斬魔の妖精   作:ベジタブル

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詰め込んだ結果、多分過去一長いですが、お付き合いください。


26話「白銀の槍、黄金の剣」

▼トウヤ視点

 

「ぐっ……ここは……?」

 

周りには岩がいくつも転がっており、地面に亀裂も走っている。

地面に激突したせいか、至る所に軽い痛みを感じる体を起こし周りを観察すると、俺の隣に倒れているジェラールを発見した。

 

ぼんやりとしていた頭が回転を始め、気を失う少し前の事が思い出される。

ブレインが起動させたニルヴァーナが乗り物に分類されるような代物であったがために、俺はその巨体から振り落とされてしまったのだった。アルマをエルザの元に置いてきてしまったからには、重力に従って落下していくしかない。

目算数十メートルからの無防備な落下だ。いくら頑丈な滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の体とはいえ、無事ではすまないだろうと覚悟した時、眩い光が俺に向かって飛び込んできた。衝突するかと思われたそれは俺の体を包み込み、スピードを少しだけ緩和させながら地面へと突っ込んだ。

そうして俺は意識を失ったのである。

 

つまるところ、アレはジェラールの流星(ミーティア)だったのだろう。

ジェラールがかばってくれたおかげでこの程度の傷で済んだ、と考えるのが自然だ。

 

まさか、楽園の塔ではあれだけ手古摺らされた魔法に助けられるとは……

 

それに、自律崩壊魔法陣でボロボロの体で流星を発動するだけでも相当な負担のはずなのに、その上で俺を庇った訳だ。

無茶しすぎだと説教したい所だが、このピンチを産んだのが俺の乗り物酔いというしまらない欠点では何も言えまい。

 

「ははっ……そうか、オレは……」

 

ジェラールも気が付いたらしい。

礼を言うためにも近づこうと立ち上がったが、そこでジェラールの様子がおかしい事に気づく。

目元に手を当てて静かに涙を流しているのだ。

 

「どう、した……?」

 

俺の呼びかけに対し、膝を立てて座ったまま、手をだらりとおろしてコチラを見る。

 

「全て、全て思い出したよ。先ほどの衝撃でな……」

 

そう、か……

恐れていた事態となった訳だが――

 

あまり心配する必要はなさそうだ。

楽園の塔で会った時のようなジットリとした悪意は感じない。

むしろ、その相貌から感じるのは深い後悔と自分への嘲笑の色であるよう思える。

 

「安心してくれ、今のオレにゼレフへの狂信は存在しない……むしろ、あんな馬鹿げたマネをさせられた憎しみが……いや、これはオレが言っていい事じゃない、か」

 

その心情は複雑なのだろう。

シモンやエルザの言う、元のジェラールであるならば、自分がしてきた事に対しての自責は止められないだろうし、しかし、それをさせたゼレフへの怒りもとどめきれない。同時にその自責はゼレフへの責めすらも、自分が言うにはおこがましいと感じさせてしまう。

 

それは一面では正しいし、一面では間違っていると俺は感じる。

 

確かに、実際に酷い目にあわされてきた人間を前にして「オレもゼレフに騙された」などとは言わせられないだろう。

だが――記憶を失っていた時のジェラールと話して分かった感覚からすると―ジェラールはそういった感情を内側に溜め込んでしまうタイプだろう。そうして自分を責めているだけでは前に進めない。

――それではダメだ。

 

「ここでは……言っていい。ここには俺しかいない」

 

「は……?」

 

きょとんとした顔をするジェラール。

俺はそっとその隣に歩み寄っていく。

 

「お前だってゼレフの被害者だ……けど、そんな事お前自身では言えない、違うか?」

 

「……そうだ。俺は!」

 

 

 

「だから、俺がお前を赦そう」

 

 

 

ジェラールの整った顔が歪む。

自分にとって都合の良い言葉を受け入れがたいのだろう。

 

「そんな事でこの罪は――」

 

「そうだ、償えない。だから、俺が赦しを与える分だけ、お前は自分を責め続けろ……でも、ただ責めるだけじゃない。俺の赦しに見合うように、お前は自分のやるべき事をやるんだ」

