酒に酔った勢いで色々言っちゃうだけの話なので、そういうノリが苦手な方はご注意ください。
9話「宴」
▼トウヤ視点
ルーシィ事変(俺の中のみの呼称)から数日が経った。
評議院に
特に今回の件では、ファントム支部を回る移動中に全力を出したせいで街道に亀裂を走らせまくった事や、各地の支部にいたファントム構成員への報復の過激さ(体に風穴をあけたり、四肢を斬り離したり)について俺への厳重注意が出ていたらしく、その点の弁護がかなり面倒だったらしい……
裁判から帰ってきたじいちゃんはヤジマさんからの伝言を預かっていたが、曰く「普段の手のかからなさで帳消しだ」だそうな。
俺はクエスト中にこちらが一方的に悪いようなトラブルを起こす事は少なく、『妖精の尻尾』イチの穏健派という評価を受けているのだが(その反面「地味」と言われて週刊ソーサラーなどで取り上げられる事も少ない)、それがいい方に運んだようだ。元々は、対処が面倒だから、とできるだけ穏便に済ます努力をしていただけなのだが、これからは一層面倒事を減らせるように注意しよう。
ギルドの建て替えも大分進んできた。
当然俺も建築に協力し、もう木材は見たくない、という程に樹を切り倒し、図面通りの形に製材したものだ。その成果か、早くも1階部分の骨組みが完成した。
また、仮設ではあるがカウンターも作られ、クエストの受注が再開されている。
現金なもので、普段は酒を呑んでいばかりいる連中まで
さぁ今日も元気に土木工事だ!と意気込み、アルマと共にギルドまで来た俺は今、なぜかカナに迫られていた。
「今日こそ、私の酒に付き合ってもらうよ!」
えぇ…なんでぇ……?
ギルド作ろうよ……
俺は酒に弱いのである。
それはもう、少し飲んだだけで記憶が飛んでしまうレベルな訳だが、アルマからは「酷い有様でした」と言われた事がある程だ。
フィオーレ王国では16歳から飲酒が可能になる(ちなみにカナは13の時には既に呑んでいた)ため、誕生日が分からないなりにカナが16になる年、つまり2年前の7月7日を16の誕生日だと勝手に定め、酒宴を行ったのである。そこで俺が酒に弱い事が発覚した訳なのだが、俺は記憶がないし、何があったのか聞いてもどうにも皆歯切れが悪い。色んな人に「聞かない方がいい……」とはぐらかされ、終いにはアルマ(当時4歳)にまでも「トウヤはできるだけ呑まない方がいいです」と言われる始末であった。イメージがどうとか言っていたが、一体俺は何をしてしまったのだろうか。
結局俺はアルマの言いつけを守り、それ以来1度も飲酒していない。しかし、その事件から少し経ったある時、確か1度目に受けたS級試験に落ちて、とある“約束”をカナと交わした後あたりから、カナはしきりに酒に誘うようになったのである。
いつものように「俺と呑んでも楽しくないだろう」と躱そうとしていたのだが、少し離れたところで聞いていたらしいエルザの「ほう、それはいいな」という鶴の一言によって、瞬く間に包囲網が形成されてしまった。
ここが年貢の納め時か、と1度溜息を吐く。
「分かったよ……」
そう答えると、カナは花が開いたような笑顔になり「本当かい!?」と何度も確認してくる。周りの連中も「今夜は宴だー!」と盛り上がる他、「トウヤが呑むらしいぞ!」と伝言しに行っている奴までいる。事態を呑み込めずポカーンとしているのは、ルーシィを含む、2年前にはギルドにいなかった新参メンバーだけだ。
「はぁ……」
もう1度溜息を吐く。
俺が吞んでるところなんか見て何が楽しいのかねぇ。
俺としては、次の日に頭痛で何も手がつかなくなるから嫌なんだけどなぁ。
▼三人称視点
トウヤが呑んだ時の事を惨劇だったと捉えているのは、実を言うとアルマだけであった。
他の連中は逆に「面白いものを見た」という感情を抱えているほどだったのだ。
ではなぜトウヤはそれを惨劇として捉えてしまっているのか。それはアルマによる善意の言いつけと、皆のちょっとした悪意の示し合わせが原因であった。
酒を呑むと、少し恥ずかしい姿を晒してしまうトウヤだが、どうやらその間の記憶を失ってしまうらしい。その事に気づいた瞬間、『妖精の尻尾』の団員には暗黙の了解が生まれた。もう一度あの姿を見たいが、どうなるかをトウヤに言ってしまえば、おそらくもう二度とトウヤは酒を呑まないだろう。ここは一旦はぐらかしておいて、次回の酒宴を狙おう、という訳である。
