斬魔の妖精   作:ベジタブル

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6話「やるべき事」

▼トウヤ視点

 

次…次の支部はどこだ……?

あといくつ残ってる…?

ここまでいくつ壊した?

まだ足りねぇ、もっと、もっとだ。

レビィ達が受けた苦しみをヤツらにも味わわせてやるんだ。

 

後ろに感じた気配に振り返ると、地割れが長く長く続いているのが目に入った。斬心を使った、身体を斬撃と化しながらの移動は、俺よりも先に街道の方に悲鳴をあげさせていたようだ。

 

「何の用だ、ミストガン……いま俺は忙しい」

 

俺の後ろに立っていたのは全身を黒い服で覆った影のような男、ミストガンであった。

 

「忙しい?憂さ晴らしにか?」

 

「……あ?何が言いたい?」

 

普段は落ち着く雰囲気を出してくれるコイツも、今ばかりは癇に障った。

憂さ晴らし?

ああ、そうだろうよ。

所詮これは復讐だ。やり遂げたところでレビィ達に付けられた傷が癒えることは無い。

 

「こんなものは復讐ですらない。家族を守り切れなかった自分への行き場のない怒りを、丁度良い対象にぶつけているだけだろう」

 

そ…れは……

だが、他にどうしろって言うんだ!?

守れなかった、その結果はもう変わらないだろう。

 

「お前が本当にやるべき事はなんだ?まだ何も終わっていないぞ?」

 

はぁ?

終わってないって、今頃マスター(じいちゃん)達がファントムの本部に乗り込んで、それでヤツらをボコボコにして終わってるトコだろうがよ。

 

「マスターがやられた」

 

「な!?」

 

あり得ねぇ、あのじいちゃんだぞ!?

聖十大魔道(せいてんだいまどう)で、滅茶苦茶強くて、俺たちのためならいくらでも強くなるじいちゃんだぞ、やられる訳ない!!

 

「敵の罠にかかったらしい。魔力を根こそぎ奪われたようだ。そして敵の狙いはルーシィ・ハートフィリアだ。ハートフィリア財閥のトップであるルーシィの父親が、彼女の身柄の拘束をファントムに依頼したのだ」

 

そんな…じいちゃん……大丈夫なのか?

クソっ…また俺は……

それにルーシィも……

ハートフィリア財閥の関係者だろうとは思っていたが、まさか本家のお嬢様だったとはな。

なるほど、こんな直接的な行動に出てくるとはどうした事かと疑問だったが、決定的な依頼が入って、そのついでにって事かよ。

 

「今は皆1度ギルドまで撤退して現状打破のための策を練っているところだ……お前のやるべき事、分かったか?」

 

ああ、本当に……俺の目は曇ってばっかりだ。

熱くなると大事なものをすぐに見失ってしまう。

 

「今無事でいる仲間たちを守るために闘う事、その為にそいつらのそばにいる事だ」

 

「フ……もう心配ないようだな。安心しろ、ここから先の支部は全て潰してきた」

 

けっ、お前も色々やってるんじゃないか。

相変わらずの覆面姿で、どんな顔をしているのかは分からないが、きっと今はニヒルな笑みを浮かべているのだろう。

と、そこに何かが飛来しているのが視界に映る。

滅竜魔導士の類い稀な嗅覚で、匂いを嗅いでみると、それがアルマだという事が分かるが、同時に得た視覚情報から、何か大変な事が起きた、という事も理解できる。

いつもぽややんとしているアルマの顔が、見た事のないほど必死の形相になっているのだ。

 

「トウヤ!ようやく…ハァ、ハァ……見つけました!」

 

「何があったんだ?」

 

「それはこっちのセリフです!何も言わずにいなくなって、大事な時に影も形もない!……心配しました!あなたの身も!あなたがいないせいで誰かがケガをしてしまう事も!その事を、自分がいなかったせいだって落ち込むあなたの心の事も!このままいなくなってしまうんじゃないかって事も!全部です!」

