パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○レイル=バルタザーレ(事故調査チーム主任捜査官)の証言
セレネイドくんがホーミーに行っている間、私はコルトン貨物から、操縦士の航空日誌を取り寄せました。機長と副操縦士の勤務状況を調べるためです。
『………彼らはだいぶ、根を詰めて働いていたようだ』
そこで目に付いたのは、カトルラック機長とレッドメイン副操縦士が、かなりのハードスケジュールであちこち飛び回っていたことです。
『60日間のうち休みは8日だけ、その他は全て飛んでいる。どれもジーニキリーとカカナを結ぶ路線だが、昼夜を問わず飛空している。規則性はない。東西方向に大きく行き来しているものもある………これでは体を壊すだろうな』
特に事故の日の前は8日間連続で飛空し、リマガ空港に着いたのは深夜。早朝には離陸します。
なので機長達はその晩、約3時間ほどしか、睡眠時間を確保できなかったのです。
『だが、飛空局の規定した操縦士の勤務時間上限を超えてはいない。コルトン貨物に違法性はない』
そこに、ホーミーのセレネイドくんから夢学習式の訓練装置の解析結果を報されました。
誤った訓練内容が設定されたことを知り、早速そのことをコルトン貨物へ問い合わせました。
結果、夢学習で設定された訓練内容に誤りがあることを、コルトン貨物の誰も認識していなかったことが判明したのです。
『砂男式夢学習を購入してから、点検や整備はされなかった』
先の黒箱の件にしても、コルトン貨物は機材をしっかりと整備するより稼働率を重視していました。それは機械だけでなく人間も同様でした。
3564便の墜落は、その怠慢の代償だったのです。
我々はついに事件の全貌を明らかにしました。
『雪精除けを施されなかった3564便に、ジャックフロストが巣くう』
『ジャックフロストは翼の除氷液を突破し、主翼に着氷を起こす』
『離陸と同時に翼の氷が剥がれ、エンジンに吸い込まれた』
『エンジンはサージを起こして暴走』
『だが睡眠不足で過労状態な上、誤った訓練装置に侵された機長は正しい対処が出来ず、スロットルを上げてエンジンを破損させる』
『エンジン停止により魔力源を喪い、通信と計器類が停止。緊急用の魔力変換装置は、高度が足りなかったのか機長がやはり手順を誤ったのか、起動はされなかった』
『そして……3564便は墜落した』
――――この事件は、多くの方面に提言がなされました。
まず地上作業のガイドラインに、雪精除けの項目を載せること。防除氷の訓練にも雪精除けを取り入れること。特に一定の気温を下回った場合、雪精が出現しやすいので必ずこの作業を行うよう、改正を推奨しました。
また訓練装置として夢学習式の有効性を無くし、夢学習式を採用している飛空会社は改善されるまで運行停止にするよう勧告。
最後に操縦士への勤務時間の上限値を引き下げ、充分な休息を取っているか監査するよう飛空局へ提言しました。
………これら勧告の多くは、飛空局が実施しました。
このうち夢学習式の撤廃はすぐに実行されました。夢学習式を採用している会社は少ないので、大した反発は無かったからです。
しかし雪精除けの導入はだいぶ難航しました。
飛空局は雪精除けを実施する条件、つまりジャックフロスト等が出現するのはどのような地域のどのような気象条件かが曖昧であるため、ガイドラインの義務項目には出来ないと主張したのです。
その条件を提示したのは、セレネイドくんでした。
『主だった雪精の分布範囲、彼らの好む気温、湿度、時間帯を纏めました。魔術学会で審査済みの正式な論文を元にしてあります。雪精の研究はずっと前から行われてました。一定の手順で対処可能なんです』
飛空局は当初その論文の審査に疑問があるとして否定的でしたが、魔術学会はこれを権威を損なわれたと解釈し、提訴。裁判となりましたが最終的に飛空局は論文を認め、ガイドラインに雪精除けを義務項目として載せるようになりました。
最後の勤務時間の上限に関しては、段階的に進められました。
というのも、規制ぎりぎりで操縦士を酷使している貨物飛空会社は、コルトン貨物だけではなかったからです。
ジーニキリーとカカナを往復する路線は、飛ばせば飛ばすだけ儲かるという具合で、誰もが無理矢理に貨物便を動かしていました。
この好景気に水を差したくない飛空局や飛空業界と、操縦士たちの組合が何度も何度も協議を重ね、段階的に操縦士の労働環境の改善がなされていきました。
○ミリィ=セレネイド(連邦飛空局 空獣害防除課。国家魔術師)の証言
事故調査とその後の提言の騒動が終わった頃、私は首都ワッサタウンの飛空局本部から、空港勤務になりました。
本部に勤めるのは研修や事務的な用事があるときだけで、あちこちの空港で空獣害を実際に防ぐ仕事をするようになりました。
まあ一種の厄介払いと言えなくも無いです(と彼女は苦笑)
飛空局と魔術学会の裁判の間、その両方に所属している魔術師はだいぶ肩身が狭かったです。特に騒動の発端である私の立場は、かなりナイーブなものでした。
当時の課長、というか今でも同じ課長ですが、私に空港勤務を勧めたんですね。空獣害は腕のいい魔術師が必要ですし、魔導ゴーレムに通じている魔術師は空港で重宝されます。
コルトン貨物3564便の事件は、私にとって大きな転機でした。
けど今では、この仕事が気に入ってます。天職だと思ってます。本当に。
……あれ以来、事故調査にたびたび呼ばれるようになりましたけどね。
(コルトン貨物は3564便の事件の後、飛空局の新しい運行審査を通過できず営業停止。後に破産)
(完)
お読みいただきありがとうございます。
今回の事故はスカンジナビア航空751便不時着事故に、勤続疲労(多すぎてどれを参考にしたのか自分でも忘れました…)、ファンタジー的インシデントを加えてみました。
前回が想像以上におおごとだったので、今回は少しこぢんまりとした話になってしまった気がします。反省。楽しんで頂ければ良いのですが…。
これを書いている間も、いろいろとつらいことがありましたが、少しでも皆様の気を紛らわすことが出来れば幸いです。
もし今回のお話が面白いと思っていただけましたら、評価・ブックマーク・感想を頂けると、調子に乗ってまた別の案件を書くと思います。
それでは、またお目にかかれる日を願って。
良い一日を。