斬魔の妖精   作:ベジタブル

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今回短くなりそうだなーと思って書いてたのに、気づいたら1万文字超えてた……


31話「5つ目の約束」

▼トウヤ視点

 

俺達がエドラスへと降り立ってから数日が経った。

その間にも着々と歩みを進め、ルーエンからシッカの街、そこから海を渡ってトライアの街を過ぎて、つい先ほど王都へとたどり着いた、という訳だ。

アースランドの建築様式のどれにも当てはまらない奇妙な方法で建てられた王城を中心に、真円を描くように整備された街には、独裁国家と聞いて思い浮かぶようなくたびれた印象は無く、むしろ人々の活気に満ちているように感じた。

しかし、その理由は大変分かりやすいものだ。

街灯、案内板、店の看板に子どもの遊び道具に至るまで、この街は魔法に溢れていた。

魔力というものが有限で、その使用権利を国が管理しているこの世界で、だ。

これまで訪れたどの街でも、ここまで派手に魔法を使っているという事は無かった。せいぜいが、見回りをする警邏が装備している武器程度のものという質素な使い方だ。

 

「魔力の無駄遣いね……占領国やギルドから魔力を奪って、この王都だけに集中させてる」

 

宿の窓から王都の景色を見ていたシャルルがそう呟いた。

遊園地のようなこの景観も、要するに国民……それも王都に住めるような上級の国民から人気を得るための施策なのだろう。

……もっと穿って捉えるなら、この国の王は、目の届く範囲だけでも永遠で潤沢な魔力を感じたかった、とか。

 

それにしても、この街だけ妙に騒がしいように感じる。

それは先ほどから言っている、魔法が溢れていて活気づいているという話とは別の方向性の喧しさだ。なんと言うべきか……浮足立っている、とでも言うのが適切だろうか。

平常時のこの街を知らないから確かな事は言えないが、直感的に何かあった、もしくはこれから何か起ころうとしているのではないか、と考えてしまう。

気のせいならいいのだが……

 

それを確かめるためにも俺も少し王都を歩いてみようか。

今、宿に留まっているのは俺とアルマ、ウェンディとシャルルだけだ。ガジルとハッピーは宿に荷物を置いて早々に散策に出てしまったし、ミストガンも()()()に会うと言って出て行ってしまった。

正直、情報収集に関してはミストガンにおんぶにだっこという状態で申し訳ないのだが、どうやら()()()()の問題か、色んな所にパイプを持っているらしい事や、隠密行動の得意さから、どうにも頼らざるを得ない。

アイツに最後の手助けがしてやりたくて、こうしてついてきたと言うのに……

ミストガンは、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』があの巨大アニマに飲み込まれないようにしてくれただけで十分だと言ってくれるが、それでは納得いかないという事は分かっているだろうに。

 

ま、いい。

少しでも力になる為に、とりあえず今は行動あるべしだ。

そう思い立ち上がると、アルマが声を掛けてくる。

 

「トウヤ?……街を見て回るのですか?」

 

「あ、なら私もついて行っていいですか?」

 

俺としても、特に当てもなく歩いてみるだけのつもりだったし、断る理由は1つもない。黙って頷いて、ウェンディが支度を済ませるのを待つ。

 

「私たちはあまり目立ちたくありませんから、ここで待っていますね……ハッピーは外を見に行ってしまったようですが……」

 

「あんた、分かってるんでしょうね?ウェンディに何かあったらただじゃおかないわよ!」

 

三者三様――2匹だけど――の言葉で送り出されて、俺達2人は街に出た。

いくつか露店も出ていて、見物には困らない。

いくつかの街で手品と称して色んなものを切り刻むショーをコッソリやって小遣い稼ぎをしたり、元々持っていたものを売ったりして、少しだがこちらの金も持ってはいるので、ウェンディに何か強請られても問題はないはずだ。

ちなみに、金を稼ぐための手段としてのギャンブルは、何か言う前に全力でアルマに止められてしまった。アカネビーチでかなり擦った事を、まだ覚えていなかったらしい。

俺としても、周りの様子を見るという目的は忘れないようにしつつも、ギルドの面々に何かしら土産を買ってやらなければならないと考えている。

これはエドラスに着てしばらく経ってから気づいたのだが、俺達は完全にギルドの皆に無断で数日行方をくらませている事になってしまう。男性陣はともかく、エルザやカナ辺りは煩そうだ……

という訳で、何とかして姫様方の機嫌を取らねばならない。

レビィやルーシィには既に、この世界の歴史書やおとぎ話なんかの書籍を購入済みだ。カナはこっちの文化の酒を買っていってやればいいだろう。

意外と困っているのはエルザだ。普段なら珍しい鎧や魔法剣の類いを買えばいいから迷う余地はないのだが、この世界ではそれらは違法な店でしか取り扱っていない。エルザの土産を買う為だけに王国軍に目をつけられるのは流石に勘弁願いたい。と、いう訳で割と迷っているのだが……そういえばアイツ、確かピアスしてたよな?

