斬魔の妖精   作:ベジタブル

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22話「家族」

▼トウヤ視点

 

街の中心部まで歩いてきて分かったが、大聖堂の辺りから轟音が響いている。

おそらくそこでラクサスが闘っているのだろう。

先ほど別れる直前に、フリードからジュビアがビックスローを下したという報告を受けた事だし、後顧の憂いはない。

 

今ラクサスが誰と闘っているのかは知らないが、俺も乱入してやるとしよう。

フリードと約束もした事だしな。

 

そんな風に考えながらカルディア大聖堂に向かって歩いていると、嗅ぎ覚えのある匂いが漂ってきている事に気づいた。

 

 

 

「ここまでくれば…………トウヤ!?」

 

 

 

かなり焦った様子のミストガンがぼんやりと目の前に現れたのだが、ラクサスはどうしたとか、なぜ焦っているのかとか、そんな事よりも気になる事があって思考が停止してしまった。

普段顔を覆い隠している布が剥がれて、ジェラールにそっくりな顔が露わになっていたのだ。

 

ジェラールがなぜここに……?

というか、ミストガンの中身だった?

いや、ミストガンがジェラールであるはずがない。

それならファントムの時に一緒に闘った意味が分からない。それに、意味を言い出すならそもそも『妖精の尻尾』に居る必要性もない上に、エルザと接触していないのもよく分からない。

エルザ自身がミストガンと話した事はないと言っているのを聞いた事があるし、その様子はウソをついているようにも見えなかった。

ならば、たまたま顔が似ているか、本当にジークレインのような生き別れの兄弟がいたのか。それでジェラールがお尋ね者になって顔を隠して……いや、それも時期的におかしい。

 

まぁでも、おそらくコイツはあのジェラールではない。

……なら良いか。

 

「ミストガン……ラクサスはどうなった?」

 

そう言うと、ミストガンは心底驚いたという顔をする。

 

「お前は私を問い詰めようとは思わないのか……?」

 

いやいや、今すぐ聞かせてくれるなら聞きたいけども。

隠してきたからにはそれ相応の理由があるのだろう。

というか、さっさと隠れないとマズいと思うし。

エルザに見られたらまぁまぁ厄介な事になるんじゃないか?

 

「ジェラールではないんだろ?……なら、いい」

 

「あ、あぁ……確かに、私はジェラールではないが……」

 

まぁ、でもやっぱ有名人と顔が同じで困ってる、とかなら力になれる方法は考えたいしな。後で事情は聞かせて欲しい。

 

「だが、もし何か困ってるなら、後で話は聞かせて欲しい」

 

しかし、ミストガンはその要求には難色を示した。

申し訳なさそうな顔で、「それはできない」と言ってくるのだが、その表情ではこちらもお節介を焼きたくなるというもの。

 

「気が変わったらいつでも言え」

 

何となく、ミストガンといる時の空気感は好きだし、他人とは思えない感じがするんだよなぁ。

だから、ギルドの皆みたいに家族とか、仲間とかってだけじゃなくて、なんて言うか……

そう――

 

 

 

「俺達、友達だろ?」

 

 

 

そんな感じがする。

 

しかし、そんな俺の言葉を聞いたミストガンは急に笑い始めてしまう。

聞いたことのないような大声で、俺は少し驚いた。

しかも、ただ笑っているだけじゃない。

両の瞳に煌めく粒が見えたのである。

何か、ミストガンの琴線に触れる発言をしてしまったのだろう。

一瞬何かとんでもない事を言ってしまったのかとドキッとしたが、悪い反応ではなさそうなので良しとしておこう。

 

「気が変わった……この祭りの後、私と少し話をして欲しい。時間を作っておいてくれるか?」

 

え?いいの?

