斬魔の妖精   作:ベジタブル

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キリの良い所が見つからず、一気に書き上げてしまいました。
よって、これ含め3話連続で投稿しちゃいます。


32話「エドラス戦記①」

▼トウヤ視点

 

「我こそは!エクスタリアの女王、シャゴットにより召喚された異世界の戦士、斬竜仮面セルバルジャー!!」

 

「そしてその仲間1号、グランディー!ですっ!!」

 

「………………2号、メタリカー」

 

エドラス王都、郊外へと続く道でパレードを行うエドラス軍を前にして高らかに声を上げる俺達。

珍しく大声を上げたせいで少し声が裏返った気がするが、気のせいだろう。

 

「なんだ貴様ら!」

「ふざけた仮面などつけおって!!」

 

アルマの(エーラ)によって空中から――ハッピーとシャルルは別の所に居るので、ウェンディとガジルは地面に立っている――口々にコチラを罵倒するエドラス軍兵士を見下ろす。

先ほど露店で適当に調達してきたこの世界のキャラクターもののお面から見える狭い視界でも分かる程、兵士たちは激昂していた。

 

「我々はシャゴット陛下に代わり、魔力を独り占めにしようとする、不届きな人間達に裁きを与えに来たのだ」

 

なんかすごいツッコんでくるな……

えーっと、こういう時は何ていうんだったか。

そんな風に少し詰まると、背中からアルマの助言が囁かれる。

 

「えー……私たちは人間ではない!斬竜仮面だ!!」

 

うん。

なかなか無理があるが、これで通さないとな……

この世界にも“俺達”がいるかもしれないのなら、ここで顔が割れるのは、そいつらに申し訳ない。

 

「貴様らの魔法は没収だぁ!!」

 

兵士たちの怒号を聞き流しながら、両腕に魔力を溜めていく。

アルマに声を掛け、前方に飛び込みながら広げた両腕を体の全面でクロスさせる。

 

「斬竜の……剣翼!!」

 

衝撃が発生し、兵士達が吹き飛んで、手元にある魔法の道具がバラバラに砕かれた――いや、斬り刻まれた。

元の場所に戻るついでに、魔法の街灯や看板の類いを斬り捨てておく。

軍の前方に降り立ち、クイクイと手のひらを動かして挑発する。

 

「かかって来い……エクスタリアに行きたいなら、俺達を倒してからだ」

 

 

 

 

▼とある兵士視点

 

「かかって来い……エクスタリアに行きたいなら、俺達を倒してからだ」

 

そんな言葉が辺りに響く。

明らかな挑発に対し、手元の魔法が無事な者達が攻撃を仕掛けていくが、ある者は攻撃の出鼻を潰されるように掌底を打ち込まれ、ある者は魔法の武器を簡単に破壊されて戦意を喪失する。

敵はオレ達に魔法を使わせない。

使えたとしても、その攻撃ごと魔法の武器を斬り裂いて破壊してしまう……

 

明らかに“アレ”はおかしい。

 

魔法の道具というのは、エドラスにおいて非常に貴重なモノだ。我々兵士という名誉のある職に就いたものであるから、このように一人ひとりに携行が許されているが、今の子ども達の中には、王都出身でも直接触れた事はないという者も居よう。王都でそうなのだ、地方に行けば更に魔法に触れる機会は少なくなる。

それほど重要なモノであるからには、ひとつひとつの強度だってそれなりのモノになっている。事故などで壊すなどという事があってはならないからだ。

それをあんな紙切れのように壊していくなど……神話に語られる怪力乱神の類いではないか。

 

それだけではない。

あの仮面の男が腕を一振りすれば、銀色の光が漏れ出し、その線上のモノが斬り刻まれる、この光景。

これでは、あの()()()が魔法を使っているようだ……

やはり、エクシードに歯向かうなど、人間には過ぎた行いだったのだろうか。

 

しかし、オレだってこの国の兵士だ。

目の前の明らかな敵対勢力を前に、竦んでいるだけという訳にはいかない。

持てる勇気の全てを振り絞って吶喊してやる。

手に持つ槍も勿論魔法の武器。

部隊に一律で配備される何の変哲もないモノだが、それでも魔法による噴射で勢いをつけたその一撃は岩をも砕く。マトモに当たれば、あんな男、無残な両断死体に早変わりだ!