なら、そっち方面で攻めてみるのも意外と喜ぶかもしれない。

 

あとは、ミラだ。

土産自体はこっちの世界の料理本とか、調理器具とか持って帰れば喜んでくれる、とは思う。

それより問題なのは()()()の方だろう。

「こっちの世界のリサーナは妖精の尻尾で楽しそうに過ごしてたよ」なんて、言うべきか、言わざるべきか。余計悲しませる事になると考えるべきなのか、別世界の別人でも、それでも喜んでくれると思うべきなのか。

俺のない頭では結論なんて出せそうもない。

アルマと少し話してみようか……

 

「トウヤさん?大丈夫ですか?」

 

下から俺の顔を覗き込むような体勢のウェンディが、俺の袖を引っ張りながら聞いてくる。

いけない、いけない。

シャルルにあれだけ言われていたのに、目の前の事を蔑ろにして、思索にふけってしまった。

「すまん」と一言謝ってから、はぐれないようにと思って、そのままウェンディの手を取り、掴む。

 

「わわっ、トウヤさん!?」

 

突然手を繋がれて、ウェンディは一瞬驚いたようだったが、すぐに収まりの良い握り方を探し始めて、ぎゅっと握り返してくれる。

 

「あ、トウヤさん!あれ美味しそうですよ!」

 

その指さす先を見ると、確かに食欲をそそられるソフトクリームが露店で売られている。

甘党かつ子ども舌の俺には、酒やそれに合うつまみなんかより、こういったものの方が嬉しい。結果として、ウェンディと一緒に歩くと、まぁまぁの頻度で食の好みがあってしまう。嬉しいような恥ずかしいような……

兎も角、俺はウェンディの手を軽く引っ張って、その屋台へと歩いていく。

遠慮するウェンディを振り切って屋台のおばちゃんに1つ注文した。すぐに白いとぐろを巻いたソフトクリームが出てきて、それをウェンディに渡した。

ウェンディは終始遠慮気味だったが、「俺も食べたかった」と言うと、観念したようで大人しくなって、一口食べ始めた。

 

「おいひいです、トウヤさん!こういうツボはこっちも向こうも変わらないんですね!」

 

そんな風にはしゃいでくれるウェンディが可愛くて、今日もいい日だ。

空いた手で、軽くウェンディの頭を撫でて、口をウェンディの持っているソフトクリームに近づけて、ペロリと一口いただいてみる。

ふむ、濃厚なミルクにこの甘味は……向こうの世界では感じた事のない独特な風味の甘さだな。もしかしたらこちらでしか取れない素材が使われているのかもしれない。それでもアースランドでも受けるだろうと思える味で、とても美味しい。これならウェンディが破顔するのも頷ける。

 

「と、トウヤさん……!」

 

美味しいなと言おうと思って横を見てみると、なぜか頬を赤らめているウェンディ。

何か粗相をしてしまったのだろうか……?

ウェンディは手元のソフトクリームだけを強く見つめて俯いていたが、やがておずおずと顔を上げると……

 

「って、トウヤさん!ふふっ、髭みたいになってますよ」

 

と笑い始めた。

どうやら、先ほど食べたソフトクリームが俺の口許に付いてしまっていたらしい。

しゃがんで下さいというウェンディの言葉のままに少しかがむと、ポケットからハンカチを取り出して、俺の口を拭いてくれた。

 

「ありがとう……」

 

「トウヤさんにもこんな子どもっぽい所があるんですね!」

 

そんな風に言われるが、アルマに言わせれば「家ではいつもこんな感じですよ」と呆れられる事間違い無しだ。今まで、アルマとミラには足を向けて寝られないと思って生きてきたが、今後はそこにウェンディも入ってしまうかもしれないと思うと、流石に恥ずかしくなってくる……

 

そこからの会話は終始和やかで、ウェンディも美味しそうにソフトを頬張っていた。結局、赤面していた理由はよく分からなかったが、こういう場合は触れないのが吉であるというのは、過去の経験上なんとなく理解できるところだ。