 

ただ、無条件で赦され続けるなど、コイツにとっては耐えがたいだろう。

前を向いてもらわねばならない。

エルザはきっと、その方が喜ぶから。

シモンや、他の面々だってそうだ。

ただ、うじうじと閉じこもっているだけのジェラールを認めることなどありはしない。

ゼレフの言いなりになっていた時とは違い、もう自分の意思を取り戻しているのだから。

 

「今の状況は分かっているな?」

 

「あ、あぁ」

 

「六魔の奴らが理不尽な暴力を振るおうとしてる……やるべきことは分かるな?」

 

「あぁ!」

 

ジェラールの肩に手を回し立ち上がらせる。

その頬には一筋の涙が流れた跡があり、その口許にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 

「ありがとう」

 

その呟きに努めて反応しないようにしながら、進軍を続けるニルヴァーナへ向かって歩き始めた時、脳内に声が響いた。

 

『誰か……誰か、聞こえるかい?』

 

 

 

 

▼三人称視点

 

トウヤの元に通信が届く少し前、ジュラはホットアイと共にニルヴァーナへと乗り込んでいた。

ニルヴァーナの中心、王の間にブレインがいるだろうとのホットアイの言葉から、そちらに向かった二人だったが……

 

「誰もおらん、な」

 

「私もこのニルヴァーナの全てを知り尽くしている訳ではありませんデス……どこかに向かって動いているのを見る限り、自動操縦機能があるのかもしれませんデスネ」

 

そのまま王の間に留まり、ニルヴァーナを止めるための手がかりを探す事とした。

しかし、こちらも一向に成果は出ず、次第に焦りが募りだしたその時、ジュラに向けて凶弾が放たれた。

 

パン、と乾いた音が響いて魔力弾が飛んでいく。

それに先に気づいたのは、意外なことにホットアイであった。

岩の魔導士らしく、石造りのニルヴァーナを熱心に調査していたジュラに対し、ブレインの狡猾さを知っていたホットアイは何か違和感のようなものを覚え、警戒していたのである。

しかし、いずれにしろ魔力弾が放たれてから気づいたのでは遅かった。

 

ブレインは焦っていた。

ニルヴァーナを起動した時こそ、自分とホットアイの2人であと少しの間耐えきれば、ニルヴァーナにより大量の駒を手にできると安易に考えていた。

しかし、ニルヴァーナに乗り込んでくる面子の中にはジュラと共に仲睦まじく歩くホットアイがいたのである。

いかにたった6人でバラム同盟の一角を占める『六魔将軍(オラシオンセイス)』とはいえ、このままでは多勢に無勢だ。

6人のうち、4人までを倒してしまったメンバーに、当の六魔が1人に、いまだ末席とはいえ聖十(せいてん)大魔道が1人……自信家のブレインからしても目的完遂は厳しいと言わざるを得なかった。

しかし、だからといって諦めるような潔い男でもなかったのである。

ニルヴァーナには自動操縦機能がある事を知っていたブレインは、すぐにそれを――ウェンディのギルドである――『化猫の宿(ケットシェルター)』に設定し身を隠した。

つまる所、ニルヴァーナが『化猫の宿』に放たれた時に属性が反転した者たちを操る人間が残っていればいいのだ。それは何も()()()()()()()()()()()()

確かに現状をブレイン1人で乗り切る事は難しいだろう。だが、条件さえ満たしていればそれで問題はないのだ。ブレインの体に施された封印さえ解けてしまえば、その体には『六魔将軍』最強の男が解き放たれるのだから。

彼にかかればこの程度の苦難、文字通りに“破壊”されてしまうに決まっている。必要以上に色々と破壊されてしまいそうなのが不安ではあったが、背に腹は代えられぬとホットアイ撃破のチャンスを伺ったのであった。

 

 

「危ないデス!!」

 

 

ジュラを狙った――ように見えた――魔弾は、実際にはホットアイの腹に吸い込まれ、そこに穴を穿った。

愛に目覚めた……目覚めてしまったホットアイにとって、目の前の新たな仲間を狙った攻撃から、身を挺して庇うのは至極当然の事であった。

 

