斬魔の妖精   作:ベジタブル

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27話「天空の巫女」

▼トウヤ視点

 

「馬車が……快適だ……!」

 

「良かったですね、トウヤ。平衡感覚を補助する魔法……トロイア、でしたか?流石はウェンディです。トウヤもちゃんとお礼を言ってください、ほら」

 

「ふんっ、その通りね、もっと感謝しなさい!ただでさえこの後治癒魔法を使うんだから、ウェンディに余計な負担を掛けないで欲しいものね!」

 

「もう、シャルル!トウヤさんにはお世話になりっぱなしなんだから、これくらいは当然だよ!」

 

ぷんすかと可愛く怒って妖精の紋章のついた右腕で、となりのシャルルにメッとするウェンディ。

 

現在、俺はアルマ、ウェンディ、シャルルと共にクエストに向かう馬車の中で揺られている。今回の依頼は、マグノリアから少し離れたとある村の金持ちからのもので、娘の治療をして欲しいという話だ。

本来、治癒魔法というのは失われた魔法(ロストマジック)に該当する大変珍しいものであり、何らかの治療を受けたい時は素直に医者を頼るのが普通だと言える。それでもクエストを発注したのは、娘の症状というのが研究の進んでいない魔獣から受けた毒を原因とするものだからだそうだ。今すぐにどうこうなるという程切羽詰まっている訳ではなさそうではあるが、いずれ衰弱死してしまうとかなんとか。

依頼主的には医療の発展を待ちつつ、一縷の望みを託しての発注だったのだろうが、結果的には何ともタイミングが良かったと言えるだろう。

なにせ、つい先日フィオーレにおいて恐らく唯一の治癒魔法の使い手たるウェンディ・マーベルが、我が『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に加入したばかりだったのだから。

 

では、『化猫の宿(ケットシェルター)』所属だったはずのウェンディがどうしてウチに居るのかも含めて、ニルヴァーナが崩壊した後の顛末を語っていこうと思う。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

ニルヴァーナに渾身の蹴りをお見舞いしてやった後、俺は何とかブレーキを掛けようと地面に向かって魔力を噴出させていた。

 

「とま……れっ!」

 

努力の甲斐あって、完全に止まれはしなかったものの、地面に激突したところで少しのケガで済むだろうという所までスピードを落とす事に成功した——のだが……

 

「トウヤァ!?」

 

目の前にいくつかの人影が現れてしまった。

先ほど別れた後、すぐにニルヴァーナから避難したらしいエルザ達一行が落下の軌道上に突っ立っていたのである。

先ほど声を上げたのはグレイだったが、ルーシィもエルザもウェンディもシャルルも、皆一様にこちらを見上げて驚いた顔をしていた。

とはいえ、全員が魔導士だ。

グレイやエルザは危険を察知してすぐにその場を退いたし、ウェンディもしっかりしているシャルルに手を引かれて難を逃れていた。

良かった良かった、皆避けてくれた……

 

「ちょっ!?」

 

何故かその場であたふたしているルーシィを除いて、だが。

グングンと迫ってくる地面とルーシィ。

あっ、これ無理と思ったその時、何となく目をつむってしまったのがいけなかったのではないか、と今になって思う。

 

ゴンッ!

ガツン!

ごろごろごろ……

むにゅん。

 

落下の勢いそのままにルーシィに激突し、俺たち2人は地面を絡まりながら転げ回った。

ぐるんぐるんと回る感覚に少々酔いが来て、その場で掴まれそうなものに必死にしがみついたのだが、そんなもの互いに抱き合っている相手しかいなかったのである。

むにゅんと顔面に幸せな柔らかさを感じながら、へぶっと回転が停止した。

すぐにどこうとはしたのだが、酔いからすぐには動けそうに……というか動きたくなかったです、ハイ。

 

「んっ、ちょっ……あぁっ、もう……トウヤぁ……」

 

ほおおあああ!?

なんかちょっとやらしい声出さないでもらえますか!?