 

俺は本当に…本当に救いようのない馬鹿だなァ。

アルマにここまで言わせちまうなんて、本当に情けない男だ。

 

「ごめん……勝手にいなくなって」

 

「はい、いいんです、許しました。今、ここにいてくれたから……それより、ファントムの本部ギルドが6本の脚を生やして、妖精の尻尾の方へ侵攻しているのを見かけました!嫌な予感がするんです、早く向かいましょう」

 

「6本脚ぃ!?」

 

「何!?……急げトウヤ、マスターの方はこちらで回復させる手立てを整えたところだ、心配しなくていい。だから行くんだ!」

 

なるほどな……

ミストガンが任せろって言ってんだ、これ以上頼りになる事もない。

なら俺は俺でやる事やらなくちゃな。

 

「わかった。そっちは頼んだ」

 

隣を見ると「え、誰ですか?まさかミストガン!?」とアルマが驚いたような声を出しているが、そんな事はどうだっていい。

それより――

 

「行くぞ、アルマ」

 

「は、はい!!」

 

 

 

 

△ △ △ △ △

 

「もう……もう誰も、俺の家族は誰もやらせない。覚悟しろ幽鬼の支配者…次は妖精の尻尾(コッチ)の番だ!!」

 

ふう……言いたい事は言ってやった。

さて、こっからどうするか、だが。

と、思案しようとした時だった。

ファントムのギルドがゆっくりと立ち上がり、体勢を縦向きへと変えていくのだ。様々なパーツが変形、連結し、最後に大きな顔がせり上がる。

 

『クソガキがぁ…この私をコケにしやがって……後悔しろ!これが我がギルドの最強兵器、超魔導巨人ファントムMkⅡだ!!』

 

その名の通り、俺たちの目の前には鋼鉄の巨人が立っていた。しかもその巨大な魔導士は、複雑な魔法陣を描き始めている。

これは……四元素魔法の禁忌、煉獄砕破(アビスブレイク)か。

このサイズだとマグノリア街ごと吹っ飛ぶぞ!?

更にはジョゼが生み出した幽兵(シェイド)まで現れる。

上等ォだ……

敵は6人と雑魚数十匹、アレが完成するまでに全員ぶっ飛ばしてやるよ…!

 

『選ばせてやるよ……俺の兵隊に殺されるか、煉獄砕破(アビスブレイク)で消し飛ばされるかをなァ!ルーシィ以外は皆殺しだァ、フハハハハハ!』

 

うるせぇよ、俺たちが選ぶのはお前らの全滅だ。

 

「俺、エルザ、ナツ、グレイ……あとは、そうだな…エルフマン、闘えるな?」

 

「お、おう!ここでやらなきゃ漢じゃねェ!!」

 

「ならこの5人で敵ギルド内に侵入する。まずはエレメント4と鉄竜(くろがね)のガジルを叩く、その後5人全員でジョゼをやるぞ、いいな!?」

 

「あぁ!」

「燃えてきたぞ!!」

「任せろ!」

「漢ォ!!」

 

ビシッとそろう4人の返事。

あの件以降上手く戦えないエルフマンが少し心配ではあるが、あいつはきっとここぞというところになればやってくれるはずだ。アイツの努力を俺は信じる事にする。

あとは、ここの指揮官だが、そんなのは決まっている。

 

「カナ、ここは任せる」

 

そう呼びかけると、驚いたような顔になるカナ。

そんなに意外かな?

