斬魔の妖精   作:ベジタブル

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連続投稿3話目。
ちょっと長いです。


34話「魔法の時代が終わって」

▼三人称視点

 

王都の外れ、派手に殴り合ったガジルとパンサーリリーは、互いに満身創痍で大の字になって寝転がっていた。

この状態に至るまでの闘いは非常に苛烈なもので、リリーの装備はどれも砕け散り、ガジルも全身から血を吹いている。

だからこそ、お互いを認め合いどこか清々しい気分となっていた。

 

「なぁ、オマエ、オレのネコになれよ」

 

「ふざけるな……オマエの事は認めているが、オレはこの国の兵士だ。この国をメチャクチャにしたヤツの下になどつくものか」

 

空を見ながら会話を交わす。

「そうか?」と悪い笑みを浮かべながらクイクイと親指で轟音が鳴り続けている街の中心部を指すガジル。

 

「無茶苦茶にしてんのはオマエらの王様の方じゃねぇかヨ……この音はオタクの王サマとやらが暴れ回ってる音らしいぜ」

 

敏感な竜の聴覚で捉えた情報をリリーに伝えてやる。当然の事ながら、王が王都で暴れ回っているなどという事実は信じがたく、リリーは顔色を変えた。

 

「なんだと……?」

 

「それだけじゃねぇ、今回の戦いで死傷者は出てないはずだぜ、ギヒッ」

 

「本当か!?」

 

リリーは苦しそうに上半身を起こし、2人の独特の雰囲気に当てられて遠巻きで見守っているしかなかった第一魔戦部隊の兵士を呼び寄せ、事実確認を行う。

 

「ハッ、負傷者多数、破壊された魔法も数え切れませんが、死傷者は1人もでておりません……そして、確かに、この轟音は陛下の乗ったドロマ・アニムによるものであります」

 

こうまで派手に戦闘を起こしている上、実力的に一般兵とガジル達とでは天地の差があるというのに、死者が1人も出ていない。これを偶然で片づけるのは、あまりにも無理がありすぎる。意図的に誰も殺さないようにしているとしか考えられないだろう。

しかし、どうしてそんな事を……訝しむリリーはガジルの方を振り向いて真意を問うた。

 

「どういう事だ……オマエ達の真意は一体……?」

 

ギヒッと笑って、種明かしをしてやろうとしたガジルを邪魔するように新たな声が響く。

 

「そこから先は私が説明しよう」

 

エドラスのトウヤと共にアニマの調整を終え、発動だけをトウヤに任せて先に王城から出てきたミストガンがそこに居た。

覆面を取った見目麗しい姿を見て、リリーはすぐにその正体に気が付く。

それもそのはずだ。

ミストガンはリリーにとって、自分がかつて命を救った少年であり、エクスタリアを飛び出る原因を作った存在であり、仕えるべき国の王子でもあるのだから。

 

「王子……!? どうしてここに……?」

 

「全て、道すがら話すと約束しよう……ひとまず、広場へと向かうぞ」

 

ミストガンはリリーの傍で膝をつき、手を差し伸べた。

 

「君にも見届けて欲しい。この国の終わり、そして始まりを」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

同じ頃、アニマ発生装置の前では1組の男女が仲睦まじく手を握り合って、来たるべき時を待っていた。

 

「もうすぐ終わっちゃうんだね……」

 

「終わるだけじゃない。始まる――いや、始めるのさ、新しい時代を。僕たちと、僕たちの陛下の手で、ね?」

 

モニターに映る街の争いを悲痛そうに眺めながら、どこか犬っぽい見た目の純朴そうな少女が呟いた。

 

「でも良いの?トウヤの大好きな魔法薬の研究もできなくなっちゃうんだよ?」

 

「前から言ってるだろ、ココ? 僕が研究をしてるのはジェラールの為だって。それに、魔法が無くなったら、普通の薬の研究をすれば良いんだ……というか、実はもう始めちゃってるしね」

 

やっぱり研究、好きなんじゃんと思いながらも、そんな前向きな言葉に自分も元気が出てくるココ。

 