会話が途切れたタイミングで、少し思っていた部分を聞いてみる。

 

「悪いな……ホントはミストガンと話したいだろうに」

 

そう言うと、ウェンディは驚いたような顔をして、すぐさま否定してくる。

 

「そ、そんな!トウヤさんとお話するのもとっても楽しいですから!……それに、ちょっとはジェ…ミストガンとも話してるんですよ?」

 

例えば、分かれた後のお互いの話。

例えば、ミストガンがエドラスに居た当時の話。

例えば、天空魔法の扱い方。

例えば、『妖精の尻尾』の皆の話。

そして、“これから”の話――

 

どれもとても楽しそうに、嬉しそうに話す。

でも、それが逆に俺には辛くて、話を遮るようにしてウェンディの頭を強く撫でてしまう。

この子は大切な兄貴分との別れを予感している。でも、それをきちんと良い思い出にしようともしてくれている。

 

「ミストガンは、トウヤさんの事、本当に頼りになる、有難い友達だって、そう言ってました……あと、困った時は、私の代わりにトウヤを頼れって」

 

そうか……あいつ、そんな事言ってたのか。

思わず眼頭が熱くなる。

こちらの世界にきてからの俺は、こんなのばかりだな……

 

「任せろ……俺がミストガンの代わりにずっと一緒に居る。約束するよ」

 

この子は、この小さい体で何度も別れを経験してきた。

1度目は天竜グランディーネ。2度目はミストガン。3度目は『化猫の宿(ケットシェルタ)』。

2度目の別れは、こうして再会して、無かったことにできたけれど、もうすぐ本当の別れになってしまう。

人は出会いと別れを繰り返して強くなるとは言うけれど、家族との別れなんて、そう多くなくていいんだ。

少なくとも俺は絶対に居なくなってやらない。

もう大丈夫だと言われても、ウェンディの帰ってこられる場所を守り続けてやりたい。

……こんな事思ってるって知られたら、シャルルに怒られそうだな。

「それは私の役目よっ」とか。

でも、家族なんて何人いてもいいじゃないか。

 

 

 

「ウェンディ。俺もお前の兄貴分だ。絶対にお前の傍から離れたりしない……だから、2人で一緒に、アイツを送り出してやろう。な?」

 

 

 

軽くかがんで、ウェンディと目線を合わせる。

精一杯の笑顔を作って、「約束だ」と小指を差し出した。

 

「……はい!」

 

少し涙を溜めながらも、一生懸命に作った笑顔を俺に向けて、小指を重ねるウェンディ。

きっと、俺も同じような顔をしているのだろう。

ゆーびきーりげんまんと軽く腕を振って、約束を交わした俺達は、翳ってきた太陽を背にして宿へと戻る道を歩くのだった。

 

 

 

▼三人称視点

 

トウヤとウェンディが宿を出てからしばらくの間、部屋の中には沈黙が降りていた。

とは言っても、重苦しいようなものではない。単純に話すことがないから、話さないだけ。お互いに本を読んだり、何やら書いて整理してみたりと、自分の事をしながら過ごしていたのである。

その静けさを破ったのは、書き物を終えてペンを置き、アルマの淹れていた紅茶を一口すすって一息ついたシャルルの方からだった。

 

「ねぇ、アルマ……あんたはこの世界、どう思う?」

 

「別に、何とも」

 

興味なさげに返答するアルマに、これまた、アルマの返事自体には興味がないと言わんばかりに話を続けるシャルル。

 

「私はだいっ嫌いだわ」

 

人のものを奪っておいて悪びれない態度も、私たちにあんな使命を課した事も!

そう言い捨てるシャルル。

それでもアルマの態度は余裕を持ったまま崩れない。

 

「あんたは腹が立たない訳!?あんな命令をされて!一方的に送りこまれて!」

 

そう問われてようやく、シャルルの方を向くアルマ。

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を抹殺しろ、という使命についてですか?」

 

アースランドへと渡ったエクシードは皆、エクシードの国であるエクスタリアの上層部から、異世界の怪物である滅竜魔導士を抹殺する事を使命として刷り込まれていたのである。

普段その事を自覚する事はないが、その証拠にアルマもハッピーもシャルルも、全員が滅竜魔導士の元に辿り着いている。

アルマがミストガンに聞かされた説明はこのようなものだった。

そして、シャルルは他の2匹とは些か事情が異なり、どうやら滅竜魔導士抹殺の使命を受けているという自覚を持ち、それに抗いながらウェンディと過ごしてきたというのである。

