斬魔の妖精   作:ベジタブル

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連続投稿2話目。


33話「エドラス戦記②」

▼三人称視点

 

トウヤ達が王都で戦闘を開始する少し前、ハッピーとシャルルは連れ立ってエクスタリアへと降り立っていた。

 

『みんな聞いて!!エドラスが戦争を仕掛けてくるんだ!!女王様を呼んで!!』

 

突然現れた見覚えのないエクシードがそのような荒唐無稽な事を言う。

ハッピーの思惑通りに2匹の周りには人だかり――ネコだかりが出来ていたが、聴衆の思いは、ハッピー達の理想とは全く異なっていた。

 

「人間ごときがオレ達に逆らう訳ないだろ!」

「そんなの関係ねーよ!女王様の魔法にかかれば人間どもなんて瞬殺さ!」

「出ていけホラ吹きどもー!」

 

そんな心無い言葉を投げかけてくるエクシード達。

やはりダメかと沈むシャルルに対し、ハッピーは諦めなかった。

 

「エドラスがエクシードを魔水晶(ラクリマ)に変える魔法を作り出した」

「今はオイラ達の仲間が必死に軍を止めてる」

「重要な話があるからどうか女王様と話させて欲しいんだ」

 

しかし、どれだけ心を尽くして語りかけたところで、エクシード達の心には響かなかった。

女王様がいれば全てなんとかなる、自分達には関係ない。

どこまでも他人事でしかないその態度に、だんだんシャルルのイライラが募ってくる。

 

こんな奴らの被害を少しでも抑える為にウェンディが闘っているのか、と。

彼女はシャルルと別れて兵士達と闘いに行く直前、笑って言っていた。

『シャルルは好きになれないかもしれないけど、エクスタリアが無かったら、私とシャルルが出会う事はなかったんだよ?だから、これはその恩返しの闘いでもあるの』

矢面に立つのがトウヤだったとしても、この場でクダを巻いているだけのエクシード達なんかに比べたら、ウェンディは物凄く危険な場所にいる。

そんな思いがシャルルの心を締め付けていた。

 

「どうして……どうしてあんた達はそんなに他人事でいられるの!?あんた達の国の事でしょう!?少しは自分達で守ろうとしなさいよ!自分の家族くらい、自分で守るための努力をしなさいよ!!」

 

そんな怒号がその場を支配し、一時、エクスタリアの広場に静寂が訪れる。

 

「何がエクシードよ!!私の知ってる人間は全員、自分の事も、家族の事も自分の力で守ろうとしてたわ!!あんた達のどこが人間より優れた種だって言うの!?」

 

シャルルの脳裏に浮かぶのは『化猫の宿(ケットシェルター)』の皆、そして『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の連中の背中だった。

いつだってうるさくて、バカな事ばかりしている奴ら。

私とはいつまで経っても気が合いそうにない連中もいる。

ウェンディをいやらしい目で見る変態(トウヤ)もいる。

でも、今、こうして必死に訴えかけている()()()()をバカにして笑うコイツらに比べたら何百倍もマシだ。

 

「女王の魔法だなんて、それも嘘っぱちよ!!ホントにそんな圧倒的な力があるなら、戦争なんて起こりっこないわ!!だから早く女王をここに呼んで!!」

 

シャルルの言葉に何か感じる部分のあった少数のネコ達は拳を握って黙り込んだ。

しかし、女王をバカにされた事で激昂するエクシードも決して少なくはなかった。

むしろ、比率にすれば後者の方が多いくらいで――

 

「女王様になんて事言うんだ!!」

 

そんな叫びと共に石を投げる聴衆まで現れてしまう。

石は綺麗な弧を描いてシャルルの頭部へと迫る。

今、ウェンディが置かれている危険な状態に比べたら、こんなモノと目を瞑って耐えようとするシャルルだったが……

 

「シャルル!」

 

予想していた痛みが訪れる事は無かった。

代わりに、ゆっくりと地面に引き倒され、覆い被さられるような優しい感触がする。

目を開くと、至近距離に痛みに耐えて苦悶の表情を浮かべるハッピーの顔。

 

()()()()…………」

 

何度も何度も執拗に投げつけられる石。

それらが当たる度にハッピーの体がブレるが、それでもシャルルを庇う位置を離れようとは決してしなかった。

思わずシャルルの瞳に涙が溜まる。

それが零れるかと思ったその時、広場に新たな怒号が響いた。

 

 

 

「おめぇら!いい加減にしやがれ!!」

 

 

