斬魔の妖精   作:ベジタブル

29 / 35
ほぼオリジナル展開になるクセに、まぁまぁ見切り発車で投稿したアホ作者とは私の事です。


エドラス編
29話「異世界へ」


▼三人称視点

 

「シャルル~!」

 

普段通りの喧騒、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のギルド酒場にて。

とある青いネコが、リボンのまかれた魚を掲げて、白いネコに近づいていく。

その表情は嬉しそうな、照れくさそうな、見ているだけで、青いネコの()()()が分かるようなものであった。

 

「これ……オイラがとった魚なんだ。シャルルにあげようと思って」

 

今度はモジモジとしながら魚を体の前へ差出し、白ネコ――シャルルに手渡そうとする青ネコ――ハッピー。

近くで見ていたルーシィやウェンディもその顛末に興味を持って見つめているが、シャルルの返事は案の定そっけないもので……

 

「いらないわよ。私、魚嫌いなの……私に付きまとわないで」

 

シャルルはそう言って、プイッと顔を背け、それどころか席から立ってギルドを出て行ってしまう。

あんまりな言い方にウェンディが苦言を呈すも、それもどこ吹く風という様子だ。

 

――何が“幸せ(ハッピー)”よ。何も知らないくせに……

 

シャルルの心の中はそんな怒りに満ちていた。

自分が何者かも分かっていないようなオスネコでは、自分のパートナーを守る事は出来ない。

自分は違う。

自分は何としてでもウェンディを守ってみせる。

 

そんな悲壮な覚悟と、羨望にも似た軽蔑がシャルルとハッピーの間に埋めがたい溝を構築していた。

しかし、そんな事には気づけないハッピーは、健気にもその白い背中を追うのであった。

 

 

▽ ▽ ▽

 

そして、ネコのケツを追っかける男がここにも1人。

 

「違う!……こいつも!……こいつも!!」

 

今は無き『幽鬼の支配者(ファントムロード)』から『妖精の尻尾』へと移籍し、その活動の実態はマスターであるマカロフしか知らないものの、秘密裏に二重スパイとしても暗躍する実力者、鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ガジル・レッドフォックスだ。

 

そんな彼には現在、ある悩みがあった。

自分には何かが足りない。

しっくりこない。

 

そう、それは――

 

「なぜオレにはネコがいねぇ……?」

 

火竜(ナツ)には青猫(ハッピー)天竜(ウェンディ)には白猫(シャルル)斬竜(トウヤ)には桃猫(アルマ)

ラクサスはともかくとして、『妖精の尻尾』において、滅竜魔導士はあの奇妙な喋るネコとセットにされる事が多い。

それが自分はどうだ。

いつも1人、あの翼で空を飛んだことなどない。

それを残念に思ったことなど、正直に言えばないのだが、それにしても他の奴らにあって、自分だけに無いのは何か癪だ。

 

それ故、ガジルはトウヤ達がウェンディとシャルルを連れ帰ってきた次の日から、仕事のない時は必ずこうしてマグノリアの街へと繰り出し、自分のパートナーとなる喋るネコ探しに奔走するようになった。

しかし、実際いくら探しても喋るネコなど見つかりはしない。

それどころか、そもそも自分の強面ではただのネコにすら懐かれないのである。丁度現在も不用意に近づいたネコに手痛い攻撃を喰らい、顔面に幾本もの引っかき傷を作っていた。

 

いいや、目つきの鋭さで言えば斬竜だってそれなりのモノだ。

アイツにネコが居て、オレにネコがいない言い訳にはなりはしない、と自分を奮起させ、新しい路地へ入ろうとした時の事だった。

 

「その傷どうしたの?」

 

シャルルを追いかけたものの、再び心無い言葉を投げかけられ傷心中のハッピーが、結局渡せなかった魚を抱えながらガジルに声を掛けたのだ。

 

この時、ガジルに電流走る――

 

自分のパートナーが見つからないのは闇雲に、なんの指標もなく街をさまよっていたからなのではないか。

蛇の道は蛇。

喋るネコの道は喋るネコである。

つまり、この青猫にネコ探しを手伝わせるのだ!

火竜(サラマンダー)に借りを作るようでイラつくが、背に腹は代えられないのである。

 

長時間街を駆けずり回り、疲れ切ったガジルの頭には、なぜかそれがとんでもない名案に思えてしまった。

 

「青猫ォ!!オレに付き合え!!」

 

ガジルはそう叫んで、ハッピーの両脇に手を突っ込み、抗議の声にも耳を傾けず意気揚々と歩きだした。

 

――待ってろ、オレのネコ!ギヒッ!!