 

「思うところが無いと言えばウソになります。でも、私ではトウヤは殺せませんから……トウヤを殺そうとした事と、トウヤにめぐり合わせてくれた事で、相殺ですかね」

 

我ながらおかしな事を言っている自覚はありますが、と苦笑するアルマ。

それを見て、シャルルは信じられないという顔をする。

 

「そんなの分からないでしょう!?方法なんていくらでも――」

 

「死にません」

 

シャルルの抗議に、アルマが珍しく食い気味に否定した。

語気を荒げた訳ではないのに、妙な迫力を持つその言葉に、シャルルは思わずたじろいでしまう。

 

「トウヤは死にません。私を1人にしたりしません」

 

そう言って、なぜかシャルルに宿備え付けのガラス製の灰皿を渡すアルマ。

高く投げてくださいと言われ、つい従ってしまう。

アルマは高く浮かんだ灰皿をそっと優しく受け止めて、再び机に置いた。

このやり取りに一体どんな意味があるのか、と些か毒気を抜かれつつも、シャルルは訝しんだ目をアルマに向ける。

 

「あの人は本当に馬鹿ですから……私にさっきのように投げさせた――あの時は確か金槌でしたが、まぁとにかく、そういうものを頭突きで打ち返したんです」

 

「はぁ!?」

 

「おかしいでしょう?……それで『ほら、アルマでは殺せない』って笑うんです。私は凄く怒りました。でも、そんなのどこ吹く風で、大丈夫だ、大丈夫だって、そればっかり……」

 

ミストガンの話を聞いて、ショックを受けていた頃の事を思い出しながら、どこか満ち足りた笑顔でそう言うアルマを見て、何となくシャルルは羨ましさを感じてしまう。

 

「だから、きっとトウヤは殺しても死にません」

 

全く理屈になっていない言葉に宿る、よく分からない力から目を逸らすシャルル。

 

「私はトウヤを信じています」

 

見透かすようなアルマの目に、体をピクリと震わせる。

 

「何よそれ……それじゃ私がウェンディの事、信じてないみたいじゃない!!結局、あんたもオスネコも一緒よ!危機感が足りないんだわ!!」

 

言いすぎてしまったか、と思いつつも、長年の付き合いがある友人についての再三の扱いの悪さに、ついつい口を挟みたくなってしまうアルマ。

この際だから言ってしまえと、口を開いた。

 

「ハッピーもアレで色々と考えているんですよ?少なくとも、この世界に来てから…いいえ、その少し前からですね。あなたの事だけは真剣に考えて、心配してもいます。今も、少しでもシャルルの役に立つんだと言って、外を見にいっているんですから」

 

そんなの…と納得しない様子のシャルルに、これ以上はハッピー自身の仕事かな、と最後に余計なお世話だけして、口を閉ざす事にした。

 

「兎も角、シャルルはもう少しだけ周りを見た方がいいですね。自分だけで出来る事なんて、そう多くはありませんよ?」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

俺達以外は既に宿に戻っていたようで、俺達が帰るとすぐにミストガンの号令の元、今後の動き方について話し合う事になった。

ちなみに、ウェンディの目が赤くなっている事について、シャルルに強く突っ込まれたが、この件については、とりあえず置いておこうと思う。

 

「まず、私達の大指針を確認しておこう」

 

この世界に乗り込んできた最大の目的は、アースランドへのアニマ攻撃を止める事だ。

先の超巨大アニマからも分かる通り、このまま放置していては再び『妖精の尻尾』を狙った攻撃が行われるかもしれない。諦めるまで俺が叩っ斬ってもいいのだが、仕事でギルドを離れている時には対処できないという大問題が存在する時点で却下である。

その為の方法として、第一に王城に忍び込むなどした上での王との直談判。はっきり言って望み薄だし、いざ交渉という段になっても、こちらのカードは人情に訴えるか、武力に訴えるかしかない。これが一番平和裏に解決する方法ではあるが、最も可能性が低い案ということで、結局は頭の片隅に置いておく程度にしておこうという結論に至った。

 

「んで、次がアニマ発生装置の破壊、か……」

 