 

「まったく……ほら、トウヤ。どかしますからね」

 

その時、ふっと体が浮かぶ感覚がして、幸せな感触が離れ……というか俺の方が離れていっていた。

首だけ回して振り返った視線の先には、若干お怒りになった雰囲気のアルマさんが……

一生懸命ここまで追いかけてきてくれたのに、見せられたのがルーシィの胸に顔をうずめる俺では怒って当然ですよね、ハイ。

 

と、ここまでの様子を見てエルザが一言。

 

 

 

「流石だな……ルーシィ……」

 

「どういう意味よっ!!」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

ややあってハッピーがナツを連れ、意識が回復して何とか逃げ出してきたらしいジュラとホットアイも合流する事が出来た。

ナツには睨まれながら「貸しイチだぞ……」と言われてしまったが、あの顔は何となくジェラールを既に認めていそうな感じがする。複雑な感情は少しの間消えないかもしれないが、まぁ、借りを返す為の憂さ晴らしくらいには付き合ってもいいだろう。

ナツとの試合など面倒な事この上ないが、流石に今回は負い目が勝つ。

ジュラの方は何気に今回ゴタゴタしていたせいで初めて会うという事に気づき、それなりの挨拶をした。なぜか「噂は聞いている。お互いに万全の状態で会えた時は是非て合わせ願いたいものだ」などと言われてしまったが……

いや、そんな、聖十(せいてん)大魔道の一角を占める御方に見せられるようなモンじゃないと思うんスけどね。めんど……畏れ多いので少々距離を取らせていただこう。

 

さて、ナツがハッピーと2人で帰ってきたという事は、ジェラールは俺の言った通り、あのまま何とか逃げていったのだろう。

逃げたとはいっても、あいつの事だ、本当にしらばっくれたりはしないはずだ。

これからは自分にできる償いを考えて行動し、落ち着いたころには再び俺達の前に現れてくれると信じている。

そういうお堅いところはウチにいる()()()()()()と共通だろうから心配いるまい。

むしろ、かなり弱っていたのに1人で逃げる事になってしまった事の方が心配だが……まぁこちらもあいつ程の実力なら問題はないだろう。

 

そんな風に考えていた時の事だ。

 

「手荒な事をするつもりはありません。しばらくの間、そこを動かないでいただきたいのです」

 

その声と共に俺達の周囲に術式の結界が張り巡らされたのだ。

質的にはフリードのそれとは比べ物にならないが、複数人で捕らえる事に特化させて作っている為に、強度的にはかなり高いだろう。

勿論、その気になった破壊できる程度のものだが。

 

結界の向こうからぞろぞろと数十人……ともすれば百人を超える男たちが現れ、こちらを取り囲んでくる。

その全員がアンクの意匠が描かれた制服に身を包んでいる。その中で唯一服の形状が異なる、長い黒髪を後ろで結い眼鏡をした男が一歩前へ出た。

 

「私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」

 

新生評議院、ね……

確か、今までの評議院はジェラールたちが起こした不祥事で信用を地の底に落として解散となったはずだ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の面々からすれば目の上のたんこぶといった感じではあろうが、フィオーレ全体の事を考えれば絶対に必要な機関ではあるから、いずれ復活するとは思っていたがこうまで早いとは思わなかった。

 

「我々は法と正義を守る為に生まれ変わった。いかなる悪も決して許さない」

 

以前は、ウチが何かヘマをやらかしても、擁護派のヤジマさんが何とか取り成してくれていたようだが、こう言うからにはこれからはそうもいかなさそうだ。

 

「オイラたち何も悪い事してないよっ!」

 

今までの扱いを思い出してかハッピーが先手を打って抗議し始める。

見ればグレイやナツも若干身を硬くしているようだ。

……評議院を通さずにバラム同盟の一角を落とした事は、まぁ、多分、恐らくは不問に処されるとして、実際今回は本当に悪い事などしていない。

おそらくここに現れたのは……

 

「今回の我々の目的は六魔将軍(オラシオンセイス)の捕縛。ここまで赴いたのは……そこにいるコードネーム、ホットアイを引き渡していただく為です」

 

