斬魔の妖精   作:ベジタブル

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20話まで行きましたね~
果てしなく長いのですが、がんばります!
……しかしまぁバトルオブフェアリーテイルまで20話でいってる小説は珍しいのでは?


20話「魔人」

▼トウヤ視点

 

「トウヤ、よく戻った!」

 

マスター(じいちゃん)がこちらに駆け寄ってくる。

いや、ほんとよく戻れたよね……

森の中で会った奴らを片っ端からボコしたと思ったら、落とし穴、落石、土砂崩れ、激流、エトセトラ……魔法を使わない罠の類いが大量に仕掛けられていたのだ。

面倒になって空を飛べば、すぐに下の奴らに見つかって石やら魔法やら投げられる始末。

うんざりしすぎて、森を叩き斬って道を作ってしまった。

後で方々から怒られるだろうとは思ったが、罠を全スルーできるようになると思って、つい。

ついでに、そんな超常的な現象を見て恐れをなしたのか、襲撃が止んだのは棚から牡丹餅といった感じだったが。

 

「ナイスだトウヤ!これでオレも混ざれるぞぉ!!」

 

「待て火竜(サラマンダー)、抜け駆けしてんじゃねぇ!……一応、礼は言っとくぜ斬竜、ギヒッ」

 

ナツやガジルもじいちゃん同様、こちらに寄ってきたかと思えば一度肩を叩いて街の方へ向かってしまった。

ガジルは兎も角、こんな事になっている状態でナツがギルドに残っているのはおかしいと思っていたが、なるほど、フリードの術式に閉じ込められていたのか。

先ほどギルドの前まで飛んできた時に何かの結界が見えたので、道中の術式と同様に斬り捨ててしまったが、それが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を閉じ込めるものだった訳だ。

なんとなくやった事だったが、もし斬ってなかったら俺も激突していたかもしれない。そうなるとかなりカッコ悪かったろう……

いや、そんな事はどうでもいい。まずはミラ達を解放しないとな。

 

「トウヤ、アルマ。おまえたちは今の状況をどこまで理解しておる?」

 

「大体は」

 

「ここに来るまでに、街の端の方でリーダスと会ったんです。そこで諸々の事情を聞きました」

 

ミス・フェアリーテイルコンテストの出場者たちが石にされた事。

フリードの術式に嵌ったせいで、仲間同士で潰しあっている事。

じいちゃんに頼まれてポーリュシカさんの所まで行こうとしたらフリードにやられてしまった事。

 

仲間の為に何もできなかったと涙ながらに教えてくれた。

こんな風に仲間を思いやれる奴らを無闇に傷つけて、ラクサスは何がしたいんだろうな……本当に。

 

「そうか、ならまずは……」

 

「わかってる」

 

ラクサスに灸を据える事は後だ。

石にされた女の子たちに近づいていく。

皆がみんな、驚いた顔や訳が分からないという顔をして固まっている。石化など、同じ紋章を刻んだ者に向けられるべき魔法ではない。エルザですらエバーグリーンに警戒を抱いていなかったのだろう。そうでなければ簡単にやられる訳がない。その信頼を裏切った事実は重いぞ、ラクサス……

そんな風に思いながらルーシィの肩に手を置く。

 

――スパン

 

あ、やべ。

怒りで出力を間違えた……

 

「……トウヤ?って、きゃああああ!?」

 

石化の魔法だけでなく、身に着けていたチア衣装まで斬ってしまった。

真ん中からスッパリと縦一文字に裂け、内側から徐々にその双丘が露わに……あ、頂上が見え――

 

パァン!!