その次に思いつく案をガジルが口にする。

しかし、これも根本的な解決には至らないであろう。

確かに一時的にはアニマを生成する事が出来なくなり、『妖精の尻尾』の危険は減る。だが、装置は直してしまえばそれで済む訳であり、そうなると、エドラスの魔力が無くなるのが先か、こちらが根負けするのが先かという消耗戦になってしまう。更に、そのような泥沼になるだけならまだいい方で、追いつめられたエドラス王が、より巨大な、それこそフィオーレ全土を覆うようなアニマを展開しだすかもしれない。最悪は、エドラス王国軍がアニマを通ってフィオーレに侵攻してくる可能性すらある。そうなれば、もう事態は俺達の手には負えない。

やはり、こちら側から能動的にエドラスに踏み込めるような技術が開発されない限り、向こうが自由に攻撃できる状況は圧倒的に不利だ。長期戦を選ぶ選択肢は考慮に入れるべきではない。

 

「従って、元を断つ……エドラスの魔力を根絶しようと思うのだ」

 

ミストガンの考えはこうだ。

先ほど話に出たアニマ発生装置、その設定を弄って魔力の吸引方向を反対にする。

こうすれば、エドラスの魔力はアースランドに流れ出し、エドラスはアニマを生成する方法を永遠に失う、という寸法だ。

アースランドの潤沢な魔力を考えれば、枯れかけのエドラスの全魔力など、大した問題にもならないだろう、というのがミストガンとその協力者である研究員の見解であるらしい。

 

だが、この方法にもやはり問題は存在する。

 

「協力者……いずれ皆にも会ってもらいたいのだがな……その事はひとまず置いておくが、その男曰く、アニマを逆展開すれば、魔力を持つ生物までもがアースランドに流入する事になるだろう、という話だった」

 

「なっ!?それってつまりエクシードがアースランドに入ってくるって事じゃない!!」

 

冗談じゃないわ!と憤慨するシャルル。

俺にもその気持ちは分かる。

俺は兎も角、ウェンディを殺そうとしている連中を招き入れるというリスクが気になる所だ。それに、エクシード達は人間に強い差別意識を持っているという。その事も考慮すべきだろう……と思うのだが、どうやらアルマの意見は違うようだ。

 

「その事に関しては、あまり問題ではないと思うんです、私」

 

「どういう意味よ!?」

 

噛みつくシャルルをウェンディがなだめている間、ミストガンが視線でアルマに続きを促す。

 

「ずっと考えていたんです。私がどうすればトウヤを殺せるのか……どう考えても不可能です。私が100匹集まったところで、絶対に。潤沢な魔力が空気に満ちているアースランドで育った私達ですら、この程度の力しかないというのに、この世界のエクシード達が本当に強いのか、と疑問に思うのです」

 

「王国軍の第一魔戦部隊隊長はエクシードだが、確かな武人だぞ?」

 

「でも、それこそ、その一人だけでしょう?それも、武人なんて言い方をするからには、しっかりと努力を怠らないようなタイプ。尚更、卵の状態でアースランドに送り込むという方法に疑問を感じます」

 

なるほど、つまり――

 

「私たちを本気で抹殺するつもりは無かった……?」

 

ウェンディの呟きに頷くアルマ。

 

「エクスタリアは、人の生き死にすら操る強力無比な女王の力によって治められ、人間を従えている、と聞きますが、それも本当かどうか……」

 

エドラスにおいて、エクシードが畏れられ、崇められるのは、女王シャゴットの存在が大きい。彼女には命を選別する力があり、実際に彼女が名前を口にした人間は近いうちに死んでしまうという。その神の如き力に、畏敬が集まっているのだ。

 

「その力とやらを真に受けてしまうより、命の選別に何らかの絡繰りがあると考えた方が納得がいく、というのが私の考えです」

 

と、そこまでアルマが語ると「ギヒッ」とガジルが笑う。

 

「つまり、弱い犬……いや、弱いネコ程よく吠えるって訳だ」

 

アルマもえぇと静かに頷いた。

何かの絡繰りで、強大な力を持っていると見せる事で、魔力を持つ以外は弱い種族であるエクシードを守っている、という訳か。

何かしっかりとした証拠がある訳ではないが、ありそうな話ではある、か……

 

「じゃあ、私のこの記憶はどうなってんのよ!!」

 

まとまりかけていた所で、シャルルが当然の疑問を吐き出す。

確かに、今までの説明ではシャルルに滅竜魔導士抹殺の使命を受けた記憶がある事の説明が付かない。

何と声を掛けるべきか皆が迷っている中、なんと一番最初に口を開いたのは、意外にもハッピーだった。

ちなみに、この世界に来て、数日間移動しているウチに、エクシードの使命含め、エドラスの説明は、パーティメンバー全員に済ませている。

それにしたって、こういう場面で話し出すタイプだとは思っていなかった。

 