「ぐぅっ!」

 

血を吹き出しながら膝から崩れ落ちるホットアイ。

だが、その表情は穏やかなものであった。

愛に生きる事、他者を思いやる事。

新たに自分の内に生じたそうした光を感じていたからだ。

そして何より、自分がここで倒れたとしても、横にいる新たな仲間はきっとなすべき事を成してくれる、そういう強い魔導士だと信じていたからだ。

温かい気持ちを胸に、ホットアイは意識を失ったのだった。

 

「リチャード殿!?」

 

倒れたホットアイに駆け寄るジュラ。

気を失ってはいるものの、現段階では命に別状はない事が分かると、今度は魔力弾の飛んできた方向を睨みつけた。

 

「フンッ、六魔に貴様のような半端者は要らぬわ」

 

物陰から現れたのは、狙いを完遂し、新たに顔の封印(ライン)が1本消えたブレインだった。

ブレインはニヤリと口端を釣り上げる。

実のところ、ブレインにとってこの展開は予想通りであった。

ホットアイが簡単に裏切るとは思えない、とあれば恐らく原因はニルヴァーナ。悪の権化たる六魔、守銭奴であるホットアイが反転すればどうなるのか、ブレインは読み切ったのである。

故のジュラへの不意打ちであった。

十中八九、ホットアイが庇うだろうし、そうでなくても最も厄介な聖十を始末できると踏んだのである。

 

「貴様……!」

 

想定通りに事が運んだと、内心喜んでいるブレインとは対照的に怒気を全身から放って立ち上がるジュラ。

思わぬ迫力にブレインですら一歩後ずさってしまう。

 

「こちらに寝返ったとは言え、元は仲間であった者をそうまで容易く……」

 

「ニルヴァーナの効果を信用しているだけの事だ。そうだな……実感してもらうとしようか。光栄に思え、貴様をニルヴァーナの操り人形の1人目にしてやろう」

 

もはや問答は無用とばかりに構える双方。

眼光鋭くブレインを射抜くジュラと、不敵に笑みを浮かべるブレイン。

同時に手を翳し――ブレインだけが吹き飛んで行った。

余りにも初速が違う。

周囲に大量の岩石が浮かび上がり、ブレインに突き刺さる。

反撃に繰り出した魔法は新たに出現した岩壁に防がれ、いなされ、ジュラの元に届きはしなかった。

挙句、その防壁は飛礫(つぶて)となってブレインを叩く。

余りにも一方的な攻防は僅か数十秒の内に、ジュラの勝利という形で終わってしまったのだった。

 

しかし、それでも倒れゆくブレインの顔は――奇しくもホットアイと同様に――穏やかなものだった。

それも仲間の勝利を確信して、という奇妙な共通点を持っていた。

 

「マスター……ゼロ……あとは……」

 

ジュラは「マスター」という不穏な言葉を気にしつつも、まずはホットアイの応急処置だと切り替えて踵を返した。

だから、ブレインの顔面に起こった明確な変化――封印のライン、その最後の一本が消える決定的瞬間を見逃してしまったのである。

 

ブレインには知識を好む表の顔とは別に、もう1つの人格が存在する。

それは破壊を好み“(ゼロ)”のコードネームを持つ、『六魔将軍』のマスターである。

あまりに凶悪で強大な魔力を持つために、ブレイン自身によって6つの鍵――六魔将軍のメンバーにかけられた生体リンク魔法で封じられていたのだ。

ホットアイが倒れ、ブレインも倒れた今、マスターゼロを封じる枷はもはや1つも無くなった。

 

ブレインの体から莫大で邪悪な魔力が間欠泉のように噴き出した。

何事かと焦りながらも咄嗟に身動きの取れないホットアイを庇うように抱きかかえたジュラ。

そこに目覚めの一発とばかりに、指向性を持たされた魔力の奔流が襲いかかり――

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

『その声はトウヤ・グレイスかい!?』

 