 

お山の観察に夢中になっていた俺は、横から飛んできたビンタに反応する事が出来なかったのであった。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

ルーシィに1度土下座をキメてから他の面子の石化も解除していった。

以降はちゃんと注意深く斬っていったので、先ほどのような事故は起こらず作業を終えられたのだが……あの、その、アルマさん、視線が痛いです。

ルーシィの方は俺の羽織を渡し、事情を説明した上で、ラクサスのせいでイライラしてたら出力を誤ったと言ったら『まぁいいよ……ああいう事していいのは私だけだからね?』とお許しの言葉をいただけた。優しい。

なぜかその言葉を聞いた後から、アルマの視線が更に厳しくなったのだが、一体なんだと言うのか。

……よく分からんが、多分ラクサスせいだ。おのれラクサス、許さん。

 

「……という訳じゃ」

 

今はじいちゃんがルーシィの後に元に戻った連中へと現状を説明しているところだ。

エルザだけは片目が義眼なせいで魔法のかかりが甘く、大体の事情が聞こえていたようで説明する側に回っているが。多分、俺が来なくてもあと10分もあれば自力で解除していただろう。

俺も一応一緒に聞いていたのだが、まさか先ほど出ていった2人以外は全滅しているとは思わなかった。

それでいて雷神衆は全員生き残っているという……

まぁでもこれは作戦勝ちだろうな。街中にある術式の全てを把握している奴らが負ける事はそうそうない。

が、それはここまでの事。

俺が来たからには術式など関係がない。

それを分かっている女性陣も、大事な人達の敵討ちのため闘志を燃やしている。特にグレイがビックスローにやられたと聞いたジュビアが怖い。悪鬼が見える……

しかも、ギルドを覆っていた結界を壊したという事はマスターも出られるという事。

ガキ同士の喧嘩に親が出てくるのもどうかとは思うが、これでこちらの負けは無くなった訳だ。

と、思っていたのだが……

 

「ここからはワシも参加する。反撃開……」

 

ビーーーーッ!!

 

鬨の声を上げようとしたじいちゃんを邪魔するように、轟音が鳴った。

ギルドの至るところに雷と髑髏の描かれたマークが浮かび上がってきて、そこから怒りを滲ませるラクサスの声が響きだす。

 

『よくもやってくれたなァ、トウヤ……今回の事はコチラの想定を超えた速さで帰ってきた事に免じてペナルティ一つで許してやるよ』

 

ペナルティ?

なんの事だ……?

 

『これからはおまえにもルールに従ってもらうぞ……そのために神鳴殿(かみなりでん)まで起動させてやったんだ』

 

「神鳴殿だと!?貴様!!関係ない者たちまで巻き込むつもりかラクサス!!?」

 

この言葉に間髪入れずに怒号を響かせるじいちゃん。

コチラも何の事か分からないが、この反応からするに良いものではないのだろうという事は分かる。それにこの流れで言うという事は……

 

『制限時間がくれば街に雷が降り注ぐぞ……ジジイがギルドから出ても、トウヤが術式を壊しても一緒だ。それが分かった瞬間、即座に神鳴殿を発動する』

 

なるほどね、街の人間全てが人質って訳か。

 

……本気で言ってんのか?

世界の9割の人間が魔法を使えないんだぞ?

ましてこの街の魔導士ギルドはウチだけ。

もしそんな事になれば、どれだけの人が死ぬと思ってやがる……

 

「安心してください、マスター。私達だけでもなんとかしてみせます」

 

ワナワナと怒りに体を震わせているマスターに向けて、エルザが俺たちの気持ちを代表して言ってくれた。

 

『さぁて、お前程度でできるかな?……リタイアするならいつでも聞いてやるぜ、()()()()

 

そう言ってラクサスは通信を切ってしまった。

くそ……参加できるだけマシだが、これで俺の行動は大分制限されてしまった。もし、先ほどのように出力を誤って術式まで斬ってしまったらと考えれば、おいそれと斬魔の力は使えない。

厄介な事になったと頭を抱えていたのだが、悪い事は続くもの。

 

「待てラクサス!!話は終わって……ぐぅ!?」

 