「シャルル……それはオイラ関係ないと思うんだ。オイラもアルマもそんな命令なんて知らないし、シャルルだって、命令に従うどころか、ウェンディを守ろうと頑張ってる。その気持ちは本物だって知ってるよ?だから、そうやって打ち破れるような、ちっぽけな使命なんだよ、きっと」

 

それでも、と続ける。

 

「もし、エクシードが本当に悪いヤツらだったとしても、その時はオイラが戦うよ!ナツやウェンディ、そしてシャルルを守るために!!」

 

そう言って立ち上がった姿はいつもより、大分立派に見えた。

シャルルもこの様子には何も言えなくなってしまったらしく、黙ってソファに座りこんでしまう。

 

さて、と一旦場を区切り、ミストガンが話の続きをし始める。

問題は何もエクシードの事だけではない。

魔法が無くなった後のこの国の事も頭に入れておかなければならないだろう。

俺達だって、完全に混沌とした状態でさようならとポイっと捨て置いて帰るというのは寝覚めが悪いという物だし、ミストガンはコチラに戻って生活していくんだ、できるだけ混乱の少ない形になるように努力はしたい。

1番は国民全てに「魔力なんてなくてもやっていける」と思わせる事だろうが、それが簡単にできればアニマなどという物が開発される事はなかっただろう。

流石に、この問題についての解決策を持っている人間は簡単には出てこず、宿の部屋に沈黙が降りる。

 

「やはり、ココは私が憎まれ役を……んぐぅ!?」

 

そんな状況が続く事に痺れを切らしたのか、ミストガンが何事か言いかけるが、俺が全力で足を踏みつけて止める。

あのアホ、エドラスに着て1日目の夜にコッソリ俺に打ち明けた秘策とやらを語るつもりだったらしい。

なんでも、自分が魔力を奪う悪の存在を演じ、この国の英雄がそれを討つという構図を作る事で国民の感情を良い方向に持っていこうという話だ。

アホか、と。

聞いた時もミストガンの頭を力いっぱい(はた)いてやった。

そんな事をさせるために、ここまで付いてきたんじゃない。

国の為なら処刑されてもいいなど、ミストガンの()()を知っている上でも自己犠牲が過ぎると突っ込まざるを得ないだろう。

しかも、この野郎はこの策が唯一の秘策だったらしく、俺に否定されてまぁまぁ落ち込んだというか、途方に暮れていた。実際、他にいい方法が思いつかず、こうして困っているのだから、俺達2人の計画性の無さには呆れる他ない。

しかし、まぁ……

 

「お前、次にさっきの話をウェンディの前でしようとしてみろ?処刑される前に俺がぶった斬ってやるからな?」

 

と、ミストガンの肩を抱きながら、ボソッと呟いた。

 

「あ、あぁ、すまなかった」

 

ミストガンの方も俺に合わせて小声で返すが、冷静に考えると、ガジルやウェンディの聴覚なら、この距離での内緒話は余裕で聞こえてるんだよなぁ……

あとで色々聞かれるだろうが、頑張って誤魔化してくれ、ミストガン。

 

「オホン……そしてだな。もう1つ大問題が発生した」

 

俺のホールドを振りほどき、ヤケになったかと思えるトーンで、更なる問題点を列挙しようとするミストガン。

その覆面で隠れた表情が、心なしか、凄く言いにくそうに歪んでいるような気がする。

 

「その……だな……本当に申し訳ないんだが……」

 

「あ?はっきりしやがれ、まどろっこしい!」

 

モジモジとしたミストガンの妙な態度に痺れを切らせたガジルがそのように凄むと、1度息を吐いて覚悟を決めたミストガンが話を再開する。

 

「実を言うと、本当はここでこうして悠長に話している場合ではないのだ……急いで今後の具体的な行動を決めねばならない」

 

時刻は日付が変わろうとしている夜遅く。

昼間も夜も喧騒に包まれていた王都も、流石にこの時間では静かなものだ。

そんな街に、この直後、俺達の驚愕の声が轟く事になる……

 

 

 

 

「エドラス軍が……明日、エクスタリアに戦争を仕掛けるそうだ」

 

 

 

 

「「「「「「はぁぁああああ!?!?!?!」」」」」」

 




会議シーンでほぼ喋らない主人公がいるらしい。
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