パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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コルトン貨物3564便離陸失敗事故②:調査開始

○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 コルトン貨物3564便事故調査チーム主任捜査官)の証言

 

 コルトン貨物3564便は、空港から10キロほど北東の森に墜落していました。

 

 緊急事態呪文を受けて救急隊が到着したのは、墜落から4分後でした。

 燃える機体の中から操縦士を3人救出しましたが、機長と副操縦士はすぐに息を引き取りました。

 

 この事故はヨシュツ共和国で発生したものですが、ヨシュツには飛空艇に関する調査機関がありません。 

 そこでカカナの飛空艇事故調査委員会に協力を要請しました。

 墜落した飛空艇はカカナのギボネー社製でしたから、我々としても原因を解明したかったのです。

 

 外国へ調査団を派遣するので、国内の調査のようにすぐ誰かを呼んだりどこかへ依頼したりといったことが出来ません。

 なのでメンバーの選別は慎重を期さなければなりませんでした。

 そこで、飛空艇事故調査委員会の設立メンバーの一人でもある大魔術師ダークスターに、飛空関係に詳しい魔術師を推薦して貰おうと思ったのです。

 

『弟子をひとり送る。空獣害の専門家だ。北国の稀な生物事故にも対応できる』

『お弟子ですか?』

『空獣害が専門だが飛空の魔術原理に精通している。飛空局に勤め始めたばかりだが、腕は確かだ。俺が保証する』

 

 ダークスターは私が事故調査委員会の新人だった頃からの付き合いなので、彼の言葉は信頼できました。

 

『お願いしますよ。そのお弟子さんの名前は?』

 

 

 

 

○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 連邦飛空局 空獣害防除課 国家魔術師)の証言

 

 コルトン貨物3564便の事故は、私が初めて経験する事故調査でした。

 

 その時の私は師匠の研究所を巣立って、飛空局の空獣害防除課に勤め始めたばかりであれこれ覚えないといけないことがたくさんあった時期でした。

 なのにいきなり師匠から『ヨシュツに行け。飛空艇が墜落した。調べろ』って連絡が入ったんですよ。本当にいきなり。

 

 で、首都の事故調査委員会のオフィスでバルタザーレさんと初めて会って、事故の概要を説明して貰って、ジーニキリー大陸に行く準備を始めたわけです。

 ジーニキリー大陸は土地の位置と地形のせいで、カカナよりだいぶ寒いところです。寒いのは嫌いなので防寒具とか調査に使いそうな資料とかを持てるだけ持って、ヨシュツに入国しました。

 

 

 ……実際の飛空艇の事故現場を見たのは、あれが初めてでしたね。

 

 

 機体は頭部と中央、尾部の3つに分裂して、それぞれが火災で黒く変色していました。

 周囲の森も焼かれていて、白と灰色の森の中に、異色の黒い空間を作っていました。焼け跡です。

 もし救急隊と消防隊の手際が悪ければ、これが森全体に広がっていたと思いました。

 

 私はその黒い空間の中央にあった、無残な姿のモローズ号型に、祈りの拝礼をしました。

 2名の死者だけでなく、モローズ号を造って飛ばした人々の魂が怒らないように。

 

『残骸を回収しよう。最優先は黒箱の発見だ。唯一の生存者は意識不明で、事情が聞けるかがまだ分からない』

 

 バルタザーレさんはそう指示してから、私に尋ねました。

 

『これをどう思う?』

『……エンジンは、あれだけですか?』

 

 私は焼け焦げた残骸の中で、一際目立つ2個のジェットエンジンに注目しました。

 モローズ号型はプラッツホイーニ製エンジンを2個搭載していて、飛空艇の中で最も頑丈な部品のひとつです。

 なので火災に遭っても比較的原型を留めてたんですが……

 

『単に落ちて燃やされたにしては、なんだか違和感が』

『なるほど。重作業ゴーレムを呼んで、エンジンを運ぼう』

 

 リマガ空港の格納庫の一部にエンジンを運んで、改めて検分してみました。

 

『中が滅茶苦茶だな……』

 

 エンジンの奥を調べてみたんですが、エンジンの中はひどいことになってました。

 焼かれたのではなく、明らかな破壊の痕でした。

 燃焼室もタービンブレードも無理矢理もぎ取られて、掻き出されたみたいに様々な部品が無くなっていました。

 

『エンジンに何かが起きた。それは間違いない。だが何が? 鳥衝突か?』

『プラッツホイーニのエンジンは飛空局の鳥衝突耐性の耐空証明を受けてます。証明テストをクリアしてるんです。2キログラムの鳥の冷凍死体を撃ち込まれるアレを。爆発はしません』

『鳥よりもっと大きな動物かもしれない』

『勿論それはありえます。鳥より大きな生き物を吸い込むと、はっきりとした痕跡がエンジンの中に残ります。ですが今は、エンジンの部品そのものが少なすぎて何も分かりません』

『よし、引き続き残骸の回収を進めててくれ。その間に空港の管制官へ話を聞きに行く』

 

 

 

 

○レイル=バルタザーレ(事故調査チーム主任捜査官)の証言

 

 私はまず、事故のあった日の飛空場管制の担当者に話を伺いました。

 

『離陸してから1分で、緊急事態呪文が?』

『そうです。その後は何度呼びかけても応答がありませんでした』

『全エンジンを喪失した、と言ったんですね?』

『はい、確かにそう言いました。記録にも残っているはずです』

『他に何か、事故機について気付いたことはありませんか?』

 

 私がそう尋ねると、管制官は思案顔になり、

 

『……エンジンから、火が出てたようにも見えました。赤いものが一瞬だけ。遠くからでしたし、雪も降っていたので、はっきりとは分かりませんでしたが』

『なるほど、エンジン火災の可能性があると』

 

 ジェットエンジンは強力な推進力を生み出す装置ですが、そのため危険がつきまといます。

 エンジンで火災が起き、深刻なほど炎上が進むと機体にどんな影響が出るのか分かりません。

 

『空港の監視ゴーレムが記録した映像を全て頂けますか? 何か映っているかもしれませんので』

 

 リマガ空港に協力してもらい、離陸直後の3564便を捉えたゴーレムがいないか探しました。

 空港に備えられた監視ゴーレムの数は大変なもので、それをひとつずつ見ていくのはかなり根気の要る作業でした。

 

 セレネイドくん達が行っていた機体の回収も、進捗は良くありませんでした。

 特にエンジン部品は墜落現場には見当たらず、滑走路から墜落現場までの約10キロを隈なく探すことになったのです。

 雪が積もった森での捜索は難航しました。我々だけでは手が足りず、ヨシュツ共和国政府が陸軍を動員してくれました。

 

 そしてついに、散らばったエンジン部品の回収に成功したのです。

 

 と同時期に、墜落現場から待望の黒箱が見つかりました。

 黒く焦げ付いて、まさしく黒い箱になってはいましたが。

 

『すぐワッサタウンのラボに運ぼう』

 

 

 事故の真相に、ようやく一歩近付けたのです。

 

 

 

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