斬魔の妖精   作:ベジタブル

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21話「弱さ」

▼トウヤ視点

 

「エルザ、カナ」

 

先ほどギルドに戻ってきたのだが、酒場に残っていたのはこの2人だけだった。

マスターとビスカは奥のベッド。レビィとルーシィはその看病。ジュビアはビックスローを討つために街に出たらしい。単独行動はどうかとも思ったが、今回の場合は逆にフリードの術式を警戒して単独行動するのが最適解だと言えるので仕方がない。

 

「おかえり、あんたたち」

 

「ミラも久しぶりの戦闘で疲れたのだろうな。問題はないだろうが、ついてやってくれるか、エルフマン」

 

「もちろんだ!」

 

そうなってくると、自由に動けるのは俺、エルザ、カナだけだ。

残る相手はラクサス、フリード、ビックスロー。

恐らく先に出たナツとガジルは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の鼻を使ってラクサスを探しているだろう。ビックスローの方もジュビアに任せておいて問題ない。ビックスローの実力がどれほどのモノか完全に知りえている訳ではないが、ジュビアの方は間違いなく強いし、今回はグレイをやられたという強い動機もある。よっぽど変な術式に囚われない限り、負ける事はないだろう。

となれば、俺達が片付けなければならない相手はフリードだ。

 

が……

 

「なぁ、エルザ……」

 

「待ってください。本気ですか、トウヤ?」

 

ある提案をする為にエルザに話しかけようとした所、俺の意図を読んだアルマに止められてしまう。

だが、これに関しては俺達2人でやる他ないだろうし、必ずやらなければならない事だ。引き下がるつもりはない。

そう態度で示してやれば1度溜息を吐いてからではあるがアルマも折れ、俺の代わりにエルザへ説明までしてくれた。

 

「エルザ、トウヤからの提案なのですが……2人で神鳴殿(かみなりでん)を破壊しないか、だそうです」

 

「ふむ……それならば私も考えていたことだ」

 

おお、気が合うな。

というか、現状これがやはり最優先なのだろう。

神鳴殿さえ壊してしまえば最悪の事態は免れられるし、ルール違反も然程気にしなくてよくなる。そうすればフリードも倒しやすくなるというものだ。

だが問題は……

 

「問題があるとすればラクサスに気づかれないかどうかだな」

 

そう。

俺達が神鳴殿破壊に乗り出した事に気づかれた場合、すぐに妨害が入るだろうし、最悪そのまま問答無用で神鳴殿を発動されるかもしれない。そうなっては本末転倒だ。

 

「いいや、その問題は何とかなるかもしれないよ」

 

そう言ってカナが空中ディスプレイを指さした。

そこに書かれていたのは『残り()()』の文字。

ここにいる3人に既に街に出た3人、医務室にいるがまだ戦闘をしていない2人で計8人だ。あと1人いるという事は、新たな参戦者が現れたという事。

 

「ミストガン……」

 

俺の気づきを裏付けるように『ラクサス vs. ミストガン』という表示が空中に追加された。

 

「なるほどな……ならば問題あるまい。では、私は西の半分を任されようか」

 

じゃあ、俺は東の150個だな。

斬魔の力で斬れば生体リンク魔法ごと斬り捨てる事が出来る。150もやれば魔力が心もとなくなるだろうが、俺には手っ取り早い魔力回復の方法もある。

むしろ心配なのは反撃をモロに受けるエルザの方だ。

 

「案ずるな。元々は1人で全て破壊しようと思っていたんだ。それを思えば半分など容易いさ」

 

いや、1人で全部は化け物だろ……

ホント、コイツが味方で良かったよなぁ。

というか、ラクサスはよくもこの状態で「ギルド最強を決めよう」とか言い出したよな……

俺は兎も角、エルザが石になってて、ミラが――今回の件で復帰するかもしれないが――引退状態で、ミストガンは参加するかどうか掴めなかった。()()に至っては居もしない。