よく分からないが、聞かせてくれるというなら、少しでも力になれるように頑張ろう。

 

「勿論」

 

「感謝する……では私は一旦姿を隠すとしよう」

 

俺の横を通り過ぎ魔法で消えてしまうその直前、こちらを振り返ったミストガンが言う。

 

 

 

「ラクサスの事、頼んだぞ」

 

 

 

色んなヤツに頼まれちまってるなぁ、まったく。

だが、まぁそれに対しての答えも一緒だよ。

 

 

 

「任せとけ」

 

 

 

 

▼三人称視点

 

ラクサスとナツの闘いは終始ラクサスが押す形で進められた。

ラクサスは、ナツの言葉に心を揺り動かされはするものの、もはや事ここに至っては退く事などできはしない。

表情的にはどこか切迫しているラクサスが、戦力的にはナツを圧倒していくという奇妙な状況へと陥っていた。

ナツに遅れて駆けつけたガジルが参戦し、2対1となってからもその戦況は大きく変わりはしない。

即席とは思えない2人の連携により攻撃こそ当たるようになってきたが、攻撃力、防御力、スピード全てにおいて2人を凌駕するラクサスを前に致命傷を与えるには至らず、むしろたった数発の攻撃を食らっただけの2人の方が追いつめられていたのだ。

 

「いくらコイツが強ェからって……竜迎撃用の魔法をこれだけ食らって……ありえねえ!!」

 

異常な頑丈さを誇るラクサスに慄くガジル。

この硬さはむしろ自分や隣の火竜(サラマンダー)のような――

 

「そいつは簡単なことだ……ジジイがうるさいから隠してきたが、特別に見せてやる」

 

コオオオと息を吸い始めるラクサス。

その姿に竜を幻視し、ラクサスの正体を悟ったナツが叫ぶ。

 

「お前も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったのか!!!?」

 

その問いへの返答はあらゆる物を薙ぎ払う雷光によって為された。

 

 

 

「雷竜の咆哮!!!」

 

 

 

この一撃を受けてはひとたまりもない。

ナツもガジルも倒れ伏し、辛うじて意識を保っているだけの状態となってしまった。

しかし、命を奪うつもりで放った魔法がその結果だった事が気に入らなかったらしいラクサスは更なる追撃を仕掛ける。

それはもはや目の前の2人だけに向けたものではなかった。

気に入らないもの全てを破壊し尽くしてやると、両手の平に極大の魔力を集めていく……

 

「おまえらも、エルザも、ミストガンも、トウヤも、ジジイもギルドのやつらも、マグノリアの住民も全て……全て消え去れェッ!!!」

 

以前同じ魔法が放たれた時には気絶していて覚えていなかったガジルは猛り狂う魔力を前に体をガクガクと震わせ、近くで見ていたナツは「よせ……!」と満身創痍で叫んだ。

その魔法の名は妖精の法律(フェアリーロウ)

術者が敵とみなしたもの全てを標的とした超絶審判魔法だ。

 

「オレが一から築き上げる!誰にも負けない、皆が恐れ(おのの)く最強のギルドをなァ!!」

 

だから一度滅んでしまえ、そんな言葉を言おうとしたラクサスを遮るように、4人目の竜の声が響いた。

 

 

 

「斬魔ノ太刀 斬の型・天爪」

 

 

 

進退窮まったこの状況下、期待できる中での最高の援軍に、ナツやガジルは喜色に満ちた声で「トウヤ!」「斬竜!」と名を呼ぶ。

逆にラクサスは苛立ちながら「何しにきやがった!」と叫んだ。

何をしにきたか、など聞くまでもない事なのだが。

 

「決まってるだろ、お前を止めに来た……斬竜の刀牙!!」

 

振るわれたトウヤの右手から銀色の剣閃が飛んでいく。

エーテリオンすら削いだトウヤの力なら妖精の法律と言えども耐えられまい、そうナツやガジル、ラクサスすらも思った。

 

――しかし、その斬撃が魔力球にぶつかっても、真っ二つに斬れる事はなかった。

 

 

 

「斬れ、ない……?」

 

 

 

信じられないという顔をするトウヤ、ナツ、ガジル。

対照的に勝ち誇った笑みを浮かべたラクサス。

 

「くく。くは……くはははははは!!はーはっはっはっは!!!」

 

辺りに高笑いが響く。

 

 

 

――ただし()()()()笑い声だが。

 

 

 

何が起きているのだと、ナツとガジルは怪訝そうな顔を更に深め、今度はラクサスまでも不思議そうな顔をした。

 

