ぎ、貯金が尽きたらまた大きい仕事に行く、という生活サイクルが生み出された。しかし、貯金が減ってきた、という事情が分かるのは俺とアルマだけであり、あくまで「目についた範囲」から選んでいるだけなので他にも高額依頼があったりする上、受けた依頼の難易度がたまたまやたら高かったりするために、殆どのギルドメンバーにとある誤解をされているのである。

曰く、「トウヤの受けるクエストは、アイツの中の高い基準をクリアした質の高い依頼である」「そのような依頼ばかりをこなしたために実力が付き、S級に至ったのである」。

とんでもないデマだ。

結果的に難しい依頼ばかり解決することになったのは、単に俺の運が悪かっただけなのである。一見簡単に見えるクエストも、俺が行った途端に異常な難度になり替わるのだ。「何らかの魔物が街を荒らしているので調査・退治してください」という依頼を受けたハズなのに、実際街に行って頼まれたのは「街を牛耳る闇ギルド1つを壊滅させてくれ」という事だった、などというのはザラである。こんな事故の予兆が自分の中の規準で分かるというなら教えて欲しかったというものである。分かるかっ!

更に言えば、S級魔導士になれたのはマグノリアにいる間に積んだ修行の成果である。それまでのクエスト中の様々な経験が自分の糧になっていない、と言えばウソになるが、S級試験に受かったのは、そのような不運を実力で跳ね除けられるだけの実力を修行で身に着けたからだと言えよう。

 

「そんなことより、トウヤからもカナに言ってやってくれ。この格好はないだろう」

 

「分かってないねぇ、エルザも。トウヤだって男なんだから喜んで……」

 

「痴女」

 

「トウヤ!?」

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

トウヤでもあんな事言うんだ……

短くまとめられちゃった分、余計ダメージ大きそうかも……

トウヤの返答に満足そうにしているエルザさんは、マスターへのお土産と言って持ってきた巨大な怪物の角から手を放し、腰に手をやると「トウヤがいるなら丁度良い」と前置いた上でナツ、グレイ、トウヤを名指しし

 

「仕事先で少々厄介な話を耳にしてしまってな。マスターがいるなら相談するのだが、早期解決が望ましいだろうとこちらで判断する事にした……3人の力を貸して欲しい、ついてきてくれるな?」

 

そう口にした。

すると、ギルドの面々に緊張が走る。

「どういう事だ!?あのエルザが誰かを誘うなんて…」

「一体なにが起きたって言うんだよ!?」

などと口々に騒ぐ周囲とは対照的に、ミラさんは小さく震えていた。

 

「エルザとナツとグレイ…それにトウヤ……今まで想像したこともなかったけど、これって妖精の尻尾最強のチームかも」

 

「えぇ!?ホントですか!?」

 

「うん……ナツの強さは知ってるでしょ?グレイも同じくらいの使い手だし、トウヤとエルザなんてS級なのよ」

 

S級?

何度か耳にした単語だけど何のことなのかしら。

 

「ルーシィ、S級魔導士というのは、S級クエストを受けられるメンバーの事を言うんですよ。年に1度行われる厳しいS級昇格試験と呼ばれる試験に合格した者のみが名乗れる称号です」

 

あたしにそう教えてくれたのはアルマだ。心なしか憂いに満ちた顔をしているように見える。

 

「その分S級のクエストは他の仕事と比べ物にならないくらい危険なの。だから、資格をもってるのはエルザとトウヤを含めてギルドに6人だけなのよ」

 

「逆に言えばそんな2人が出張らなければならない問題が発生したという事でもあります……」

 

そっか…そういう見方もできるわよね……

ひぃぃ、あのナツより強い人が2人も必要になる事態ってどんな恐ろしい状況なのかしら。

 

「大丈夫よアルマ、あの4人が負ける訳ないもの。それに……そうだ!ルーシィも付いて行ったらどうかしら!」

 

「なんで!?!?」

 

「ほら、ナツとトウヤは乗り物苦手だし、そのフォローが必要じゃない?それにルーシィもギルドでトップクラスの実力を持つ4人の仕事を見ることができるわよ?」

 

そのフォロー必要かしら…?

というかトウヤも乗り物酔いが酷いのね。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)特有の問題なのかしら。

 

「確かに、名案かもしれませんね…グレイとナツはその、なんというか仲が悪いですし、そのフォローもお願いしましょう」

 

えぇ…ホントに行くのぉ……?

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

一旦『妖精の尻尾』の女子寮であるフェアリーヒルズの自室に戻り出発の支度を整えるというエルザに付いていき、荷物を持つ手伝いをすることにした。

理由としては2つある。

まずエルザの荷物は異常に多いという事を知っていたからだ。エルザの膂力なら問題はないだろうが、早ければ早いほど良い状況であるのでエルザも承諾してくれた。勿論フェアリーヒルズには入っていないが。

そして、早いうちに今回の事情を聞いておきたかったからだ。二度手間になるかとは思ったが、エルザに指定された集合場所がマグノリア駅である事を考えると、グレイ達と一緒に聞くわけにはいかなかったのである。俺たち滅竜魔導士には極端に乗り物酔いに弱いという弱点がある(といっても今のところ実例が俺とナツしかないので確度は高くないが)。エルザが移動の間に説明する腹積もりなら、俺はその話を聞いていられないのである。