いや、そもそも俺を排除して、自分に有利なステージをつくるという発想が「最強」を名乗る人間に相応しくないのではないだろうか。

 

「では、私はギルドの中で破棄してよさそうな刀剣類を探しておきます」

 

「じゃ、私はフリードだね!」

 

カナが凄く乗り気だ。

まぁ、アイツは若い連中の中では1番の古参だ。ギルドへの想いの強さも一入(ひとしお)なのだろう。

 

さぁ、作戦開始だ。

 

 

 

 

▼三人称視点

 

マグノリアの中心地、カルディア大聖堂。

そこでは『妖精の尻尾』屈指の実力者同士による激しい戦闘が行われていた。

 

「眠れ!!五重魔法陣御神楽(みかぐら)!!」

 

ラクサスの頭上に複雑な紋章が描かれた魔法陣が五枚出現する。

これに対し、ラクサスは回避や迎撃ではなく、魔法の制御に集中しているミストガンへの反撃を選んだ。

魔法陣から光線が噴き出すと同時、ミストガンの足元から雷撃が昇っていく。

押し付けられるラクサスと、打ち上げられるミストガンだったが、次の攻撃に出るのが早かったのは後者の方だった。

空中で印を切ると、ラクサスの居る場所の床がぐにゃりと歪んで拘束せんと迫る。しかし、この程度の攻撃で捉えられるラクサスではない。瞬時に雷と化して教会内部を飛び回り、未だ着地できていないミストガンに突撃する。雷速の一撃を避ける事が出来ず、ミストガンはこれに直撃した――ように見えた。

が、それは幻影。

いつの間にか本体と幻影を入れ替えていたのだ。

雷化を解除し、地面に降り立ったラクサスの前に、ぼんやりとミストガンの姿が現れていく。

 

「チッ……やるじゃねーか」

 

「お互いにまだ小手調べだろう」

 

返答しようとしていたラクサスの動きが少し止まり、思い出したというように悪い笑みを浮かべた。

 

「ハッ……流石はアナザーとはいえジェ…」

 

溜めもたっぷりに、ミストガンの核心に触れるような発言をしかけた瞬間、大聖堂に入ってくる影が1つ。

 

「ラクサス!!」

 

ラクサスの匂いと、ミストガンとの戦闘音を頼りにここまで辿り着いたナツだ。

この一瞬、ミストガンの胸中には様々な思いが渦巻いた。

 

なぜラクサスが自分の正体を知っているのか。

どこまで知っているのか。

どこで知ったのか。

ナツに聞かれやしなかったか。

ナツがいるという事はエルザもいるのではないか。

自分にはエルザへの特別な感情がある訳ではないが、この顔を見られるのはマズい。

 

だからだろう。

ほんの数秒、ミストガンは死に体となってしまっていた。

並みの相手であれば見逃してしまう、そんなごく小さな隙。

しかし、ミストガンにとって不運だったのは、目の前の相手は決して並みの存在ではなかった事だろう。そして、ただ実力者だというだけでなく、格好の弱点を抱えている相手を慮るような性格をしていなかったという事もそうだった。

 

「スキあり!!」

 

ラクサスの左手から放たれた雷光はミストガンの顔面を――いや、正確にはそれを包んでいた覆面を焼いた。

そこから現れた見覚えのある顔にナツは驚愕が隠せなくなる。

 

「え?……おまえ」

 

蒼い髪。

整った顔。

顔面の右半分を覆う大きな入れ墨。

 

「ミストガンがジェラール!!?」

 

楽園の塔にてエルザ達を苦しめ、ゼレフを復活させようとした大罪人、元最年少評議員にして、元聖十(せいてん)大魔道、ジェラール・フェルナンデスと同じ顔の男が立っていた。

これ以上顔を晒す訳にはいかず、またナツであれば無闇に吹聴する事もないだろうと考えたミストガンは即座に撤退を決定。その為の魔法を起動させた。

 