「気でも触れたか?……まぁいい、これで完成だ」

 

手のひらを合わせ、合掌を作ったラクサスが終焉の合図を口にした。

 

「妖精の法律、発動!!」

 

ラクサスの手許から目が潰れてしまいそうなほどの光があふれる。

その光はナツを包み、ガジルを包み、未だ笑い続けるトウヤを包んだ。

しかし、それだけでは終わらない。

街中に倒れたままのギルドの面々も、ギルドで皆の帰りを待っていた連中も、ベッドに伏せるマスターも、街の全てまでをも呑み込んだ。

 

審判の光が止んだ後、マグノリアに残ったのは――

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

マグノリアに残ったのは普段通りの人の営みだろう。

住民達どころか、『妖精の尻尾』の誰一人とて傷ついていない事は間違いない。

ラクサスの目の前にいる俺達ですら発動前となんら変わりないのだから。

 

「そんな馬鹿な……なぜ誰もやられてねぇ!!?」

 

そんなに不思議な事か?

いやホント、可愛らしい奴だな、コイツ。

 

妖精の法律(フェアリーロウ)は、術者が敵とみなした者を殲滅する」

 

狼狽えているラクサスに真相を伝えてやるとしようか。

 

「その通りだ!!だからお前たちは倒れてなきゃおかしいだろうが!!」

 

俺の言葉の真意にナツやガジルすら気づいたようで「へへっ」と笑っている。

 

 

 

「おかしくねぇよ……マグノリアにはお前の敵は1人もいなかったってだけなんだから」

 

 

 

「……………………は?」

 

目が点になって絶句するラクサス。

単純な話だ。

審判の規準を作る魔法自体は欺けなかったというだけの事。

どれだけ突っ張って、斜め上の理想を掲げていようと、心根では俺達全員を仲間だって認めていたのだ。

俺が斬れなかったのは、斬魔の力を「俺に対して敵意を向けている魔法だけを斬る」よう設定していたからである。

 

「お前、凝り固まった理想に目を向けすぎてただけなんじゃねぇか……さては妖精の尻尾(フェアリーテイル)大好きだな、てめー」

 

バチバチとラクサスの体から雷が漏れ出してくる。

流石におちょくりすぎたかな……?

 

「違う!違う!!オレの邪魔をする奴は全員敵だ!敵なんだよ!!」

 

ったく、世話が焼ける奴だなコイツは。

 

「違わねぇ……お前は誰にも負けない、皆が恐れる最強のギルドを作りたいんだろ?」

 

それはなぜか。

その根源に辿り着けば分かる事だ。

 

「それって、お前の大好きな(ギルド)が馬鹿にされるのが許せなかったからだろう?」

 

ガッという音が轟き、雷となったラクサスが飛来する。

俺の前で脚を踏ん張り、力いっぱいに殴りつけてきた。

 

「うるせぇ!!」

 

技術も何もないガキの喧嘩みたいな一発。

いいじゃねぇか、乗ってやるよ。

元々今回の喧嘩は子どもの癇癪だったって事も分かった事だしな。

 

「お前がやりたかったのは!最強のギルドを作る事じゃねぇ!妖精の尻尾を最強にする事だ!」

 

言葉を吐き出す度にラクサスの顔面に拳を突き刺す。

相手も負けじと魂を削るような叫び声をあげて殴りかかってくる。

 

 

 

「そうだ!だからこんな事をした!ギルドを強くする為に!!」

 

 

 

「やり方が違うだろうが!」

 

 

 

「違わねぇ!!」

 

 

 

「なら言ってみろ!!妖精の尻尾ってなんだ!!」

 

 

 

「ギルドの名だ!!」

 

 

 

「違う!!()()()()()()()()!!お前はそれを忘れちまってるだけだ!!」

 

 

 

俺に殴られ、一歩後ずさった所でラクサスの動きが止まる。

お互いの顔は痣だらけ、腫れだらけですでにパンパンである。

肩で息をして、脚も震えている。

控えめに言って満身創痍。

小休止的に息を整えながら、伝えておかなければならない事を言う。

 

「ハァ……ハァ……今、じいちゃんはベッドで、倒れてる……何かの病気かもしれない……こんな事してる場合じゃ、ねぇって……ハァ……分かるだろ?」

 

「オレには関係ねぇ……ハァ……ハァ……関係ないんだ!!」

 

んな訳あるか……!