そう思って槍を振りかぶる。

破れかぶれな攻撃……こんな一撃が当たらない事など、先ほどまでの異常な身のこなしを見ていれば簡単に分かった。

 

しかし、オレの槍は見事に敵の体を捉えた。

 

当たり前だ。

相手は避ける事すらしなかったのだから。

それどころか、あろうことか、槍の刃先を頭突きで止めてみせたのだ。

止まった槍に軽く右手を添えるだけで、俺の得物は粉々に砕け散ってしまう。

それと同時に、俺に中の戦意や、矜持といったモノもパキリと音を立てて崩れ去り、粉となり果てた。

 

バケモノだ……

体から魔法を放ち、オレ達の磨いてきた武術をあざ笑う身のこなしを持ち――そして何より、魔法で傷一つ付けられず、逆に触れるだけで壊してしまう。

 

シャゴット王女が、人間から魔法を没収する為に遣わした戦士……

正にその通りだ。

私たちは神に逆らった。

その結果、目の前のバケモノを呼び込む羽目になったのだ。

 

オレは、粉々になった槍の僅かに残った柄の部分だけをぎゅっと握りしめ、情けない声を上げながら逃げ出した。

 

 

 

 

▼ガジル視点

 

――おーおー、やってるやってる。

遠くの方で兵士どもの魔法武器や、街に設置された魔法装置をブチ壊して回る斬竜を眺める。

俺が斬竜に頼まれた仕事は、ヤツが斬り漏らした兵士の武器を破壊していく事だ。この王都から本気で魔法を無くすつもりらしいが、このままのペースなら実際やってしまいそうだ。

 

オレとしては、こんな雑魚どもをどれだけやろうが、暇つぶしにもなりゃしねぇ。せっかく乱戦になってるんだ、少しくらい骨のある奴をやっちまいてぇもんなんだがなァ。

 

「んーーーー、君たちだね?オレ達の邪魔をしているというのは」

 

すると、そこにピンク色の奇抜な鎧を纏い、リーゼントに割れ顎という個性の洪水のような男が現れる。

見た目だけならギャグ要員かと鼻でわらっちまいたくなるような奴だが、周囲の兵士の反応や、本人が纏う空気から只者ではないというのが分かる。

やっと楽しめそうな奴が登場し、腕がなるというものだ。

 

「そうだと言ったら?」

 

「んーーーー、排除するさ。オレ達は永遠の魔力を手に入れる……エクシードのラクリマ化はその第1歩となるのさ、これ以上邪魔はさせないよ」

 

「ギヒッ――上等ォ……!」

 

一撃目はオレから。

右手を鉄の剣へと変え、垂直に振り下ろした。

小手調べにと放った攻撃……避けるか受け止めるか、どう対応するかだけでもある程度、どんなタイプか分かるような一撃。

そして、まさに狙い通り、対応から相手の闘い方を把握する事ができたのだが……

 

「オレの腕が柔らかくなっただと……!?」

 

鋭い刃を形成していた右腕が、敵の持つ剣に触れた瞬間にドロリと歪み、硬度を失ったのだ。これではヤツに当たった所で傷をつける事すらできない。

感覚的にもいきなり力が抜けるようで気味が悪かった。

 

「ふふ、驚いたかい?オレの剣、ロッサエスパーダは触れたもの全てを柔らかくしてしまうのさ」

 

なるほど、通りで……

厄介な魔法だぜ。

 