逆に、素直にトウヤのイメージを心配したアルマだけが「もう呑むな」と言った訳だが、他の連中はボカすだけで呑めとも呑むなとも言わなかったのだ。また、アルマもトウヤがショックを受けることを危惧して、酔ったらどうなるかを教えられずにいた。
その結果、「俺は呑むと皆が口を閉ざすほどの惨状を引き起こす」という勘違いをトウヤに産んだのである。
では、酔ったトウヤがどうなるかというと……
「大体お前はだな~、格好がえっちすぎるんだよなぁ~!……ヒック!聞いてんのか?カナ!」
心の声が駄々洩れになってしまうのである。
ちなみに、「俺もグレイのマネすりゅ~」と言って、既に上半身は裸であった。
その鍛え上げられた肉体を見たルーシィなどは酒以外の理由で赤くなってしまっている。
「おい!ロキ!!お前なんで俺のこと避けるんだよぉ~?」
次に標的になったのはロキであった。
一方的にロキがトウヤを避けているために、この絡みは珍しいと盛り上がる一同。
呼ばれたロキはと言えば、肩に手を回された状態で若干ビビりながオロオロとしている。
「い、いや……僕にも事情があってね……本当に申し訳ない」
「なんだよぉ~ヒック、俺はこんなにお前の事尊敬してるのにさぁ~!」
そう言いながらロキの胸に指でのの字を書くトウヤ。
気持ちの悪い仕草に困惑すればいいのか、意外な本音に興味を示せばいいのか分からずにいるロキ。
「おれはさ?こんなさ?口下手だからよぉ~……お前みたいに女のコを楽しませられる話芸?みたいなの凄いなぁ~ってよぉぉぉ……俺もモテてぇなあぁぁぁ……」
思いのほかしょうもなく、かつ切実な願いに笑う一同。
「イケメンと言えばよう!お前だグレイ!!お前も男前だな!ヒック……」
いきなりキレ気味に褒められて困惑するグレイ。
いつの間にかロキに巻き付いていた腕を解き、グレイの隣にやってきている。
「お前なぁ……!お前が脱いでも許されてるの、男前だからだぞ!俺がやったら犯罪だからな!ったくよぉ~」
「いや、グレイがやっても犯罪だから!」
と突っ込むルーシィの声に反応するのは外野ばかりで、己の言いたいことを気持ちよく言っているトウヤには届かない。
「ナツ!!」
「おう!なんだ!?」
全力で呼ばれたナツは、同じく全力で答える。
「ガジルぶっ飛ばして、少しだけセルバルド達に近づいたな……絶対、絶対見つけようなァ!」
「当たり前だァ!」
肩を組みながら、「ナツ!」「トウヤ!」と叫び合う
「次は……エルフマンだ!」
「お、オレか!?」
いつの間に順番制になったのか。
「お前よかったなぁ……全身
と、自分よりも身長が高いエルフマンに対し、弟に接するように頭をなでる。
「お、おう……!」
よく分からない流れでいい感じの話がぶち込まれ、テンションの高低差に複雑な気持ちを抱きつつも、褒められたことを素直に喜ぶエルフマン。
「でも『漢』ってのはよくわかんねェ!!」
しかし、次の瞬間には雑に斬って捨てられるのだった。
「レビィ!レビィはいるか!?」
「ふぇっ何々!?」
ほろ酔いでボーっとしてきていたレビィが、話しかけられた事で覚醒する。
「お前もなぁ……ホント良かった。傷が残らなくてさ……ヒック、お前すっごいかわいいんだから、そんな事になったら、もう俺ぁ耐えられないね!」
「トウヤ……」
少し感動的な表情になるレビィとは対照的に「かわいい」という言葉に強く反応を示す女性陣が数名。
「ねぇねぇ、トウヤ!私の事はどう思ってるの?」
そう切り込むのは真っ白な肌を、酔いで少し赤く染めているミラジェーンだ。
「ミラはなぁ…ヒック、うい……」
溜めを作りがてら手元のジョッキを傾けるトウヤ。
「お前はいい奥さんになるよなぁ……昔の気の強いミラも好きだったけどよ、今のお前はもう嫁さんだよね、嫁…将来の旦那さんが羨ましいよぉ……」
「あら、嬉しい事言ってくれるのね……ふふ、まだ旦那さん候補は空いてるわよ?」
「えぇ~じゃあ立候補しちゃいまーす!」
その言葉は流石に捨て置けなかったのか、周りのおっさんどもが「オレもオレも~!」と手を挙げていく。
「むむむ」と嫉妬しつつも、自分から聞き出す流れを作ってくれた事に感謝もするルーシィやカナ。
「では私はどうだ?」
自信満々で質問したのはエルザだ。
