パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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セールーン飛空1990便墜落事故⑥:下降気流

 

 

○ミリィ=セレネイド(事故調査チーム)の証言

 

『……結論から言うと、これはウィンドシアです』

 

 私は研究所へ一緒に来たバルタザーレさんに、解析結果を教えました。

 

『竜人語か』

『風の歪み、という意味です。風の強さと方向が、ある場所でいきなり急激に変化する現象です』

 

 ホーミー第51区にあるスターゲイザー研究所で、ワッサタウン空港の風を魔導解析器で検証し直しました。

 師匠の研究所は高性能の機器がずらっとありますから、事故の日、空港を巡ってた風の動きを再現することが出来たんです。

 

『あのときのワッサタウン空港の01R滑走路には、この乱雑な風向領域が広がっていました』

『滑走路に近付いたとき、対気速度が落ちて操縦が困難になった理由はこれか。しかし、あの謎の動きはなんだ? 失速したわけでもないのに急降下したあの動きは』

『それはですね……』

『下降気流だ』

 

 揚々と説明しようとした私を遮って、そのとき師匠ダークスターが魔導絵画を持ってきたんです。

 

『下降気流ですって?』

『そうだ。上空で冷やされた風と水と氷の精霊が、一気に地上へ雪崩れ落ちた。それが滑走路の端を直撃した』

 

 師匠の魔導絵画は、滑走路の上にある大きな積乱雲を描き出しました。

 

 積乱雲の中で、地上から天空へ上昇していった風や氷水が、まるで滝のように地上の滑走路へ落下。地面に激突したそれらが乱気流の渦を作りながら四方八方へ拡大していく様子を、分かりやすく描いていきました。

 

 魔導解析器から得られた、当日の風の様子です。

 

『飛空艇がこの下降気流に入ると、まず強力な向かい風を受ける。対気速度は速まり、そのせいで空中浮力が急激に増して上昇する』

 

『けどすぐに上からの下降する気流に呑み込まれ降下します』

 

『高度を下げられた飛空艇に、急拡大した追い風が後ろからさらに迫る』

 

『対気速度が劇的に下がり、最大推力だろうと高度を維持できません』

 

『そしてそれらを突破しても、最外縁部では激しいウィンドシアが発生する』

 

『横風も追い風も脈絡なく起きる領域です。飛空艇の挙動の予測は困難だったでしょう』

 

 師匠と私の華麗なる連係解説に、バルタザーレさんも『なるほど……』と強く頷きました。

 

『この危険な下降気流は古代竜人達にも知られていた。彼らはこれをマイクロバーストと名付けていた』

『マイクロバースト……これが、1990便を墜落させたのか』

 

 だが、とバルタザーレさんは首をひねりました。

 

『この下降気流には前兆がないのですか? 何もないところから不意に出てくるのでしょうか?』

『前兆がないわけではない』

 

 師匠がワッサタウン空港の気象探知魔法で捉えた、滑走路の雨雲の記録図を見せてくれました。

 

『水と氷の精霊が、滑走路の端で唐突に増えた。探知魔法が捉えている。1990便が着陸する、まさにその瞬間だ』

『これは……下降気流が地上に激突したことを示しているんですか?』

『そうだ。単に天気が悪いだけでは、この狭い範囲にこれほどの精霊は生まれない』

 

 なるほどな、とバルタザーレさんはため息をつきました。

 

『天気が悪くても、1990便より前の便が着陸できた理由がそれか』

 

 あの日のワッサタウン空港は悪天候でしたけど、飛空艇を墜とすほどのものじゃありませんでした。

 だから管制官も1990便の操縦士も、問題なく着陸できると思ったんでしょうね。

 

 彼らの時にだけ、その時だけが、破滅的だったんです。

 

『墜落の直後、下降する氷と水を使い切ったので、雨がやんだ。着陸を数分遅らせるか、数分早ければ、これには巻き込まれなかった』

 

 仮面越しに告げる師匠の言葉に、バルタザーレさんは難しい顔をしてました。気持ちは分かります。

 

『対策は、ないのですか?』

『ある。試作型が間もなく出来上がる』

 

 師匠が魔導絵画を切り替えて、赤い四角のゴーレムを描いてくれました。

 

『風の精霊を探知するゴーレムだ』

『風!?』

 

 私は思わず叫んじゃいました。バルタザーレさんが私のリアクションにびっくりしてましたけど、無理もないことなんですよ。

 

 水や氷の精霊は、精霊の中では比較的捕捉しやすいです。

 けど風の精霊の場合は存在が希薄で、風が当たる風速計ならともかく、遠距離を探知することは非常に難しかったんですね。

 

『ほんとですか師匠!?』

 

 師匠は『本当だ』って頷きました。流石は私の師匠です。

 

『正確には、風の精霊によって動かされる塵埃を探知する。風そのものは見られずとも、風の動きを探知することは出来る』

 

 それは光の神ミーロックの加護を受け、目では見えないほど小さな塵や埃を探知できる魔導ゴーレムでした。

 難点はその小さすぎる塵埃に最適化されたせいで、水や氷の探知にはそれほど向いてないことです。

 

『これに従来の探知魔法を改良した、新しい強化型の気象探知ゴーレムを組み合わせる』

『強化型?』

『水や氷を含む雨雲の向きや速度をより詳細に探知できる』

『どういう原理なんです?』

『探知魔法を用いて目標を発見した術者は、その反応を魔導器具を介して受け取る。

 その反応を細かく分析すると、目標の移動する方向や速さにより違いがあることが分かった。その違いには整然とした法則がある。創造神の御業だ』

 

 つまり止まってるものと動いてるものを同じ探知魔法で見付けると、それぞれ違った魔法反応が返ってくるわけです。

 

 走って近寄りながら大声を出すと、声の音がどんどん高くなるのに似ています。

 

『これにより、どの方向へどれほどの速度で移動しているのか観測できるようになった。これが強化型の気象探知ゴーレムだ』

 

 この魔法反応の違いは人間が感覚で判別することも出来ますが、魔導ゴーレムの方がずっと正確に分析してくれます。

 (まあ私は今じゃ魔導ゴーレムにも負けないくらい自力で解析できますけどね、と彼女は胸を張って言った)

 

『この強化型と対風探知ゴーレムを合わせることで、風や氷、水の動きを正確に観測できる。これらが急激な動きを見せれば、それがマイクロバーストの発動、もしくは発動の前兆と見て間違いない』

『たとえマイクロバーストでないにしろ、それほど急な風雲であれば飛空艇には致命的です。絶対に回避させなくてはなりません』

 

 私達ダークスターの一門によって今後の対策が可能になり、バルタザーレさんは事故調査の開始から初めて安堵の顔になりました。

 

 この新型ゴーレムの実地試験と運用の構築を課題に取り上げれば、事故の調査は終わりだと思いました。原因も分かって対策も講じられる、これで解決だ、って。

 そう思ってました。

 

 

 ………もうひとつの黒箱が、解析されるまでは。

 

 

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