意味がないと分かっている上で、それでも感情を制御できずに叫んでいたじいちゃんが、急に胸を押さえて苦しみだしたのだ。

 

「マスター!?しっかりしてください!!」

 

レビィやビスカが駆け寄って看病しつつ事情を聞こうとするが、じいちゃんは「こんな時に……!」とだけ呟いて気を失ってしまった。

こんな時に、という事は以前にも同様の事があったと捉える事が出来る。なら、まさかとは思うが、じいちゃんは何かの病気で……

まずいな、今の状態では医者に見せに行く事すらできない。

 

「エルザ」

 

すぐに動かないといけない、そう思ってエルザと目くばせをする。

我が意を得たりとばかりにエルザも頷いてくれた。

 

「非常事態だが、マスターが外に出ていないかを確認する方法が分からない以上、まずはラクサス達をどうにかしなければならない……ひとまずマスターはレビィとルーシィで看病してくれ。他の者でヤツらを叩くぞ」

 

エルザの指示に従って、ルーシィとレビィがじいちゃんを連れて奥のベッドに引っ込んでいった。

それと入れ替わりに、いつの間にか上階のテラスから外の様子を見に行っていたミラが帰ってきて、外に莫大な魔力をため込んだ魔水晶(ラクリマ)が浮かんでいると報告してくる。

確認の為に俺達もテラスに出てみたが、確かに黒い魔水晶が帯電しながら浮かんでいるのが見えた。ぐるりと街を取り囲むように配置されており、その全てから魔力が放出されればマグノリアの街は目も当てられない惨状になる事だろう。

一番良いのは全て破壊してしまう事だが……

 

「こんなの全部私が撃ち落としてやるわ!」

 

スナイパーライフルを換装したビスカが、止める間もなく魔水晶を1つ狙撃してしまう。

 

「きゃああああああ!!」

 

すると、破壊されたラクリマから電流が走りビスカの体に直撃した。絶叫をあげながら黒コゲになるビスカを見て、ハッとした様子のカナが声を上げた。

 

「生体リンク魔法……!」

 

攻撃してきた者と自分のダメージを連結する魔法がかかっているそうだ。うかつに攻撃すれば手痛い反撃を受ける事になるだろう。見た感じ300個はある以上、全て破壊というのはかなり難しい。

やはり罠があったか。

厄介な事をしてくれる……

 

 

「まったく、ホントにアンタは邪魔なヤツね……トウヤ」

 

 

ビスカの容態を確認しようとしていた所に、それはコチラのセリフだと叫びたくなるような声が上空から届いた。

 

ああもう今度は何だ、次から次へと!?

 

そう思って顔を上げようとすると、ゴトリと向かいの建物の天井に何かが置かれた音がした。

声の主はエバーグリーン、音の正体はエルフマンと他数人の石にされた『妖精の尻尾』の魔導士達だった。

 

「やんなるわね、ホント。アンタがいると私たちの準備がおじゃんになるわ……だからコレはそのペナルティよ」

 

宙に浮かんだまま眼下の石像を指さすエバーグリーン。

先ほどラクサスも同じような事を言っていたが、まさか……!?

 

 

「まずはこの筋肉ダルマを砂にするわ……他の石像もアンタが余計な事をしようとする度に砕いていくの」

 

 

な、正気か!?

ちょっと待て、俺の行動のせいでエルフマンが死ぬって言うのか!?

まてまて、そんな理不尽な事あっていいはずないだろ!?

エルフマンはつい最近、ようやく全身での変身が可能になって、今年はS級試験にだって選ばれそうで、ずっと天国のリサーナに笑われないようにって頑張ってきたんだぞ!?

それを……?

よりによってミラジェーンの前で……?

 

「私たちの邪魔をしようとしたことを悔いなさい」

 

ニタニタとした顔のままでエルフマンに手を向けるエバーグリーン。

怒りよりも焦燥が勝ってくる。

俺は正常な判断もできないままエバーグリーンの方へ駆けだしてしまう。

 

「お前えええええええ!!!」

 

いや、この判断はそう悪い手ではないはずだ。

石像を砕かれる前にアイツを即行で潰せばまだ何とかなる!