「何話しかけてんだテメェ!!」
「な、なに!?!?」
まさかの返答に、エルザは割りと真剣にショックを受ける。
周りも流石に「どうしたどうした」とざわついてしまうが……
「好きになるだろ!?!?」
安定の酔いトウヤ
「普段お硬い鎧ばっか着てるくせによぉ…実はかわいい服にも換装できるとかギャップの塊かょ…いつもの凛とした表情もいいけどよぅ、ヒック……ふとした時に柔和に笑うのとか、お前アレだぞ、
「え、お、おぁ……お、おう」
このストレートな言い様には、さしものエルザも目を泳がせてしまう。
「はいはーい!私はどうなんだい?」
と、その流れを断ち切ろうと、なぜか若干のセクシーポーズをしながら問うカナ。
「好きになるだろ!?!?」
「ふぇ…?」
デジャブであった。
違いがあるとすれば、エルザに比べて遥かに速く、遥かに赤くなってしまった点だろう。
質問しに行った時の勢いはどこへやら、である。
「姉御肌のクセして実はちょっと打たれ弱いとか、可愛いかよ!守りたくなるだろ!?」
「んぅ……!」
「普段酒飲んでばっかで不真面目な感じなのに、ギルドの事になると凄く一生懸命なのとか!応援したくなるだろ!!」
「はぅ……」
「エロいカッコして経験豊富ぶってるクセに彼氏いたことないとか舐めてんのか!?俺のものにしたくなっちゃうだろ!?」
「も、もういい!もう分かったから!!」
カナ撃沈である。
真っ赤になった顔を隠すように机に突っ伏してしまう。
酒の席でぶっ倒れるカナを見たのはいつぶりか、と周囲の驚きようは半端なものではない。
ロキは別の意味で戦慄していた。
「あ、あの…トウヤ……その、あたし…は?」
ルーシィ参戦である。
指をもじもじと絡ませ、上目遣いにトウヤを見つめる。
心を占めるのは「あたしもあんな事言われちゃうのかな?」という事ばかりである。
「ルーシィ……ルーシィはなぁ……!」
(好きになるの?好きになっちゃうの!?)
と、そこでジョッキを再度傾け、残っていた酒を呑み干してしまうトウヤ。
んくっ、んくっと喉を鳴らして勢いよくジョッキを机に叩きつけたと思うと、何かを思い出したという顔をした。
すると、みるみる内に、元から赤かった顔が更に赤くなっていく。
むしろ、赤を通り越して青くなり――
ばたんきゅー。
倒れてしまうトウヤであった。
勝者、ルーシィ。
「トウヤ!ちょ、トウヤ!?」
否、唯一の敗者であった。
▼トウヤ視点
次の朝……いや、時間的にはもはや昼か。
頭痛と共に目が覚めた。
自力で家に帰った記憶どころか、2杯目に入った辺りから覚えていないが、おそらく誰かが運んでくれたのだろう。目覚めた場所は自宅のベッドであった。
後でお礼を言っておかなければ。
「起きたんですか、トウヤ。おそようございます」
皮肉混じりに声を掛けてきたのはアルマだ。
「んんん……おはよう」
「まったく、あれほど呑みすぎるなと言ったのに、あんなに呑んでしまうんですから……まぁ、普段は言いつけを守っているので良しとしますが」
猫に説教される朝。
割と情けなさが漂う字面である。
「ところで…その……トウヤは私の事、どう思っているのですか?」
ん?
いきなり何の話だろうか。
とはいえ、普段から思っている事の全てはこの一言に集約するだろう。
「いつも……感謝してる」
「ふふ、そうですか……玉子粥を温め直しますから、食卓まで来てください。あと、水もしっかり飲んでくださいね」
やたら嬉しそうなアルマを不思議に思いながら、やたらと重い体をベッドから引きずり出した。
(“本音”として、感謝を言われたのは私だけでしたね……)
△ △ △ △ △
しばらく家で休んだ後、何もできないだろうな、と思いつつもなんとなくギルドまで顔を出した。
微妙によそよそしい女性陣に傷ついたり、明らかに不機嫌なルーシィに「しらないっ」と言われ、これまた傷ついたり。
言い出しっぺのカナにすら「しばらく…3回目はいいかな」と遠い目をされたので、やはり禁酒しようと心に決めたのであった。
なぜかロキや一部の男性陣からは勇者を見るような目で見られたが。
ホント……なにしちゃったんだろうな、俺。
アルマに一度シジミの味噌汁を作らせてから思う。
「この世界にシジミと味噌は存在するのか……?」
二日酔いになった事のない作者の貧困な二日酔い想像力は悲鳴を上げた。