だが、すぐに嬉しそうな顔になり、最終的には気合の入ったいい顔になる。

 

「あぁ、あんたに言われたんじゃ頑張らない訳にはいかないね!」

 

さあ、全員気合十分だ。

おっと、最後に相棒にも声を掛けなくちゃな。

 

「アルマ」

 

「えぇ、行きましょう、トウヤ」

 

 

 

 

▼三人称視点

 

こうして始まったファントムMkⅡ侵攻作戦。

各々の方法で鉄の巨人の中に入り込んだ面々は、それぞれの闘いに向かっていた。

 

自らが叩き斬ったジュピターの砲口からその動力室にまで入り込んだトウヤはエレメント4の1人、大火の兎兎丸(ととまる)と対峙していた。

 

「私は火のエレメントを操りし、大火の兎兎丸だ。先ほどの一撃には面食らったが、あれだけの大技だ。もう魔力は残っていないだろう。速やかに料理して、別の侵入者のところへと向かうとしよう」

 

「すっからかんかどうか、試してみろよ……!」

 

▽ ▽ ▽

 

いくつか開いた窓から飛び込んだエルザはエレメント4のリーダーと。

 

「我が名は大空のアリア……エレメント4の頂点なり」

 

「貴様がマスターを……!」

 

▽ ▽ ▽

 

氷で作った階段を上って巨人の肩に降り立ったグレイはエレメント4の紅一点、大海のジュビアと。

 

「ジュビアはエレメント4の1人にして雨女……しんしんと」

 

その言葉に反応するかのように、空から雨が落ちてくる。ポツリポツリと始まった雨は、瞬く間に豪雨に変わり、グレイの身体を濡らす。

 

「悪ィけど女子どもだろうが、仲間を傷つける奴には容赦しねぇぞ」

 

▽ ▽ ▽

 

巨人の脚をよじ登ってきたエルフマンは大地のソルと。

 

「私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼びください」

 

「そっちから出向いてくれるとはなぁ…探す手間が省けた」

 

▽ ▽ ▽

 

そしてナツは……

 

「どこだー!鉄クズ野郎ーー!!」

 

まだ誰とも出会えずにいた。

 

「クッソーー!見つかんねぇ!!……そーだ、いい事思いついた!耳貸せハッピー!」

 

ごにょごにょと耳打ちするナツ。それを聞いて顔を青ざめさせるハッピー。

 

「えええーーー!?」

 

 

 

 

▼トウヤ視点

 

「すっからかんかどうか、試してみろよ……!」

 

「ふん、ハッタリだな……行くぞ、青い炎(ブルーファイア)!!」

 

言いながら右腕を振り下ろしてくる兎兎丸。するとその腕の先から青い炎が迸る。

俺は両手をクロスさせて身を守りながらその炎に突っ込む。

僅かな火傷を覚悟しての行動だったが、思っていた熱はこない。むしろ、冷たいような――

腕に霜が張ってきたのを見て危険を感じ、急いで炎を抜ける。

炎に飛び込んでくるとは思わなかったのか、驚いた顔をしている兎兎丸に対して左の回し蹴りを放つが、大ぶりの攻撃は流石に当たらず、スウェーバックで躱されてしまう。

 

「炎の性質変化……」

 

「ほう、さすがだな、一度で見抜くか。その通りだ、オレは7色の炎を操る男」

 

7色……厄介だな。

まずはあと6色がどういった効果か見極めるところからか。

そもそも7がブラフという可能性もあるが、ここはひとまず7で考えておこう。

7色と言えば思いつくのは虹の色だ。

赤、橙、黄、緑、青、藍、紫だったか。

青はさっきの冷却の炎。赤はおそらく通常の炎、もしくはそれを強化したものだろう。だが、後の5色は何だ……?