「私はおまえの知るジェラールではない。別人だ」

 

後は任せる、とだけ言い残してふわりと消えてしまうミストガン。

 

「オイ!!」

 

待て、と続ける間もないまま颯爽と去ってしまったミストガンに複雑な感情を抱きながらも、ナツは「今はラクサスに集中しなければ」と気持ちを切り替える。

 

「だーーー!ややこしい事は後回しだ!!勝負だ、ラクサス!!」

 

強敵の排除に成功したラクサスはニタリと凶悪な笑みを浮かべていた。

そのままの表情で、先ほどの相手より些か物足りないとは思いつつも、目の前の青年を挑発した。

 

「かかってこいよ、ザコが」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

147、148、149……150!

 

これで準備完了だ。

斬撃を一斉に飛ばすなんて初めてだったから出来るかどうか心配だったのだが、やってみれば何とかなるものだな。

セルバルドの言った「魔法に寄り添い、魔法を理解し、魔法を手足と思う」事を念頭に置いてしっかり修行してきた甲斐があったというものだ。

途中で倒れていたウォーレンを拾った事で、離れた位置にいるエルザとも連携はバッチリになった。

一斉に破壊すれば、例え生体リンク魔法の反撃を受けて動けなくなっても既に破壊済みだから関係ない、というエルザのヤベー作戦に乗った訳だ。まぁ理には適っているが、物凄いダメージを一気に受け止めてやるとかいう漢気パネェよエルザ。エルフマンより漢だ。

俺の方は別に一斉に破壊する必要はないのだが、ラグがあればあるだけフリード達に気づかれる可能性が高まるので、やはり一気にやる方がいいだろうと考えた訳である。

当初は時計を見て行うという作戦だったのだが、エルザが道中で念話(テレパシー)魔法の使えるウォーレンを見つけたので、こうしてリアルタイムで作戦が進められるようになった。戦闘では大した事ないが、非常に便利な魔法を使う男である。

 

『エルザ……準備完了だ』

 

『こちらも問題ない。いくぞ』

 

――せーのっ!!

 

「斬竜の矢鱗(しりん)!!」

 

東の空に銀色の光が打ちあがっていく。

西の空を見てみれば、こちらの空にも銀色に輝く剣が数多舞っている。

すぐに空中の魔水晶(ラクリマ)が全て砕け、パラパラと欠片が散ってきた。煌めく粒は雪のようにも花火のようにも見えて幻想的だ。

しかも、西の方では滝のような雷光が一点に向かって降り注いでいる。何も知らない街の人からすれば祭りの余興か何かかと目を惹かれる事だろう。

アレが何かを知っている俺からすればぞっとする光景なのだが……

ホント大丈夫かなぁ、エルザ。

 

「……ふう」

 

かく言う俺も少し疲れた。

使ったことのない技150発分に斬魔の力を乗せて狙撃などすれば流石に魔力がすっからかんだ。

あと、そもそもミラに殴られた頭の傷も結構重症だった。

地面に仰向けになって倒れ込み、アルマが来るのを待つしかない。

とはいえ、早い段階から駆けずり回って剣を集めてくれていたので、間もなく来るだろう。

 

ザッ、ザッ……

 

 

ほら、噂をすれば足音が聞こえて――

 

 

違う!!

この匂いはアルマのものじゃない!

このタイミングはマズいなんてものじゃないぞ!?

魔力なしで勝てるような相手じゃない……!

 

 

 

「どうせなら十全な状態のおまえ相手にどこまでやれるか試してみたかったんだがな……これもラクサスのためだ」

 

 

 

歩み寄ってきたフリード。

その手には妖精の紋章が象られた鍔のついたレイピアを握っている。

――は、はは。斬竜の最期が剣で刺殺とか笑えないって……!