――そうだよね、魔法が無くなっちゃうのは残念だけど、大好きな人と一緒に楽しく走り回る未来が無くなる訳じゃないんだもの。

 

「それにしても……」

 

トウヤがモニターに映る自分とそっくりの青年を指さす。

ファウストの騎乗するドロマ・アニムを相手に大立ち回りをしている最中だ。

 

「アースランドの僕は凄いねぇ……研究畑の僕には絶対こんな事できないよ」

 

「あはは……でも私、トウヤともいっぱい走り回りたいから、もうちょっとだけ体力付けて欲しいよう」

 

「あー、うん……」と照れたように空いている手で頬を掻くトウヤ。

お得意の笑みも消して、プイっとそっぽを向いて、照れ隠しのように呟いた。

 

「ま、それにしたって、ここまでじゃなくてもいいでしょ? こんな、まるで――ドラゴンみたいにまでならなくても、さ?」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

ドロマ・アニムのミサイルをぶった斬り、口から放たれる極太の光線もついでにぶった斬り、時折来る腕や尻尾での攻撃に何とかカウンターを合わせつつ、一息つく間もなく襲い来るエルザを躱す。

 

周りを囲んでいた兵士は既にウェンディが全員倒してしまった。このまま寝かせておけば、ドロマ・アニムの攻撃に巻き込まれかねないので、増援に来た兵士と一時休戦という事にして安全な場所へと運び込んでもらっている。

 

周囲の建物は既に倒壊しきっており、元の広場の大きさから3倍ほどに広がってしまっていた。

俺やウェンディを捕らえれば、当分使いまわしの効く魔力タンクを手に入れられる。

きっと、ファウストの頭の中はそのような事でいっぱいなのだろう。その為の犠牲は何を払っても痛くない思っている節がある。それで巻き込まれる国民はたまったもんじゃないだろうに。

 

『無駄だァ!!このドロマ・アニムに魔法は効かん!大人しくワシのモノとなれ、ドラゴン!!』

 

この王は「自分達の為なら他者がどうなろうが知った事ではないという苛烈な王」ではあっても、その結果として民に富みをもたらすのだと、最初はそんな風に思っていた。

しかし、いざ対面してみればどうだ?

これでは「自分の為ならだれがどうなってもいい、我儘なジジイ」じゃねぇか……

永遠の魔力なんてモンにしがみついて、何が大事なのか何も見えなくなっちまってやがる。

そう思えば、ふつふつと怒りが湧いてくる。激しい感情は魔力へと変換されて、全身に力が入るが――

 

――流石に限界が近いな……

 

朝からずっと闘いっぱなしだ。

スタミナには自信があるといっても限度というものがある。ただの意地だけで立っているような現状では、それこそ、このジジイへの怒りを忘れた瞬間にぶっ倒れてもおかしくないだろう。

 

そんな風に少し気が逸れたからだろうか。

脚の力が抜け、数歩ふらついてしまう。

 

その瞬間――

 

『食らえ、竜騎拡散砲!!』

 

ドロマ・アニムの全身から、これでもかと言わんばかりの大量の魔力弾が広範囲に発射される。ここら辺一帯ごと俺に大ダメージを与えるつもりなのだろう。

魔力が足りないなどとほざきながら、こんな大盤振る舞いをしてくるんだから、呆れる他ない。王都以外の地域では魔法なんて殆ど使えないというのに……

 

さて、この攻撃をどう凌ぐか。

空中に飛び上がっても、飛行能力がないなら、タッパのある相手に後隙を晒すだけだ。

無難なのは自分の周囲に濃く斬魔の魔力を張ってバリアにすることだが――

 

しかし、その案は却下だ。

ドロマ・アニムの攻撃の迫るほんの短い時間の中で、その事に気づけたのは僥倖と言わざるを得ないだろう。

瓦礫に埋もれて逃げ遅れた子どもが1人――

 

「エルザァ!!」

 

「私に命令するな!!」

 

即座にそう叫ぶ。

相手も意図を汲んでくれたようで、鎗さえ捨て置いてすぐに少年の方へ駆け出してくれた。

王だけでなく、兵士の方まで腐ってしまっていたら、どうなっていた事やら……

 

兎に角、これで自分だけ耐え忍ぶという道は無くなった。

なら、全部斬り落とすしかないだろ――

 

全身からありったけの魔力を放出する。

この後動けなくなるなんて知った事か、どうせ王を叩きのめしたら後はどうにかなるんだ、やってしまえ!