「んーーーー、しかし、驚いたのはコチラも同じだ。まさか体を鉄に変えるとはね……異世界の戦士、というのは本当のようだ」

 

問答を終えて、互いに間合いを測り直す。

ぐるりと円を描くように足をすり、相手の隙を伺っていく。

 

先に動いたのは、今度はあちらの方だった。

足元に剣の先を当て、地面を柔らかくしながら滑るようにコチラに飛び込んでくる。

予想外のスピードに面食らったものの、剣速自体は大したものではない。

袈裟懸け、逆袈裟、突き、右薙ぎと繰り出される連撃を簡単に避けていくが、それでも当たってはならないというのがそれなりのプレッシャーを与えてくる。

普通の剣士相手であれば剣が当たるタイミングに合わせて体の一部を硬化させカウンターを決めるのだが、硬くした体まで柔らかくされればどうなってしまうか分からない。よって避ける以外の選択肢を取れずにいた。

しかし、気をつかいながら避け続けるというのは、想像するより集中力を消耗する。このまま持久戦になれば、先に音を上げるのはコチラであろう。

 

それなら――と大きく息を吸い込む。

柔らかくできないものをぶつけてやればいいだけだっ!

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

至近距離でブレスをお見舞いする。

これを防ぐ方法の無い相手は、せいぜい自分から後ろに飛んで衝撃を少しでも緩和する事くらいしかできない。

そうして、少し離れた間合になる――計算通りだぜ、ギヒッ。

 

「やるじゃないか……アイアンボーイ」

 

「変な名前付けんじゃねぇ!!」

 

そう叫び(ツッコミ)ながら、今度は両手を鉄剣へと変化させ振り回してやった。

 

「ふむ、その攻撃は通用しないと、先ほど見せてあげたハズだがね?」

 

相手は余裕綽々といった様子でオレの両手を柔らかくしていく。

――それがオレの狙い通りだとも知らずに。

 

「ギヒッ、それはどうだろうなぁ!」

 

柔らかくなった両腕の剣を()のように激しく振るう。

ヤツの剣はあくまでモノを柔らかくするだけ、その質量や性質までも変化させる事はできない。つまり、今あのアゴ野郎を襲っているのは鉄の重さを持ち、鉄ではあり得ないしなやかさを持つ強力な鞭。

先ほどまでの近接戦では思いのままに振り抜けなかったが、このアウトレンジなら話は別だ。

 

「これはっ……私の魔法をっ……利用してっ……!」

 

幾度となく襲い来る鉄の鞭の猛攻に対し、必死にロッサエスパーダを振るっていなし続けるアゴ野郎。奇しくも先の焼きまわしとなる。

しかし、先ほどまでと異なり、受け手限界は早かった。

ただ避け続けたオレとは違い、そもそも最初から剣を振りっ放しである事、いなしているとはいえ、重い鞭の攻撃を受け止め続けている事。それらが重なり、ヤツの手に持った剣がとうとう跳ね上がり、決定的な隙が生まれた――

 

「鉄竜(べん)!!」

 

そこをすかさず、2本の鞭で滅多打ちにしてやる。

ドゴン、ズドン、と重い音が響き、敵は地面に埋もれるように倒れ伏せてしまうのだった。

 

名前を聞くのは忘れていたが、恐らくあれがこの国の軍に4人いるという魔戦部隊隊長とやらの1人だろう。殆どは派手に動いている斬竜の方に行くと思っていたから、1人でもこちらにやってきたのはラッキーだったかもな、などと考えながら、辺りの様子を確認するが……

 

――ハッ、今日はツイてやがんぜ……!