もし黄が雷速の炎なんかだったらかなり厄介だぞ。

 

「だが見抜いたのはこちらも同じこと……貴様、やはり魔力が残っていないな?炎に突っ込んできたのには驚かされたが、防御にも攻撃にも魔法を使わずに肉弾戦を仕掛けたのがその証拠だ。滑稽だな、斬魔よ」

 

「くっ」

 

「魔法の打ち消せない斬魔など恐れるに足りん、討ち取ったり!」

 

「――――」

 

相手に聞こえない大きさの声でぼそり呟く。

案の定気づいた様子のない兎兎丸は、にやりと笑って左手をこちらに翳してくる。

 

「食らえ、黄の炎(イエローファイア)!」

 

黄色い炎がビームとなって迫ってくる。

が、危惧していたほどの速度ではない。身をねじって避けて1歩相手の方に踏み込む。

 

赤い炎(レッドファイア)!」

 

「くっ」

 

通常のモノより色の濃い炎が敵の右手から噴出する。俺が移動したところへ的確に追撃を仕掛けてくるが、それはこちらも読んでいた事だ。即座に飛びあがり、上から兎兎丸に強襲を仕掛ける。

 

「かかったな!空中では避けられまい、紫の炎(パープルファイア)!」

 

「くっくっ」

 

掛け声の後に口から紫の炎が吐き出される。

匂いから判断するに、浴びせられれば毒に侵される炎だろう。これを浴びる訳にはいかない。

それに丁度いい。

 

「くっくっくっ」

 

俺は下から迫りくる紫の炎に向けて左腕を振り下ろし、斬り裂いてしまう。

炎は霧散し、目に映るのは無防備な兎兎丸だけだ。

 

「おのれ、騙したな!?」

 

腕を振った勢いに任せてその場で縦1回転、右足を大きく突き出し、相手の頭部に踵落としを浴びせかける。

 

「斬竜の鋭爪!」

 

兎兎丸の顔面が床に大きくめり込み、全身にいくつもの裂傷が走る。

 

「……魔力はまだ余裕だ」

 

小さく呟いていたのは「斬魔ノ太刀 纏の型・風牙」、1分ほどの間、あらゆる攻撃に魔法打ち消しの効果を乗せる技だ。天爪より格段に威力が落ちるが、それでも十分な程度の火力だった。

魔力が無いな!などと言いだすから咄嗟に演技をしたが、まんまと引っかかってくれたおかげで途中から笑いが止まらなかった。

危険な効果の炎も最後の紫くらいのものだったし、警戒するほどの相手でもなかったな。

さて、次はジョゼか……

 

「行くぞ、アルマ」

 

 

 

 

▼三人称視点

 

因縁のある相手、ガジルを見つけられなかったナツは、それならいっそ、とマスター・ジョゼを探すことに決めた。

偉そうなやつがいるのは大体上の方!という大雑把な推測の元にファントムMkⅡを登っていくナツ。

幸いな事に、というべきか、色んな意味で残念な事に、というべきか、ナツの予想は当たっており、それらしきフロアにそれらしき部屋を発見するに至る。

しかし、問題だったのはそこから漏れる匂いだった。

嫌な感じのする香水の匂い――これがおそらくジョゼだ――、元々探していた因縁深い鉄の匂い。

ここまでは良い。むしろ、ムカつく奴らをいっぺんにぶっ飛ばせると喜んだ。

他の有象無象の匂いに混じって嗅ぎなれた安心感を与える清涼な匂いが混ざっている。

 

「なんでルーシィがそこにいる……!?」

 

ルーシィが再び囚われ、地面に寝転がされていた。

ナツの声に反応しない辺り、気絶しているのだろう。

その疑問に答えたのはギルドを壊し、レビィ達を襲った下手人たるにっくき鉄竜。

 

「ギヒ、来たか火竜(サラマンダー)……なぜも何もオレがご招待してやったのさ。お仲間を置いてトンズラここうとしてたんでなァ、どうせならウチにってな!安心しろ。一緒にいたデブの方は知らねぇがよ、こっちは大事な商品だ、殺しちゃいねぇよ……」

 

醜悪な笑みを浮かべ後ろに引くガジル。

ナツが制止の声を上げる前に「ホラな」とルーシィの腹を蹴り上げる。

その一撃で意識を取り戻したらしいルーシィが、ゲホッゲホッとせき込んでしまう。

 

「テメェ……!!」

 