 

「滅竜奥義――」

 

ダンッと、ひびが入る程の強さで地を踏みしめた。

そこを起点にして、斬魔の魔力を爆発させる――!

 

 

 

斬覇(ざんぱ)咆竜陣(ほうりゅうじん)!!!」

 

 

 

銀色の魔力の奔流が広場中を駆け巡り、その中にあったあらゆるモノに斬痕を与えていく。

元々亀裂だらけだった地面は更にボロボロになり、俺を討たんと迫っていた魔力弾は全てが斬り落とされた。それどころか、後ろのドロマ・アニムにまで全身に割れ目を生じさせていた。

 

あのダメージではもう動けないだろうと考えると、力が抜けてしまい、そのまま倒れ伏してしまう俺の体。

無理やり後ろの方を見てみればエルザと少年の無事な姿が確認できてホッとする。

これで後はミストガンに任せて――

 

そう思った時の事だ。

ドロマ・アニムの装甲が黒く染まっていったのは。

 

『まだだ……まだ終わらん!!ワシの覇道はまだ終わらんのだ!!』

 

ギギギと関節を軋ませて、最後の一撃を俺に叩き込まんと黒い爪を振り上げるドロマ・アニム。

 

――万事休す、か。

 

目を閉じると、これまでの人生がフラッシュバックする。

皆、すまん。こんな誰も知らない場所で勝手に逝っちまうなんてさ……

ほら、聞き覚えのある声が俺を呼んでる。

 

「……ウヤ」

 

きっとリサーナが迎えに来てくれたんだろう。

 

浮遊感が体を包む。

 

あぁ、きっと今俺は死んだんだ。

思いの外痛みは感じないんだな……

 

「トウヤ!トウヤってば!!」

 

お迎えの天使(リサーナ)サマ、今結構感傷に浸ってるので、そんな大声で呼ばないでくださいってば……

 

嫌にはっきりと聞こえる天の声に苦情を言ってやろうと目を開くと、そこは天国でもなんでもなくて、エドラスの上空だった。

そして、俺を飛ばしているのは腕を翼に変化させ、短い白髪を揺らす女の子。

太陽のような笑顔が眩しい――

 

「リサー……ナ?」

 

「うん、私だよ!でも、事情の説明は後!!今はアレにトドメを刺す事を考えて。私じゃアレに傷をつけるのは無理みたいだから」

 

俺は夢を見ているのだろうか。

でも、こんな夢なら、覚めなくても良い。

ずっと見ていたい……

 

リサーナとまたこうして話ができている。

そう思うと、枯れてしまったはずの力が沸き上がってきた。

俺達は最早死に体のドロマ・アニムに向けて滑降を始める。

 

やってやる!

やってやるさ、リサーナの頼みならなんだって!

 

機械の竜まであと少しと迫った所でリサーナが、俺を掴んでいた足を勢いよく離した。俺の体は弾丸のように飛んでいく。

右手にあらん限りの力を込めて、激突と同時に――振りぬく!