まぁ、そういう事だろうな。

ニルヴァーナによって性格が反転したって話だったが、先ほど少し話してみただけでも気のいい男になっていたのは明らかだった。

あのままなら何の問題もなく世間に溶け込んでいけるだろうし、本来なら俺としては逃がしてやりたいのだが……目の前に検束部隊がいるのではどう頑張っても手遅れだろう。ここで明らかに庇い建てしようものなら、今度はコチラの立場が悪くなる。

ジェラールを先に逃がしたのは我ながら英断だったと言える。

 

「ま…待ってくれ!」

 

この中で最も長くホットアイと接していたからか、生来の漢気ある性格からか評議院に食って掛かろうとするジュラだったが、「いいのデスネ」とホットアイ本人に肩を叩かれ静止される。

 

「善意に目覚めても過去の悪行は消えませんデス。私は一からやり直したい」

 

少しの逡巡が挟まり、諦観と悲しみ、そして美しい覚悟への少しの喜びの入り混じった複雑な表情をしたジュラが口を開いた。

 

「ならばワシが代わりに弟を探そう……弟の名は?」

 

「名前はウォーリー……ウォーリー・ブキャナン」

 

弟を探しているという事情があった事は意外ではあるが、それ以上にその名前の方が衝撃的だ。

だって、俺達は——特にエルザは――その名前をよく知っているのだから。

そのエルザがとても嬉しそうな笑顔をホットアイに向けて語りかけた。

きっと、友の家族が見つかった事が嬉しいのだろう。あの塔から解放された人間の中で、今でも家族と交流できる人間が一体何人いるものか、と考えれば……

 

「その男は私の友だ。今は元気に大陸中を旅している」

 

その言葉に驚きと感謝の表情を露わにし、ホットアイは泣き崩れてしまった。何度も「ありがとう」と呟くさまは見る者に感動を与えるには十分な光景だっただろう。

俺はそっとジュラに近づいた。

 

「ジュラ、ホットアイ……いや、リチャードだったか……弁護は頼むぞ」

 

この男の立場であれば、せめて極刑だけは免れる事が叶うだろう。こんなやり取りを見せられて、弟にあう事もないまま処刑では寝覚めが悪すぎる。

ま、言うまでもない事だったろうが。

その証拠に、ジュラは既に覚悟の決まった目をしていた。

 

「勿論だ……ワシにできる事は全てすると誓おう」

 

少しして、ホットアイが拘束され、さてこれで話もお終いかと思っていたのだが、なぜか結界が解かれない。まだ何かあるのか、と思っていたらラハールとかいう隊長殿に特大の爆弾を落とされてしまった。

 

「ところで、六魔将軍はジェラール・フェルナンデスの身柄を確保しているとの情報があったのですが、今回の討伐に際して目撃した方はいらっしゃいませんか?」

 

知られてたのね……

大した情報網じゃないか、新生評議院。

ジェラールについて知っているのは俺、アルマ、ナツ、ハッピー、ウェンディ、シャルルだけだ。全員が若干身を硬くして、ナツなどは明らかにそっぽ向いている。

エルザが「ジェラールだと!?」とかなり衝撃を受けているし、恐らく俺達の態度から何か知っているという事が察せらているだろう。後で言い訳しなければならないのが面倒だ……

 

「知らん」

 

誰も口を開こうとしないため、仕方なく俺が口を開いた。

ラハールは明らかに納得していない様子で俺を睨みつけてくるが、その程度の眼光で俺が押されるもんかよ。

こちらだって一層目に力をいれて睨みかえしてやる。

 

「隠しだてしてもあなた方に良い事はありませんよ」

 

「俺達はヤツに因縁がある。もし見つけてたらすぐにぶん殴って縛り上げてる」

 

先に目をそらしたのはラハールの方だった。

一瞬下を向いて溜息を1つ。

どうやら諦めてくれたらしい。

 

「わかりました……今回はここまでにしておきましょう。では失礼します」

 