 

その声の主は、白い毛に太い眉毛と濃い髭を生やしたオスのネコであった。

ハッピー達は知る由もないが、彼は傍らの青い――どこかハッピーに似た雰囲気の――メスネコと共に普段は郊外で暮らしており、この日はちょっとした用事の為に数年ぶりにエクスタリア城下町へと訪れていたのだ。

そして今しがた、この騒ぎを聞きつけて広場へとやってきたのだった。

 

「恥ずかしくねぇのかおめぇら!こんな子ども相手に!!」

 

彼の怒声に、石を投げていたエクシード達も押し黙る。

単に声が大きいというだけではない迫力があったからだ。

彼がこうして声を上げたのは、何も生来の気風の良い性格の問題だけではなかった。

ハッピーを一目見た瞬間に、彼は気づいてしまったのだ。

 

――間違いねぇ、ありゃあ……

 

そうなっては、石を投げられているという状況を捨て置く事などできはしなかった。

 

「こんなになってまで訴えてる事がただのホラだなんて、本気で思ってんのか、おめぇらはよぉ!かーーっ、冗談じゃねぇ!!女王に会わせる位、させてやりゃいいだろうが!!」

 

広場のエクシード達にざわざわと動揺が広がる。

可哀想だと嘆く声、信じてもいいのではないかと説得する声、だけどあいつらは女王様を侮辱したと怒る声――

それら全ての喧騒を切り裂いて、凛とした1つの声が響いた。

 

 

 

「そこまでです……皆に、話さなければならない事があります」

 

 

 

それは神とすら崇められるエクスタリアの女王、シャゴットのモノであった。

羽毛に包まれた派手な装束を身に纏い、どこか覚悟を決めたような顔でシャルルとハッピーを見つめていた。

その後ろには国の重鎮と思われる年老いたネコ達や、騎士団、大臣、そして、桃色の毛で柔和に笑うメスのネコが立っている。

桃色のネコは女王の秘書然とした毅然とした立ち姿でありながら、どこかほんわかとした呑気な雰囲気を纏った不思議な姿で、それを見たシャルルは何となくアルマの事を思い出した。

よく見れば彼女はほんの少しだけ肩で息をしている。もしかしたら、彼女がシャゴットを呼んできたのかもしれないとシャルルは考えたものの、その答え合わせはされないままに場面が変化していく。

女王が、その豪奢な衣装を脱ぎ捨て、片翼しか持たない華奢な身体を衆目に晒したのである。

これにはエクシード達の間にも大きな動揺が走った。

彼らにとって、シャゴットとは神であり、偉大で強大な、エクシードの力の象徴である。

その正体が自分たちと変わらない大きさの体で、それも翼が一枚しかないなど――今までの固定観念を崩し去るには十分な衝撃だったと言えよう。

 

「この国は……いいえ、この世界は滅びへと向かっています。人間達の欲望はやがてエドラスの全てを呑み込むでしょう……だから私は、1つの決断をしました。真実を話すという決断です」

 

それから語られた内容は、驚くべきことに、殆どアルマの話した通りであった。

シャゴットの持つ力は予知のみであり、それを巧みに使って命の選別をしていると信じ込ませてきたという。シャゴットには語られるような強大な力などはなく、全ては力で勝る人間に攻撃されないようにと捻り出した苦肉の策の結果だったのだ。

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)殲滅の為に送り出した卵も、本当はこの世界の崩壊を予知した女王が、少しでも子どもたちを生かすためにと逃がすための方便だった。

それらの話を聞いて今まで信じてきたものの全てが崩れていく感覚を覚えるエクシード達とは対照的に、シャルルは肩がスッと軽くなっていくのを感じていた。今はただ、ウェンディとの出会いが、思い出が仕組まれたものではないという喜びが彼女の胸を打っていたのだ。

その様子を見たハッピーも、シャルルに向かって良かったねと笑いかけた。心を見透かされたような居心地の悪さに、シャルルはついつい「ふんっ」と顔を背けてしまうが、その様子にこれまでのようなトゲトゲしさは少しも感じられなかった。

 

そんなシャルルの前に、カシャンと短剣が置かれる。

何事かと、そちらを見ると、シャゴットが跪いているではないか。

 

「あなたには辛い思いをさせました……あなたには私を裁く権利があります。その短剣でどうか私を……」

 

悲壮な顔で告げるシャゴット。

しかし、シャルルは何をバカな事をと言わんばかりに溜息をついて、短剣を地面へと突き立てた。

 