 

「そこまでにしてもらおうか……オレは王国軍第一魔戦部隊隊長、パンサーリリー。陛下のおわすこの王都で、これ以上の狼藉は働かせられん」

 

振り返れば、身の丈よりも遥かに大きな大剣を携えた黒い獣面の戦士が立っていた。

背中から生やした(エーラ)を羽ばたかせ、上空から勢いよく剣を振るうリリー。

オレは咄嗟に身を躱したが、その大剣の切っ先は止まる事を知らず、王都の地面へとブチ当たって亀裂を生じさせた。

その威力にゾッとしつつも、ゾクゾクと強敵との出会いに歓喜する。

 

――あぁ、今日のオレは本当にラッキーだ。

 

先ほどのアゴ男とは比べ物にならない闘気を持つ野郎とやり合える。

しかも相手は()()ときた。

この世界に来た当初の目的がやっと果たせそうだ……

 

「ギヒッ」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

ありとあらゆる魔法をぶった斬り、襲い掛かる兵士の意識を刈り取り、街を駆けずり回っているうち、いつの間にか王城の方まで入り込んでいたようだ。

いくら入り組んだ迷路のような王都であっても、意図せず王城に入り込めるとは考えづらい……おびき寄せられたか?

 

「ウェ……グランディー、気を付けろ」

 

すぐ後ろを歩くウェンディに軽く注意喚起しておく。

ウェンディには支援魔法による後方支援を頼んでいる。闘えるようになったとはいえ、こんな戦争のど真ん中に放り込むのは流石に心配だが、本人の手伝いたいという意思を蔑ろにもしたくなく、このような形となった。しかし、実際ウェンディの支援は本当に効果的で、体が軽くなったり、細かい傷を治してもらえたりと至れり尽くせりだ。独りぼっちにしてきたガジルには悪い事をしたかもしれないな……

 

「ト……セルバルジャーさん、あの……アレって」

 

そんな風に考えていると、ウェンディが不思議そうな声音で俺を呼びながら、前方を指さした。

その先、ウェンディが見つめる先にあったモノは……

 

「遊園地……?」

 

観覧車にメリーゴーランド、ジェットコースターにお化け屋敷。

どこからどう見ても遊園地な建物が、王城の中にズドンと建っていた。

 

しかも、そのエントランスの門の先には、ご丁寧な事に大量の兵士(キャスト)が待ち受けているではないか。

 

「チッ、やっぱ罠か……ウェンディ!アルマ!」

 

「えぇ!」

 

「はい!天を駆ける瞬足なる風を……バーニア!!」

 

俺とウェンディ&アルマに分かれた後、ウェンディが短文を詠唱して俺に手を翳すと、一気に体が軽くなる。

天空魔法、バーニアは対象のスピードを強化する魔法だそうだ。

その強化された駿脚でもって敵陣ド真ん中へと、一息に飛び込み、脚をぐるりと回し、つむじ風起こす。

 

「斬竜の鎌尾(けんび)!!」

 

予想していなかったであろう特攻と、突如巻き起こった斬撃の奔流に、敵兵達はなす術もなく倒れ、魔法の武器も粉々に崩れ去っていく。

魔法を失った兵は後ろへと逃れ、新たに武装した兵が襲い掛かってくる。しかし、どれだけ兵士が増えたとて同じ事。何度も何度も武器を壊し、気を失わせ、少しずつ敵軍の力を殺いでいく。

 

しかし、消耗するのは俺とて同じではある。

今回は魔法を壊す事に重点を置いている為に、常に斬魔の魔力を身に纏っている。途中途中で、敵の落としていった刀剣類を食べて回復しているとはいえ、このままでは俺の体力と魔力が尽きるか、敵の魔法が尽きるか、どちらが先か分からない。

 

いいや、ネガティブな事を考えてちゃダメだ。

たった3人で戦争をしようだなんて馬鹿な案に乗ってくれたウェンディは、今も果敢に闘ってくれているのだから。

ウェンディを見れば、両腕から生じた風で兵士たちをなぎ倒しているところだ。

「天竜の翼撃」だそうだが、恐らく、俺やナツの技を真似してくれているのだろう。嬉しい事だ。

そんな風に一度和んで気合を入れ直すか、というところで、ウェンディに()()()()()()()()()が迫る――

 

「アルマ、ウェンディ!!」

 

咄嗟に駆け出し、ウェンディとアルマに飛びついてジェットコースターを避けさせる。

 

「助かりました!」

 

「ありがとうございます、トウヤさん!」

 

数メートル転がってから、顔を上げると再びこちらに激突しようとしているコースターが見えた。

 

――2度も通用するかよ!