そう思って床を強く蹴る。

 

強硬策に出た俺に恐れをなしたのか、エバーグリーンは先ほどまでの笑みを消してエルフマンへ魔法を飛ばそうとする。

 

あと1メートル。

 

――間に合え。

 

あと50センチ。

 

あと少しで手が届く。

景色の流れがゆっくりになって、色も薄くなる。

エバーグリーンだけを見つめていても、少しずつ距離が縮まっているのが分かる。

しかし、それでもほんの少し足りない。

俺から逃れるため、後ろへと下がりながらも、その顔は再びいやらしい笑みへと変わる。逃亡者の焦燥ではなく、勝者の余裕。

この後の結末がどうなるか分かっている。

俺のせいでエルフマンが死んだ。その事実を受け止められずにうずくまる俺が見えているのだろう。

あぁ、エルフマン……すまない。

無情にもエバーグリーンの手から魔力弾が放たれようとして――

 

何故かその動きが止まった。

 

何だ?

俺の方、いや更に後ろを見ながら顔を引きつらせている?

 

いいや。

何でもいい、好都合だ。

奇跡的に生まれたチャンスだ。このまま斬り捨てる!

 

しかし、そう思って振りぬいた拳が当たる事は無かった。

それは俺が狙いを外した訳でも、エバーグリーンが回避した訳でもない。

気づいた時にはそこにエバーグリーンがいなかった、これに尽きる。

何故そのような事が起きたのか。

それは、俺の拳が届くより先に、突如飛来した黒い悪魔がエバーグリーンをかっさらって行ったからだ。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

エバーグリーンを地面へと叩きつけた悪魔は、怒りも露わに雄叫びを上げた。

 

 

 

 

▼三人称視点

 

「まずはこの筋肉ダルマを砂にするわ」

 

その言葉を聞いた時、ミラジェーン・ストラウスの時が止まった。

 

自分の弟を明確に指し、殺すと宣うこの女は何だ。

 

敵だ。

 

同じ紋章を刻み、同じギルドに所属し、何度も話した事がある――敵だ。

 

この戦いが終われば、また少し前のような騒がしいけど穏やかで、喧嘩ばかりだけど平和な、そんな日常に戻る事が出来る。

ミラはそう思っていた。

多くの人が傷ついて、それでも死んだ人はいなくて、なんだかんだで罰は受けても、それでもいつかまた雷神衆やラクサスと一緒に笑いあえる。

今回の事もきっとそんな結末になる。

ミラはそう思っていた。

 

だが、そうはならないらしい。

 

石にされて、街中の人間を人質にされて、それでもまだエバーグリーンの事を同じギルドの仲間だと思っていたミラジェーン。

止めなければならないとは思っていても、必要以上に傷つける必要はないのではないか、そう甘い事すら考えていた。

しかし、先の言葉を聞いた瞬間、彼女を縛っていた鎖は千切れ飛び、眠っていた悪魔が目を開いた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

黒い悪魔の咆哮が響き渡る。

それは号哭にも似ていた。

 

私はまた失うのか。

大切な家族が死ぬところをもう一度見なければならないのか。

――否、否である。

そんな事はさせない。

 

黒い悪魔の頭蓋に、白い少女が自分を呼ぶ声がリフレインする。

黒い悪魔の眼窩に、白い少女が自分に手を伸ばす映像がループする。

 

周りにいた誰も――トウヤも、エルザも、カナも、ジュビアも……本人すらも気づかない内に、悪魔と化したミラジェーンがエバーグリーンの頭部を掴んで遥か遠くの地面に投げつけていた。