そう口にして、合図を出すラハール。

すると百人近い検束部隊が一斉に踵を返し、歩き始めた。

なんというか、最初から最後までいやに鬱陶しい連中だったな……

 

 

 

△ △ △ △ △

 

それから討伐隊の全員で移動し、『化猫の宿(ケットシェルター)』の集落で一晩を過ごした。

朝になり、化猫のマスターから話があると言われ、集落の中心にある広場に集められたのだが、その前に今回のお礼にとニルビット族に伝わる織物でつくられた衣装を着せてもらえる事になった。フィオーレではあまり見られない独特な雰囲気だが、よく見るとところどころに猫を思わせるマークが入っていたりと可愛らしい服装だ。

何故か『青い天馬(ブルーペガサス)』の連中だけは普段通りのチャラいスーツ姿だが。

アレも何かしらのポリシーなのだろうか?

 

「この流れは宴だろー!!」

 

化猫の連中、つまりはニルビット族の末裔らを前にして、ナツが宴会だとはしゃぎだす。それに同調して天馬の奴らやグレイにルーシィなども盛り上がる。

 

が、ニルビット族は全くそんな雰囲気ではないようだ。

静まり返った雰囲気に、流石にただ事ではないと察したのか諸手を上げたまま固まる一同を前に化猫のマスターが重たく口を開いた。

 

「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」

 

そんな言葉から始まった話は、俺を除いて全員に衝撃を与えるものだった。

 

まず、この集落はニルビット族の末裔などではなく、ニルビット族そのものなのだそうだ。

400年前、世界中に広がった戦争を止めるため作られたのが善悪反転魔法、ニルヴァーナ。やがてニルヴァーナはニルビット族の国そのものとして、その国は平和の象徴となった。

しかし、強力な力には反動がつきものである。世界を平和に……悪しき心を正した分だけ、善を悪に変える力をため込んでいったニルヴァーナは、その闇をニルビット族に降り注がせた。その後は地獄のような殺し合いが始まり……最終的に生き残ったのはマスター1人だけだったという。

そして、そのマスターもいまや思念体だけの存在となり、ニルヴァーナを破壊できる者が現れるその日まで、ニルヴァーナを見守るだけの存在になっていた。

 

「今……ようやく役目が終わった」

 

そう話すと、周囲の人間達が1人、また1人と減っていく。

ウェンディとシャルルは明らかに狼狽した様子で消えていくギルドメンバーの名前を呼んでいく。その瞳には輝くものが……

 

「騙していてすまなかったな、ウェンディ……ギルドのメンバーは(みな)、ワシが作り出した幻じゃ……ニルヴァーナを見守るため、()()()()に1人で住んでいたワシの元に、1人の少年が訪ねてきた。7年前の事だ」

 

それがジェラール……いや、ミストガンだ。

ミストガンは自分の使命のため、ウェンディを連れて行くのは危険だと判断して、ある廃村に1人で住む老人にウェンディを預けたという。

老人はミストガンのまっすぐな瞳に押し切られたそうだ。

こうして『化猫の宿』という形をとったのは、ウェンディが魔導士ギルドというものに強い憧れを抱いていた事で、咄嗟についた嘘が原因だったという。

俺が事前にミストガンから聞かされていたのはこの辺りの流れだ。ニルビット族がどうだという話は流石に知る由もなかったが、『化猫の宿』が幻によって作られたものであるという事だけは知っていたのである。

 

「そんな話聞きたくない!バスクもナオキも消えないで!!」

 

ウェンディが耳を塞ぎ、泣きじゃくって目を瞑る。

無理もない事だろう。

突然、家族が皆幻だったなんて言われてしまえば……

特に、俺達滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)はそういった話に弱い自信がある。

家族を失う事、そして、その家族がいないものとして扱われ信じてもらえない事。

どれだけの傷になっているか……

 

でも、この幻はそういった“幻”じゃない。

心無い人が否定するために使う言葉なんかじゃなくて、ウェンディを……大切な家族を思いやっての優しい嘘だ。

目を瞑ってちゃいけない。

ウェンディの肩をそっと掴み、手を耳から除けてやる。

 

