シンジ君が同居人2人にブチギレます。
突然だが、碇シンジは怒っている。それも、今迄に無い程に(生まれてこの方一度も怒った事は無いけど)。理由を説明しよう。それは、遡る事1日前。夕飯の材料を買いに出かけていたシンジが、ケーキを見つけた事から始まる。
「ケーキだ。美味しそうだなぁ」
シンジはケーキの入ったショーケースを覗き込む。
「げっ、高い」
お小遣い制のシンジにとっては、高めの値段だった。
「どうしよう…」
そして、ショーケースの前で3分程悩んだ末、ショートケーキを1つ買って帰った。だが、買い物に時間がかかった事や、出された課題が多かった事から、次の日に食べる事に決めたシンジは、ケーキを食べずに1日を終えた。
今日、シンジは学校が終わり、家に着くと鼻歌交じりに手洗いうがいを済ませ、ルンルンで冷蔵庫を開けた。だが、そこにケーキの姿は無かった。
「…無い」
今まで我慢してきたが、ケーキを食べられ、遂に堪忍袋の尾が切れたシンジは殺意の波動に目覚め、三号機の様に雄叫びを上げて大爆発を起こした。
「どっちだ、どっちが食べた…」
怒気を孕んだ声でそう呟くと、同居人の葛城ミサトと惣流アスカラングレーに「早く帰ってこい」と言う旨の電話をかけた。
突然だが、葛城ミサトは焦っている。それも、今迄に無い程に。理由を説明しよう。それは、遡る事15分程前。自身の執務室で仕事をしていた事から始まる。
「報告書に請求書。見ただけで吐き気がするわね」
机には、大量の書類が置かれている。使徒が来る度この量が来るそうで、責任者は使徒を倒した後も忙しいらしい。
「リツコにお小言言われる前に、さっさと済ませますか」
そう言って椅子に座ると、ケータイの着信音が鳴る。
「誰だろ。あら、シンちゃんだわ。もしもし…」
シンジが怒っている。顔色がみるみる悪くなっていく。すぐさま立ち上がり、猛ダッシュで部屋を出た。廊下を爆走していると曲がり角からリツコが出てくる。
「ゴメンリツコ、先帰る!」
リツコをスレスレで避けて更に加速しつつ通り過ぎる。リツコの白衣が靡く。
「…何事かしら。ミサトがあんなに焦るなんて」
出口で挨拶をしてきた警備員を無視すると、車に飛び乗り、エンジンをかけ、アクセルペダルを踏み抜いた。ミサトの乗った車は光の如き速さで走り去った。少しすると、歩道に立ち竦む少女を見つける。
「あれは…アスカ!」
突然だが、惣流アスカラングレーは震えている。それも、今迄に無い程に。理由を説明しよう。それは、遡る事5分程前。帰路についた事から始まる。
「バカシンジの奴、私をおいて先に帰るなんて、ホント信じらんない!」
大抵用事が無い場合、一緒に帰っている同居人が、今日は先に帰ってしまったらしい。
「きっと、あのケーキを私にバレずに食べるつもりね。残念ながら、私がもう食べたわ。バカシンジにはあんなモノ、似合わないものね」
独り言を呟きながら足を進めていると、ケータイの着信音が鳴った。
「きっとバカシンジだわ。今気付いたのね」
電話を切ったアスカは、手の震えでケータイを落とした。シンジが怒っている。石のように全身が硬直した。全身から汗が噴き出す。心臓の鼓動が、速まっていく。これ程の恐怖を感じた事があっただろうか。使徒と初めて対峙したあの時も、恐怖こそ感じはしたが、しっかりと戦い、勝利を収めた。帰れない。足が、家へ近付く事を拒否している。一体何分そこで竦然としていただろう。突然、目の前に車が止まる。窓が下がると、そこには蒼白したミサトの顔があった。
「帰るわよ」
「「ただいま」」
アスカとミサトはシンジに帰宅を告げる。
「おかえりなさい」
シンジから返ってきた言葉はただならぬ殺気を帯びていた。2人は恐る恐る、シンジのいる部屋へ向かう。シンジは静かに座っていた。テーブルには小さな箱が置かれていた。
「座ってください」
シンジの顔には、いつもの笑顔は消えていた。
「この箱、なんだか分かりますか?」
「「…」」
「昨日、ケーキを買ったんですよ。冷蔵庫に入れておいたんです。それで、帰ってきたら、箱がごみ箱に捨ててあったんです」
「「…」」
「2人しか、いないですよね?どっちですか?」
「私は、食べてない…と思う」
ミサトが口を開いた。
「じゃあ、昨日何本ビール開けました?」
「えっと…」
「覚えてないですよね。それなのに、食べてないって言えるんですか?」
「…」
「でも、どっちが食べたかは、もう分かってるんです」
「えっ」
アスカは思わず声を出してしまった。鼓動が速くなるのを感じる。
「食べたの、アスカだよね」
「なっ…なんでそんな事」
恐怖で声が上擦る。
「食べた後にフォークを洗うなんて、ミサトさんには出来ないから」
「っ…」
図星だった。
「ゴメン…私が食べた」
「だよね。何で食べたの?」
「…シンジのなら、食べてもいいと思って」
「そう」
シンジは短くそういうと、静かに立ち上がって部屋に入っていった。シンジが部屋から出てくるまで10分もかからなかった。だが、アスカにはそれが何時間にも感じた。
「僕、出て行きますね」
罪人に、死刑を告げるように、シンジは言った。
「待ってよシンちゃん、冗談でしょう?」
「今までお世話になりました」
「そんな、ケーキ食べたくらいで、怒る事ないじゃない!」
アスカは逆上する。
「そうだよ。僕はケーキを食べたくらいじゃ怒らない。今まで我慢してたんだ。でももう限界だ」
「わ、私が何したって言うのよ」
「覚えてないの?なら思い出すといい。ミサトさんもです、2人で反省でもしててください」
そう言い残し、シンジは家から去った。アスカとミサトは、唯それを見ている事しかできなかった。
初めまして、ルカと申します。
この度、この作品を読んで頂いて、ありがとうございます。お楽しみいただけましたでしょうか。さて今回、シンジ君が同居人2人にキレる話なのですが、本編でシンジ君が怒ったシーン(ガチギレ)を見た事がなく、どうやって怒るのかとか、想像に苦労しました。当初、この作品は単発で終わる予定でしたが、オチが見つかr((……色々思いついたので、どんどん詰め込んでいきたいと思います。最後までお付き合いくださると嬉しいです。
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