 

「斬竜の槍拳!!」

 

俺の突き出した拳がコースターの車体に突き刺さって粉砕される。

フッと1度息を吐いて、コレを操っていたのであろう男の方に目を向けた。

 

青い髪に白いメッシュを入れた、軽薄そうな青年だ。

王都に貼られたポスターか何かで顔を見た覚えがある……確かアレは第三魔戦部隊隊長のヒューズだったか。

 

「あっはは、やるじゃん。流石は異世界の魔導士てとこか……やっぱ超スゲェんだろうなぁ、その永遠の魔力ってやつはさぁ……オレ達もそれを手に入れたいんだ、分かるだろ?だから、邪魔しないでもらっていいかなぁ?」

 

ヒューズは、手に持ったタクトを軽く振るう。

すると、メリーゴーランドの馬や、観覧車のゴンドラ、ありとあらゆるものが浮かび上がり、俺めがけて襲いかかってきた。

 

「ウェンディ、下がってろ!」

 

「で、でも……!」

 

すぐに2人を後ろに押しのけ、ヒューズに気づかれないようにさりげなくアイコンタクトを送る。ウェンディは最初、俺だけおいて下がるのを躊躇ったが、俺の意図に気づいたアルマがウェンディに何か耳打ちすると納得した顔をして下がっていってくれた。

2人が離れたのを確認した俺は腕をでたらめに振るって、幾筋もの銀色の斬撃を飛ばしていく。

 

「斬魔ノ太刀、纏の型・風牙――斬竜の刀牙、乱閃!!」

 

その殆どがヒューズの操る遊具に当たり、それらを真っ二つに斬り裂いてしまう。

しかし、圧倒的な物量相手には打ち漏らしも当然ながら発生する。それらを体で受け止めながら、無理やりにも前へ進む。

 

「ぐっ……!」

 

ヒューズの攻撃には1つたりとも斬撃は含まれておらず、休む暇もない俺は、苦悶の声を上げて、ひたすらに猛攻を耐え忍んだ。

時には躱し、時には斬り裂き、時には両腕で受け止めて――それでも着実にヒューズの方へ近づいていく。

確かにケガを負いながらも、それでも止まらない俺の足に、ヒューズも次第に焦りを覚えてきたのだろう。タクトを乱暴に振りながら、不満を吐き出し始めた。

 

「そんなメチャクチャな魔法もってて、どうしてオレ達の邪魔すんだよ!そんなにスゲェなら、魔力がどれだけ大事か分かんだろ!?」

 

そりゃ分かるさ。

俺は魔法で飯食ってるような人間だ。魔法の重要さなんて嫌という程知っている。

それに、そんな生活に直結した問題だけじゃなくたって、必要とする場面が多く存在するのも分かる。

 

魔法(コイツ)があるから家族を守れる。

魔法(コイツ)があるから友達を助けられる。

 

だが……

 

「それで家族奪われそうになってたまるかってんだよ!!」

 

今はミストガンの為にこうして、できる限り武器だけを狙って攻撃しているが、別にあの巨大アニマで『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』を魔水晶(ラクリマ)に変えようとした事を忘れた訳じゃねぇんだ……!

俺があそこでアニマをぶった斬れたから向こうの『妖精の尻尾』が無事なだけで、あの時俺が間に合わなかったら……そう考えるだけでは腸が煮えくり返りそうになる。

その上、こいつらはエクシードを自分勝手に滅ぼした後は、再び俺達の世界を狙って攻撃してくるつもりだという。

くそったれ……!