 

 

 

「モード天斬竜――天斬竜の槍拳!!」

 

 

 

ドロマ・アニムの顔面に俺の拳が突き刺さり、そこを中心として亀裂が走る。

そのヒビはドンドンと広がっていって、終いには機械の竜は粉々に砕かれてしまった。

中に居た王様は、ドロマ・アニムが壊れた衝撃で気絶してしまったらしい。

そんな事より、と急いで振り返ってリサーナを探す。

 

しかし、どこにもその姿は見当たらない。

代わりに、なぜか見覚えのある連中が俺を取り囲んでいたのに気づかされた。

 

「リサーナとはどんな関係だとか、聞きたいことはあるが、ひとまずそれは置いておいてだな!おまえ、エドラスから魔法を奪おうとしてるらしいじゃねーか!そんな事、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名に懸けてぜってー許さねー!!」

 

そう啖呵を切ったのは、俺の知っているより大分と男前な雰囲気のルーシィだった。

そーだそーだと口々に言い合い、魔法の武器を構えてコチラを睨んでいるのは、ドロイ、ジェット、レビィ、ジュビアにグレイ、カナや大きいウェンディ……

俺の前に最後に立ちはだかったのが、コチラの世界の『妖精の尻尾』とは、中々面白いじゃないか。

 

「はは……いいぜ、かかってこい!!」

 

俺はなけなしの魔力を振り絞って構えを取り、そう言い放ってやった。

 

 

 

 

▼三人称視点

 

トウヤが『妖精の尻尾』の面々と喧嘩を始めて少し経った頃。

ドロマ・アニムから逃れようと避難していた王都の民達が集まった別の広場の上空に、エクスタリアのエクシード達全員が飛び交っていた。

その光景を見ていた人間達は、エクシードと戦争をしようなどとした自分達に天罰を下しにきたのだと、怯え、震え、涙を流し、ただ手を合わせ祈っている。

そこに、立派な装束を纏った威厳ある白いネコが現れ、その凛とした声を響かせた。

 

「人間達よ、聞きなさい」

 

ただその一言だけで、人々はあらゆる活動を止め、エクシードの女王を見つめ始める。

水を打ったような静寂に包まれる広場に、女王の言葉が染み渡る。

 

「あなた達は大いなる罪を犯しました」

 

そんな言葉から始まった女王の演説に、人々は深い後悔を抱いた。

 

やはり、人の身で神に逆らうなど、あってはならない事だったのだ。

永遠の魔力など、自分達には過ぎた理想だったのだ。

 

だからこそ、この先の言葉を予想していた者は誰もいなかった。

 

「その罪とは、私達に逆らった事――ではありません」

 

これを見なさい、と魔法で空中に映像を投影し始める女王。

実を言うと、この魔法はミストガンの持っていたアースランド製の映写機なのだが、女王の力を信じ切っている人々は、女王の奇跡と捉えて疑わない。

その映像の内容はと言えば、ファウストがドロマ・アニムによって街を破壊していく様子や、逃げ遅れた子ども諸共トウヤを撃滅せんとした姿だった。

 

「あなた達は、『永遠の魔力』などと言う幻想に拘泥し、本当に大切なものが何かを忘れてしまった……それが罪なのです」

 

そこで映像が切り替わる。

次に映ったのは、トウヤと『妖精の尻尾』の面々が殴り合う場面だった。

もはや魔力がひとかけらも残っていないトウヤと、既にトウヤに魔法を破壊し尽くされ、丸腰になってそれでもなお闘い続けている『妖精の尻尾』。

よく見れば、体から血を流しているエルザもその中に加わって、トウヤを追いつめようとしていた。

 

トウヤがルーシィを殴ろうとして、ナツが体を張ってそれを止める。トウヤがグレイを蹴ろうとして、ジュビアが厚着の裾を引っ張って避けさせる。

 

全員が満身創痍で、泥仕合も良い所だ。

しかし、広場に集った人々はその様子から目を離せないでいた。

 

 

 

「彼らを見なさい。

 彼らの誰も、もはや魔法など使っていません。それでも闘っている、闘えているのです。

 

 彼らの目を見なさい。

 彼らは魔法を奪わせまいと闘っている。

 しかし、もう気づいているのです。

 なぜ魔法を大事だと思っているのか。

 それは、彼らの絆の形が魔法だからです。

 大事なのは魔法そのものではなく、仲間との絆だと、気づいているのです。

 だから、たった1人に負けそうになっていても、笑っているのです

 

 今回の闘いで、家族を喪った者はいますか?

