パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○リナ=シャブラニグドゥス(四魔協 世界王者。魔剣士)の証言
(※竜殺し事件について、ノーコメント)
○ミリィ=セレネイド(連邦飛空局 空獣害防除課)の証言
飛空局に海難事故の報告をしてくれたのは、強化型の気象ゴーレムを試験運用してた気象局の委託業者でした。
通報を知った課長がすっごい呑気な声で、
『セレネイドくんセレネイドくん、雲竜の死体だってさ。オックスラントで。これ欲しくない?』
て言うもんだから、もっと危機感もって喋れッて言いたいのを抑えて、
『すぐに飛空局の管轄案件に指定して下さい! 誰も近付けないで! 現場に今すぐ行きますから!』
怒鳴って慌てて飛空局を出て、師匠のとこに連絡しました。
『師匠! 竜の死体です! 雲竜のやつ、オックスラント港で!』
『……確かか?』
『確かじゃないかもしれないけど確かだったら絶対に神殿とかに持ってかれちゃ駄目なやつです!』
『ガルとゴルンを向かわせる。現場で合流したら俺の名前を出して構わない。道中で事故を起こすな。辿り着いて必ず俺の所に竜を持ってこい』
『イエッサー!』
竜人風の決め台詞をして、私は不眠魔法を使いながら西海岸のオックスラントへ向かいました。
幸い、神殿や他の魔術団体は現場に来てませんでした。
というか、その港がある海岸には竜の死体なんてなかったんです。
『マジで…?』
全力で港町まで移動して、何もないただの浜辺を見たとき、膝から力が抜けて四つん這いになりました。
そんな私のところに、ガルとゴルンが来ました。何故かひどくびしょ濡れで。
『救助活動は完了済みです。被救助者はオックスラント総合病院へ移送済み。意識は不明』
『そっか、そうだよね、海難事故だもんね………ありがと、ごめんね2人とも。竜じゃなかったんだ。課長に騙された』
スーパーゴーレムを2人も呼んでもらっときながらこの体たらくで、死にたくなってた私に、銀髪のガルが言いました。
『マスターの命により漁業組合員からの聴取は完了しております』
『ん?』
『4時間前にオックスラント沖の海面へ墜落したという目撃証言を14件記録しています』
金髪のゴルンも同じように、
『現場の水深はおよそ150メートル』
『証言によりますと頭部が切断され、探知すべき目標は2つと思われます』
『潜水し水中暗視にて目標と思しき質量体をどちらも確認済み』
『ミス・セレネイドの指示を待てとのマスターの命です』
『ご指示を、ミス・セレネイド』
スーパーゴーレム達が言ったんです。
私は立ち上がって、深呼吸を5回もして、2人に聞いたんです。
『……確認するよ、何が、海に落ちて、何を、2人は見付けたの?』
2人は間髪入れず応えてくれました。
『雲竜と思しき生物の死体です』
―――――拳を天に振り上げて叫びました。竜人で言うところのガッツポーズです。
そのあと2人にすぐ海に入ってもらって、バルタザーレさんに回収チームを寄越してもらって、ガルとゴルンが竜の頭と体の死体を海岸に引っ張り上げました。
……引き上げられた雲竜は、2人の話通り、頭と体のそれぞれに別れていました。
誰がどうやって? という疑問の前に、初めて触れる竜の亡骸に感動しました。
魔術師として、あれ以上の経験はありません。
鋼鉄のような鱗、柔らかで光沢のある背の毛、魔導器具を介さなくても分かる独自の存在感。
これが、竜なんだ、って。
言葉に出来ません。
子供みたいに泣き崩れて、ガルとゴルンに心配されました。
……この海難事故で救助されたのが、まさかリナ=シャブラニグドゥスだったなんて、そのときは知りませんでした。
研究所に送って竜の検死をした結果、死体の傷口にあった魔導の波長が、彼女の魔剣と一致したんです。
雲竜は魔剣で斬り殺されたんです。
この信じられない事件は、色々なところに飛び火しました。
まず抗議があったのは雲竜を遣いとする雷神ティーシャクーティンの神殿からでした。
特に翼人はティーシャクーティンを種族神として祀ってるので、骨羽が雲竜を殺したってことで、連邦裁判所に押し掛けてきました。
魔術学会からも、『竜はあまりに貴重かつ影響の大きな生き物なので、みだりに傷つけたり、ましてや殺したりするのは法的な制裁が必要』という感じです。シムル沼を保護区にしたのも彼らなので、嵐そのものである竜に関しては、当然の行動でした。
ただ実際のところ、リナ=シャブラニグドゥスは何も罰せられませんでした。
竜を殺傷してはいけない、っていう法律はなかったからです。
例えばカカナクロコダイルとかは保護動物に指定されてますが、竜は全く保護されていません。
この『保護動物』の定義を決めるとき、竜はどうするのかって議論があったんですよ。
けど神殿が、
『人間によって保護されるべき存在、という扱いをすること自体、雷神とその遣いへの不敬である』
って反対したので、皮肉な話ですね。
まぁそういった是非は置いといて、竜の死体を師匠の研究所に運んだときは、もう誰もが震えましたね、感動で。私みたいに。
なんせ魔術師なら喉から手が出るほど欲しい、雲竜の死体です。それもほぼ完璧な。
もう寝る間も惜しんで実験を繰り返しましたよ。竜をこの手で調べられるなんて夢みたいで、興奮して鼻血が出そうでした。
その甲斐あって、ダークスター一門は対雲竜探知ゴーレムの開発に成功しました。
これを飛空艇に搭載して、今まで分からなかった雲竜の姿を次々に発見しました。
彼らの生態も分布もどんどん分かってきて、雲竜をある程度近付けさせない竜避けの御守りの開発にもつながりました。探知魔法を応用して雲竜とコミュニケーションを取ったっていう魔術師もいるんです。
1990便の事故以前とは、比べ物にならない発展でした。
○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会・委員長)の証言
……新型気象ゴーレムと対雲竜ゴーレムは、竜による嵐やマイクロバーストから飛空艇を守ることに結びつきました。
空港は飛空艇へドラゴンストーム警報を出すことが出来ますし、飛空艇自身による竜やマイクロバーストの観測も可能です。
実際、嵐による事故は驚くほど減りました。
竜や嵐に怯える日々は、もう過去のものです。
竜人文明の模倣で始まった人類の飛空技術は、竜人文明にない技術の発展を実現しました。
1990便の事故は、人類の歴史における、ひとつの大事な記念碑となったのです。
(※ 初回購入者限定、番組放送時の未収録インタビューに続く)
(もうちょっとだけ続きます...)