()()の親だろうが!!

 

「オレはオレだ!!ジジイの孫じゃねぇ!!ラクサスだぁぁあああああ!!!」

 

短い休憩も終わり。

しかし、今度の一発でこの闘いの方もお終いになりそうだ。

 

止まっていた体に無理やり火を入れ、もう一度コチラに殴りかかってくるラクサス。

だが、その動きは今までで一番大ぶりだ。

俺はそれを避けながら更に一歩奥へと踏み込んで、渾身の右ストレートをぶち込んでやる。

 

 

 

「ったりめーだ!!俺の仲間に『マカロフの孫』なんて名前のヤツはいねぇ!!!!」

 

 

 

その一撃でラクサスの体は限界を迎え、仰向けに倒れていく。

俺は立ったまま、ラクサスの方へ指を向けた。

 

「俺が、言いたかったのは…ハァ…ハァ……さっさと謝って、兄弟喧嘩は終わりにして…ハァ……ガキみんなで、オヤジの見舞いに行くぞって事だ」

 

 

 

――俺達の家族はギルドの皆なんだからさ。

 

 

 

「許されないのが怖いなら、俺も一緒に謝ってやる……それに、皆はそんなちっちぇ奴らじゃねぇよ……なぁ?」

 

俺はラクサスに向けていた指を後ろの方、教会の入り口の方に向けた。

そこにいたのはグレイにエルザ、ストラウス姉弟、カナ、ルーシィ、レビィ、ジュビア……他にも沢山のギルドメンバー。この戦いに参加したほぼ全員が集まっていた。端の方には雷神衆も立っている。

ラクサスの妖精の法律が不発に終わると分かった瞬間に、ウォーレンに連絡を取り動けるメンバー全員を大聖堂に集めるように頼んでいたのだ。

 

俺の言葉に反応したラクサスが首だけを上げて、その眼を丸くした。

その瞳に映っているのはきっと、やれやれという表情で笑っている家族の姿だろう。

 

 

 

「ハァ……参った、俺の負けだ」

 

 

 

ラクサスは頭を地面にゴンと下ろしながら、少しだけ震えた鼻声でそう言った。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

夜空に光の花が咲き誇る。

その下では『妖精の尻尾』の魔導士達が各々の魔法を使って、思い思いのパフォーマンスを行い、聴衆を沸かせていた。

 

ラクサスと殴り合ってから2日経った晩。

本来なら祭りは2日しかなく、ファンタジアも最終日の夜に行う予定だったのだが、多くの者が傷だらけでそれどころではなかった。

ファンタジアそのものが中止になるかとも思われたが、街の皆の熱烈な要望があった他、本人達も全員が開催を希望し、特例として祭りを一日延長。本来あり得ない祭り3日目でのパレード決行と相成った。

とはいえ、参加していない者も数名存在する。

それは例えば、ラクサスとの戦いでボロボロになってしまったガジルや俺――ちなみにナツもボロボロだったが、みんなの静止を振り切って参加している――だったり、目立つ事は避けたいミストガンだったり……

そして、今俺の隣で神妙な顔をしてパレードを見守っているラクサスだったりする。

 

マスターは俺たちが闘っている間にギルドまで来てくれていたポーリュシカさんのおかげで一先ずは容態が安定し、祭り2日目には目を覚ました。

その際に俺や雷神衆は病室に駆け込み頭を下げたのだが、流石にその場にラクサスがいない状態では意味がなく一喝されてお終い。

勿論、雷神衆は石にされた女性陣にもきっちり謝罪し、そちらは何とか受け取ってもらえた。こちらもラクサスに関しては、その場にいなかったので保留となったが。

 

日付が変わって3日目の昼、やっとこさギルドに顔を出したと思った当のラクサスは、本当に軽く頭を下げ「悪かった」と呟いただけだったので、雷神衆の苦労を想って少し涙が出たのは内緒だ。