脳に響く甘い声は『青い天馬(ブルーペガサス)』のヒビキとやらだろう。

近年開発されたという情報を操る魔法の使い手と聞いているし、ウチのウォーレンのような芸当ができてもおかしくない。

 

「あぁ……それで、今どういう状況だ?」

 

『それが……』

 

敵との交戦で一度は意識を失ったものの、何とか少し動ける程度には回復したヒビキは、まず作戦責任者である一夜とジュラに現在の状況を尋ねようと通信を開いたらしい。

一夜の方は気を失っているのか応答が無かったそうだが、ジュラからは切迫した状況が伝えられてしまった、という。

ヒビキが言うには、ニルヴァーナの影響で善意に目覚めたホットアイと共にニルヴァーナを探索中、最後の六魔であるブレインに不意打ちを食らい、ホットアイが撃破されてしまったそうだ。

その後はジュラとブレインがタイマンでやり合ったようだが、こちらは問題なく勝利を収めた。

問題は一度倒れたブレインの体から、それまでとは比べ物にならない量の魔力が吹き出し、まるで人格が変わったかのような苛烈な猛攻にジュラまでもがやられてしまったことだ。

ジュラは何とか意識を失う前にヒビキの呼びかけに応じて、これらの情報をもたらしたそうだ。

更に悪い事に、ヒビキの分析ではニルヴァーナは現在自動運行の状態になっており、このままでは10分もしない内にニルヴァーナを作った種族の末裔であるニルビット族の集まりである『化猫の宿』が呑み込まれてしまうのだという。

そして、自動運行を止める手段は見つからず、ニルヴァーナを破壊する方法も現在捜索中だそうだ。

 

正直、ホットアイがこちら側に寝返っただとか、聖十が破れただとか、標的が『化猫の宿』だとか、それがニルヴァーナを作っただとか……訳の分からん情報がどんどんと開示されても困惑が勝つのだが……

しかも、何やら別の場所で通信を聞いているらしい『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の面々が騒がしい……十中八九、ナツがゼロと闘いに行ったのだろう。

 

まぁでも、そうだな……

 

俺は通信に声がのらないように懐から紙を何枚か取り出し、ジェラールに

 

【ゼロを倒しに行ってくれ、多分ナツが苦戦してる】

 

と伝える。

驚いた顔をして、声を出しそうになったジェラールを手で制して、更に筆談を続ける。

 

【それが終わったらそのまま行方をくらませろ。覚悟が決まった時にエルザに会いに来い】

 

ジェラールが逡巡する様を眺めている時、不意にニルヴァーナの中心の塔から爆炎が立ち上った。おそらくナツが戦闘を開始したのだろう。

ナツは強いし、手傷を負っている相手とはいえ、聖十にタイマンで勝てる男とやり合うのはまだ厳しいだろう。

やはり、何かしらの助太刀が必要になってくるはず……

俺は少し悪い笑みを浮かべてジェラールの背中をポンと叩いて、とあるメモを渡した。

切羽詰まった状況と理解してか、キッとその爆炎を見据えたジェラールは一歩踏み出してからこちらを振り返る。

パクパクと口を動かしたと思うと、流星となって飛んで行ってしまったジェラール。

恐らく、あの口許の動きは『必ず、また会いに行く。ありがとう』だったと思う。

 

では、こちらもできることをするとしよう。

 

 

「ヒビキ……あのデカ物を壊せればいいんだな?」

 

 

 

 

▼ウェンディ視点

 

『あのデカ物を壊せればいいんだな?』

 

通信越しに聞こえたトウヤさんの声は、敵の狙いが『化猫の宿』であると知って混乱しきっていた私の頭に染みわたったように感じた。

多弁でなくても雄弁なその自信にあふれた声音が私を落ち着かせてくれたのだ。

なんだか、ジェラールみたいな……お兄ちゃんみたいな声。

 