 

「そうか……オマエ、アースランドの妖精の尻尾……!」

 

そんな気持ちを込めて、更に一歩踏み出す。

あと一歩飛び込めばヒューズに一撃くれてやれる……!

 

「でも、そんなの関係ねぇ!オレ達は永遠の魔力を手に入れるんだ!!」

 

俺が脚に力を入れたその時、ニヤリと笑ったヒューズが、今までで一際大きくタクトを振るう。遊園地のあらゆるモノを操るその魔法のステッキは、ヒューズの背後にあったオブジェの騎士を2体、生きた戦士のように動かして俺へと差し向けた。

 

――だけど、そりゃ悪手だぜ……!

 

オブジェの騎士の1体が振りかぶった()に齧りつく。

もう1体は気にするまでもないだろう。

なんせ、その背中には先ほど別れた頼りになる相棒達が張り付いてるんだからな。

ガンッと騎士鎧を蹴って勢いよく羽ばたくウェンディとアルマ。

その反動で俺を狙っていた2体目の騎士はあらぬ方向へと転がっていった。

ヒューズはと言えば、急に眼の前に現れた少女達に驚きを隠せず、防御の準備が間に合っていない。

 

ウェンディ達を小さい子どもとネコだと視界から外した自分のミスを呪いやがれ!

 

「天竜の翼撃!!」

 

ウェンディの小さな腕の動きに合わせて、その矮躯から産まれたとは思えぬ大きな風が巻き起こった。隙だらけのヒューズはそれを受けて、上空へと舞い上がっていく。

唸りながら落下してくるその様は無防備そのもの――

 

俺はその場で縦に1回転して、落ちてくるヒューズの体に踵を落とす。

 

「斬竜の鋭爪!!」

 

ガンと大きな音が辺りに響いて、遊園地の床に大きな亀裂が走る。

その中心に顔面を突っ込んだヒューズの意識は、当然のことながら刈り取られていた。

 

 

 

 

▼三人称視点

 

3頭の竜が兵士達を相手に大立ち回りをしている頃、王城の深部を忍び足で進む男が1人。男は()()()()()で城内を歩く。頭に地図が入っているだけではなく、かつて何度も行き来した事があるかのような淀みない動きだ。

男の名はミストガン。

彼は今、城内の研究施設内に存在するアニマ発生装置へと向かっていた。指向性を反転させたアニマを展開し、エドラスの魔力をアースランドへと送るためだ。

多くの兵士が戦争へと出向こうとしていた上、城下で大騒動が起きている現在、城の内部は手薄そのもの。僅か数名の見張りなど、ミストガンの実力からすれば問題にもならなかった。

 

順調に歩を進めるミストガンだったが、目的地へとたどり着くための一本道、その半ばに腰の曲がった小さな影が立っているのに気づく。

 

「お久ぶりでしゅな、ジェラール様……ぐしゅしゅしゅ」

 

不気味な笑い方をする老人――エドラス軍幕僚長バイロが、ミストガンのもう1つの……否、本来の名を呼んだ。

この名には、ミストガンのエドラスにおける本当の名前という他に、もう1つ重大な意味を持っている。

それは――

 

「この先にはアニマ発生装置しかございませんぞ。それよりも、7年ぶりのご帰還でしゅ、早く陛下にお顔をお見せになってください、()()

 

7年前、突如として行方を眩ませた、エドラス唯一の王子。

それこそが、ここエドラスにおけるミストガンの肩書であった。

 

「用があるのは父上ではない。この先の装置だ……邪魔立てするのなら、力づくでも通してもらうぞ」

 

そう言い放ち、杖を構えるジェラール。

王子としての顔の中に、『妖精の尻尾』のS級魔導士としての表情を覗かせて、先手必勝とばかりに魔法陣を生成した――

 

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