その悪魔は髪を逆立たせ、頸窩(けいか)から下腹部までぱっくりと割れた赤いレオタードのような衣装に身を包んでいる。攻撃的なハイヒールや、大きな爪のようになっている籠手も目立つが、何より目を引くのは大きく黒い翼と尾だろう。

――接収(テイクオーバー)サタンソウル。

魔法の種類自体はエルフマンのものと同じだが、違いは吸収した対象にあった。エルフマンは魔物の力を使うのに対し、ミラジェーンが使うのは悪魔の力。それは爆発的な力を産み、あらゆる物を吹き飛ばす破壊力を秘めている。

今、宙を踏みエバーグリーンを見下ろしているのは、『妖精の尻尾』の看板娘として愛されるミラではなく、今や現役を退いたはずのS級魔導士、魔人ミラジェーン・ストラウスだった。

 

「あ、アンタ正気!?こっちには人質がいるのよ!?遠隔操作で破か…ぶへっ!?」

 

脅し文句を言いきるより先に、正面に立っていても消えたのではないかと思えるような速度で肉薄したミラジェーンの拳がエバーグリーンに突き刺さった。

横面を叩かれ吹き飛んだエバーグリーンだったが、空中で体勢を整え、自身もまた妖精の翼を広げ宙に立つ。

今の一瞬でまた素早く移動したらしいミラジェーン。

それを見失ったエバーグリーンだったが、莫大な魔力を頭上に感じてそちらに目をやった。

その目に映ったのは両手の平を真下に向け、魔力を収束させているミラジェーン。

これを食らえば自分に確実な死が訪れると感じたエバーグリーンは、魔眼による石化という対抗手段すら忘れ、爆発する鱗粉を撒き始める。

 

「いやぁぁあああああ!!!?」

 

その直後、魔力で出来た光の柱が地面に突き立ち、エバーグリーンを呑み込んだ。

咄嗟に撒いた鱗粉が爆発し、ほんの僅かに威力が殺がれたのか、意識を失うのみに済んだエバーグリーン。

しかし、鋭敏な悪魔の耳にはその胸の鼓動が聞こえてしまう。

この瞬間、エバーグリーンが生き延びる目は消え失せた――かに見えた。

 

 

「消す」

 

 

グングンと、気絶したエバーグリーンの元へ降下していく。

殺気を発し、岩をも穿つその凶拳に落下の勢いを乗せて振りぬいた。

 

 

 

――その瞬間、灰色の影が割り込み、ガツンと硬い音が響いた。

 

 

 

「トウヤ……」

 

その正体は、ミラの拳がトウヤの石頭に阻まれた音であった。

トウヤの頭部からは血を吹き出し、その脚を突き立てた地面は無惨にもひび割れている。

しかしトウヤは吐血し、ワナワナと体を震わせ、膝をついても目だけはミラから外さなかった。

その様子に観念したのか、変身を解くミラジェーン。

元の姿に戻ったミラを見て薄く笑ったトウヤに、ミラは白い少女――ミラの妹であったリサーナ――の笑顔を重ねた。

脳裏に響いていた声も、映っていた像も消え、ミラの心に残ったのは仲間を殺さずに済んだ安堵だった。

 

「ごめん、トウヤ……」

 

「大丈夫だ……エルフマンの石化は解けた。エバーグリーンも気絶してるだけだ。誰もいなくなったりしていない」

 

ミラも膝を折り、涙を流しながらトウヤに抱き付いた。

ごめんね、ありがとう、と繰り返し嗚咽を漏らすミラジェーンの頭をトウヤがそっと撫でる。

 

「誰もいなくなってない……大丈夫、明日になったら皆そろって笑いあえる。そこにはラクサスも雷神衆もきっといる……平和で穏やかな日々は続くんだ」

 

もはや何か言う事すらできないようになって、ただただ泣く。

ぎゅっと強くなった抱擁に驚きながらも、トウヤはミラの頭を撫で続けた。

 

