バカと双子が暴走中っ! 作:あお
どうも。私の名前は吉井亜樹。
……そう、
誠に不本意であるが。
でも私はバカ兄(明久のこと)とは違って頭も良く外見も良い。はず。
ぶっちゃけ同じ血が入っているとは思えない程にスペックが異なる。はず。
だから、明日行われる大事な試験に早くも匙を投げているバカ兄を助けるのも天才美少女(妹属性付き)である私の役目なのだ。
私がいる限り明久が低得点を取るなんてことはさせない!
「バカ兄、学問の神様と呼ばれた平安時代の貴族は誰だか分かるよね?」
「………イエスキリストって言ったらどうする?」
「十字架に磔にしてカラスの餌にしてあげるよ」
「それじゃあ、ゼウスかな」
「……………神よ」
私は匙を全力でぶん投げた。
この単細胞生物に学習能力はないのだと判明したからだ。というか試験前日まで勉強をしない方がおかしい。
……そうなのだ。明久は全くと言っていい程勉強していない。
今日、優子―――私の友達―――の家の勉強会兼お泊まり会から帰って自宅のドアを開けると、明久が汗水垂らして……ボクシングゲームをやっていた。呆然としたものの、まあ勉強の合間の小休憩なのかなと勝手に予想し自分の部屋に向かった。といっても一つの部屋を半分に割った明久との共同部屋だが。
明久の机を見るとノートや教科書が置いてあり、正に勉強していましたよ風だった。だが、あの兄だ。勉強なんかしておらずノートのページが真っ白なんてことは有り得る。
明久のノートを手に取り、開くと案外何も書いていないというわけではなかった。まあ、
ゲームの能力構成について書かれていたが。
しかし、ここで怒り狂うわけがない。このレベルの出来事は日常茶飯事であり、私にとっても慣れたものだったからだ。
少し頬が引き攣っているのを自覚しながらリビングに向かうと、まだ明久がボクシングゲームをやっていた。
画面の中では明久のアバターが浅黒い肌の大男に果敢にも突撃していて、時折明久が「死ねぇ!鉄人!」と叫んでいたが何かストレスでもあったのだろうか。ストレスを溜め込むとお父さんのような髪型になってしまうので解消してもらいたい。
明久の楽しいゲーム中に水を差すようなことはしなくなかったが、それでも最低限の知識は身につけておいて欲しいので優しく声を掛けよう――――――としたそのとき、明久が満面の笑みを浮かべて「勉強した後のゲームは楽しいなぁ!」と言い放った。
私はキレた。
その後、
「うう……僕の頭がオーバーヒートしてる……」
「へえ。それじゃあ冷水を掛ければ元に戻るかな」
「……マジ?」
「冗談」
あからさまにほっとしたような顔をする明久。まさか本当にやるとでも思っていたのだろうか。いくら明久の妹とはいえそこまで過激なことはしないのだ。え?さっきの
「あーあ……どうせ今から勉強しても良い結果は出ないよぉ」
「泣き言言わないでよ、男でしょ?」
「…………」
明久はだんまり。これは相当落ち込んでるな。私と一緒にやった勉強時間は十分にも満たないけど。
でも実の兄が低得点を取るのは私のイメージにも関わる。あの子優秀だけど兄の方は勉強できなくて変態でクズで金使いが荒くて不細工で……だなんて言われたら明らかなイメージダウンである。それだけは阻止しなけらばならない。
だから、
「明久。絶対に試験で良い結果を出せる必勝法があるんだけど、知りたい?」
「知りたい!」
「うん。元気があるのは良いことだけど少し声の音量を下げようね」
勢いのあまり椅子を倒して立ち上がった明久を、優しく宥める。
「一度しか言わないからよーく聞いてね」
「う、うん」
明久のゴクリと唾の飲み込む音が聞こえる。
「一年生になれるかな♪と試験中に唱え続けるんだ」
「僕が進級出来ないのは決定事項なの!?というか留年するかしないかの問題なのかぁ!!」
何を当然なことを。