 

 

 

 

▼ウェンディ視点

 

もう、シャルルったら。

ハッピーはシャルルに喜んでもらいたくて色々してくれてるのに、あんな言い方しなくたって……

『妖精の尻尾』にお世話になるようになって、私は凄く楽しいけれど、シャルルは何だか張り詰めた表情をしている事が増えた気がする。元々みんなで仲良く大騒ぎするって性格ではないけど、それにしたって余裕がないように感じてしまう。特にハッピーと話している時はそれが顕著だ。

この機にちゃんと話しておいた方がいいのかもしれない。

そう思って、私はその場にいたルーシィさんに一言断りを入れてから、ギルドを出ていったシャルルを追いかけ始めた。

 

それに、今日はトウヤさんのお家にお呼ばれしている。

まだ予定の時間まで余裕はあるが、シャルルを探しておくに越した事はないだろう。

何やら、私に会わせたい人がいるんだそうだけど、それってもしかして……

 

って、あ。

あそこで歩いてるのシャルルだ。

重たい雲がもたげて、今にも一雨振り出しそうな空の下、マグノリアを走る。

 

「シャルル!やっと見つけた!」

 

「ウェンディ……」

 

すぐ近くまで近寄って、その場でしゃがみ込んでシャルルと目線を合わせる。

 

「ねぇ、シャルル。私たち、ギルドに入ったばかりなんだから、もっとみんなと仲良くしなきゃダメだと思うの」

 

「必要ないわよ……私はあんたが居ればそれでいいの」

 

でも、私の思いはシャルルには届かず、そんな寂しい返事をされてしまう。

私の事を大切に思ってくれるのは嬉しいけど、そんなに狭い世界で生きていたって仕方ないのに……

マスター――『化猫の宿(ケットシェルター)』の方だけど――が言っていたように、私たちには新しい仲間ができた。

私にとってはもう『妖精の尻尾』のみんなは家族みたいなものだ。

みんなとっても優しくて、楽しくて、温かい――

私の事を大事に思ってくれているのなら、私の大切な人達も大事に思って欲しい。

そして、シャルルにもギルドのみんなを新しい家族なんだって思って欲しい。

それが私たちを受け入れてくれた『妖精の尻尾』への恩返しであり、そして何よりシャルルの為にもなると思うから。

 

「もおっ!またそーゆー事ばかり……」

 

でも、今焦って言い含めてもダメなのかもしれない。

ゆっくりと分かっていってもらうしかないのだろう。

もしくは、何かきっかけのようなものがあれば……でもそのきっかけを作るのは私ではダメなのだとも思う。私が与えたきっかけでは、結局私の事しか見ていないって事になっちゃうから……

 

「……とりあえず、ちょっと早いけどトウヤさん()に行こっか。降り出しそうだし……ね?」

 

「……そうね。でも、ウェンディ!あいつの家に行くなんて、ホントは反対なのよ、私!何か変な事されそうになったらすぐに逃げなさい。分かってるわね!?」

 

もうっ!

トウヤさんはそんな事しないよ!!

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

「アルマ」

 

家の前で2つの足音が止まる音が聞こえた。

恐らくウェンディ達が来たのだろう。

 

「はい、開けてきますね」

 

アルマがとてとてと玄関まで向かい、(エーラ)を生やして扉を開けて出迎える。

外の空気が入ってくることで、その匂いから一雨来そうな気配を感じたが、ウェンディに合わせようとしていた人物もすぐにやってくるだろうし、雨が止むまでウチに居て貰えばいいから、問題はないだろう。

 

「お邪魔します、トウヤさん!」

 

「邪魔するわよ」

 

少し緊張した雰囲気でおずおずとリビングに上がってきたウェンディと、尊大な態度で最低限の礼儀として挨拶をしているだけのシャルル。

俺とアルマも相当な凸凹コンビだと思っていたが、この2人に比べれば大分マシな方だと言えるな、と思えるほどの雰囲気の違いで少しおかしくなってくる。

 

アルマを手伝って2人に出すお茶の用意をしている間、ウェンディがキョロキョロと部屋を眺めているのを背中越しに感じた。

もしかしたら、男の家に入るのは初めてなのかもしれない。

来客にあたり、アルマがきちんと掃除してくれているはずだから、おかしなものは置いていないはずだが、あまり熱心に見つめられると恥ずかしくなってきてしまうな……

この家に来るのは、たまに家事を手伝いに来てくれるミラか、修行終わりの休憩に入り浸っているカナくらいのもので、女の子を招いた経験というのは多くない。シャルルの目線があると思うと、急にもてなしとしてのレベルを試されている気になってきて、俺まで緊張してきた。