「そんな風に思ってるなら、私たちとの交渉に乗りなさい……ここにいる他のエクシード達もよ!」

 

シャゴットを含め、全てのエクシードがシャルルを見つめている。

その風格はまるで女王のようであった。

 

 

 

「一世一代の大芝居よ!嫌とは言わせないんだから!!」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

オクトパスリキッドという魔法薬を飲み、巨大な蛸の化物と化したバイロの巨体により、アニマ発生装置へと向かうための通路が埋め尽くされている。

相対するミストガンは、余裕の表情を崩していないものの、じりじりと後退せざるを得ない状況に陥っていた。

生半可な魔法ではダメージを与えられないような姿に変化したところで、それを正面から叩き伏せられる手段などミストガンはいくつも持っている。

軽く振るった触腕の一撃が、簡単に岩を砕くものであっても、容易に避けられるし、何なら受け止める事すら可能だろう。

『妖精の尻尾』最強候補の力は伊達ではないのだ。

 

しかし、現在はその能力の高さ故にじり貧へと追い込まれていた。

バイロを倒す手段はいくらでも思いつくが、それらのどれも()()()()()()()使えそうにないのである。

通路を完全に埋めてしまっているバイロを吹き飛ばす程の大威力の魔法を使ってしまえば、城にも大きなダメージがいってしまう。そうなればアニマ発生装置も無事では済まないかもしれない。

バイロとて装置を破壊してしまうのは本望ではない。しかし、最悪壊してしまっても、もう一度作り直すという手段を選ぶ余地はある。それに対してミストガンは、作戦の為に今この時、アニマを反転展開させる必要があるのだ、慎重にならざるを得なかった。

 

――地道にやっていくしかないか。

 

バイロの繰り出す触手の1本に合わせるように三枚の魔法陣を描く。

三重魔法陣――

 

鏡水(きょうすい)!」

 

ガツンと魔法陣の壁にぶつかった触手だったが、その壁を割る事は出来ない。それどころか、加えた衝撃と同じ分だけの力が反射され、バイロの思惑とは裏腹に浮き上がってしまう。

その隙だらけの触腕に向けて、杖の先端から展開した魔力刃を振るったミストガン。

 

「ハァッ!!」

 

今も王都のどこかで闘っているはずの友の如く、一刀の下に斬り捨てる。

これでバイロの使える腕はあと7本……

脚を全て斬り落としてやったら少しは隙間が空くはず、そこから向こう側へ――などと考えているミストガンに対し、バイロは不気味にぐしゅしゅと笑う。

 

「残念でしたな……この触手はこうして再生させる事もできましゅぞ!」

 

その言葉通りに先ほど落とした触手の切れ目から新しい腕が生えてくる。

いよいよどうしたものかと、流石のミストガンも顔を歪めた。

一瞬訪れた戦闘の合間の静寂に、ミストガンのものでも、ましてやバイロの触手を引きずるような音でもない足音が響いてくる。

 

「おお、良い所に来たな……お前も王子を捉えるのを手伝うのじゃ、トウヤ!」

 

その正体は灰色の髪をぼさぼさに伸ばし、軽薄に笑みを浮かべるエドラスのトウヤであった。

 

「おやおや、こりゃいいタイミングに来たかな……悪いね、王子様♪」

 

バイロの言う通りに魔法薬の入った試験管を指に挟んで構えるトウヤ。

孫と祖父に挟まれたミストガンは、それでも不敵に笑みを浮かべた。

ヤケになったかと訝しみながらも、捕らえてしまえば同じ事と触手をミストガンへと伸ばすバイロ。

それに合わせるようにしてトウヤも試験管を投げつけた。

 

――バイロへと向かって。

 

「遅くなっちゃったね、ジェラール」

 

試験官がカシャンと割れて、バイロの触手に紫色の魔法薬がかかる。

これはトウヤ特製のアンチマジックリキッドという代物であり、これを浴びた魔法の道具は一時的に魔法を発動できなくなってしまうのだ。

当然バイロのオクトパスリキッドの効果も失われてしまう。シュルシュルと肥大化していた体が縮んでいき、元の老人の姿に戻ってしまうバイロ。

すかさずそこへ駈け込んで来たミストガンがバイロの背後に回って、絞め技を掛けた。

 

「いや、ベストタイミングだ」

 

王を父に持つミストガンと、幕僚長を祖父に持つトウヤは、幼いころから何度も会って話をした。おしゃべりと寡黙、一見正反対に見える2人だったが、周囲の心配など関係がないとばかりに仲を深めていった。