トウヤさんは、あの通信の後すぐに飛び出していったアルマと一緒に、各地で倒れている討伐隊の面々から魔力を貰い、集めた魔力でニルヴァーナを破壊するつもりみたいだ。

今はもう地上の人たちの分は回収を終え、ニルヴァーナの上に向かっているらしい。

今ここにはずっと一緒に行動していたシャルルとエルザさん、ニルヴァーナで合流したグレイさん、ルーシィさんがいる。

私では刃を作る事はできないけど、トウヤさんも乗り物酔いが酷いみたいだから、トロイアが有効なハズ。

私たちのおうちを守ってもらうんだもの、少しでも役に立たないと……

 

「あ、アレ、トウヤじゃない?」

 

そうこう考えていると、ルーシィさんが声を上げた。

どうやら、トウヤさんが到着したようだ。

 

「遅くなった……魔力くれ」

 

なんだか、既に苦しそうに見えるトウヤさん。

空気以外のものを食べようと試してみた時の私みたいな……

 

「おいおい、ホントに大丈夫なんだろうなぁ?……ほれ」

 

そう言いながら氷の刃を差し出すグレイさん。

乗り物酔いがあるせいか、アルマに浮かせてもらいながらそれを受け取る。

続いてルーシィさんが馬の被り物をした星霊を召喚した。

 

「トウヤ、お願いね……サジタリウス、やっちゃって!」

 

「了解いたしました、もしもし」

 

星霊の弓から放たれた矢に齧りつき、これまた刃の部分を平らげていく。

今度は私の横からエルザさんが進み出てきた。

 

「無茶ばかりしおって。たんと食え……頼んだぞ」

 

数本の剣を換装してトウヤさんに渡し、トウヤさんも美味とばかりに喉に通していった。

おいしそうに魔法剣を頬張り終えたトウヤさんがこちらを向いて、優しく語り掛けてくる。

 

「ウェンディ」

 

その声に反応し、私も1歩前に出る。

 

「あ、あの私、刃物は出せませんけど、乗り物酔いを緩和する魔法なら使えます!だからその……」

 

そこまで必死に言った私を見てなぜかきょとんとするトウヤさん。

えっと、何が以外なのだろうか……?

 

「それはありがたいが……攻撃魔法の方も貰っていいか?」

 

攻撃、魔法……

そんなの使った事ないし……

 

「この子の魔法は治癒の魔法なの!攻撃は専門外だわ!……私たちのギルドの為にやってくれてるのは分かってるけど、それはできないものは諦めてちょうだい」

 

私の代わりに言いながらも、『化猫の宿』の存亡がかかっている為に、シャルルも強く言えないみたいだ。なんというか珍しいものを見られた気がするなぁ……

ともかく、私の魔法は治療に特化していて攻撃はできないのは事実のはずだ。

でも、トウヤさんは納得いっていないみたいで……

 

「……滅竜魔法はドラゴンと喧嘩するための魔法だ。攻撃もできる」

 

「で、でも仮に使えたとしても刃物は出せませんよ……」

 

確かに、“滅”竜魔法と名前が付く魔法で攻撃ができないのは不自然ではある。

私の経験測だけで勘違いしている可能性はあるかもしれないだろう。

だが、私の魔法で攻撃できたとして、それは恐らく暴風を起こすようなものになると予想できる。

極めれば鎌鼬のような斬撃が出せるかもしれないが、攻撃をしたことがない今の私では難しいのではないだろうか。

 

「はぁ……それは問題ありませんよ。ここまでの道中、どうあがいても刃物を出せない方の魔力も無理やり食べてきましたから」

 

えっ、えっ。

そんな事って……

 

そう思い、エルザさんの方を見ると、こちらもアルマと同様に深く溜息を吐きながら

 

「コイツはエーテリオンを食ったことがある……ウェンディの魔法も問題ないだろう」

 

と教えてくれた。

む、無茶苦茶です、トウヤさん……

 

頭を抱えたくなる衝動に駆られる私だったが、トウヤさんの目は終始いたって真剣だ。

きっと、私を信じてくれているのだろう。

 

 

「出し方は……そうだな……ぶつけてこい、俺に。一緒に化猫の宿を守りたいって気持ちを」

 

 

顎に手を当てて真剣に悩んでアドバイスをしてくれるトウヤさん。

その内容は具体的とは言えない。

でも、それは何となく、スッと私の中に入り込んできた。

 

――トウヤさんと一緒に守る、か。

 

そうだ。

守って“もらう”んじゃない。

 

確かに、実際にニルヴァーナを壊すのはトウヤさんだけれど、気持ちの上まで頼りきりじゃダメだ。

一緒に闘うんだ。

一緒に抗うんだ。

一緒に、家族を守るんだ。

 

そう思えば、なんだか自分の体に力が宿ってくる感覚が巻き起こる。

 

――グランディーネ、これが私の魔法の力なの……?