 

「なんで2人とも固まってるんですか?」

 

「「あはは……」」

 

硬い笑い声がハモった事がおかしくて、ウェンディと目を合わせ、今度は自然に笑う。

シャルルもアルマもなんだかよく分からないという表情をしているが、人間組の緊張感が霧散した事は感じ取ったのだろう。

 

「それで? 私たちに会わせたいっていう人物は誰な訳?」

 

そんな風にシャルルが問うてくる。

言ってしまってもいいが、どうせならサプライズ的にどーんと会わせてやりたいものだが……

そんな益体もない事を考えていると、最後の1人が到着した気配を感じる事が出来た。

妙にタイミングのいい奴だ、と思いながら、今度はアルマではなく俺が玄関に向かう。

 

扉の鍵を開き、その人物を招き入れ――ようとして、一旦やめる。

 

「その覆面取ってけ……あと、タオル」

 

普段通りに覆面をつけっぱなしなせいで一見して誰か分からない状態であるその男に苦言を呈す。

また、ウェンディがウチに来てからの短い間に雨が降り出してしまったようで、ところどこオ服も濡れていたのでタオルを貸してやる。

 

「すまない、助かる」

 

ある程度身支度が整ったのを確認した後、今度こそリビングまで連れて行ってやる。

ガチャリとドアを開くと、ウェンディはこちらを見て、飲んでいた紅茶のカップを取り落としそうになる程驚いて目を見開いた。

 

「ジェラール!!?」

 

そして、涙を流しながらジェラール……ミストガンへと駆けよって抱き着いた。

 

「久しぶりだな、ウェンディ……会えて嬉しいよ」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

ウェンディが落ち着くまで少し待って、ようやく話をし始める事となった。

といっても、ここからの話に俺の出る幕は無い。

ジェラールがどういう人物か、そしてシャルルに関する事、それらがジェラールの口から語られるだけなのだから。

 

「まず私は今、妖精の尻尾のミストガンと名乗っている。2人の時はいいが、念のため人前ではそう呼ぶようにしてほしい」

 

「う、うん、分かった……でも、じゃあ、あのジェラ……ミストガンみたいな人は誰なの?」

 

あそこまで瓜二つで、名前まで同じ人物を他人の空似で済ます訳にはいかないだろう。これは当然の疑問だ。

 

「そうだな……私はこの世界の人間ではない、といえば分かってもらえるだろうか。エドラスと呼ばれる並行世界からやって来たのだ。そして、この世界における私に当たる人物が……」

 

「あのジェラール……」

 

今更こんな嘘をつく必要などないと分かっているからか、ミストガンへの信頼からか、こんな信じがたい説明に対して、特に疑問を抱くことなく納得するウェンディ。

それに対して妙な反応をしているのはシャルルだ。

 

「エドラス!?それって……」

 

「シャルル……?エドラスの事を知っているのですか?」

 

アルマの言う通り、先ほどからのシャルルの反応はエドラスについて知っている人物の反応だ。意味の分からない言葉を聞かされて戸惑っているとか、そういう類いではない。むしろ、よく知っているからこそ驚いている、と言った方がしっくりくるような……

 

「アルマは知らないの……?」

 

「私もミストガンから話を聞いて知ったのですが……」

 

シャルル達の()()()()()()()()()()()()事は間違いないが、エドラスという言葉を知っているとなるとおかしいように思う。

 

「君は向こうの世界についての知識があるのか……では使命についても?」

 

「えぇ……だから、私はこうしてウェンディを絶対に守るって……」

 

そこでハッとしたように飛び上がって、ウェンディとミストガンの間に立つシャルル。

その姿はまるでウェンディを庇うようだ。

 

「答えなさい!あんたがこっちに来た目的はなに!?」

 

「安心してくれ、俺の目的はアニマを閉じて回る事だ……君が危惧しているような事情ならば、幼い頃に既に会っているという事の説明が付かないだろう」

 

あぁ、なるほど。

ミストガンも自分と同じ使()()を帯びてアースランド――エドラスと対比してのこの世界の名前だ――にやってきたのではないか、と疑った訳か。

だが、大体の事情を知っている俺でも理解しがたいやり取りだ。何も分かっていないウェンディは…

 

「ねぇ、シャルル……使命ってなに?シャルルもエドラス?ってところから来たの?」

 

混乱するに決まっているよな……

 