「ウェンディ、よく見ろ。よく聞け……じいさんは笑ってるぞ」

 

そう言って頭を撫で、じいさんの方を指さす。

その先にいた老人の顔は満ち足りた笑顔をしていて、まるで孫の門出を祝う好々爺のようだった。

……いや、「まるで」じゃなくて、その通りか。

姿は幻でも、その絆は本物の家族だったのだから。

 

「ウェンディ、シャルル……お前たちにもうワシらは必要ない。新たな仲間がいるのじゃからな」

 

老人はウェンディの後ろの俺達一人ひとりの顔をゆっくりと見渡して、最後に俺を見た。

 

「まさか、ニルヴァーナを1人で壊す者が現れるとは思っておらんかった……お主の力は危うい物じゃ。じゃが、その目、家族を想うその目をしているウチは大丈夫じゃろう……」

 

危うい力、か……

だが、じいさんの言う通り、何のための力かを見誤らなければ問題ないだろう。

 

そんな風に考えていると、じいさんは少し溜めをを作ってこう言った。

 

「ウェンディとシャルルを頼みます」

 

俺は何も言わずに頷いた。

本来ならミストガンに言え、と言いたい所なのだが、ヤツも()()()()()()()()()()()()()()であろう事を考えれば、俺が引き受けるのは当たり前の事だ。

それに、そんな理屈なんて抜きにしても、このいじらしい背中を見ていると、俺にも妹ができたように感じられて世話が焼きたくなってしまう。

つまりはまぁ、言われるまでもないという事だ。

 

徐々にじいさんの体も透けてきている。

最後の時が近いのだろう。

 

「ウェンディ」

 

「……はい、トウヤさん」

 

ウェンディは未だに涙を滝のように流している。

それでも、無理やり嗚咽をかみ殺して笑顔を作った。

 

 

 

「マスター……今までありがとう……!」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「……ウヤさん、トウヤさん!起きてください!」

 

ウェンディの事を思い返していたら、人生で初めて体験する快適な馬車という物の中で眠ってしまっていたらしい。

何か妙に焦っているウェンディの様子を見るに何かトラブルが起こったらしい……ってこの匂いは、十数人に囲まれてる?

あぁ……完全に気が抜けてたな、全く、俺という奴は。

 

「すまん……すぐ片付ける」

 

すぐに馬車を飛び出して、外の状況を確認する。

1、2、3、4……15人か。

何となく紋章を見たことがある程度の闇ギルド崩れが相手だ、問題なくやれるだろう。

 

「……来い」

 

 

 

 

▼ウェンディ視点

 

「無事終わってホッとしました……」

 

『妖精の尻尾』に加入してからの初めての仕事だったから、凄く緊張してトウヤさんにお願いして付いてきて貰ったけど、途中怖い人たちに襲われた以外は特に問題もなく、治療もすぐに済んであっさりとマグノリアへ帰ってこれてしまった。

道中の襲撃もものの数分で簡単にトウヤさんが倒してしまって本当に凄いと思ったものだ。特に派手な魔法を使った素振りは無かったのに、次々と敵が倒れていく様は魔法というよりショーや手品の類いかと思ったほどだ。

トウヤさん本人は「慣れてるだけだ」と謙遜していたが、これからは私も戦えるようになっておきたいし、トウヤさんに鍛えてもらえないかなぁ……なんて。

 

「ん」

 

それだけ呟いて私の頭をガシガシと撫でてくれるトウヤさん。

今はもう馬車も降りてしまって、クエスト終了の報告をする為にギルドへ向かっているところだ。シャルルはアルマと何か話しているようだし、トウヤさんと二人きりで話すというもしかしたら初めてかもしれない状況に少し戸惑っている。

テンションが高くて口数が多い時じゃないトウヤさんのこういう呟きの意味を全て十全に理解する事はまだまだできないが、何となくこういうやり取りを楽しんでいる自分がいる気がしている。特にこうやって頭を撫でてもらうと、心の奥がホッとして、じんわりと温かくなる。

ジェラールとはまた違うお兄ちゃんの感覚というか……

 

ううん、そんな事より、今はトウヤさんにお礼を言わなきゃ!