炎の塊となったナツは他のモノに目も向けず、ルーシィ奪還の為に走り出すが……

 

「鉄竜棍!」

 

「ぐはっ…!」

 

長大な鉄の杭へと変わったガジルの腕による薙ぎ払いで阻止され、そのままギルドの壁を突き破って別の部屋へと移されてしまう。

自分で開けた穴から悠々とナツの元まで歩み寄ってきたガジルが、悲しそうな――見え見えの演技をしながらナツを煽る。

 

「オレを無視するたァ、寂しいじゃねぇかヨ、火竜(サラマンダー)

 

「まずはテメェからぶちのめしてやるよ……鉄竜(くろがね)のガジル!」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ……この空に竜は1頭でいい。2頭も3頭もいられたんじゃ窮屈でしかたねェ。お前をやったら次は斬竜だ……ソッコーで堕としてやるよ、火竜(サラマンダー)のナツ」

 

 

 

 

▼ルーシィ視点

 

「ゲホッ、ゴホッ……」

 

ここは……ファントムのギルド?

腕と足に枷が嵌められていて上手く動く事ができない。

そうだ、あたし、みんなの勧めでギルドの隠れ家にリーダスと一緒に向かって…その途中でガジルに襲われたんだ。

リーダスは、リーダスは無事なの!?

あたしを守ろうとして、ガジルに痛めつけられてた。

一緒に闘おうって、あたしも抵抗しようとしたけど、星霊の鍵を奪われてどこかに捨てられて、手も足も出なかった。

あたしのせいだ……でも、だめ。

くじけちゃダメだ。みんなまだ闘ってる。ギルドの為に、あたしのために。

だから、あたしがあきらめちゃダメ、みんなを信じるんだ。

 

「起きましたか、ハートフィリアの小娘……先ほどはよくもやってくれましたねぇ」

 

顔を上げると、吐き気のするほど邪悪な魔力をまき散らす、ファントムのマスター・ジョゼの姿があった。

冷静な風を装っているが、あたしや、どこまでも抵抗を続ける『妖精の尻尾』への怒りが隠しきれていない。

きっと、最初に捕まっている間にかました金的がよほど効いたのね!

正直、怖い、凄く怖い。

こんな小物、怖くない……怖くないわ!

 

「ホラ、その穴をご覧なさい。火竜(サラマンダー)のガキがガジルにブチ殺されるところが見られますよ……良い余興でしょう?ハートフィリアのお嬢様にも気に入っていただけるかと思いましてねぇ」

 

言われた通り、地に伏せたままその穴を覗こうとするが、角度的に見ることができない。

 

「おや、そこからでは見えませんでしたか……これは失敬、フン!」

 

慇懃無礼な物言いをするジョゼによって、私のお腹が蹴り上げられ、移動させられる。

 

「うう……!」

 

痛い…痛くない!

そうして場所を移らされたおかげでナツの闘いがよく見える。

ナツの拳は躱され、ガジルの蹴りは突き刺さる。

今度は当たった、と思っても鋼鉄の鱗に威力をそがれ、むしろナツの拳にダメージが入ってしまう。

確かに今は劣勢のようだ……でも。

 

「ナツは負けない!ナツだけじゃない!妖精の尻尾(フェアリーテイル)は誰もアンタ達なんかには負けないんだから!」

 

そう言って睨みつけてやるんだ。

アンタなんか怖くないって!

 

「本当に貴様は癪に障る目をしやがる…テメェが大事な商品じゃなかったら真っ先に殺してるところだ……このっ!このっ!!」

 

執拗にあたしを踏みつけるジョゼ。

痛い、痛くない。痛いよ……痛くない!