 

やれる。

そんな確信がある。

 

「分かりました……トウヤさん、私の気持ち、受け取ってください!!」

 

驚いた表情をするシャルルと、心底嬉しそうにゆっくり頷くトウヤさんを見たあと、私は一息吐いて目を瞑った。

スウウウウウと大きく息を吸い込む。

空気を、風を、大気を、空を……天空を喰らう。

体の奥深くの魔力炉が火を噴き、全身に力が漲ってくるのを感じる。

後はこれを吐き出すだけ――!

 

「天竜の……咆哮!!」

 

私の口許から巨大な竜巻が発生する。

あらゆる物をなぎ倒せそうな暴風はトウヤさんの方に向かっていって……トウヤさんの口に収まった。

 

やった!

私、できたんだ!!

この力で、私と一緒に『化猫の宿』を守って、トウヤさん!

 

「ありがとう……行ってくる」

 

そう言って、トウヤさんは空中で翻り、アルマと一緒に空高くまで飛び上がって行ってしまった。

私は初めて使った攻撃魔法の疲労と充実感からその場にへたり込んでトウヤさんを見送る。

 

 

 

少し経つと火照っていた頭が落ち着いてきたのだが……

私の口から出たモノが、トウヤさんの口に……ってなんだかちょっと恥ずかしいような……

 

 

 

 

▼三人称視点

 

ニルヴァーナ中央、王の間。

火の竜と破壊の権化がぶつかり合っていた。

いいや、ぶつかり合っていた、という表現は正確ではないだろう。先ほどから、ゼロによる砲撃をナツがいかに躱すか、いかに防ぐか、というやりとりしか行われていないのだから。

ゼロの放つ闇色の光線は螺旋を描きながら変幻自在にナツを追い、前から後ろから、時には下からもナツを追いつめていた。

大きく体を動かしながらどうにか前に進もうとするナツに対し、ゼロは指先を軽く動かすだけ。攻撃を放つ暇すらないその闘いは、誰がどう見てもナツの防戦一方であった。

 

「はっ!どんな猛者が襲い掛かってきたかと思えば、とんだ雑魚じゃねぇかよ……さっさと壊れちまえよ!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!」

 

荒く息を吐き、立っているのもやっとと言ったナツに、これまでの中でも最も高威力かと思われる極太の光線が迫る。

 

「くっ……!」

 

躱す事を捨て、受け止める事を選択したナツが手を体の前でクロスさせて防御の体勢を作る。しかし、貫通性を持つゼロの魔法の前ではその程度の守りは紙切れ同然であった。

いよいよ貫かれるかと思われたその時――

 

流星(ミーティア)!」

 

彼方より流星が飛来し、ナツの体を攫って行った。

流れ星はナツの体をゼロから少し離れた位置に優しく立たせ、その隣に自身も降り立った。

 

「おまえ……何しに来た!?ジェラール!!」

 

鬼の形相でジェラールの胸倉をつかむナツ。

ジェラールはその迫力にも負けずにナツの目をしっかりと見据えて言い放った。

 

「おまえを助けに来た」

 

どういうつもりだ、と言わんばかりにジェラールの襟をつかむ力が強くなる。その苦しさから少し顔を歪めながらも言葉を続けていく。

 

「オレがしてきた事がどれだけ取り返しのつかない事かは分かっている……シモンや、ミリアーナ、ウォーリーにショウ……そしてエルザ。オレはかつての仲間を傷つけてしまった。だから、その償いがしたいんだ。そして、同じように、理不尽な力に翻弄される人々を少しでも減らしたい!」

 