 友を喪った者はいますか?

 

 いるはずがありません。

 私がそのようにしたのですから。

 

 今、良かったと思った者――その心を忘れてはいけません。

 その心を忘れる事こそが罪なのです。

 

 魔法は確かに、あなたの生活を豊かにします。

 しかし、あなたの心までは豊かにしてくれません。

 では何があなたの心を満たすのか。

 自分の胸に問いかけなさい。

 そして、今浮かんだものを大事にするために必要なのは何か考えなさい。

 

 それは本当に魔法でしょうか?」

 

 

 

言われた通り、胸に手を押し当てて考える人々。

 

ある男の心に浮かんだのは、娘の笑顔だった。

魔法で出来た観覧車に乗って楽しそうにはしゃぐ我が子。

しかし、絵本を読んでやった時にも、同じように笑っていた事を思い出す。

 

 

 

「あなた達に与える罰は魔力の没収。

 そして、それは私が人間に与える最後の罰です。

 

 私たちの存在は人間を惑わせるだけなのだと、今回の件で考えるようになったのです。

 だから、エクシードはエドラスの地を離れ、新天地へと赴きます。

 

 ですが、安心してください」

 

 

 

女王の周りに浮かぶ映像に再び変化が訪れる。

『妖精の尻尾』の面々の中に、蒼い髪の青年が駆け込んできたのだ。

その姿に見覚えのあった少数の民が叫んだ。

 

「王子だ!」と。

 

王子は灰色の髪の青年に殴りかかる。

互いにガードもせず、避けもせず、ひたすらに足を止めて殴り合う。

やがて、灰色の青年が「参った」と口の形を作って崩れ落ちた。

 

 

 

「ここにいるあなた達は今、本当に大事なものが何かを思い出しました。

 そして、そんなあなた達を正しい方向へと導く新たな王も、こうして現れたのです。

 だからきっと、大丈夫……

 

 人間の未来に幸多からん事を、ここより先の世界で祈っています」

 

 

 

そうして演説を締めた女王と、その後ろに控える全てのエクシード達の体が光り始めた。

殆どがトウヤに破壊されていたが、それでもなお残っていたほんの少しの魔力灯の光も消える。

魔力が無くなるろうとしているのだと、人間達は直観的に理解した。

しかし、そこに大きな混乱が生じる事はない。

 

ザザッと、今にも消えてしまいそうな投影映像の向こう側で、蒼髪の王子が右手を上げる。

そして、今まで繋がっていなかった音声が広場に響き渡った。

 

 

 

『魔力などなくても、我々人間は生きていける!

 闘っていける!

 家族を、友を守っていけるんだ!!』

 

 

 

こうして、魔法の時代が終わりを告げた。

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

映像を映していた魔法が消える。

ふっと息を吐いてその場に座り込んだミストガンは、発光して浮かび上がろうとしているトウヤに話しかけた。

 

「本当にありがとう、トウヤ……」

 

「よせよ……大変なのはこれからだろ?」

 

そうだな、と笑うミストガン。

それに、とトウヤが続ける。

 

「いざとなったら、時空の壁でもなんでもぶった斬ってこっちまで来てやるよ……それより、ほら」

 

トウヤがクイっと顎を向けた先には、同じく光に包まれているウェンディがいた。

 

「ジェラール!!」

 

満身創痍のトウヤと異なり、走り回る程度の元気が残っているウェンディがミストガンの体に勢いよく抱き着いた。

 

「ウェンディも、ありがとう……君は強くなったな」

 

「うん、うん……私、強くなったよ……シャルルやトウヤさん、化猫の宿(ケットシェルター)や妖精の尻尾の皆……それにジェラールのおかげで。だから……ジェラールと離れ離れになっても大丈夫!」

 

ウェンディは大粒の涙を両目に湛えながらも、決してそれを流す事はなかった。

『化猫の宿』の皆と離れる時、トウヤに教わった通り、別れは笑顔で済ませたかったのだ。

 