そんな訳で他の四人――ナツ、グレイ、ハッピー、ルーシィ――に先んじてアルマと聞いた話によると、死神エリゴールを擁する暗殺系闇ギルドである『鉄の森(アイゼンヴァルド)』が「ララバイ」と呼ばれる強力な魔道具を用いて何らかの事件を引き起こすつもりであるらしい、とのことだ。

 

「それは確かに……大ごとですね」

 

「このまま私たちで鉄の森に乗り込むつもりだ。頼りにしているぞ、2人とも」

 

「あぁ」

「はい!」

 

ちなみに、その後に4人と合流した時、どうやらルーシィとエルザが初対面だったようで挨拶をしていた。

していたのだが、エルザの聞いていた噂によると、ルーシィは「傭兵ゴリラを19頭なぎ倒した」らしい。

 

「こわ……」

 

「違うから!!!」

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

マグノリア駅から列車に乗ったあたしたち5人+2匹だったが、乗り物酔いでグロッキーになっていたナツとトウヤに気を遣った(?)エルザが早々に2人を気絶させてしまい、3人+2匹+2体の屍というパーティでの行程になってしまった。

初めて一緒に仕事をするという事で、エルザ、グレイと自分の魔法を紹介しあう事になったのだが、結局気絶しているトウヤの魔法がどんなものかは分からず仕舞いであったのが残念である。

しかし、本当に問題だったのは、オニバス駅へ降りてすぐに未だグロッキーのトウヤが指摘した事の方だった。

 

「ナツは……?オェッ」

 

「あ!!」

 

気絶させたはいいが、ナツを列車に置き去りにしてしまったのである。トウヤの方はアルマが(エーラ)を出して運んでいたのだが……

 

「何という事だ…!?これは私の落ち度だ……とりあえず私を殴ってくれ!!」

 

「んな事しても仕方ねぇだろ!ひとまず列車を追うぞ、エルザ。ったく、手の焼ける野郎だな、あいつは」

 

グレイの発言の納得したエルザは「列車を止めて魔動四輪車を借りて追うぞ!」と方針を決めてしまった。

えっ、列車止めるの!?

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

緊急停止信号を受けて一旦停止したナツを乗せた列車を追って、あたしたちの魔動四輪が駆けていく。

有言実行とはいえ、列車を止めるのはやりすぎだと思うんだけどなぁ……

ちなみに、車に乗り換えた後もトウヤは車酔いでボロボロになっていた。今のところこんな部分しか見てないんだけど、ホントに凄い魔導士なのかしら。

 

「クソッ、また列車が動きだしちまったぞ!」

 

間に合わなかったかと悲嘆に暮れかける一同だったが、ガシャンという列車の窓が割れる音と共に現れる影があった。ナツが飛び出してきたのである。

 

「ナツ!すまなかった、私がお前を忘れていったばっかりに…」

 

「エルザ!そんな事よりあの列車追うぞ!」

 

「何?」

 

「あの列車でアイゼン…バルドとかいうギルドの奴と会った!トウヤが言ってた今回ぶっ飛ばしに行くってギルドの奴だろ!?」

 

「何だと!?でかしたナツ!!今すぐ追うぞ、早く乗れ!!」

 

「えっ」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「うっぷ……目的は何も言ってなかった…オエッ……けど、なんか髑髏のついた気持ちわりぃ笛持ってた……うっ」

 

再び乗り物に乗せられ絶望的な表情をしつつも証言したナツの言葉だった。

でも、それって……

子守歌(ララバイ)…眠り…死……呪歌……

あんなの作り話よね……でも、もし本当なら大変なことになる!

あたしの体は最悪の想像によりガタガタと震えてしまっている。

 

「もしかしたら…その笛がララバイ、集団呪殺魔法、呪歌(ララバイ)かもしれない……!!」

 

集団呪殺という物騒な言葉に全員が顔を顰める中、トウヤが口を開く。

 

「俺も読んだ…オエッ…黒魔導士ゼレフの禁断の魔法……聞いた全員が死ぬ」

 

きっとあたしの読んだものと同じ本を読んだのだろう。禁忌、禁断という言葉が付きまとう忌まわしい魔法として紹介されていた。実際、聞いただけで人が死ぬだなんてふざけた魔法、あっていいはずがないわ!

大体、『鉄の森』とやらは、なんの目的があってそんな物を持ち出すっていうのよ。

 

「なんだとっ!?」

 

「本当にソレならマズい……」

 

極度の車酔いによって元々悪かったトウヤの顔色が余計に蒼くなっていく。

 

「どういう事だトウヤ!」

 

そこでアルマも何か恐ろしい事に気づいたように顔を歪める。いや、実際にとんでもない事に気づいてしまったのだろう。怒りと恐怖で顔色が悪くなっていっているのが分かる。

 

「あの列車の行先にはオシバナ駅があります……あの駅は街の真ん中にありますし、何より」

 

そこまで言うとグレイも気づいたようで、焦りが伝染していく。

 

「大規模な放送施設がある!!奴ら呪歌(ララバイ)を街中に放送するつもりか!?」

 

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