ナツの力が少し緩む。

ジェラールの眼力は少しも弱まらず、ナツを見据え続ける。

 

「虫が良いのは分かってる……だが、ニルヴァーナを止めるための手伝いをさせてくれ!」

 

ジェラールの真意がつかめずナツの瞳が揺れる。

しかし、何となく分かってもいた。

ジェラールが1つもウソをつかず、真実、心から思っている事だけを語っている事を。

何より、楽園の塔で見た、あのどす黒い悪意のようなものが少しも感じられなくなっている、という事を。

 

しかし、こうなってくると面白くないのはゼロだ。

蚊帳の外にされたばかりか、トドメとばかりに放った攻撃を妙な横やりで躱され、しかもその正体が奇妙な事ばかり言う“堕ちた”ジェラールなのだから。

スッと手を2人の方に翳し、魔法を放った。

 

「んなトコで内輪揉めする暇があるなら、仲良くぶっ壊れちまえよ!!」

 

不意に放たれた砲撃に身構えるナツだったが、その衝撃は届きはしなかった。

ナツと光線の間に入ったジェラールが、ナツを庇ったからだ。

大きく両手を広げナツの方を見て、ゼロの魔法を背中で受け止めたのである。

 

「ナツ……これはトウヤからおまえに、と」

 

ハァ、ハァと息を吐きながら、懐から紙を取り出し、ナツに渡すジェラール。

そこに書かれていたのは【今のジェラールは大丈夫。ジェラールが信じられないなら、俺を信じろ】という、紛れもなくトウヤの筆跡で書かれた言葉だった。

エルザを泣かせた事は決して忘れない。

だが――

 

「今回だけだ!おまえを許した訳じゃねぇからな!」

 

少しの逡巡の後、そう結論を出したのだった。

その返事を聞いてホッとしたように頷き、左手を差し出すジェラール。

その手のひらには金色に輝く炎が揺らめいていた。

 

「これは咎の炎……そして誓いの炎だ。後は頼む」

 

そう言い残し、ジェラールの体は崩れ落ちてしまった。

 

そして、ナツとの間の壁となって視界を塞いでいたジェラールが倒れた事で、ようやく見えるようになったナツの姿は、ゼロにとってさながらドラゴンのようであった事だろう。

 

漏れ出す明るい炎が夜闇を照らし、その体には鱗の模様が浮かびあがっている。

迸る魔力がキラキラと煌めいて、ゼロの脳裡にある言葉が想起される。

 

「まさか……ドラゴンフォース!?……っぐぉ!!」

 

先ほどまでと比べて数倍ものスピードで突っ込んできたナツの拳が、その問いへの返答となった。

吹き飛んだ先ですぐに体勢を整え、反撃の光線を放つも、軽く振るわれたナツの拳によって簡単に弾かれてしまう。

自分をも凌駕するかもしれない破壊の力を前に、身震いし、されどニタリと笑みを作ったゼロ。

どちらが上か競い合い、破壊し合う。

自分が求めていた闘いが目の前にある、と。

 

一方のナツも不思議な感覚に困惑しつつも、高揚を隠せずにいた。

体中から力が吹きあがる感覚はエーテリオンを喰らった時に似ている。

それと同時に、何か心までもが温かくなるのも感じるのだ。

まるで、この炎をくれた男の心までもが伝わってくるかのように。

 

「ジェラール……確かに受け取ったぞ、おまえの炎」

 

――これならやれる。

そう確信したナツは再び大きく踏み込み、ゼロに殴りかかった。

こうして第2ラウンドのゴングが鳴らされたのである。

 

▽ ▽ ▽

 

ニルヴァーナの上空へと、アルマと共に飛び上がったトウヤも新たな力の萌芽に戸惑っていた。

ウェンディの魔力を受け取った時、普段魔力を取り込む時とは全く違う感覚が去来したのだ。

普段、刃を食べる時の感覚はそこに秘められた魔力が自分のものに置き換わり、増幅するような印象だ。エーテリオンのように無理やり捕食した場合も、その変換に明らかに大きな負担がかかり、苦痛を伴うという点以外はそう変わらなかったのだが、今回はそうではなかった。

まるで、ウェンディの魔力そのものが入り込み、混ざり合うような感覚。

融合に近い何か。

 

――だが、これは……!