「あぁ、そうだな……今の君なら心配はいらない。互いの道が分かれようとも、私たちはきっと、道の先へと進んでいける。もし……不安になった時は、私の代わりにトウヤを頼るんだぞ」

 

うん、うんと無理やり作った笑顔で頷くウェンディの頭を、ミストガンは自分の胸元へと押し付けた。その時に少し服が湿った感触を覚えたが、それは気づかなかった事にして――

 

やがて、トウヤとウェンディを包んでいた光が強くなり、天へと昇り始めた。

ミストガンは、ウェンディの体を抱き寄せていた腕を優しく離して呟く。

 

「さようなら、2人とも」

 

ふわりふわりと浮かび上がりながら、大きく大きく手を振るウェンディ。

 

「ジェラール!!元気でねー!!」

 

それとは対照的に、静かに右手を突き出したトウヤは

 

「またな」

 

とだけ呟いて、空の彼方に消えるのだった。

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

後日談。

 

まずは俺自身の話から。

約1週間、誰にも何にも言わずに失踪していた俺達を待ち受けていたのは、ギルドの面々からの熱いお説教であった。

こういう時の為にと用意しておいたお土産類は、軒並み宿屋に置きっぱなしにしてしまっていた。あの苦労は何だったのかという悲しみと、機嫌を取るための方法を失った無力感に胸が張り裂けそうだ。

それだけ心配してくれていたのだと思うと嬉しくもあるが、これから少しの間、存分にこき使われる事になると思うと、面倒くささにうんざりしてしまう。

ちなみに、説教こそされなかった――そもそもキャラではないが――ものの一番憔悴していたのはナツだった。冷静に考えてみると、ハッピーが生まれてから、一週間も2人が離れ離れになった事などなかったような気がする。久しぶりに現れたハッピーを見ての第一声が『とうとう幻覚が見えるようになったのか……?』だったのは相当だろう。

 

次に、エクシード達の話だ。

ミストガンに聞いていた通り、彼ら彼女らも逆アニマに飲みこまれアースランドにやってきている。

そして俺は現在、そんなエクシード達の居住場所や、食い扶持について頭を悩ませていた。

なぜそんな事を俺がやっているのかと言えば、俺が――実際に話したのはシャルルだが――エクシード達に持ち掛けた交渉の結果である。

王都にてシャゴットに一芝居打ってもらい、人間達の感情をうまい事いい方向にもっていってもらう代わりに、俺はエクシード達のアースランドでの住居と生活を保証する、というものだ。

まぁ、エドラスから勝手に退去させておいて持ち掛けるんだから、交渉としては最低な類いなのだが、そこはシャルルとハッピーの説得が効いたのだろう。

ネコ達の住処については、ウェンディやマスター、地方ギルド連盟などと相談する必要はあるが、今のところ『化猫の宿』の集落――というか、ニルビット族の廃墟を新たに立て直し、本当に化け猫たちの宿にしてしまうのはどうか、と考えている。

エクシード達に会う為、ウェンディがあそこに赴く事で、色々な事を思い出してもらえるという意味でも、悪くない提案なのではないかと思っている。

そして、エクシードの食い扶持についてだが、こちらはルーシィの親父さんを頼る事にした。今は、何度かの話合いの末、ルーシィパパの監督の元、エクシード達による宅配業者を設立しようという方向に進んでいる。翼という最高の移動手段を持ち、愛くるしい姿で、しかも頭が良い。その上、元が国だった事もあって、命令系統もしっかりしているときた。

フィオーレ全土にエクシードが飛び交う日も近いのではないかと思う。

それらの事とは関係ないが、アルマに何となく「お前の親はいないのか?」と尋ねた所、さらりと「いましたよ?」と言われてしまった。しかし、同時に「少し話しただけです。私の家族はトウヤが居れば十分ですから」と嬉しいような、くすぐったいような事も言われたのだった。