フリードは着々と歩を進め、ついに俺のすぐ傍まで至る。

 

グッとレイピアが振り上げられ、俺の心臓に突き刺さろうと迫り――

 

 

 

 

▼カナ視点

 

「トウヤはやらせないよ!」

 

トウヤしか目に入っていない様子のフリードに向けて、炎を吹き出すカードを投げつけた。すぐに火柱が立つ。

フリードがそれに包まれている間にトウヤを横抱きにして回収しておく。

 

「くっ……読まれていたか」

 

当然だ。

 

術式魔法は展開に時間がかかるという弱点を挙げられがちだけど、逆に事前準備さえできれば最強の部類に入る魔法と言える。今の状況でコイツに勝とうと思えば、先ほどのミラのような圧倒的な力で叩き潰す以外には術式自体を破壊するしかない。それをするにはレビィのような言語系魔法に詳しい人物がフリードの術式のルールを読み取るか、トウヤのような反則気味の能力で破壊する必要がある。そういう意味ではトウヤはフリードにとっての1番の天敵と言えるだろう。

 

ってまぁ、肉弾戦メインを除けば、殆どの魔導士にとっての天敵ではあるんだけどさ。

 

術式との相性の問題の他にも、ラクサスが一目置いているという事情もある。

フリードは雷神衆の中でも1番と言って良いほどラクサスに心酔していて、そのラクサスが警戒すべき相手だと認めているのだ。注視しないはずがない。

 

だが、フリードでは万全の状態のトウヤには逆立ちしても勝てない。

恐らく、トウヤが帰ってくるのは雷神衆にとって本当に想定外だったのだろう。神鳴殿も元々の計画にあったとは思えない。少なくともフリードは、無関係の住人を巻き込む事を良しとするような性格ではないと言える。

だが、この男は咄嗟にそれを利用し、おそらくトウヤなら神鳴殿の破壊に動き、その後は無防備になると踏んだのだ。

本当に恐ろしい男だが……私は読み切ったよ。

問題は、私でコイツに勝てるのかって事だけど……

 

「だが、動けないトウヤとお前ではオレには勝てないぞ」

 

姿勢を低くしたフリードが斬り込んでくる。

 

――速い!

 

けど、トウヤ程じゃない!

頭を狙ってレイピアが飛んでくるが、首を傾けて避ける。

反撃に懐から取り出したカードを3枚投擲しながら、自分は後ずさっていく。

フリードはそのカードを器用に斬り捨てるが、生憎それはただのカードではないんだよ。

 

「祈り子の噴水!」

 

真っ二つになった3枚のカードから水が噴き出す。

頭から激流を被ったフリードは体の自由を失い、たたらを踏んだ。

 

ここが狙い目!

 

魔法の札(カードマジック)

ヘブン、リバースデス、マウンテン!

 

「招雷!!」

 

3枚のカードを取り出し、相手に向けて振るう。

すると、目の前に魔法陣が浮かび上がり、緑色の雷撃の槍が幾筋にも分かれてフリードに飛んでいった。

直撃は避けられたが、地面に溜まった水を伝って電撃が流れていく。

 

「ぐおおおお!!?」

 

私、闘えてる!

少しずつではあるが、着実にダメージを与えられているのが分かる。

これまでのトウヤとの修行は無駄じゃなかったんだ。

それが凄く嬉しい。

 

このまま畳みかけてやるよ!

 

痺れているフリードの元まで駆け寄り、トドメを刺すためにカードを取り出す。

近接レンジでしか使えない代わりに威力の高いカードを……

 

そう調子良く考えていた私だったが、そこに寝そべったままのトウヤから怒号が飛んできた。

 

「カナ!ダメだ!!」

 

どういう事だ、とブレーキを掛けた時には既に相手の術中に嵌っていたという事に気がついた。

私の前に不可視の壁が立ち上がっていたのだ。

 

「しまった、術式……!?」

 

ここに誘導されていたのか!