つまるところこの2人は、ミストガンがアースランドへと渡った7年前まで、無二の親友同士であったのだ。

当然、トウヤはミストガンの真意を知っていた。その上で、その志に協力するため、祖父のコネを頼って、アニマや魔法薬の研究に勤しみ若くして幕僚長補佐へと上り詰めたのである。

アニマの逆展開の詳細や、軍の動きなどをミストガンに伝えた協力者とはトウヤの事であった。

 

全ては自身の主の、そして友の為に。

 

「トウヤ、貴様……!」

 

鬼の形相で孫を睨みつける祖父を前にして、トウヤはいつも通りの軽薄な笑みを消さずに言い放った。

 

「悪いね、爺様……僕が忠誠を捧げてきたのはファウスト陛下じゃない。僕の主はここにいるジェラールって事さ」

 

それを聞いたバイロは無念の表情を浮かべ、ミストガンに締め落とされて気を失ってしまったのだった。

 

「さぁ、行こうかジェラール。魔法の時代の終焉だ!」

 

あくまで軽薄な笑みを消さないままに、明るい調子でそう言うトウヤの目を見るミストガン。

周囲からはいつも軽い男だと誤解されがちだが、彼の真意はその瞳に現れる。

その事を知っているミストガンは、彼が至って真剣に自分達とエドラスの今後を見据えて動いていると、7年前と変わらない聡明さを持っていると確信し、フッと笑った。

 

「あぁ、行こう。トウヤ」

 

顔は同じでも、こうも雰囲気が違う2人の人間を同じ名前で呼ぶ奇妙さに少しおかしくなる。しかし、どちらも無二の友である事に変わりはない。

バイロをそっと床に寝かせたミストガンはゆっくりと立ち上がり、トウヤを伴ってアニマ発生装置のある部屋へと歩いていった。

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

音速の鎗(シルファリオン)!!」

 

くっそ、コイツ、完全に俺への対策を済ませてやがる……!

ただでさえエルザと同じ顔の女なんてやりにくいったらありゃしないというのに。

 

ヒューズを倒した後、付近に敵の気配がないのを確認した俺達は王城から抜けだし、王都の広場のようなところにまで戻ってきた。

するとそこには万が一の為にも壊しておきたいと考えていた、エクシードを魔水晶(ラクリマ)へと変える装置がまとめて置いてあるではないか。

しめたものだとそれらを壊す為に構えた瞬間、近くの建物の屋根から緋色の髪の女が落下しながら突撃してきたのだ。

街の中には元々人の匂いが充満していたせいもあって、すぐに気づけなかった俺はその待ち伏せにまんまと一撃入れられてしまった。

すかさず繰り出される、屋根の上に残った兵士による投石攻撃は何とか避けられたものの、対策された上に待ち伏せされたという状況に舌打ちする。

 

「ウェンディ、アルマ、上を頼む!……エルザは俺が!」

 

はい!と2人そろって返事をして飛び上がる。

エルザは妨害する事もなくこちらを睨むばかりだ。

つくづく俺との闘い方を心得ているらしい。

 

前情報では彼女の扱う槍は様々な形態に変化し、その状態に応じた特殊能力で苛烈に攻め立てるという話だったのだが、先ほど使われた超スピードを出すことができる形態を変化させる素振りはない。恐らく、魔法を無効化・破壊できる事は既に知られており、それなら触れられないスピードで攻め切ってしまおうという腹積もりだろう。

更に、兵士達が矢ではなく石を投げてきた事や、エルザが突く・斬るという動きより打つ・叩くという行為を重視した立ち回っている事から、斬撃に対する耐性もバレてしまっていると考えられる。

先ほど、上の兵士達の元へ向かったウェンディ達を見送ったのも、その隙を俺に突かれて槍を破壊されると考えたからだろう。

敵に回すと本当に厄介だな……本人ではない訳だが。

 

「貴様には魔法が効かんらしいな……魔鎗テン・コマンドメンツの本領発揮とはいかんが、私達の邪魔をしようというなら、まずは貴様から魔水晶にしてやるとしよう」

 

見慣れた顔で、浴びた事のない殺気をぶつけてくるエルザ。

ポニーテールにまとめた髪が揺れたと思った瞬間、目の前にエルザ――

左斜めから叩きつけるように振り下ろされた鎗に対し、必死に左手を突き出して受け止める。ガツンと腕に痛みが走り、たたらを踏むも、エルザの攻撃は終わらない。鎗を軸に体を回転させ、膝蹴りをかましてくる。反応できずに腹に一撃が入り、グボッと声を漏らしながら、がむしゃらに反撃の斬撃を放った。しかし、蹴りの反動と鎗の加速によって既にそこにエルザは存在しない。