それで、その時、大昔に交わした言葉を思い出した。

「俺はアルマの父親であり、息子であり、兄であり、弟であり、夫でもある」

「私はトウヤの娘であり、母親であり、妹であり、姉であり、妻でもあります」

2人ぼっちで旅をしていた時に決めた事だったし、今ではギルドの皆というかけがえのない家族ができたが、それでもこの関係は今も変わっていないなと思う。

血のつながった親に出会った上で、それでも俺の事を家族だと言ってくれるなら、俺は改めて、アルマにとって父のような、息子のような、兄のような、弟のような、夫のような存在であり続ける事を約束しよう。

照れ臭いから、言葉にはしないがな。

 

お次はギルドのメンバーの事だ。

今回の件で、『妖精の尻尾』メンバーの数は1人減って、2人増えた。

 

減ったのは勿論ミストガンだ。

マスターと師匠には事の顛末を一部始終告げたが、少し残念がったものの、すぐに気を取り直して、向こうで元気ならそれでいいと言ってくれた。

アイツのやっていた仕事などは俺が引き継ぐことにしたので、少し忙しくなりそうだ。

 

増えた1人目――というより1匹目はエドラス軍の師団長であったパンサーリリーだ。

彼はガジルと激闘の末に打ち解け、またミストガンとも何やら関係があったらしく、「王子が居たというギルドには興味がある……ガジルも居るのなら尚更な」などと言って、すんなりと『妖精の尻尾』に加入してしまった。

これからはガジルの相棒として活動するようだ。

彼は向こうでは責任ある立場を任されていた事もあって、かなり大人――こちらの世界の空気が合わなかったらしく、体はハッピー達と同じサイズに縮んでいたが――だし、静かなタイプなので、俺ともうまくやっていけそうだ。

向こうとしても、俺やエルザは同僚として働いていた人物と見た目が同じで落ち着くらしい。何ならおしゃべりな向こうの俺より、コチラの俺の方が仲良くできそうだとまで言ってくれた。

 

そしてもう1人、それは――

 

「トウヤ、また考え事?難しそうな顔してたよ」

 

両指で自分の眉間をグーっと抑え、皺を作ってみせる少女。

ふふ、と笑ってミラに給仕を頼まれたのであろうオレンジジュースを俺の前に置いた。

 

「リサーナ」

 

そう。

リサーナが、こちらの世界に帰ってきたのだ。

 

俺達がエドラスにやってきて、向こうの『妖精の尻尾』に見つかったあの時、俺を見つけたリサーナは、他のメンバー数人と王都まで俺達を追っていたらしい。

そこであんな騒ぎが始まって、俺を懲らしめようと動いていた他の『妖精の尻尾』のメンバーの動きとは正反対に、俺の事を助けようとしてくれていたらしい。

その途中でミストガンと出会い、エクスボールを飲まされ、あの危機一髪の場面に駆けつけてくれたのだとか。

 

ちなみに『私は全然ミストガンの事分からなかったのに、ミストガンは私の事、アースランドの私だってすぐ分かっちゃったんだもん、びっくりしたよ』とのこと。

 

どうやら、こちらへ戻ってくる直前、向こうのエルフマンやミラとはしっかりと話せたようで、向こうの世界に思い残すことはないとばかりに、こちらでの生活を謳歌している。

本当に嬉しそうに、楽しそうに話しているストラウス3きょうだいを見ていると、俺も心がじんわり温かくなる思いがした。

 

 

 

ふと窓の外を見る。

俺達のいない1週間はずっと雨が降っていたらしいが、今見える空にはすっかり太陽が戻ってきている。

強い日差しがギルド酒場に差し込んで、誰も座っていない椅子を照らしていた。

 




ほとんどオリジナルで書くから、凄く短くなりそうだな~とか思ってたのに、終わってみれば楽園の塔編と並ぶ最長の6話構成になってました。
これにてエドラス編は終了。
ようやくS級試験編(と表記すべきか、天狼島編と表記すべきか)ですね。
主人公がS級だと、運営側視点で始まるのである。

次の章のタイトル

  • S級試験編
  • 天狼島編
  • それっぽい所でぶった斬って、2章にする
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