声も漏らさないあたしに痺れを切らしたのか、あたしの首をうなじ側から握りしめて持ち上げ、部屋に備え付けられた大きな窓の前まで乱暴に運ぶ

 

「何が負けないだ!……よぅく見ろ!貴様らのゴミ団員どもが私の兵隊に蹂躙されるところをな!」

 

窓の下に広がる光景に息をのんだ。

かろうじてギルドの建物こそ倒れていないが、そこを守る面々で大きなケガをしていない人は誰もいない。幾人もが地に伏しており、立っている人もなぜ倒れていないのか分からない程のダメージを負っている。

 

「ハッ、所詮貴様らのようなゴミなどこの程度なんだよ!家族ごっこなんかしやがって、胸クソ悪い。どうです?あなたが本当の家族の元にさっさと帰らないから、偽りの家族とやらが死んでいくのだ……!」

 

違う、違う違う!

偽りなんかじゃない、あの人なんかより、お父様なんかより、よっぽど確かな温もりをくれるギルドのみんなが偽りなんかであるはずがない!

カナ、ロメオ、ワカバ、アルザック、ビスカ、ウォーレン、ビジター、ラキ、マックス、ナブ…みんな……みんな、負けないで。

その祈りに応えるように倒れていた人が1人、また1人と徐に立ち上がっていく。

だから、あたしは泣いちゃいけない。

必死に唇を嚙み締めた。

 

「まけ…ない……あたしたちはぜったい、あんたたちなんかに……」

 

ジョゼがギリッと歯ぎしりする音が聞こえたかと思えば、すぐにあたしの体は左側の壁の方に投げ捨てられ、叩きつけられる。

顔に怒りを滲ませたジョゼが気持ちの悪い魔力を噴出させながら近づいてくる。

その魔力を感じて、あたしだけでなく、周りであたし達のやり取りを見ていたファントムの連中まで震えあがっている。

 

「まだ言うか…本当に気に入らない女だ!クライアントが求めているのは、貴様に跡継ぎを産ませることだ……殺す訳にはいかんが、死んでさえいなければ、手足をもいでダルマにしてやってもいいんだぞ!!」

 

空気が一変する。今までのただ漏れていただけの魔力ではなく、明確にあたしを害すために放出された魔力が部屋中を侵す。

脅すジョゼの後ろに、黒い悪魔を幻視する。

どす黒い悪意、その波動が部屋を満たし、この男に殺されてきた人間たちの怨嗟の声さえ聞こえてくる。

その圧倒的なまでの力に、あたしのちっぽけな反抗心はあっさりと飲み込まれて、体の芯からガタガタと震えだしてしまう。

ようやく恐怖を表に出したあたしを見て悦楽を覚えたジョゼがニタリと笑い、拘束されたままのあたしの腕をつかむ。

 

「いやぁ!……いや、嫌っ、イヤ!」

 

嫌、怖いの!!

誰か、誰か助けて!

ナツ、エルザ、グレイ……トウヤ!

 

「助けを呼んでも誰も来ませんよ……今頃あのクズどもはエレメント4に無残に殺されているところでしょう、くくく」

 

ジョゼが魔力で作った刃を右腕に宿らせ、私に向けて振り上げる。

両腕との別れを覚悟して目を閉じかけるあたしだったが、その時ダンッという爆音が響く。

あたしもジョゼも驚きで動きが止まり、音のした方……床の下に視線を向ける――

 

「なン――ゴハァ!?」

 

より先に、銀色の弾丸……いや、剣閃が地面を突き破り、ジョゼの顔面にぶち当たる。

ジョゼを空中に吹き飛ばし、あたしを救った銀光の正体は、トウヤの拳だった。

 

「聞こえた…助けを呼ぶ声……ルーシィ、もう、大丈夫だ」

 

言いながら振り向いて、あたしの頭に1度手を置いた後、頬に流れた涙をぬぐった。

もう泣かなくていい、そんなトウヤの心の声が聞こえてくるのに、あたしの涙は止まらなかった。

 




7年後のロメオが魔法を使うシーンを見て、紫の炎はマカオも使ってるくっつく炎だという事に気づきました。別の魔法だと勘違いしてた……
許して……許して……
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