 

与えられたルールは隠されていて読めない。

しかし、フリードも同時に入っている事から問答無用なルールでない事は確実だ。

今の所なにも変化がない事から察するに、何か条件を満たしたら発動するタイプだろう。まずはフリードの様子を観察して……

 

「フン、ギルドの古株というからどの程度かと思ったが、拍子抜けだな。これではS級試験にも4度落ちる訳だ……」

 

なんだ……もう勝ち誇ったつもりか?

術式の中に入った途端、態度を変えてこちらに語り掛けてくるフリード。

意図を読めないままだが、単に話すだけなら問題はないようだ。なら乗ってやろうじゃないか。

 

「何が言いたいんだい?」

 

「やはり、このギルドは改革が必要だと思ってな。もっと強く、誇り高い、そんなギルドにならねばならない。ラクサスがマスターになれば、おまえ程度の魔導士も、ファントムから寝返った連中も、敵に攫われるような女も全員クビにしてくれるだろう」

 

朗々と自分の考えをひけらかすフリード。

しかし、私にとってその演説は不快なだけのものだった。

 

ファントムに攫われるって、ジュビアやルーシィの事を言ってんのか……?

強さは私だって大事だと思うよ?

でも、その為に同じ紋章を刻む家族をそんな風に言えるようにならなきゃいけないってなら、私は弱くていい!

体の中の血液が熱されていくのが分かる。

アンタ達なんかに私の仲間の事を言われたくない!

そう思い、感情の高ぶりに任せてカードを投げようとしたのだが――

 

「アンタ!!」

 

と、叫んだ瞬間に首に強烈な痛みが走った。

息が苦しくなって、吐き気すらする。

苦し――

 

その隙を見逃さなかったフリードが私の体にレイピアを突き刺しながら、何かを書き込んでいった。

 

「闇の文字(エクリチュール)“痛み”」

 

次の瞬間には、首だけではなく全身が激痛に包まれ始める。

あらゆる骨が砕かれ、頭髪が引き抜かれ、爪がはがされ、内臓が裏返るような、そんな痛み。

 

「ああああああああああ!!!?」

 

耐えられず叫び声をあげると、今度は首がギリギリとねじ切られそうな苦痛が――

 

つまり、この空間のルールは『大声を出した者の首を絞める』とか、そういう事なのだろう。

私はフリードの誘導に乗せられてこの空間に入っただけでなく、まんまと挑発されてルールも踏まされた訳だ。

全く……何が「闘えてる」だよ。

ダメージは与えられていても致命傷には程遠く、全ては手のひらの上。

この程度で舞い上がって、ホント情けない。

こんなヤツ、やっぱり()()()には釣り合わないよね……

 

酸素が足りなくなって、意識が薄れていく。

 

ごめんね、トウヤ……情けない弟子で。

 

そう思って彼の方に目を向ければ、必死にこちらににじり寄ってきているという事に気づく。

 

魔力も体力も限界だろうに、まだ諦めてない……

 

 

 

いや、違う、それだけじゃない。

あの目は「私に諦めて欲しくない」と訴えてきている。

 

 

 

まだ、私を信じてくれるのかい……?

全く……

本当に私には過ぎた、いい師匠(おとこ)だよ、アンタはさ。

でも、その期待には応えないと、弟子(おんな)としてダメダメで終わっちまうよね……!

 

魔法の札(カードマジック)

スラッシュ、デスティニー、ラバーズ。

 

「……愛の矢尻」

 

苦し紛れに放った魔法はフリードには簡単に避けられてしまう。

紅い刃はそのまま、フリードの向こう側に飛んでいって――

それを見届けた私は、とうとう体を起こしている事も出来なくなって、突っ伏した。

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

「なんだ?最後の悪あがきか……?」

 

違うよ、フリード。

悪あがきなんかじゃない。

 

バリ、ボリ、ガキン。

 

アイツは最後に精一杯の仕事をしてくれた。

最高のパスだ。

こんなに美味い魔法は久しぶりに食べたような気がする。

カナの気持ちがこれでもかと詰まっていたのだ。

……ごちそうさまでした。

さて、と。

 