シャルルがトウヤさんになにか警戒しているらしくて、なかなか2人になれず、きちんとこれまでの事のお礼が出来ていないのだ。

今、シャルルはアルマとのやり取りに夢中になっているようだから、ここできちんと済ませないと!

 

「あ、あのトウヤさん!その、今日の事も、ニルヴァーナの事も本当にありがとうございました!妖精の尻尾のみんな、優しい人ばっかりで、グランディーネの事も滅竜魔法の事も信じてくれて……本当に嬉しい事ばかりで!トウヤさんのおかげです、ありがとうございます!」

 

ペコリペコリと頭を下げる。

『化猫の宿』の皆がいってしまったのは寂しいけど、今の私はとても幸せだ。

最後にああやってお別れができたのはニルヴァーナを壊してくれたトウヤさんのおかげだし、こうして騒がしくも楽しい新たな家族と出会えたのも、『妖精の尻尾』に誘ってくれたトウヤさんのおかげで……

私の中のあふれんばかりの感謝を、こんな言葉だけで伝えられるとは思わないけど、ほんの少しでも!

 

「……ありがとう」

 

トウヤさんは何度も頭を下げる私を静止して、再びぐりぐりと頭を撫でてそう言った。

どうして「ありがとう」なんだろうか……?

お礼を言っているのは私の方なのに。

 

そう疑問に思っていると、トウヤさんは少し頬を掻いて早足でギルドの方へ歩きだしてしまった。

 

「全く、いけすかない男よね……」

 

そう声を掛けてきたのは少し後ろを歩いていたはずのシャルルだ。

いつの間にかアルマ共々追いつかれて、先ほどのやり取りも聞かれていたらしい。

 

「もう、そんな風に言っちゃいけないでしょ、シャルル!」

 

私が叱ってもどこ吹く風で、シャルルは続ける。

 

「あの変質者、あんたが依頼者の治療をしてる間どこか行ってたでしょ?あれ、なにやってたと思う?」

 

あぁ、そういえばいなかったっけ?

集中していたからちゃんと意識してなかったけど、何をしていたんだろうか。

 

「あの男、今回の騒動になってた魔物を一人で狩ってたのよ!……何と言うか、あざといというか、そういう点数稼ぎ的な所がいやらしいというか……聞いてるの、ウェンディ!」

 

そうだったんだ……

またお礼を言わなきゃいけない事が増えちゃったなぁ……

 

「まぁそう言わないであげてください……天然で色々やっちゃう人ではありますが、話さないのが悪いだけで、本人的には効率がどうとか考えてただけですから」

 

アルマのフォローが入るも、「なんかそういうのも含めてあざといわ!ぜったいにウェンディの事をいやらしい目で見てるもの!」とシャルルは納得していないようだ。

 

「ちなみに、さっきの『ありがとう』は多分、妖精の尻尾を気に入ってくれてありがとうとか、そこまで嬉しそうにしてくれてこっちも嬉しいとか、そういう色んな感情をすっとばして『ありがとう』って捻りだしちゃっただけですよ、多分」

 

なるほど、流石はアルマ先生だ。

私も早く色々分かるようになりたいなぁ。

そんな風に考えていると、アルマが「あ、でも」と前置いて「お礼を言ってくれるウェンディが可愛くて、ウキウキでお礼を言っちゃっただけっていうパターンもトウヤならありえますね」と言い放った。

 

「か、かわっ……!」

 

なんだか、顔が熱いような……

頭を撫でられた時とは違う熱を感じてしまう。

これは一体……

 

 

 

ちなみに

 

「やっぱり変態じゃない!ウェンディ、あんな奴にもう近づいちゃダメよ!」

 

というシャルルの声は私には届いていなかった。

 

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