パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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コルトン貨物3564便離陸失敗事故⑥:悪夢

○ミリィ=セレネイド(事故調査チーム)の証言

 

『……訓練装置は、これを?』

 

 ワッサタウンに本社を構えるコルトン貨物で、私達は人事担当者や他の操縦士へ聴取を行い、彼らが普段の訓練として使っている魔導器具の存在を知りました。

 

『砂男式夢学習……こんなものをまだ使ってるだなんて』

 

 バルタザーレさんはコルトン貨物から提供してもらった訓練用の魔導器具を見て、だいぶ呆れかえっていました。私も同じ感想でしたけど。

 

 砂男式夢学習の魔導器具は、要するに魔導の砂が入った瓶です。

 

 瓶の中に入った砂を目に振りかけると、すぐ眠りに落ちます。

 その眠りの中で、使用者はあらかじめ設定された夢を見ることが出来ます。

 砂男、サンドマンという妖精の使う術を魔導で模倣したのです。

 見たい夢を見ることが出来るので、例えば事故に遭ったときの手順を眠りながら覚えることが出来ます。

 一応は。

 

『だが、夢学習の訓練装置は不具合も多い。特に経年劣化により、見せたい夢を想定通りに見せなくなることが問題になって廃れたはずだ』

 

 夢というのはだいぶ繊細で曖昧な領域です。

 それは現代魔導をもってしても変わりません。

 特に飛空艇はどんどん操作要素が複雑化していくので、夢で見た、という曖昧な感覚では着いていけなくなりました。

 

『コルトン貨物は操縦士の自社養成をしていない。転職した操縦士を雇い、彼らの技術維持をこの夢学習式に頼っている。縦士たちの腕が落ちなければ別に問題はないと考えたんだろう。費用も格段に安い』

『けど、今は模擬訓練ゴーレムがあります。飛空艇の動きを各種ゴーレムでほぼ実機に近い動きで再現できます。技術の定着率は夢学習式とは比較になりません』

『飛空局が設けている操縦士の監査は、年1回の技術維持監査だけだ。そこをクリアできるなら、訓練方法は飛空会社が好きに決められる』

 

 しかし私は飛空局に入って研修で叩き込まれたことを、バルタザーレさんに訊きました。

 

『でも訓練の補助金は、飛空局から出てます。自前の訓練ゴーレムがなくても飛空局で借りられます。経済的な理由による操縦士の技術低下を防ぐためです』

『私もそう思って、コルトン貨物の収支報告書を調べた』

 

 とっくに調査済みだったバルタザーレさんは、私に教えてくれたんです。

 

『補助金が使われてる形跡は、なかったよ』

 

 私は愕然としました。

 

『……飛空局の、監査は?』

『さっき言った年1回の技術維持監査をクリアしていることが、補助金を有効に使っていることの証左、と飛空局は定めている。操縦士の質を維持できているなら、補助金の用途は問わないという姿勢だ』

『けど、質は維持できてなかった』

 

 私は湧いてくる怒りをなんとか抑え、提供された砂男式の夢学習装置をつまみ上げました。

 

『これの中身を調べないと』

『君に一任する。使いたい施設があれば言ってくれ。申請する。私はコルトン貨物をもっと調べてみる』

 

 バルタザーレさんの許可を得たので、私は早速ホーミー第51区のスターゲイザー研究所に飛びました。

 師匠のところなら睡眠魔術の解析装置もあります。そこで調べるのが一番手っ取り早かったんです。

 

『夢学習とは懐かしいな。俺も昔よく造った』

 

 師匠が解析装置の許可を出しながら、砂男式をしげしげ眺めてました。

 

『この手の魔導器具の解析装置なんて、今じゃレアですよ』

『見せたい夢を設定したはいいが、それを使用者が実際にどう見ているのかの検証が難しい。設定用の器具に比べ、解析装置は複雑で高価だ。使用者の見た曖昧な報告に頼らざるを得ない』

『コルトン貨物は寝てるときとか休憩とかの隙間時間に、これを使ってたみたいです』

『眠っているときに非常事態へ放り込まれる。悪夢だな』

 

 起動した解析装置で、夢学習装置に設定された内容を、映像として抽出することが出来ました。

 その内容を、師匠と一緒に検分しました。

 

『………やっぱり』

 

 それはエンジントラブルが起きたときの光景でした。

 エンジンの出力が下がったとき、夢の中の操縦士はスロットルを押して出力を上げようとしてました。

 夢の中ではエンジンは壊れず、出力が低下したまま止まりました。

 そしてエンジンの再始動手順へそのまま進んでいきました。

 

『ここ。ここです。エンジンがおかしいのにスロットルを押しちゃってます』

 

 師匠も頷きました。

 

『シチュエーションでは、エンジンの異常をはっきり示している。だがその状況でスロットルの出力を絞らず逆に上げている。不具合だ』

 

 これをずっと夢に見せられてたのか……って思って、血の気が引きました。

 

 たぶん今までは間違った夢を見せられても、操縦士たちは前の会社で受けた訓練と経験で技術監査に合格してたんです。

 

 けどそれも、ついに瓦解しました。

 

『使わない方がマシだったろう。夢学習式は、間違っているものを見せられていると認識するのが難しい。フィードバックが出来ない。誤った認識をすり込まれ、無意識にその操作をしてしまう可能性がある。だから廃れた』

 

 師匠の総括には頷くしかなかったんですが、私はあえて師匠に質問しました。

 

『夢学習式で訓練することは、違法じゃないです。飛空局の規定をひっくり返して調べました。けど、今回の事故はこの夢学習式で起きたみたいなものです。なんで法規制をしなかったんでしょう?』

 

 師匠は答えてくれました。

 

『その当時、夢学習式を採用する飛空会社はかなりの数だった。現在のような訓練制度が確立する前の話だ。法規制をすれば少なからぬ数の飛空会社が立ち行かなくなる』

『飛空会社への配慮ですか?』

『飛空局の使命は、連邦の空の安全と、飛空業界の成長を司ることだ。夢学習式の懸念は当時からあった。だから訓練ゴーレムを造った。しかしそこで夢学習式の規制にまで踏み込むと、飛空業界そのものに大ダメージを与える。夢学習式を廃止する飛空会社へは様々な恩恵を与え、飛空会社が自発的に移行するよう促した。それが当時の限界だった』

『で、今の今まで、夢学習式のことは忘れられてた?』

『夢学習式を未だに採用している飛空会社は少ないからな』

 

 納得しきれない私に、師匠は頷きました。

 

『ならばお前が提言するといい』

『私が?』

『お前は事故調査チームだ。原因を究明し、再発防止策を提言する義務がある』

 

 師匠は言いました。

 

『悪夢を終わらせろ。お前がダークスターの一番弟子なら』

 

 

 

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