 

 

「取り消せ」

 

 

 

さっきの言葉自体はカナに大声を上げさせるために言ったウソだったとしても、ギルドを強くしたいという発想はラクサスの真意からそれほど離れた話ではないんだろう。

なるほどな。

こうして闘争を起こす事で、ギルドの中で戦闘能力が低いメンバーを炙り出し、切り捨て、その上でマスターの座まで奪っちまおうってか。

そりゃ理に適ってるかもしれねーな。

 

「な!?どうして動ける……まさか先ほどの魔法は!」

 

だが、それで手に入る強さは「ギルドの強さ」じゃねーんだ。

こいつらはそれが分かってない。

いいや、もしかしたらフリードは気づいてて、それでも言い出せずにいるのかもしれないが。

 

「取り消せよ……カナも、ジュビアも、ガジルも、ルーシィも、誰一人いらない奴なんていない」

 

ルーシィの明るさはギルドを照らしてくれる。

ガジルだって不器用なだけで、少しずつ歩み寄ってきてくれている。

ジュビアはグレイが絡むと暴走しちまうけど、ギルドにいる時はホントに楽しそうに笑うんだ。

確かにさっきのカナの戦闘は説教すべき所も多かったけど、仲間の事を想って怒れるヤツのどこがいらない奴なんだよ。

 

「ラクサスはあのような人材を求めていない……我々で誇り高いギルドを取り戻すのだ。その為に掃除が必要なのがどうして分からん」

 

わっかんねぇよ……

弱いから仲間を作るんだろうが。

 

「俺はさ、喧嘩は強い……けど、マックスみたいに喋れない。ルーシィみたいに物語を書けない。ビジターみたいに踊れない。カナみたいに呑めない。ジュビアみたいに想えない。マカオみたいに子を愛せない。ミラみたいに待てない。エルザみたいに鼓舞できない。リーダスみたいに描けない」

 

強さって色々だよ。

俺にだって弱い所なんて沢山ある。

なんなら、戦闘力的にはギルドで一番弱いであろうアルマが居なきゃまともに生活する事すらできない。

色んな強さがあって、それを1人じゃ満たせないから人は集まるんだ。

 

ただ喧嘩が強いだけだなんて、なんの意味がある。

誰も想っていない力なんて虚しいだけだろうが。

 

「喧嘩が強い事ってそんなに大事か?お前、ただ喧嘩が強いってだけでラクサスの傍にいるのか?」

 

「それ、は……」

 

「お前より強い仲間がラクサスに出来たら、お前は捨てられるんだぞ?」

 

そこまで言うと、一瞬フリードはハッとした顔になり、すぐに怒りの形相に変化させた。

 

「違う!そんな訳がない!!」

 

レイピアを構えたフリードがこちらに突っ込んでくる。

俺は難なく初撃を躱し、吹き飛ばさないように力を絞りながら顔面に上段蹴りをぶつけた。

カハッと息を吐きながらも、追撃の手を緩めず我武者羅に剣を振るってくる。

余裕なフリをしていただけで、カナからの攻撃はそれなりに効いていたようで、かなり動きが鈍い。

そもそも魔力のある状態ならフリードの剣を躱す必要はないのだが、こうまで見え見えだと受け止める意味もない。

結局、フリードの猛攻は何一つ俺に当たる事はなかった。

 

「お前……弱いな。ラクサスもお前みたいな奴いらないんじゃないか?」

 

そう問いかけながらフリードを殴り飛ばす。

その先でフリードは必死の顔で自分自身に何かを書き込んでいる。

作業が終わると、フリードの姿が骸骨のような顔に一対の角が生えた筋骨隆々の怪物へと変化していた。体から放つ魔力も先ほどとは比べられない程強くなっている。

きっと、アレがフリードの奥の手なのだろう。

 

「違う!違う!オレはラクサスだから着いて行くんだ!」

 

何事か喚く怪物が俺の懐にまで突っ込んでくる。

 