 

広場の建物の壁を蹴って縦横無尽に移動しながらこちらの隙を伺うエルザ。

俺の目が追い付かず、一瞬の死角に入った瞬間にダンッと大きな踏み切って、目にも止まらぬ(はや)さで突っ込んでくる。

 

だが、こちとら竜の五感を持つ魔導士だ、目だけに頼ってる訳じゃない。

これだけ大きな音がしていれば飛んでくる場所は読み取れる――!

 

エルザを見ることも無しにスッと上半身を避けて、驚いた声を出すエルザの方へと脚を突き出す。咄嗟に槍を庇ったエルザは自身の身を狙った攻撃にまでは反応しきれない。

俺の放った蹴りはエルザの脇腹を打ち抜いた。

勢いよく吹っ飛んだ先で綺麗に受け身を取るのは流石といったところだが、蹴られた腹部に大きな裂傷が走り、血がだらだらと流れている。

せめてウチのエルザのような鎧を着ていれば、それが壊れるだけで済んだというのに、どういう訳かコチラのエルザは露出狂の如き薄着をしていた。それが明暗を分けたとは言わないが、これだけ血を失えば、先ほどのような高速機動は厳しくなるだろう。相手がエルザという時点で油断するつもりは微塵もないが、限りなくコチラが有利になったと言えるだろう。

エルザへの視線を切らさないまま、チラリと屋根の上の様子を見れば、既に殆どの兵士がダウンしている。ウェンディもケガはしているものの、行動に支障がでる程のものはなさそうでひと安心だ。

 

「アースランドの魔導士……これほどか」

 

しかし、その闘志は些かも衰えていないようだ。

そりゃあ、ここで俺を止められなかったら、永遠の魔力という夢が潰えると思っているのだから当然か……

それにしても、エルザの顔でこうまで睨まれるというのは中々嫌な気分だ。

 

そんな事を考えながら、再びにらみ合う俺達の上にヒュウウウウと何か巨大で重いものが飛んできているような音が近づいてくる。

予想外の出来事に「なんだ?」と、エルザへの警戒も忘れて上空を見つめると、何か白いバケモノが落ちてきて――

 

轟と大きな音を響かせ、広場の床に亀裂を走らせながら、大質量のソレが着地する。

オオオオオオオと叫んだバケモノの見た目は、翼こそないものの「機械の竜」と呼ぶに相応しい威容であった。

 

「ドロマ・アニム……まさか、陛下!?」

 

焦るエルザの言葉の通りに、機械の竜――ドロマ・アニムというらしいが――の中からは老人の威厳ある、それでいてどこか狂気を孕んだ声が聞こえてくる。

 

『貴様、どうやらアースランドの滅竜魔導士らしいな?のこのこソチラからやってくるとは健気なものだ。まずは貴様を魔力タンクにしてやる!その次は忌々しいエクシード共!そして異世界の妖精(ハエ)共じゃ!!』

 

フハハハハハと笑いながら、ドロマ・アニムの全身から大量のミサイルを射出するファウスト。

どうやらアレも魔法のウチらしいので、いくつかは斬り刻んでおくが、如何せん数が多くて全てを無力化するという訳にはいかない。

しかも、あの野郎、自分の国や兵士たちなど、どうなってもいいとばかりに考えなしに攻撃を放っている。全てを丸く収めるためにも、この戦いで誰かに死んでもらっては困ると言うのに……!

咄嗟に近くで呆けているエルザを突き飛ばし、爆発に巻き込まれないようにする。

 

「貴様ッ!何のつもりだ!?」

 

至近距離で起こる爆風に体を炙られ、苦悶の叫びを上げさせられる。

近くでエルザが何か言っているが、痛みでそれどころではない。

やっと収まったかと思った所に、今度はドロマ・アニムの尾が迫っていた。

 

両腕でガードしながら、尾にぶつかる瞬間自分から同じ方向に跳んで衝撃を少しでも殺すが、それでも異常な重圧がかかり、王都の建物をいくつも倒壊させてようやく止まる事が出来た。

 

いやいや、このジジイ、自分の国の事なんだと思ってんだよ……

 




ところでドロマ・アニムって名前、滅茶苦茶紛らわしくないですか?
ドロム・アニマって書きそうになります……
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