それからはウェンディにおおよその話を理解してもらうため、そしてシャルルにどうしてエドラスの知識があるのかを探るため、いちから丁寧に説明する事となったが、要約するとこのようになる。

 

まず、俺達が棲む世界――アースランドとは別に、エドラスと呼ばれる魔力が有限な世界が存在するという。

魔力がどんどん減っていく世界を憂慮したエドラスの王は、無限の魔力を包含する別世界から吸収する魔法、超亜空間魔法アニマを開発した。これを使って、アースランドの魔力を奪おうと目論んでいるとそうだ。

そして、ミストガンがこちらの世界にやってきた理由はまさにそこにある。

いくら自国の為とはいえ、別の世界の人々を犠牲にしようだなんて間違っている。そう思い、こちら側からアニマの穴を閉じる為にやってきたのである。

そして、ミストガンだけでなく、アルマやシャルルといった喋るネコ――あちらではエクシードと呼ばれているらしいが――も、元々はエドラスの存在であり、しかもエドラスにおいて唯一自力で魔力を生成する事の出来る上位種族であるという。

 

「では、なぜエクシード達の一部がこの世界に送り込まれているのか。先ほど言っていたシャルルの使命とは何なのか、という話になるのだが――」

 

デリケートな話になるからだろうか、1度話を切ってシャルルの方を見て――いや違う、俺の方を見ている?

 

と、その時、俺の方でも違和感に気が付いた。

恐らく、この時差は長年実物を何度も見てきたからだろう。

しかし、まさかこれほどとは……

 

空全体から莫大な魔力の渦を感じる。

範囲的には街を覆っているのか……?

 

「ミストガン!」

 

「あぁ、これがそうだ!妖精の尻尾を狙った超巨大アニマ……まさかこんなタイミングで来るとは思っていなかったが……仕方がない、作戦決行だ!」

 

すぐに外に出る準備をし始める俺達を見て、ウェンディが戸惑いの声を上げる。

 

「どういう事!? ギルドを狙ってるって何!?」

 

「エドラスの連中は莫大な魔力の集まりである妖精の尻尾をマグノリアごと吸収するつもりなのだ。私達はあの巨大アニマからエドラスへと侵入してから、トウヤの魔法でアニマを破壊し、全ての決着をつけてくるつもりだ」

 

「それって、2人は帰ってくるの……?」

 

「トウヤは必ず返す。私は……」

 

そこで言い淀んでしまうミストガンを見て、ウェンディは覚悟を決めてしまったみたいだ。

 

「ジェラール!私も着いて行く!!」

 

「ダメだ!君をそんな危険な目に逢わせる訳にはいかない!」

 

そんなミストガンの正論に乗っかって、ウェンディを守るためにシャルルも声を上げる。

 

「そうよ!絶対にダメよ!あっちの世界では滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は……」

 

だが……

俺には2人の気持ちが分かると同時にウェンディの気持ちも痛いほど分かるのだ。

 

「俺はウェンディを連れて行きたい」

 

ウェンディはつい最近家族をなくしたばかりだ。

『妖精の尻尾』という新たな居場所こそ得たが、その傷が癒えきっていないまま、再び大切な兄貴分との別れを経験させるなんてあまりにも酷ではないだろうか。

家族がどこかに行ってしまうという状況で、それを静観するなんて俺達にはきっと不可能だ。

エドラスとアースランド、いずれは別々の世界に分かたれてしまう運命にあるとしても、せめて納得して別れるだけの時間は作ってやりたい。

どうせお別れするなら、楽しい思い出を作ってからだ。

 

なぁに、異世界への旅行だなんて、そうじゃなくても一生記憶に残るような思い出になるだろうよ。

 

「ウェンディは強くなってきてる。心配いらない……それに、俺が必ず守る。時間がない、全員で行くぞ」

 

言いたい事だけ言ってアルマを連れて外へと出る。

アルマには「良いんですか?」と聞かれてしまったが、俺の家から飛び出してくる気配を3()()感じてほくそ笑む。

 

「行くぞアルマ!!」

 

アルマを背中に背負い、全速力で上空へと駆けていく。

激しい雨が頬を打つが、それすらも今は高揚した体を冷やしてくれて心地よい。

 

マグノリアの上空には、自然現象ではありえないような渦が発生していた。

その渦はどんどん大きくなり、真っ黒な穴へと変わる。

そこから神々しいような禍々しいような、形容しがたい光が漏れ出している。

時間がない……もっと早く!

 

そんな俺の気持ちを読み取ったのか、アルマや、俺の後ろに追従して飛んでいたシャルルとウェンディ、そしてミストガンもスピードを上げる。

 

そして、その大穴を――抜けた!