「ラクサスだって、オレだから傍にいるのを許して……!」

 

鋭い爪の生えた怪腕が俺に迫るが……

悪いが当たる気がしない。

 

斬魔ノ太刀 斬の型・天爪――

 

ラクサスの力じゃなくて、ラクサス自身を仲間だと思う。

きっと、ラクサスだってフリードの力だけを見ている訳じゃない、か。

 

分かってんじゃねぇかよ……

 

 

 

「それがギルドだろうが!!!」

 

 

 

裂帛の気合と共に放たれた俺の渾身の右ストレートは、突進してきた怪物へとカウンター気味に深々と突き刺さり、元来た方へ押し返した。

その際に斬魔の力が作用し、フリードの変身が解けてしまう。

 

「俺だってそうだ……カナは強い。けど、強いから信じてるんじゃない……カナだから信じてるんだ」

 

そこには、俺達が闘っている間に回復していたカナが立っていた。

吹き飛んでくるフリードに対し、3枚のカードを翳す。

 

魔法の札(カードマジック)!ファイア、リバースサン、ジャスティス……食らいな、落陽!!」

 

フリードの頭上に魔法陣が浮かびあがり、巨大な火球が彼を押しつぶさんと墜ちてくる。

満身創痍のフリードにそれを避ける術はなく、この一撃が終戦の合図となったのだった。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「ホントはこんな事しても意味ないって分かってたんだろ?」

 

俺とカナとフリード。

3人で寝ころびながら話をする。

と言っても、カナは疲れ果ててもう1度眠ってしまったようだが。

俺の問いかけに対し、たっぷりと考え込んだ後、徐に口を開くフリード。

 

「アルマと話した時……あの子は簡単にオレの話を信じてくれた。それは大変ですねって。フリードの頼み事なんて珍しいですから、是非とも引き受けさせてくださいって……本当に嬉しそうに言ったんだ」

 

確かに、アルマなら普段ギルドに寄り付かない奴からの頼み事なんて嬉しくてたまらなかっただろう。目に浮かぶようだ。

 

「その時、オレは何も見えていないのではないか、と思った……オレの仲間はラクサス1人だけじゃなかったんだと、気付いたんだ」

 

「……カナがお前を酒に誘ってるの、見た事ある」

 

「あぁ、覚えている……リーダスに絵のモデルを頼まれた事もある。ナツやエルザと立ち会った事もある。マスターに……ラクサスを頼むと言われた事もある」

 

フリードの声が震えだし、熱を帯びていく。

そう言われた時の嬉しさを思い出し、それを忘れていた事に悲しみを抱き、約束を守れなかった事を悔しく思う。

それが俺にも伝わってくる。

 

 

 

「こんな事……したくなかっ……たんだ……」

 

 

 

ひぐっ、うぐっと嗚咽交じりに漏らされたのは、やっと聞くことができた仲間の本音だった。

 

「だけど、オレはラクサスを、止められ…なかった……」

 

うん。

 

 

 

「オレは、弱いっ」

 

 

 

そうだな。

きっと、お前は()()()()

 

「でも……きっと、強さを勘違い、して……いる、ラクサスも……弱かったん、だ」

 

でも、そこまで分かってるなら、もう()()()()()()()()()()()()よ、お前は。

 

「頼む、トウヤ……ラクサスを、止めて……くれないか?オレじゃ、できな……かった」

 

折よくアルマがありったけの刀剣類を抱えて飛んできた。

魔力補給を済ませた後は、アルマにカナとフリードを頼んで俺は聞かん坊に説教といきますかね。

 

 

 

「勿論、引き受ける……俺達、仲間だろ?」

 

 

 

滂沱と涙を流すフリードは、相変わらず震えた声で「ありがとう」とだけ呟いた。

 




カナにいくつかオリ魔法を使わせてみました。
「フリードに手も足も出なかった人」扱いが不憫だったのでやらせてしまった……
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