 

そう、遥かに負荷が大きいのである。

確かに、莫大な力の流れを感じるが、それは異物を異物のままに取り込んでの結果であり、自然な状態とはとても言い難い、劇薬のようなものなのだ。

 

「大丈夫なんですか、トウヤ!」

 

トウヤの様子がおかしい事に気づいたアルマがそう問うが、まさか「今にも爆発しそうだ」と返す訳にもいかず、仕方なく右手を横に突き出してサムズアップの形を取った。

無理をしているのがはっきりと分かる様子に納得できずに盛大に溜息をつくアルマ。

 

「……本当に無茶ばっかり。たまにはコチラの気持ちも理解して欲しいものです。でも、今、ウェンディのギルドを助けられるのはあなたしかいません……頑張って下さいね」

 

予定高度に到達したアルマはトウヤを空中に放り投げた。

 

「……っし!」

 

落下しながら風を感じる。

下を向けば巨大な怪物(ニルヴァーナ)

ニルヴァーナの砲口の先を見つめれば、猫を象った建物がいくつか集まった集落が目に映った。

自分が守らなければならない場所を見据えて拳を握るトウヤ。

 

例えそれが()()()()であったとしても、こんな事でなくなっていいなんて事には決してならない。

優しさで編まれた世界の終わりは優しさであるべきだ。

だから、こんな自分たちの欲の事しか考えていないような連中に利用されちゃいけない。

そう考えながらトウヤは魔力を練り上げていった。

 

「――モード天斬竜」

 

迸る魔力の色が普段の銀色から、白銀へと変わっていく。

 

「斬魔ノ太刀、天の型」

 

脚を真下に向けて、天を切り裂く斬撃が超スピードで落下していく。

 

 

 

「滅竜奥義・改――斬覇天竜槍(ざんぱてんりゅうそう)!!」

 

 

 

白銀の竜の咆哮がこだまし、それと同時に――

 

▽ ▽ ▽

 

ドラゴンフォースを発動したナツと、本気を出したゼロの攻防は先ほどまでとは打って変わって互角であった。

一方が押せば、もう一方が押し返す。

この繰り返しであったが、しかし悲しい事に優勢なのは未だゼロの方であった。

この場面に至るまでに受けてきたダメージがナツを追い込んでいたのだ。

 

――あと一手、あと一手何かあれば流れを持っていける。

 

そんな折、天に白銀の矢が現れたのだ。

 

「何だアレは……」

 

その瞬間、ゼロの動きが止まった。

矢から放たれるあまりにも莫大な魔力、その破壊力に目を奪われる。

自分を遥かに超える破壊の権化を目にし、一種の感嘆のようなものを抱いてしまったのである。

 

そして、それはこの闘いの中で初めて見せたゼロの大きな隙となった。

普段とは少し違うが、あの魔力はまぎれもなくトウヤのものだ、ならば何も問題はない、そう素早く判断したナツにとって、その隙を突く事は児戯にも等しかった。

 

ダンッと地を蹴り、ゼロの懐に潜り込む。

金色の炎が噴き出し、あらゆるものを焼き尽くす。

 

「しまっ――」

 

ゼロは下から迫る爆炎に再びドラゴンを幻視し、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が何たるかを理解した。

 

「全魔力解放――滅竜奥義“不知火型”」

 

白銀の竜の咆哮がこだまし、それと同時に黄金の竜が雄叫びを上げる。

 

「紅蓮鳳凰劍!!!」

 

夜空で白銀の槍と黄金の剣が交差する。

少しして、ニルヴァーナがゴゴゴと音を立てて崩壊を始めた。

 

これにて、ニルヴァーナ事件は閉幕と相成った。

 




この後はニルヴァーナ編の事後処理とウェンディがフェアリーテイルに加入してからの話が挟まってからエドラス編に入ると思います。
エドラスは大分オリジナル要素が多くなるかなぁって感じです。
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