「俺が続けさせてみせるから……」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

泣き疲れてしまったのか、こちらまで走ってきたエルフマンを見て安心したミラは眠ってしまった。

今はエルフマンにミラをおぶって貰ってギルドまで帰っているところだ。

 

メチャクチャ頭が痛いが、俺に後悔はない。

エルフマンを殺すと言われた時、きっとリサーナの事を思い出したのだろう。

その怒りは分かる。

だけど、怒りに任せてあそこでエバーグリーン――同じ紋章を刻んだ人間を殺してしまえば、きっとミラはずっと後悔する事になっていただろう。

そうなれば、以前彼女が言っていた穏やかで平和な世界に彼女自身がいられなくなる。

そんなのは嫌だ。

そんな風に思い詰めるミラなんて見たくない。

俺自身、ギルドに帰ってきてミラに「おかえり」と言われなくなるなんて事に耐えられそうにない。

だからこの頭の痛みは、エバーグリーンではなく、ミラジェーンと俺自身を助けた痛みなのだ。何も後悔はない。

 

「トウヤ……また頭から血が噴き出してるぞ」

 

ウソ、ちょっと後悔してる。

別に頭でいかなくても良かったよな……

どうして手とかで受け止めなかったんだろ。

しっかり戦ってきたエルフマンより、一撃受け止めただけの俺の方がボロボロで笑えるな。

いや、笑えないよ。

ミラめっちゃ強いよ、怖いよ……

久しぶりに穏やかになる前の魔人さんの恐怖を味わった気がする。

目が覚めたミラがあの頃の性格に戻ってたりしたら俺は泣く。

外聞も気にせずワンワンと泣き喚くね。

 

「あのよ、トウヤ」

 

そんな益体もない事を考えていると、エルフマンがおずおずと話しかけてくる。

どうしたんだろうか?

ミラを背負うのを代わって欲しいとか?

怪我人である事は2人とも変わらないし、漢フェチ――こういうと凄く怪しい――のエルフマンがそんな漢気のない事を言うなんて想像もつかないが。

というかそもそも、俺がミラを背負うのはダメでしょ……

こう……胸部装甲がさ。

さっき抱き付かれてた時も必死に気にしないようにしてたのに、今背負ったら絶対意識しちゃうだろっ!?

……兎に角、まぁそういう事ではなさそうだ。

 

「姉ちゃんの事ありがとうな……オレ、姉ちゃんの事絶対守るって誓ったのに、守るどころか人質になっちまって……」

 

なんだ、そんな事か。

 

「別に……俺にとってもミラは大切なんだ。お前の代わりにやった訳じゃない」

 

そうか、と言って肩を落としてしまうエルフマン。

何となく、その背のミラが「大切」というところでピクリと動いた気がするが、気のせいだろう。

 

「今回はたまたま手の届くところに居られただけだ……次はどうか分からない。だから、その時は頼りにしてる」

 

そう言ってエルフマンの頭に手を乗せる。

少し前まで俺とそんなに変わらない身長だったクセに、すっかり大きく強くなりやがって、まったく。

 

「お、おう!任せてくれ、兄ちゃん!」

 

兄ちゃんてお前……

うん、まぁ頭とかよく撫でてるしね。

ミラの事を姉ちゃん姉ちゃんと呼んでいるから何となく弟感が強く、そんな感じで接してしまっている。

年齢不詳な俺だが、年齢不詳なりにカナと同い年って事にしたから、一応エルフマンとも同い年になるはずなんだがな……

まぁいいか。

 

「あぁ……頼んだぞ、弟分」

 

そう言うと、エルフマンも嬉しそうにしてくれた。

 

……ん?

なんか、ミラの顔赤くなってないか?

気のせいかな……?

 




エルフマンの事を何となく年下だと思いながら書いてたら、トウヤと同い年設定だったでござる。
ミラのお姉さん感が強すぎてすっごい年下だと思ってた。
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