 

視界に広がるのは沢山の島が浮遊し、見た事もない生き物が跋扈し、名前を想像する事すらできない未知の植物が繁茂する完全な異世界。

 

――これがミストガンの故郷……

 

綺麗な場所だと感心してしまうが、今はそれどころではなかったと思い出して気を取り直す。

クルリと振り返ってみれば先ほどの大穴は未だに健在であり、今にもマグノリアを呑み込もうとしていた。

俺はミストガンからあらかじめ預かっていたエクスボールという丸薬を懐から取り出し、無理やり喉に詰め込んで飲み込んだ。

これを飲めばエドラスでもアースランドと同様に魔法を使えるようになるらしい。もちろん、元々魔力を生成する能力を持たないエドラスの民が接種しても意味のない代物だ。

それにしても、こんなものどうやって開発したのだか……

 

いや、まぁそんな事はどうだっていい。

今は目の前のデカ物をぶっ壊す事に集中しなくちゃな……!

 

大きく息を吸い込む。

ニルヴァーナの時から使えるようになった特殊な回路を開き、莫大な魔力を練っていく。

 

「モード天斬竜……斬魔ノ太刀、天の型」

 

俺の体から白銀の光が迸るのが分かった。

奈落のような大穴を睨みつけ――咆える!

 

 

 

「天斬竜の咆哮ォーーーー!!!」

 

 

 

俺の口許から吐き出された銀色のブレスが大穴を呑み込み、ズタズタに斬り裂いていく。

キイイインと甲高い音が響いて、バキリと渦が割れる――いや、斬れる。

ここまでは作戦通り……

 

 

「なんだ?」

 

 

と思っていたのだが、ミストガンが何かを発見したのか、不思議そうな声を上げた。

俺も気になってミストガンの視線の先を追いかけたのだが、確かに今さっきまで大渦のあった場所から一筋の線が走っており、何らかの飛翔体が迫っているのが分かった。

すわ敵兵かと目を凝らすと、予想は大いに外れ、そこに見えたのは翼の生えた青いネコと、黒い服に身を包んだ目つきの悪い男だった。

 

「ハッピーと……ガジル!?」

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

「はぁーあ、雨止まないかなぁ」

 

何だか憂鬱な気分だ。

強い雨がギルドの建物を叩きつける音だけが嫌に大きく聞こえてくる。

ギルドの面々は外の天気などお構いなしに普段通りのどんちゃん騒ぎだが、ここの連中には情緒ってものがないのよね……

 

でも、この暗い気持ちは決して天気だけの問題ではない。

少し前、こんな雨の中嫌に黒い格好をして出かけていこうとするミラさんとエルフマンを見かけて、その理由を聞いてしまったからだ。

2人には2年前まで妹さんがいたらしい。

いたって言うのは、その妹さんはもう……

それで、その命日が近づくと、ああやって2人揃って教会に通いだすんだそうだ。

 

妹さん――リサーナっていうらしいんだけど――の顔すら知らないあたしが悲しんだところで何の慰めにもなりはしないって分かっていても、やはり気分は落ち込んでしまうものだ。

 

何か、気分転換をしたい。

些細でいいから面白い事が起きたり、それこそトウヤの顔が見られるだけで、少し幸せな気分になれるだろう――って、私ってばちょっと単純すぎない!?

 

「はぁ……もう、どうして来ないの、トウヤぁ……」

 

「あはは、ルーちゃんってば……」

 

「ルーシィ、あんた心の声漏れてるよ……」

 

この後、あたしはさんざっぱらカナとレビィの2人に弄られ、ある意味望み通りに面白い事が起きて――というか面白い人にされて、いつの間にか憂鬱な気分は消え去ってしまっていた。

そんないつも通りの『妖精の尻尾』。

 

まさかこの後数日の間、トウヤがギルドに来なくなるなんて、この時は思いもしなかった。

 




前回のあとがきにも追記しましたが、一応こちらでも宣伝しておきたいと思います。
この作品の主人公のトウヤ君がフェアリーテイルに出てくる女の子とイチャつく、完全IF設定のR18小説を書き始めましたので、そちらも興味があればぜひご一読ください。ちなみに活動報告の方でシチュリクエストも受け付けております。
また、特に用途も無い癖に、とりあえずのノリでTwitterを開設しました。
読者の皆様も取り敢えずのノリでフォローしてくださると、軽率にモチベが上がりますので、こちらもよろしくお願いします。
Twitterアカウント:@yasai_hameln
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。