しかし、そんな小さな謝罪であっても、ラクサスがしたというだけで効果は絶大だったようで、エルザやカナは「あのラクサスが謝った……!?」と驚愕して、そのまま水に流してくれたようだ。

しかし、マスター的にはそうはいかせられなかったようで、じいちゃんが寝ていた病室で2人きり、何やら話してから出てきたラクサスには妖精の紋章が付いていなかった。

当然、雷神衆は「ラクサスが破門なら自分達も」と着いて行こうとしたものだが、きっとラクサスもこのままではいけないと思ったのだろう、「ジジイが決めた事だ」と言って断固として同道を拒否していた。

1人で行く事を決意したラクサスは、祭りの中でひっそりとマグノリアを去る事にしたのだった。

 

このような経緯があって、2人、()()()別れの前にファンタジアをバックにして話すに至ったのである。

 

「……これからどうするんだ?」

 

パレードはどんどん盛り上がりを増していく。

ルーシィ、ビスカ、レビィが祭り用の可愛らしい衣装に身を包んで舞い、エルフマンは巨大な怪物に化けて雄叫びを上げる。ミラはそれよりも遥かに大きな蛇とトカゲの(あい)の子のような、どこか愛嬌のある生物に変身して観客を沸かせている。

お次はグレイとジュビアだ。氷で出来た城を載せた山車の上で、王子と姫のような恰好をしていた。お似合いの2人が腕を振るうと、城の周りの空間に激流が渦巻き、その上に氷で出来たFAIRY TAILの文字が浮かび上がる。

エルザは様々な衣装を換装しながら剣舞を披露していた。正に妖精といった美しさだ。

 

「気楽に旅でもするさ……そこで色々と見てこようと思う」

 

そりゃいい。

外では沢山の人に出会う事だろう。

その中には本当に強い人も、またその逆もいる。

そうした経験の中で、ラクサスにとって本当に大事なもの、本当に必要な強さを見つめ直す事が出来るだろう。

次会う時はグンと強くなっているかもしれないな。

 

「……帰ってきたら妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を決めよう」

 

俺の目は祭りに釘付けになっていて、ラクサスの表情を伺う事はできないが、何となく「帰ってきたら」という言葉にピクリと体を動かした気がする。

 

「オレは体にラクリマを埋め込んだだけの紛い物だがな……お前も確か持ってたろ」

 

ラクリマ……?

あぁ、そういえばそんな感じの緑色の宝石を闇ギルドから回収してたな。

一時期はお守りにしてたが、案外邪魔くさくて、家の金庫にいれっぱなしにしたまま忘れていた。

 

「関係ない。同じ魔法を使う仲間だ」

 

「ハッ、言ってろ……」

 

と、そこに山車に乗ってファンシーな格好で踊るじいちゃんがやってきた。

その楽し気な様子を見て満足したのか、すぐに踵を返して、俺に「じゃあな」と言って歩き出すラクサス。

 

――おっと、まだメインイベントが終わってないぞ?

 

「ラクサス」

 

俺は振り返らないままにラクサスに声を掛け、パレードの方を指さす。

何事かともう一度反転したラクサスの視線がファンタジアに向かったのを気配で察知してから、俺はパレードの方に手の甲を向けるように半周捻りながら、手を天に掲げた。

それに同調するようにギルドの全員が手を挙げていく。

このポーズはじいちゃんにパレード中に必ずするようにと頼まれたものだ。

 

姿は見えなくとも、お前を見ているぞという意味のメッセージらしい。

 

誰に向けたものかは言われなかったが、ギルドの誰もそれを聞こうとはしなかった。

 

俺だって、誰に向けたメッセージかは聞かされてない。

だが、きっとこの位置取りならメッセージを受け取る誰かさんに、俺のうなじの紋章をしっかりと見せられた事だろうと思う。

 

 

 

「じーじ……ありがとな」

 

 

 

そんな涙声は、祭りの喧騒にかき消され、俺の耳には届かなかった。

 




BoF編はさっくり終わった感じがしますね。
乱戦模様をすっとばしたからかな……
ちなみにこの後は間話を挟まずに、次回から六魔編に入ると思います。
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